●ヒップラインに自信のある方のみご参加ください 「男子は全員、白フンドシにねじり鉢巻のみ。女子はそれに加えて胸をさらし巻き……って、なんだこのセクハラ依頼は?」 四条 周(しじょう あまね)は更に資料を読み進めた。眉間に深いしわが刻まれる。 「フンドシを取られたらアウト、ぽろりもアウト」 そりゃ、いろんな意味でアウトだろう。復帰して初めての依頼がこれかと思うと泣けてくる。いっそ、このまま引退してしまおうか。それにしても、と周はブリーフィングルームの中を見渡した。 がらんとしたブリーフィングルーム。沈黙するモニター。広いテーブルの上、各椅子の前に置かれた資料。自分以外に誰もいない。 ブリーフィング開始予定時刻からすでに5分が経過しようとしていた。それなのにリベリスタどころかフォーチュナすらいないのはどういうことか。一時に複数の依頼が重なってしまい、人手不足だというのは分かるが……。 このまま誰も来なかったらどうしよう。 不安を感じつつ、周は椅子に座って他のメンバーが集まってくるのを待つことにした。 ●鰹と戦っていただきます 駿河湾沖をエリューションに率いられたの鰹の群れが三高平方面に向かって突き進んでいた。黒潮にのってやってきた、いわゆる初鰹である。 鰹のエサはイワシなどだが、群れを率いるE・鰹はなぜか人を好むらしい。いや、食べはしないのだが……。ともかく人、とくに覚醒者、それも白フンドシをしめている者に対して異様に興味を示し興奮するという。 どうやってそのことが分かったのか。どうか詳しく聞かないでほしい。体をはった戦いで、哀しくも社会的に抹殺されてしまったリベリスタたちがいた、とだけ言っておく(合掌)。 以下、E・鰹の詳細。 ・E・鰹は全部で18体 ・全長1.5 m・体重27kg。大型の鰹と比べても1.5倍の大きさ。 ・たくましい手が生えている。手の先はヒレになっていて、これで衣類を切り裂く模様。 ・たくましい足が生えている。足の先もヒレになっていているが、これは水かき専用。 ・ぽってりした唇にぬめる長い舌。これで剥いた人やリベリスタをチュッチュペロペロ。 ・ある程度なめまわすと飽きて、用済みになった人をポイ捨てする。 ・なぜかバタフライ。 ・覚醒者をみつけると、海から飛び上がって自発的に船に乗り込んで来る。 アークは急遽、巨大いかだを作製してE・鰹に導かれた初鰹の群れを迎え撃つ準備を整えた。諸君らにはこの巨大いかだの上で、体をはってE・鰹から駿河の平和と近隣住民の尊厳を守ってもらいたい。 そうそう、覚醒していないごく“普通”の鰹もいかだにぽんぽん乗りあがってくるので、E・鰹討伐後に中央部の特別キッチンで“各自”調理せよ。廃棄は許さん。朝日を浴びながら初鰹のフルコースを楽しむといい。 なお、いかだ中央部に和太鼓も用意しておいた。好きに使ってくれたまえ。 では、諸君らの健闘を祈る。 ●いってらっしゃい 周は読み終えた資料をぽいと投げ出した。 ぱた、とデコからテーブルにつっぷす。 引き受けるんじゃなかった、と後悔するが時すでに遅し。 (もう誰も来るな、来なくていい。流れてしまえ、こんな依頼――) |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:そうすけ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月25日(土)23:27 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 『ピンクの変獣』シィン・アーパーウィルの提案で、リベリスタたちは海側と陸側に頂点を置くひし形で戦闘陣形を組むことにした。 そのひし形の真ん中、削りたての白木が香る板場へ鮮血を鼻から滴らながらうずくまる男がいる。四条周(しじょう あまね)である。 「立て、四条! 戦いは既に始まっているのだぞ!」 東雲にざっぱんざっぱん荒波の飛沫を浴びながら、フンドシ姿も凛々しく立つその姿は『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)だ。前方を睨みつつ胸の前で腕を組み、うしろで醜態をさらす男に激を飛ばす。 大荒れに荒れたブリーフィングルームのミーティングで、優希は海側の頂点に立つことを強く主張した。いち早くナマモノと対面し、そのおぞましい攻撃にさらされる危険なポジションであるがゆえに、集まったリベリスタの中ではもっとも戦闘経験のある自分が一番の適任者だといって譲らなかったのだ。けっして、白き布をまといし女神たちの、魅惑的かつ刺激的な肢体を意識しなくてもすむように、というわけではない。……とは本人の弁。 「……ずるいよ、焔くん」 周も優希がいま立っているポジションを強く希望したが、全員からあっさり却下されていた。スターサジタリーが前衛に立ってどうする? 「四条、お前は一人ではない。俺達は仲間だ。死ぬ時は一蓮托生」 たとえそれが社会的な死を意味していても。 「いや、もう半分“社会的”に死にかかってるで、この兄ちゃん。この鼻血の量……女性陣みてなんかえっちい想像したやろ」 そういいながら、うりうりと周の尻を蹴るのは『金狐』鳴神 朔夜(BNE004446)だ。初任務ということで、特別に顔にキツネ面をかぶることが許されている。 「こんなんで平常心が崩れるのは、修行が足らん証拠や」 仮面の下の赤面がみんなにばれていないと思っていたら大間違い。隠れていない耳が真っ赤っかである。「こ、この依頼はなんかちゃうねん、なんかおかしい!!」、とブリーティングルームで驚愕の声をあげていたのは、さてどこの誰だったか。 『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364)はそんな朔夜たちをみてハハハと笑った。こちら、妙にテンションが高い。 シビリズの初フンドシは「褌とはなんぞや?」から始まった。移動中の空き時間を使って調べてみると、フンドシは日本古来の下着と判明した。しかも、戦闘服の事を意味するらしい。これは熱い! いかだへ渡る船の中で、アークの職員から六尺――約227cm前後の長さの白布を渡されたときには正直戸惑った。戸惑いつつも、見よう見まねでつけてみたところ、きゅっと身が引き締まったような気がした。途端にテンションが上がるのを感じた。最初こそムズムズとしたものの、いまはそれほど違和感なく穿けている。 「さぁ気合いを入れて行こうかッ!!」 そんな男性陣の雄姿(1名除く)を脳裏に焼きつけて、『息抜きの合間に人生を』文珠四郎 寿々貴(BNE003936)は翼の加護を発動させた。 「あ、そうだ。締め心地に違和感がある時は、お相撲さんみたいに股を左右に開いて1回しゃがみこむといいみたいだよ~」 えへへ、とかわいらしい声で何気にすごいアドバイスを男性陣に飛ばす。 さて、いかだに仁王立ちしてどっぱーんしている褐色オナンがいる。『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)だ。純白の前布を夜明けの風にたなびかせ、さらしの巻かれた胸を腕で隠すその姿は周でなくとも鼻血もの……。 「やーん。涼しくていいのは素敵ですけど、見せたく無いトコまで丸見えじゃないですかー」 堂々としているのか、恥らっているのか……。 「この世の敵を討ち、アークの剣として戦うと決めたこの身、恥ずかしいなどという感情は不要です」 だから胸を張って戦いの時を待ちましょう、と直近の任務で重症をおった包帯姿も痛々しい『戦士』水無瀬・佳恋(BNE003740)が言った。 佳恋は東に顔を向けた。 思えばアークの初任務。相手は陸マンボウだった。あのときのマンボウは確か脚にタイツとハイヒール履いていたけれど―― 「うっうっ……ぐすん……」 後ろから聞こえてきた涙声に、佳恋は時を引き戻された。 振りかえった先で喜びの涙を流していたのはキンバレイ・ハルゼー(BNE004455)だ。 「ど、どうしました、キンバレイさん?」 「下着……つけられたの何年ぶりでしょうか……」 ――え? 「依頼で下着着せてもらえるなんてキンバレイ幸せです……もう死んでも良いかも」 衝撃の告白にたじろぐリベリスタ一同。 わけを問われたキンバレイは、ガチャに狂った父親に全パンツをブルセラショップへ売り払われてしまったのだと言った。 それを聞いたシィンは、「ガチャ……恐るべし」と呟いた。 「うむ。あれはイカンな。レアコンプリを目指そうものなら身包みはがれてしまう」 「……ちゅうか、ここで鰹しばくよりも先に、キンバレイくんのオヤジを張り倒しにいったほうがよっぽどええんとちゃうやろか?」 朔夜のもっともな意見に、シィンがうなずく。なぜかフンドシモードの相棒・フィアキィも一緒になってうんうんとうなずいた。 「うっうっ……みなさんありがとう。いいのです。あんな駄目な男でも、キンバレイにとっては大切なとーちゃんなのです」 「いや、駄目だ。いって説教してくる!」 すっくと立って陸へ向かおうとした周を優希が尖った声で制した。 「まて四条! 離脱は許さん。ここで一緒にナマモノにチュッチュペロペロされるのだ!」 え、それ、確定ですか優希さん? ● 駿河の湾に日が昇る。 うねる波の墨が重なる世界から、一瞬にして世界が赤く染まった。 いかだが浮かぶ僅か先を、ざっぷんざっぷんと海面を腕で叩いて覚醒した鰹&ノーマル初鰹が進撃してくる。 宣戦布告の合図とばかりに、優希が白く飛沫の立つ域の中心に拳を飛ばした。 巨大な水柱が天にむかってそそり立つ。 ぱらぱらと海面を叩く水柱の欠片の下で、初カツオの群れは3つに分かれたようだ。 黒い影が3つ、すい、と泳いだかと思うと、いかだへ突進してきた。 波を割って初カツオを従えたE・鰹が板の上へと飛びあがる。 「来たな、ナマモノッ!」 シビリズは双鉄扇を天高く振り上げた。 ――殲滅せよ。 神の声を明けた空にとどろかす。 優希はE鰹と一緒に海から飛び出してきた初カツオをかわして後ろへそらすと、途切れることなく流れに乗ってナマモノのでかい魚面に体重の乗った一撃を叩き込んだ。 ぐしゃりと嫌な音と感触がこぶしに伝わってきた。顔をしかめて腕を引く。生臭い匂いが潮風に混じって優希の鼻を掠めた。 「ギョギョェ-!」 悲鳴を上げながら海へ逃げ込もうとするE鰹を、ユウが燃える矢で仕留めてこんがり炙り焼く。 「あん、しまった。マイどんぶりもってくればよかった」 「え? あれはさすがに……食べろとは言わないでしょう。というか、いま喋りました、鰹?」 佳恋は機械の両足で白木を踏みしめつつ、剣を構えた。 目の前にはいつの間にか、2体のE鰹がうっすらと口を開いて立っていた。何を考えているのか分からない、どよんとにごった目玉が不気味だ。ヒレのついた足を板にすりながら、ゆっくりとにじり寄ってくる。 ピンク色の舌が青白い唇の間からぺろりと出された。 佳恋の機械化されていない無垢の肌がさっと粟だった。 「い、1ペロ1反撃でしたね。できればペロなしで切り抜けたいところです」 「なかなか難しそうだね」 顔をこわばらせながら寿々貴が言った。 飛んでくるノーマル初鰹をかわすことに気を取られているうちに、いつの間にか複数のE鰹に囲まれていた。 「とにかく、1体ずつ確実に仕留めていきましょう。私が左をやります。朔夜さんは右をお願いします。周さんは朔夜さんのサポートを」 言い終えると同時に佳恋は動いた。 金属の踵が板を蹴って固い音を立てた。肌に感じた嫌悪を破壊の力に変えて身にまとわせ、ぱっぱっと木屑を飛び散らせながらE鰹に詰め寄る。 E鰹が腕を振るう。 長剣の刃が朝日を弾いて煌き放ちながらE鰹に振り下ろされた。 たちまちのうちに鰹はペースト状になった。 「あっ!」 切り取られたさらし一片が、胸からはられと垂れ落ちる。 E鰹はたたきになるその前に鋭いヒレで佳恋のさらしを切り裂いていた。あわてて手で押さえにかかったところへ、横から水の塊りを当てられた。 傍で戦っていた朔夜を巻き込んで、いかだの端まで吹き飛ばされる。 海水がまだ癒えきらない傷口にしみた。 「ひぎゃああぁぁぁっ!?」 「い、てて。ハデに飛ばされてしもうた。大丈夫か、佳恋くん……って、ちょ?!」 吹き飛ばされた拍子にフンドシのみつが緩んでいた。根元をつかんで上へ引き上げているところへ、生臭い匂いとともに影か被さってきた。 佳恋とともに3枚の舌に舐め回される。チュッチュペロペロ。 「んんっ……いや、やめ……!」 「うぴょ~ぉ! や、め! フンド……あ゛ーっ!!」 だらしなく唇を緩ませて立ち上がったE鰹。口の端から白い布が垂れ下がっている。 佳恋の胸を覆っていたサラシはもはや1巻きしか残っておらず、辛うじて乳首を隠す程度。しかもぬれぬれのすっけすけである。 朔夜にいたっては描写不可な状態。フェイトでは失ったものを回復できない。 「ぐ。もうこうなったらやけくそや!! どこからでもかかってこいや!!」 さよなら俺のアークデビュー戦。 朔夜は羞恥心を振り払うと、体を起こした。レイピアでE鰹の顎を下から突き上げる。 どうっと音をたててE鰹が倒れた。 なおも未練たらしく佳恋に襲い掛かろうとしていたE鰹に、周の放った矢が突き刺さった。 「えっちな鰹はこうしてくれるですよ!」 シィンのフィアキィがいかだに打ちつけて砕け飛ぶ波飛沫に冷気を当てると、無数の氷がE鰹の体を覆って凍らせた。 ビニールの袋に入れて防水加工したハイ・グリモアールを鰹のエラを狙って叩き込む。 「成敗!」 機を捉えてすかさず追撃にかかったシィンだったが、背後から別のE鰹が忍び寄ってきていることに気がついていない。 「シィン! 気をつけろ!」 優希の警告は辛うじて間に合った。 E鰹の足払いは完全には決まらなかった。シィンは飛んでフィンのついた足をかわしたが、かかとの先を僅かにかすられて着地が乱れた。 倒れないようにとくるくる錐揉みしつつ、複数のE鰹に拳を叩きこんでいた優希のほうへ―― 優希とシィンが同時にわっと声をあげた。 その直後、E鰹の水鉄砲に吹き飛ばされてきた寿々貴が優希の背で声をあげる。 前から後ろからダブル巨胸アタック! ごーとぅへぶん。 なんという役得、いや悲劇。 築いてきたクールなタフガイというイメージ、『紅蓮の意思』の名声を壊さぬために優希の思考回路は即座に停止した。あわせて生理的機能もシャットダウン。 仰向けに、頭から倒れこむ優希の視界に最後に移りこんだのは、朝焼けの空に翻る大漁旗であった。 「ふふーん。私の炎で、いい感じに炙れましたかね?」 ユウはE鰹1体を焼き終えたところで、倒れかかる優希に気がついた。 赤毛が板につく直前にスライディングで身を滑り込ませて抱きとめる。 「優希さん、しっかりして!」 その頭をぎゅっと胸に抱え込む。 優希、倒れてもおいしい男よ。 潮風を胸いっぱいに吸い込んでユウの傍らに膝をついた寿々貴は、優希に癒しの息吹をふきかけた。 「元気出して」 優希は復活と同時に飛び起きた。そのままもの凄い勢いで、めちゃくちゃに腕を振り回しながらE鰹へ突進していく。突進してぶつかって、鰹がペロするにも関わらず抱きついたまま海へダイブした。 「うわっ、ちょ……やめ! そこは弱いのですって、あひゃひゃひゃ!」 唖然としているユウと寿々貴のすく前で、シィンが追って来たE鰹にチュッチュペロペロされて奇声を発した。 寿々貴はすばやく立ち上がると、シィンをがっちり抱きかかえて耳たぶをペロペロするE鰹の脳天に金槌を振り下ろした。 「ギョペッ!」 E鰹が頭部を丸くへこませたままユウに倒れこむ。 ユウは立ち上がろうとして手を後ろへ回した。手は固い板床ではなく、ぴっちびっちと跳ね回る初鰹の上に落ちた。初鰹ごとずるりとすべって床に寝転がる。 「ああん!」 海水に濡れた褐色の腹の上で、襲いかかったE鰹の舌がヌメッとうごめく。 「このど変態鰹が!」 怒声とともにシビリズが、ユウに覆いかぶさるE鰹の巨大な魚面を蹴り上げた。落ちてきたところへ、スピードの乗った渾身の一撃を叩き込む。 E鰹はぱっと赤い身を飛び散らせて砕けた。 シビリズは肩で息をしていた。首から上が赤く染まっている。朝日に肌が照っているのは、波飛沫を浴びているだけのことではなさそうだ。 膝に手をついて頭を垂れた。ふう、と息をひと吐きする。 「ええい、こんな生臭い空間で倒れてたまるか」 シビリズが歯を食いしばって体を起こしたそのとき、背後でキンバレイが悲鳴を上げた。 「ひゃぁっ……ふわ……そんなとこ舐めちゃだめですぅっ……」 キンバレイは都合4体のE鰹に蹂躙されていた。 4枚の舌に弄ばれてスイカ胸が揺れまくる。さらしなんてあってないようなもの。 キンバレイは腰からくだけ落ちて床にへたり込んだ。 「いやっ、それはダメぇぇぇっ! せっかく穿けたのに……いや、ん、取れ……ちゃぅう」 一枚の舌がキンバレイの腰布の下にもぐりこんでいた。遠目から見ても布が緩み始めているのが分かる。 危ない! 女の子のポロリは絶対阻止だ! 「あかん。俺、いま両手ふさがってるし!」と朔夜。 周は鼻血を噴出すだけ噴出させたらしく、青白い顔にうつろな目を見開いて初鰹とともに床で転がっている。 優希は海から戻ってきていない。 「シィン、ユウ、寿々貴!」 シビリズの呼びかけをうけて、3人の女神が立ち上がった。 「はいよ! 任せて!」 「行くよ、フィアキィ!」 「いそのー やきゅうしようぜー(笑)」 一番手は意味不明のセリフとともに金槌を振り回す寿々貴。海水と血と飛び散った魚肉で滑る床板をものともせず、颯爽と敵に駆け寄った。必死に褌を押さえるキンバレイの左腕を嘗め回していたE鰹に狙いをつけ、金槌で乱れ打つ。 「キョペッ!? わし、いそのちゃう!」 「のわっ! 喋った。はっきり喋ったよ、こいつ!?」 寿々貴から逃げ出したE鰹の背を、ユウの放った炎が包み込んだ。 「お黙り、かつお! いそのでなければなんですか!」 「わし、花園やー」 「oh! すでに婿にいったあとでしたか!」 さすが、自分は日本人だといってはばからない記憶喪失なフュリエである。国民的アニメの設定は完全攻略済みであった。 消し炭になったE鰹の横で、シィンのフィアキィが別のE鰹を凍らせていた。その凍りついた鰹を、よがりながらも魔方陣を展開していたキンバレイが光りの矢を打ち出して砕いた。 「どきたまえ、中島くん!」 自分もそこそこ日本文化に詳しいことをアピールしつつ、寿々貴と立ち位置を入れ替えるようにしてシビリズがのこり2体の前に飛び出してきた。 気合一閃。闘気を練りこんだ双鉄扇を大上段から生臭い体へ落とす。板に膝を落としたE鰹の横面を、今度は開いた双鉄扇で薙いだ。 最後に残った一体がキンバレイの体から顔を上げた。すたこらさっさ、と尾びれを振りながら逃げ出す。 「逃げた! やばいで、海に飛び込まれたら――」 E鰹が海に飛び込む直前、水柱が高く高く立ちあがった。 昇る朝日を背にして、優希が一糸まとわぬ姿できらめき放つ海水とともに空から落ちてくる。 「逃がすかぁ!!!」 怒りに満ちた超激辛の拳がE鰹を原型を留めぬほどに打ちのめした。 ● 鰹料理が所狭しと並ぶテーブルの上で大漁旗がはためいている。3枚の旗が降ろされていた。 「……美味しいですね」 ムッツリ顔で黙々と鰹料理に箸を運ぶ佳恋。体に巻いているのは大漁旗だ。 「美味しいね、最高♪」、と寿々貴がかつおのすり流しをずずっと飲む。 「うーん、あったまる。これにあいますね♪」 ユウは椀を置くと、砕き梅を混ぜた長いもがとろりとかかった鰹つげ丼に手を伸ばした。ユウの前にはすでに2杯、空になった丼が積み重なっている。 大漁旗を腰に巻いて、優希は自ら卸して切った刺身を箸にとった。卸生姜を添えて、醤油につけて食べる。 「くぅ、酒が欲しくなるな。冷えた日本酒があれば最高だったのだが」 キンバレイと大漁旗を体に巻いた朔夜は、ふたりで仲良くみょうがとかつおの冷製パスタをつついていた。 ……と2人が同時に口にしていたのは1本バスタ。見詰め合ったまま固まるふたり。 「しかし、なぜ和太鼓があるのだ?」 鰹のたたきをポン酢で食べていたシビリスが呟いた。 「自分、知ってます。これ、大漁の合図です。狂ったようにぶっ叩きながら陸へ帰るのです」、と物知り顔のシィン。 「うーん、後半ちょっと違うけど。もしかしたらこれを叩いて合図しないとお迎えが来ないのかもしれないね」 お茶碗片手に、周はかつおの竜田揚げをほおばった。 「じゃあ、叩くか?」 箸をおいて、シビリスは立ち上がった。 「あ、自分も」 食べ切れなかった分は冷凍して持ち帰る。そう宣言してシィンも立ち上がった。 ドンドンドコドコ、ドンドコ、ドン! 任務終了、大漁なり! |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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