●旋風 吹き荒れる風はすべてを浚い、空へと巻き上げていく。 次元を渡り歩き、世界を幾つも越える旅を続けて来た彼にとって、己以外の物は破壊すべきモノでしかなかった。 鋭い眼光は常に“敵”を探し、目標を見つければ殲滅に動く。 彼の行動原理はたったそれだけであり、それ以外には何も有りはしない。知能が低い訳ではなく、あらゆる言語も自由に操れた。だが、彼は戦い以外のものに価値を見出せぬ存在なのだ。 「……この世界ではどのような敵と戦えるだろうか」 呟かれた言の葉すら鋭く、厳しい。 そして、日本に降り立った彼は自分に見合う強敵を探して彷徨い歩く。 彼が通るだけで辺りには激しい風が吹き荒れ、周囲の物を容赦なく破壊しつくしていった。 ●風の刃 「アザーバイド、通称“旋風”。厄介なのがこの世界に来た」 アークの一室にて、『サウンドスケープ』斑鳩・タスク(nBNE000232)はリベリスタ達に告げた。 その名の通り、彼は風の力を宿した異世界の存在である。一応は人のような姿をしているが、旋風の思考回路は此方の世界の道理や規律などとはかけ離れたものだ。 「戦いの素養を持つ者を察知し、挑みかかる。勝利すればまた別の者を探して彷徨い歩く。目的と行動はただそれだけ。だけど……」 例えばもし、格闘技やスポーツを嗜む一般人が狙われてしまえば――。 その後は分かるよね、とそれ以上の説明を避けたタスクは、早々に彼のアザーバイドを倒してきて欲しいと願った。 また、旋風は常に身体に激しい風を纏っており、通り掛かるだけで周囲のものを壊してしまう。リベリスタならば風を受けただけでは怪我などしないが、一般の人々が巻き込まれてしまうと大惨事になるだろう。 「奴は今日の昼過ぎにある公園を通り掛かる事が分かっている。その時間帯の人通りはアークで手配して止めておくから、君達にはその公園で旋風を仕留めて欲しいんだ」 しかし、敵は歴戦の猛者。 対する人数が多いと風をヒトガタに変え、配下として戦わせるので注意が必要だ。たとえ全員で掛かったとしても互角。否、それ以上かもしれない。 戦いと破壊の化身たる異世界の存在。彼は何を思い、戦いに何を賭しているのだろうか。 それを知る為に戦うのも、知らずに倒すのも赴く者の自由。 「旋風というよりも嵐だね。だからこそ……気を引き締めて、向かって」 そう告げたフォーチュナは戦いに赴くリベリスタを見つめ、その背をしかと見送った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:犬塚ひなこ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月20日(月)22:42 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 風が吹いていた。 激しく舞い上がる砂埃が視界を霞ませ、風は周囲の木々を揺らしてゆく。 「ふふ、闘争の風もまた心地いい。風は自由であるべきですからね」 人気の無い公園の中、『幸せの青い鳥』天風・亘(BNE001105)は前方に現れた人影に視線を向けた。争いの風を起こす者の正体、それは異世界から来たりし屈強な戦士。 彼の存在が近くなるにつれ、風は強くなっていた。 「さて、今回のはちょっと厄介みたいね」 『尽きせぬ祈り』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)も彼を見据え、身構えた。 心地よい風もあれば、迷惑でしかない風もある。彼の存在がどちらにあたるのかは明白。この世界にとって害悪としかならぬ男。その前に立ち塞がるようにして歩みを進め、『パニッシュメント』神城・涼(BNE001343)は鋭い眼差しを向けた。 「この先には進ませないぜ。俺達の相手をしてもらおうか」 「ふむ、歩き回る手間が省けたか。我も貴様らのような者を探していたのだ」 異世界の男は涼達から漂う戦いの気配を感じ、立ち止まる。戦いを求めて彷徨う彼にとって、この状況は好都合。腰の鞘から風の刃を抜き放った男は亘達の姿をゆっくりと見渡した。 そして、『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)は纏わりつく砂埃を払いながら、彼に問い掛ける。 「戦う前に一つお聞きしたい。いや、難しい質問では有りませんが……貴方の名前を教えて欲しいんですよな。ほら……お互い、死んでしまったら聞けないでしょう?」 仮面の奥の瞳を細め、九十九は己の名を名乗った。 彼の言葉通り、この戦いはどちらかが敗北するまで終わらない。異世界の男は無表情のまま頷くと、風の刃を構えつつ口を開いた。 「――旋風。この世界の言葉で表すならばそうなる」 直接、男の口から名が告げられ、『家族想いの破壊者』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)は小さく呟く。 「旋風でござるか……」 闘争を求める。それは昔の自分と同じだと感じ、虎鐵はかつての己と彼を重ね合わせた。強い奴と戦いたいという気持ち。それを否定する気などない。だが、この相手を放っておけば人々が危うく、ひいては世界の崩壊が引き起こされる。 戦いという事柄について思うのは『人生博徒』坂東・仁太(BNE002354)も同じ。 仁太は戦いを重ねるごとに徐々に闘争に惹かれていった性質だ。旋風は既に戦闘態勢を整えており、一触即発の空気が漂っている。 「先がわからん、どっちに転ぶかわからん戦いが一番好みや。お前さんは戦いのどこが好きかな?」 問いかけの形を取りながらも、仁太は未だ答えを求めていない。結果よりも内容。答えは戦いの中で知れるだろうと思い、彼は巨銃を構えた。 「……御託は要らぬ。始めるぞ」 旋風が動いた刹那、旋風の周囲に風が巻き起こり、五体の配下達がその場に現れる。 『禍を斬る緋き剣』衣通姫・霧音(BNE004298)は視界に映るそれらを見渡し、最後に旋風本人へと左右非対称の双眸を向けた。 「貴方が嵐を纏うなら、より強い嵐でそれを呑み込みましょう」 風の妖刀、櫻嵐と共に。 凛とした声で告げた霧音に続き、『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)も言い放つ。 「――貴方を討つ。故に、私達が供させていただきます」 差し向けられた魔力を帯びた刃が光を反射し、幽かな蒼の彩を映した。風が揺れた瞬間、凄まじい速さで斬り込んだリセリアが氷刃の霧を生み出す。 この戦いを辻風の最後とする為に――。旋風よりも激しく、嵐の舞が駆け抜けた。 ● 氷霧が辺りの景色を染め上げた瞬間、亘は宙に飛翔する。 翼を広げた亘は風に乗り、舞い踊るようにして一瞬でアザーバイドの目前へと翔けた。 「御機嫌よう、異世界の風使い。自分は天風亘と申します」 名乗ると同時に短刀を振るった彼は光の飛沫めいた刺突を見舞う。名を告げたのは、亘自身が相対する敵を意識しているがゆえ。旋風も一撃を受け、僅かに片目を眇めた。 「……なかなかやるようだな」 「ええ、貴方こそ」 今だ余裕を持っているかのような相手の言葉を聞き、絶対に負けたくないと自覚した亘はそのまま旋風の抑えに回る。その合間に魔陣を展開したシュスタイナが己の力を高めるのだが、暗視ゴーグルを用いれど、視界の悪い戦場で距離を取るとなると仲間の状況さえ見えなかった。 気を付けなければいけないと実感した彼女は過度に距離を取る事を止め、それぞれが目視できる距離を取る。そうして、体勢を整えた虎鐵がヒトガタへと駆け、漆黒の刃を振り上げた。 「どけでござる。おぬしには用はないでござるよ」 揮われた強力な一閃は風の配下を両断し、多大な衝撃を与える。虎鐵はその際にちらと旋風を見遣った。戦いに身を賭す彼の姿は見れば見るほど自分に似ている。しかし、それだけしか見出せないのもまた悲しいことかもしれない。 戦いの最中に大切な家族を思い出した虎鐵は、相手から放たれるカマイタチを身体で受け止めた。 しかし、そこで涼が揺らめいた風影が弱っている事に気付く。 「大惨事にはさせない。ここで終わりにしてやるぜ」 投げ掛けた言葉は旋風にも告げる心算のもの。一気に攻勢に出ようと動いた涼は他のヒトガタを霧音やリセリアが抑えていることを確認すると、目前の敵に向けて魔力のダイスを振った。 次の瞬間、爆花となって弾けた衝撃が風を散らす。 更なる爆発を起こした涼の一手に寄り、敵は跡形もなく消し飛び、無へと帰った。 その様子を横目で見遣り、九十九と仁太は射撃を行う。 禍々しい銃から解き放たれた銃弾の雨は宛ら、蜂の襲撃の如く。止む事を知らぬ風に交じって周囲の木の葉や砂を舞い散らせ、ヒトガタを打ち貫いていった。 「うわ、ものすごい砂埃になってしもうた。しかし今更じゃけぇ、我慢しといてや皆!」 元々の予想通り、戦場の視界は更に悪くなるばかり。 だが、攻撃を抑えたとて何も変わらない。軽く謝りながらも仁太は連撃を打ち込み、一体のヒトガタを弱らせた。そんな中でも敵は鋭い風刃を打ち放ってくる。 九十九は旋風からの一撃が亘達に及ぶ様を見つめながら、その強力さを実感した。 「まったく、上位異世界には好戦的な種族が多いのですな。まあ、そうでない方々も居ることは知ってはいますけど。こう通り魔みたいな方が、結構な頻度で来ますとなー」 ぼやいても致し方ないとは知っていても、九十九はつい呟いてしまう。しかし、彼とて銃弾を操る手は決して止めない。 既に一体が倒れた今、現状は八対五。 数では此方が勝っているが、気を抜いてはいけないとリセリアは胸中で己を律した。 「吹き荒ぶ風であろうと何であろうと関係なく、切り刻むのみ」 時ごと周囲を斬り、リセリアは冷気を散らす。斬撃をまともに喰らったヒトガタの動きが止まり――刹那、風が凍りついた。不可思議な現象ではあるが、リセリアの起こした事はそうとしか表せない。 流石ね、と仲間を称賛した霧音は其処に好機を見出す。 氷霧が空気を凍らせる中、続いて霧音によって生み出されたのは激しい烈風だ。冷気と熱気。相反するものが交ざり合い、配下へと襲い掛かった。 「容赦も遠慮もしないわ。……散りなさい」 そして、妖刀が振り翳され、二体のヒトガタをひといきに屠る。 斬り放った刃を振り、霧音はすぐさま次なる敵へと向き直った。シュスタイナは仲間の連携を見遣りつつ、残った配下の数を数える。 残りは、二体。それらを倒せば何の邪魔も入らずに旋風に集中攻撃ができる。 「それにしても、戦うのが目的だなんて、なんで面倒な考え方しかできないのかしらねぇ……」 溜息を吐いたシュスタイナは四重の魔力を奏であげ、敵へと解き放つ。その際に思うのは旋風のこと。黙って立っていたら渋みがあっていい感じかもしれないのに、と個人的な思いを零したシュスタイナは次々と魔術を組み上げていった。 ● 激しい砂埃の中、リベリスタ達は襲い来る斬風に幾度も耐える。 癒しに回る人員がいない分、各自は気力で堪えなければいけなかった。ヒトガタを相手取る虎鐵や涼は何とか立ち続けられていたが、実質ひとりきりで旋風を相手取る亘の負担は相当なものだった。 振り翳されるのは風の刃。 亘は銀の手甲で斬撃を受け流そうとするが、鋭い刃に容赦はない。倒れそうになる己の身を自らで支え、彼は運命を引き寄せた。 「決して負けたりなど、しませんから……」 だから覚悟を――。瞳の奥に潜む闘志は強く、強く、旋風を真っ直ぐに映し出した。 その合間に霧音がヒトガタの間合いに踏み込み、強烈な打ち込みで敵を圧倒する。揺らぎ掛けた対象の隙を狙い、虎鐵は地を蹴った。 「おっと、おぬしの相手は亘だけではないでござる」 残りの配下は仲間が相手取ってくれる。そう信じた虎鐵は亘の横に回り込み、旋風の相手へ移った。言葉と共に全力で振り下ろされた一撃が旋風の風刃と衝突し、鍔迫り合いが起こる。 「ほう、お前も我と同じか」 そのとき、旋風が呟いた。おそらくは虎鐵の一手に似たものを感じ取ったのだろう。 だが、そんな最中でも配下達の攻撃は止まない。カマイタチの攻撃がシュスタイナに向かいそうになることを察し、九十九は彼女を庇うように動いた。 同時に魔力銃を配下に向け返した九十九は銃弾を一気に打ち放つ。 「年若い少女を傷付けさせる訳にはいきませんからな。しっかりお守りしますぞ」 幾重もの弾の嵐が一体のヒトガタを打ち倒す中、仮面の奥から視線が向けられた。九十九をはじめとして、立ち向かう皆が限界に近い。庇われたシュスタイナは状況を察し、それまで攻撃に偏らせていた戦法を改めることにした。 「……回復、なんてガラじゃないけれど。誰かが目の前で倒れるのは嫌よね」 不本意そうな言葉が零れるが、彼女はすぐに癒しの力を紡ぐ。 広がるそよ風はまるで、吹き荒れる風に対抗するかのように優しい心地をリセリア達に宿していった。仁太も湧き上がる力を感じ、ありがとな、と明るく礼を告げる。 「さぁて、そろそろ終わらせていくで」 仁太は銃を大きく振りあげ、最後のヒトガタに狙いを定めた。既に涼の一撃によって弱っている敵はあと一歩で消し去ることができるだろう。そして――風に逆らうこと無く、流れに乗せるような形で打ち放った銃弾は風の体を穿った。 ヒトガタが消え去り、ほんの少しの風が止む。 開いた進路に見えるのは、己の身を風で癒す旋風の姿。霧音はやっと彼と対峙できると双眸を細め、近接できる距離まで駆けた。 「さあ、打ち合いましょう。どちらの風、どちらの刃が勝るのか。私の名は霧音。行くわよ――!」 詰めた間合い、振るわれる刃。 彼の得物は風で形作られた刀。自分の刀は風を生む妖刀。刃同士が交差する瞬間は宛ら、嵐と嵐が衝突し合ったかのようだった。敵の付与を打ち消した一閃は同時に衝撃を与え、風に舞った花弁を辺りに散らしてゆく。 涼も風の如く駆け、男に斬りかかる。 「ぐ……なかなかの一手だ」 「お前さんが何を考えているのかは知らんけどもな。嫌いじゃあないんだろ? こういうの」 苦しげながらも此方を称賛した旋風に不敵な笑みを向け、涼は死の刻印を刻み込む。其処には、彼に最期のバトルを楽しませてやるという意味も籠められていた。 涼自身も正々堂々とした真正面からのバトルは嫌いではない。多数対一の状況になってはいるが、敵の強さは数人を相手にしても互角のもの。決して油断してはいけないのだと思いを引き締め、体勢を立て直した亘も攻撃へと打って出た。 「貴方は風が好きですか?」 「……考えた事も無いな」 問いかけた言葉に旋風は首を振る。そのような力を持ち、何を欲して世界を渡り戦ってるのか知りたかった。だが、明確な答えは本人の中にも無かったらしい。 もし、奥底に秘められた想いがあるとして、それに添えるならお互いの命と矜持を賭けてみたい。それが亘の思いであり、今の気持ちだった。 リセリアも仲間に続き、僅かに体勢を揺らがせた旋風へと剣を向ける。 「実力の程は剣を交えれば解るものです。そして理解しました。貴方は――強い」 戦いを求め次元を流離う戦士が訪れたこの世界には、既に吹き往く先も無い。旅の終着点たる此処に到るまで、どれ程の世界を経て戦い続けて来たのかを考えれば、感じた強さにも納得がいく。 リセリアが振るった一閃が蒼銀の軌跡を描き、残影を描き出した。 こうして戦える事が嬉しくも思える。だからこそ、後は自分達の死力を尽くし――討ち破るのみ。 ● 手酷く攻撃を受けた旋風は癒しの風を纏った。 だが、勝機が見え始めた今、そう簡単に体勢を立て直させたりなどしない。九十九は銃を構え、集中的に狙いを定める。 「強敵相手に回復までされては堪りません。その効果、破壊させて頂きますな?」 これぞまさにトリガ―ハッピーとでも言うべきか。銃弾が鋭く相手を貫いたことを確かめた九十九は喉を鳴らして小さく笑った。既に旋風は押され、肩で息をしているように見える。 シュスタイナは魔力の弾を紡ぎ出しながら、ふと問いかけてみた。 「ねぇ……。アナタはどうして戦うの? 相手より強いって、自分の強さを確認したいからなの?」 そうまでして戦うのは何故なのかがシュスタイナには理解出来なかった。 しかし、彼女の問いに旋風は答えようとしない。されど虎鐵にはしっかりと解っている。彼は最早、戦い以外のものに生きる価値を見出せていないのだろう。そのうえ、もし生きる為に戦うのではなく、死すために戦って来たのだとしたら――。 それは想像でしかないが、虎鐵は奥歯を噛み締めた。 「おぬしはもう……いや、何も言うまい。おぬしの欲望、満たしてやるでござる!」 その命を以ってして、と居合いの型を取った虎鐵は効力を雷気に変換し、激しく放電した。振るわれる一撃は重く、旋風の身を焦がしながら迸る。 仁太は今こそ引導を渡すときだと感じ、銃口を真っ直ぐに男へ向けた。 「戦いは終わりにしようや。わしらがトドメをさしちゃる!」 次の瞬間、夜を思わせる悍ましい悪夢の如き黒い影が解き放たれる。旋風の風を押し殺す程に激しい影は異世界の戦士の体を包み込む。だが、抵抗した相手は目の前にいる亘へと刃を振り上げた。 「最期となろうとも、我は……」 掠れた声と共に目前に刃が迫る。されど、亘はまったく怯まなかった。 「此方の世界に神風という言葉があります。その機を掴むのは――今です!」 相手の自分を殺そうとする一撃に合わせ、刃を受け掴み取った亘はそれを最高のチャンスに変える。そして――反撃として振るった光の一閃は旋風を穿ち、その力をすべて奪い取った。 崩れ落ち、その場に膝を突いた男が刀を取り落とす。 「この勝負は自分達の勝ちのようですね」 亘が告げれば、辺りを包んでいた風がぴたりと止む。そうして、倒れ込んだ旋風は最後の力を振り絞って小さな、それでいて確かな呟きを落とす。 「……嗚呼。――悪く、なかったな」 その言葉は何を意味するのか。問いかける暇すらなく、彼は静かに事切れた。 戦を求める異界の風。 風の剣士――つむじかぜ。倒れた男を見下ろし、霧音はその名をゆっくりと言葉にしてみる。 「私の風は……私達の戦いは、貴方を満足させられたかしら」 聞いてみたかった事を問えないまま、彼は死を迎えた。きっと全力だったのだろう。この戦いに全てを賭したのだろう。悪くなかった、という言葉がこの戦いの事だったならば良いと思い、涼も戦士たる男の最期を思い返した。 やがて、静けさが戻った公園に一陣の風が吹く。 自然の風とは少し違う感覚に仁太が違和感を覚え、首を傾げる。すると――。 「おや、大変じゃ。旋風の身体が消え……いや、帰ったっちゅうことか」 仁太は一度は驚いたが、すぐに彼が風の姿に還ったのだと考え直した。それが良かったのかは分からない。九十九は風が吹き抜けて行った方を見上げ、不意に呟く。 「戦って戦って、その果てに有るのは滅びでしかないんですよな。明日は我が身ですかのう」 仲間の言葉を聞きながら、リセリアは瞳を閉じた。 「歓迎せざる出会いだったけれど……歴戦の強者に敬意を」 戦いの中、感じた強さには素直な心を。そう思い、冥福を祈ったリセリアは剣の柄を握った。 やがて、任務を終えた仲間達は踵を返してその場から去っていく。そんな中、霧音は一度だけ振り返り、風の行く先を振り仰いだ。 「貴方の風はこの世界を巡る。決して消えはしない。私は貴方を忘れないから」 独り言ちた言の葉は誰にも聞かれず、宙へと放たれる。 降り注ぐ陽光に穏やかな空気。後に残ったのは何の変哲もない日常。けれど、其処には――訪れたときの激しい風とは違った、とてもやさしい微風が吹いていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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