● それはたわいもない噂、謂わば都市伝説のようなもの。 「その写真館では、未だに大切に思う『死者』と一緒に写真が撮れる」 「フラッシュがたかれた瞬間に『死者』との邂逅がはじまる」 「――そう、逢いたくてたまらない『死者』と逢えるんだよ」 けれどそれが本当になってしまうのが、この世界の歪み。 もちろんちっとも優しくなんかない世界は、代償を求める。 ● 「その大切な人はまやかしです」 珍しく『かたすとろふ言動』小鳥遊 あると (nBNE000002) は、きっかりとした口調で言い切った。 「写真はいまあるものしか写せません。どんなに願ったって、いなくなってしまった人は写せないんです」 真剣な眼差しで其処まで語ったところで、真白イヴ(nBNE000001)のオッドアイに制されて口を噤む。 「みんなには、アーティファクトを駆使するノーフェイスを倒して来て欲しいの」 イブが端末を操作すると、寂れた写真館が画面に映る。 『オモイデ写真館』と、レトロな字体で綴られた看板を掲げるそこは、営業しているかどうか一目ではわからぬ寂れ振り。 中には白髭を生やした人の良さそうな老人がいる。彼が件のノーフェース、市ヶ谷だ。 「何処から手に入れたのか、アーティファクトの『ウルドの腕(カイナ)』の影響を受けて人ならざる存在になってしまったの」 彼はフェイトを得ることはできなかった。だから倒して欲しいとイヴは躊躇いなく言い切った。説得でのアーティファクトの回収は不可能だとも。 「彼の攻撃は『ウルドの腕(カイナ)』を使用したもの」 効果だけを端的に言うと、遠距離からの広範囲へのダメージと隙、麻痺の付与だ。 だがその攻撃を受けた者は直後から、彼等が死に別れた者との邂逅を果たす。 写された人の望むままの、姿、声、会話に呑まれ、浸る。 ――ただし。 「写されたのが一般人なら死んじゃいます。リベリスタなら怪我ですみますけど。びっくりするかもしれませんね、市ヶ谷さん」 最後の方だけはいつものひょうひょうとしてどこかズレたあるとだった。 何故そんなことを? その問いに答えるのはカレイドの申し子。 「邂逅を写した写真が市ヶ谷の手に入る。それをコレクションするコトと、故人と逢わせてあげる『善行』に、彼は執心しているわ」 善行というキーワードにあるとは唇をますます噛み締めた。 故人はペットなどの動物でも構わないし、家族などつながりが濃ければ2人までなら同時に逢えるのだという。 「死を経験していない人には極大のダメージが入るから、覚悟してね」 下手すれば盾にもなりはしない。その上で行く為したいことがあると言うのならば止めはしない、けれど。 「結局、偽物なんですよー。『オモイデ』なんて看板に偽りありですっ」 ライムグリーンのポニーテールを揺らし、あるとはいつもの口調……に、怒りをぼかす。 「大体大切な人が邂逅と引き換えにその人の命を狙うわけないじゃないですかー」 『すてら』の片隅に立つ少年に頷くと、イヴは「いってらっしゃい」と彼らを送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:一縷野望 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月29日(水)23:20 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●其れは或る夜の花火にも似た ――輝き。 無機的な『カシャリ』という音と共に、過去を司る女神は彼らの想い出を寄越せと強請る。 思慕、 離脱、 安寧、 無名、 愛、 歪み、 慟哭、 破顔、 悔悟、 ……どれもこれも、唯一。 ●アーシェルシア ――気がつけば、世界樹に背を預け空を見上げていた。今の世界には何処にもないこの樹の手触りに懐旧を憶える『夜明けの光裂く』アルシェイラ・クヴォイトゥル(BNE004365)。 いっぱい、いなくなった。 空のグラスがあれば水が注がれるように、誰かの想いが満ち、また満たす……そんな誰かがいっぱいしんだ中……それでも、 「アーシェ」 現われるなら、あなただと思ってた。 当たり前のように佇む彼女の名を呼ぶ、其れはアルシェイラが自分を称する時と同じ。 それ程までにアーシェルシア・スヴァルトゥルとアルシェイラ・クヴォイトゥルは同じだった。 「アーシェはアーシェだった」 重なる言葉。 とても似た唇の動き。 ……いや、同じだ。区別する必要すらなかったのだから。 「あなたがいなくなって、心にぽっかりと穴が開いたような気分になって」 世界樹から身を起こしアーシェへと左手を伸ばす。同じように伸ばされた右手は触れあい握られた。とたんに曖昧になっていく、自己。 だからこそ改めて悟る――アルシェイラは、アーシェルシアを亡くして初めて「わたし」を認識したのだ、と。 リベリスタに出逢い、変わりゆくのはもはや留めること叶わなかった。 「傷つける事を覚えた」 アーシェルシアの感情が心に流れ込む感覚は、ない。 こんな風に二人が変わり、離れる事を怖れた。 「でも」 それでも広い世界に本当に変らないものが無いのか、未だ燻る恐れをどうすればいいのか――知らなくてはならなかった。 「アーシェの中に、アーシェはいない?」 ……大事なのはね、心だよ。 わからないから伝わらないから、これは幻想。 解けるように消える世界樹、歪む目の前のアーシェルシア……でも不安はない。『想い出』を見つけたから。 「心配しなくても大丈夫だよ、アーシェ」 ●母 その呪いは事実かわからないけれど、髙橋家の女性は代々短命。実際に成人前に命尽きるのが常。 そんな中、ある女性が『リベリスタ見習い』高橋 禅次郎(BNE003527)と双子の姉を産み落とせたのはまさに奇跡と言えよう。 瞬くフラッシュに反射的に切れ長の瞳を伏せ、瞼をあげたら……其処には写真で見た母が楚々とした佇まいで、いた。 今の自分と殆ど変らぬ年格好の彼女は、何処か自分に似ていて――でも声は聞いたことがないからわからない。 「――」 向こうは俺をわかるのだろうか、そんな危惧を抱いた刹那、母は総てを抱擁する笑みで手招いてくれた。 ふつり。 張り詰めていた禅次郎の心の堰が、切れた。 「母……さん」 指を取ればそれは驚く程華奢だった。けれど握り返す力は柔らかくも強く、そしてなによりあたたかかった。禅次郎も握り返し母の瞳を覗き込む。 「大抵の事は親父から学んだ」 安心して欲しい、ちゃんと一人で生きていけるようあなたの伴侶は子を育て上げた。 「護身術、一般常識……一人ジャングルに放り込まれた事もあった」 瞠目の後、困惑の笑みを浮かべた母は労るようにぎゅっと禅次郎を抱きしめた。 「あ……」 無言。 でも背中を叩いてくれるだけで胸に安堵が満ちていく。 「世間とはズレていたが、まぁ……」 頬を染めながら、父に感謝はしていると不器用に伝えれば、母は瞳を細め頷いた。 これらは写真で見たものの再現でしかない。 けれど、普段母について語らぬ父が珍しく語ってくれた想い出は、こんなにも鮮やかに禅次郎に息づいている。 とりとめなくいつまでも話していたい中、彼は忘れぬようにと一番伝えたかった事を唇にのせた。 「産んでくれてありがとう」 さようなら。 そう呟くと頬を熱い水が伝った。 ●祖母 命亡くしされど繋いだ人もあれば、命在っても決して先へと繋げられない存在も、いる。 稀い想い出から果たして女神の腕は何をかき寄せるのか――期待と諦観に塗れ『0』氏名 姓(BNE002967)は胸の欠片に触れる。 目の前に佇む老婆は、果たして勿忘草色のストールを肩にかけ穏和な笑みで孫を見た。 瞼を下ろしけれど綴じきらず「おばあちゃん」と呼べば、応えるように揺れる首。 両親を失った孫に何も望まず衣食住を満たし育てた女性。其処には「肉親の無償の愛」という綺麗事は、無い。 ……無いとわかるのが、姓という子の不幸だった。 世継ぎを生む為望まぬ先に嫁がされた彼女の元に残ったのは、血を繋げられぬ孫。 身を穢されども唇を噛み堪えた苦悩の果てに与えられたのは、絶望。 けれど血を継いだこの子を死なせるわけに行かぬとの、枷。 「私を見て笑って欲しかった」 受取ってくれなかった誕生日プレゼントを身につけて現われた祖母は何時かの願望。 「雨の日は迎えに来て欲しかった」 不幸だと憂いた事はない、でも今囀りが止まらないのは何故なのか? これ以上続かないのだとしても、今在る「私」は確かにあなたが生んだモノ。未来を見て絶望するのなら、今を見て安寧を感じて欲しかった。 「本当はねぇ、おばあちゃん。憎かったよ」 半分だけね。 「貴女だって、悔しかった癖に」 そんな恨み言が聞ければ……願った刹那、老婆は顔をくしゃくしゃにして罵詈雑言を連ね出す。 ――ああ此はなんて優しい場所なのだろう。 胸の痛みで命が削られるのを感じながら、姓は老婆の頬を張った。 きっとこうやって全てさらけだしあいたかったのだ、もう叶いやしないけど。 ●大和 血の繋がりはなくても魂は受け継がれるのかも、しれない。 「これは奇跡なのだな」 幸い映す『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)と驚く大和、はぐれぬように手を繋ぎ歩き出す。最初に向う先は大和の家。 ありふれた日常を愛した少女は、復讐で凍てついた少年の心をほぐした。 ……何をしたというわけではない。 心落ち着ける日本家屋で、他愛のない話を皆で交した、唯それだけ。 それ、だけが……どれ程に大切で掛け替えのない時間だったか。 「次はどこに行こうか?」 浮かべたのはきっと同じ場所。 眼下に満ちるは、海の蒼。賢者の石を巡り共に追ったヴァンパイア。胸躍らせていたのは内緒。 冬山に現われた真っ白ふかふか。 二人の間にあふれ返る想い出数多。 死別。 そして。 最期の闘い。 人形と果ててしまった彼女にようやく告げた想いは過去形――好きだった。 「……」 いつしか言葉が消えていた。 彼女を地に叩きつけ骨砕き吐いた愛は、空っぽの心から絞り出したモノ。 ――でも前を向いて歩かねばならない、律してしまうのが少年の常。 少女は知る、全ては杞憂だと――。 重なり合う唇は、確かに互いへと熱をわけあった。ならば今度は言える。 「愛している、大和。大和の分まで、この世界を生きる」 「それでこそ私の……私の愛している、貴方です」 ようやく告げられた言の葉に少女は笑んだ。 抱擁の中、彼はあの時駆けてきた少女について問う――「守りたかったもの、壊させない」そう叫んだ彼女の事を。 大和は静かに頷き肯定すると、すっと指をあげた。 「さあ、貴方が生きるべき世界はあちらです」 優希は真っ直ぐな眼差しで誓う。 「ならば大和の魂……瑞樹の傍で。力を奮おう」 ありがとう。 「……優希、いってらっしゃい」 いってきます。 ●フリッツ 春孕む風が『慈愛と背徳の女教師』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)の繊細な銀の糸を弄ぶ。一瞬の目隠し、あけた後に現われるは柔らかな笑み携えた青年。 「フリッツ……!」 彼は柔和に瞳を眇め、同じだけ愛に満ちた声でティアリアを呼んだ。 「逢いたかった」 踏みしめるは卒業後巡った街の石畳。 「ずっと、逢いたかった!」 頬寄せれば響く鼓動。うっとりと瞼を下ろせばあやすように髪を擽り撫でられた。甘い囁きが伝うように指は髪から頬、そして壊れものを扱うようにそっと顎を持ち上げる。 「フリッツ」 未来ずっと傍らに立ち甘さと共に紡ぐと信じた名。 「ティアリア」 潤む瞳一面に彼の貌が満ちたかと思うと、暖かなぬくもりが重なり合った。 「……」 身も心も委ねた口づけに酔いしれ微睡むように落ちかけた瞼が、あがる。 ――其処に在るハ、狂ヒ。 この後、彼は無残にも運命に消された。 この後、わたくしは無慈悲にも運命に選ばれた。 「ふふ……」 離れた唇は陶然と三日月に象られる。 逢いたかった。 その囁きに続くは、毒言。 「変わってしまったわたくしを、貴方に見てほしくて」 無垢に笑み首に指かけ爪を立てた。吃驚と共に咳き込む彼、でもまだ物足りない。 「愛しているわ」 甘く囁き、掴んだ頭を潰すように抱き寄せた。 混乱と苦痛を交えた呻き声に心の底からの愉悦が沸き上がる。 誰よりも愛する人を、この手で痛めつけたかったの。 首筋に可憐なキス、直後柘榴のように開いた口は彼を喰む。 石畳を染める赫。信じられないような者を見る瞳は、あの日の災いに向けたモノと何一つ変わらない。 彼は命の水をぶちまけて世界から消えた、置いてきぼりのわたくしは、 「もっと苦しんで……?」 もう、戻れないの。 ●メイベル 運命に選ばれた娘がここにもひとり。 大切な片割れと無残に切り離された娘、『薔薇の吸血姫』マーガレット・カミラ・ウェルズ(BNE002553)は、サイドポニーを揺らし、漆黒のレースドレスに包まれたそっくりな少女にしがみつく。 「メイベル、姉さん……」 同じ見た目なのに大人びた眼差しと口調の姉は、いつだって支えであり誇りであり全てだった。 仕事で帰らぬ両親に寂しさと諦めを感じても姉がいてくれたから孤独に蝕まれることはなかった。 「姉さん、姉さんっ」 自分より小柄になってしまった胸におでこをつければ、懐かしい香り。誘うように溢れるは涙。 「メグ。相変わらず泣き虫だね」 涼やかな呆れには目一杯の優しさが詰まっていると知っている。だから嗚咽は止まらない。 「会いたかった……どうして……」 自分だけ生き残った虚ろに苛まれていたと吐き出せば、髪を纏める漆黒リボンから頭頂にかけて優しく撫でられる。 引き裂かれた哀しみは同じ。 ……そうであればいいと願うのは欺瞞だろうか? いや。 「一人にしてごめん」 姉は絶対にそう言ってくれるだろう、と。 だってもし自分が選ばれなかった側ならば、冷静な姉がなんと言おうがそう伝えるはずだから。 「ボク、ね……」 死後、姉の影を追い全てを真似ていたと口にした、演じきれていたと思う、とも。 浮かぶは困惑、されど今は完全にマーガレットらしく生きているのだと見て取り、姉メイベルは口元を綻ばせた。 「もう独りじゃないから……」 ぐすりと鼻をすすり上げて、妹は友達の事や姉と呼べる人の存在を語る。 姉はずっと妹の髪を梳るように撫でながら、静かに頷く。 「メグはメグの人生を頑張るんだよ」 「うん、姉さん」 少しでも会えてよかった。 ●冴 彼女の中でオモイデがカタチを為す前に、彼女はボクの前から『消えた』 それが悔しくてならないと『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)は唇を噛んだ。 苛烈で己の正義に真っ直ぐで、その意志の放つ綺羅が眩く綺麗な子だった。その眩さのままに、運命を燃やし尽くし、去った。 終の刻は真白だったという彼女の髪は漆黒へと戻り、余り動かぬ表情もそのままに見つめ返してくる。 「冴」 名を呼べば、それだけで視界は熱い水で歪んだ。 差し出された手が最期の『未練』をなぞる様。 『私の唯一の友。 貴方は泣いたりしないでしょうか――』 語られなかった『未練』に反するように、雷音は今嗚咽と共に無数の雨を床に降らす。 認めたくない。 認めたく、ないのだ。 彼女の『終わり』を。その上で『未練』に縋りつきたいと強請るだけで何もできない自分。差し出された手を取らないことだけが、意地。 七草粥を食べた、温泉でふざけあった、共に戦場で肩を並べたこともあった――。 ――恋の話もした『かった』 「ボクだって、もっと冴と遊びたかった! もっと……」 顔をあげれば真摯な眼差しが目に入る。 自分が持ち得ない力強さ――あの時同じ戦場に立っていれば、今も存在していてくれたのだろうか? 全ては問い掛け。 答えなど、ない。 「どうして君はどこかにいってしまったんだ!」 それでも叫ばずにいられなかった。 「雷音さん」 澄んだ声には悔悟が滲み、其れは繊細な砂糖菓子のように、甘い。 手を取れば――悪意に塗れた世界の嘘に心委ねれば、また一緒に未来を紡いでいけるのか? 否。 「……めん。逝けない……」 ボクは罪と罰と贖いで出来た残酷な世界の住人だから。 ●国子 『――大切な親友がどうか笑顔でありますように』 いつでも薄紅桜咲き誇る、そんな人だった。 「国子……さん」 去来する想いが多すぎて『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)は、再び咲いた桜に却って言葉が紡げない、溢れるのは涙だけ。 「やっふー! 姫ちん! 久しぶり」 一方国子は、まるでお花見に来た時の浮かれ気分そのままに陽気に手を振った。 「って、ノリ軽いよ!?」 「でも私達には暗いのって似合わないじゃん?」 小首を傾げた後はじまるはマシンガントーク。 トレンドはライブ合戦、楽器やる身としては負けてらんないから猛練習中、とか。 「なにその対バン、見たい!」 誠か嘘かわからない。 でも、驚く舞姫としたり顔で頷く国子の図は日常を切り取ったまんま。 心の中、仕舞ったアルバムに二人はちゃんといる。ひらけば何時でも逢いにいける。それが、大事。 「姫ちんの心の中に生きてる私なら、それはきっと本物だよ」 「ありがとう」 ――国子さんの中にも『わたし』はいるのかな? なんて聞かなくても笑顔が答え、だから舞姫もまたそっくりに手放し破顔。 (もう、泣かないって約束したものね) 笑お。 笑お。 一緒にお喋りした時みたいに、目一杯。 「でもバンド組む仲間いないのよねー、ヤバッ、私友達居なさすぎ」 どん! そこはもう舞姫は逸らした胸を叩き請け負うわけです。 「国子さんのギターに、わたしのヴォーカルが合わされば、カミサマもヒャッハーです」 「あはは! やっぱバンド組むなら姫ちんと組むしか無いわね!」 溢れ出す音にあわせ舞姫は歌う。 「いえーい! ですとろーい!」 『大切な親友がどうか笑顔でありますように――』 そう願う。 ●心に映る永遠 「あるとくん」 「!」 舞姫に名を呼ばれ『かたすとろふ言動』小鳥遊 あると(nBNE000002)は背を引き攣らせる、頬は涙を擦ったせいで真っ赤。 「国子さんは、偽物なんかじゃなかったよ」 倖せそうな彼女に、ほんの一瞬迷った後で彼は「はい」と小さく口元を崩した。 優しくしてくれた人に非道い言葉を投げてしまった。 でもその人と話す機会は永遠に奪われ、謝れなかった。 今「ごめんなさい」が紡げた。 例えば此が生きる者の貪欲さと身勝手さだとしても、歩む力となったのは確か。 「な、何故……死なない?!」 9葉を手に肩を震わせる市ヶ谷に注がれるのは大凡感謝の眼差しだった。 だが、 「俺の泣き顔を残す訳にはいかない」 写真の1葉を狙うように禅次郎は漆黒を老人に叩きつける。仰け反る背後に忍び寄るのはティアリア。 「素敵な能力ね」 返り血にうっそり瞳を細め頬についた紅を舐め取る。 「逢えて良かっただろう、見逃し……」 「欲しかったのは、変わらないオモイデ?」 フィアキィがマーガレットの傷を塞ぐのを見守り、アルシェイラは淡々と問い掛ける。此処に来た時の疑問――自分なりの答えは見つけてる。 「『善行』には感謝している」 だが優希は攻めの手を止めはしない。 「思い出は……」 まだ声が涙に濡れていて、マーガレットは姉に恥ずかしいなと唇を一旦切り結ぶ。 「思い出にして前に進むよ」 ……見ててね、メイベル姉さん。 硬い意志と共に投げ放った糸は市ヶ谷の腕に絡み弾けた。 ごとり。 カメラごと床に落ちる腕。 「ありがとう、優しい夢に浸らせてくれて」 小さな足音で立ち塞がったのは、雷音。 「でもきみの『善行』は優しすぎるんだ」 例え欺瞞の果てにあるのだとしても。 「ボクはその善行に抗わないといけないんだ」 染みこむ言葉は市ヶ谷の命運を『死』へと縛る。それを見て取り姓はカメラを拾い、問うた。 「市ヶ谷さん、あなたにも逢いたい人がいますか?」 老人の眼差しは『肯』 ならばと無言でシャッターを、切る。 慈悲ではない、ただの命を奪う儀式。 されど。 カメラから吐き出されたのは、家族に囲まれ居間で笑うありきたりの一葉。 逢えなかったのだ、いくら自分を映しても――でも、ようやく逢えた。 「よし……え……」 ぱたり、ぽたり……。 老人のくぼんだ瞳から溢れる涙が床に黒染みを作った時、既に彼は命尽きていた。 「……」 雷音が読み取った市ヶ谷老の欠片は、最期の一葉が象徴するように自己のそして他者の想い出を残す事だけだった。 「故人との思い出が尊いだなんて、誰が決めたのかしら」 ねぇ? ティアリアはカメラを手に壊れた認識に呑まれ嗤う。 レンズが欠けた此はもう役割を果たせやしない。故に残されたのはオモイデだけ――それで充分、だ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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