● 「ぐがっ……あ゛ぁ」 ギチギチギチギチギチギチ。 どうして。 ギチギチギチギチギチギチ。 どうして。 ――僕は僕に首を絞められているんだ!!!? 苦しさに、口端から垂れる唾液。 馬乗りされて身動きが取れない。 せめて一秒でも長く生きるための抵抗としてバタついていた足は力を無くし、行き場を失った両腕は床に落ちた。 近くで烏の鳴き声がする。それは高見から餌の死を見つめる、悪魔の破顔。 ギチギチギチギチギチギチ。 「あ゛…………ぃ、ゃ、ら……………ッ」 そして、視界は反転した。 ● 「皆さんこんにちは、ゴールデンウィークは休めましたか?」 そんな他愛も無い話から依頼の説明は始まった。『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)はにっこり笑った笑顔を崩して、真顔を作る。 「今回の相手は自分自身かもしれませんね。スライムのようなものを生み出すアーティファクトがあるのですが、そのスライムが人の形になって、その形の元になった対象を殺して成り代わるのです」 殺しの対象は自分自身。成り代わって何をするかなんて想像したくもない所だが、被害者が出る前にはどうにかしなければいけない。 「アーティファクトは宝石の形なのですが……如何せん、そこらへんの烏が飲み込んだ様で、それと一体化しているのです」 つまり動いて思考するアーティファクト。思考といっても「危ないから逃げる」「腹が減ったから食べる」程度の本能的なものだが。恐らく烏が殺した対象を食べているに違い無い。なんて性根の腐った物品か。 「とりあえず今は生み出されたスライムを討伐して下さい。スライムを生み出すには時間がかかる様ですので、一時凌ぎなのは否めませんが……。 烏は逃げ足も早いですし、地上に居るとは限りません。もしですが、余裕があれば烏の探索からアーティファクト破壊も視野に入れてみてくださいね」 杏里は資料を手渡す。 「スライムは此処に集まった八人の姿を模す事でしょう。皆さんの見た目、攻撃方法を真似てきます。完璧とは言えませんので多少の劣化はあるとは思いますが……お気をつけて。あ、でもこのスライム、回復しないのです。所詮、使い捨て……と言った所でしょう。フェイト復活とかも有り得ないので心配しないでくださいね」 それではよろしくお願いします、と。杏里は頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月18日(土)23:25 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 人の手入れがされていない山道に、進む足は笑われている様だ。 しばらく進んだ時だった。明らかに不自然な、水銀の様に形を成していないものがあった。それは木々に張り付き、蠢いていた。 「これか?」 鷲峰 クロト(BNE004319)は水銀の動向を見ていた。すれば、水銀が人型になり、クロトがもう一人? 否、リベリスタ八人が鏡の様に姿を模した。 即座に、傍から元気な声と共に神秘的な加護が発動。 「さ、やるッスよ! うひひ、お宝は売り飛ばして一儲けッス!」 『宿曜師』九曜 計都(BNE003026)の翼。だが計都の鏡も同じく翼の加護を発動させていた。それで敵も味方も五分五分だろう。 「貴方の相手は私ですよ。さあ、修行を始めましょう」 言葉を残して、『ルミナスエッジ』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)は木々の奥へと向かう。それを最初に、己の鏡を突き合わせて皆が皆、木々の奥へと散開していった。 ● もし自分がもう一人この世界に居たのなら。 神秘のある世界だ、それもあり得なくは無い。 「ノーサンキューね」 『運び屋わた子』綿雪・スピカ(BNE001104)は己の分身を見ながら言った。 自分を変わり者と評する彼女。 その変わり者がもう一人増えるのはこの世界のバランスを崩してしまいそうで引けるのだと。だからこそ、今ここで叩かなければと武器を掴む手に力が入った。 ある程度、仲間と離れてからバイオリンを構え、弦を響かせる。 「さあ、演奏会の始まりよ。どちらの旋律が美しいか勝負しましょう?」 『いいわよ。わたしの演奏について来れるのかしら?』 「あら。そっくりそのままお返しするわ」 序曲――。 ひとつ旋律を奏でれば魔力の弾丸が陣から射出。それを偽スピカは頬で掠っただけで押しと止めた。 偽スピカはお返しとしてか、いきなりだが魔曲を奏でた。四色の魔光がスピカを突き抜ける。直撃までとはいかないが、その痛みに顔を歪めながら、奥歯を噛みしめた。 「流石、偽物。侘び寂びなんて考えない訳ね……!」 体勢を立て直し、スピカは翼を広げて前へ向かった。だがその距離は20mあったため、全力移動で10秒を使ってしまう――その間、偽スピカの攻撃。再びの四色!! 「いい音ね、流石、わたしっ」 『ありがとうね。安心していいわよ。貴女の代わりはきっちり務めてあげるの』 どうやら敵に容赦は無いらしい。確実に自分を殺しに来ている。 「それだけは……」 スピカは思う。これまでの運び屋としての厳しい過去。そして今、身を寄せるアークでの思い出。それを全て零に戻して、偽物が謳歌するなんて。それは、絶対に、絶対に! 「許さない!!」 その時だった。手に幾重にも巻きつけた気糸が偽スピカを縛ったのだ。 『な、この』 「貴女には何一つ渡せないわ」 奏でる、魔曲。 「運び屋わた子、貴女にお届け物を届けに来たのよ」 幾重にも、幾重にも光を繋いで。気糸で動けない私自身を葬るのは完成したての新曲四重奏。 ● 伸ばされた六枚の羽。『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)の目の前に、同じ姿をした自分が舞い降りた。 『御機嫌よう。そしてさよなら、ね』 「身の程を知りなさい。私の劣化コピーの分際で大口を叩けるのも今のうちだと思いなさい」 その隣で『スウィートデス』鳳 黎子(BNE003921)も同じくもう一人の自分と相対していた。 「片付けましょ! どっちも」 にこっと笑った黎子の言葉に、氷璃は頷いた。相談通りにと、一言残して黎子は己を止めに足を動かす。 即座、圧倒的な早さで氷璃の先制。冷気と光で作り出した弓の弦を引いた。それは一直線に偽物の黎子の胸を射抜く。 「あら、他愛も無い」 『そうですかぁ? こんなもの痛くも……。!?』 刺さった矢。そこから冷風が偽黎子を包んで凍らせていく。 痛い、炎とはまた違った熱さが痛い。怒りに変わり果てた偽黎子の顔を見て。 「そんな顔、私はしないですぅ」 と、顔を少しだけ膨らませた黎子。 『油断大敵ね』 同じくだ、偽氷璃は黎子へと同じように矢を放つ。まるでコピー機。本物の真似をしたというところで―― 「本物になれることは無いのに。可哀想な子なのね」 まるで、実験で生成されたもののような――。 『可哀想? 勝ってから言いなさいな』 同じ声が交差し、ぶつかった。 しばらく氷の矢の早撃ち対決が続く。それに耐えながら黎子は繋がる呪いを受けながらも呪いのダイスで己の偽者を炎上させては、偽者に炎上されていた。 「真似しすぎです、そんなに私になりたいのですか!」 『なりたい。本物の、全てに!!』 傷だらけになりながら、片腕が、片足が、例え氷に侵食され赤く腫れ上がっても二人の黎子は止まらない。 二人の運命狂が次に唱えたのは魔曲の詠唱であった。 ――狙った、麻痺。動けなくすれば、どちらかの黎子が倒れる。この勝負、先に一人になった方が負けである。だから―― しかしだ、ただひとつ、偽者には真似ができないものがあった。 ――消えない火の記憶。 『消えなさい!!!』 放つ、偽の四色。そして本物と交差した、同じ光。黎子たちに直撃するその光!!! ――確かに一瞬だけ痛みに顔を歪めた黎子だが、すぐに双頭鎌を持ち直して顔を上げた。 『なぜ、動け、る、のです!!?』 「……」 身体を守るように守護する紅を見て、黎子は目を細めた。 ――まだ、嫌われているのだろう。 しかし今は目の前の現実のために。まえむきにいきよう。 目に光が戻った黎子は最後の爆裂クラップスのダイスを弾いた。ころんと落ちるその目、全てのダイスが「死」の数字を上にした。 残り、偽氷璃が一人――。 『く、くう、こ、来ないで』 「あら、怖いのですぅ? さっきまで殺しに来ていた気迫は何処に落としたのでしょう?」 黎子の言葉に、一歩二歩と偽氷璃が後ろへと下がって行く。その顔を恐怖色に染めながら。 『う、ううう!!』 「……」 何も言わず、氷璃は詠唱する。鎮魂歌になれとは言わない。ただ、己の真似をし、振舞った罪を断罪させるために。 「消えなさい」 『い、いやぁぁ!!!!』 偽の氷璃は六枚の翼を広げた。空中へと逃げ、木々の上へ、上へと目指す。 流れる魔曲の四色の星屑がその後を追跡。偽者の彼女が直角に曲がれど、急降下しようが、逆に上昇しようが光は軌跡を追った――が。 「終わったかしら」 すぐに頭上から白い羽が無数に舞い降りてきた。それを片手でなぎ払えば、腕にこびり付いたのは水銀であった。 火と氷。二人の戦いはまだ続く。 ● 刃の擦れる音が響いた。 初手は同じ自付をし、そこからは幾重にも魅了攻撃を重ねて、自分自身の偽物を傷つけたセラフィーナ。 回避も人並みある彼女だが、心強くも命中はそれ以上に高い。だからこそ運良く先手を取り、そこから自分自身の偽物を魅了にさせて攻撃を封じる事は成功していた。 「上々……でしょうか」 『……やるじゃないですか』 着実にセラフィーナは偽セラフィーナの体力を削っていく。 自分の鏡を見ているのだ。それって凄くレベルアップできる事だと、向上心のあるセラフィーナは遣り甲斐を感じていた。少しばかりか、その顔に笑顔を散らして。 いつか、姉さんの様に。 いつの間にか姉よりも成長している彼女だが、それでも本物の勇者と成った彼女に届く日はまだ遠く。 だからこそ、一人でも多く救えるように。強く。強くなりたいと華奢な身体で少女は夢を追い続けるのだ。 さあ、仕上げにかかろう。敵は己では無い。その先に待っている、更なる強者の打破のために――だが、何故偽セラフィーナは冷たい目で笑っているのだろうか。 「これからバロックナイツと戦っていくんです。自分自身ぐらい、倒してみせます!」 『本当に、それができると思ってる?』 セラフィーナの目が見開く。霊刀を見た、力が――アル・シャンパーニュが、出ない!! もう少しだった。もう少しで偽物を消せた。 僅か。時間にしてまだ八十秒手前。ブリッツクリークとは大きな力を与えてくれるが、代償は精神。かつ、その精神を大技で消化させきってしまった彼女から自付が消えてしまったのだ。 目の前で、自分自身が笑っていた。伸びてきた両腕、偽セラフィーナの両の手がセラフィーナの頬を撫で、至近距離で同じ顔が見つめ合う。 『大丈夫。私ならもっと上手くやってあげますから』 「……っ!!」 混ざる、吐息。迂闊だった。 偽セラフィーナは霊刀を振り上げた。跳躍し、撃ってきたのはソードエアリアル―――霊刀が大きく回転しながら宙を舞い、山道に刃が刺さって静止した。 ● 「こんな所まで悪かったわね。じゃあ、始めましょうか」 蔵守 さざみ(BNE004240)は己の偽物を見据えて言う。 相手は魔陣展開を使った。ならば、此方もとさざみは同じく魔陣展開を行った。瞬時、至近距離まで歩を進め始める。 『近接……?』 「劣化でも、仮にも私であるのなら戦い方くらい真似なさいよね」 だがさざみは此処まで偽物と20mの距離を保って移動してきた。勿論この10秒はさざみは移動だけで終わってしまう。そして、偽さざみは詠唱をした。四色の魔光がさざみを襲う。 「遠距離の打ち合いなんて、つまらない」 それを選んだ偽物、なんて興醒めか―― 『――勘違いしないでね。違うわ。そっちが近づいて来てくれるなら、此方は動くまでも無い』 四色の光をその身体に擦らせながら、腕には同じ色を光を纏わせたさざみ。イレギュラーな四重奏が偽さざみの腹を穿つ。 だがそれも掠る。やはり自分同士であれ、かつ、命中回避がほぼ誤差の範囲であれば直撃は無い。何より、自分自身の動きに合わせられない事は無い。ガントレットの動きを見極め、攻撃を直撃から外すのだ。それは、相手も真似をしてきた。否、彼女だからこそ同じ戦法を取ったまで、という事だろう。 だからこそ、先に四重奏を放った偽物が些細な誤差だが削った体力的には有利であった。 奥歯を噛みしめたさざみ。嘲笑った偽物。 己の体力が尽きるまで負ける訳にはいかない。 己の精神力が尽き、その手に魔光を纏う事さえ、炎を放つ事さえできなくなってもなお。 殴打、殴打、殴打、殴打、殴打、殴打の交差。 生き残った方が本物。負けた方が偽物。だから、負ける訳にはいかない。 「まだ、まだ楽しみましょう?! どうしたの、息切れしているわよ?」 『……そう、これが本物』 ついに、さざみがフェイトの加護を受けた。だがそれと同時に振り出した拳が偽さざみの胸を貫いた。一歩差!! 『……偽物は、偽物ね。全く、腹が立つ』 「そうね、わたしの勝ちよ。でも……もう少し楽しみたかったわ」 『そう』 そして偽さざみは悔しいわ、と言い残して形も残さず消えていった。 ――AFより、仲間の声がする。 「セラフィーナ……」 すぐ行く。 走り出したさざみは仲間の下へ向かった。 ● 「そんじゃ、始めるかっ」 クロトは片方のナイフの切っ先を偽クロトへと突きつける。その先でもう一人の自分は妖しく笑った。 「お……俺ってああやって笑うのか?」 自分自身の鏡を見ているのだ。そうだ、と言えばそうなるが、あれは本物の偽物。いくらでも否定は可能だ。 「ま、いいや!」 『些細な事だ』 両者が言葉を切った瞬間、偽物は走り出し、本物は木陰へと身を隠した。 『本物はどうやら、臆病かよ! 俺が代わってやるから安心しろよな!』 何を言われようが、きちんと対策は用意してきたのだ。取り出したAF。頼むぜーと一言神頼みしながら、クロトはそれを木の根の間へと隠した。 追いついた偽物がクロトの頭上高々に舞い上がってナイフを一閃。だがその攻撃は寸前で移動開始したクロトの肩の服を引き千切っただけで終わる。やはり戦力差は同じと言えよう。己の行動を読めない事は無い。 『こざかしいな』 「まあまあ、鬼ごっこでもしようぜ?」 『付き合ってられるかよ!!』 クロトは再び走り出す――うっそうと生えている木の幹に姿を隠しながら。そして偽物の視界を嘲笑うようにかく乱させながら。 『何処だ、何処に行きやがった!!』 そのうち偽物も追うという行為を止めた。一点に留まり、クロトの居場所に検討が着くのを待つのだ。相手も此方を殺しに来ているのであれば、すぐ近くに居るのは妥当。逃げるという事はしないのは偽物である自身がよく解っている。 「……ザザ」 『そこか!!』 その時、森には不似合いな音が聞こえた。そのに居るのだろう、偽物がナイフを振り上げ跳躍したが――それは。 『AF!?』 「おつむは悪い、と。少しだけがっかりだな」 偽物のすぐ後方より、クロトが姿を現しナイフを繰り出す。片手のナイフには冷気を、もう片手には光を。 「そんじゃ、さいならだな」 不意打ちから放たれた呪いにより、ワンサイドゲームは此処から始まった。 ● バサバサ――と鳥が地面を蹴り上げた。突然に音に「ひっ」と一言。だがすぐにこほんと咳払いをした。 『白銀の鉄の塊』ティエ・アルギュロス(BNE004380)は見上げた。頭上から降り注ぐ、烏の笑い声がなんとも不愉快だ。 そして目の前で同じ姿の自分が一人。おそらく、元凶のアーティファクトはフィクサードが作った事は確定的明らか。だからこそ、壊さなければと気分がマッハと急ぐ。 まず――。 「目の前の私から対処すべきか」 『一瞬の油断が命取り――いくぞ』 「何いきなり話しかけてきちゃってるわけ?」 ネットで得た知識が猛威を振るうフュリエ。もっとマシなものを何故見つけられなかった、そして何故その知識習得にベストを尽くしてしまったのだとつっこみたい。 ティエは走り出す――偽物へとグラトニーソードを振り上げ。この勝負、先に速度をとったティエがいくらか有利となった。剣を正面から受け止めてしまった偽物はそのままショックの呪いを被る。 「破壊力はばつ牛ン」 『ぐ……!!』 偽物の腹部に大きく刺し込んだ剣。刃を掴んだ偽物の手から血の代わりに漆黒が漏れ出し、ティエの頬に赤い線を繋いだ。 だがリーガルブレードで受けた呪いは持続されているからか、大してティエにはダメージが行かない。一方的な攻撃ゲームになってしまったことにティエは「今までも経験が生きたか」と笑う。抜き、振り上げた剣。もう一度の攻撃――。 『怒りが有頂天になった!!』 偽物はまだ、諦めなかった。先程ティエが使ったリーガルブレードが今度はティエ自身を襲った。 絶望的な破壊力を誇るショック合戦は先制した者勝ちで続く――しかし。 「もう勝負ついてるから」 同じ剣がぶつかり、金属音が周囲に響く――。時間的にはタイムアッポという奴か。 「もうついたのか」 「まあな、助っ人参上!! 手伝うぜ!」 クロトが高く舞い上がりながら、偽物のティエへと刃を翳した。その攻撃が偽物を貫通したとき、ティエ自身の攻撃が栄える。 「時、既に時間切れだ」 ――禍々しき剣の切っ先が、昼の明かりに反射して不気味に輝く。それは敵を殲滅するのに十分な威力を持ってして断罪した。 ● 「ひいいぃぃ、タスケテー!」 山道を走る、計都。頭を抑え、目は涙目にしながらひたすらに飛び、逃げていた。 追ってくるのは自身の分身だ。本気で殺しに来ている目に怯えながら、殺されまいと彼女はひたすら空気を裂いていった。 ふと見れば、空けた場所がある。そこだ、計都はそう思いながら木の間を掻き分けて行く。だがその空けた場所へと出る寸前だった。後方より、紙と神秘でできた鴉が計都の背の服を破いていく。 ついに追いつかれた。 振り返る計都。 二発目の鴉が迫る――!! 「く、はっぐ!?」 そしてその胸を鴉が突き抜けた。漏れ出た苦しい声に、痛みに歪んだ顔。思わずくらっと倒れかけた身体を必死にその足でふんばって繋ぎ止めた。 「たはは、まさか自分自身にやられることがあるなんて思ってなかったッス」 『まさか本物が、そんなに腰抜けとは思わなかったッス。成り代わってやるからありがたく思うッスよ』 そう、ッスね。 自分より強い者が、自分の代わりをしてくれたほうが、がっぽ!がっぽ!AF盗んで、金儲けできるかもしれない。 そう考えたらそれもいいかなって、本気で瞳が諦めていた。それを見た偽者が、ため息交じりに止めの鴉を構成していく。 流れる、血。こびり付く、血臭。 もう、駄目かもしれない。 『さよならッス』 目を閉じた計都。だがしかし、すぐにその瞳は開く。 「ちぇ、駄目っすか」 『……?』 ――というのも、ここまで演技であって本気で怯えている訳では無い。 式紙が伝えた、AFの動向。逃げ足の早い烏は式符構成の烏が近づいてくる時点で逃げ失せた模様。 「逃げたのなら仕方ないッス。じゃ、あんたは用済みってところっすかね、可哀想とは思わないッス」 『な、ななな、演技!? んの!!』 「あらら? 崩れてるっすよ。所詮、九曜計都になれなかった偽者っす」 『な、なな』 がさり。木々の奥より、呪氷矢を構えた氷璃と双頭鎌を持った黎子が計都の背後より参じる。 「手伝うわよ、計都」 「3対1ですかぁ、ちょっとバランスが一方的ですぅ」 「あたしの非力さを舐めてもらっちゃ困るっす! 一人でもいけるッスよ」 構成する式。細い目で偽者を見つめた計都。 「始めるッス。成り代わりたいのなら、死ぬ気で来ないと――」 ――偽者の叫びに、森の鳥が一斉に空へと舞い上がった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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