●くだらねぇ話をしよう いつも誰からも好かれる人。 ところでこの世界とはよく出来たもので、北があれば南がある様に、空があれば地面がある様に、『そうなって』いれば必ず『そうではない』ものが存在する。 という訳で、居る訳でして。 いつも誰からも嫌われる人。 その人――仮名Aさんは――何となくだが『己は嫌われやすい』事を自覚していた。だって学校はいじめの記憶しかないし、友達なんか出来た事ないし、いつもいつも蔑みの目と言葉ばかりで。 でもそれが何故なのか、何故自分なのか、Aさんにはそれが自分でも良く分からなかった。けれど努力はした。一生懸命精一杯、誰かから好かれる様に、せめてこれ以上嫌われないように、頑張った。服装か。顔か。態度か。言葉か。頭か。趣味か。ウィットか。ユニークか。 それでもAさんはやっぱり、やっぱり、嫌われ者だった。何でかは知らない。ひねくれ者になったつもりはない。悲観して愚痴を吐き散らした記憶も無い。寧ろ内省の人だった。なのにいつも疎まれた。いつもいつも、輪の外ぽつねん。外から「いいなぁ」って眺めるだけ。「仲間に入れて」と勇気を出した結果が迫害である事はもう経験済みで。 いつしかAさんはこう思う事にした。自分の分だけ、誰かが幸せならそれでいいじゃないか。それで世界が平和ならいいじゃないか。 Aさんは空を見上げてみた。奇麗な青い色をしていた。久しぶりに微笑んだ。 そしてある日、世界までもがAさんを嫌ったのでした。めでたしめでたし。 ●ヘイトマン 「俗語で言えば、『リア充』と『コミュ障』……ですかね?」 そんな言葉と共に、事務椅子をくるんと回し『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)が振り返った。 「誰からも好かれる人、そうでない人――いやはや、世界とは、残酷な程に左右対称ですな」 まるでロールシャッハテスト。あれがあればそれがある。 そう言う訳で、とメルクリィが機械の人差し指を立てた。 「ノーフェイス及びその増殖性覚醒現象で発生したEフォースの討伐。えぇ、皆々様に課せられたオーダーは単純明快。真っ直ぐ行ってブッ飛ばす、それだけでございます。 そのノーフェイスが元々どの様な人間であったか。それは、分かりません。視えませんでした。名前も性別も。ただ分かった事は――彼、あるいは彼女は、仮名Aさんは、『そうでない人』だったのですよ」 つまり、誰からも好かれない人。好かれず、好かれず、好かれず好かれず、挙句の果てには『世界』からも嫌われて、ノーフェイスに成り果てた存在。 かわいそうにと言うべきなのだろうか? なんだそりゃ下らないと笑うべきなのだろうか? ただの勘違いだったんじゃないのと眉根を寄せるべきなのだろうか? どちらにしても、リベリスタのやる事は一つ。一つだ、たった一つなのだ。 「ノーフェイスのフェーズは2、その肩書きに見合う危険性を持っておりますぞ。ただ、攻撃性は低いのでこちらから手を出さない限りは何もしませんが――」 ノーフェイスは存在しているだけで世界を壊す片棒を担いているのだ。害悪なのだ。 故に。 故に。 リベリスタは任務は遂行せねばならぬ。 「辛い話はお終いにしましょう。どんなに怖ろしい悪夢だって、いつかは醒めるものなのです。 ……私はいつもリベリスタの皆々様を応援しとりますぞ! どうか、お気をつけて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月25日(土)23:04 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●敬具 「普段と何も変わらない、ただ仕事をするだけだ」 コマ送りの視界。敵対の世界。構えた双銃。ナイトホークとスノーオウル。黒と銀。銃声と銃声。大量の弾丸を発射する銃から伝わる反動の最中、『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)は不快感に眉根を寄せつつも。 好かれる人間。嫌われる人間。リベリスタとエリューション。表と裏。それは空と海が混ざる事が無い様に決して交わらず、水と油が如く常に反発し続ける。 ビスッ。弾丸を浴びたのは黒い人型。名も無きノーフェイス。Aさん。嗚呼、思った。ただの人間のままだったら不運程度で済んだだろうに、まさか世界にまで弾かれるとは。 「だが俺は貴様を哀れまない。経緯がどうあれ、エリューションならば等しく俺の憎悪対象」 故に一片の情けも容赦も必要ない。復讐を謡う羽音は止まらない。何であろうが叩き潰すまで。 「ノーフェイスとなった、だからこの世からご退場、いつも通りだ」 関係ない。影を纏いつ『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)は言う。まぁ、何の理由もなく――本人の責任すらも――誰かから嫌われる事もあるだろう。例えば間が悪い、例えば挙動が悪い、例えば見た目が悪い。それが無くっても、他に嫌うべき相手がいないから取り敢えず生贄にされてしまう。何でもアリだ。この世は無常だ。 「ただまあ……せめて、あの世では嫌われんようにな」 リベリスタだからやる事はいつも、いつだって。鉅と同様に影を纏う『第35話:毎日カレー曜日』宮部・香夏子(BNE003035)は無言無表情、機械の如く淡々々。感想零。本当はあるのかもしれないが、何も言わず何も示さぬ彼女の表情から読み取れるものは何も無かった。 「貴方の経歴には同情する」 無表情のリベリスタの一方で、『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)は薄く柳眉を寄せて呟いた。語りかけても、ノーフェイスには耳が無いから聞こえない。そうは、分かっていても、だ。身体の一部こそ機械だけれど、その心まで機械ではないが故に。 「この世界は愛しているけど、運命の不平等さはたまに嫌になるわ。 でも、万人から好かれて愛される人間なんて、この世界のどこにも存在しないわ。例えやましい事など何もなくても、その清廉さ、眩さを誰かから妬まれる物なのよ」 嗚呼――ミュゼーヌは銃を握り直す。いけない。何故だか不愉快な気分になってくる。Aさんが放つオーラの所為なのか、はたまた。だがそれに流されては、感情に振り回されては、いけない。 平静になれ。そう心の中で繰り返し、身に降ろすのは月の女神の大いなる加護。ばぢりばぢりと胸に輝く永久炉から蒼白いエネルギーがスパークする。力の余波に、肩に羽織る外套が優雅に舞った。 「月の女神よ、力を貸しなさい……この底知れぬ闇を切り裂く光を!」 構えるマグナムリボルバーマスケット。引き金を引けば、光り輝くマグナム弾の嵐が戦場に降り注ぐ。 圧巻の光景。 鉄の雨に穿たれ、Aさんが半歩後ずさる。或いは、ナニカがぶるりと震えて身体を成す塵を散らす。 それを静かに見据えつ、『ニンジャウォーリアー』ジョニー・オートン(BNE003528)は自らの身体のギアを高く高く引き上げた。手甲剣「鵤」を構える。夜の中。暗い中。 「幸せだったり、不幸だったり、生い立ちは様々かもしれないが、拙者達リベリスタは運命に愛された――だが、あやつはそうではなかった」 ジョニーは思うのだ。運命でなくとも良い。けれど、誰かが、ほんの少しでも優しければ。手を差し伸べたら。苦難こそあれど、Aさんは一人の人間として生きられたのだろう。 だが――そうはならなかった。ノーフェイスになってしまった。嫌われ者の、成れの果て。 「だから、拙者は倒さねばならぬ。リベリスタとして」 この場にそれを非難する者など何処に居よう? どれだけ憐れんでも、同情しても、成ってしまったものは変わらない。変わらないのだ。覆水盆に返らずと、そんな言葉があるように。刃を射出。殺す為に。 仕方ないのだ、仕方ないのだ、仕方ないのだ、そうするしかないのだ―― 分かってはいる。理解もしている。 だが、納得し甘受するかと言われれば、『ジーニアス』神葬 陸駆(BNE004022)の答えはNOだった。 「人に嫌われるのは怖い。ただ、しあわせになりたいだけの想いが不幸を呼び寄せる。 姿も声も顔も、何よりも自己を表す名前さえも奪いさる世界は……理不尽にも程がある」 少年は大人ではなかった。どれだけ頭がよくっても、天才的でも、抵抗を放棄し一切合財を諦める事が出来るほど大人ではなかった。だから彼は言った。いつだって絶対的で従う他にない世界に対して、『理不尽だ』と。 眼鏡の奥から送るのは、温度零の最高の眼力。薄暗くて狙いが定めにくいが、集中を重ねたそれは確かにAさんを追い詰める。黒いそれが悲鳴を上げる事は無い。名前も分からないその人。嫌われ者。「努力をしろ」、そんな言葉さえもAさんを苛んだのだろう。 していたのだ、努力を。幸せになりたかったから。 「……好かれるための努力、ね」 黒埜辺・枯花(BNE004499)はポツリと呟く。視線の先の、黒い影。 「万人が好印象を抱くなんて有り得ないのだから、誰もどこかで誰かしらに嫌われているわ。 ……『好かれること』がお前の悲願だったのでしょうけど、ねえ、本当のお前はそこに居たの?」 問うた。周りにばかり目を向けて、その目は己を見た事があるのか。他の為に己を殺し過ぎたのではないか。だが、Aさんには聞く為の耳も答える為の口も無く。一方通行の言葉。無意味なのだろうか。片道ぽっち。少女は地を蹴る。戦気を漲らせ。大業物を抜き放ち。 轟。 降り抜いた一閃。Aさんを薙ぎ払う。 「改めまして、こんにちは。私、距離を取ったまま戦えるほど器用じゃないの……だから避けてはダメよ。抉って開いて、中身をしっかり覗いてあげる」 突き付ける切っ先。銀色の切っ先。じわり、じわり、脳を掻き毟るのは不快感。真っ黒だ。真っ暗い。 理由は知らない。せめて夢の中ぐらい。跳ね返した不運。ナニカが蠢きなすりつける不吉。リベリスタにそれを治す術は無い。 Aさんはそんなリベリスタ達を見詰めていた。目玉が無いから、正しく言うなら『そっちのほうに顔を向けていた』になるんだろうけど。 ――それでも生きたい明日がある。胡乱なオーラが、一面に奔った。 ●それではみなさんさようなら 時間は少し、逆戻り。 一同の目の前に広がっていたのは廃ビルの屋上、仄暗い灰色の風景。 ガランドウのそこに、夜の暗さと同じ色をしたそれはひっそりと佇んで居た。 くそ。 そう吐き捨てたのは、恐らくここに居る誰よりも感情を露わにした『男一匹』貴志 正太郎(BNE004285)だった。彼の機嫌はおよそ『良い』とは言えない。精神無効の技能を以てしても、何処までも意地悪で不条理な世界に対する苛立ちは抑えきれない。逆に問おう、『何故仕方がないと従わなければならない?』 「真っ直ぐ行ってブッ飛ばす、だけ? ふざけんじゃねえ! 疎まれ、傷つき、絶望して、自分がドン底でも、誰かの幸せを願って笑ってたようなヤツだ……そんなヤツを、ただの害悪にしていいわけねえだろうがよ!」 吐き出した感情。ぶつける先の無い激情。答える者の無い直情。 無謀だと、バカな真似だと、笑うだろうか? 笑いたいなら笑え。オレはオレの信じた道を往く。 さて――夜風に炎の髪が揺れた。仲間へと振り返る。 「わりい。オレに少しだけ、時間を貰えねえか?」 Aさんは手を出さぬ限りは襲ってこないとフォーチュナは告げていた。だからこそ、戦いが始まる前に。空色の目が真っ直ぐに仲間を見据える。止める者はいなかった。ので、正太郎は視線を戻す。Aさんはぽつんと動かないまま。少年は両手に武器も持たぬまま。 深呼吸、一つ。 正太郎の心は、Aさんが放つ不愉快なオーラに乱される事は無い。知ったこっちゃない。 一歩、一歩、また一歩。仲間が見守るその最中。張り詰めた空気。ナニカまでも、窺う様にじっとしている。 「『不愉快なオーラ』だと? オレが会いたいのは、その向こうにいるオマエ自身なんだよ」 なぁ。目の前。音が届かないのなら、テレパスで。正太郎はAさんに伝えた。自分達の事。世界の事。ノーフェイスという存在の事。それを倒さねば世界は滅んでしまう事。それを阻止する為に自分達が来た事。 「ブッ殺そうって相手にゃ言い訳にしかならねえが、オレなりのケジメだ」 Aさんは、何も答えなかった。口が無いからだ。黙していた。ただ、顔だけは正太郎の方へじっと向けられていた。 それ以外は、何も。 つまり、どう足掻いても、『やらなければ』ならないらしい。 沈黙。少年は音も無く腕に武器を纏った。殺す為の。 「男一匹、貴志正太郎」 その手で、指で胸を指し。名乗り上げるは誇りと共に仁義上等。だが。なの、だが。次いで彼の口を吐いた言葉は。 「……すまねえな」 この謝罪も――聞こえてないのだろうけれど。それじゃ、やろうか。少年は拳を振り上げる。 ●拝啓 ドゴッと鈍い音。 身体の傷は無い。けれども、その力を強烈に奪う波動。 Aさんの周りにはもう、ナニカはいない。 それは逃げる事はせず。その場から動く事も無く。ただ、淡々と、攻撃を行っていた。 櫻霞はふらつきながらも、不快なオーラに顰める眼差しで照準を定めた。 「名無し顔無しの誰かさんへ、ってな? 死出の駄賃代わりだ、鉛弾でも無いよりマシだろ」 ぱぁん。落ちる硬貨もブチ抜く一撃。 バァン。更に重なった。針穴すらも貫く一撃。 「ごめんなさい……貴方には今宵、この闇に消えてもらう。せめて夜明けと共に、新たな生を迎えなさい!」 両の鋼で真っ直ぐに立ち、ミュゼーヌは構えたマグナムリボルバーマスケットを下ろす事は無い。その頭を狙うのは――早くこの戦いを終わらせる為か。その意志は揺らぐ事なく、放つ弾道の如く何処までも何処までも真っ直ぐに。 引く事はしない。 恨むな、とも言わない。 「拙者にはもう、お主を愛すことも救ってやることも出来ぬ」 手甲剣を構えたジョニーは鋭くAさんとの間合いを詰める。目が無いそれと視線が搗ち合う事も、口が無いそれが何かを言う事も、無い。 けれど彼は刃を止める訳にはいかなかった。躊躇う事は出来なかった。救えない。ならば、故に。 「拙者に出来ることは、それでも生きようとするお主の意志を、全力で受け止めることぐらいでゴザル! 存分に足掻いてみせよ! 拙者は、その意志を忘れはせぬ!!」 幻惑の武技から生まれた実体すらある幻影と共に、二重の声。集中によって研ぎ澄ませたその一撃は果てしなく鋭く、認識すら切り裂いて痛打を叩き込む。 足掻け。 そのまま消えてもいいのか。 足掻いて見せろ。 「耳を塞いで黙り込んで、殻に閉じこもってんじゃねえよ! 怒れよ! この理不尽によ! オレに八つ当たりでもしてみろよ!!」 拳をふるって、正太郎も声を張る。届かなくても届かせる。諦めない。そう信じている。信じるぐらいは、勝手だろう! 目が見えない耳が聞こえない喋れない、上等だ! 「貴様を嫌って、怒って攻撃するのではない。世界を護るために自らの目的のための攻撃だ。貴様が間違ったわけではない。これは世界の悪意だ」 陸駆は不愉快オーラを歯を食い縛って耐えつつ、ハイテレパスによって語りかける。その目はじっと、Aさんから逸らさない。超直感で僅かな動作も見逃すまいと。意地悪な世界に奪われたものを少しでも引き寄せようと。 「諦めずにもがけ、貴様にはその権利がある。諦めたフリをするな、なにか一つくらいはこの世界に残しておけ! 思い出せ! 自分を、他人の幸せを望むなんて欺瞞で生きてきた想いがどんなものかはしらない。だけど、せめて貴様の名前だけ置いていけ!」 相変わらずAさんが何かを見せる事は無い――リベリスタの行為に意味は無いかもしれない。だけど。陸駆は思うのだ。誰かがAさんを覚えておく事で、何かが救われたらいい。少しだけでも。 消えてしまう事は、とても辛い。居なくなってしまう事は、とても哀しい。 知らないけれど知っている。陸駆は、自分達を送り出した時のフォーチュナが目の奥に何か哀しい色を湛えていた事に気付いていた。 名古屋も仮名Aの何かを探りたかったのだろう――繰出す眼光。 よろり、よろり。リベリスタからの怒涛の攻撃に、Aさんが後退する。 ぜぇ、はぁ。正太郎は肩で息をしながら、Aさんが下がった分だけもう一歩。 「なあ、オレはアンタのこと尊敬してんだ……ダチになっちゃくれねえか?」 嗚呼。もっと早く、会いたかったな。もう一歩。差し出す掌。 「名前、教えてくれよ。貴志正太郎は、オマエのことを生涯忘れねえ」 「……」 口があったら。それは、教えてくれたのだろうか? もぞり。黒い色が少しだけ蠢いた。だが――それだけだった。 黒い。黒い。 「それにしても真っ黒ねえ」 暗い。暗い。Aさんの前に立ちはだかる枯花は紺の瞳をゆるりと細める。 「何も見えない。聴こえない。お前が嫌われる理由ならあるわよ。人は見えないもの、わからないものを恐れるのよ。私だってお前が分からなくて怖いもの。 他人に阿る為の薄皮を被ったままで自分を見せない奴なんて、酷く――不気味」 剣を握り締める手に、我知らず力が篭った。震えそうな声を堪えて、少女は凛然と振るまいつつ言葉を続ける。「でも」と。 「……何より腹立たしいのは、お前に掛ける言葉がここまでほぼブーメランだって事よ」 自分自身を見失っていた過去の私。真っ黒で何も無い顔。あれは、私の可能性。諦めの先の成れの果て。『憧れ』を手に入れなければきっと、自分もAさんのように腐っていたのだろう。 だから、枯花は剣を振り上げる。 「これ以上の無様を晒さないように、ここで終わっておきなさい。今なら同類のよしみでお前の存在を覚えていてあげるわ」 さようなら。 ごめんなさいは、言わないわ。 ズドン。 ――それは酷く、酷くスローモーションに見えた。 枯花が気を込めた一閃に薙ぎ払われ、黒い影は吹き飛ばされ。 廃ビルの朽ちた手摺を突きぬけ…… 「!」 正太郎は思わず手を伸ばした。陸駆も駆け出した。 だがもう。もう。全て全て。最初から手遅れだった。 落ちて落ちて落ちて落ちて。 ずどん。 飛び散って。居なくなる。 だが正太郎は、陸駆は見た。気の所為かもしれない。だが確かに、見たのだ。 地面にぶつかる寸前、Aさんが――幸せそうに、感謝するように、笑っていた事を。 静寂。 「何はともあれご愁傷様、運命って奴は気まぐれだからな。まあ殺した相手のことぐらいは覚えておく、それが慰めになるかは知らんがね」 煙草に火を点け、櫻霞は紫煙と共に吐き出した。壊れた柵の方へと顔を向け。 「……忘れるべからず。Aの姿は、拙者達リベリスタにもあり得た姿。今後あり得る姿だということを」 武器を下ろしたジョニーの言葉は夜風に紛れ、何処かの彼方へ消えてゆく。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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