● 「オーホッホッホッホッホ!」 まるで典型的な笑い声が響いた。 「わたしのほしいあざーばいどのかえるあなを、みつけましたの! わたしにはわかるわ、やつはここにかえってくる!! そしてそれをいけどりにする!! これでわたしもこうふくのもちぬし!! てにいれたら、こころざしなかばでしんだおとうとにかわって、わたしがけんきゅうをささぶっいた! したかんだ!! うえええええええん!!!」 泣き出した『少女の様な女』に数十人の男が焦りながらハンカチ差し出したり、頭撫でたり、おろおろおろおろ。 その内泣き止んで立ち上がる女。ぶかぶかの白衣を引きずって、いたくないですー!と再び高笑いをした。 「むむむむむむうううう、つかまえるのです! いのちがけ、しぬきで!! たーげっとはざしきわらしちゃんなのよ!!! いくのですやろうども!! したいたっ、いたい! いたいわ!!! ちがでてきたわ!!! しぬ! しぬううう!!」 ● 「ハローリベリスタ、御機嫌よう? 遠足にいきましょ」 『クレイジーマリア』マリア・ベルーシュ(nBNE000211)がブリーフィングルームに居た。机の上に座って、大きくあぐらをかいて、居た。だらしない。 それはさておき、彼女の言う遠足とは依頼のことであって。 「なんでまたこんなところに」 「些細ね。マリアだってアークの一人よ、失礼ね。石にして屋上から落とすわよ。ああ、遠足には引率するから楽しく遊びましょ!」 大事件にならないと良いね。 「はいこれ、今回の遠足の資料。護衛任務。護衛対象は『座敷童子』。赤い和服の女の子っぽいもので髪の毛で顔が見えない。あ、これさっきのは識別名よ。妖怪的なあれではなくて、アザーバイド。 簡単に言えば元の世界に戻ろうとする途中でフィクサードによって拉致監禁される未来(よてい)。で、これ防ぐの」 敵フィクサードのレベルは低いらしい。だが質が駄目なら量で勝負だと。 「ざっとレベル1が100人くらい」 「……」 「これがポイントポイントに分かれて潜んでる。けどぶっちゃけバレバレの潜み具合。迷彩服で草むらに潜んでたりするわ。叫びながら出てきて、無意味な不意打ちとかしてくる」 「敵はあほなの?」 「うん」 ただ1人、レベルが25のフィクサードが居る。そいつが頭の役割をしている。 「『軍死』奇堂ひみめ。幼女に見えて実はみそじのおばさん。ちょっと抜けてる」 訂正。大分抜けてる。 高笑いする彼女の映像を見てリベリスタの頬から汗が流れた。 「敵が解ったところで重要なところ言うわね。 まずは座敷童子の信頼を得るとこからスタートよ。アザーバイドはおんぼろ屋敷に住んでいるけど、そこの家の人が亡くなったみたいで還ろうとDホールへ向かうわ。 彼女は人の心が読めるから、彼女を使って利益を目論んだりすると……祟られるから気をつけて頂戴。あ、でも彼女をきちんと還してあげようみたいな無害でかつ良い人には幸運が舞い降りるわ。 屋敷からDホールまでは資料に地図があるから迷わないで頂戴ねキャハハハハハ! じゃ、行こう! 早く行こう! 早く殺ろう!!」 マリアはブリーフィングルームの扉に堕天落としをした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月28日(火)23:36 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 優しかった彼はもういない。己の幸福は役にたったのか? 最期はとっても笑顔で息を引き取っていたのは、そう解釈しても良いのだろうか? 「はじめまして、可愛い座敷童子さん。 夜道は暗くて危険がいっぱいだから……お姉さん達、あなたの事守ってもいいかな……?」 膝を抱えて畳をずっと見つめていたから来客には気づかなかった。それよりもだ、何故私の存在を知っているのだろう。 「こんばんは、君の名前をきかせてくれるかな? ボクは朱鷺島雷音なのだ、もうすぐおうちに帰る時間だろう?」 夜道がとおりゃんせと言うのなら、振り返る事はけして無いから。大丈夫。 「あひるも言ったが、ちょっと帰り道が危険な路なので、帰るまで一緒にいてもいいかな?」 馬鹿め、私が心を読めると知らないのか。 そう言って油断させたとて、私の幸福を受けようと言う輩には祟りをば――。 ―――あれ? 「待った」 その前に。 「ちょっとだけ抱き締めても良いでしょうか?」 ちょっとなら……。 寂しき此の世界。 夜もすがらの帰路の旅は、こうして静かに始まった。 ● 「暗い夜道はピカピカのマリアのランタンがやくにたっつーのさー!」 「キャハハハハハ!」 マリアはリベリスタの頭上で翼を広げて、ジャックオランタンの明かりで周囲を燈色に照らしていた。 その下で『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)は夜の静けさを吹き飛ばす勢いで歌っていた。 燈の色の明かりの中心。『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)と『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)の間に挟まれて手をつなぐのは、座敷童の姿。 「名前はアヤメと言うのだな」 「左様だ。前の主様が付けてくれた名前である。花言葉も素敵だ、調べると良い」 「綺麗な……名前だと思うわ」 「そうか、それは……嬉しいな」 「万華鏡、フォーチュナ、フィクサード。この世界は大変であるな」 アヤメは知らない内に全員の心を読んでいた。警戒心の強い彼女だ、少しでも利用価値からの利益が見えた瞬間に祟りが起きる訳だが。 「不思議と、お主らは信用できよう」 アヤメの目線は『立ち塞がる学徒』白崎・晃(BNE003937)を見ていた。 ――どんな障害も排除して必ず届けると誓おう。 その心の中で並べた言葉の羅列は、信用するに十分過ぎる頼もしさを兼ね揃えていた。 「期待しているぞ」 「任務はきちんと遂行してみせる。約束だ」 晃の糸目は、優しく笑う。それを見て遠慮気味に笑ったのはアヤメであった。 「まあそんな時化た話やなくてな」 『レッドシグナル』依代 椿(BNE000728)はアヤメの眼前にずずいとお弁当箱を差し出した。オムレツにハンバーグ、その他もろもろ。ピンポイントでジャックオランタンを持った少女が気に入りそうなメニューが敷き詰められている。 「特製のお弁当や! 一緒に食べよか、そしたら少しでも悲しいの無くなるはずやん」 「悲しそうに、見えていたか」 椿はアヤメの顔を覗きこむ。少しばかり紅潮した頬は、久々の優しさに触れた嬉しさの現れなのだろう。 「あー、駄目よ! それマリアが全部食べるの食べる食べる食べる!! 「大丈夫やて、マリアさんの分はちゃんとありますよって」 空中でバタ足で駄々こねるマリアに保護者はきっちり対策を取ってきている様だ。流石です。 そんな二人を横目にアヤメはふと。 「しかしだな、敵に狙われているのでは無かったのか」 「それは大丈 です。小生たちがお守りし す」 「う、うむ、そうか……」 寄り道くらい良いだろう。道草食ってて扉が閉まるものでも無し。『不視刀』大吟醸 鬼崩(BNE001865)は見えぬ瞳の代わりに気配を感じる事が可能だ。 「お任 くださ 」 「期待している」 『一般的な少年』テュルク・プロメース(BNE004356)はフツと一緒に歌を歌うマリアが微笑ましく思えつつも、彼女のワンピースを引いて彼女の目線を向けさせた。 「楽しいですか、マリアさん」 「お外! 楽しいわ、テュルクも居るわ!」 にっこり。笑った少年。しかし、直ぐにその目線が厳しいものへと豹変。 「ですが、マリアさんには扉は開け閉めるものであり、破壊するものではないと……」 理解 して いただけると いいな と。 「え、えぇ……」 あえて、わざとゆっくり、聞かせて悟らせる様にテュルクの口は動いた。 少々であれ、圧倒されたマリアの頭には『扉を攻撃したらまたおやつが減らされる』と理解したのだろう。首を何度も縦に振っていた。 『残念な』山田・珍粘(BNE002078)は周囲を見回す。居るのは確かにフィクサードだ。 ……なんてバレバレな変装なんだろうか。草むらに紛れる人工的な緑。嗚呼、あれ全部毒殺したい、毒殺してしまいたいと珍粘の心が疼く。 「の、前に。マリアさんは今日はよろしくお願いします」 「うん? ええ、よろしくしてやってるわ!」 「私のことは那由多と呼んでくださいね?」 「なゆなゆね!!」 空中で浮かぶマリアに目を向けながらも、珍粘はそっと魔弓に腕を伸ばす。 ●ポイント1:草むら 「アヤメさん、此処からは危ないわ。あひるから離れないでね」 「承知した」 あひると手を繋ぐ手がきゅっと締まった。 「さ、じゃあ……こっちだよ」 フィクサードとの戦火に巻き込まれないよう、彼女を危険に晒さないよう、あひるの目はいつもより強い眼光が月明かりに照らされていた。 そしてあひるはアヤメの手を引いた。瞳の端の方で、迷彩服が轟々と燃えているのが見えない気がしなくもない。ついでに言えば、マリアの高笑いさえ聞こえる。 ああ、マリア、なんて活き活きした姿か。嬉しいような、でもむやみやたらに殺しはいけないと複雑な心境が入り混じるあひるであった。 「……隠れるならもう少し工夫してほしい、うん、もう少しでいいから」 あひるがアヤメの面倒を見てくれるなら心強い事は無い。マリアが暴れた後に雷音が放ったのは氷柱の雨。 燃えた後なら、氷でも。空中の水分を従わせ。氷へと変えて、敵を穿つ――。 まあ、その考えは確かに物理的には正解だが、ダメージ的には更に酷い結果になった。フィクサードが居る草むらはちょっとした地獄絵図ができている訳だが、あえてソフトに『戦闘不能しかけている敵が大勢いるけどそのうち燃えて凍って勝手に倒れる』とだけ言っておこう。あとは察して。燃えて氷ってるの察して! 意地のある敵はそれでも向かってきた。狙いは後衛――マリア。だがその手前でテュルクが立つ。 「やれやれ、平和じゃないですね」 振り上げた長い脚。それが豪とうねりを上げて風で空気を裂く。 ――三十秒後。 たった二人で二十人を倒せたので、次に行きます。 ●ポイント2:山道 翼の加護、他にはハイバランサー等、足場の対策があればスムーズに歩く事が可能だっただろうか。 それはさておき。 「アヤメさんはこの世界は好き?」 「好きだ。だが私のようなものが居てはこの世界のバランスが危うくなるのであろう?」 「うん……。残念だけど、フェイトっていうものがね、必要なの」 あひるはアヤメの手を離さないで歩き続けた。その背景には戦闘音を添えて。 「死にたくないなら降伏しろって先に言っておきますが、死んで地面の染みになってもいいんですよ!」 珍粘の目が活き活きしているよ。 黒死病を自由に、広範囲に、大勢に打てると聞いてこの依頼に来た訳だが。 「うふふふふ、穏便に、豪快に」 珍粘の手の平の上。ジジジ……と音を出して空間が裂けていく。それを見たフィクサード達は一瞬で嫌な予感しかしない第六感のままに、全身から汗を流した。 「苦痛に顔を歪めて、逝っちゃいなさい!! あたっ」 「やりすぎはいけません。オーバーキルは後味が悪くなります」 珍粘の後頭部をテュルクはチョップチョップ。とは言えども黒死病は発動したもんで止まらず。 十四世紀ヨーロッパの人々の命を奪って暴れたペストは、今この時点でフィクサード達の肌を黒く染めて暴れる。 追撃、再びの氷柱の雨が降った。 「折角の遠足だ! こんな所でアンハッピーはいけねーな!!」 『いっけー! フツー! 殺せー!! 殺し尽くせー!!』 フツが魔槍を振るってフィクサードを征する。魔槍がテンション高く話しかけて殺伐。 BS攻撃怖いよ、すっごく怖いよ。レベル1の時代があった君達ならよく理解しているだろうけど、レベル1時代ってBSダメージだけでも死活問題なんだ。 「まあ、奇跡的に生き残ってる事を願います」 テュルクはやれやれと顔を振った。 ということで戦闘、終わりました。まだ敵何もしてないけど終わりました。 ●ポイント3:自然公園 「どうしてあの家に居たの……?」 「む。理由は正直に言えば気分と言うやつだ。気まぐれで済まないが、だが、あの家……否、あの人の近くに居たいと思った」 「良い人達だったんだね」 「うむ。怪我をした猫を拾って手当をしていたのだ。他にもな――」 あひるとアヤメの話は続いた。思い出話が途切れる事は無い。 「童子様、これを」 気配遮断。死角から聞こえた鬼崩の声に、アヤメとあひるはびくりと身体を動かした。 「驚いた。なんだ、鬼崩よ」 「……これを」 鬼崩が渡したのは一般的な、棒に雲が乗っかっているかのような、ふっくらとした綿菓子。 「あ、……ありがとうな」 「いえ。甘 て、美味 いです。是非 も」 そう言って、鬼崩は気配の感じる方向へと向かった。 「童子様に、近づく事は許 ません」 両手に持つナイフを、握る。 きらきら。天上の明かりが反射してフィクサードの目を惑わせた瞬間、彼女のナイフは彼等を赤く染め上げる。 狙う場所、狙う場所、全てが急所に当たっては血が噴き出す。少しだけグロテスクな光景が広がっていますが、お付き合いください。 「キャハハハッハー! すっごーい!! 真っ赤な紅茶がばっちゃーん!」 「マリアさん。フレアバーストしたらお菓子は無くなります」 「はい。支援します。お菓子下さい」 マリアの声が聞こえた瞬間、石化の閃光が宙を裂く。直前まで燃やして殺す気満々だったが、テュルク、強いよこの子。影の支配者だよ。 「さて、贖罪の時間だ。身籠った悪意の罪の重さを知れ」 晃はマリアに続いた。石と成って動けない、青年の顔面に向けて放つのは銀色に輝くガントレット。その銀腕が敵の顎を粉砕し、地面にキスをさせてその意識をもぎ取った。 そこに手加減は無い。だがトドメを刺さない慈悲だけは残して。晃は次の獲物へと腕を振り上げた。 敵が石化からの出血。そして右の頬を叩かれたら左の頬に鉄拳制裁状態で三十人沈んだのでラストへ。 ● 待っていたのは奇堂ひみめ。手が完全に隠れている袖を振りながらなんか言ってる……多分怒ってるんだろう。 「ぶかをいたいめにあわせたのはおまえらか! ねにもつたいぷだ、わたしは! さあ、ここでしんでもらおう!」 ひみめの前に、フツが立ちはだかった。 血沸き、肉躍るような戦闘は今回はノーサンキューだ。だから、言葉で解決できるなら。 「アークの焦燥院フツだ。朱鷺島雷音もいる。お前さんが命がけなのは、目を見りゃわかる。 今帰れって言っても無駄だろう。だから、オレ達に負けたら、素直に部下を連れて帰れ。命までは取らねえ」 「ぐぬぬぬ、せいえいがそろいにそろって、なめくさってからにー! いくぞおまえら、いたいめみせてや――」 ドーン。 ――先制を取ったのは雷音の氷柱とマリアの堕天。 「びええええええ!!!」 泣きだした、ひみめ。ダイジェストに戦闘。 氷柱と石化の閃光が敵を射抜く。だが敵もやられてばかりでは無い。たった一人、マリアへ向けて剣を振った者が居た。確かにその剣はアヤメの力をもってして無駄に終わるが、マリアは頭を抑えてちょっとした涙目(あざとい)。からの、組長が覚醒。 「自分が何したか、その罪の重さ、理解するまで叩き込んだる!!!!」 覚醒した組長を誰が止められるか、絶対的有罪の下、拳を振り上げては殴り、天誅天誅天誅の嵐。 その横で晃は地道に拳をフィクサードに当てて、千切っては投げちぎっては投げ。ほぼ同時に鬼崩のナイフが敵の静脈を切るものだからその血が辺りに点々と跡を作る。 更に頭上から珍粘の黒死病が容赦なく降り注いでいく。リベリスタには当たらない、珍粘が狙ったのは逃げていくフィクサードだ。 逃げられない、逃げるなら身体を置いて行けとでも言うのだろうか。容赦無い毒は敵の足を止めるのには十分。 そしてガタガタ震えるひみめに辿り着いた晃。たった一言、これだけは言いたい。 「志だけで何でも出来るほど神秘界隈は甘くないってな」 それは己がこの街の飛び込んで知った現実。それを夢見がちな彼女にも教えてやるのだ。振りあがった晃の右手、再びそこに容赦は無い。 ――だがそれが振り落とされる前に。 「きゃわあああああああ!!」 珍粘がひみめへ飛び込み抱きつきアタック。頬すりからのむぎゅぎゅすりすりすり。 「ひいぃいなにしてるですかあああ」 「可愛いものに目が無いだけですよ、仲よくしましょう、仲よく!!」 「ひぃぃい!!」 遠くで、やれやれとテュルクが頭を横に振っていた。 ●スーパー遠足タイム 「で、さっきから目線が痛いわけだが」 「そうね……」 お弁当広げるリベリスタの背後。迷彩服の上に白衣を着る、無意味な格好でかつ攻撃によってボロボロになった奇堂ひみめが此方を見ていた。 晃とあひるがそちらを見る。 「あの……ひみめさん、悪いことしないなら一緒しない?」 優しい、流石優しさの塊でできているあひるだ。ひみめの方へ歩いていって、焦げた白衣を引っ張ってみた。 「なぬー! いばしょがばれていたとは、きさまら!」 はぁとため息をついた椿。その膝に乗っていたマリアはにっこり。 「いや……バレバレやん」 「まま、あれまた燃やしていいのかしら、キャハッ」 「あかんで、それもう殺す勢いやん」 で。 ちょこんとリベリスタが座っているシートの上に座ったひみめ。フォークを片手に……まるで「待て」をされた犬の様。 「可愛い、可愛い……うふふ」 珍粘と目線を合わせないようにしていたひみめ。珍粘、何か危ないオーラが出てるよ、仕舞って! そんなこんなで楽しい遠足。お弁当広げて皆で仲良く食べましょう。アヤメも勿論食べるよ、大丈夫、食べれるらしいってさ。 雷音からアヤメにサンドイッチが渡された。 「晃は料理が上手いのか? このサンドイッチ美味しいのだ」 「気に入ってもらえて嬉しい。アヤメも美味しいか?」 「うむ。人間の食べ物は初めて口にする……これはサンドイッチ。覚えた」 ボトムの情報がひとつ。また頬を紅潮させたアヤメは、喜んでいると解釈していいのだろう。 さておき、椿は話を切り出す。 「やっぱり奇堂ひみめさんて、奇堂みめめさんのお姉さんなん?」 「ひー! なぜばれているの、してはおまえらえすぱーだな!! うちゅうじんだこれー!」 「や、だって名前……六道やしなぁ……」 「うるさいうるさいうるさーい! おまえらめーこころをよんだこといつかこうかいさせてやるわーでもおべんとうおいしいわー!」 「そ、そか……」 椿はこの会話だけで、どっと疲れた気がした。 あっという間に始まった遠足は、あっという間に終わりを迎えるもの。 夜中の遠足も、そろそろ終わりが近づいてくる。 「……そろそろ、還らねば。穴が消えぬ前に」 ● Dホールは古びた鳥居。そこに近づくアヤメは一度だけ此方を見た。雷音はすかさず。 「君にとってこの世界は優しいものだったのかな?」 「うむ。偽りなき優しさに溢れているものと認識しているぞ」 「そうだと、うれしい」 「そうである、嬉しく思っていて良いぞ」 かくも辛いこの世界。 永劫の安寧の地は、けして訪れる事は無くとも。 たった一片でも優しさがあるのなら。世界が優しいものもあると見つけられたなら。 「雷音。世界が優しくないと思うのなら、貴様だけでも優しく有り続けるがいい」 「楽しい時間をありがとうな」 「うむ、素敵な食べ物をありがとうだ晃。達者でな」 「あ、ちょっと待った!」 フツはアヤメに近づく。手渡すのは、四葉のクローバーを閉じ込めたクリスタル。 「これは……」 「お前さんには加護を貰ったからな。そのお礼に」 再びアヤメは笑ったのだろう。髪の毛の間から除く口が笑っていたのだから。 「もし、私がふぇいとを得たその時。このクローバーを頼りに、また此の世界を探そう」 約束だ。リベリスタの優しさは、けして無駄では無いはず。 「それじゃ、さよなら」 見送る、雷音達――鳥居に消えたアヤメは振り返る事は無かった。きっとまた、会えると信じているから、さよならは返さない。 『――らいおん、頑張って』 「レヴィ?」 耳元で、いつか呪いの飲まれて消えた人魚の声が聞こえた気がした。 ● 「りべりすたとごはんしたあげくに、なまえまでばれていたとは。これもわたしのめいせいがたかいおかげね!!」 誰も居ない、静かな場所で彼女は一人、弟のサレコウベと向かい合っていた。 弟を抱え、抱きしめて。 「貴方は誰に殺されたの」 ――絶対に敵をとってあげるからね。 「……今日はちょっと楽しかったわ。珍粘ちゃんとか可愛いって言われたし。遠足とか、初めてだったしね……」 調子狂うわね、と。女はそのまま夢を視た。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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