●銃対剣 「やっべー遅くなったー!」 街灯の少ない夜の闇の中を、騒がしい声と共に一人の青年が駆け抜ける。 足を踏み込む度に背中の竹刀が揺れる。 部活の帰りに地元の道場で練習をし、最後の後片付けと掃除までしてたらいい時間になってしまったのである。 「晩飯残ってればいいんだけど……ん?」 二つ目の角を走り抜けた時、青年の顔に疑問符が浮かび上がる。けして広くない道だが、そのど真ん中にトレントコートを着た男が立っていたのだから。 「何やってんだ、あんた?」 青年の顔色が変わる。この時期にトレンチコート。もしかしてこいつは変態なんじゃないか、と。 そんな訝しげな青年の態度には、まったく意も介さずトレンチコートの男はゆっくりとコートを開く。 (マジで変質者か!?) と、青年が驚愕の表情で男を見るが、別の意味で彼は驚愕する事になる。 男の腰にはホルスターが有り、其処に黒光りした塊……銃が収まっていたのだから。そして、男は初めて声をあげる。 「先に抜きな……」 そこから青年の行動は早かった。素早く竹刀を取り出し、一足飛びで踏み込み上段から振り下ろす。 だが、その直前に乾いた音。 その音の後、青年の体がゆっくりと地面に倒れて行く。 倒れた青年を見、男は手にした銃をホルスターにしまいゆっくりと振り返る。 「銃は剣より強しってね……そんな事も知らなかったのかい?」 ●銃の道 「皆さんお疲れ様です。お仕事の話がありますがよろしいでしょうか?」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)がいつもどおり温和な笑みを浮かべてリベリスタ達を向かえるが、気のせいか少し表情が固い。 「今回の相手は、銃を持ったスターサジタリーのフィクサードです」 和泉は、こんこんとコンソールを叩くと、返事を待たずに再び続ける。 「どうやら相手は一人で、剣を持った人間を狙うようです。よっぽど銃が剣より優れてるとでも言いたいのでしょうね」 珍しく棘のある和泉の言葉に一部のリベリスタが首を傾げると。 「大体、一人で単独行動とかセオリー違反です! 腕に自信があっても連携を取ったり、ブッシュを活用したりしないとチームに迷惑が……あ」 そこで、わざとらしく咳払いを一つ。 「……ともあれ、放っておける相手ではありません。早急な対応をお願いしますね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:タカノ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月21日(木)00:20 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●静寂の闇 人気の少ない夜の闇の中、その中に四人の姿が見える。 それぞれ、打刀、グレートソード、バスタードソードが二本と幻視がなく、他人が見たら一発で国家権力ご同行間違いない出で立ちだったが、其処に四人以外の人影は見えない。 「ふむ、わらわは普段銃を愛用してる身じゃが……」 子供のような外見を持つ可憐な少女の口から、やけに重みのある言葉が紡がれる。『泣く子も黙るか弱い乙女』宵咲 瑠琵(BNE000129)が刀を肩に担ぎながら周囲を見やり、もう一度口を開く。 「銃と剣、どちらが強いかと問われれば愚問と答えるのぅ」 「……どっちが強いか、なんて……正直どうでもいい気もするけど……」 無表情のまま、『スターチスの鉤爪』蘭・羽音(BNE001477)が小首を傾げる。その表情から彼女の真意は読み取り難い。 「銃が剣より強いわけでも無ければ、剣が銃より強いわけでもねぇっス」 バスタードソードを手にした『キシドー最前線』イーシェ・ルー(BNE002142)が、迷いも見せずに口を開けば、残りの三人も各々頷きイーシェを見やる。 「刀剣と銃器と……どちらが優れているのか、私達が証明させてあげましょう」 決意を込めた表情のまま、『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)も、しっかりとバスタードソードの柄を握り締め、呟く。何より、銃に含む物はないが……こんな使い手には負けられない。 四人が決意を固め、気を引き締め直した瞬間、ザッと地を踏みしめる音。其処にはトレンチコートを着た男が立っていた。 「その出で立ち……アークのリベリスタ共か……面白い」 男はニヤリと笑うと、コートの前を開き、ホルスターにかかった銃を外に見えるように見せる。もちろん、中には服は着ている。ビシッとしたスーツ姿だ。 なんじゃ、服を着ていない変質者じゃなかったのかえ。と、声が聞こえた気がしたが気にしない。 「先に抜……」 「アンタから撃ってきてもいいんスよ?」 ガンマンのフィクサードが決め台詞を言おうとした時、イーシェが不敵に笑いながらその言葉を遮る。 「面白い……素人の集まりの分際で……たった四人で俺に勝てると思ってるのか」 「残念だな」 その時、真上からかかる声とナイフの無機質な剣閃。 ガンマンの背中を斬りつけた後、ゆっくりと『がさつな復讐者』早瀬 莉那(BNE000598)はガンマンを見つめ直す。 「四人じゃない、八人だ」 いつの間にか、後方から現れた四人のリベリスタ。ガンマンは、自分が窮地に立たされた事に気がついたのは、前後を四人づつのリベリスタに挟まれてからだった。 ●剣対銃 ガンマンが銃を抜くのとほぼ同じ速度で綺麗な銀髪が風に乗って踊る。 リセリアの神速の一撃がガンマンのいた場所を切り裂くが、其処にすでにガンマンはいない。 「がらあきだな」 横から突然発する声と銃声。とっさに防御しようとするが、銃弾はガードと防具の隙間を狙うように撃ち込まれる。 続けて攻撃をしようとするが、それは横から飛んで来た魔力の矢に遮られてしまう。 「あら、そう簡単には当たってくれないのね」 余裕の表情は崩さず、『素敵な夢を見ましょう』ナハト・オルクス(BNE000031)が髪をかき上げてガンマンを見据える。飄々とした表情に僅かに見える侮蔑。手にしたダガーを弄びながらナハトはその表情を崩さない。 「大御堂彩花参ります!」 手にした木刀を投げ捨て、『高嶺の鋼鉄令嬢』大御堂 彩花(BNE000609)が素早く構え、思いっきり蹴り込む。 間合いは遥か先、とても蹴りが届く間合いでは無いが風を宿した彼女の蹴りは疾風となりてガンマンを襲う。だが、ガンマンもそれを軽くワンステップで横に避け、やり過ごす。 「いくですよっ! 天獅子ッ!」 それでもリベリスタの波状攻撃は止まらない。『あほの子』イーリス・イシュター(BNE002051)がハルバードを勢いよく振り下ろすが、これも後ろに下がる事でやり過ごす。 「チィッ! 鬱陶しい!」 そんなガンマンの鼻先を黒い何かが掠めて行く。瑠琵の放った式符であった。 「如何した銃使い、おぬしの銃捌きはその程度かぇ?」 挑発するような瑠琵の嘲りを込めた表情。むろん、それだけが原因では無いが、ガンマンの冷静さを奪うには十分な効果があった。 「調子に乗るなっ! 素人共が!」 怒りの表情を露わにしたガンマンの銃撃が的確に瑠琵の防具の隙間を狙うが、その一撃程度では倒れない。 「よそ見してる余裕があるのかよ」 真横からナイフを片手に躍り出る莉那。振るう事によって生まれた無数の刃。その刃がガンマンの腕を斬りつけるが、浅い。 その僅かな隙を見やり、彩花が踏み込む。流れるような足運びで懐に飛び込み、炎を宿した拳を突き出す。ガンマンも反応していたが、僅かに回避動作が遅れる。彩花の一撃を受け、ガンマンは顔をしかめるが、無論この程度では倒れない。 「……えい」 無気力そうな声と表情。だが、振るわれるグレートソードの一撃にその軽さは微塵も見受けられない。羽音の強力な一撃を銃底で何とか受け止めようとするが、そんな物で受け止めきれるわけがない。グレートソードの剣先に胸元をざっくり抉られるが、それでもガンマンは其処に踏み止まる。 「必殺の! いーりすまっしゃーをうけてみるのです!」 これを好機と見て、ハルバードを構えたイーリスも動く。 イーリスの振りかぶった一撃は何とか避けたガンマンだが、安心したのもつかの間、バスタードソードを腰だめに構えたリセリアが向かって来るのが視界に入る。 「チィッ!」 苛立ちを隠さず銃口をリセリアに向けるが、間合いはすでにリセリアのバスタードソードの間合い。振るう剣先が無数に増えればガンマンも避けきれず、肩口から赤い鮮血が舞う。 「この野郎っ!」 「あらやだ、野郎はあなただけよ」 ナハトのしなを作ったツッコミを無視しつつ、ガンマンが銃を腰溜めに構える。先ほどまでと違った動き。その動作の意味する事に一番早く気がついたのは彩花だった。 「みなさん、来ます!」 彩花の声とほぼ同時に発射される無数の弾丸。それがリベリスタ達を襲う。しかし、無数の銃弾の雨を受けても倒れる者は一人もいない。苦痛に顔を歪めながらも、誰一人折れる者はいない。 「……素人のクセにやるじゃねぇか」 「未熟者の集まりであるアタシ達に圧されていると感じたなら、アンタが違えちまったって言うことッス! 悔い改めるッスよ!」 ガンマンの感嘆にイーシェのバスタードソードが答える。綺麗な連撃にステップで避けようとするが、僅かに足らず足元を斬られガンマンの表情が歪む。 それはガンマンの方にも余裕がなくなって来ている証拠でもあった。 ●勝負の行く末 「遅いっ!」 この戦闘で何度目になるか判らない銃声。ガンマンの放った銃弾が的確に羽音の肩を撃ち抜くが、羽音の表情は変わらない。その無表情さにはガンマンも、やや戦慄するほどだ。 「……そんな攻撃、ちっとも、痛くないよ……」 「ち、痛覚遮断してやがるな」 ガンマンが苛立ちながら再び銃口を向けるが、イーリスのハルバードが目の前を掠めて行ったを見、慌てて体勢を立て直す。 「さあ、私からの愛よ! ……はい、其処。嫌そうな顔をしない」 戦場に似合わない軽いノリツッコミから、通る、ナハトの綺麗な歌声が戦場に響き渡る。癒しの力を込めた歌声がリベリスタ達の怪我を治して行く。 いかに相手が強力なフィクサードとは言え、所詮は多勢に無勢。リベリスタの猛攻に押されているのは間違いがなかった。 「俺は負けない! たかが剣ごときに負けるわけがないんだ!」 再び放たれる無数の銃弾。弾丸の雨がリベリスタを襲う。その攻撃でイーシェの体がグラつき、倒れそうになるが……手にしたバスタードソードを地面に突き立て、踏み止まる。 「……この程度で屈するとあったら、笑われちまうッス」 もはや限界は超えていたのであろう。それでもイーシェは倒れない。自分の中の騎士道が、目の前の自分の小さな欲望を満たす為だけの男なんかに負けてはいけないと。 背負う物の違いなのだろうか、確実に限界を超えても立つ姿にガンマンも動揺が隠せない。 「……何故立てる! どう見ても、もう限界だろうが!」 そのガンマンの言葉に、イーシェはニヤリと笑って。 「知らなかったんスか? フィクサードよりリベリスタは強って奴ッス……初歩的なことッスよ?」 そして繰り出される連撃をガンマンは避けることすらできずにマトモに食らい、たまらずたたらを踏んでしまう。 明らかな形勢の不利を悟ったガンマンが、何とか逃げ道は無いかと視線を走らせるが、すでに包囲されている状態では、逃亡すら難しい。 「逃しはせぬ。数の暴力って言葉、知らんのかぇ?」 打刀を持った瑠琵が嘲りを込めて笑えば、それに反応したガンマンも銃口を向けるが……それよりも先に瑠琵の式符がガンマンの胸を撃ち付ける。 「クッ!」 何とか強引に包囲を抜けようと試みるが、踏み込んだ足を莉那に斬りつけられ、それもかなわない。 「俺が……剣なんかに!」 「そんなの……関係ないよ……」 羽音の声に反応するように銃弾が羽音の脇腹を撃ち抜くが、それでも無表情のまま、羽音はグレートソードを振りかぶる。 「大切なのは……それを扱う、人の気持ちだから……」 振り下ろしたグレートソードの一撃は、ガンマンの意識を絶つのに十分な威力を持っていた。 ●終戦 「終わった、ねー……」 ナハトに手当てを受けながら羽音がボソっと呟く。現在ガンマンは瑠琵の手によってがんじがらめに縛られているところだった。 「うむ、之にて一件落着!」 と、拘束を終えた瑠琵が満足そうに頷く。それに、対して浮かない表情を浮かべていた莉那が。 「別に、フィクサードなんか殺しちまえばよかったんじゃ……」 と呟くが、捕えてアークに突き出そうといった流れになっている状態で強引に手を出すほどでもない。これが莉那の探しているフィクサードだったら話は別だったかも知れないが。 「そうです、これにていっけんらくちゃくっ! なのです!」 イーリスが元気良く胸をはって言いきれば、何故か周りからは笑顔が零れる。それは、イーリスの無邪気な反応によるものか。 「では、長居もあれですし、連れて帰りましょうか」 彩花の言葉に全員が反応し、各々が帰り支度を始める。そんな中、イーシェは連れて行かれるガンマンを見やって、最後に呟く。 「……アンタが道さえ違えてなかったら、どうなってたかわかんねぇッスね」 それは、イーシェの素直な感想だった。 それを耳にした者は誰もいない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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