●憎い憎いは可哀の裏 夜道を一人で歩くのは危険だ。しかし、二人以上なら安全かといえば、そうとも限らない。 特に、とある公園の花壇の近くを通る時は気をつけたほうがいいだろう。 そこには、『彼女』が潜んでいる。 自然溢れる公園を、仲睦まじそうに歩く男女がいる。多愛のない話に花を咲かせ、楽しげに笑い合うその姿の、なんと幸せそうな事か。 けれどもそんな彼らの事を、恨めしげに見やる影が一つ。 花壇に身を潜めるその影の唇が、象る言葉は「アア、ニクイ!」 穏やかな談笑は唐突に終わりを告げ、男女の歩みは強制的に止めさせられる。笑声が、瞬く間に悲鳴へとすりかわる。 花壇から飛び出してきた影が、衝動のままに二人を嬲り、彼らの体を血で染め上げたのだ。 濁った二つの瞳が、物言わぬ死体と化した男女を見下ろす。もう『それら』は笑う事はなく、もう『それら』は幸福を感じる事もない。 ――ニクイ! ニクイ! けれども影は、満たされない。 闇夜にぼんやりと浮かんだ女子高生のような姿の影は、抑えきれぬ怨嗟に頭を抱え身を捩る。 ――ニクイ! ニクイ! 恋人と愛を囁き合う奴らが憎い。器用に世を渡る奴らが憎い。親に愛されている奴らが憎い。友人に囲まれている奴らが憎い。自分より幸せそうな奴らが憎い。生きている奴らが憎い。楽しそうな奴らが憎い。 自分が悲しんでいる事を、知らない奴ら全部が憎い。 ――ニクイ! ニクイ! 嗚呼、憎い。全てが憎い。お前が憎いしあいつも憎い。この世の全てが憎らしい。 そして何より、 ――ミジメナ、アタシガ、イチバンニクイッ! ●ところで、貴方は幸福ですか? 「数日前に事故死した少女の怨念が、E・フォースとなってとある公園の花壇に住み着いているわ。討伐をお願い」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の小さな唇が、今日も運命を紡ぎ始める。 件のE・フォースは、普段は花壇に潜み隠れているが、幸せそうな者達や楽しそうな者達を見かけると姿を現し襲い掛かってくるのだという。 「フェーズは2。人を不運にするような恨み事を吐いたり、恨みのこもった無数の弾を放ったりするよ」 また、近くにいる者達を拒絶するかのように弾き飛ばす事もあるようだ。 配下には、花壇の花が元となったE・ビーストを三体従えている。 ビースト達は、花びらで複数の者を切り裂いたり、麻痺の効果を持つ花粉を撒き散らしたり、味方の傷を癒す力を持っているという。 「彼女、この世の殆どのものを憎んでるみたいだけれど、花だけは好きみたい。だから、花壇の花に手荒な真似をしたり、E・ビースト達が倒されたら激昂する可能性もあるから、注意して」 イヴが見たのは未来の映像だ。幸いにも、まだ犠牲者は出ていない。 けれどもそれも時間の問題な上、このまま放っておくと花壇の他の花まで革醒してしまう危険性がある。事態を悪化させる前に、早急に討伐をする必要があるだろう。 「貴方達なら大丈夫だと思うけど、油断は禁物だよ。くれぐれも、気をつけて」 信頼、そして僅かな心配を孕んだ瞳で一度それぞれの顔を見やってから、イヴはリベリスタ達の事を送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:シマダ。 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月24日(金)23:48 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●隣の芝生も春も青く 日はとうに暮れたというのに、今宵のその場所は少し賑わいを見せていた。 花壇に身を潜めつつ、『彼女』……E・フォースは恨みがましい瞳で彼らの姿を見やっている。 缶コーヒーを飲んでいるがっしりとした体躯の男、花を見ている物腰柔らかそうな見物客。 他にも、楽しげに談笑をしている数人の者達。少し離れたところでは、スパーリングをしている男性の姿もある。 その全てが、E・フォースにとっては妬ましい存在に思えた。 中でもE・フォースの胸をかき回したのは、花壇の近くで話をしている自分と同じくらいの年であろう少年少女達だ。 仲睦まじそうに笑い合うその姿に、もう存在しないはずの心臓がキリキリと締め付けられるかのような錯覚に陥る。嗚呼、 ――ニクイ! ニクイ! ニクイ! 「そうだ。お花の冠つくったげるね」 そしてあろう事か、愛らしいドレスを身にまとったその小柄な少女は、花壇の花へと手をかける。ぷつり、という茎の折れる小さな音が耳へと届いた。 その仕草はひどく優しげではあったものの、E・フォースの瞳にはそうは映らない。花壇に身を潜めている影は、憎悪と怒りに体を震わせながら苛立たしげに爪を噛む。 「うん、いい出来!」 摘んだ花で花冠を作った少女が、少年の頭へとそれを乗せた。「……んー。もうちょっとここはこうかな……?」細かいところを少女が整え、少年が笑顔でお礼を言う。 花を殺して作った冠だなんて、なんと悪趣味な! 嗚呼、憎らしい! 最早我慢の限界であった。そうして、E・フォースは彼らの前に姿を現す。瞳にありったけの憎悪を宿し、「ニクイ! ニクイ!」と叫びながら。 これがリベリスタ達の作戦であった事など、露知らず。 少年、『男一匹』貴志 正太郎(BNE004285)と、少女、『◆』×『★』ヘーベル・バックハウス(BNE004424)が即座に花壇から距離をとる。彼らの事を追いかけ、E・フォースも花壇から踊り出る。 けれど、はたと違和感に気付いたのか、フォースは自身の仲間であるE・ビースト達の姿を確認しようと花壇を振り向こうとする――けれど、それは叶わなかった。 「割り込み注意だ」 何せ、今宵彼女が対峙する事となったトカゲは、速すぎたのだ。 まさに、神速。その二文字を掲げるに相応しい男、『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)が、目では追いきれぬ速度でE・フォースとE・ビースト達の間へと割り込んだ。 「正太郎、任せるぞ!」 「おう!」 鷲祐の言葉に、正太郎が頷く。声を掛け合い、アイコンタクトを取り合い、リベリスタ達は予定していた位置へとつく。 E・フォースとE・ビーストの距離が開く。E・フォースの愛しい花は、彼女が手を伸ばしても届かない場所へ。 リベリスタ達の作戦の第一段階は成功し、見事敵は分断された。 E・フォースの怨嗟の声が、ますます激しくなる。この世への恨みのこめられた、おどろおどろしい叫び声。 「悪いが、恨みでやられてやるわけにはいかないからな」 けれど、『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)は怯まない。E・エリューションと誘き出し役の二人の様子に注意を払いつつも、その赤の瞳は真っ直ぐに前を見据えていた。 「子供や女の子が神秘の犠牲になるのは、いつ見ても本当に嫌だな」 『ピジョンブラッド』ロアン・シュヴァイヤー(BNE003963)の表情に、少し陰りがまじる。 憎まれて然るべき者はいるとロアンは思う。けれど、憎むというのは何より自分を傷つける行為。 「必要以上に何かを憎むのは、もうやめにしよう? ……自分を痛めつけるのは、もうやめさせるよ」 辺りには入念に結界が張られてる上、公園の入り口は正太郎の持ってきていた工事看板で塞がれている。無関係な一般人が、ここに入り込んできてしまう気配は今のところない。 正太郎とヘーベルがエリューションを誘き出していた内に、リベリスタ達は戦闘に備えていた。戦場の準備は、整っている。 『ラプソディダンサー』出田 与作(BNE001111)は、戦闘の余波を受けぬ花壇の隅へと置かれたものを一度だけ確認する。 (出来る事はやる。だが、それはやるべき事が終わってからだ) 「では、状況を開始します」 スイッチのオンオフが切り替わるかのように、先程花を見物していた時とは雰囲気が一変した与作が冷静な声音で告げた。 掛け声と共に、『Brave Hero』祭雅・疾風(BNE001656)がアークフォンⅢから装備をダウンロード。瞬く間に、その体は龍を彷彿とさせる特撮ヒーロー風の全身鎧へと包まれる。 『初めてのダークナイト』シャルロッテ・ニーチェ・アルバート(BNE003405)も、敵前へと足を進めた。 悲しい可哀想な物語、運命に見放されてもっと悲哀な物語。 運命をかきまぜれなく流されて堕ちていった女の子の物語。 生きても切ない、死して悲しい女の子のお話。 「語り部は世界、聞き手は私」 ――幕を閉じるのは私達。 ●その子供は花を愛し E・フォースの抑えを担当しているのは、正太郎とヘーベルの二名だ。 なるべく他のリベリスタ達が目に入らない位置へとE・フォースを誘導し、二人は彼女からの攻撃に耐える。 予想以上に深く入った一撃に、正太郎の眉が僅かに歪んだ。しかし、心配そうに自分を見やったヘーベルに彼はニッと笑みを返す。 「これくらい、ヘーベルの回復と気合いがありゃ乗り切れる! 頼りにしてんぜ、ヒロイン!」 「さすがマイヒーロー!」 ヘーベルも、元気な様子で武器である埴輪を揺らした。回復役であるヘーベルを庇う正太郎の傷を、彼女の歌声が癒していく。 E・フォースは協力し合う彼らの姿が気に入らず、ますます正太郎達に執着していく。これでしばらくは、自分達に興味を引き付ける事が出来るだろう。 「E・フォース……」相手の事を呼びかけて、正太郎は舌打ちと共に「呼びにくいな」と付け加えた。 「ねえ、あなたのお名前はなんていうの?」 「ウルサイ! ニクイ! ニクイ!」 ヘーベルの問いかけに返ってくるのは、憎悪の込められた弾丸だけだ。 答えを返す気のない影に、正太郎は言う。 「しゃあねえ、名乗らねえなら、花子って呼ぶぜ」 E・フォースは何か異論がありそうに口を数回開閉させたが、結局こぼれ出たのは「ニクイ!」の三文字だけであった。 ヘーベルは疑問に思う。何故彼女は世界を憎むのか。事故死したのなら、怨むのはトラックくらいではないのか。 周りの幸福が、彼女を歪めてしまったのだろうか。 (マイヒーローは彼女を救ってくれる?) 仲間達のコンディションを気遣う折に、ヘーベルは仲間のリベリスタ達に胸中で尋ねる。今宵の任務を終えた時、その答えを知る事が出来るのだろうか。 「アア、ニクイ! ニクイ!」 フォースは叫ぶ。憎らしげに叫ぶ。 ああ、そうだ。世の中、腹の立つ事ばかりだ。恨み事があるのなら、全てを正太郎は聞いてやるつもりでここに立っていた。 だから、正面からぶつかってこいと正太郎は相手に告げる。 「全部、オレに吐き出してみろよ! 受け止めてやるよ!」 ふわりふわりと浮かぶ三体の花。フォースから少し離れた場所では、E・ビースト達とリベリスタ達の攻防が繰り広げられている。 ヘーベルが授けた翼の加護により、花壇を荒らしてしまいフォースの怒りを買う危険性は減っている。無論、それでもリベリスタ達は花壇や少女の様子を気にかける事を怠らない。 「――逃がさんッ!」 隙を見てはE・フォースの方へと向かおうとする異形の大輪を、鷲祐は決して逃さない。一度集中してから、続けざまにナイフを振るう。光の飛沫が散り、E・ビーストを瀟洒に刺突する。 与作が展開した多数の幻影も、それに続くようにエリューション達の花びらを散らして行った。まるで血のように、辺りに赤い花びらが舞う。 E・ビーストも負けじと、花びらを飛ばしリベリスタ達を切り刻む。鋭い花びらがリベリスタ達へと襲いかかる。 けれど、その鋭い攻撃であっても、義弘の侠気に満足に傷をつける事は叶わない。臆せず義弘は前へ前へと進み、ビーストを輝きを纏ったメイスで打ち払った。 まさに疾風(しっぷう)のごとき素早さで、雷撃を纏った疾風の一撃が敵エリューションの命を削り取る。 周囲に甘い香りが漂う。E・ビーストの一体が、味方の傷を癒す香りを放ったのだ。更に、もう一体のビーストが再び花びらを飛ばしリベリスタ達に猛威を振るった。 「あの娘と話したいんだ、速攻で終わらせるよ」 ロアンにより、異形の花へと死の刻印が刻まれる。猛毒がビーストを侵し、悶え苦しむようにその体が左右へとふわりと揺れた。 「これくらい食らえば、問題ないね」 自身の傷を確認し、シャルロッテは魔弓を構える。 「じゃあ、はじめるよ。痛みは返りもだえ苦しむんだよー」 オッドアイの少女により繰り出されるは、ペインキラー。自らが受けた痛みを、呪いへと変え相手へと刻み付ける技。このためにシャルロッテは、先程までわざと前のほうへと出ていたのだ。 一体ずつ確実に倒していくため、リベリスタ達は息を合わせ同じ対象を狙い続ける。 ビースト達の体の自由を奪う粉を振りまく攻撃は厄介だが、その度に義弘が邪気を寄せ付けぬ光を放ち対処し、リベリスタ達に出来た傷は戦場全体をしっかりと見ているヘーベルによって癒されていく。 E・ビースト達も決して易しい敵ではない。けれども、今宵集まったリベリスタ達は、速さも守りも攻めも付け入る隙がないのだ。 やがて、異形の花という脅威は一体二体と数を減らしていき、ついには最後の一体もリベリスタ達の攻撃によりその花弁を散らす事となった。 ●その子供は花に愛されたかった 花は散る。ふわりと。まるでたちの悪い冗談のように、けれどどこまでも美しく。 その事に気付いたE・フォースの表情に怒りと、そして焦りがまじる。その喉からは無意識の内に叫び声が絞り出される。 「ヤメテ!」 やめて。どうしてそんな事するの。ひどい。にくい。 ――ユイイツノアタシノ、トモダチナノニ! その声は言葉にならない。代わりに、凶器となりリベリスタ達へと襲いかかる。 見事フォースを抑えきった正太郎とヘーベルに、ビーストの相手をしていた仲間達も合流する。 「妬みも嫉みも、人の一つだ。それでいいなら、それでいい。だがお前は――やり過ぎた!」 瞬時にフォースへの背後に回った鷲祐により繰り出された一撃に、フォースはたじろぐ。その傷を癒してくれるはずの自身の配下の愛しい花は、もうこの場にはいない。少女の憎悪が、更に増していく。 「ニクイ! ニクイニクイニクイ!」 吐き出される怨嗟の言葉に、(やれやれ汚れ役だな)と鷲祐は胸中で肩をすくめた。けれど、 「憎めばいい。吐き出せばいい。俺の役割はそれだ!」 彼は真正面から、フォースの呪詛と対峙する。 与作の作り出した幻影が、フォースを翻弄する強烈な痛打を与えた。落ち着いた態度で、彼は相手の次の出方に注意を払う。 義弘の放った光がリベリスタ達を包み込み、先程のフォースの攻撃で呪われた者達を解き放つ。 「気の毒だったとは思う。けれど、憎悪の連鎖を断ち切る為に倒す!」 疾風のDCナイフ[龍牙]が、敵エリューションを切り裂いた。フォースの元となった少女に同情の余地はあるかもしれない。 だが、関わりも無く罪も無い人達が恨まれ傷つけられて良いという道理はない。人々を護るために、Brave Heroの刃は振るわれる。 「無念だよね。どうして自分が……って悔しいよね、もっと死ぬべき奴も居ただろうに……ああ、僕も悔しい」 どんなに拒まれても、恨みを浴びても、ロアンはE・フォースの元へと歩みを進める。 自身の痛みなど気にせず、まるで何て事がないかのように微笑みながら。 「けど、不特定の多くを憎むのって辛いよね? これから君を殺す僕か、君にこんな理不尽を背負わせた神様だけを憎んだらいい」 神様。ロアンはそれが嫌いだ。何一つ救ってくれやしない。 だから、恨み役くらい買って貰わないと、と彼は付け足す。銀の髪が揺れ、間合いが詰められた。鮮やかな一撃が、フォースに放たれる。 ……シャルロッテには判らない。 少女の事を、笑顔で見送ったほうが良いのか。悲しく見送るべきなのか。 けれどもそれは、その時に考える事だ。今は彼女を殺してあげる事が大事であり、優先すべき事。 「悲しいよね辛いよね。だから救ってあげる」 故に彼女は、フォースに呪いを返す。E・ビーストと戦ってる時に纏った闇が、魔弓の威力を上げている。シャルロッテの感じた痛みを孕んだ攻撃に、フォースが呻いた。 「此処にいても、幸せは来ないよ。おやすみなさいしよう?」 味方の傷を癒しながら、ヘーベルはフォースに優しげな声音で言葉を投げる。此処にいても、フォースにとってのハッピーエンドは訪れない。 先程まで受け身に徹していた正太郎も、今度は攻撃へと回る番だ。真っ直ぐな一撃が、エリューション……否、花子に振るわれる。 「イヤダ、イヤダ、イヤダ。コンナトコロデ、コンナフウニ、ミジメナサイゴヲトゲルナンテ……!」 最早、勝敗はついてしまっているようなものであった。彼女にリベリスタに対抗する力は、もう残っていない。 「イヤダ、ニクイ、ニクイ! ダレカ! ニクイ!!!!」 それでもなお、彼女はリベリスタ達に立ち向かってこようとし、そして、目の前に広がる光景に目を見張った。 少女の瞳に宿る色が、憎悪から驚愕へと塗り替えられる。 そこにあったのは、一面の、花。 花。花。花。 ――見渡す限りの、花畑。 「おやすみなさい……」 それはヘーベルの作り出した幻影。せめて愛しいもので視界を埋められるように。少女が笑顔で眠れるように。彼女の優しい思いが、E・フォースの瞳に見せた愛するものの幻。 「おい、花子。オレは、貴志正太郎は、オマエのことは絶対に忘れねえ。オンナにゃわかんねえか? ……タイマンはったら、ダチなんだよ」 正太郎はそう言って、何かをE・フォースへと差し出した。懐かしくて、愛しい香りがする。色鮮やかな、輪っか。 「なあ、オマエはもう、一人じゃねえぜ。オマエは、オレの大切なダチだ」 それはヘーベルが作った、花冠だった。 フォースが妬ましげに見ていたそれ。花を殺して作った冠など、なんと悪趣味だ、と罵ったそれ。 けれど、本当は、本当はずっとこれが……欲しかったのだ。羨ましくて仕方なかっただけなのだ。 何故なら少女は、花が大好きな、花子なのだから。 「せめて愛したまま、行ってこい」 ――今は、新たなお前の種になる。 鷲祐の放った神速の一蹴が、彼女の最期を鮮やかに彩った。 幻影の花に受け止められるかのように、倒れ伏した少女。その唇が僅かに動く。紡がれた言葉は、「……アア、ニクイ」 けれども消え行くその瞬間彼女の顔が象ったのは、どこか安堵の色を孕んだ笑みのようにも見えた。 ●憎い憎いは可愛いの裏 「せめて冥福を祈るよ。安らかに眠れ」 疾風が、花壇に向かい呟く。ロアンも、死後の旅路が幸せなものであるよう、大嫌いな神様にすら祈らずにはいられなかった。 義弘により綺麗に整えられた花壇に、戦場の痕は残っていない。 与作は、花壇の隅へと置いていた例のものを取りに行く。それは、沢山の花束であった。 「この程度で何が変わると思ってるわけじゃない、けどね、俺に、君のバッドエンドをハッピーエンドに出来るような力はない、けどね」 死を悼んで、最期を花で飾る位の事は出来る。 E・フォースが喜ぶかどうか、与作には分からない。けれど自分に出来る精一杯を、花束に添えて花壇へと捧げる。他のリベリスタ達も、各々持ち寄った花を供える。 「元々洒落た事が出来るたちでも無くてね。勘弁してくれると嬉しいな」 最後に、なるべく華やかで可愛い花を選んだ事を語り、与作は「女の子だしね」と苦笑した。 後日、リベリスタ達の手により、事故現場と少女のお墓にも綺麗な花が手向けられた。 彼女の愛したものが、風に揺られる。何枚かの花びらが、そのまま風にさらわれていく。 けれど、もう恨みの声は聞こえてこない。優しく甘い花の香りが、悪戯に鼻をくすぐるだけなのだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|