●吼え猛る始まり 最初は強い風がひとつ、渦を巻いただけだった。 草原の上で、草を揺らしながら駆け抜けていこうとした風が……不意に、向きを変える。 中央のなだらかな丘に集まるようにして、まるでそこに吸い込まれでもしていくかのようにして……風たちは集まり、いくつも渦を巻き始め…… やがて渦は、ぶつかり合いながらひとつへと纏まり始めた。 風切る音が唸り声に変わり、やがてそれを咆哮のような何かへと変化させながら……渦はさらに大きくなり、草花を乱し、荒れ狂い始めた。 伸びていた雑草が、鋭い音と共に切断される。 切り刻まれた草葉が宙に舞い、竜巻はそれらを吸い寄せるようにして…… 周囲に、いくつもの尋常ならざる風を生み出し始める。 ●嵐、来たる 「E・エレメントが現れました。現在のフェーズは、3となります」 マルガレーテ・マクスウェル(nBNE000216)がそう説明すると、集まっていたリベリスタ達の間に緊張が走った。 「以前、風のE・エレメント達が出現する事件が幾度かあって警戒していたのですが……」 同じく風のE・エレメントではあるものの、その力は以前出現した者たちより強力らしい。 E・エレメントは出現してから短時間でフェーズシフトすると、すぐに周囲に配下たちを集め、それを取り込むようにしてフェーズ3へと成長したのだそうだ。 「すぐに、という訳ではありませんが、放っておけば配下を作りそれを吸収することで更にフェーズを上昇させる可能性があります」 その前に撃破をお願いしますと言って、マルガレーテは集まったリベリスタ達を見回した。 「幸い配下のE・エレメント達は力を与えられ存在できているという形のようで、主であるE・エレメントがいなくなれば、力を失って消滅するみたいなんです」 もちろん本体であるEエレメントを倒されないように、配下たちは周囲を固めている。 「E・エレメント達が出現したのは、市街地から離れた草原です」 フォーチュナの少女は説明しながら端末を操作し、スクリーンに画像を表示させた。 ゆるやかな傾斜が中央に向って続く草原が、画面に表われる。 「草原は中央付近が最も高くなだらかな丘のようになっていますが、戦闘や移動に影響を及ぼすほどの勾配はありません」 草の丈は短く、足場も悪くないようだ。 「ただ高低はありますので、丘を挟んで反対側は見通せなくなっています。ご注意ください」 もし手を分けるような形を取れば、互いの確認が難しいといった処だろう。 「E・エレメント達は丘中央付近にフェーズ3のエレメントが位置し、それを囲むように周りに拡がっています」 フェーズ2の個体が3体、そしてフェーズ1の個体は、40体。 合計すれば、44体という多勢となる。 「フェーズ3は嵐のE・エレメント、他の個体は風のE・エレメントと呼称させて頂きます」 集団の主となる嵐のE・エレメントは、丘の中央付近に浮かんでいる。 その姿は竜巻そのもの、という感じだ。 「飛行も可能なようですが現在は地上近くまで降りてきていますので、近距離攻撃も可能なようです」 動きは素早く、攻撃と回避の能力は高い。 また、一度に2回の行動を可能とする能力も持つ。 「加えて状態異常に対する高い耐性を持つうえに、精神や麻痺、呪いや態勢の異常を無効化する力も持つようです」 その嵐のE・エレメントが戦闘に使用する能力は3種類。 自身を含め周囲の味方の受けたダメージを回復させ異常を解除する能力と、命中と回避の力、速度を上昇させる付与能力。 「また、20m範囲内の全ての敵を薙ぎ払う風を巻き起こす力も持っています」 薙ぎ払う風は威力は低めなものの精度は極めて高いうえ、対象を吹き飛ばし施された力を解除する効果もあるらしい。 「その周囲をフェーズ1のE・エレメント達が固めています」 風のE・エレメント達は嵐のE・エレメントの周囲50mほどに円形状に集まっているが、攻撃する対象を見つければ次々と襲い掛かってくる。 もっとも、そんな状態でも嵐のE・エレメントからはあまり離れたがらないらしい。 「数が減った場合は警戒するのか、周囲を固める円は徐々に狭くなっていくみたいです」 知性は高くないが習性らしきものがあり、強力な攻撃を行う者や多数を攻撃できる者を優先して攻撃する傾向があるようだ。 攻撃の手段は、風の刃で切り付ける神秘系の近距離単体攻撃のみ。 威力は中程度で特殊な効果はもたらさないが、自身の速度を攻撃力に加える効果があるらしい。 「動きは機敏で攻撃を命中させたり回避したりする能力は高めですが、防御力は低めで耐久力の方もそれほど高くはありません」 飛行する能力を持つが、戦闘時などに相手が地上にいる場合は地表近くに浮遊する形で戦闘を行うようだ。 「修練を積んだ方なら1人で複数と対峙しても互角に近い戦いはできると思いますが、とにかく数が多いですし……」 孤立し包囲されるような事になれば、実力がある者でも耐え切ることは難しいかもしれない。 充分な警戒が必要と言えるだろう。 「最後に……フェーズ2のE・エレメント3体ですが、嵐のE・エレメントから10mほど離れ、三方に分かれるような形で位置を取っています」 こちらは地面から10m程度の高度を取っているらしい。 「基本的に降下はしてこないようですので、近距離を試みる場合、何らかの手段で接近する必要があります」 移動は殆ど行わないが、地上に叩き落されそうになった等の場合には、再び上昇しようとするようだ。 また、嵐のE・エレメントの動向によっても位置を調整するように移動する可能性があるらしい。 「嵐のE・エレメントに似て異常への耐性は高く、命中・回避・速度、耐久力等の能力も高いみたいです」 加えて、減速無効に似た能力を持っているようだ。 「ただ、防御の力はかなり低めのようです。耐久力があるので簡単には倒せないと思いますが……」 それでも、かすり傷しか与えられないという訳ではない。 攻撃を蓄積させていけば、確実に倒すことはできるだろう。 「ですが嵐のE・エレメントが倒されれば力を失い消滅する訳ですし……嵐のE・エレメントを倒せそうな場合は、無理に倒さなくても構いません」 もっとも、放置しておくのを悩まざるを得ない厄介な能力を3体は持っているらしかった。 3体はそれぞれ1体ずつ、攻撃力、防御力、速度を減少させる風を操れるのだそうである。 「1体が1種類の風のみを操れるだけですが、3体の見た目は同じでどの個体がどの 攻撃を行うのかは実際に確認するまで分かりません」 この攻撃はE・エレメントの周囲30m内の全ての敵を狙えるが、威力の方はそれほど高くはないらしい。 「ただ攻撃の精度は高いので、攻撃や異常効果の回避はかなり難しいです」 また、飛行などの手段によって接近してきた相手には、フェーズ1と同じように風の刃を振るって攻撃を仕掛けてくるらしい。 「こちらも自身の速度を攻撃力に上乗せしてくる事に加え、対象に血を流させる効果を持ちます」 近接範囲にいる全ての対象を攻撃できるうえ、威力の方もフェーズ1より強力なようだ。 「以上が今回の敵集団の戦力と状態になります」 フォーチュナの少女はそう言って説明を終えると、集まったリベリスタ達を見回した。 今回の敵は強力なうえに数も多いので、こちらもある程度の戦力で向かう事となる。 任務に向かうリベリスタ達の力を如何に合わせるか、それが依頼の成否を分ける事になるだろう。 「どうか、充分にお気をつけて」 マルガレーテはそう言って、リベリスタ達を見送った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:メロス | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月31日(金)23:18 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●嵐の始まり (前にやりあったE・エレメントの親玉っぽい奴の登場か。しかも団体様で来やがったな) 「臨む所だ、キッチリやっつけてやるぜっ」 怯む様子もなく闘志を漲らせ、鷲峰 クロト(BNE004319)が呟く。 「まぁまぁ、すごい! 一匹では弱くても、沢山集まれば……の典型例ね?」 一方で、エレメントを見て目を丸くしながらそう口にした『運び屋わたこ』綿雪・スピカ(BNE001104)は、短く声を発しながら飛ばされかけた帽子を押さえた。 「……油断大敵という事も。覚えたわ」 少し表情を引き締めて少女が呟く。 「草原の丘の上に佇む嵐……まるで何かを待っているみたいだね……」 その風たちの主、嵐のE・エレメントへと視線を向けながら……『ルーンジェイド』言乃葉・遠子(BNE001069)が呟いた。 (風なんてもののくせに、みんなで戦うかと思えば、個性みたいなものまであるのね) 『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)も、今回のエリューション達について想いを馳せる。 (なにか思ってたりもするのかな?) 「そりゃ、かんけいないかもしれないけど」 それでも想う処もまた、彼女らしさというものなのかも知れない。 「風の集団相手か」 (オレの悪運がどこまで通用するか、試してやるぜ) それぞれが其々の想いを抱く。 緋塚・陽子(BNE003359)の呟きと想いも、彼女らしいものだった。 (市街地から離れているのは幸いだが、食い止めなければ大変な事になるはずだ) 「食い止め在るべき日常を守ってみせる」 『Brave Hero』祭雅・疾風(BNE001656)も誓うように、自らの想いを言葉に紡ぐ。 「嵐ねぇ……傍迷惑な。きっちり消えて貰いましょう」 「街に行かれる前に排除しなければな」 『尽きせぬ祈り』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)の言葉に同意するように、『無銘』熾竜 伊吹(BNE004197)も頷いてみせた。 「さてさて、今日もお仕事がんばりましょ」 がんばってお給金弾んでもらわなくっちゃ。 『重金属姫』雲野 杏(BNE000582)がいつもと変わらぬ調子で口にする。 リベリスタ達は急ぎ陣形を整えた。 もっとも警戒すべきは各個撃破である。 皆と纏まるようにして『月奏』ルナ・グランツ(BNE004339)は後衛に位置を取り、『アメジスト・ワーク』エフェメラ・ノイン(BNE004345)と『慈愛と背徳の女教師』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)も同じように、仲間たちと共に位置に付いた。 「春一番には遅すぎて台風時期には早すぎる、半端だな?」 『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)もまた、いつもと変わらぬ様子で言葉を発する。 (暴風警報、所により落雷・洪水・火の玉が降るでしょう、か) 「いや降らせるだが、賑やかなことだな?」 微風が野分にまで成長しても面倒だ。 (十分空を舞っただろう。なら後は消えるのみ) 「しかし梅雨前で良かったか……雨が降る中では面倒だ」 想いを零しつつ、少女は視線を転じた。 「濡れて喜ぶ変人が出ても困るしな?」 「……今日は風が騒がしいな……だが、この風は少し泣いている気がするぜ…」 『合縁奇縁』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)が呟く。 風に意思があるのかどうかはわからない。 (しかし俺は、この風の鳴き声を此処で止めなきゃならない) 「自然に対し、人間の勝手な理屈だとしてもね」 言いながら彼の視線は、丘の上へと向けられた。 ●嵐を、遮る者 目的は、嵐のE・エレメントの撃破。 その為に、フェーズ2のEエレメント達も2体は撃破を狙う。 フェーズ1に関してはフェーズ2撃破のついでに数を減らすという認識で、全ての撃破には拘らない。 それがリベリスタ達の基本的な作戦方針だった。 遠子が集中によって脳の伝達処理能力を向上させ、シュスタイナも自身を中心に複数の魔方陣を展開する。 「切り込んでいくわよ?」 三角形の陣形に展開したスピカも嵐の響きに抗すべく、ドルチェ・ファンタズマの弦に弓絃をそっと添えた。 (アタシの仕事はとにかくフェーズ1を薙ぎ払って道を作ることね) 「はん、アタシにうってつけのお仕事ね、任されたわ」 三角形の陣形の中心に位置を取った杏は、不敵な笑みを浮かべてみせる。 (回避がいくら高くたって、掠っただけで消し飛ばすような威力なら関係ないでしょ?) 「皆、守ってね。その代わりいっぱい敵を吹き飛ばしてあげるわ」 皆より頭一つほど浮かせる程度に低空飛行し、彼女は視界を確保した。 「アタシの力を見せてあげるわ!」 強気な発言とは裏腹に杏の瞳は、油断なく敵の位置や数を把握するように動いている。 竜一は陣形の左翼側を担うように、クロトは右翼側を受け持つように、それぞれ素早く移動した。 ユーヌは先頭近く、敵の近距離攻撃が届く位置を取り、伊吹も戦線を支えるべく前衛に立つ。 「凄まじいな。だが数が多くとも負けられない」 前衛の一人として陣形を構築した疾風は、皆と状況を確認し合うとアクセスファンタズムを起動させた。 「どんなに吹き荒れようと止まない嵐は無いんだ! 変身ッ!」 ●嵐の内へ 丘の上に位置する嵐のエレメントが、一帯を巻き込むように強い風を呼び起こす。 続くように動いたのはユーヌだった。 「さて踊ろうか? 無粋ものなら教えてやろう」 少女の言葉がエリューション達の意識を彼女に向けさせ、動きに隙を作り出す。 その範囲には入っていなかったものの、空に浮かぶ3体の強力な風たちも先刻までとは異なる音を響かせ始めた。 直後、連続で放たれた伊吹の乾坤圏が周囲のエレメント達へと襲い掛かる。 涼子もエレメント達を引き付けるべく、周囲の風達を挑発した。 地上近くに降りてきているとはいえ、相手は飛行しておりブロックは容易ではない。 だからといって、後衛たちに接近させる訳にはいかないのだ。 ルナが周囲のエレメント達へと無数の火炎弾を降り注がせる。 「数を減らさないと肝心のフェーズ3に近づくのも難しそうだな」 疾風は接近してきた1体を抑えるように位置を取ると、気の流れを制御し戦闘態勢を整えた。 シュスタイナは回復のために皆の状態に気を配りつつ、組み上げた四色の魔光を風たちへと向ける。 その直後、風のE・エレメント達が陣形を組んだリベリスタ達へと襲い掛かった。 数体はユーヌや涼子に向かったが、それ以外の個体たちは他の前衛たちや、強力な全体攻撃を放ったルナらを狙おうとする。 三角形の角や辺を維持しようとする前衛たと、乗り越えようとするエレメント達、両者が向かい合い、ぶつかり合う。 仲間たちを巻き込まぬように、接近中のE・エレメント達に向かって杏が練り上げた火球をギターで打ち放つ。 炸裂した煉獄の炎はそのまま周辺を嘗め尽くした。 (少しでも一度に相対する敵の数を減らしたいから丘の向こう側から見えない様な位置で戦闘できるのが一番かな……?) 同じように三角形の内側に位置する遠子は、分断されぬよう密集しながら皆と共に歩を進めつつ、気の糸を放って風たちを攻撃する。 「こういう時にうってつけの曲があるの」 ヴァイオリンを構えていたスピカが、奏でる音色と共に周囲に生み出した雷を拡散させた。 もっとも、風たちとて打ち据えられるばかりではない。 機敏な、流れるような動きで、舞うように、間を縫うようにして荒れ狂う雷を回避する。 「どちらの巻き起こす烈風が上か、試そうじゃないか!」 「遠くからチマチマ戦う方法持ってねーし、しょうにも合わねー」 味方を巻き込まぬようにと、竜一と陽子は前線を維持したまま踏み出した。 刃を高速で振るって生み出した烈風で竜一が数体の動きを鈍らせ、陽子は同じく数体に舞うような動きで大鎌を揮う。 (当たるも八卦当たらぬも八卦) 感じる何かを重視して、陽子は刃を大振りに振るい、独楽の如く回転しながら更に連続で斬撃を繰り出した。 「そら、俺も範囲攻撃使えるからこっちに来いよっ」 待機していたクロトが敵の動きを阻害するように移動し、複数の幻影を放ったまま高速の連続斬撃でエレメント達を攻撃する。 集まってくる風のE・エレメント達を引き付けつつ、ユーヌは可能な限り周囲の状況を確認していた。 視界だけではなく能力で聴覚も強化した状態で、敵の多い箇所等を確認する。 前衛たちは何とかそれぞれの持ち場を維持していたが、集まってくる敵の総合的な戦力は圧倒的だった。 後衛の幾人かは、すぐに力を攻撃ではなく仲間たちの回復に費やすことになる。 もっとも、それによって前衛たちは攻撃を耐え抜き、中後衛たちが攻撃を受ける回数を最小限に抑える事に成功していた。 攻撃を完全に遮る事はできなかったが、全体回復を行う者が居た事で結果としてそれはダメージの分散と回復の効率化へと繫がったのである。 リベリスタ達は陣形を維持したまま移動を続けていった。 そして、戦いは次の段階へと移行される。 ●嵐の中心へ クロトは消耗を抑える為に通常の攻撃で討ち漏らしや仲間の攻撃で弱った敵を撃破しつつ、タイミングを計って能力を使用し、高速の連続斬撃で複数のエレメント達を攻撃していた。 疾風もコンバットナイフ『龍牙』と魔力銃『顎門』を使い分けながら、壱式迅雷と弐式鉄山、雷を纏った突蹴と間合いを超えた投撃によって襲い掛かる風たちを迎撃し続ける。 敵の数を減らすことを優先しつつも、突出し過ぎて孤立しない事に注意して。 前進したリベリスタ達は、嵐のE・エレメントの三方を固めるフェーズ2達へと攻撃の届く位置まで到達した。 幸い、というべきだろうか? 敵からの攻撃によって、どのエレメントがどんな攻撃を行ってくるのかを一行は既に確認していたのである。 竜一は、仲間たちへと呼びかけた。 最優先目標は、こちらの攻撃力を減少させてくるエレメントだ。 青年は鋭い抜き打ちで真空刃を発生させ、エリューションへと斬撃を飛ばす。 遠距離攻撃の手段を持たない陽子は、皆と共に前進しながら直死の大鎌を振るい続けた。 能動的な回避は一切考えていない。 (元々かわせる能力じゃねーし、運に任せた方がオレらしい) 直撃連打したら、それはそれだ。 前衛の一人として陣形を維持しながら攻撃に専念し、彼女は舞うように歩を進めてゆく。 ダメージの蓄積した者がいれば影人に庇わせる事も考慮に入れつつ、ユーヌは淡々と自らの責務を果たし続けた。 挑発によって風のエレメント達を誘導し、符術によって創り出した玄武の力で敵の機敏さと攻撃の力を封じ込める。 伊吹も竜一と言葉を交わしながら、攻撃の対象にフェーズ2の1体を含めるように移動していった。 「露払いは任せるが良い」 破界器を連続で投射しながらも能力を使用して、彼はエリューション達を観察する。 一方で涼子は皆の動きに気を配り、フォローを第一に考え戦っていた。 彼女が特に注意したのは、高い火力を誇る杏と敵を引き付けるユーヌの状況である。 次点で、前線を支えると同時に攻撃手としても優れる竜一、疾風、伊吹らの状態だった。 危険であれば庇い、援護し、彼女ら彼らが全力でそれぞれの役割に専念できるように。 (わたしはパンチ力があるじゃなし) だから、高火力とか囮とか、あるいは回復できる者たちのフォロー等をメインに考えて。 もちろん機会があれば、攻勢に出る事を厭いはしない。 そうやって涼子は、陣形を保つべく奮戦する。 そんな一向に向かって、強力な風を纏ったE・エレメントが、力を奪う風を巻き起こした。 無数に存在する風のエレメント達も、範囲を狭めつつリベリスタ達へと攻撃を仕掛け続ける。 それらを纏めて薙ぎ払うようにして、杏が収束させておいた雷を解き放った。 全身から、翼から放たれた電撃が、風のエレメント達に向かって迸る。 ギターを弾き、激しい演奏と共にテンションを高める彼女に続くように、スピカも音色を響かせた。 「うふふ、チェックポイント、見ーつけた♪」 四重奏のソロライブに切り替えた彼女は、仲間たちが狙うエレメントに向かって四属性の魔術を組み上げる。 遠子は全身から伸ばした気の糸を操ってフェーズ2諸共配下のエレメント達を掃討しようとしたものの、途中からほぼ回復に専念する形になっていた。 負傷ではなく、能力を使用する為の力の回復である。 自身の力が尽きないように十分に注意しつつ、彼女はユーヌや癒し手たち、強力な範囲、全体攻撃を行える者たちへと力の供給を行い続けた。 とはいえ強力な能力を行使する者たちの消耗は激しかった。 ルナやエフェメラらも癒しの力を帯びさせたフィアキィによって協力したものの、回復が追い付かなかったほどである。 それでも、シュスタイナやティアリアらの力は何とか尽きずスピカも回復に転じ、リベリスタ達は戦力を減らす事なく戦い続け、空に浮かんでいた1体目のE・エレメントの撃破に成功した。 速度を減少させた事でエレメント達の攻撃力も減少したの事も、要因の1つかも知れない。 2体目となる防御力を減少させてくるエレメントとの戦いで、陽子が守りを潜り抜けられるような攻撃を連続で受け運命の加護で凌ぐ形にはなったものの、それ以外の者たちは何とか攻撃を耐え切り……その撃破に成功する。 フェーズ2の、2体撃破。 それは、作戦が最終段階に入った事を意味していた。 ●討ち砕くもの 嵐のE・エレメントが巻き起こした風が、風のエレメント達の受けた傷を癒してゆく。 残った配下の風達は、さらに纏まるようにしてリベリスタ達と対峙する形となっていた。 力が強くなった訳ではないが、常に癒しの力の範囲に含まれるため、倒し難くなったのも事実である。 もっとも、倒せないという程ではない。 浄化の光で仲間たちを癒していたユーヌが再び搦め手に回り、クロトはエレメント達すら足場に利用して風達の主を強襲し一撃を見舞うと、形ある竜巻を足蹴に跳躍し仲間たちの許へと帰還した。 「すごいわ、台風の目って、こんな風になっているの……!」 (それに凄まじい轟音……) 「うふふ、わたしの演奏も負けてないわっ」 押し寄せる風圧に寧ろワクワクするという様子で、スピカは嬉々として魔曲の四重奏を嵐に向けて奏で始める。 杏も味方を巻き込む可能性は無いと判断し、嵐のエレメントを範囲に含めるようにして地獄の炎を召喚した。 消えぬ炎が風達を襲い、ダメージの蓄積していた個体が勢いを弱め、消滅する。 いつでも攻撃に転じられるように戦況を覗いつつ、涼子はあくまでフォローをメインに戦い続けた。 誰かが倒れて作戦が崩れるのを防ぐ為に、彼女は強風の中、大きな声で仲間たちと状況を確認し合う。 消耗が激しくなった際に中衛や後衛へのシフトを考えていた疾風は、何とか敵の攻撃を凌ぎ、戦線を維持し戦い続けた。 気を練る事で消耗した力を回復させながら全身の気を制御し、負傷が大きく蓄積する前に呼吸法によってダメージを軽減する。 堅実に、確実に、疾風は陣形の一角を守り続けた。 クロトやスピカも、力の消耗には気を配っていた。 クロトは多数を攻撃するためのスキルの使用に注意し、スピカは消耗が大きくなった際に、消耗の少ない能力を使用することで力を維持しようと考えていたのである。 それでも遠子たちの回復は追い付かない。 もっとも、その消耗に相応しいだけの戦果をリベリスタ達が挙げていたのも事実だった。 風のE・エレメント達は既に半数以上が倒されていた。 そして、この時点では完全に戦線を離脱していた者はいなかったのである。 だが、ここからリベリスタ達の損耗は大きく増加する事となった。 癒し手が不足し、攻撃も幾人かの手が、時折弱まる事になる。 対してEエレメント達はその数を大きく減じてはいたものの、戦える個体毎の戦力は低下してはいなかった。 それでも怯むことなく、陽子は大鎌を振るってエリューション達に斬り付ける。 細かいことは気にしない。 力が尽きようとも、一気に押し込むだけだ。 風の刃を受け彼女は終に膝を折ったものの、防御をすり抜けるような斬撃で1つの風を消滅させることに成功した。 涼子は執念とも維持とも呼べる何かと運命の加護で風の刃を耐え抜き、杏は遠子から受けた力で再び尽きぬ獄炎を創り出し、燃え滾る演奏と共に嵐に叩き付ける。 クロトが地を這うような跳躍で幾度となく強襲を仕掛け、疾風も間合いを超越した投技で竜巻を丘の大地へと叩き付けた。 「吹けば飛ぶが、風除け程度になるだろう?」 ユーヌが符術で創り出した影人に庇われるようにして距離を詰めた竜一は、打刀に破壊の力を注ぎ込んだ。 全身の闘気を爆発させ、一撃に全てを費やし、叩き付ける。 爆裂する一撃が、それまでの攻撃で勢いを弱めていた竜巻の根幹を……破壊し尽した。 「風よ、何を訴えたい。なんのために、ここにいる! お前はどうして生まれてきた!」 青年の問いに答えはなく、嵐は勢いを弱め……それを追うように周囲の風達も消滅し始める。 嵐は唯、通り過ぎ去るのみ。 「でも、去り難いほどここから眺める景色を嵐さんは愛したのかな……?」 遠子の呟きに答えるものも、無い。 丘上を微風が通り過ぎ、一行の上には……雲ひとつない青空が広がっていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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