●断罪の光 「そこまでです! 街の治安を乱し、心蝕む薬物を蔓延らせるなんて、絶対に許せません!」 路地裏、怪しげな外人と不良が金銭と多種多様な物品を取引する場に響いたのは、場違いな少女の声。 ハッとした一同の視線の先、そこに立つのはセーラー服に身を包み、整えられたショートカット、そして優等生っぽく、メガネのブリッジを中指で触り、外人、不良達を指差す少女が居た。 「あ? なんだ、ねーちゃんよぉ? 正義の味方気取りかぁ?」 「そんなカッカしてるぞ、酷い目にあうぜ?」 「いや、イイコト、かもだぜ、ヒャッハハハハ!」 下衆いた笑いで少女を嘲る男達。 普通の少女ならば、ここで脅え、逃げるだろうがこの様な場に居る者が普通であるはずが無く。 「なるほど、言葉では分からない様ですね。まあ、分かりきった事ですが。貴方方は、罰せられる必要があります!」 突き出された拳から、激しい光が噴出せば。 瞬時に刃を形成し、駆け出した少女が一閃。 何が起こったか、把握できない不良達ではあったが、一拍遅れ、少女と相対した男が倒れ、ようやく事態を飲み込める。 「な、なななな、なんだぁ!?」 「くそ、ふざけるな! ぶっ殺せ、絶対逃がすな!」 恐怖に震えた声、怒りに身を任せ、少女を殺すよう指示を出す声。 様々な男の声が響くが、その声は次々と悲鳴へ代わり、やがて聞こえなくなる。 最後に残るは、輝く刃をその手に宿し、不良の亡骸を見下ろす少女の姿があった…… 数日後、とある学校にて 「なあ、今日の戸頭さん、何時も以上にピリピリしてなかった?」 「うーん、そうだなぁ。余裕が無いって感じだったよな」 「どうしたんだろ? いつもだったら、注意ぐらいで済ませるのに、あそこまで厳しく言ったりしないのにね」 「なんていうか、逆に空気悪くなってるよな。折角、良い感じになってたのに自分で変な雰囲気にしちゃってさ」 午後の昼下がり、数名の生徒がとある女生徒について言葉を交わす。 多少の厳しさはあれど、柔軟性を持っていた少女の様子がおかしいと、心配しての事ではあったが当の本人は何処吹く風か。 「こら、そこ! 学校に不用品を持ち込まない! あと、金城さん、中野くん、田中さん、山根くん? 私は余裕が無いわけでもピリピリしてるわけでもないですから、そんなに気になさらずに!」 メガネのブリッジを持ち上げレンズが光る。 いつも通り、問題ないわと態度で示す少女の姿がそこにはあった。 幾人へ違和感を与えつつ、日常の中、時間だけが等しく流れていく。 次なる惨劇は、もうそこまで来ていた…… ● 「犯罪は悪い事ね。でも、自分で勝手に裁くって言うのも問題だわ」 最初にため息、そして語りだすは真白イヴ(nBNE000001) 彼女が見たモノ、それは罪人を裁く力を手にした一般人が、その力を持ってして断罪を繰り返すという光景。 「何の変哲も無い人が、いきなり力なんて持てるわけ無いわ。どうやら、アーティファクトを手に入れたみたいなの」 正義感の強かった少女、学校内でも不正が許せず、生徒会役員として活動していた彼女はある日、小さな輝石を川原で手に入れていた。 それを持った日から、彼女の正義感は増大、不正は許せずという感情だけでなく、街に蔓延る悪を罰する、という衝動が彼女を支配。 そして、罰する為の力をその輝石が彼女に与えていたのである。 「罪を罰する、その目的の為に力を発揮するアーティファクトよ。今はまだ、犯罪者とかを襲って罰する、とかだけど、いずれその罰の対象は広がるわ。 それこそ、皆が普段何気なくやってる事……車が来ていないから信号無視とか、ゴミの分別をちょっとやらなかったり、とか。そんな事でも許さず断罪として命を狙うの。 そして、その対象は彼女自身にも当てはまるわ……いずれ、彼女はアーティファクトによって、自らの命を絶つ事になる」 ほんの些細な、マナー違反までもが裁きの対象となるならば。 いずれ、大きな混乱を巻き起こし、そして彼女自身が死ぬ未来は回避不可能。 ならば、今の内に彼女を倒し、アーティファクトを回収することが最善となる。 「彼女は夜の繁華街をうろついて、罪を見つけては罰する、という事を行っているわ。どうやって接触するかは任せるけど、決して油断しないで。 一人だけど、かなりの力をアーティファクトから得ているの」 たった一人ではあるものの、その力は侮れるものではない。 彼女を生かし、アーティファクトを回収できる事が最善ではあるが、もし難しければ殺害も止む無しと彼女は付け加えていた。 「逃がしたら、いずれ彼女は死ぬ事になるわ。ここで逃げられた後、また接触する機会があったとしても、その時は多分、助けられない。 だからこそ、彼女を助けるなら今しかないの。幸い、人としての心はしっかり残っているから、説得して何らかの効果を得る事は可能よ。それじゃ、皆、任せたから」 そこまで伝え、彼女は残る情報をプリントアウトした資料を一同へ手渡し送り出す。 まだ、救えるかも知れない命を救い、無用な混乱を広げぬ為に…… |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:プロスト | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月06日(木)23:31 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●断罪の刃を探し 夜の繁華街、二人一組となったリベリスタが4組、ネオンライトに照らされつつ足を進める。 既に数名が下調べとし、現場到着後人気の無い場所を探索、各々が標的を発見すれば、即座に合流できる準備は整っていた。 「過ぎたるは及ばざるが如し。行き過ぎた善行は悪行にもありえるんだよね」 「そうだね。選ばれた者の優越感、正義のヒーロー、なんて力を手に入れたら、だれだって行使したいだろうし」 手にした写真を眺めつつ『』四条・理央(BNE000319)と『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004) が言葉を交わし、行き交う人々を凝視する。 他のメンバーと分散、繁華街を捜索するも、今だに見つからないのは単なる分散にて捜索、としたからか。 区分けし端から探るローラー作戦でも取れば、もう見つかっていたかと思いつつ、二人は夜の街を駆け抜ける。 同刻、同じように二人一組で動く3つのペアの様子はというと。 「見つからんな、天城」 「だな。路地裏で面倒な事には巻き込まれたが……」 タバコに火を付け『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657) が呟けば、同意するように『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469) が言葉を続ける。 二人は路地裏、面倒ごとが起こりそうな場所を中心に捜索、発見次第引ったくりにあった被害者、起こした加害者の演技を行い誘導予定であった。 しかし、見つからないばかりか一般人の諍いに巻き込まれかけ、たった今、櫻霞が魔眼にて暗示、追い払ったばかりだったのだ。 「ポイ捨てでもすれば、向こうから出てくるかね。それとも、派手に交通法規でも無視するか」 紫煙を吐きつつ鉅が呟けば、櫻霞が苦笑で応じるのであった。 さて、更に別ペアの様子はというと…… 「うう、ごめんなさい……」 小声で呟き、信号無視して道路を渡る『blanche』浅雛・淑子(BNE004204) と彼女を見守るよう、10m程離れ進む『レディースメイド』リコル・ツァーネ(BNE004260) 小さな犯罪を行いつつ標的を釣り出し、若しくはコートと帽子で変装したリコルによる引ったくり、の自作自演を行う予定ではあったが、その時二人のアクセス・ファンタズムに連絡が入っていた。 「淑子様、きました!」 「はい、リコルさん、急ぎましょう!」 コートと帽子を脱ぎ、淑子に駆け寄ったリコルが声を上げ、頷く淑子と共に駆け出す。 一分も走れば、隣には櫻霞が、そして車道をバイクで飛ばす鉅と合流し、4人は急ぎ現場に向かうのであった。 ●見つかりし刃は 「こらー! まちなさーい! 引ったくりもそうだけど、そもそもえーっと……とにかく待ちなさーい!」 道路に響く、少女の叫び。 何があったのか? それは、追いかける少女がリベリスタの捜し求めた戸頭・綾香であり……彼女は、一同が仕掛けた策に掛かり、リベリスタの一人を追う状況であるという事だ。 「もがもが、うがー!」 「ちょっ、バッグ食べてる!? それは食べ物じゃないから、っていい加減とまりなさーい!」 ひったくったバッグに齧り付き、引き千切り、咀嚼する『這いずる沼』マク・アヌ(BNE003173) にドン引きしつつ、その辺の布を纏っただけの容姿とつたない言語。 これは、単なる引ったくり以上に深い闇があるとか勝手に介錯した綾香の正義感をとっても刺激し、彼女は目的地へ駆けて行く。 「追いかけるのは良いですけど、危ないですよ!?」 そんな二人を追う様に『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247) が走り、数分の逃走劇は人気無き路地裏にて終結する。 「や、やっと止まったわね……食べちゃったのは仕方ないとして、大人しく……ッ!?」 マクを捕まえ、しかるべき場所へ引き渡さねばと綾香が思考を巡らせた直後、その思考は別方向へ。 彼女が不穏な気配に周囲を見渡せば、7人の男女が増え、綾香を逃がさぬよう包囲しつつあったのだから。 「何なんですか、貴方たち! 引ったくりから始まって、私みたいな女子を取り囲むなんて!」 「悪く思うな、これも仕事の一つでな」 綾香の言葉に櫻霞が答え、一歩を踏み出す。 これまで罪人を裁いてきたという自負、そして今まで自分の行動を先読み、カウンターをされた事のない行為に、初めて明確な反撃が加えられた事。 呼吸を整え、慎重に周囲を見渡す綾香に声をかけたのは夏栖斗であった。 「騙すような事しちゃってごめんね。でも、話を聞いて欲しかったんだ。ねぇ綾香ちゃん、どうして君だけが罪を罰しないとって思ったの? 正義は各々にあると思う。そんなの自由だ……でもそれが誰かの悪になる事に繋がるんだ」 「私は悪じゃない! 其々の正義なんて勝手な言い草よ。誰かの悪になる、とか考えてたら、何も出来ないじゃない!」 蹈鞴を踏み、夏栖斗の言葉に反論を。 手を下す者が居ないならば、力を持つ者が正しき道に沿って罰しなければ、守る事も出来ないと彼女は続けた。 「そう、ですか……なら、逆に聞かせてください。貴女が言う、罪とは、何でしょうね。罰とは……何でしょうね。貴女は、法なのですか?」 まっすぐに綾香を見据え、ユーディスが問いかける。 根底たる意思を変える事は出来ずとも、その問いかけには意味があったのだろう、その表情に僅かながら焦りが見えた。 「ッ……もういいです! 貴方たちは、私のジャマをする人、なら、ここで斃れて頂くしかありません!」 対話での解決を放棄、綾香がその手を突き上げれば、それと同時に光にて構成された人間が4人出現、敵対者たるリベリスタを倒すべくその得物を振り上げる。 「ふむ、まあ、こうなるのは織り込み済みだ。身勝手な正義に文句を言えた義理ではないが、そちらがそうならこちらも身勝手に決めさせてもらうさ」 タバコの火を消し、鉅が呟き相手を見据える。 それが戦いの合図であった。 ●断罪か、独善か 「早速呼び出しか。だが、神秘なんて碌なもんじゃない」 綾香の右手を狙い、黒と銀。櫻霞の二丁のオートマチック・ピストルが乾いた音と共に弾丸を発射する。 眼前に生み出された障壁にその銃弾は弾かれるが、その狙いは正確無比、障壁さえなければ彼女の拳を貫いていただろう。 「がぁ!」 発砲にあわせ、綾香との距離を詰めたのはマク。 組み付き、その牙を突きたてようとするも生じた障壁がその牙を受け止め、その間に綾香の振るう光の剣がマクの体を貫いていた。 「回復は任せてもらうよ、その分、攻撃は任せるね」 斬撃直後、戦場を駆ける風。 マクへと癒しの力をもたらす風を吹かせ、理央が言葉を紡げば苦々しげに綾香が得物を構えなおす。 同刻、生み出された執行者、4人の光る人影は。 その行動を阻害すべく立ち回る夏栖斗、ユーディス、淑子、リコルの4人が相対していた。 「申し訳ありませんが、自由に動かれるわけには参りません」 「そういう事ね。先ずは一人、倒れてもらうわ」 鉄扇を振り下ろし、執行者をリコルが殴打。 直後、刃を輝かせる淑子の斧が執行者の斧とぶつかり、甲高い音と共に火花が飛び散る。 被弾からの防御、そして反撃に移ろうとする執行者ではあったが、その攻撃を押さえ込む様飛び出したのは、ユーディスの操る魔力槍。 執行者に負けず劣らず、輝く穂先が執行者の胸部を貫き、多大なダメージを与えていた。 「おっとと、やり返しはさせないよ? 暫く、僕の相手をしてもらうからね」 続けて動くは夏栖斗。 放たれた軽口は、執行者の注意を引き寄せ4体すべてが得物を構え、彼を狙い突撃する。 挑発効果を含めたその言葉、敵の注意を引き寄せ自らを危険に晒す代償に、彼は統率された攻撃を阻止していた。 「ちょっ!? 何、勝手に変な事してるの!? あぁ、もう!」 1体が崩れれば、そのダメージを他が回復、そして立て直しての反撃をするはずが、夏栖斗の挑発に引き寄せられる。 組み立てた作戦が崩れるのを恐れた綾香は、即座に戦場全体へ光を放ち、執行者の建て直しを計るがそれは自身の相対する、4人への攻撃を止める事へと繋がっていた。 「どうした、いつもと勝手が違うか?」 少々の焦りを見せる綾香へ淡々と言葉を紡ぐ鉅。 同時に放たれた幾本もの糸は、麻痺の効果を発揮はせぬも、精神的に追い詰めるには十分か。 続けざまに放たれた銃弾を弾き、飛び掛るマクの顎を凌ぐも執行者と分断された状況では分が悪い。 緒戦の行動で双方に多大な被害は無い物の、戦局はリベリスタ優位に進んでいた。 ●歪な正義は崩れ去る 状態異常に強い能力を持つが、多数の状態異常を付与できない面々と。 それに対し、回復と通常打撃を主体としたリベリスタの戦いは、持久戦の様相を呈していた。 互いに大きく崩す手段を講じることが出来ず、十全な回復を双方が持つ故当然の展開だが、その流れが変わったのは一体目の執行者が倒れた時だ。 「ちょっといいかしら? 社会のルールを守るのは、勿論大切よ。でもそれを勝手な判断で裁いてしまうのはただの独裁者、今の貴女は独裁者そのものにしか見えないわ」 数的優位を得、余力が出来た事で執行者と相対していた淑子が綾香を狙い、斧を振り下ろしつつ問いかける。 「ただ叩きのめすだけ、罪を犯したら痛いことをされた、それは罪の自覚じゃないでしょう?」 「それは、繰り返さない、初めての人だけにしか通用しません! 何度も何度も、繰り返した悪人は、反省する必要なんてないんです!」 罪を罪と認め、向き合う事。 間違いは誰にでもあるが故、二度目を犯さぬ様どうすればいいか、一緒に考えていく事が罰という淑子の言葉を否定する綾香。 だが、それは自らが独善であるという事を、自分で証明する事に他ならない。 「もうやめよう、罪には罰を、それは当たり前だ。けど、過剰になりすぎて傷つけるのは正しくなんてない、まして殺すのは明確な悪だ!」 執行者の猛攻を凌ぎつつ、夏栖斗が叫ぶ。 行き過ぎた罰、それはこちら側の正義でもなければ、反対側の正義でもない。 単純な暴力装置、どちらの立場に立とうとも正義を語るに値しない独善でしかないのだから。 「常の貴女であれば、罪を裁く為に拳をあげる等なさらなかった筈です! その石は貴女へ力を貸しつつも、思考を偏らせ誤った方向へ導いているのでございます!」 歯軋りする綾香へ、リコルが言葉を投げかける。 興奮し、戦場全体へ光を放ち、多くのリベリスタを傷つけるもその精度、威力が減じているのを全員が肌で感じ取っていた。 それは、輝石によって歪められ、その信念によって進む彼女の心、その揺らぎに他ならない。 「戸頭さん、正しいことをしたいんだよね? だったら、どうして相手の言葉を聞く事が出来ないのかな? やりすぎちゃいけない、って言う言葉も、どうして聞けないの?」 執行者の攻撃をいなし、理央も綾香へ問いかける。 その問いが、迷いを生じさせ、動きに精彩を欠く事へと繋がれば、流れは最早変わらない。 「もう一度、問います。罪とは、罰とは、何でしょう? 言葉だけに捕らわれ、それさえもお忘れですか?」 狼狽する綾香へ、最初と同じくまっすぐ見据えユーディスが言葉を紡ぐ。 「罪は、罪はっ! 法に背いて、迷惑をかけること。それと、法に無いからってモラルが無い事をする事よ! それを戒めるのが罰!」 「では、もう一言を。法があるならば、定められた法の元へ……そして、貴女は法ではないのですよ」 反論へ返された言葉と共に、ユーディスの槍が障壁へと接触する。 これまで、多くの攻撃を弾いてきた障壁ではあるが限界が近いのか、激しく輝き火花を散らす。 「がうあー! あう」 刹那、綾香の懐へ飛び込むマクが槍を弾いた部位へ喰らいつく。 ガラスがきしむが如き嫌な音が響き、直後、硬質の物体を何度も咀嚼する、バキバキと言う音が戦場へ。 まだ、一部効果を残す障壁をマクが噛み砕き、飲み込んでいく光景がそこにはあった。 「な、なな、何よ、これ!? 私が、負けちゃうって事!?」 障壁の崩壊、そして異様な行動を見せるマクの姿。 戦意を大きく減じ、生じた隙を逃さず鉅が糸を放てば、障壁を失った綾香の体はいとも容易く巻き上げられる。 暫しの沈黙、そして張り詰めた糸が奏でる弦の音。 その音が鳴り止めば、意識を手放した綾香がその場へと崩れ落ち、同時に執行者もその姿を消失していた…… 「もがもが……うー、ペッ」 戦闘終了後、地面に転がった審判の輝石を真っ先に拾い、口に運んだマクがそれを吐き出す。 どうやら、美味しくない上に硬く、噛み砕けなかった様だ。 「あ、目が覚めましたか? 怪我はありませんね」 そんな中、ようやく意識を取り戻した綾香に淑子が声をかけ、彼女の無事を確認する。 「え……あ、あの。どうして、助けてくれたり?」 状況が飲み込めず、困惑する綾香。 自分を倒し、断罪を阻止しに来た面々が、自分を介抱していたのだ、困惑するのは当然だろう。 「天城が言っただろう、仕事に来たと。俺たちはお前を止めに来ただけだ、勝手な理由でな」 タバコに火をつけ、一服していた鉅が答える。 それだけでは理解できず、頭上にクエスチョンマークを浮かべる綾香へ理央と夏栖斗がフォローを入れる。 「ボク達は、君がやりすぎて善行が悪行にならない様、止めに来たんだよ。だから、君を無闇に傷つける事はしない、って事」 「そうさ。僕は君と違って、もう既に人殺しさ。でも、君は僕みたいになる前に戻れる、だから助けに来たんだ」 アーティファクトの事、そしてその力によって、綾香の意識が飲み込まれ、いずれは自分までも犠牲になったで有ろうこと。 様々な事を説明され、輝石の束縛から解放された彼女は驚愕しながらも、反論する事無くその事を受け入れいていた。 「さて。それじゃ最後に質問だ。本来なら、こういった事に関わったのは忘れておくべきなんだが、戒めに覚えておくのも一理ある。どうするか、判断はお前次第だ」 全ての説明が終わった後、櫻霞が質問を。 「え、あ、はい……きっと、私が弱くて、だから、あの石の力に負けちゃったんだと思います。だったら、自分が弱いって事、しっかり覚えて置かないと、また、同じことになっちゃうと思うんです」 自らを律す為、この出来事を忘れない、と選択した綾香。 それは、彼女自身の成長も意味していた。 「それでは、事件も解決したところでございますし、皆様でお食事にでも参りましょう。マク様も、我慢できない御様子ですし」 皆の説明の中、その辺にある物を適当に食べていたマクを見遣り、リコルが打ち上げ、食事へと皆を誘う。 その誘いへ、自分は部外者だからと綾香が帰宅を申し出るが、同行を促す様にそっとユーディスが手を差し出す。 一瞬の逡巡、そしてその手を綾香が取れば、ユーディスがにこりと微笑み返していた。 正義という言葉、得た力に溺れ、自らを滅ぼす定めの少女はこうして救われた。 来た時より一人を増やし、起こりうる幾つもの悲劇を阻止した一同は、帰還の途に着くのであった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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