● 「――ふむ、女難の相ってやつだな。 近くに心当たりのある相手がいるんじゃないか? 嫉妬か執着かは知らんが、年内にはそれが爆発するようにも見える――対処策? 別料金になっていいなら詳しく見るが――いらんか。そうか。まああれだ、周りに優しくするといいんじゃないか?」 水晶球を睨み、『まやかし占い』揚羽 菫(nBNE000243)がそれっぽいことを述べている。 実際に「見えている」のかどうかは、それこそフォーチュナであればわかるのだろうが、『深謀浅慮』梅子・エインズワース(nBNE000013)にはわからない。むしろさっきから女性には「水難」、男性には「女難」としか言っていないあたり、おそらく確実に適当である。そんなのを繰り返していたら普通はバレもするだろうが――客はまばらでしかなく、じっと観察でもしていない限り、それしか言ってないことまではわからないだろう。 もっとも、それでも客の大半は「うさんくさい」という感想を懐いて帰るようで、肩をすくめる姿も少なからず見かける。さっきの客が裏路地から出て行ったのを気怠く見送って、菫は梅子を振り返った。 「――で。どうした、コムスメ」 「誰がコムスメか。プラムちゃんと呼ぶといいのだわ」 挨拶代わりのやりとりひとつ。 「ただの気まぐれよ。あんたが占いしてるとか言うから、一応見てみようかと思っただけなのだわ」 「ふむ。――とはいえ、そうじっと見られているとやりにくいんだが――まあいい。今日は終わりだ」 そう唸ると、菫は荷物を手早く片付け、ボストンバッグに詰め込んでしまう。 「……で。結局あんた、今日一日ここにいたわけだけど。もしかして、もしかして、あんた友達いないの?」 「!!」 立ち去ろうとした背に投げかけられた梅子の言葉に、菫は盛大につまづいた。 図星のようだった。 ● 「ってことで!」 ああ、嫌な予感がする。 リベリスタはげんなりした表情を、仕切っている梅子に向けた。 「アウトドア系ヒキコモリ属ノットサバイバル科地蔵亜種の菫を! 連れ回して友達増やしてみようじゃないのよ大作戦なのだわ!!」 ――言うと思った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ももんが | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月29日(水)23:15 |
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■メイン参加者 22人■ | |||||
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● 刺すような紫外線は5月の初めだというのに早めの夏を予感させて、しかし風だけは涼しい。 春物の上着を羽織った須賀 義衛郎は、書類の住所と目の前のそれを見比べた。 目の前の壁に無理やり貼りつけられている、揚羽、とかろうじて読める字が書かれた表札代理と思しきそれはかまぼこ板、だろうか。呼び鈴を押した所で、真新しいはずのそれは通電していないようだった。 ――ヒキコモリすぎだろ。 「こんにちは、揚羽さん。お久しぶりです」 気を取り直してドアをノックし、待つことしばし。 「何だ、緊急か?」 がちゃり、と、警戒するようにゆっくりと開けたドアの隙間から顔をのぞかせた菫は凄まじい寝癖と半分閉じたままの瞼、若干呂律の怪しい口ぶりで。 「占い師に会いに来たー!」 その白石 明奈の宣言に、寝ぼけ女はびくりと肩を震わせて「うお!?」とか叫んでコケたようだった。 「誕生会とか口にするとアレだから黙っとくとして……ていうかどうすりゃいいの? 誕生会までエスコートすりゃいいの?」 慌てて起き上がろうとする菫に聞こえぬよう、明奈が義衛郎に確認する横で、ルナ・グランツがもがく菫に手を貸していた。おねーちゃんパワー。 「うんうん、一人ぼっちは寂しいもんねっ! ……って事で、菫ちゃん何処か遊びに行こうか? でも菫ちゃん、困ったことがあるんだよ。 私、お出かけとか何処に遊びに行けばいいかよく分かんないよっ!? ね、ねぇ……菫ちゃん。何処か遊びに行きたいところってあるかな?」 「出かけるのは構わんが、なんっ、え、ぼっち? どこって、いや、え?」 「まあいいじゃないかちょいとドーナツでも食べやしませんかっと!」 「明奈、勢いだけで言ってない?」 状況把握に時間の掛かっている菫に、たたみかけるように明奈が目的地を告げる。その後ろに付いて来ていた梅子が明奈の脇をつつき――てへぺろ風味の明奈、実はかなりのノープランである。 「そういや、まともな占いしないのってフォーチュナだからかねえ。 ほら、フォーチュナって未来が分かるけど意図的に見るものでもないようだし。 ……何だかんだ言って、その予知をひっくり返してるワタシ達がいるし? 未来なんて不確定! ぼっちかどうかも未確認! さーさとりあえずアークの歓待を受けるがいいさ!」 菫の手を引くルナと、テンション高く背を押す明奈。 「な、なんなんだ一体?」 「アークじゃ時々あることなのだわ」 慣れなさい、と。梅子はニヤニヤ笑いで突き放した。 その背後で、セリオ・ヴァイスハイトが何やら一つ頷いている。 渾身のドヤ顔で胸を張る梅子の、そのなだらかさもいつもどおりだ。 なお、セリオの姉のほうがちょっと大きいという噂。 「菫さん、こんにちわ! 俺も今日はひとりぼっちで寂しいんだよね」 引きずり出された菫を連行(?)するリベリスタたちが商業地区に足を踏み入れた頃、浅葱 琥珀がその一団に加わった。 「刹那の刻だな? 前にブリーフィングで見かけた。だが皆してぼっちぼっちと……」 見覚えのある顔に気付いた菫が唸り、しかし否定はできないのか声が段々もごもごとしたものになる。 「――孤立ってさ、牽制し合うんだよね。 手を伸ばす方も受ける方も、『自分が動いていいのかな?』と躊躇する。 望みが明確にあるのなら、ちょっと勇気を出して動けば解決することが殆どなのかもしれないけど」 「求めよ、さらば与えられん……だな。その一歩が何より難しい物でもある。恋愛運でも占いたいのか?」 少しだけ真面目な顔をしたかと思えば、次の瞬間にはもう茶化そうとする菫である。どや顔を上げた所で、目の前に突き出された手にきょとんとした目を向けた。その細い手はシェリー・D・モーガンのものだ。 「シェリーだ。よろしくの」 「ああ、菫だ。こちらこそ」 握手かと納得して、菫はシェリーの手をとった。 「部屋は殺風景なものだったな。もっとオカルトチックかと思ったが」 「……見たのか?」 「男っ気も、全くない。もう良い年だろうに」 やれやれと首を振るシェリーに、菫はなにか抗議したそうな様子を見せ、 「おぬしの占いはどれぐらい具体的なのだ? ――例えば、おぬし自身を占うことはできるのか?」 ただ口にしただけのシェリーのその疑問に、しかしその表情をいくらかこわばらせた。 「自分を? ……わざわざは見ない」 今度は菫が首を振る番。 「おや……? 菫様、こんにちは。今日はお仕事はお休みなのでございますね!」 その一団の様子を見かけ、声をかけたリコル・ツァーネ。彼女は夕飯の買い物中らしい。 「休み、だったはずなんだ……」 がくりと肩を落とした菫を見送り、リコルは成程と思い至る。 「そう言えば今日は菫様のお誕生日なのでしたね! 良い一日を!」 ダンディドーナツに放り込まれた菫に、その声は届いていないことは承知のうえで。 それでも、この日が良い一日であれと、リコルは微笑む。 ● 「久々王様見かけたら何故かバイトに……まぁいっか。そいや、王様は何すん……王様……?」 手伝えと。その一言でダンディドーナツのエプロンを身につける羽目になった宮部乃宮 火車が身支度を整えスタッフルームから出てきた時。 「こここそ凡百の民が集う場所。市井を見るには一番よ」 「火車もなかなか似合っているのだ」 同時に振り向いた降魔 刃紅郎と朱鷺島・雷音は、まるいのがいくつか連なって大きなわっかを作った何かがたてがみのように身につけていて。 少しの間があって、火車はひとつ咳払いをした。 「接客なんざ向いてねぇっつぅか、雷音が客前出た方が良いのは明白! オレぁ裏でドーナツでも揚げてるわ……」 「ふん、さっさと厨房へ入れ。民の胃袋は待っておらぬぞ?」 「あ、あの、降魔くん? 厨房はさすがに経験者に――」 「なにか問題があるのか?」 「…………アリマセン」 店長と名札にある男がすごすごと引き下がった、ちょうどその時。開いたドアから菫が放り込まれた。 「いったいなんなんだ? そろそろ教えて欲しいんだが……」 状況把握を完全に放棄した菫を見つけ、雷音は店員らしく声をかけた。 「いらっしゃいませなのだ。ボクなのだ。 今日は趣向をこらして火車揚げをしているので、いつもとは違う味かもしれないが、注文はなんだ?」 「か、かしゃあげ?」 何かの焼き方だろうかと首をひねる菫に、雷音はすこしはにかんだ表情で笑いかける。 「ダイエットは明日からという素晴らしい教訓もあるのだ。つまり、菫、誕生日おめでとうだ」 「……なるほど」 祝いの言葉をもらうとは思っていなかった菫が、驚きから、苦笑いのような物へと表情を変えていく。ついでに脇腹をつまんでチョイヤバイ? などとかなり古いネタを繰り出しているが、雷音には通じない。 「5秒で決めろ……でなければ全種類10個づつだ! ……む?」 「オールドオサレとゴールd――」 売上に多大な貢献()を果たそうとする王様だったが、時間制限を設けようとしたところでカウンター前にいる顔に見覚えがあることに気がついた。早口に梅子(ずっと居た)がドーナツを並べ立てようとしていたのを止めさせ、少し考える。 「ほう……貴様はついぞ任務で出会ったな。梅子の友ならば我の友も同様……」 「えっ。菫とあたし、友達だったの?」 梅子の疑問はスルーして、刃紅郎は鷹揚に頷く。 「特別に50秒くれてやる。代金も気にするな……火車が余分に労働を行えば良いだけの事」 「あ、あの、降魔くん? だから厨房は――」 「なにか問題があるのか?」 「…………アリマセン」 店長が小さくなっていく。 「そういえばドーナツ屋さんって余り来たことないですね、いつもテイクアウトですし。 5秒でときかれましても……並ぶ前に品定めしておけってことでしょうか」 鈴宮・慧架が品定めを始め――その思考は目の前のドーナツではなく自分の店のことにシフトしていく。 「うちのお店にも気軽に遊びに来ていただきたいですね……桃子さんはいらっしゃったことありますけど、梅子さんとかはきていただいた事あまりないですねぇ。 制服きてもらって写真とったら桃子さん喜びそうだなあ……なんとなく」 よろこぶ、で、すめばよいのですが。 ところで厨房は。 「やり方は全部マニュアルとか書いてあんだろ? あー何々? フライヤーの電源を点け……点いてるだろそんなモン馬鹿馬鹿しい。 商品ごとの時間で揚げます? 全部同じドーナツだろ? とりあえず放り込んで――」 ――見なかったことにしよう。 ● 「せーの、 С Днем Рождения ♪ お誕生日おめでとうございます」 「フッ、誕生日か。祝ってやらん事もない」 2つの国の言葉を並べたベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァと、ツンデレをいきなり発動してみた焔 優希が祝いの言葉を告げる。菫の連行を担当したリベリスタたちも、口々にそれに続いた。 「そういえば揚羽さんと誕生日、近いんですよね。揚羽さんは5月9日、オレは5月7日」 義衛郎がそう呟くが、彼女に祝ってもらえる人なんて放置されてしまえとげっ歯類の呪いが! 「初めまして、菫さん。贈り物を用意できなかったから、間に合わせだけど……お誕生日おめでとう」 ヘンリエッタ・マリアがドーナツをひとつ、菫の前のトレイに載せる。 「ドーナツ自体、久しぶりだ……ありがとう」 嬉しそうに目を細めて、菫はそれをつまんで、輪の間から周囲を見回す。 「お誕生日おめっとー!」 中には、クラッカーを鳴らしたせいで店長に涙目で睨まれる御厨・夏栖斗もいたりする。飛び散るラメとカラーテープ。掃除道具はスタッフルームだ! 「やだ……今日のダンディ騒がしい……誕生日とか喚いてるけどケーキも無いとか……」 ふらりと立ち寄った富永・喜平が、店内をざっと見回し――そして、くわっと眼帯のない方の目を見開く。 「 ゆ る せ ん!! 義理でもクソでも誕生日と言ったらケーキ!! 甘味でしょう!!! それなくして何を祝う積りだよ! コレだから素人は!! 素人は困る!!!」 「それなら、苺のショートケーキからシフォンケーキ、ザッハトルテに……」 「テンイン! ドーナツプリーズ!!!」 持参したケーキの中身を確認する義衛郎の声がまったく耳に入っていないだろうヒートアップっぷりを見せつけた喜平は高く積まれたドーナツタワー(火車スペシャル)を掲げ持ち、朗々と歌い出した。 「ハッピヴァースデェトゥ……誰? コレ誰を祝う集いなの??」 「その歌だ――誕生日にはそれを歌うものだと聞いたんだ。あまり上手くないけど、聞いてくれるかな」 ヘンリエッタが、最近覚えたばかりだというその歌に挑戦する。 心を込めた歌に、喜平がそっと(名前以外に)ハモリを入れた。 「スミレさんこんにちはっ!! フュリエのエフェメラって言いますっ。 お友達になってくださいっ♪ それと、スミレさんお誕生日おめでとうっ!! 優しい子たちを選んだから、きっとスミレさんの友達になってくれるよっ♪」 エフェメラ・ノインが、菫に花束と共に祝いを伝え。そしてドーナツを見回して笑う。 「いろいろあって目移りしちゃうねー♪ スミレさんはどんなのが好き? オススメってあるのかなっ?」 「まず、食べたことのない種類が結構多くてな……」 少しだけ困った顔をしながらも、単純な味の砂糖がけやオールドオサレをオススメする菫である。 コンビニ飯でローテーションしていると、優しい味が嬉しくなるものなのだ。 「菫ちゃん誕生日おめでとう! プレゼントは、お決まりのこれ! 梅子とも、お揃いだよ! やったね!」 素敵に綺麗に包装された袋を結城 "Dragon" 竜一が菫に手渡す。 「! りゅ、竜一ぃ!!」 「大丈夫! 着々とシマパン仲間の輪は広がってるよ! 寂しい人たちのためのシマパンコミュニケーションさ! 皆で仲良くシマパンについて語り合うといい! そうして広がる友達の輪! なんて素敵なんだろうね!」 梅子が顔を真っ赤にして怒った横で、袋の中身を見た菫がほう、と頷いている。その様子を見て、竜一ははたと気がついた。 「あ……菫ちゃん、それもしかしてパンツはいてn(強制中断) ―― 仕切り直し ―― 「人気者じゃん、菫。せっかくだから、僕も友達!」 掃除から開放された夏栖斗が、右手をだしてくる。握手だと察し、菫も手をさし出した。 「綺麗なおねーさんと仲良くなるのは大歓迎。あ、浮気じゃないからね!」 「彼女がいるのか」 ほほう、と噂好きなおばちゃん予備軍の顔を見せて、菫がにまりと口元を歪める。 「っていうわけで、僕と彼女の仲を占ってよ、うちの彼女チョー可愛くてさ! もうマジヤバイ!」 「占うなら、一回十万GPでどうだ。やめておくなら、たぶんしばらくは女難だな」 「女難?! マジで適当スギ!! やめて!!」 「どーも揚羽さん、こうやってお会いするのは初めてだよね。新田快です。よろしく。 ……占いってさ、例えばどんなものが見えるの? ちょっとばかり、その水晶球越しに見える景色がどんなものか気になったから」 「じゅうま「払わないよ?」」 新田・快に先んじて返答を塞がれ、菫が少し渋い顔をする。 「お誕生日おめでとうってことで、お酒持ってきたよ。 でもどう考えてもドーナツには合わないので、家とかで飲んでね」 「少しは教えようか」 快に差し出されたボトルに急に対応を変える菫だが、すぐにその顔はもう一度、渋いものになった。 「……見えた所で未来の指針にはなるかもしれないが、絶望や苦痛を覆せるほどのものでもないんだ」 それが要領を得ないということを菫自身もわかっているらしく、軽く肩をすくめてみせる。空気を変えようとか、近くで見ていた琥珀が、透明度の高いクリスタルを菫に渡して笑った。 「揚羽氏とも、またこうして話していけるといいな。 でもって誕生日おめでとう! お互い元気に頑張っていこー!」 「せっかくみんなみたかだいらにきたなかまなのですっ」 グローブの手を広げて、テテロ ミミミルノもまた菫に箱を差し出した。 「おたんじょーびおめでとうございますなのですっ。おねーちゃんがいってましたっ。 このみがわからないひとにぷれぜんとをあげるときはじぶんがほしいものをあげればいい……って! だからミミミルノはもっているとゆうきがでるふしぎないしがついたねっくれすをぷれぜんとするのっ」 勇気が出る、の後に『らしい』が付いてしまいそうな石だが――それはもしかしたら、ミミミルノ自身の勇気の結晶なのかもしれなかった。 「勇気か。勇気……ありがとう、ミミミルノ」 菫は目線を同じ高さに合わせ、称号ではなく名前を呼んで笑ってみせた。 「シカシ、ソノ妙齢ハ祝われると困惑スルトキイタコトガアル。マァ、ベツニイイケドナア」 ドーナツの種類をだぶらないように選んで食べているリュミエール・ノルティア・ユーティライネンが、今年の新作を小さめに一口かじりながら呟いた言葉。 その一言に、菫は心臓を捧げてそうな位置に掌を当てた。白目で。 「一日ずっと観察シテイタ梅子も暇ダヨナー。……お前……友達イルヨナ?」 「菫ちゃんに、友達いないの ?とか言ってるけどさー。 仮にも菫ちゃんは占いをしてたわけだけどさー。 ……それを日がな一日眺めてた君の方が俺には寂しい人に見えるんだけど……」 「い、いるのだわ、友達たくさん!」 竜一にもその『痛いところ』を突かれた梅子の、慌てて返す言葉を待たずリュミエールは追撃する。 「彼氏イナイノハシッテルカライイヨ」 その一言に、梅子も心臓を捧げてそうな位置に掌を当てる。白目で。 「誕生日祝とやらは、人が多い方が良いだろう。初対面かつ無愛想な俺でも力になれる……なれるのか?」 優希のドヤ顔から、今更になって少し自信が消えていた。 「ふぅむ……そうだな。菫は路地で引きこもるよりMGKにでも遊びに来ると良い、場は明るいぞ。 尤も、菫が梅子と仲良いのであれば、暇する時間も少なくなるやもしれんがな」 「だから、あたしと菫は友達なのかどうなのかをまず」 梅子の不満はやはりスルーされる。 「今後は依頼で世話になることもあるやもしれん。 その時は宜しく頼む。辛い任務かもしれんが、共に乗り切るとしよう」 「ああ――よろしく、だ」 フォーチュナがリベリスタを送り出す戦場は、過酷でないことの方が少ない。 菫の眉が少し苦しそうに寄せられたのも、それと無関係ではないのかもしれず――ベルカがその様子に、言葉を継ぎ足す。 「嬉しくも無い、と言う事もあるかもしれませんが、そこはそれ」 「ぐ……歳のことか!?」 茶化し気味に返した菫の前で何かを右から左に置き直す仕草をし、ベルカは真面目な表情を向けた。 「我らの様な生き方を選んだ者が、1年も生き延びられたのです。 素直に祝われてやって下さい。私達も、嬉しいのですよ」 その顔のまま、たり、と流れる唾液。 「と言うわけで! 今日はしこたまドーナツをかっ喰らいましょう! さあ、お歳の数だけドーナツを! もっと輪っかを! урааа!!!」 「そんなに食えるか!?」 ツッコミに回った菫の掌は、やっぱり心臓捧げてそうな位置にあった。 ● 「流石プラム嬢……。 菫の誕生日をただ祝うだけではなく、その友好関係も心配し、このようなイベントを開催するなんて!! 本当にお優しく素晴らしいお方です、流石三高平1のレディだ!!」 「へ? そ、そう? そうかしら! そうなのだわ!! あたしが!」 セリオにそう言われて、頬を紅潮させ、鼻の高そうなドヤ顔を披露する梅子の表情が、 「それもイベントに掛かる費用、皆が食べるドーナツの料金。 その全てをプラム嬢のポケットマネーで支払うなんて……!! ですよね、プラム嬢?」 超笑顔でそう言い切られて、氷結し、真っ赤になって、真っ青になり、燃え尽きた後、復活した。 「な、な、な、何ですってー!!!?」 実際の支払いがどうなったのか、は。 ――その日からしばらく、皿洗いする梅子の姿がダンディドーナツで見られたということである。 <了> |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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