●トラトラトラ! 「この方向でいいのか?」 道を突き進むのは鎧兜に身を包み、身の丈を超える長さの大きな槍を持つ男だ。見下ろす先には人が住む町並みが見える。鎧兜は傷だらけで、幾多の戦場を駆け抜けてきたことを示している。 「そうかもしれん、違うかもしれん。誰にわかろう……ヒック」 赤いひょうたんから酒を飲みながら、一人の老人が言う。明らかに酩酊状態で、足もふらふらだが、重心をずらさない歩法なのは見る人が見れば分かる。寸鉄帯びぬ酔漢に見えて、隙がまるで見られなかった。 「アラアラ、こんなことデ大丈夫なのでショウカ?」 カタコトで呆れたように真っ赤なドレスの女性が肩をすくめた。手にはムチ。彼女の足元には二体のトラが待機していた。その猛獣は命令を待つように無言で伏している。その様は隷従ではなく、主を得た騎士の如く気高かった。 「間違いない。この先に強者の匂いがする」 白い虎の皮で作られた半裸の服を身にまとった女性が、口に肉を入れながら頷く。手には斧を持ち、首には骨でできたアクセサリーをつけていた。黒い肌は女性的な魅力よりも野生的な獣を想起させる。まだ見ぬ戦いに体が疼いているようだ。 「匂いとはまた面妖な」 「ワシはまったく感じんがのぅ……ウィッ!」 「ローサンは、お酒の呑みすぎデス」 「タケナカ、ご飯うまかった」 「シア殿、拙者の握り飯をいつの間に! ……くぅ、だが武士は食わねど高楊枝!」 「困ったときには一杯呑むとええぞ」 「いつも呑ンでるじゃないですカ。……オヤ、私の袋が開いてマスケド」 「ティナ、肉うまかった」 武将と老人と猛獣使いと未開人は、そんな話をしながら歩みを進めていく。 彼等はアザーバイド。その目的は強者との戦い。 四体の『トラ』を冠する異邦人は、街に進撃する。 ●アーク 「イチハチマルマル。ブリーフィングを開始します」 録音機にスイッチを入れて、資料を開く。『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は集まったリベリスタたちの顔を見ながらこれから起こるであろう神秘の説明を始めた。 「アザーバイド四体を倒してきてください」 和泉は集まったリベリスタに資料を転送しながら、説明を続ける。 「まず一人目、槍を持った戦国武将。髭を生やした大男です。異世界ではトラを狩った猛将だったようです」 虎鬚に虎狩り。なかなかの強者の様だ。 「二人目、拳法を使う老人です。酒に酔っていますがかなりの実力を持っています」 ああ、大トラね。そんなことを思っていたリベリスタは、幻想纏いに送られてくる情報に表情がこわばった。酔っ払いの相手は面倒そうだ。 「三人目、猛獣使いです。二匹のトラを従え、遠距離攻撃を軸とした戦闘を仕掛けてきます」 こういうのは本体を狙えば……と思っていたリベリスタは、幻想纏いに送られてくる情報にため息をつく。 「四人目、トラの皮をかぶった戦士です。持っている斧で一撃必殺を狙ってきます」 バーバリアン。そんな単語がリベリスタの脳裏を過ぎる。だからといって言葉が通じないわけではなさそうだ。 「彼等は街に向かい真っ直ぐに進撃してきます。 彼等の目的は戦闘行為自体です。手を出さないものに興味はないようですが、刃を向ければ全力で襲い掛かってくるでしょう」 竜虎の勢い、ということか。リベリスタは苦笑いを浮かべる。どういう存在であれ、襲撃者が存在してそれがリベリスタでないと撃退できないのならやるしかない。 「彼等がやってきたDホールの場所も分かっています。よろしければそちらの処理もお願いします。 それでは皆さん、お気をつけて」 和泉の言葉に背中押されるように、リベリスタたちはブリーフィングルームを出た。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月25日(土)23:26 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「あっちを見ても虎。こっちを見ても虎。どうあがいても、虎」 『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)はやってくるアザーバイドを確認し、そんな言葉を吐いた。虎狩り将軍に大トラに虎使いに虎皮の狂戦士。まさに虎だらけ。黄金のダブルアクションリボルバーを握り、戦場に向かう。 「さーて人様のチャンネルまでわざわざ負けに来た猫ちゃんは何処のどいつだ?」 指の関節を鳴らしながら『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)がアザーバイドの方に歩いていく。相手はフェイトを得ていないアザーバイド。崩界の危険を持つものは殴って追い返す。 「トラだけでなくいろんなものが進撃してきてるようなのです」 『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)はいちごのアクセサリーがついた杖を持って進撃してくるもの達に思いをはせる。これは何かの前触れでは……というわけではなく、 「どうせならさおりんが進撃してきてくれればいいのにです。あ、もちろんあたし限定で」 どちらかというと乙女な思いを馳せていた。 「ちっす! 異界のお客さん、ごきげん麗しゅう。こっちの世界の強者とのエキシビジョンマッチ気取ってみない?」 街に向かって進撃するアザーバイドに『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)が手を上げて声をかける。アザーバイドたちは夏栖斗の言葉に足を止める。一緒にやってきたリベリスタを一瞥し、 「ほほう、楽しめそうだな」 タケナカと呼ばれる鎧武者が顎をさすりながら承諾する。 「強者と闘いたいだけなら自分達の世界でやってくれればいいものを……」 『トゥモローネバーダイ』レナーテ・イーゲル・廻間(BNE001523)は理解できないとばかりに肩をすくめた。レテーナは『普通の人』であった期間が長いこともあり、戦闘狂の思考が理解できない。愚痴っても仕方ない、と気持ちを切り替える。 「真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす。大好きでゴザイマスヨ、ソウイウの」 逆に『攻勢ジェネラル』アンドレイ・ポポフキン(BNE004296)は彼等の気持ちが理解できるリベリスタだ。左手で凶悪なほど大きな斧を持ち、これから始まる戦いへの効用を示すように笑みを浮かべる。 「うむ。同志ポポフキンよ、防御は任せたまえ。われらの星に栄光あれ!」 アンドレイと同郷の『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)は胸を叩いて互いの役割を再確認する。アンドレイが攻勢、自分が防衛。やるべきことは仲間の支援と敵の妨害だ。 「……じゃあ、いきましょう」 虚ろな瞳で仲間達のやり取りを聞きながら『深紅の眷狼』災原・闇紅(BNE003436)が呟く。すでに抜いてある小太刀を手に構え、相手の動きを注視する。重心を落としていつでも飛びかかれるような態勢を取った。 「相手にとって不足なし。参ろうか!」 「ほっ! 酔い覚ましになるといいのぅ」 「トレビュシェット、ヘレボリス、起きなサイ!」 「行くぞ」 四体のアザーバイドは進撃の足を止めてそれぞれの武器を構える。 闘気が周囲に満ち、緊張が肌を震わす。始まりの合図はなんだったのか。 気がつけばリベリスタもアザーバイドも戦いの渦に飲み込まれ、駆け出していた。 ● 「遠からんものは音に聞け、近くば寄って目にも見よ! この槍と共にタケナカの名を刻み込め!」 真っ先に動いたのはタケナカである。槍を構え、荒々しくリベリスタたちに突撃していく。 「マー、聞けよ寄れよと言いつつ突っ込んでいくンデスガ」 ティナが呆れたように肩をすくめるが、リベリスタたちはそんな余裕はない。なぎ払われる槍に傷つけられる。 だが、これは予測してあったこと。慌てずリベリスタは各々の布陣に展開する。回復役のそあらが後ろに下がり、それを守るようにリベリスタたちが展開する。 「強い奴と戦う。上等じゃん! お前らかかってこい!」 夏栖斗が二対のトンファーを構えてアザーバイドを挑発する。それに乗ったタケナカが槍を突き出してくる。トンファーでそれを交わし、身を屈めてタケナカの懐に入る夏栖斗。イメージは深く、そして鋭く。流れるような連続攻撃がタケナカとそしてその後ろに控えていたローに叩き込まれる。 「うわっ、じーちゃん挑発に乗ってくれないの!?」 「わしはかわいい女の子に酌してもらいたいからのぅ」 まぁ、アッパー避けたんですが。 「じゃあ……わたしが」 身を低く屈め闇紅がローに迫る。夏栖斗の長髪にのらなかったローをフリーにするわけにはいかない。相手の周りを回るように走り、一瞬の隙を突いて飛び掛った。ローの肩口を裂いたかと思えば、闇紅はまた走り出している。その動き、狼の如く。闇から迫る刃は、冷たく鋭く。 「……浅い……」 「悪くないぞ……ヒック」 手ごたえのなさに呟く闇紅。ならば何度も刻むのみ。速度と手数こそがソードミラージュの真価。 「ネコ科とイヌ科、どちらが強いのか……この私が勝って証明してくれるわ! 道頓堀に沈め!」 「ドートンボリ?」 ベルカのセリフに首をかしげるティナ。その隙を突いたわけではないのだが、ベルカの閃光弾が戦場に輝く。強烈な閃光と音響がアザーバイドの戦闘力を奪いとる。ベルかは『軍旗だったモノ』を、闇を払うように横なぎに振って声高らかにリベリスタに指示を出す。 「陣を敷け! 猛虎の進撃など涼風が如く!」 ベルカが奏でる防衛の陣。それがリベリスタに伝わり、全体的な防衛力が増す。 「ウム、行くぞ同志ベルカ君! 我等が居るからには敗北ナドありませぬ」 そしてアンドレイが攻勢の陣を奏でる。体の芯を振るわせるほど雄雄しく叫んで、味方を鼓舞する。アンドレイほどの身の丈のある存在が、その身の丈ほどの武器を持ち叫ぶ姿はそれだけで士気が上がろうものだ。 「殴って! ドツイテ! シバキタオス! アンドレイ・ポポフキン,誇りを懸けて推して参る!」 真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす。無策ではなく策を講じた結果の吶喊。 「アレ? ワタシ狙われてマス?」 集中砲火を受けるティナは鞭を振るいながらリベリスタの攻撃をしのいでいた。そのまま後ろに下がったそあらを強く睨む。猛獣を伏せる圧力が、そあらの動きを止める。 「そうはいかないわよ」 防御の加護をまとったレテーナが、神秘の光を放つ。そあらの石化とタケナカやローの与える不具合を全て癒す守りの光。淡い光が味方を照らし、静かに光が消えたときにはそあらの石化現象も止まっていた。 「酔っ払いの相手とかあんまりしたくないんだけどな」 レテーナはローのほうを見ながら眉にしわを寄せる。厄介なバッドステータスを与えてくるローやティナがいる以上、攻撃に転じる余裕はなさそうだ。 「大丈夫です。アタシもいっぱい治すです」 そあらが集中砲火を受けている夏栖斗に神秘の癒しを与える。体内に魔力を込めて、声に魔力を込める。奏でるメロディは優しく―― 「オス共、癒すからしっかりはたらくです」 言葉はともかく、そあらの癒しは深く傷を受けた戦士達の傷を癒していく。回復手の数は少ないが、その回復量はアークの中でも一級品。数の少なさを補って余りあるものだ。 「おぅら! 例外なく潰してやんぞぉ!」 火車は手のひらに炎を宿し、ローのほうに向かう。酔ってふらふらする動きだが、油断はできない。拳の間合に入ったかと思えばよろけるように間合から外れ、倒れるような動作をしたかと思えばするりと懐に入ってくる。もっとも、 「こないだ一人で百虎とか言う厄介なおっさんと殴り合ってんだ。猫六匹程度ボロキレみてぇにしてさしあげっからな?」 ローよりも強い相手と殴りあったことのある火車からすれば、捕らえられない相手ではない。日本最強との戦いに比べれば、まさに虎と子猫ほどの違いだ。炎の拳が、ローの胸に掠り始める。 「酔八仙拳……だったか? こちらの拳法と同一かは分からないが」 福松はローの動きを見ながら、その動きの読みにくさに舌打ちを一つうった。そのまま手にした銃をティナのほうに向ける。銃口の先ではティナと二匹の虎、そしてリベリスタ達の動きが交錯していた。生まれた射線はか細くかすかなもの。だが福松はためらわずに引き金を引いた。 時すら止まったと錯覚する一瞬。少しでもタイミングがずれれば味方に当たっていただろう一撃は、 「……オゥ、クール、ネ」 ティナの体を大きく揺らす。福松は恋人にそうするように銃を指先で軽く撫でた。 リベリスタの作戦通り、ティナへの集中砲火はうまく機能している。このまま攻撃を仕掛けていけばティナはすぐに倒れるだろう。 だがリベリスタに世界を守る矜持があるように。 アザーバイドにも戦闘者としての本能がある。 ● リベリスタたちは狂戦士と化したシアを放置する作戦に出た。それはわざわざ相手してられないということもあるが、運がよければアザーバイドにも矛が向いてくれることを期待していた。 だが、アザーバイドはシアを除けば三人。リベリスタは後衛を除けば五人。確率の問題で被害はわずかだがリベリスタが多く積み重なる。 「常時ナチュラルハイのお嬢さんとか君等も大変だな」 夏栖斗は常に挑発を続け、ダメージを一手に引き受けている。その効果は高く、想定どおりの流れにはなっているが、挑発を主に行っているため夏栖斗は攻撃をする余裕がない。 「なに、女に振り回されるのも人生じゃ。あの元気な動きに酒が進むわい。どうじゃ一杯」 「僕未成年だってーの!」 ローの攻撃を受け流しながら夏栖斗が叫ぶ。高い防御力と潤沢な体力でしのいでいるが、集中砲火を受ければそう長くはない。それは夏栖斗自身が理解していた。控えている仲間に救援のサインを出す。 「レナーテフォロー宜しく!」 「仕方ないわね」 レテーナが夏栖斗へのダメージを分散するために庇いに入る。ローの呼気を強い意志で跳ね除けて、胸元のブリザードフラワを軽く撫でる。扇を広げてタケナカの視界を一瞬塞ぎ、その隙に槍の一突きを交す。だが無傷ではいられない。 「カズト! レナーテ先輩に手間かけさせんなよ!」 火車が叫びながら、小刻みに足を動かし間合を計る。相手の間合をイメージし心の中で視覚化する。見えた鞭と虎の動きのわずかな隙をついてティナに炎の拳を叩きつけた。一次元上の見切りは精神を多く消耗するが、それだけの価値がある。 燃える拳がティナの赤いドレスに触れ、引火する。その熱気に耐えながらティナは二匹の虎を操る。自らの周りにいる者たちを食い殺せと鞭の号令が響く。 「ッシャァオラァ! 小生マダマダ戦えマス!」 虎に傷つけられたアンドレイが運命を燃やす。『断頭将軍』を手に大声を上げ、そのまま大上段に叩き落す。その大声と勢いにティナの動きが一瞬こわばる。パワー一辺倒に見えてアンドレイの動きは計算された一撃。剛柔一体と呼ばれる力と知識の融合。 「吶喊! 強打! 進撃! ураааа!」 「…………」 そんなアンドレイを横目で見ながら闇紅が疾駆する。虚ろな瞳は彼女が何を考えているのかを覆い隠す。そんな表情のまま闇紅はティナに飛び掛る。魔獣使いの鞭と闇紅の小太刀が交差した。闇紅は鞭の殴打を受けて着地の勢いを殺すことができず、ぐらりと崩れ―― 「……オ見事、デス」 賞賛の声を送り、ティナが倒れた。闇紅は運命を燃やしながら、口元の血を拭って立ち上がる。 「……これで一人。後は……」 「五秒後に敢行・5・4・3……」 ベルカは幻想纏いに向かって小声で囁く。ローに閃光弾をぶつけるタイミングを伝えるためだ。リベリスタたちは幻想纏いの通信をONにしているため、ベルカが仕掛けてくるタイミングを察知できる。 「極寒の地でないのにその酒は不要だろう! 酔いを覚ませ!」 タイミングを合わせて下がるリベリスタ。爆ぜる閃光がローの酔いを醒まし、その戦闘力を大きく削いだ。 「ふにゅう。ちょっと危なかったですぅ」 そあらは安堵の声をあげて、回復の歌を奏でる。ティナが倒れた為、前衛が倒れるまでそあらが攻撃を受けることはなくなった。最も油断すれば前衛は瓦解しかねないほどの虎の猛攻だ。回復を絶やす余裕はない。 「あせってないです。そあらは常にれーせいちんちゃくです」 自分を含めて仲間の傷を回復するそあら。倒れるかもしれない領域までダメージを受けていたことは秘密である。大人の女は黙って笑うのだ。 「逆らう者に痛みをってのは、お前だけの専売特許じゃないぜ」 福松は傷の痛みに耐えながら銃を構える。タケナカの鎧は堅い。だから福松は弾丸に神秘の力を乗せた。自らが受けた傷の痛みを弾丸に込める。銃弾が問いかけるのは罪のあり方。標準はタケナカの兜に向けられる。頭を貫けば、おそらくアザーバイドを殺せる。 「おい、オッサン。こっち見ろ!」 福松はタケナカに声をかけてこちらを向かせる。同時に引き金を引き、弾丸が真っ直ぐに兜を穿った。その衝撃で倒れるタケナカ。 「殺したか?」 「いや。オッサンの素直な性格が命を救ったみたいだ」 福松が狙ったのは兜の真正面にある最も堅い場所。そこに弾丸を当てて衝撃でタケナカの脳を揺らしたのだ。もしこちらを振り向いてくれなければ、弾丸は兜を貫通して頭蓋骨にダメージを与えていただろう。 「リャアアア!」 「ッ! ……悪意がないのは分かるけど、痛いものは痛いのよ」 レテーナがシアの一撃を受けて、意識を失いそうになる。運命を燃やして意識を留めるが、シアの攻撃力を考えると集中砲火を受ければ長くは持たない。 「負ける気ぃ更々ねぇんでな!」 ローと殴り合っていた火車が、口から流れる血を拭いながら拳を握った。燃え上がる炎はいつもより熱く、そして大きく。追い詰められて本領を発揮する炎はその動きを鋭くし、酔うように動きをくねらせるローの動きにさえ、的確に拳を当てていく。 「むぅ、酒が切れたようじゃ……」 炎の拳を胸に受けて、ローは地面に倒れ伏した。倒れるときもまるで普通に寝るように地面に転がったのは酔拳士の矜持だろうか。 残るはシアのみ。戦いに狂う彼女は、不利な状況であっても斧を振り上げリベリスタたちに挑む。 「同志ベルカ君、一気に攻めマショウ!」 「うむ。同志ポポフキンよ、合わせましょう!」 ベルカの鋭い視線がシアの瞳と交錯する。野獣を思わせるシアの獰猛さを、ベルカの怜悧な瞳で押さえつける。ひるんだ隙を逃すことなく、アンドレイが断頭台の刃を振り上げて叩きつけた。野獣の斧とギロチンの刃が交錯し、火花が散る。 二度、三度、四度。 五度目の火花は散らなかった。五度目の交錯はシアの血飛沫が舞う。 「小生ノ、勝チィィィィィィ!」 雄雄しく叫ぶアンドレイの足元に、虎の衣装を着た女性が倒れ伏した。 ● 「負けた以上致し方なし」 リベリスタが崩界のことを説明すれば、アザーバイドたちは納得したように自分達の世界に帰るため踵を返した。 「おらカズト、三体くらい運べるだろう。運べ!」 「重っ! なんで虎と虎とじじいなの!? おねーさんとか役得がほしいんだけど!」 火車がぐったりしているアザーバイドを夏栖斗に押し付ける。因みにおねーさんであるティナとシアはタケナカが背負っている。 「オス共は頑張ってホールまで運ぶといいですよ」 「…………」 そあらと闇紅は手伝う気がないのか、その様子をじっと見ていた。 山道を歩くこと一時間。Dホールはあっさり見つかった。 「もう来ちゃ駄目デスヨ」 「獣王の意気高らかに……ってか。いい勝負だったぜ」 アンドレイと福松に見送られ、アザーバイドはDホールを潜り元の世界に返っていく。 かくして猛虎の進撃は防がれた。街への惨劇の未来が消え、何事もなく日が暮れる。 だがしかし、 「……次は寅年にまた出てくる、なんてこたないでしょうね」 レテーナがDホールを閉じながらそんなことを呟いた。 フォーチュナではない彼女の予感が当たるかどうかは、神のみぞ知る話である。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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