●何だこの意図的犯行 『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)は三高平学園の非常勤講師である。 保健体育教師という何だかどうなんだろうという肩書きは、しかしあってないようなものである。その日も、殆どの時間を事務処理に充て、アークへと向かうところであった。 何事も無ければ。平和な一日、で済むと思っていた。 背筋を、突如として悪寒が駆け抜ける。数秒後の情景が脳裏に浮かび、咄嗟に後ずさり……先程まで居た場所、その斜め上に突如として開いたのは小規模のバグホール。 次いで、ぺいっ、という効果音が適切なほどに『吐き出された』のは、こちらの世界で言えば年の頃五、六歳の体躯を持った……所謂、幼女であった。 情けなくも可哀想な格好でアスファルトに突っ伏した少女は、数秒の沈黙を経て、夜倉に向き直る。 「#$!”pa)>=*a……」 (何か今、こちらの世界の発音が聞こえたような……) 夜倉は曲がりなりにも革醒者だ。相手が運命の寵愛を受けうる相手なら何とかわかろうものだが、そうではない、というのも理解できた。……厄介な異邦人だ。敵性か善性かすらわからないが、しかし発音が、どこかボトム的だ。 「=?#%パ、>_~パ……?」 (あ、これ厄介事フラグだこれ) 夜倉は直感した。 これは絶対ロクなことにならない。でもここで逃げたらアークとしてどうなのか。ここは天下のアークのお膝元である。神秘事件の放置など―― 「パパ、パパ!」 「……えぇぇぇぇ!?」 なんでそんな発言できるんだろうか。 ともあれ。 オレンジ色のワンピースに白のジャケットという謎めいた出で立ちの幼女にパパ呼ばわりされながら縋りつかれる包帯混じりの教師(三十二歳独身)という構図は、革醒者の多い三高平においても誤解を招きまくりなわけで、夜倉はいたたまれない気持ちになりながらも保護する選択肢に走るしかなかった。 殆ど違法行為だこれ。 ●隠し子騒動に発展して元恋人にフェイト燃やされそうになる事態に 「……したくないですね!」 「サングラスで見えませんけど絶対錯乱してますよね、夜倉さん」 必死の形相で幼女を侍らせる三十二歳高校教師(独身)、必死の抗弁。しかし『Rainy Dawn』兵藤 宮実(nBNE000255)からすれば、どっちにしろ危うい感じがひしひしと伝わってきて実際どうなのか、と言う感じもしたが敢えて口にしなかった。彼の交友関係はある意味危険だと、どこぞのリベリスタから聞いていたようだ。 そして、それを夜倉自身も隠す気はないらしかった。流石の侠……じゃなかった、男気である。 ところで、夜倉の隣には少女が立っている。 年のころはボトム基準でいえば未就学児。確かに、月ヶ瀬夜倉の『娘』として通すにはあまりそん色ない年齢ではある。 「パパ!」 「あーはいはい、分かったから黙ってなさいな『キディ』」 しきりに夜倉をパパ呼ばわりしてすがり付いているが、この場にいる誰もが、その少女と彼が血縁関係にないことなど知っている。だが、それでも言いたくはなるもので。 「隠し子か?」 「そんな訳ないでしょう、思い当たる節がまるで――」 「そうか夜倉、童貞か」 「童貞ちゃうわ」 びしりと言い放っていた。サングラスの奥の眼光が光ったようにも見える。 「ええとですね。彼女は便宜名『キディ・クラフト』。彼女の発音からかろうじて聞き取ったので正式には違うのでしょう。とりあえずそういうあたりでお願いします」 「アザーバイドなんだろ? フェイト獲得の可能性は?」 「ありません。ですので、早急に送還が必要です。幸いにも、この子が帰るに足るバグホールが開く予測は立っています。そうですね……早くても明日の朝。ま、丸一日あるってことです」 今は、昼だ。 アザーバイドを匿って置いてそのポイントまで連れて行く……それで、終わっていいはずだ。 「それができない理由でもおありで?」 「大有りです。彼女は何でか『パパ』という発音、概念、用法を弁えている。加えて、僕をそう呼ぶ。一定期間僕から離さないと、後々彼のチャンネルからの流入者が何するか分からないでしょう。その、実の親とか」 「……なるほど?」 クミも首をかしげた。当たり前だった。 「というわけで、今日一日この子のお守りをしてください。三高平近辺が望ましいですね、市外は……ほら、居るでしょうあの組織とか、あの組織が」 「報告書だけ知ってますけどいらっしゃいますね、とびきりのが」 「プランは君たちにお任せします。クミ君も連れてってください。彼女、ここのところ(温泉以外)ずっとアークに入り浸っててもうご両親が心配しきりなんで、羽を伸ばすことも必要でしょうから」 文字通りにね、とクミに目配せした夜倉に、冷たい視線が突き刺さったのは言うまでもなし。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月23日(木)23:19 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●風説の流布(刑法第二編第三十五章「信用及び業務に対する罪」(第233条 - 第234条) 夜倉がアザーバイド『キディ・クラフト』に縋りつかれている様子に、先ず反応したのは『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)だった。 ピロリロリーン☆とか撮影音が聞こえた瞬間、夜倉はこの上なく嫌な予感にとらわれて、 『ニュース☆夜倉さんの隠し子(>▽<)』 ↑のようなメールを受け取るに至り、終に射貫かんばかりの視線を向けた。どこ吹く風である。 「夜倉先生、もとい夜倉パパ」 どさ、と多量の資料を夜倉に押し付け、『マグミラージュ』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)は真剣な表情で口を開いた。 「今回も私の分のお仕事お願いします」 「この不良教師めが」 夜倉、一切のオブラートを排除して断言。でも、受け取った瞬間から既にぺらぺらと資料をめくっている時点で断る気は微塵もないらしかった。……断ったら断ったで、その後何があるのか考えたくもないという側面もあったりなかったり。無くていいそんなもん。 「パパ、ですか。月ヶ瀬さんも大変ですね」 「何肩震わせてんですか明らかに笑ってるじゃないですか流石の僕も半ば本気で怒りますよ聞いてるんですか畜生この野郎」 夜倉、包帯が減ってから随分と攻撃的な発言が増えた気がするが気のせいではないのだろう。事実としてかなり苛立っている様子が伺えた。それもこれも『ファントムアップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)が悪い。だいたい全部悪い。ここまで言われる謂れはない! いやある! 「取り敢えず連絡先を教えて下さい。それと宿泊先は」 「既に手配済みです」 「手際いいですね」 その辺りは一応、アークのフォーチュナである。根回しのひとつふたつ出来ずして何がアークか、である。 「こういうお仕事ならいくらでもー、やね……『キディ?』」 「ぱ、パパ、パパ……?」 普段殺伐としている分、こういう時は平和にいきたいものだと『ビートキャスター』桜咲・珠緒(BNE002928)は夜倉の声を真似てキディに声をかける。落ち着かせるための行動だったのだが、キディには夜倉が二人いる錯覚を与えてしまったらしい。この子の思考回路がちょっと僕にはわからないです。 だが、根気よく声をかける少女を彼女は敵とは思うまい。何より、『パパ』に親しい人間が敵であろうはずもないのだ。 「キディちゃんにクミちゃんはよろしくね~☆ それから……」 \パ→カァ↓……/(ニヒル) 「こちらがアルパカ師匠だよ……」 (二十四歳合法ロリフォーチュナが何か喜びそうなシチュエーションですね、これ……) (やめましょうよ夜倉さん、『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)さんのアプローチで既にキディちゃん喜んでるじゃないですか……悪しざまに言わなくても……) ひそひそ話はやめてさしあげろ。アルパカ師匠(式神)頑張ってるじゃねえの。 アルパカ師匠(以下、師匠)に対し、キディが目を輝かせて夜倉の背中から出てきた時に、更に現れたのはモルのぬいぐるみである。その後ろに居るのは『不機嫌な振り子時計』柚木 キリエ(BNE002649)。異界の言葉を解する、本依頼では貴重な面子である。 『はじめまして、モルゥ。僕はもるだよ、キディとお友達になりたいな』 『もる? やわらかいなまえなの! キディ、キディよ!』 外見年齢以上に精神年齢は幼いのか、モルを通してキリエに語りかけるキディはつっかえつっかえながら主張はしっかりするタイプ……らしかった。キリエはすかさずモルを彼女へ渡すと、後ろから顔をだす様にして語りかける。 『私達はパパにキディの事、お願いされて来たんだよ。ね、パパはお仕事があるから、今日はお兄さんやお姉さん達と一緒に遊ぼ?』 『パパと離れるの!? ちょっと心配ィ……』 『「今日は一日、オレ達と遊んで、お友達になりませんか」って、そこのお兄さんも言ってるよ』 『おともだち! ほしい!』 お仕事、と言ってもやはり全く知らない世界に放り込まれた少女にとって、父親というのは大きいのだろう。喩えそれが全くの別人でも。しかし、道理で動かぬなら感情で動かすまで、と考えた義衛郎の判断は正しかったと見え、キディの反応は顕著に明るくなった。 なかなかに賢明は判断と言葉選びだったということなのだろう。 「パパか……娘が小さかった頃を思い出すな」 「ダグラス君、娘さんはこちらではないのです?」 「あの子が三歳の時に離れたからね。六歳の娘には会ったことがない」 そんな様子を遠巻きながら眺めていた『夜色紳士』ダグラス・スタンフォード(BNE002520)が少女に対し向ける視線は、明らかに父としての愛情を何処かに向けんとしたものだろう、というのは夜倉にも分かる。子供いないけど。 それと、彼が何故か手許で所在なげに包帯を弄っていたのは見ないことにした。何も、見ていないんだ。 「私は幼女が好きだ。邪念無く幼女が好きだ。 未来を担う子供が大好きだ。 尚且つ次代の命を生み育てるであろう幼女はもう愛しているとも言える。 であるからして、幼女の為に全てを尽くすのはロリ魂として当然である」 「…………あの」 「大丈夫だ、私はロリコンじゃない」 『深夜コンビニのバイト戦士』都築 護(BNE004463)の淡々たる主張は、クミを僅かにヒかせるに足るものだった。言っていることは確かに真っ当っちゃ真っ当なのだが、産み育てるとかロリ魂とか、年頃の少女が聞けば警戒するのは当然とも言える。 だけどほら、健全。全年齢。間違いない! 『あの、パパがいないのはさみしいけど、ともだちになってくれるなら、いいよ!』 『ありがとう、それじゃ行こうか』 「じゃあ、皆さんお願いします……珠緒君?」 「いや、その、包帯巻いたら……」 「必要ないと思います」 そんなやり取りがあったりなかったりしたわけですが、キディはちゃんとリベリスタについていくみたいです。 ●三高平=時村財閥=まあなんかすっげぇでかい *。非。)デパート! 「パ→カァ↓……」 「……はっ。まおはお姉さん代わりなのです」 師匠の憂いの残る鳴き声に、おもわずまおは素に戻る。それほどまでに、デパートというのは初体験の彼女にとってインパクトがあるのだ。ゴージャスだし入りにくいし高そうだし、彼女にとって敷居が高いのは仕方ない。 だからその気持ちは分かる。加えて時村財閥の肝煎りの都市の中心市街地だ。某グループ企業など比較にもならない大規模ショッピングセンターは、それだけでヘタなテーマパークを上回る。 『すごーい! なんだかおいしそうなものが在るよ! ほらあのひかってるあれ!』 『うんそうだね、落ち着こうね』(あれってシャンデリア……? おいしそう……?) 「皆が楽しそうで何よりだな……ちゃんと記録に残しておこう……」 邪念無く(多分)みんなの写真を収めんとする護はなんて言うか、見た目だけ見れば明らかロリコンなので可哀想というかなんというかその。 「小さい子供にとっては結構なアミューズメントパークよね……てことでおもちゃうりばいってみよー」 一応、これでもソラは高等部教師である。彼女ほどの子供を扱う機会は殆ど無いとしても、ある程度の扱いは心得ているというものだ。 キディが夜倉から離れて多少なり不安がっていることも分かるし、なあなあであやそうとしても感情を硬化させてしまうことも分かっている。 常に全力で遊ぶことを生業にする少女相手に半端は許されないのだ。 「おもちゃ売り場なら見ていて飽きないし……アークの経費で落とせばいいでしょ?」 「その辺りは夜倉さんがやってくれると思います、多分」 『うわーうわーたのしそうー!』 「もう既に楽しそうだね」 \パ→カァ↓/ パチン、と指を弾いた師匠に合わせ、キディに手近なおもちゃが差し出される。どこまで訓練されてるんだこのアルパカ式神。 あとその流れで花束をほどいて一輪ずつ渡してみたり、ニヒルな表情を魅せたり……あれ? 「オレ、師匠に存在喰われる?」 「大丈夫ですよ終さん、その……分かってると思います、皆さん……」 「大丈夫だよね? オレ、存在大丈夫だよね!?」 『ししょうかっこいー!』 「まおは、師匠さんも終さんも素敵だと思いました」 「うん、大丈夫やないかな?」 (なんて微妙な反応……!) 終、自信を取り戻すには今ひとつ時間が必要な気がした。この式神マジ万能だな。 そんなわけで、駆け抜けるキディを適度にあやしつつ相手をするのは、大人ならずとも体力を使う。生存行動の殆どを遊戯に使う相手に合わせようとすれば、必然、体力も水分も大いに消耗するわけで。 「そろそろ休憩しない? キディちゃんもだけど皆疲れてきてるし……」 くきゅう。 終の提案に合わせるように、誰かの腹の虫が控えめに鳴り響いた。まあ、そんな頃合いではあったのだ。全力で遊ぶ子供は、電池切れが唐突に起きるのは致し方無し。 「わ、北海道おいしそうです。海鮮丼、ソフトクリーム、ジンギスカ……来週からでした」 「別な物産展はやってるんじゃないかしら?」 デパートの物産展は、事前準備も事後撤収も割合、電光石火で行われるものである。概ねは間髪入れず行われるものなのだが、催事スペースについての告知が当日分で存在しない場合、ちょうどその間隙に入っている可能性が非常に高い。 まあ、何が言いたいかっていうと今日はおとなしくフードコート行きましょうってことです。 「お子様ランチと言えば万国旗よね」 「取り敢えず色々と頼んでみない? 食べられるものが分からないし」 「キディ様はこっちのごはんの食べ方がわかるでしょうか?」 \パ→カァ↓/ ちょくちょく師匠がアンブッシュめいてフィンガースナップ(どこで?)し、用意周到にスタッフが現れてフォロー入れてくんだけどなんだろう。絶対に笑ってはいけないのか。 『どれがいいにおいする?』 『えーっと、どれもおいしそう! あとこれ! これかわいい!』 並べられた料理の数々に、キディは非常に興味津津だった。どうやら、食文化的な側面ではボトム塗装変わらない価値観なのかもしれない。万国旗に示す興味も、人並みの少女といったところ。 ……シャンデリアに興味を示したのがなぜかは、敢えて考えないほうがいいのだろうか。 「好き嫌いはダメよ、あっちでどんなもの食べてるか知らないけど……私みたいに大きくなれないわよ?」 ソラのその一言に、クミを含め数名のリベリスタが押し黙る。先んじて苦笑を見せたのがダグラス(高身長)なのは何の因果か。 「そうだな、確かに大きくなれないのは問題だろう」 「なに? 私何か変なこと言った?」 「大丈夫です、ソラ先生は全く何も」 この微妙な空気は気にしないでも結構です。ほら、横でマナー的なものを教えつつまおがキディにつきっきりだし。大丈夫大丈夫。 重要なのは、少女の自主性や機嫌を損ねないことでもある。キリエはキリエで、多少の例を見せつつも概ね彼女自身にやるよう促しているわけで、この調子なら問題なく交流は可能であろう、とも言えた。 「領収書は月ヶ瀬夜倉でお願いします」 こういうところで抜け目が無いのは、流石のキリエであった。 食事を終えたキディが、僅かに目を擦らせている様子からすれば、大分懸命に遊んでいたということの証明になろう。 そんな彼女を慎重に抱え上げたのは、ダグラスである。彼女のいたいけな瞳に保護者然とした視線を返した彼のどこに、ロリコンとしての雰囲気が見受けられるというのか。 一切の矛盾なく、この男は娘を相手にするかの如き慈悲深さで彼女へ接していたのだ。 「疲れているようだな。一旦宿に向かって、それから今後を考えよう」 「そうだね、思ったよりも疲れさせちゃったみたいだ」 ダグラスの落ち着き払った反応は、裏を返せば「体力次第でもう少し遊ばせてやりたい」と言っているふうにも取れた。事実、多少の休憩をはさめばデパートの夜の顔の片鱗を見せることも可能だろう。 で、ホテルにて。 彼女を運ぶ隙に全力でコンビニに向かった護が何をしているかといえば、撮影した分の写真をすべて現像に回していた。その領収書もアーク付けで何ら問題ないと思うぞ、護。 『……あれ?』 「起きたみたいね。じゃあ、遊びましょうか」 ふらふらと起き上がったキディに、しかし未だ体力があろうことは女性部屋に居る誰もが気づいていたことだろう。遊び足りない風な表情を見れば、それもわかるというもの。 そんな彼女を見越してソラが買ってきたのも、言葉を理解せずとも楽しめる直感的ゲームの数々。これなら何も考えず楽しめそうだ。 「じゃあその間に一曲弾かせてもらおかなー、クミさん、歌のリード頼むなー」 「え? あ、はい、私で良ければ……」 よもや自らに水を向けられると思っていなかったクミは、珠緒の呼びかけにおっかなびっくりに反応した。おい元アイドル。 斯くして、その夜は女性陣が各々に楽しめそうなものを披露しつつ、体調管理も忘れずに、更けていった。 少女の笑顔は何よりも綺麗で、次第に……目の前のことだけに集中しているように、思えた。 ●さよなら、よりはまたね、と 翌朝、バグホール出現地点付近の公園。 リベリスタ達と対峙したキディは、適度な睡眠で十分な体力を取り戻していたようだった。 加え、その公園の遊具はなかなかに充実している上に広い為か、彼らが想定していたほぼすべての遊びを彼女に与えることが出来たのも事実だろう。 ぶらんこも、鉄棒も、バドミントンも、鬼ごっこも、なんでも出来るというもので。 それこそ、飛ぶように時間が過ぎ去っていくのは当然と言えた。 キディの背後に、ぽっかりと黒い孔が空く。 それ自体に吸引力は無いが、足を掛けたものを誘い込む程度の境界であることは明らかだ。 数歩歩み寄り、護が写真とぬいぐるみを渡して後ろへと下がる。目尻を僅かに抑えたあたりに、なんとも言えない感情が臭うか。 入れ替わるように歩を進めたダグラスが、おずおずと腕を伸ばし、キディを抱きしめた。キディは、抵抗しない。 重みとぬくもりは、発育段階に三年の歳月の差異こそあれ、彼の娘の面影を想起させるには十分だった。 やりたいことは、それだけだったから。 『またね』 何れ会うことがあるかはさておき。 少女は別れでは無く、再会を誓って次元の向こうへ消えていく。 「夜倉さん」 『何ですか終君、つまらないこと言ったら怒りますよ』 「次は本物連れてきてね!」 『無理です』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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