●バレーやろうよ 『バレーやろうよ!』 貴方のAFに届いた一通の依頼メール。 添付画像は、バレーボールを抱きかかえて微笑む紺ブルマに体操服の、眼鏡の女性――『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)のブロマイドであった。 「お届けものでーす!」 宅配業者から受け取った小包みを開封する。 バレーボール、体育シューズ、アーク印の女子体操着一式、それにルールブックが入っていた。 『今回の依頼は、超次元バレエボールですよ』 メール本文を読んだ貴方は、絶句した。 ●調査依頼 ――数日前。 “我が子の帰りが遅い” 花冠女学院では、ある小さな噂がまことしやかにささやかれていた。 誰もいないはずの旧体育館より、夜ごとに叫ぶような人の声が聴こえてくるのだという。 「で、その調査をやりやがれと」 とある喫茶店。 日隠日和(ひがくれひより)はパフェのさくらんぼを弄びつつ、不審そうに目を細める。 花冠女学院中等部二年に在籍する日和という少女は、過去にアークに在籍するが野に下り、私利私欲に基づいて小さな悪事を働く半フィクサードとして吸血鬼騒動を起こした過去がある。その事件解決の折、今度はアークに協力する運びとなった。言うなれば、半リベリスタなわけだ。 可憐で小悪魔めいた幼げなルックスと言動は、鬱陶しげな溜息ひとつさえどこか艶めいている。 「ねー、ところでおねいさん、だあれ?」 首を傾げると黒髪ツインテだけがテーブルに対して垂直を保つ。さくらんぼの髪留め――AFが夕日にきらりと輝いた。 対面する相手――フォーチュナー『悪狐』九品寺 佐幽 (nBNE000247)は慎ましく微笑んでいる。 「わたくしは九品寺 佐幽と申します。新参ですから、ご存知ないのも仕方ないかと」 「――例の楽団事件、よっぽど人が死んだのね」 沈黙が横たわる。 アークへ対する根深い日和の不信感は一朝一夕で拭えそうもない。そう知ってか知らずか、佐幽はそこに触れずに淡々と話を進め、資料を手渡した。日和もまた嫌々というところはあるものの、真剣に話しに付き合っている。 終わり際、ふと日和がたずねる。 「あの花を手向けたの、貴女なの?」 弓を引き絞るような、強い瞳。 張り詰めた空気をものともせず、こくりと素直に佐幽は首肯した。 「アークは殉職者の墓に献花を絶やすほど無情の組織ではない、というだけの話です」 ●超次元バレエ1/2 作戦指令本部、第三会議室。 貴方たちは和泉の依頼に召集されて今この場に居合わせている。そこには佐幽も同席していた。 「リベリスタさんバレーですよ、バレー」 明瞭にハイテンションな和泉をよそに、佐幽は黙々とルールブックに目を通している。 リベリスタの一人が挙手した。 「質問」 「はいどうぞ」 「どーゆー状況?」 「それは」 と佐幽が説明しようとしたところを制して、和泉が語る。 「九品寺さんは私の後進にあたるフォーチュナーです。フォーチュナーひとりで可能な仕事量には限度があります。九品寺さんには私の仕事の幾つかを引き継いでいただくため、花冠事件についても担当を交代していたんです。 しかしまぁ得手、不得手というものがありまして」 「バレエボール、経験がないのです」 佐幽は真顔で答えるが、しゅんと尻尾はしなだれている。 「そういうわけで今回は私が代打を務めてさせていただきます」 眼鏡を爛々と輝かせて張り切っている和泉と対照的に、佐幽はひたすらルール本とにらめっこ。 ●旧体育館の魔女 真夜中。旧体育館にて。 そこでは今まさに、バレエボールの試合が行われていた。 『帝王ペンギン・ツヴァイ!』 レシーブ、トスと繋いでスパイクへ。流れるような動きと共に、超次元必殺技が発動する。 背景が突如として白銀のブリザード吹き荒む世界へ一変するや否や、三匹のファンシーで眉毛の濃い皇帝ペンギンが氷河を真っ二つに突き破って出現する。 三位一体、三匹の皇帝ペンギンがスマッシュされた白球と共に超高速回転しながら敵コートへ。 ブロックを試みた二人の選手が、皇帝ペンギンの強烈な体当たりに吹っ飛ぶ! さらにレシーブしようとした相手の腹部にドリルくちばしを決め、そのまま白球はコートを撃ち抜いた。 ボールを相手のコートにシューッ! 超! エキサイティンッ!! 「……」 茫然と沈黙する日和。調査のために気配遮断して旧体育館の中に忍び込んでいたのだ。 ゆえに息を殺して、沈黙を保たねばならない。 しかし、思わず言わざるをえなかった。 「そーゆーゲームだったっけ!?」 ●超次元バレエ2/2 「――という経緯で、日隠さんは旧体育館を占拠するEフォースに捕まってしまったわけです」 「バレエボールの競技中にはペンギンを召喚してもよい、と」 「いや、いやいや!」 メモる佐幽、ツッコむ和泉。 何にせよ、不安この上ないシチュエーションだ。 「状況を整理いたします。 敵は、Eフォース:フェーズ2『バレーの魔女』×7です。このEフォースは、地区決勝を控えた試合当日バスの交通事故で亡くなった数十年前のバレー部員だそうです。その無念を晴らすために、全力で戦える試合を求めているようです。 『バレーの魔女』は他者に憑依することができ、花冠女学院のバレー部員六名とヴァンパイアのスターサジタリー、日隠日和の計七名が実質的な人質と手足になっています。そのまま交戦した場合、憑依された一般人が死亡する等のアクシデントが想定されます。 そこで『バレーの魔女』たちに正式な試合を申し込み、満足ゆく試合を繰り広げることで納得してもらって成仏していただき、人質を救出しようというわけです。 九品寺さんは今回、監督兼マネージャーとして皆さんのサポートのため同行します。本当は私が現地に向かいたいのですが、あいにくスケジュールに余裕がなくて……」 憂鬱げな和泉の表情は、まるで遠足当日に雨が降ってきたちびっこみたいだ。 一方、九品寺 佐幽は至って(当人は)真剣な表情で佇む。 「不束ですが、よしなに」 そして貴方たちの目をまっすぐに見つめて、こう問うた。 「ところで、バレーボールって何人でやるんですか?」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:カモメのジョナサン | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月26日(日)22:36 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●えっちな依頼ではありません 『誰得だよ!』 ここは作戦指令本部という名の処刑場――。 『Average』阿倍・零児(BNE003332)の悲痛なツッコミなど、天原和泉と『薄明』東雲 未明(BNE000340)にとっては天使の歌声も同然であった。 「私得。前回の五千円で珈琲おごってもらったの、ごちそうさま」 「うう、もう諦めます。今更スカートのひとつやふたつなんて!」 和泉にこにこ。 「ブルマですよ、ブルマ」 さぁーっと蒼ざめる零児に、悪魔たちの魔手が迫る――。 あえて、もう一度言おう。 「誰得だよ!!」 なお零児の使用済みブルマは依頼終了後、楽団災害チャリティーオークションに出品されました。 ●合宿初日 1/2 三高平某体育館――。 バレー強化合宿に望むべく、選手八名+監督一名は集まっていた。 「はいはーい! 私コーチやる!」 ソラ先生こと『マグミラージュ』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)は形から入るタイプなのか。 赤ジャージにちょいダサ眼鏡、竹刀ビシッ。後ろで二つに結った髪はなんとなく熱血教師ドラマに出てくる某女先生を彷彿とさせなくもない。 「では、コーチの担当はソラ先生さんに」 九品寺 佐幽とソラ先生が並んでみると、ふたりの身長差はハッキリする。ハムスターに例えれば、ソラ先生はジャンガリアン、佐幽はゴールデンだ。 「任された! 選手の中じゃ最年長だし教師だし、ド素人の監督が1人じゃ大変だもんねー」 「ルールブックに拠りますと、キャプテンも決めておきませんと」 「はい! キャプテンやりたい人ー!」 挙手なし。 そこで佐幽が監督として主将を選出することに。 「では……」 演出:目隠し肩ポン。 右へ、左へ。焦らすように七名の背後をうろつく佐幽。ソラ先生は固唾を呑んで見守る。 結果は――。 「レイチェルさん、よろしくて?」 レイこと『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)は動じない。眼鏡を微調整すると、レンズの奥底では柘榴石のように奥ゆかしく底知れぬ赤き瞳が爛々と輝く。 「私の事はレイと呼んで下さい」 ●合宿初日 2/2 「そう、まずはバレーを覚えることですからね」 戦闘論理者たるレイはバレー経験者として適切に指導をこなす。まさに適役だ。ソラ先生も教師らしくメニューをきちんと組み、コーチ役をテキパキとこなす。 「わー、今日は先生みたいだね」 『ゲーマー人生』アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)は準備体操のペアストレッチをこなしつつ、ぽやぽや~とした発言をぽつり。のーみその柔軟体操は十分そうだ。 「いつも先生ですけどー」 「てへへ」 「基本を怠らないコーチの指導方針、わたしも安心だね」 『魔獣咆哮』滝沢 美虎(BNE003973)は年齢、背丈の近いアーリィとペア柔軟をこなす。ペア柔軟は密着しつつ肌のぬくもりを感じる動作が多く、体格差が大きいとやりづらい。しかし格闘技用品店を営むほどスポーツに精通した美虎は難なく所作をこなし、リードする。 「いっちにーさんしー!」 「ごーろくしちはち」 街多米 生佐目(BNE004013)と『上弦の月』高藤 奈々子(BNE003304)はスレンダーで背丈も近しいため、ペア柔軟に勤しむ。ちなみに残り一組は未明と零児だ。 発声を意識してか、奈々子は声だしに積極的だ。 「バレーなんて久々ね」 「昔とった杵柄でも?」 「昔ね、ヤクザ対抗ヤーさんバレーに女だてらに参加した時にちょっとね」 「え」 ママさんバレー的な気軽さと裏腹に、トンデモ発言である。 「といっても普通のバレー大会よ。掛け声がドス利いてるとか、反則のペナルティが指チョンパとか、乱闘で手榴弾をブロックして相手コートに叩き込んだとか、ふふ、まぁ普通ね」 イサメさん@ふあんでならない。 ●合宿二日目~三日目 美虎は大いに張り切り、バンテージをきつく巻く。 「勝利は積み重ねた練習の上に成り立つ物! 必殺には必殺、どんな玉でも弾き返す必殺ブロックの特訓だー!!」 「おー!」 熾烈な特訓は夜通し続いたという。そのあまりに長く険しく暑苦しい試練は、逐一報告書に書き記すと試合の尺がなくなるほどであったという。 かくして一同は、試合当日を迎えた――。 ●闇堕ち 旧体育館の門がついに開け放たれる。そこに待ち受けている影は――。 「おーほっほっほっほっほっ!」 ダーク日隠日和とバレーの魔女たちは悠然と一同を待ち受けていた。 にしても。 「アッークの諸君っ! ようこそ花冠女学院へいらっしゃってくださいましたですことよ!」 ――蝶人パピヨン夫人だ。 それは伝説のテニス漫画「マスクをねらえ!」のライバルお嬢様のコスプレ同然だった。 第一、テニス関係ない。 「う、うわぁ……」 アーリィ・絶句・ベルジュ。 じつはアーリィと日隠日和はパッと見2Pカラーを想起するほど共通項が多い。幼女、吸血鬼、色白、横ポニー。よくみれば当然ちがうにせよ、赤い配管工兄と緑の配管工弟よりはそっくりだ。しかも十二月の吸血鬼騒動で面識あり。気まずさ爆発だ。 「アーリィ、負けたらああなるのよ」 「ふえっ!?」 未明はくすくすと嘲笑うと心機一転、爽やかに魔女たちへ握手を求めた。 「よろしくお願いします」 「あーはっはっはっ……え?」 悪っぽく高笑いしてたダーク日和は不意の申し出にきょとんとする。 「試合前の挨拶は基本。お互い正々堂々全力で戦いましょう。それがお望みでしょ?」 絶対に負けない。 自信に裏打ちされた清々しい敵意に、魔女一同は闘志を滾らせ、闇日和も握手を返すのだった。 ●開幕! 超次元バレエ! 「ひとーつ、贔屓は絶対にせず。ふたーつ、不正は見逃さず。三つ、見事にジャッジする! さすらいの審判アザーバイド! レフェ・リー参上!」 そう名乗って現れた白黒レフェリー着の女については以下省略。 いよいよ開幕だ。 横一列に並んだ両チームは改めて、正々堂々一礼する。 『よろしくお願いします!』 ゲーム開始を告げるホイッスルが旧体育館に鳴り響いた。 ルール確認。 今試合では、ローテーション制を採用しない。またサーブ時は六人が交代で打つ。 タイムアウト、即ち相談時間はアリ。1セットに2回、1分ずつ。TTOは2分。 選手交代は1セットに6回、六人分まで。 『箱舟チーム』布陣一覧。 前衛:【左】生佐目、【中】未明、【右】美虎。 後衛:【左】レイ、【中】零児、【右】奈々子。 控え:ソラ、アーリィ。 第一級のサーブは花冠チームからはじまる。 「せーいっ!」 ジャンプサーブだ。 否、単なるジャンプサーブではない。なぜならば、これは超次元バレエであるからだ。 『デスサイズ!』 魔女の背後に死神の幻影が出現、直死の大鎌を振るった。右カーブを描く弾道はまさしく死神の鎌だ。気づいた時には、既に奈々子と真後ろにしゅうしゅうと白煙をあげる弾痕が刻まれていた。 「……え?」 ホイッスルが得点を告げる。 「どうやら私達は少々勘違いしていたようですね」 レイの紅の瞳が淡く灯る。超高速演算が、今この瞬間に判明した事実を理解させる。 「敵の必殺技、そのパターン数は――」 闇日和が、にやりと白牙を剥く。 「私達の必殺技は108までありましてよ!」 「な」 「なんだってー!?」 大げさに驚くソラ&アーリィ。 「わたくしのターン!」 闇日和は高々とあげたトス目掛け、闇のオーラを結集させて弓に矢を番い、狙い定める。光輝する五芒星の魔方陣を編み上げ、星の雫を撃ち放つ。 「星降る夜に願いを込めて!」 『シューティングスターライト』 矢に射抜かれたボールは流星群と化して、箱舟コートという黒き夜空の全てを星明かりで塗り潰さんとする。というか、明らかにボール以外にも光弾が降り注いでいる。 「バレエボールの試合中には流星群を落としてもいい、と」 のんきにメモる佐幽(ド素人)監督のそばで、既にコートは恐竜絶滅の瞬間を迎えていた。 ●苦しくたって 第一セット、箱舟4点VS花冠16点。大劣勢のままTTOに入った。 「なんか敵チーム理不尽に強すぎるんだけど」 ソラ、当惑。 「キャプテン、何か対策は思いつく?」 レイ、思索。 「データ解析中。もう少々、データが欲しいところです。生佐目さん」 生佐目、休息中。 「思考を読んでも、伝える間もないほどサーブが早く強靭なものでして」 零児、死にかけ。 「すみません、僕が本調子でないばっかりに……」 「フレフレ~! 元気回復10秒チャージだよ~」 アーリィはぺたぺた天使の歌(バンソーコ式)を零児の鼻にくっつけ、顔面レシーブの傷を癒す。 バレーボールではサーブ権を有する側に、先制攻撃権がある。そしてポイントを奪取された場合、再度サーブ権は持続、また先制攻撃されるのだ。そのたびに凶悪な必殺技が降り注いでくるわけで、アーリィとソラ先生の応援と檄あったればこそ健在なわけである。逆にいえば、とくに理由のない限りはアーリィとソラを交代要員として出すと補給線が断たれるわけである。 「佐幽監督、これ本当にノーマルなの?」 黙想して未来予知に意識を向けていた佐幽は、ソラの問いかけに答える。 「試合に負けて勝負に勝つ」 神妙に。 「このまま試合に負けて、けれども健闘した皆さんを称えて満足した魔女らは成仏する。人質は無事に救出、Eフォースは消滅。結果的に依頼達成の条件を満たす。――これが私の視た未来です」 淡々とした佐幽の言葉。 「……見事に釣ってくれたわけですね」 ソラはシニカルに自嘲する。あるいは、はじめから知っていたのか。 「おいっ!」 猛反発を示したのは美虎だった。衣を掴みあげられた佐幽の体が、軽々と宙吊りになる。 「こんなの茶番じゃねーかよ! わたしらを焚きつけて勝利を目指して特訓させといて、裏で負けてもいいと思ってたのかよ! 佐幽! それでも監督か!」 「任務達成が本懐にして第一です。最善ができねば次善を尽くす。この試合は手段に過ぎません」 交差する眼光。 「ケーキが無ければパンを食べればいいのです」 「人はパンのみによって生きるにあらずだ!」 断、と。 震脚に次いで大見得を切り、高藤 奈々子が制止する。 「御二人とも、この場は菊水一党徒花一輪この高藤 奈々子の顔に免じてお手打ちに」 凄みも霞むほど流麗な口上に、そこはかとなく心優しさを供えて。 「もし負けるにせよ、結束も団結もないまま無様に負けてごらんなさい。それこそ全てが台無し」 お手を拝借、と佐幽と美虎に一本締めを薦めて。 「方法は違えど、全力を賭して望みたい志は同じ。ふたりとも筋が通っている。さ、一本締めよ」 三重の一拍とホイッスルが、試合再開の刻限を告げた。 ●激闘! 第一セットは健闘虚しく、そのまま順当に12対25で花冠チームに奪取された。 それでも9点奪われる間に8点を奪い返したのだ。明確に、試合の流れに変化が生じつつあった。 第二セット開始。 箱舟チーム、奈々子のサーブ。 「元体育会系女子が一人、高藤奈々子。義によって全身全霊で挑ませてもらうわ」 トス直後に跳躍、凄まじいまでの早撃ちサーブを敵コートに叩きつけんとする。 『バウンティクイック』 不意を突く一撃が敵コートに突き刺さった。 続けて美虎のサーブ。 「逆境上等! ここから逆転だ! 苦しくたって悲しくたって、コートの中では雷・神ッ!」 トス跳躍、そしてオーバーヘッドキックを見舞う。バレエは全身どこを使ってもいいのだ! 『タイガーキャノン』 怒れる虎王が敵コートを食い破る。レシーブを試みた闇日和、きりもみダウン! が立ち上がる。 さらに未明のサーブ。 『デッドオアアライブ』 凶悪な重打が、なぜか未明の飼い猫の幻影を纏って猫パンチとして繰り出される。 反撃のレシーブ、トス、スパイク。 すかさず未明がブロックするも減衰する程度に。 「未明さん! ここは僕が!」 零児の普通レシーブ。普通に成功した。しかし躍動する度にブルマが股間に徐々に食い込む。 V字だ。 ブルマはVだ。 「なんで僕だけ!?」 零児が羞恥心と激闘を繰り広げるたびに、ツインテはピコピコ律動する。 「男性は骨盤がない分、腰周りが細いせいかもしれません」 レイが絶妙にトスをあげつつ沈着冷静に解説する。 「ずいぶん急角度ね」 スパイクを敵コートに叩きこみつつ、未明は痴話もラリーする。 「あ、急角度……奈々子、生佐目!」 三者は奈々子レシーブ、レイのトスと繋いで再び未明へ。 「私の体をみんなに貸すぞ! いいよ! 来いよ! 肩で踏みきって肩で!」 自ら踏み台になった生佐目の肩を借りて、V2ロケット方式の二段ジャンプを試みる。 翔べ、未明。 「この急角度、通常のブロックなど意味をなさないと知りなさい――日隠日和、覚悟!」 闇日和の瞳に映るのは、天井照明を逆光に背負った眩き未明の影――。 『ソードエアリアルV2』 千剣の嵐が、コートという大地が果て無き剣山となるまで千烈に刻み抉る。 見事、25対17で第二セットを制したのは箱舟チームだ。 「フレー! フレー! アーク!」 「がんばれ働け楽させろ! わー!」 「……フレー」 ソラ先生とアーリィと佐幽の即席チア部も華やかで愛らしい。無論、一時的に体操着ブルマではなくチア衣装に着替えている。 高々と生足を掲げ、歌って踊るソラとアーリィ。尻尾の先だけ真っ赤に染めて、あくまで冷涼として棒立ち同然となっている佐幽。ふざけているように見えてしっかり回復補給はバッチリだ。 第三セット前の小休憩中、各自つるぺたチアーズに手当てを受けていたのだが――。 「平常心、平常し……あっ」 くらっと意識を失う零児。そう、平坦な地平をこよなく愛するロリコ――平均的な青少年、零児にとっては薬が毒となってしまった。 輝く女子の汗むんむん、羞恥心をここぞとばかりに煽るサディスト達、三日間そんな環境でブルマ体操服という女装で過ごしてきた零児はぶっちゃけ極度の睡眠不足だった。寝れない。むしろこの環境で爆睡できる男は枯れてる。さらに被弾に次ぐ被弾。 「大丈夫だよ! 女装すごく似合ってるもん! 堂々としてればかわいいし平気だよ!」 と、チア衣の天使アーリィは励ましつつ介抱してくれていた。これがトドメだ。アーリィが屈んだ時、襟首に隙間が生じた。チア衣装がちょっと大きくて、計らずも胸元がすかすかに。その幻のありえざる谷間に、ついに零児の魂が妖精郷《アヴァロン》へ旅立った。 後に、アーリィの胸元は幻の大地『全て遠き理想郷《アヴァロン》』として語り継がれない――。 ●奇跡 第三セット、零児を欠いたことで交代要員としてソラ先生が参戦する。 が、ここからは再び逆境に苛まれる。応援役をひとり失い、後が無くなったのだ。 敵チームもこちらの攻勢に順応、熾烈な攻防がつづいた。飛び交う必殺技の数々は述べ五十七種に及ぶ。その全容はそのうち誰かDVDとして発売してください。 そして迎えた第三セット、24対24。 マッチポイントだ。今回デュースは無い。次、得点したチームが勝者となる。 そしてサーブ権は花冠チームに。 傷だらけの箱舟チームに、花冠チームの最終必殺技を止められるのか。一抹の絶望が燻る。 「――これで終わりにしてあげますわ! 闇の吹雪に」 「タイム」 佐幽のタイム申請にずっこける闇日和。しかしこの僅かな時間を稼いだおかげで回復が事足りる。 「急いで! 次が最後だ! ここで止めて特訓を成果を見せよう!」 各自応急手当や自付を施す中、テキパキとソラ先生も慌しげに奔走する。 「諦めたらここで終了だよ、でしたっけ? ――良い言葉を教わりました」 佐幽の一言に、ソラは得意げに笑う。 「エグザクトリィ!」 白銀の氷河、極寒の雪風。 背景さえも一変させる闇日和の超次元必殺技が――ついに発動した。 『帝王ペンギン・アブソリュートゼロ』 絶対零度の魔球が、五匹の皇帝ペンギンを伴い白銀のオーラを纏って激突せんとする。 革醒者たる闇日和の全力を費やすことでその威力は単独でツヴァイを凌駕する。しかし誰ひとり、希望を捨てたりはしない。 六名が、いや箱舟チームが全力全霊を結集して今、超次元絶対防御にて迎え撃つ。 『ノアの箱舟』 生佐目が、未明が、美虎が、ソラが、レイが、一丸となって五匹の皇帝ペンギンを遮断する。 そして奈々子が氷河を砕く氷砕船が如く、ドラマチックに回転レシーブを決めた。 「今よ!」 レイは皇帝ペンギンに胴を抉られたまま、血反吐を吐きつつも己が使命に全力を賭す。 「コレが私の……ピンポイントトスです!」 「なに、何が起きているの!?」 生佐目は究極の踏み台となりて咆哮、般若心境を無理やり闇日和へ念信する。 「な、なぜ! なぜ動けないの!」 「分かるまい! 他人の体を弄んでいる貴様には、この私の身体を通して出る般若心経が!」 「訳がわからないよ!」 「雷ッ神っ!」 生佐目を踏み台に、美虎は跳躍する。 『ビッグサンダートルネードタイガーダンク』 稲妻が轟く。 雷鳴が、白銀世界に雪崩を招く。雪に眠りし白虎は目覚め、魔獣は咆哮した。 “ありがとう。楽しかったよ” 試合終了を告げるホイッスルが鳴り響く。 それでも確かに、その幽かな声は貴方へと届いていたはずだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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