●春の星座 おとめ座のスピカ、しし座のデネボラ、うしかい座のアークトゥルスで春の大三角。 其処に、りょうけん座のコル・カロリをくわえれば、春のダイヤモンドとなる。 おとめ座は我が子を案じて悲しむ実りの女神デメテルの姿。 しし座はヘラクレスと戦った獅子が女神ヘラによって星座にされたもの。 うしかい座はりょうけん座の猟犬達を連れ、おおくま座を追いかけている者の姿。 夜空に浮かぶ星に宿る物語は様々。 遥か昔の人々は其処に何を託し、思い描いたのだろうか。今一度、星の物語に思いを馳せてみよう。 ●天球儀の星 「はい、コレ。プラネタリウムのタダ券」 或る日、アークの一角にて『サウンドスケープ』斑鳩・タスク(nBNE000232)は仲間達にチケットを手渡した。 何でもそれは福利厚生の一部として配布されたものらしく、郊外にあるプラネタリウム施設の上映を無料で利用できるというものだ。 「その施設は割と広い場所でね、プラネタリウムの他にも星座や星に関係するグッズショップだとか、お昼を食べられるレストランなんかもあるらしいよ」 プラネタリウムの上映は一日五回。 上映内容は春に夜空に浮かぶ星々について、物語を交えて説明するというスタンダードなものらしい。 話を楽しみに行くのも良いし、合間にグッズショップで買い物をしたり、見終えた後に食事をとるのも良い。 店には星座の本や、星を模ったアクセサリの販売。レストランでは星座にちなんだメニューが用意されており、ドリンクや軽食なども気軽に楽しめるのでちょっとした休憩にも良い。 また、外には緑の芝生で整えられた広場もあり、星座の神話に登場する人物やものなどのオブジェが所々に飾られている。 郊外と云うことで場所も広く、心地好い陽射しが降りそそぐ広場で駆け回るのも楽しいだろう。 「星座ってロマンチックよね。神話には恋物語も多いのよ」 『ブライアローズ』ロザリンド・キャロル (nBNE000261)もチケットを受け取り、乙女らしい想像を巡らせる。ひょこりと顔を出した『ジュニアサジタリー』犬塚 耕太郎(nBNE000012)は静かな場所を思い浮かべ、ほんの少し心配気な表情を浮かべた。 「俺、こういうのって寝ちまうんだよなー。でも、広場で思いっきり遊べるなら良いなっ!」 しかし、耕太郎はすぐに別の場所に興味を示して笑顔になる。 タスクは二人のそれぞれの反応の違いを面白く感じながら、自分もプラネタリウムを見に行く、と告げた。そして、少年はリベリスタ達を誘うように手を伸ばす。 「そういうわけで、さ。君達も一緒に行こうよ」 今日というひととき、箱庭の空に巡るのは星々の物語。 どのように過ごし、何を思うのか。それは赴く者の心と楽しみ方次第――。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:犬塚ひなこ | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月22日(水)23:30 |
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■メイン参加者 26人■ | |||||
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●星の夢 ――間もなく上映が始まります。 館内に流れる放送と共に辺りの灯りが少しずつ落ちてゆく。しんと静まり返ったドームの中、目映い陽射しの差す外の光と相反する闇が訪れた。 映し出された星空は作りもの。けれど、廻る星図はとても綺麗に思える。 星座を見つめ、スピカは想いを巡らせた。 隣に座り、頭をひと撫でしてくれた青年は、静かに頭上を見上げている。十歳の年齢差、圧倒的な力の差、追い越せない身長。それでもやっぱりかっこよくて、鷲祐は今もスピカの憧れの人だ。 死線を駆けていた鷲祐にとっては、穏やかな時はかけがえのないもの。 星の光が過去のものであることは知っている。ならば、今に繋がった過去は、一体どんな光り方をするのだろう。多くを導くならば、多くへ目を向けなければならない。 そのとき、不意にスピカが服の袖を引いた。天蓋に映し出されているのは乙女座、スピカの星の図。 「おにーさんに、この星を見せたかったの」 スピカと同じ名前の一等星。かつて多くの天文学者の導となった、青く煌めく星。 多くの人を導いたあの星のように――わたしも、あんな風になれる? 幽かに零れた言葉を聞き、鷲祐は双眸を緩める。 「わたこ。お前が願うのなら、それは叶う」 戦うだけではないリベリスタの力、お前になら導けるのかもしれない。彼から強く告げられた言葉にスピカは淡く微笑んだ。 願いはいつかきっと。少女は星を見上げ、遥かな夢を視る。 作り物ではあるが、星はいつみても綺麗だ。 語られる神話を聞きながら、シェリーは昔の人々は何故に夜空に神々やそれにまつわる者達を見たのかと思う。その神話は当時の人々の願いや希望、願望の現れなのかもしれない。 言葉にならぬ思いを胸中でだけ描き、かざした指で星々をなぞった。 そうしてシェリーは自分だけの星座をそっとしるす。 想い人の姿を。そして、二人だけのストーリーを僅かに思い浮かべて――ゆったりと、ただ静かな時を過ごす。そんなひとときは、何よりも穏やかだった。 「ぷらねたりゅーむっ!!」 わくわくとした気持ちを胸に、ミミミルノは頭上に巡る星図をみあげた。わからないところも、穏やかに流れるアナウンスがひとつずつ丁寧に教えてくれる。 「ろまんちっくなのです……」 ほんわりとする想いに笑みを零し、ミミミルノは星を楽しんだ。 姉が居た気もしたが、きっとレストランの方だろうか。姉を思った少女はくすりと笑みを零した。 ヘンリエッタにとって、半円の映像に囲まれる経験は初めて。 物珍しくてきょろきょろしてしまったが、上映が始まれば星の映像に見入って、聞き入っていく。 いつだったか。満点の星空の下、星の知識を得ようと本に目を落としてばかりのヘンリエッタに『学ぶ事は後からきっと付いて来る。まずは見たいものを見ればいい』と言ったひとが居た。 此処へ足を運んだのも、彼と過ごした時間が切欠。 ただ知識を求めて来るより動機も気持ちも全く違う――。好きだから、知ろうと思った。 漠然とではなく、識りたい。 「……シリウスは、まだ見られないんだね」 早く冬が来ないかと想いを馳せ、ヘンリエッタは天蓋を仰いだ。 「絶対に俺、寝るだろうなー」 「心配するな、同志犬塚! 私はこの程度の暗闇で熟睡したりはせんよ。眠ったら起こしてやろう」 上映前、そんな遣り取りを交わしていたベルカ達。 だが、開始から十分後。 我々にはりょうけん座が相応しい。アークの猟犬とは褒め言葉。そう語りあっていたベルカと耕太郎だったが――十五分後には寝息が聞こえ始めていた。 「……むにゃ」 「こら同志よ、寝るな。私も寝てない、寝てな……」 既に寝ている耕太郎の傍、ベルカも意識を失う。 そして上映終了後。 「はっ!? いやー、凄いスペクタクルだったな。まさか、おおくま座のべアークローが――」 「お、おう! あんなにすげーなんて思ってなかったぜ!」 適当な会話で濁す二人は別の意味でプラネタリムを楽しんだのかもしれない。 季節と共に巡る星座の天図を見上げ、琥珀はひとりの時間を過ごす。 皆と居る時は楽しいけれど、たまには自分だけというのも気が楽で良い。星は空を見上げればいつもそこに在るが、ペテルギウスは今年にでも爆発して無くなりそうなのだったか。 冬の星を思い返し、琥珀は物悲しさを感じた。 星空や星座は、見る人に癒しや夢を与えてくれている。 (――俺は生きている間に、何かを残すことはできるんだろうか) なんて、そんな事を思っているうちはまだまだダメなのだと、琥珀は苦笑する。それでも、何かを成す事ができるといい。ひとつでも生きた証を作れるといいと、心から思った。 ●繋がる星 星の巡りを観た後、少女達はお茶の話で盛り上がる。 以前に菓子作りを手伝った間柄もあって、慧架とロザリンドは互いに会話を楽しんでいた。 「この前のローズヒップティー、美味しかったわ。慧架は紅茶に詳しいの?」 「ええ、皆さんに紅茶を提供できる程度には」 お菓子と紅茶。ただそれだけの話題でも女の子同士ならば何だって素敵なものになる。あまりボキャブラリーがないと慧架自身は思っていたが、そうでもないらしい。それも趣味と得意を同じとする二人ならば、話題が尽きることはない。 あの店の茶葉が良いだとか、製菓の上手いコツなど。 先程見た星の煌めきにも負けない程、二人の話はきらきらと眩く巡っていった。 プラネタリウムを見た後、ルナ達は食事を楽しんでいた。 彼女が頼んだのはスピカの真珠。それからお勧めのメニュー。此処のところ、お出かけする度にお酒飲んでる気がすると思い返したルナだったが、目の前の耕太郎が嬉しそうなので良い事にする。 「いつもありがとな、ルナ!」 お姉ちゃんだから、といつも奢って貰う事に全力の感謝を告げ、少年は尻尾を振った。 「あ、耕太郎ちゃんが頼んだお料理美味しそう! ねねっ、良かったら少し交換しない?」 ルナも笑みを湛え、彼の前に並べられた食事を示して聞いた。 返ってくる答えはもちろん許諾。それから、二人は身振り手振りを交えて先程見た星の光景について語る。食事が終わったら、二人でショップにお土産を見に行く予定も立っていた。 きっと、この先にはまだまだ楽しい事が待っている。 ぱくぱくもぐもぐ。 いつも通り、食べ物につられてレストランに訪れたミーノの食欲は今日も全力全開。 「おとめすーぷ! すてーきせっと! ミーノのじつりょくならよゆーなのっ」 景気良く料理を口に運ぶ少女。 その姿をガラス越しに見つけたリュミエールは、やっと見つけたとばかりに肩を落とした。 「何処に行くのかガチで教えないデヤンノ。前準備不可能ミーノめ」 扉を潜り、彼女はミーノが座るテーブルへと向かう。プラネタリウムなんだし星を見るのではないかと突っ込みもしたくなったが、これもまた致し方ない。 「マァ、ミーノが満足スルヨウニスリャアイイケドヨ」 リュミエールは軽く手を振り、未だ此方に気付かぬミーノを呼ぶ。 この後は何をするのだろうか。きっと何でも出来るだろうと思い、リュミエールは歩みを寄せた。 少女を食事に誘った竜一は、レストランで食事と会話を楽しんでいた。 「ふふふっ。この乙女のスープは乙女の味がするね」 「ちょっと、意味が分からないわ!」 「この獅子の爪のサラダも獅子たちの猛々しさを感じる味だね」 「残念ね、何の変哲もないサラダよ!」 「この牛飼い座のステーキセットも、うしかいの精魂がこめられた牛さんの味だ」 「それは分からないでもないけど……」 何かにつけて、はいあーん、と続ける竜一に少女は困惑気味。突っ込みに息を切らせ、何この人、と呟いたロザリンドは疲弊していた。 「さあ! そんなドン引きした感じになってないで仲良くしよう! さあさあ!」 「……っ、わかってるのならからかうのをやめなさいよ!」 響く少女の声。楽しげに笑う竜一。二人のアンバランスな時間はもう暫し、続く。 ●思い出の星 見た星に幼き記憶を重ね、リコルは懐かしさを抱く。 ふと久々に弟に手紙でも書こうかと思い立ち、彼女はショップの前で立ち止まった。 「そうでございます、手紙にお土産もそえましょう」 星に関わる書籍の中、リコルは少し毛色が違う本を見つける。それは銀河を走る鉄道の物語。浪漫があると感じた彼女は美麗な挿絵を眺め、心のままにページを捲った。 そして、リコルは購入を決める。 「すみません、この本を二冊お願い致します!」 同じ物を買ったのは次に会った時に感想を語り合えるから。その日が来るのを楽しみに思い、リコルは銀河の物語に思いを馳せた。 緑の庭を駆け回るエフェメラと耕太郎は今日も元気いっぱい。 無邪気な追いかけっこに興じる中、エフェメラはふとオブジェに興味を示した。これは何、と問われた少年は星座について彼女に教えてやる。 「誕生日に星座があるんだねっ! ボクとコータロー君は何座?」 「俺はかに座。エフェメラは、しし座だな!」 「へぇー! そうなんだっ、物知りだねっ♪」 耕太郎は得意気に胸を張る。十二星座について聞くエフェメラに少年は詳しい話をしていくが、実はオブジェの下に書かれた説明を読んでいただけだったりもした。 ボトムの空には、素敵な物語がいっぱいあるから素敵。 そんな風に明るく言うエフェメラは耕太郎と共に嬉しげな笑みを交わし、楽しい時間を満喫した。 旭は水瓶座、魅零は山羊座。亘とタスクと牡牛座でお揃い。 ショップに並ぶ星座の本を示し、亘はそれぞれの友人達の星座をひとつずつ指差した。 「俺と亘は誕生日が近かったんだね」 「ええ、同じ星座だと何だか嬉しいですね」 男性陣が色々と会話を交わす中、旭も商品を眺めて目を細める。 「ふわ、いろいろあるねぇ。星の音楽にマグカップだって。……みれーどしたの? かくれんぼ?」 その背後には魅零が隠れており、ちらちらとタスク達の方を見ていた。どうしたの、と少年から視線を向けられた彼女は慌て、先程四人で見た星の話を口にする。 「すごかったね、満天の星! た、タスクも居たからかな、いっそう星が煌めいていたよ。あ、いや、これは流石に変態すぎる発言だから、今のなし!」 恥ずかしさのあまりに壁に頭をぶつけてしまった魅零に旭が手を伸ばし、実に物凄い照れ隠しだと小さく笑む。かわいい、と感じた旭は彼女の頭を撫でてやる。 「あうあう、だいじょぶ?」 「平気だよ。うん、大丈夫」 二人のやりとりに亘が微笑ましさを覚え、タスクは首を傾げる。 そんな中、旭は十二星座が揃ったストラップを発見して、皆でお揃いにしようと提案した。 「おぉ、皆で星座のストラップ、いいですね。ではこれは男性陣からのプレゼントということで」 亘とタスクが会計を受け持ち、それぞれの品物を購入する。そうして亘は旭へと、タスクは亘の勧めで魅零にストラップを渡すことになった。 「わぁ、ありがとー」 「前の御礼も含めてです、どうぞ旭さん」 受け取る旭に笑みを向け、亘は友人達に視線を遣る。しかし、魅零は照れているのか、なかなかタスクからストラップを貰うことができていなかった。 「うけ、受け取れ、受け取れ私の手―! は、はう、駄目だ。近すぎるよタスクー!」 「逃げないで。ちゃんと受け取ってよ、魅零」 離れようとする彼女の手を取り、ストラップを握らせる少年は笑いを堪えていた。手と手が重なった事に魅零の頬が熱くなる。そんな二人を眺め、旭は不思議な楽しさと微笑ましさを感じた。 ――またみんなで遊ぼう。 少しばかり騒がしくもあったが、それぞれの思いはきっとひとつ。 ●星の世界 夜の天幕に輝く星は数々の物語を抱いている。 「夏栖斗、獅子座だ。ボク達の星座だ」 雷音は天蓋を指差して隣の兄を呼ぶ。だが、返事の代わりに返って来たのは穏やかな寝息。確か彼は今も戦いから帰ってきたばかりだったか。雷音は溜息を吐き、彼の手を握った。 「お前はワーカーホリックすぎるのだ」 触れた手は暖かくて大きくて、優しい。終わるまで休息をさせてやろう、と雷音は視線を星座へと移す。夏栖斗はあとで聞いた星座の話をしてやればいい。 お話をするのは好きな方だから、と少女がプラネタリウムに見入り、上映も終わるかという頃。 はっ、と勢いよく夏栖斗が身体を起こす。 「えっと春の大三角だよな! えっと、デネブアルタイルべガっていってたよな!」 「それは夏の話だ。適当なことをいうな」 雷音は怒ったふりをして、ふいとそっぽを向いた。 「バレたか。わかったわかった、獅子座のなんか買ってやっからそんなに膨れるなよ雷音」 途端に慌てる夏栖斗だが、それも無理はない。普段から我儘をいわない雷音が怒っているのはそんなにないことだ。雷音としてはからかっている心算なのだが、夏栖斗にとっては死活問題だ。 「……」 「口きいてくれって」 黙って携帯を弄る妹。おろおろする兄。そのとき、不意にメールの着信音が響いた。 『おこっていませんから安心してください』 雷音から届いた文面は悪戯だったと示す内容に、夏栖斗は胸をほっと撫で下ろしたのだった。 本物の星空には及ばないけれど、星に囲まれる感覚。 星のことをたくさん知れば、ほんとうの夜空を見上げる楽しみも増える。星を見つけるのが苦手だと自覚している淑子は、今日は覚えられるかしら、とのんびりとした期待を抱いた。 「見ろよ淑子。あの流星、すっげー綺麗だぜ……」 上映中、隣に座る耕太郎が不意に名前を呼ぶ。 淑子が視線を横に移してみれば、彼は寝息を立てていた。今のはどうやら寝言だったのか、夢の中でも自分と星を見ているのだろうか。ほほえましい気持ちになった淑子はくすりと笑みを湛える。 「犬塚さんったら」 満点の星空の下で眠るなんて、実に彼らしい。 そういうプラネタリウムの楽しみ方もあるのだと笑みを抑え、淑子は星と過ごす時間を楽しんだ。 二人並んで座って星空鑑賞。 天蓋に展開される図を見上げ、涼は隣のアリステアをちらと見遣る。こうして説明が入れば何座かとよく理解できるが、実際の星空ではわからなくなってしまうだろう。それでも、隣にアリステアがいて、星を見られるのはロマンチックだと思う。 上映中に大声は出せない故、涼は彼女の耳元でそっと囁く。 「綺麗だね」 「……え? あ、うん」 突然、聞こえた低い声にアリステアの心臓が跳ねあがった。「一緒に見れて嬉しいよ」と告げられた言葉には「わたしも嬉しいよ」と囁き返す。 伸ばされた手は自然と重なり、二人は繋いだ手をきゅっと握った。 (お顔が近いのって結構恥ずかしいんだけど……涼は大人だから、平気なのかなぁ) 星空を見上げながら、アリステアは頬を染める。 暗いから、頬が赤くなっているのを見られずに良かったのかもしれない。そんな彼女の想いに気が付いているのか、いないのか。涼もまた暫し映し出される星々の廻りを楽しんだ。 スピカにデネボラ、アークトゥルス。あの星図のように、きっと――二人の心も線で繋がれる。 今夜の星空の解説から、流れる穏やかな音楽。 都会では見られない星空の映し図を見上げ、快はいつしか心地好いまどろみに誘われる。 美しい夜の闇と、静かな空気。眠りに落ちる様はまるで、星のゆりかごの中にいるかのようだ。 そして、上映が終わった頃。 欠伸をしながら立ち上がった快をロザリンドが見つけ、手を振る。 「あら、快じゃない。とても綺麗だったわね」 「すごかったねロザリンドさん。大きな星がついたり消えたりして! 彗星がぱぁーっと流れて」 思わず寝ていた事を誤魔化す快。だが、少女は首を傾げた。 「ええと、彗星は無かったわよ、ね?」 「あ、あれー? ……はい、すみません、寝てました。気持ちよかったです」 結局、青年は素直に白状する。その様子に少女はくすくすと笑い、快もつられて笑みを零した。 星が往く様を眺めるのは、まるで星間旅行。 普段は明るくて見えない星も、ここだとたくさん見えて何だか違う世界にいるみたい。あひるは幻想的な思いを抱きながら、ソファ席の隣に座るフツの手を握り締めた。 「星空で離されないよう、手を繋いで星空へ出発!」 なんてね、と微笑むあひるの手を握り返したフツもまた、天上の星を眺める。 「きれいなもんだな、本当に」 本物の星じゃないからこその演出も良い。流れる音楽に乗って星々の間を抜ければ、星座の物語を近くで感じられるかのようだった。 上映中は自然と二人静かになり、フツは不意にちらりと隣を見る。 普段はあひると向かい合っているが、今日このとき、二人の間に言葉は要らない。「まるで星空の中であひると二人で飛んでるみたいだ」、なんて思っていることも、あひるは当然知らない。 それと同じように、あひるが「星空に二人取り残されたみたいで、寂しいけど嬉しいなぁ」なんて思っているのもフツはきっと、思ってもみないだろう。 けれど、互いに考えていることは少しロマンチックすぎて、知られたらきっと恥ずかしい。 (フツは今、何を考えてるのかな……) (あひるは何を思って星を見ているんだろうな) 二人は似たような想いを抱きながら、星々が織りなす世界に浸った。 上映が終わったら、またいつもみたいにお話したい。それぞれが思っていたことは内緒にしていたいけれど――今日もまた、星の数にも負けないくらいに、たくさんの言の葉を貴方と交わそう。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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