●進撃の白熊 『もふもふに釣られてみませんか?』 依頼メールは、その一文から始まっていた。 とある街。 仮設作戦司令部、地下第一会議室。 『悪狐』九品寺 佐幽(nBNE000247)は大きな震動のつづく会議室で貴方たちに説明をつづける。 「今現在、このとある街になぜか巨大なアレコレが進撃しています」 佐幽の豊潤な胸元も、進撃の震動に甘んじてモロに大きく揺れている。 が、注視すべきはさゆパイではない。 立体映像に表示される数々の、巨大なアレコレだ。それらは揃いも揃って冗談めいているが、されとて大きければ大きいほど胸囲――否、脅威だ。 その一角に、ドでかいテディーベアの雄姿がある。一軒家をもふゐ足で軽々踏み潰せるだろう。 「これをご覧ください。どう思いますか?」 ふと訪れた大きな揺れにさゆパイが、また一部の女性陣の豊穣なる双山が上下する。 「すごく……大きいです」 「そう、なにせ大きさ57m重さ550tですから」 一瞬の想像図。 「どんだけ!?」 「……? すみません、今のは分かりづらい冗談でしたね。今の数字はでたらめですのであしからず。とかく大きいといっても、けして皆さんに撃滅できない標的ではありません。今回もあくまで獲物を屠る狩人のつもりで望んでください。 撃滅目標はEゴレーム:フェーズ2『ポーラブラ』、原型は経緯不明の北極熊系テディーベアです。とても全身がふわふわしており、人を破滅させうるもふもふの手触りです」 「どれくらい?」 「上の上。わたくしの胸毛よりスゴイです」 佐幽の胸元のもふもふはモフリスト注目の逸品だ。顔を埋めれば即昇天モノ。それよりスゴイもふもふとなれば、もはや凶器だ。 「ポーラブラはラブリーな外見に反さず、魅了を操ります。打撃など素手で触る攻撃は気をつけてください。まともに触ってしまえば、その手触りや弾力に魅了されてしまいます。そもそも打撃は効果が薄いです。また生半可な神秘攻撃もラブリーファーに防がれるのです。 さらにその愛くるしい眼差しは魅了どころか殺傷力を伴います。 その上なぜか北極神拳という謎の拳法を体得しているので巨大なのに素早くて技量も高いです」 「……勝ち目なくね?」 「弱点もあるにはありますよ。第一に、所詮はぬいぐるみ、サイズに比して重量が軽いのです。このため物理攻撃力は見た目より弱く、それなりに実力があれば一撃でやられるといったことは無い筈です。他にも幾つか、必ず弱点があるので、うまく探り当ててくださいな」 咳払いし。 「冗談じみた依頼ですが、もし進撃する巨大な軍勢がこの街の居住区に到達すれば、大惨事を招きかねないことは語るまでもありません。今の日常は虚偽の安寧に過ぎないのです」 立体ホログラム上では今なお、進撃の巨熊が大地を踏み均している。 「どうぞ、これを笑い話にしてくださいな」 ●ただいま進撃中 進撃せし白熊。 雄山の如し巨躯を以って、田園風景を闊歩する。電柱すらEゴレーム:フェーズ2『ポーラブラ』の大きな足と比べれば、丸太と爪楊枝だ。 この一帯は、見渡す限りの田畑や野山が広がっているに留まる。交通は封鎖済みのため、車両の通行もなく、既にルート上の国道付近の民家は避難を済ませている。そうして危機を回避できるのは、未だ郊外の農業地帯であるからに過ぎない。これが街に至れば、たとえ全ての人間を非難させることができても、経済的損失は多大だ。 巨大であるということは、ただそれだけでも脅威なのだ。 たとえ、どれほどラブリーな瞳をしていても。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:カモメのジョナサン | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月31日(金)23:16 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●獣を屠る狩人たち 時は夕暮れ。 二台の輸送ヘリが迎撃目標地点に到着する。 片方は、『<進撃の>射的ゲイム』に赴く一同だ。巨熊迎撃に動く本体との交戦中、後方より迫ってくる巨大射的台を足止め、撃滅する任務を遂行する。 両チームは合同で最終チェックを行い、お互いの健闘を称えあって出撃する。 片や、射的ゲイムとの遊戯へ。 片や、もふもふとの死闘へ。 ●五分前 泰山鳴動、熊一匹。 夕暮れの田園風景がつづく、封鎖された国道沿い。巨熊は悠然と闊歩する。 夕焼けによる細長い影法師が、ヘリ機上から見下ろす一同をじっと見上げていた。 「大きい……!」 『風詠み』ファウナ・エイフェル(BNE004332)はポーラブラの巨躯に感嘆する。 「テディーベア、でしたか。確かにかわいい――のだけれど」 フェリエの美しき緑眼にちいさな埋み火が灯る。 巨大な姿と鋭利な爪、それは巨獣という忌まわしき記憶をファウナに想起させた。 「どうか――」 『blanche』浅雛・淑子(BNE004204)は祈り、願う。 お父様へ。 お母様へ。 わたし達を、わたしの守るべき街をどうか護ってください、と。 そうして祈りを終えたフィエスタ・ローズの瞳が開くさまは、朝露滴る花々がゆっくりと花弁を拡げて光を望むかのように、優雅で寂々として気高く、そして煌いていた。 不意に淑子のローズアイが焦点を定めた先は、ファウナだった。 「女の子は優雅に」 「え?」 「うつむいて思い悩むより、上を向いて歩いた方がきっと素敵だよ」 知らずうちに緊張が表に出ていたファウナは目を点にした後、ぎこちなく微笑した。すると不思議なもので、余計な力みが無くなった気がした。 淑子がどんな心算で、こうしてファウナに語りかけてくれるのか彼女には分からない。自分と他人の境界が、このボトムでは明瞭だ。けれど、だからこそ望んでファウナはこの世界へやってきたのだと思う。 「……変わってますね」 それはいわゆる二重意義《ダブルミーニング》。 「討伐しないといけないのは解ってる、けど」 四条・理央(BNE000319)は葛藤する。眼鏡の向こう側で目をぐるぐる煩悩の渦巻かせて。 「フワモコを堪能したーい!」 一見クールな外見に反して、存外に愛嬌のあるところが理央のチャームポイントだ。 「……けど! 冷静に攻めるに徹してフワモコは二の次にしないと」 萌えるハートでクールに戦う四条・理央、彼女の任務は、街に侵入しようとする進撃の巨熊と戦い、人々の平和と安全を守ることである。 が、よっぽど彼女より今回はクールな面子がふたり居た。 『銀の腕』一条 佐里(BNE004113)は研ぎ澄まされた真剣のように、指先を伸ばすだけでも痛みもなく血を流させるような雰囲気を纏っていた。 「香夏子は熊にはあまり興味ないのです」 『第35話:毎日カレー曜日』宮部・香夏子(BNE003035)は澄んだ瞳で双鉄扇を見つめる。 「――そうですね、宮部さん。今回の依頼、敵は凶悪、油断なりません」 「そう、何故ならば……」 カッと開眼。 「ハチミツを主食としてるそうじゃないですか!! どうせ黄色いならカレーを食べるべきなのに! りんごとハチミツが恋したカレーを食べればいいのに……! まったくぷんぷんです」 さらに熱弁し。 「――という訳でさっさと倒しましょう」 とダウナー系カレー党の演説を終えたところで、あっけにとられた理央と佐里の拍手が贈られた。 「カレーを主食に生きる動物がもし自然界に発見されたら、きっとノーベル賞ですね」 私だけは真剣にやろう。 そう、佐里は決意するのだった。 ●迎撃! 迎撃予定ポイントに到着した一同は、Eゴレーム:フェーズ2『ポーラブラ』と相対する。 実物を前にして圧巻の巨大さに動揺しつつ、夕日を背に、戦いの火蓋は切って落とされた。 「可愛いしろくまさん、一緒に遊びましょう」 『ネメシスの熾火』高原 恵梨香(BNE000234)は挑発を試みる。このまま進撃が続けば、住宅家屋に犠牲が出る。仮に人命を救おうとも、金銭的に損害を補填できたとしても、生家を破壊されることで被害者が失うものは計り知れない。 恵梨香の原動力は、何もアークへの忠誠だけではない筈だ。そのより原点を辿れば、自ずと恵梨香がひたむきに任務遂行を目指すことの理由もみえてくる。 『ぽ~ら~』 ポーラブラは挑発を意に介さず、愛くるしくも大きな鳴き声をあげて進撃する。 「くっ」 民家へ迫る、ポーラブラ。その巨体を以ってすれば、爪先ひとつで一軒家を全壊させることもできよう。このまま進撃すれば一棟全壊だ。 「ストーップ!」 理央が躍り出、前衛として立ちはだかることで進路妨害を試み、コース変更しようとする。が、もし貴方はあき缶が道に転がっていたらどうする? 『ぺちゃんこぽら』 「……え?」 「リオォォォォッ!!」 視界一面、肉球と影。 ぷちっ。 ずどーん!と大地が鳴動する。一同の叫びも虚しく、理央はもふみつけの餌食となってしまった。 「車は急に止まれない。熊も急に止まれない。コレ、本日の教訓ですねぇ」 『必殺特殊清掃人』鹿毛・E・ロウ(BNE004035)はのうのうと呟く。 「もふぁ~! ふぁもふぁ~!(たすけて~!)」 もふぁもふぁ救援を求める理央なれども、手の打ちようはない。 それは天国の拷問だった。もふもふの足裏に全身をくまなく圧迫される快感を味わいつつ、同時にアスファルトでぐりぐりとすり潰される。身動きも完全に封じられた。じわじわ凶悪な圧殺攻撃だ。ただし、ド級のモフリストorマゾにはご褒美です。 「ひ、ひとまず翼の加護で!」 ファウナの魔弓は天を射抜く。白い羽根がふわりと舞い降りてきて、皆に翼をもたらした。 『ぽら~?』 キューティクルに小首を傾げる白小熊。 「まずは移動を封じます!」 「塵も積もれば大和朝廷、小さな一撃も積み重ねれば必ずや、です」 佐里は一気に迫撃してパーフェクトプランを刻み、回復手を担うべき淑子は警戒しつつ距離を見定め、大戦斧の疾風居合い斬りを豪快に放った。 白いもこもこの綿が血飛沫のように跳ぶ。浅いが、着実に通じている。 『イタイぽら~!』 傷口より柔軟アロマが噴出する。流血の代わりに、その薫り成分まで流れ出したのだ。 「なっ」 神秘の薫りによって佐里は酩酊を伴う虚脱感に支配されてしまう。ふにゃふにゃのふわふわ。少しだけ心身が癒されるものの、戦意を保てずふぬけるだけでは戦えない。 幸い、支援を視野に距離を置いていたファウナ、淑子。そして自己強化のためにシャドウサーバントを纏う香夏子とトップスピードに至るために己を最適化していたロウは紙一重でかわす。 『薄幸』ならぬ『薄明』東雲 未明(BNE000340)はしかし不運だった。 「ハッ」 背後より裂帛の気迫を以って魔力剣『鶏鳴』を手に迫り、爆裂する剣技を浴びせんとした時だ。柔軟アロマをもののみごとに浴びて、彼女もスルメを食べた猫みたく、ふにゃった。 「ふにゃ~~~~ん」 とろけきった未明は柔軟を通り越して、なにかこう、泡立つ液体スライムみたいに。※コメディ描写です 「たたた、大変です! 未明様が面妖なことに!」 「東雲さん、文字通りの骨抜きになってしまわれるだなんて」 「だらけ度で……香夏子が負けた……?」 膝をつき、敗北と屈辱に打ちひしがれる香夏子&あほ毛。 混迷する戦況。 が、巨熊の進撃はこの程度で済まないわけでして。 『らら~、ジュエリービームぽ~らっ☆』 光芒一閃。 殺傷力すら伴う魅力ビームが地上を薙ぎ払った。 俊敏な香夏子とロウはかろやかに回避せしめるが、後衛型のファウナと淑子、恵梨香は――。 「キャーホ゜ーラサマー!!」 この通り、白い小悪魔のつぶらな瞳の虜にございます。 とかく少々流血してる程度であるものの後衛が全員魅了されてしまったわけでして。 「……香夏子、気づいてしまいました」 「奇遇だね、僕もだよ」 状況確認。 理央、もふみつけ。佐里、未明、ふにゃふにゃ。ファウナ、淑子、恵梨香、魅力ビーム。 「香夏子、働かざるをえないようです」 「いや、そっちではなく」 『ポォーラァぁぁぁぁぁ……!』 白熊の胴に、北斗七星が光輝く。 『北』 『熊』 『百』 『烈』 『拳』 爪が煌き、拳が唸る。目にも映らぬ超々高速連続拳打が香夏子目掛けて強襲する。 『ぽーらぽらぽらぽらぽらぽらぽらぽらっ!』 肉球の暴風雨が叩きつけられる刹那、香夏子はにやりと笑い、消滅した。 残像だ。 『らぶっ!?』 「カレーを食べない罪は地獄すら生ぬるいのです」 「まさか貴方も神拳を!?」 「その名も――」 沈黙二秒。 「引導華麗拳」 「あ、今考えましたねコレ」 即座にディスピアー・ギャ――訂正、引導絞殺拳を香夏子は繰り出した。幾十重にも気糸を転移させ、一挙にポーラの脚を絞めつけ、食い込ませる。 「お前はもう――死んでいる。のです」 『ぽらぶっ!?』 が、しかし無傷同然である。柔軟ボディを絞めつけたところで肉裂き骨断つことはできない。残念ながら相性が悪いのだ。 と同時に、ぎゅーっと絞ったことで柔軟アロマがレモンを握り締めたように散布されてしまった。 「この薫り、洗い立てのフローラルさ……悔しいですが落ち着きます」 「香夏子の生涯に一片の悔いなし」 のしのしと巨熊は進撃する。 一行は全滅してしまった――? ●理由 『――現在の被害は、住宅二棟全壊、三棟半壊、電柱十数本、今のとこ人的被害なしですね』 AF通信越しに佐幽は手当て中のリベリスタ一行と作戦を練り直していた。 『よかったですね、ポーラブラが進撃を優先してくれて』 「ええ、全くね」 恵梨香はちらりと背後を見やった。 ぺらぺらの理央に香夏子がやかんでお湯を注いでいる。各人のリカバリーは早急に済みそうだ。 「総崩れのまま無理に戦いつづけたら、それこそ本当に全滅してた。一旦退いて正解だったよ」 『想定範囲内ですが、状態異常が厄介でしたね。ここは郊外、本格的な被害までそれなりの猶予があります。どうぞ焦らずに』 「洗い立てタオルの香りには勝てなかったわ……」 未明も無事に固形化したようだ。 「大体、どうして小さいままでいてくれなかったの! そしたら、遠慮なくモフれたのに……」 「アタシも幼い頃、あんなぬいぐるみを持っていたっけ」 ぽつりと、消え入るほど抑えた声で恵梨香はひとりごちる。 「それにしてもあんなに大きな白熊さん、一体どこから来たのかしら?」 淑子のQに、理央がAを返す。 「射的台の景品だそうよ」 「では、その前は……? 一体なぜ、あの街を目指さなくてはならないのですか?」 一抹の疑問。 歯車が、カチリと噛み合う音がした。 淑子と理央はお互いの超直観に基づく閃きに「ソレだ!」と叫ぶ。 ●リベンジ! 進撃する巨熊。居住区への道のりも残りわずか、日没の頃――。 「フレアバースト!」 「エル・バーストブレイク!」 灼熱豪炎が炸裂する。 『ネメシスの熾火』たる恵梨香の炎撃が、ファウナと共に炸裂した。大きく体勢を崩す白熊。炎が弱点ではないか、という読みは大当たりだ。 奇襲成功。動揺のうちに再度、畳みかける。 「もう一度!」 火と火を重ねて、炎とする。 「バースト!!」 焼け千切れかけた右足を、さらにロウの音速剣閃が三日月を斬り描く。 「神魔はまやかし、一切を掃うべし」 大般若を鞘に収め、鍔鳴らせる。 「例え、愛されるべき者だとて」 綿の血潮が、飛沫いた。 「――おや、仕事が増えてしまいましたか」 柔軟アロマにやむなく呑まれたロウを、すぐに理央が聖光で正気に戻す。 反撃は熾烈を極めた。 柔軟アロマ、魅力ビーム、北極神拳。 ポーラブラの耐久力は強靭だ。魅了をはじめとした厄介な妨害によって猛攻撃にも陰りが生じる。 一番の決め手はエル・バーストブレイクだ。全部位に高火力全体火炎攻撃を浴びせた上、ポーラブラの巨体をその絶大な衝撃で一歩、二歩と後退させた。 魅力ビームが田畑を薙ぎ払った。 白煙から躍り出る、未明と佐里。 「東雲さんは左を! 私は右を仕留めます!」 「ええ、ばっちり仕留めるわ」 魔力剣・閃赤敷設刻印が赤い軌跡を描く。テールライトを薄闇に煌々とたなびかせて疾駆する。 「このために体得した、新たな力で!」 迎撃せんと巨腕が迫る。北極神拳だ。 「成功率――72.92%!」 爪を踏む。面接着だ。紙一重で攻撃をかわすと共に超高速で動く右腕にぴたりと張りつき、振り落とされぬよう閃赤敷設刻印の剣先を楔として打ち込んだ。二の腕の継ぎ目にだ。 『イタイぽら~っ!』 耳を貸すこともなく。柔軟でふかふかの雲の上を、険しい岩山に望む心持で駆け登る。 佐里は未だ一度も魅了に惑わされていない。意思の力がなせる業、では説明もつくまい。そこにはある種の幸運も介在する。しかし幸運だけでも説明できない。 『この手で、仲間を斬りつけるなど』 『この手を、仲間の血で濡らすなど』 何もかもを失くした。そんな私の居場所が、今この瞬間に在る。だからこそ己が手で傷つけたくはない。この誘惑は、恐怖には劣る。 しかし輝石の眼光が瞬き、佐里を襲った。どうにか面接着で立ち続けるが、正気を保とうとすると脳髄が焼け落ちそうなほど狂おしい。 「だったらッ!」 右腕を喰らう。血が滴り、激痛が走る。 剣ではダメだ。切れ味がよすぎる。痛みをより求めるならば、切れない武器がよい。武器でもなんでもないジーニアスの歯牙が、恐怖を上回る痛みが、魅了を凌駕する。 さながら修羅の如く。 「覇ァ嗚呼アアアッ!」 肩の繋ぎ目に紅の剣を突きたて、抉る。 一度でダメならば二度でも三度でも永久にでも――。 「そんな目で見つめたって――あ、う……」 魅了が、うるると煌く大きな小熊の瞳が、未明の決意を大いに揺さぶった。けれど。 「世界で一番可愛いのは――」 目を瞑り、最後の一撃として爆裂斬を振り下ろした。 「うちの猫(コ)なんだからーっ!」 宙を舞う腕。 未明は肩で静かに呼吸を繰り返して、落ち着きを得るのを待った。 「はぁはぁ。ねえ佐里、そっちは?」 そい問いかけた時、未明は言葉を失った。 彼女が辿り着いたのは執念の果て――。運命を燃やして最後の一撃を刻印する、紅の魔であった。 「引導紅月拳」 幾度めかのバッドムーンフォークロアが遂に胴体の皮を剥ぎ、コアを露出させた。 紅い水晶がゆるやかに明滅している。 「……貴方は、これでおしまい」 最後通牒。 恵梨香の魔導書が、終焉の烙印たる魔法陣を指先に展開する。マジックブラストだ。 ふと脳裏を過ぎる、在りし日の己。幸せだった頃の、無垢なる腕に抱かれていた小熊へ向けて。 「さよなら」 魔光が閃く。 紅い水晶が砕けて散る。最後の進撃はここに潰えた。 ●フィナーレ 壮絶な魔光と銃弾の流星群は、宵闇の田園風景をあたかも花火の如く美しく彩っていた。 たまたま見かけたその美しい光景が、別働隊の射的ゲイムの産物だとはまだ今は皆しらない。 「綺麗ですね」 素朴な感想を口にする佐里の横顔は、普段通りにおだやかだ。未明は「ま、いっか」と軽く流して体にまとわりついた綿をちまちま取り払っていく。 「これでやっと働かなくていいのです」 「もっと働いてもいいんですよ」 「キャラじゃないです」 香夏子とロウの軽いやりとりをよそに、ファウナは花火になんだか感動していた。 「素敵です、なんて素敵なプレゼントでしょうか」 花火が終わり、任務も終わった。 さぁ帰ろう。 そんな時に、理央と淑子はリボンつきの小箱を恵梨香へいっしょに手渡した。 「……何?」 「開けてみての」 「お楽しみ、です」 リボンがしゅるしゅると足下に解け落ちていく。 「――あ」 白熊だ。プレゼントはところどころ怪我をした、ボロっちい白熊のテディーベアだった。 「なぜ街に進撃してたのか。きっと、それは本当の持ち主を探していたから」 「ふたりでどうにか繕ってみたんです」 「どうして私に……?」 戸惑う恵梨香に、ふたりはやさしく微笑みかける。 「全くの偶然かもしれない。あるいは奇跡かもしれない。縁も縁もない熊違い人違いか、それとも懐かしの再会か。それはボク達にも分からないけど」 白熊が、貴女のことを見つめている。 「なんだか、運命的な出会いだったから」 じっと見つめる。 円らな瞳に映る、恵梨香の瞳に映る、思い出を。 「……うん!」 らしくない返事をしたな、とすぐに恵梨香は照れくさくて頬を赤く染めてしまった。 けれど今この時だけは、らしくない自分をゆるせる気がした。 ●おまけ 「感動ぶち壊しのおまけコーナーのお時間です」 暗転する舞台。暗い地下室の中、佐幽と助手の香夏子が人間椅子のロウさんに腰掛けている。 「……なんです、この状況」 「マゾと訊いて」 「マゾだから仕方ない」 ザ理不尽。 「えー三高平にお住まいのPN.糸目さんからこんなお葉書を頂きました」 『こいつは素敵な上下運動だ! (揺れるさゆパイに釘付け)』 「セクハラでしょうか?」 「セクハラです」 「公開処刑? ねえ公開処刑?」 佐幽と香夏子はゴールドフェザーを装備した。 くすぐり拷問用アイテムだ。 「私の豊潤なさゆ毛とやらに準ずる品質を保障しますよ」 「処刑開始ー」 「処刑、開始」 「え、やめ、あんっ、そこは……アッー!」 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|