● 殺せ。 殺せ、殺せ―― 頭のなかに直接鳴り響く、囁き。 其の声が聞こえる様になったのは何時だっただろうかと少年――明(あきら)は思考した。 そう、あれは確か父親が集めていたアンティークのコレクションの一つを手にしてしまってから。 『殺せ、殺したくて堪らないだろう? 何も躊躇う必要はない』 ああ、ああ、きっとそれは本当の事だ。 心の中に生まれたドス黒い衝動が、囁きに背中を押され沸騰した水のように熱く沸き上がっていく。 「殺し、たい」 頭の中に浮かんだのは、『こうなってしまってから』暫く会っていない幼馴染の少女――優衣(ゆい)の顔だ。 『いい加減、代わりばかりじゃ飽き飽きしていたところだろう?』 大当たりだ。 此処数日、心を、身体を支配する殺意を慰めて、鎮めようと適当な人間を殺してみたが。 「満たされない」 代わりを殺せば殺すほど。 渇きはより強く、強く、自分自身を蝕んでいく。 もしかすると自分は恋をしているのかも知れない、と明は思う。 こんなにも、相手の事を考え続けたのは初めてだったから。 「優衣……」 我慢出来ず、その名を呼ぶ。 遠ざけたのは、自分の方のはずだった。 なのに、今では寝ても覚めても、人を殺している時ですら――頭の中に彼女の事がちらついて仕方ない。 「君が、欲しい」 片腕そのものが、巨大なナイフと化した明の告白は、純粋で、狂気に満ちていた。 ● 「そういう告白は、受けたくないなぁ」 例えば、の話。 未来が視えてしまったとしたら、どうすればいいのか。 其れがよりにもよって、最近めっきり会わなくなってしまった幼馴染に自分が殺されるような少々悪夢にしたって趣味が悪すぎるようなものなら。 「白昼夢って奴なのかなぁ……」 白昼夢。 起きているのに、夢を見ているような体験というのは実際に存在するらしい。 とすれば――おぼろげに視えたシーンもそれに当たるのではないのだろうか。 が、何故だろうか。 「そうは思いたくないっていうか」 実を言えば、不思議な体験はこれに限った事ではないのだ。 朝起きて、鏡をみた時に『あれ、私こんな可愛かったっけ』なんて。 ほんの少しだけ、所謂美少女に近づいた気がした――ような。 「いや、流石にあれは只の見間違いっていうか自意識過剰なだけとして……」 もしも、視えてしまった未来が本当だったとしたら。 きっと自分は殺されてしまうのだろう。 夢とも、幻覚とも取れるその景色の中で視た彼――明の顔は本気だったし、凡そ普通の人間ではありえないような、思い出したくもない姿をしていた。 「イヤだよ、なんでこんなの視えるのかなぁ」 どうせ未来が視えるなら、宝くじの一等賞のナンバーでも見えた方が良いに決まってる。 運命って奴は、ホントいやらしい性格をしていると優衣は思う。 きっと、自分自身がこのまま泣き寝入りをしない事もきっと分かりきっているのだろう。 眼を閉じ、何かを決意するように頷くと優衣はそのまま家を一人飛び出していった。 ● 「――運命に翻弄された二人の結末は、絶望しかないのかしら」 ブリーフィングルームに集められたリベリスタ達に『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が告げたのは、近い未来に起こりうる出来事。 アーティファクトに触れ、革醒しノーフェイスと化した少年と、其れに殺される覚醒間もないフォーチュナの少女。 「ノーフェイスはフェーズ2で、一体化したナイフ型アーティファクトを用いた強力な斬撃を使ってくる」 斬撃は、自らの周囲を斬り裂くものの他に遠くの敵に対応するものも存在する。 更に、敵は自分が殺害した人間をE・アンデッドとして配下に従えているのだという。 こちらも、決して侮る事は出来ないだろう。 「フォーチュナの彼女――優衣は、彼を止めたいのね」 彼――ノーフェイスと化した明が未だ人に戻れると思っているのかも知れない。 が、当然放っておけば戦う力を持たない優衣は殺され、優衣を殺した明はそのまま単なる殺人鬼に成り果てるだろう。 「そんな、絶望の未来なんて嫌でしょう?」 映しだされた未来が絶望だというのなら。 その未来を変える為に動く自分たちは、いわば絶望を、希望に変える存在なのだとイヴは言うのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ゆうきひろ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月17日(金)22:47 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 過去が、決して覆ることがないものだとすれば。 未来は、逆に如何様にも変化し続ける『可能性』の塊である。 「ノーフェイスの少年と、フォーチュナに革醒した少女の二人、か」 夕陽が差し始めた街の一角。 仲間たちと共に、件の現場へ急行しながらツァイン・ウォーレス(BNE001520)の頭によぎるのは、過去のある光景。 そう、昔にも似たような事があった。 あの時は、二人ともノーフェイスだったなとツァインは思い出す。 人助けをしようとしていたノーフェイス。 それでも、運命が彼等を選ばなかったのだと非情にも手を下した記憶。 「何か、思うところがあるのですか?」 どこか陰りを帯びたツァインの表情を見てか。 隣を走っていた『振り返らずに歩む者』シィン・アーパーウィル(BNE004479)が声をかけた。 「助けたいなって思ってたんだ」 以前とは、違う。 今度は一人助けられそうだから、とツァインがシィンに語る。 「私たち皆で、頑張るのですよ!」 そんなツァインにシィンもまた、同じ想いだと笑顔で応える。 「そうそう、絶望しかない未来なんて嫌だよね」 未来は希望があってこそなんだから、と言うのは『狂奔する黒き風車は標となりて』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)。 「最悪の絶望なんて、絶対に回避してみせる」 バッドエンドなんて認めない。 どうせ迎えるなら、ハッピーエンドの方が良いにきまっているとフランシスカは思う。 「行きましょう。優衣さんが視てしまったもう一つの世界、神秘界」 その世界を、せめて少しでも優しい世界にする為にと言う『祈花の導鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)の言葉達に仲間たちが頷く。 ● 夕陽が差し始めた市街地に、其れは居た。 細身の少年の体躯には似合わぬ、歪で、巨大なナイフとも言うべき片腕をぶら下げた異形――ノーフェイス。 意地の悪い運命に愛されなかった愚者は、さらなる運命の流転でも起こらない限り世界を侵食しつづける害悪である。 もっとも、そんな事はこの時の少女には知り得ない事であり、同時に関係のない事だったのかも知れない。 彼女――優衣にとって一番大事なコトは、眼の前にいるおぞましい存在が自分にとって代わりなんていない幼馴染の一人だったことだけなのだから。 「明!」 息も絶え絶えに、幼馴染の名前を呼ぶ。 当てなんて無かった。 とにかく、ガムシャラにひたすら走り回った。 彼が自分に会いたがっているコトを彼女は、『知っていた』から。 影が長くなり始めた頃に彼の背中を見つけた時は、思わず声をかけてしまった。かけずにはいられなかった。 例え振り向いた彼の姿が、自分が良く知る幼馴染の姿じゃなかったとしても。 例え周囲に同じ様に、常識では考えがたい異形――ゾンビとも言うべき生気の絶えた人達を引き連れていたとしても。 「優衣……?」 「あたしが欲しいなら、此処にいるから! だから、もう何処にも行かないで!」 心のなかで、何を言ってるんだろと自分にツッコミを入れてしまいそうな言葉に優衣が自嘲気味に笑う。 でも、きっとそれは本心なんだとも優衣は思う。 「優衣、君が――――欲しい」 そんな、優衣の言葉に明は一度強く頷くと、大きく異形化した自分の片腕を引きずり、ゆっくりと優衣へと近づいていこうとする。 「――本当に、それでいいのか?」 眼前に、ゆっくりと迫り来る明にただただ立ち尽くしていただけの優衣の傍を、幾人かの影がすり抜け彼女をかばう様に明の前に立ちはだかる。 「え、な、何!?」 「驚かせてすまない、君を助けに来た!」 ツァインが優衣を背に言う。 「助けに……?」 「君を、殺させないというコトだ。訳は後で話す、ひとまず離れて貰えると助かる」 『リベリスタ見習い』高橋 禅次郎(BNE003527)がツァインの言葉に続く様に、言葉を紡ぐ。 そう、殺させなどしてたまるかと禅次郎は思う。 救える命を、救うためにこうして此処に駆けつけて来たのだから……。 「ここにいたら危ないのです。こっちですよ!」 「わわっ、ちょっ……!」 何を置いても先ずは、多少強引にでも明から優衣を引き離さなければならない。 ガッシリと優衣の腕を掴むと、シィンがそのまま一気に明や他のE・アンデッド達の脅威の及ばない場所まで下がっていく。 「優衣!」 「いかせん!」 まるで、愛する者同士が引き裂かれたかのような声を上げ動こうとする明を、駆けつけた『百獣百魔の王』降魔 刃紅郎(BNE002093)の愛馬が阻む。 尋常では無いその風格に気圧されたのか、明が一旦距離を取る様に人間とは思えない跳躍で後退する。 「此処から先に進みたいというのであれば、我らを超えてゆくのだな」 優衣への説得は、信じる仲間達がなんとかしてくれるだろう。 ならば、自分がすべき事は決まっていると刃紅郎が眼前の敵を見据えた。 「戦闘の邪魔はこれで入らないな」 元より説得自体に関与するつもりはない『アヴァルナ』遠野 結唯(BNE003604)もまた敵を屠る事だけを頭に留め前を見る。 アーティファクトによる殺人衝動に支配された異常者。 既に無関係の人間が殺されている以上、此処で止めなけれればさらなる被害が出る事は火を見るより明らかだ。 「何もなければ、あなた達二人は幸せにいられたのかも知れないね」 眼の前で優衣の名前を呼ぶ明。彼を見ながら『尽きせぬ想い』アリステア・ショーゼット(BNE000313)が言う。 彼が言う、君が欲しいという言葉。 それはきっと、『あなたが好きです』いう告白なのだろう。 だが、それも今は不出来な運命に歪められ、殺意の入り交じる醜悪なものになってしまった。 「これ以上、あなたの想いも歪めさせたりなんかしない!」 強い、決意の色を秘めた瞳。 運命は、今まさに少しずつ変動し始めようとしている。 ● 明から優衣を素早く引き離したリベリスタ達。 神秘について何も知らない彼女に対し、シィンをはじめとした後衛達が先ずは事情を説明し、何故自分達が此処へ来たのかを伝えるのが彼等のとった行動だ。 その際、懸念になるであろう明や取り巻きのE・アンデッド達を優衣の元へたどり着かせないために、二重に前衛を敷く。 「我が覇道を阻む者達よ、立ちはだかると言うのならば圧倒的な力の前に己が愚かさを噛み締めるが良い!」 自身の生命力を純粋な力へ変え、肉体の制限を凌駕した刃紅郎が明やアンデッド達を前に、咆哮する。 咆哮と同時に掲げられた『真打・獅子王「煌」』の刀身が、夕陽に鮮やかに煌めいた。 「先ずは、邪魔なゾンビ共から……だったな」 結唯が、黒く染まった格闘銃器『Faust Rohr』をアンデッドの内の一体へと向ける。 「滅ぼしてやる……」 正確無比な狙い。 敵へ向けた機械の指先から、連続で銃弾を発射すればそのどれもが外れる事なく、アンデッドの身体へと吸い込まれるように命中してゆく。 「彼女には近づかせはしない。お前達もだ」 結唯の弾幕を皮切りに、今度は禅次郎が愛用の大業物を振るう。 禅次郎の漆黒のオーラに染まった刀身から放たれるは夜の畏怖を彷彿とさせる常闇。 アンデッド達は次々と、その圧倒的な闇に呑まれいった。 「邪魔をするなよ。疼くんだよ、身体が……あいつを、優衣を殺せって!」 「行かせるか! ちょっと大人しくしてろ!」 仲間が優衣に事情を説明し終えるまでは、明に攻撃を加えない。 それがツァインを始めとした前衛達の考えだ。 明を仲間たちと挟み込むように移動したツァインがそのまま手近なアンデッドの一体を、一点の曇りもない輝きに満ちたブロードソードで斬り裂く。 「満たされない、満たされない、殺してやる……お前達も殺してやる!」 狂ったように叫びながら、明が身体を独楽のようにその場で回転させながら周囲に居たツァイン、フランシスカ、禅次郎の三人の身体を斬り刻む。 まるで、荒れ狂う暴風の様な凄まじい斬撃に三人が思わず顔を歪める。 「痛ッ……! やってくれるわね!」 思わず、『アヴァラブレイカー』をそのまま叩きこんでやろうかと思うほどの一撃。 だが、今は耐える時である事をフランシスカは知っている。かの完全世界に存在したバイデンの黒き剣が狙うは、彼の周囲に存在するアンデッド達のみ。 巨獣の骨より創りだされし黒き剣から放たれた暗黒の闇が、アンデッド達を容赦なく襲う。 闇に飲み込まれた内の一体が、力なく元の死体へと還るのを見届けるとほっと一息をついた。 ふと後ろに目をやれば、シィンや遥紀、アリステア達が優衣への説得を開始していた。 「頼むわよ皆。それまでは、此処は絶対に通さない!」 アヴァラブレイカーを風車の用に振り回し、迫り来るアンデッド達の攻撃を躱し或いは耐えながらフランシスカ達が吠える。 ● 前衛達が、明やアンデッド達を押しとどめているのとほぼ時を同じくして、後方ではシィン達が優衣への説明と説得を行なっていた。 明が、彼の腕に取り憑いてしまったナイフの所為でノーフェイスという怪物になってしまった事。 ノーフェイスが一度そうなってしまえば、二度と元に戻る事は出来ないという事、存在するだけでこの世界を壊してしまうという事。 「だから……」 殺すコトで、彼を止めなければならないと。 シィンが紡ごうとした言葉は、泣き出しそうな顔をしながらも真摯に受け止めようとする少女の瞳に喉元で止まってしまった。 「――俺達は、彼を殺さなければならない」 シィンの代わりに、遥紀が続きを紡ぐ。 「世界の敵である彼を、人を殺めてしまった彼を」 苦虫を噛み締めるような顔で、御免とつぶやく遥紀に優衣が静かに首を横に振った。 「そして、今日起こっているこの出来事……未来が観えた貴方は、フォーチュナ。彼とは違い運命に選ばれ、世界を壊さずに存在を許されたのです」 遥紀に軽くお辞儀をしながら、再びシィンが言葉を紡ぐ。 「優衣さんには辛いかもしれないですけど、見届けて欲しいのですよ」 これから、見続けるコトになる光景だから。 これから、防ぐコトが出来る光景だから。 だから耐えて、これが最初で最後の、防げなかった未来だと思って見届けてくださいと、シィンは今度は躊躇わず、心からの言葉を優衣にぶつける。 「運命って、嫌な性格してるんだね。私、明がいなくなってからずっと何処行っちゃったんだろうって探してて。だから、なのかな」 だから、運命は優衣に力を貸してくれたのかもしれない。 もっとも、それで得たものは知らないほうが幸せなままで居られたかもしれない辛い未来だったけれど。 「運命は、もとに戻す力はくれないんだ。わたしのこの翼も同じ」 フライダークの特徴である、翼を隠すことなく優衣に見せながらアリステアが言う。 「おにぃちゃんは、おねぇちゃんが得た『未来』を視る力で見えた通り、何人も人を殺めてる。でも」 未来は、変えるコトが出来るとアリステアは言葉を続ける。 「残酷な事ばかりを強いてごめん、目を逸らしたって構わない。けど、君が見過ごさない強さを持っていると、知っているから」 優衣への説得は続けながら。 度重なる猛攻に傷つきつつあった前衛の仲間たちに、遥紀が聖神の息吹で致命的な傷を癒すべく、癒しを与える。 優衣への言葉は続く。 言葉を投げかけるのは何も、彼等だけではない。 「本当にごめんな。でも奴等の侵食速度ってのはそれを待ってやれる程にも甘くないんだ。頼む、信じて欲しい。そして決めて欲しいんだ!」 「もしも奴がお前を殺せば止まると思っているなら大間違いだ。恐らくタガが外れて更に手を付けられなくなり、犠牲者は増える事になる」 前衛で必至に戦う禅次郎やツァイン達もまた、同様に戦いの合間合間に優衣へ自分の気持ちを伝えていく。 懸命に自分を守ろうとする人達。 自分に、嫌われるかもしれない。恨まれるかもしれないのを解っていてすべてを話してくれる人達。 「どうか、見送ってあげてくれないか。彼の最期は神秘に歪められる……親しい人で覚えていられるのは、君しかいないんだ」 「私は……」 優衣の頭に浮かぶのは、今日逃げずに此処に来た時の気持ち。 逃げようと思えば、簡単に出来た筈だ。 此処へ来たのは何の為だったのだろう。 答えは、既に出ていたのかも知れない。 「お願い、明をとめて」 それが、何を意味するかを知った上で懇願する優衣に、強くリベリスタ達が頷いた。 ● 一つ一つは、単なる可能性の点に過ぎなかった。 けれども、同じ希望を見据えた可能性が重なり合うコトで、点は線となり未来をカタチ創る。 「所詮は死体共か」 我が前に立つには、力不足だったなと眼の前に倒れ伏し只の死体へ還った最期のアンデッドを見下ろし刃紅郎がつぶやいた。 「説得もどうやら済んだらしい。後は、あの異常者だけか」 刃紅郎に結唯が頷く。 明を傷つけずに、取り巻きのアンデッド達のみを優衣の説得が終わるまで相手しつづける。 無論、アンデッド如きに遅れを取るリベリスタ達ではなかったが……狙われないのを良い事に、容赦なくその身と融合したナイフを振るう明の攻撃に前衛達の身体も少しずつつ浪費されていた。 「随分しぶといケド、いい加減邪魔なんだよアンタ等!」 自らの衝動を力に変え、明が力任せに刃を振るう。 生み出された圧倒的な質量の衝撃波が眼の前にいる有象無象を斬り裂き、リベリスタ達が大きく陣形を乱される。 「皆さん、今傷を癒すのですよ!」 「優衣さんはもう大丈夫! 明おにぃちゃんを止めて欲しいって!」 アリステアとシィンが息を合わせるように、聖神の息吹とエル・リブートで仲間たちの傷を癒す。 「わかってくれたんだな」 後方を見たツァインの視線の先には、じっと戦いの行く末を見つめようとする優衣の姿があった。 「さぁ、終わろう? こんな悲しい悪夢は。そう、これは悪夢。ならばせめて、最後は希望があるべきよね? 明、あなたが優衣を殺さないことがせめてもの希望になるといいわね」 「彼女は残酷な現実と向き合う決意をしたのだな。そうだ、そこにこそ真実がある……人の心。希望は絶望になど負けぬ」 迷いを振り切った少女の『決意』に応えるべく、フランシスカや刃紅郎がより一層強くその手に携えた武器を振るう。 黒い風車の様に、疾風を纏いながらフランシスカが奪命剣で致命的な一撃を与え続く刃紅郎がハードブレイクで重圧を加える。 明の態勢が崩れたところに、すかさず今度は結唯のバウンティショットが異形化した片腕に狙いを定め、銃弾を次々と撃ちこむ。 やられるばかりではないと、連携攻撃を受けた痛みに顔を歪ませながら明が身体を独楽の様に回転させ、周囲の敵を薙ぎ払う。 「テメェはいい加減にしろよ!したかったのは本当にこんな事かよッ!」 傷つきながらも、膝をつかずにリーガルブレードを目一杯の力でツァインが叩きこむ。 「したかった事……」 「思い出せないのなら、そのまま眠れ」 ツァインに続いて、今度は禅次郎がソウルバーンを叩きこむ。 叩きこまれた衝撃に、明の顔が歪み態勢が崩れかける。 「明おにぃちゃんの気持ちは、本当の気持ちは! 優衣おねぇちゃんを殺したいなんて気持ちじゃないはずだよ!」 エアリアルフェザード。 フライダークの域に達したアリステアの圧倒的な魔力の風が渦となり、明の身体を斬り刻んでいく。 その一撃で、明が大きくよろめく。 「君は底意地の悪い運命の偏愛を受けられなかっただけ。唯、大切な人への想いを抱いていただけなのに、な」 伝えたい事は、あるかい? そんなモノに蝕まれる前の、優しい想いは未だ、あるかい、と。 遥紀が優しく諭すように、明に言葉を投げかけながら、破邪の詠唱が明の身体を浄化するように激しく燃え上がらせる。 灰が灰に、塵が塵に還ってゆく程の勢いを持つ炎の浄化が終わり静かにその場に明が倒れこむ。 「―――」 その刹那、ほんの僅か一瞬。 声にならない彼の、最期の声――僅かに残っていた本当の気持ちを、確かにリベリスタ達は聞いた気がした。 そしてそれは、後方で戦いの一部始終を見守っていた優衣にとっても同じ。 「ばか」 泣き出しそうな声色で、ただ一言。 運命に愛されなかった大切な幼馴染に、少女は言葉を告げた。 ● 「……暇なら、アークにでも来ればいい」 戦いは終わった。 が、彼女がフォーチュナである限り、今後も望まぬ過去や未来を知る機会は巡ってくることになるだろう。 それならば、アークに来て神秘やこの世界、自分自身の力について少しでも知る事が出来た方が良いだろうと結唯は言う。 「勿論、今直ぐにとは言わないよ」 優衣おねぇちゃんが、ゆっくりと心の整理が出来てからで構わないからとアリステアが微笑む。 その言葉に他のリベリスタ達もまた、強く頷く。 方舟への勧誘。 きっと、踏み出せば二度と昨日までの日常に戻る事は出来ないだろうと優衣は思う。 「私、私はね」 望まぬ未来をその瞳に宿し、運命に愛された彼女が選んだ道は――――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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