●少女を拉致したフィクサード 「くくく……!」 その男は、パソコンの前で笑う。彼はとある掲示板を凝視していた。 「嫁、マジでかわいい……。これもおまいらのおかげだ」 彼の両手は、彼が口走る言葉と同じ文字をタイプしていく。狂気の笑みとともに書き込みを続ける男。 パソコン上では、それに対する反応が。しかしながら、その反応はどこかおかしい。 「嫁……」 「羨ましい……」 どうやら、男の同志とも言うべき者達のようだが、すでに男の状況を知っているのだろうか。返って来る淡白な言葉に対し、男は満足げにパソコンの前で頷いた。 「今度、俺の家へ集まれ。俺と嫁の結婚式を挙げよう」 ENTERキーを押し、彼は振り返る。後ろには、手足を縛られ、猿轡を口にかませられた少女の姿があった。まだ小学校低学年といったところだろうか。ツインテールを青いリボンをつけているのが実に可愛らしい。少女はすでに泣き止み、疲れてしまいその場で寝息を立てている。 「くくく、楽しいパーティの始まりだ」 男は静かに、それでいて不気味に微笑み始めた。 ●少女救出の為に情報を! 「皆様、少しお話をよろしいでしょうか……?」 『ラ・ル・カーナより流れる風』フェスターレ・アルウォン(nBNE000258)がアークに滞在していたリベリスタ達へと語りかける。快く話に応じた数名の姿を見て、彼女はにこやかに微笑んで見せた。 「フィクサードになってしまった男性が、自分の欲を満たすべく小学生の少女を自宅に監禁しているようです。男性の名前は高堂・敏広(こうどう・としひろ)、28歳。現在無職で職を転々としているようですわね」 フェスターレは、アークに来てからかなりこの世界のことを学んだらしい。以前は聞きなれない言葉に首を傾げることも多かったが、現在は澱みなく依頼の説明をしている。 「被害に会われているのは、折田・知奈美(おりた・ちなみ)さん。小学2年生……こんなに小さな子が……かわいそうですわ」 現状は連れ去られたばかりで、事件はまだ明るみにはなってはいないが、それも時間の問題だ。知奈美は少々人見知りがあるようだが、好きなアニメヒロインの武器をちらつかされ、ついて行ってしまったようである。 さて、基本マンションから出てこない高堂だが、オンライン仲間3人を自宅へ呼び寄せてオフ会をすることにしたようだ。もっとも、その仲間達は全員ノーフェイスである。 「マンションの入り口は解除キーが必要ですわ。住人の出入りもありますので、注意が必要ですわね」 高堂の部屋は8階。敵とリベリスタ全員がなんとか入れそうだが、部屋での戦いとならばマンションや知奈美への被害は避けられない。とはいえ、知奈美を救う為には、部屋へ押し入る必要がある。 配下となったノーフェイス達はマンションへと向かう途中のようだ。これも踏まえてうまく戦略を練りたい。 「私も微力ながら皆様のお力添えをさせていただきますわ。よろしくお願い致します」 フェスターレはそう言って、リベリスタ達へと丁寧に頭を下げたのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:なちゅい | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月06日(木)23:35 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●リベリスタの訪問 人目を気にせずにマンションへとやってくる一行。20階以上はあろうかというマンションの前で、リベリスタ達は速やかに行動を開始する。 「さて、いきますよ」 『』梶原 セレナ(BNE004215)はマンションの手前で頭上を見やると、こちらの様子を伺う監視カメラの存在に気づく。彼女は電子の妖精の力を使い、そのカメラへと細工を試みる。 「誘拐とか絶対だめだよね……。何とか無事に助け出さないとだね」 どんな理由であっても、誘拐は許されない。『ゲーマー人生』アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082) はさらわれた少女の身を案じる。 「少女を誘拐とは許せないでござるな……。早々に討伐をせねばならないでござる……」 「誰に聞かれても、いつでも、いくらでも、俺は言える。フィクサード共は狩り尽すべき憎悪の対象だ」 今回の誘拐犯、フィクサードである高堂・敏広に怒りを露わにする、『家族想いの破壊者』鬼蔭 虎鐵(BNE000034) 、そして、『Spritzenpferd』カルラ・シュトロゼック(BNE003655) 。その怒りの内容は違うようだが、同じ相手に向けられている。 そんな男性陣の様子を、『小さき梟』ステラ・ムゲット(BNE004112) は黙って眺めている。今回の犯人の男に、容赦のない処断を進言するのが同性ばかりということに興味を抱いていたようだ。 (同一視される焦りとただの義憤、はてさていずれなのだろうね) その間にも、マンションへと出入りする住人や関係者の出入りがあるようだ。とかく、リベリスタ達の風貌は目立つ。『ヤクザの用心棒』藤倉 隆明(BNE003933) が口元へと手を当てるよう手を当てると、皆小声で会話を始める。 「たぶんこの敏広ちゃんって、女の人にもてないんだね」 女性にもてないから、強引に少女、知奈美を強引にさらって嫁にしようとした……。『へっぽこぷー』メイ・リィ・ルゥ(BNE003539) は冷静に高堂の考えを分析する。 「やっぱりキチンとお付き合いしてからじゃないとダメだよね」 「結婚するならばちゃんと二十歳まで待たないと駄目でござるし!」 「んと、結婚できるのって二十歳からだっけ?」 そこで、虎鐵が心の叫びで訴えかけた。メイはそれ、無理じゃんねと独りごちる。 マンション前は人目につく場所。さほど時間は掛けていられない状況ということもあり、セレナは複雑な操作を断念し、監視カメラだけ止めることにする。 「とりあえず、止めたよ。後は……」 「さすがですね……すごいですわ」 その手際のよさに、初めてリベリスタに同行した『ラ・ル・カーナより流れる風』フェスターレ・アルウォン (nBNE000258)は感嘆する。彼女はこの付近で待機し、誘拐された少女を救い出した後で預かる手はずとなっていた。 セレナは次に、マンション入り口の操作盤を眺めた。住人は数字を入力してマンションの中へと入っている。これを操作しないことには、マンションには入れない。 「ごめんね、もう少し待って……」 彼女はこれも電子の妖精の力を駆使して、オートロックの開錠を試みる。 「リンちゃん……そっちも気をつけてね……?」 アーリィは待っている間、危険な役を買って出た仲間の無事を願うのであった。 3人の男性がマンションに向かって歩いていく。太った男性、細身の男性、そして、少し頭が薄くなりかけた男性の3人。彼らの行く手には、地面へとしゃがみこんでおろおろとしているゴスロリ服の少女の姿があった。 「私の、お姉ちゃんがくれた、大切なペンダント……落としちゃって」 「か、かわいい……!」 めそめそと涙を流す『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684) に、男性達は思わず心を打たれてしまったようだ。そいつらは我先にと彼女へと駆け寄る。 「お兄さん達、見なかった……? 一緒に探してくれたら……私、何でもするから……」 「マジで!?」 「絶対探してやるんだな……!」 うるうると涙を浮かべて訴えるリンシードに、男性達は一斉に頷いた。 「足、挫いちゃって……歩けないから、おんぶしてくれない、かな……?」 座り込むリンシードが上目遣いに呼びかけると、男達のボルテージが上がる。高堂からの呼び出しはどこへやら。彼らはリンシードの体を代わる代わるおんぶし、彼女に言われるがまま、あるはずもないペンダントを探し始めたのだった。 ●知奈美の救出を……! マンションの入り口で待つメンバー達。さほど時間は経っていないが、待っている時間は長く感じるものだ。 (力ある者は、より一層の考慮を挟まねばならない) ステラが抱いていた1つの信念。今回の犯人は力ある者にも関わらず、あろうことか力に溺れ、自らの欲の為にそれを行使している。 (私自身はそれが出来ているのかどうか) 自問自答をするステラ。彼女は仲間から離れ、言葉少なげになって物思いに耽っていた。 「これでよし……」 オートロックの解除を完了したセレナ。しかし、いつまで持つかはわからない。セキュリティが働いていないことに、マンションの関係者が気づいたらおしまいだ。一行は迅速にマンションへと突入し、8階にある犯人の部屋を目指す。 ぴんぽーん 鳴る玄関のチャイム。家の中から足音が近づいてくる。そいつは、こちらを配下だと疑いもせず玄関の扉を開いた。 「遅いぞ、何を……む?」 「おっとちょいと失礼するでござるよ? おぬしの死を宅配しにきたでござる」 荷物を持つ虎鐵はその怪力でマンションのドアをこじ開ける。そして、その時、メイが周囲へと結界を張り出す。 「何だ、貴様らは……!」 その後ろからメンバー達が一気に突入していく。面接着を使って天井からいち早く滑り込むよう潜入していたカルラが、部屋の状況を確認する。そして、素早く移動した彼は、手足を縛られ、目隠しをされている折田・知奈美をすぐに発見した。 「な、何……?」 気を失っていた知奈美だが、騒がしさを感じて目を覚ましたようだ。怯える彼女の目隠しを敢えて取らず、カルラは優しく声をかける。 「……助けにきた。必ず家へ帰すから、もう少しだけ我慢してくれ。頼む」 カルラは丁寧に知奈美を抱きかかえる。彼女にはカルラが助けだと直感で理解できたのだろう。言葉なく、うんと小さく頷いた。 彼は知奈美を抱えたままで外へ出るべく窓を探すが、生憎窓はアニメグッズで埋もれて開きそうにない。カルラは隣の居間へと出るが、それはすぐに、待ち構えていた高堂の知るところになった。 「俺の、俺の知奈美に触るなぁ!」 中へ突入するリベリスタを押しのけ、高堂は部屋の中へと入り込んでいく。彼はどこから取り出したのか、剣を手にしていた。暗黒の魔力を込めたその剣で、高堂はカルラへ斬りかかる! 「く……!」 一太刀浴びたカルラはその痛みで顔を引きつらせた。 高堂をリベリスタ達が追いかけ、足止めをする。 「おぬしもロリコンでござるか? だが、流石にそれはやりすぎでござる」 虎鐵は戦気をまとう。それは、目の前の敵を倒す為の破壊の力。そして、彼は高堂を阻止すべく回りこもうと移動しながら呼びかけた。 同じく、メイも自身の魔力を活性化し始める。そして、後ろにいるメンバー達も攻撃を開始していった。アーリィが高堂へと指先を向けて、その精神力を奪い取らんとすれば、ステラが伸ばした生糸が高堂を絡み取る。 「こんなもので、俺と知奈美を引き裂けると思うな……!」 ひっと、知奈美が高堂の言葉に小さく悲鳴を上げる。叫ぶ高堂へ、隆明が近づき、荒れ狂う大蛇のように拳を叩き付けた。 居間には、ベランダがある。そこからならば、外へ。カルラはそう考え、部屋の向こうのベランダを目指す。 「待て……!」 高堂は漆黒の光をその手へと生み出し、放つ。カルラに向けて飛ばされるその光を、セレナが身代わりとなって受け止めた。 「早く、知奈美さんの避難を……」 身体を撃ち抜かれた光に、彼女は脱力してしまう。しかし、セレナはかすかに笑みを浮かべ、少女を仲間へと、託す。 「すまない、頼んだぞ」 ……カルラは知奈美を抱え、ベランダから外へ飛び出す。面接着を使い、彼はマンションの外壁を走り降りていった。 ●歪んだ愛がもたらす結果 「こっちだったかも……」 時間を稼いでいたリンシードだったが、男性達の様子がおかしい。 「そろそろ僕達、行かないと……」 さすがに、高堂の約束を反故にはできないということか。時間稼ぎも限界なのかもしれない。 「だったら、この子は僕達の嫁にすれば、いいんだな……!」 男性達の目が怪しく光り始める。リンシードの身体を下ろした男……いや、ノーフェイスとなった男達。そいつらはロープを取り出し、にたりと彼女を見下ろす。 「覚悟を決めなければ、なりませんね……」 リンシードは力を発動する。身体能力のギアを上げた彼女は、アクセス・ファンタズムを取り出したのだった。 「!!」 連絡を受けたアーリィの表情が固まる。そして、彼女は仲間達へと叫びかけた。 「大変、リンちゃんがノーフェイスに!!」 しかしながら、目の前では、知奈美を奪われた高堂が怒り狂う。フェイトを得ながらも自身の欲の為にその力を振るっているのだ。 「知奈美を、知奈美を返せ……!」 高堂は漆黒のオーラをまといて、リベリスタ達へとその力を振るう。彼は玄関を出て、外へと出たカルラを追う気のようだ。 しかし、虎鐵がその高堂の邪魔をする。全身の闘気を己の刀、真打・獅子護兼久へと篭めていく。 「少女を力尽くで奪って何が楽しいのでござる? 親から奪って、少女の感情すらも無視して何が嫁でござる?」 彼は刀を袈裟懸けに振るうと、高堂の身体から鮮血が飛び散った。ただ、虎鐵はその手ごたえでその一撃が浅いと気づく。 「うるさい……!」 もはや、リベリスタ達の言い分に聞く耳を持たない高堂。闇の力を勢いのままリベリスタ達へとぶつけてくる。 アーリィは高堂の闇の力でダメージを受ける仲間の回復へと当たる。詠唱を行い、天使による福音を響かせた。 「早くしないと、リンちゃんが……!」 こうしている間にも、リンシードは単身、ノーフェイス3体の相手を強いられている。早く高堂を倒さねば……リベリスタ達の焦りは募る。 「ちっちゃい子が好きだって言うのなら、これはどうかな?」 ここぞと、メイは敵の攻撃に合わせて敢えてずっこけてみせる。捲れ上がるスカートに、高堂が視線を向ける……と思いきや。怒りで興奮している彼は見向きもしない。 「それはそれで、転び損だよ」 メイは少しだけムッとするが、ぼやぼやしている暇はない。仲間の状況を確認しつつ、彼女はまた味方の回復へと当たるべく、聖神へと詠唱を行って呼びかけを行うのである。 マンションの外壁から降り立ったカルラは、知奈美の身柄をフェスターレに託す。 「皆、無事だといいが」 彼は再び外壁を登り始める。リベリスタ達の作戦がうまくいくよう、フェスターレはカルラが登っていくのを見ながら、その場からメンバー達の無事を祈るのであった。 「お願いしますわ。どうか、皆様、ご無事で……」 そのマンションの8階の一室。 「散れ……!」 漆黒のオーラが再度放たれる。その攻撃に、隆明がついに前のめりになって倒れてしまう。それを見た高堂は、ここぞとばかりに駆け出す! 「俺の嫁を……俺の知奈美……!」 もはや、彼は目の前のリベリスタを見てはいない。彼は必死になって外へと向かう。虎鐵やセレナが駆け出すが、逃げに……いや、少女を追いかけようとする高堂へ、一行は追いつくことが出来ない。 高堂の後ろ姿を捉えたステラとセレナ。ステラは生糸を伸ばし、セレナは弓を構えて、光る矢を力いっぱいに射抜いた。気糸をその身へと絡ませ、光の矢で撃ち貫かれた高堂。それでも、彼は歩みを止めることなく、マンションの廊下を駆ける。 「く、逃げ足の速い奴でござる……!」 消えていくその後姿を、虎鐵は悔しそうに見ることしかできない。 カルラが部屋のベランダへと戻ったときには、すでにリベリスタ達はそのフィクサードの姿を見失ってしまっていた。敵を見失ったことに、苛立つカルラ。 「フィクサード、生かしてはおけん」 「皆、早くしないとリンちゃんが!」 しかし、こうしている間にも……、友達の危機を救うべく、アーリィが仲間達へと叫ぶ。一行はリンシードが攻撃を受けている現場へと移動を始めたのだった。 ●助け出した少女の寝顔に ノーフェイスに囲まれたリンシード。彼女は防御をしてノーフェイスの攻撃を凌いでいた。 飛んで来るナイフ、そして、自分の身体を締め上げるロープ。リンシードは覚悟を決める。 そこへ、駆けつけてくる見知った顔。それを見た彼女は思わず安堵した。 「間に合った、よかった……」 しかしながら、傷つき、彼女は倒れてしまいそうになる。アーリィやメイが彼女へと駆け寄って手当てを行う。虎鐵は戦闘になると判断し、周囲に結界を張った。 そして、敵へと真っ先に仕掛けたのはカルラだ。彼女はノーフェイスへと跳びかかり、腕の鉄甲で殴りつける! 「止められない限り生かす気はない」 リベリスタ達は、己の力をノーフェイスへとぶつけていく。ナイフとロープを手にする彼らは、虚ろな目をしてこちらの動きを止めようとしてきた。 しばらくして、最後のノーフェイスが地面へと倒れる。傷つくリベリスタ達ではあったが、何とかノーフェイスを倒すことが出来た。 「すみません、助かりました」 「良かった、良かったよー」 アーリィはほっと胸をなでおろす。リンシードも心配をかけたと、友を気遣っていた。 「フィクサード……次こそは」 主犯の高堂を逃がし、ボロボロになっていたリベリスタ達。カルラが改めて危険な考えを持つ高堂を野放しにしてしまったことを危険視する。 ただ、リベリスタ達は、知奈美を、いたいけな少女を助けることができた。 「……親にはお前達から娘を返してやれ」 刀を納め、幻視の力をそれに施した虎鐵は、知奈美をメンバー達へと託してこの場を去っていった。その知奈美は、フェスターレが背におぶっている。知奈美はすやすやと寝息を立てていた。 「好きなおもちゃあげるとか言われても、知らない人についてっちゃダメだよ」 どうせなら、高級マンションとかねだらないとと、メイは少し的外れなことを眠る知奈美へと告げていた。 「目覚めたら、今日の事を秘密にしてもらえるよう頼もう」 自分達のこの力は、秘密にしておくべきもの。代わりに知奈美をおんぶしたカルラはそう考えながら、仲間達とともに警察へと出向いていったのである。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|