● 唐突な話で恐縮だが、人にはそれぞれ『趣味』というものがある。 絵画鑑賞も趣味なら、絵画を描くのも趣味だろう。 スポーツを行うこともスポーツを観戦することも趣味と言えるのだから――私のこれも『趣味』のはずだ。 「やめろ、やめてくれ!」 「――いい悲鳴だ」 舌なめずりをしそうになる。 素晴らしい素材だ。この青年――20半ばだろうか? 端正な顔立ちだが、中性的とは程遠い。男前、という言葉がよく似合う。 先程そのあたりをランニングしていたところを拾ってきた。拉致などと言う言葉を使うでない、道に落ちてたのだから拾ってきたのだ。 筋肉質な体は、しかし鍛えすぎでもなく、適度に引き締まりを見せている。 まったく――実に素晴らしい! 私は彼に歩み寄り、その服を引き裂く。 「ふむ、これで君の服はなくなってしまったわけだな」 下着までは破きたくないのが本音だが――実際、男物の下着のほうが私の『趣味』なのだ――、それを残してしまっては本懐を遂げられぬ。 「その姿のまま街に出れば、まず間違いなく君は社会的に死亡するだろう」 さあ、苦悩しろ。 そして私の差し出すこれを、身につけるが良い。 この純白のウエディングドレスを!!! ● 机に突っ伏したままの『まやかし占い』揚羽 菫(nBNE000243)に、若干の殺意を覚えたリベリスタもいるかもしれなかった。なんてものを予知しやがったてめえ。 「……ともかく、この青年を皮切りに、ノーフェイスは男を捕まえては強制女装をさせ始める。 一般人がこいつの被害にあった場合、肉体的な被害はないが、軒並み精神的な被害が大きく、社会復帰が難しくなってしまうようだ。 今なら被害は少なくて済むだろう。出ないとは言わん――諦めてくれ」 「アキラメロ、だと?」 詰め寄ったリベリスタに、なんまんだぶ、とか言い始めた菫は全力で目を逸らしながら説明を続ける。 「あー、残念ながら? このノーフェイスをとっちめようと思ったら? り、リベリスタが女装する必要が有ることがわかっちゃったりなんかしたりした上に? 女装が普通の、『男の娘』とかでは攻撃が通らないことがわかってしまって? ――つまり、女装の似合いそうもない男が、泣きそうな程に嫌がりながらの女装でないと攻撃が通らんと」 誤魔化したいあまりに言葉尻がいちいちおかしくなっている菫に、これ以上言っても仕方ない。 リベリスタとして、罪なき一般人が被害を負ってしまう前に。 頑張るといいと思うんだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ももんが | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月19日(日)22:08 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 田中さんが女装趣味ならぬ女装させ趣味に目覚めたのは、高校時代だ。 彼の所属した演劇部が文化祭で企画した展示が「舞台衣装を着てスポットライトを浴びてみよう」というものだったのだ。その中で、悪ふざけした男の子たちが着てみたいと言い出した衣装が――後はわかるな? ● 「この世の中どうしても理解されぬことは少なくないものだ……、このワシも胸を痛めることが多い……。 だからといって相手の承諾を得ることなく無理強いするのは、許せん! ………。いや……待て?」 当たり前の義憤に拳を固める『みんなのカイチョー』四十谷 義光(BNE004449)は、しかしその姿勢のまま逡巡を見せた。 「理解されずフラストレーションがたまった結果がエリューション化だとしたら? 誰か一人でも手を差し伸べる奴がいれば……。 クッ、もしかしたらコイツは悲しい奴なのかもしれん……世界よ!!」 田中さんに対する世界の、冷たく残酷な仕打ち(※妄想)に涙を流す義光である。 「何てものを予知しやがった!」 一方、素直にフェーチュナへの怒りを喚くのは『殴りホリメ』霧島 俊介(BNE000082)だ。 「しかも俺、あえてこの系統の依頼を避けてきたけど――けど……けど!! 王様がナチュラルに居たら、入るおえないじゃんかぁあぁああ!!!」 俊介の示した先には、馬上で瞑目する『百獣百魔の王』降魔 刃紅郎(BNE002093)の姿がある。 「下らぬ遊戯に付き合うほど我は寛容ではない……。 誰ぞ衣装に身を纏い、早急にその痴れ者を叩き斬れ」 「王は俺の珠玉たる存在!! 王は俺の道しるべ! 今こそ王の手を焼かせないように俺が頑張る時!!」 「さぁ覚悟も決めなっ! 男の子だろう?」 それを聞いてうんうんと頷き、朗らかな笑顔で『遺志を継ぐ双子の姉』丸田 富江(BNE004309)が発破をかける。 「何を恥ずかしがってんだい?? アタシを見てみなよっ今日はこんなにもかわいらしいフリフリの服を着てるって言うのにっ……。 それに比べりゃアンタ達の女装なんてかわいいもんだよっ!」 なんでわざわざ自爆してるんですかお富さん(姉)! 「田中さん……業が深い……深過ぎる!」 うあああ、と、『聖母の生まれ変わり?』澄芳 真理亜(BNE002863)が唸るように頭をかきむしった。 「『人の嫌がることをすすんでやります』はそっちの意味で使うもんじゃねぇんだよ!! 正直ぶっちゃけると全く持って関わりたくないのだが、ないのだが……。 俺も聖職者の生まれだ、悩める者を救うぐらい……やってやるぜ!」 根は真面目な青年、真理亜である。 ● 縫製工場だった名残は、残された鏡に留まらない。少なくない数のマネキンや、サビつき既に動きそうにないミシンなども、その残骸を晒している。古い机や椅子を押しのけ、壊して作られた円形のスペース、その中央には持ち込まれたのだろう、丈夫そうな机と、だかだかだかと騒音を鳴らして動く真新しいミシンが各種ずらりと並べられていた。 「頼もうッ! ……ワシは逃げも隠れもせん! さあ……くるのだ! 田中さん殿!」 「よお、田中」 結界が張られた違和感に続いてかけられた声に、ミシンの音が静止する。 「ちょっとはた迷惑だって通報されたから大人しく……」 「通報!?」 がた、と椅子を蹴って立ち上がり、田中はリベリスタたちを見た。 「私の何が通報されると言うんだ、ただの趣味じゃないか! 私の趣味を邪魔しないでくれ!」 抗議の声を上げる田中に、しかし『俺は人のために死ねるか』犬吠埼 守(BNE003268)が首を振る。 「――そう、人には己の趣向を楽しむ権利があります。 だが! 他者が拒絶する行為を伴う場合は、断じてそれを認めない。 ……それが秩序ある現代社会と言うものです」 帽子の硬いつばに触れてかぶり直し、守は姿勢を正すと田中をしっかりと睨む。 「もし他者の拒絶を敢えて無視し、行為を強いるなら……人はそれを「暴力」と呼びます。 まして他者の嫌悪を前提とする行為など、許される物ではありません! ――断言します。 貴様のそれは趣味にあらず!」 それは敵対宣言。今ここに、リベリスタたちとノーフェイスの戦いの火蓋が落とされた――はずだった。 「これが社会的ふぇいとの消失なんですね! えーっと……アーク本部に報告するための動画はきちんと撮りますのでご安心を! 後リベリスタ有志が男性陣の勇姿を薄い本にして夏のイベントで発売するとかだそうです……売れるんでしょうか?」 キンバレイ・ハルゼー(BNE004455)がカメラを持ってくるのを忘れたことに気がつくのは、もう少し後のことである。ともかく、彼女がそれを口にした瞬間――リベリスタ(♂)たちの間に電流が走った。 ――数秒後、そこにはダッシュで入口に向かうリベリスタの姿が! 「嫌でござる! 嫌でござる!!! なんで依頼の為とは言え女装をしなきゃいけないのでござるか!! 田中はまじで残酷でござる……むしろ男の敵でござる!!」 泣き喚く『家族想いの破壊者』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)。それってつまりあれですよね、押すなよ、ぜったい押すなよってやつですよね。 「ピチピチタイトなミニスカポリスの衣装とかするものか! てかてかビニール素材にボンテージでなんか警棒とか持ってて、ひと昔前の深夜番組に出て来そうなちょっと懐かしいそしてお父さん感涙なミニスカポリスとかには絶対にならないぞ!」 どうやら具体的に想像してしまったらしい守が、通常の3倍の速度で首を振る。 「恥も外聞もありゃしないよっ。これは依頼、仕事であり人助けさっ」 猛ダッシュで逃げようとした俊介の首根っこは、富江によってしっかりとホールドされてしまっている。 「世の中何が今後の人生において役に立つかわかりゃしないよ。 どこかで聞いたような知識で話し聞かせるのと、自分自身の体験談を話すのじゃリアリティが違う。 何事も経験することこそ、あとで人生の宝物になるんじゃないかねぇ」 諭すように言い聞かせる富江に、俊介の足が止まる。 「そっか、だから俺らなのか。 最期くらい、いい夢見ろよ……犠牲は俺らだ……あれ? なんか言ってて悲しい……」 これが、世界によって存在を拒絶されたノーフェイスにできる最後の餞なのだと。 その事に気がついて、俊介は田中へと向き直り、 「それが……女装でもねっ」 「女装なんかすっかよ! そもそも着替えなんかぜってーしねキャーーーー!!」 富江のダメ押しに全力で逃走再開する俊介。 「すまぬ……ワシは……ワシは小物じゃ……」 元生徒会長の責任感ゆえか。 さり気なく真っ先に逃走しようとしていた義光が、しかし固く目を閉じ、田中の方へと向き直った。 「――せめて奴が逃げぬよう扉を閉めて……あと、なんじゃ、こう……鏡で目くらましとか……」 自ら背水の陣を敷く義光である。 「か、鏡!」 逃げられない現実――つまり受けた仕事の放棄とかしたら時々目のハイライト消して帰ってくる未来の嫁(ιょぅι゛ょ)に顔向け出来ないということ――に打ちひしがれかけてっいた虎鐵が、何かに気がついたように顔を上げた。 「拙者は……拙者は! うぼおおおああああああああああ!!!」 あたりに転がる、数多の鏡。 虎鐵は手近な鏡に猛然と走り寄ると、握りしめた拳をそれに叩きつけた! 「こんな鏡があるから! 現実逃避できないのでござる!!!」 次々と鏡を割る、ばりん、がしゃんという轟音が響く。砕け散った鏡が――その鏡面ひとつひとつが。 虎鐵の真後ろに立つ田中を映し出していた。 「!?」 割れた鏡は、割れ砕けた分だけ、映し出す数を増やしていた。 ――この戦いからは逃げられない! ● 「い、嫌でござる……上だけは……上だけは駄目でござるううう!!! あ、アレが見えちゃうでござるから!! せめてシャツだけは残すでござる!!!」 虎鐵の悲鳴が虚しく響く。彼はあっという間に――ぶっちゃけ長々と男の着替えを描写していても、読むのも書くのも楽しいかという問題がある――その服装を変えられてしまっていた。 ――赤の色留袖に。 御所車文の、しっかりと裾を窄めた着こなしの中で、拳ひとつ抜かれた衣紋のうなじが眩しい。 「ふーむ……思った以上に似合うじゃないかい」 絶句していた虎鐵の意識を、富江(ふりふり)の声が現実に引き戻した。 「う……う……うおおおぼおおおおお!!! 拙者! 穢れてしまったでござるよおおおおおおお」 受け入れきれない現実を前に、目に付く鏡という鏡を割り始める虎鐵。 「どんな格好になるのかと思っていたんですが。 たとえば頭にショーツ穿いて、胸にブラ付けてお尻はオムツとか」 キンバレイの予想がある意味外れていたことを、喜ぶべきか悲しむべきか。 「目はつけまつげでぱっちりで顔はお化粧完璧! で爪はネイルアート完備でお腹には演芸定番の腹踊り顔で~背中にはアニメキャラの痛刺青とか」 キンバレイそれ女装違う、扮装や。 一方、仲間の被害にうつむく男が居た。 「クッ……ワシは逃げ惑うだけなのか? 情けなく? ――否ッ!!」 決意を秘めて、義光は立ち上がる。錯乱する虎鐵の背に学ランの上着を掛けると、田中へと向き直り、そして歩み寄る。バトルアックスの柄を握り締める手の中で、汗がぬるつく。 その覚悟を察した富江(ぴんくはうす風)が笑顔で見守る中、義光の脳裏に母の言葉が蘇る。 『義光……いつでも男らしくありなさい……』 そうだ、男らしさとは服装に左右されるものか。否! その心意気が男らしさというものだ! 「ウオオアアアアアアッ!!!!!11」 クロスアウト! 「その意気や良し!」 脱衣した義光に、嬉々として田中が投げたのはホルターネックの瀟洒なイブニングドレス! ハイウエストに、ドレープの効いた水色のシフォン生地が男女の体型の違いを隠す。 「まぁ人生長いんだ、色々体験することは悪いことじゃぁ無いね」 続けて被害者に選ばれたのは、富江に押し出された俊介だ。 「俺脱がされるの!? 抵抗――せんよ、ていうかできん」 先刻自分で気がついてしまった、これが「餞」であるという事実に、俊介も覚悟を決める。 「死に行く定めの彼に、最期くらいって思ったら……何でもいーから、もはや際どくていいから服ください、早く! 早くううう!!」 「OKだ少年!」 どんどんいろんな服を着せられる嬉しさにか、テンションもおかしくなった田中が次に繰り出したのは、エスニックな刺繍が施された、袖の広めのブラウスにマキシスカート。そしてチュニックと同種の刺繍入りベストでなんともフォークロア系な感じである。 「かはんしんが、すーすー、するうううううう!!! ……しゃ、社会的に死ぬ!!!」 服を着てしまうと、今度は自分の社会的フェイトの重症率に気がついてしまう俊介である。 次々と女装させられていく仲間の姿に、守が額の汗を拭う。 「――くっ、絶対女装とかするものか!」 抵抗の志。それだけは誰にも渡すことはないとばかり守は破界器化したニューナンブM60を手に取ると、ノーフェイスに向けて射撃姿勢を――無駄な抵抗なので以下略。 「うおおお、やめろおおおおお!!!!」 本人の想像(と書いてプレイングと読む)通りのミニスカな女性警官、一丁あがりである。 「くそうっ、抵抗むなしくこんな格好に……露出度が高くてちょっと気持ちい良いじゃないか……!」 ぽ、ってほっぺが(///)な感じで、 「ってうおわあああ! なんか目覚めそうな気がするうう!? こ、こんなの俺じゃない!」 着実に新たな扉を開き始めた守が、頭を抱えてごろごろと地面を転がり始めた。 じり、じりと。 その状況に後退りを始めた真理亜の背に、『逃げられぬように』閉じられた扉がぶつかる。 「――俺、田中さん止めに来たの。止めに来ただけなの。 自分の趣味に他人を巻き込むのは止めようなって言いに来ただけなの」 いやいやをするように首を振る真理亜、じわじわと距離を詰める田中。 いい素材だよね。明らかにすごく良い素材だよね、真理亜くん。 引き締まった、精悍な体つき。高い身長。鋭いけれど子供にはなつかれるその目。 真理亜の肩をぽんと叩いて、お富さん(リボンいっぱい)が力強く親指を立てる。 「こっちそんな目で見るの止めろ! 止めてくださいお願いします! あ、ちょ、待ァッー」 ――普段から修道服の真理亜である。 彼の服装は、一見ウィンプル(シスターの被る白い頭巾)に黒いベールがたされただけかのように見えた。 「うぅ……一体どんな格好に……?」 恐る恐る目を開けた真理亜の視界の中にあった鏡。その中に映っていたのはしかし。 「ギャー! 若い頃のカーチャン見てるみたいで鳥肌が!!」 傍から見れば、ほんのり赤くチークを塗られた頬と、薄い桃色の口紅がよく似合っている。ずんずんと、まだ砕けきっていない鏡に歩み寄り――その際、腰までスリットが入っていることが判明した。ぎょっとして足を凝視すれば、今までとは違う自分の足に気がつく。気がついてしまう。 「ひぃ! 気づかん内に足の無駄毛もつるっつるにされとる! く……俺も女として生まれてたら聖母扱いされてこんな格好してたんだろうか……。 そう考えると、この格好も嫌悪感が薄れ……」 一瞬、感慨深く目を閉じると、 「るわけあるかー! ボケー!!」 天井を仰いで叫びはじめた。 ● なすすべなく皆が女装させられ、戦意を一時的に喪失している間ずっと口を真一文字に結んでいた刃紅郎だったが、低く、唸るように。それを口にしてしまった。 「絶対……女装などするものか!」 「くくくっ……はっはっは!! その高慢な姿を貶しめてくれるわ!!」 高らかに哄笑を上げた田中が刃紅郎に叩きつけたもの、それは。 ミニスカメイド+ガーターベルト。 ――百歩譲って、通常のメイド服ならば。 刃紅郎も、従者の心を理解する戯れだ、と。笑ってそれを身につけただろう。 「だが……斯様な……!」 それはどう見てもコスプレ系メイド服。 「斯様な破廉恥な衣装では我が築き上げてきた王威が……『王』たる我が……『王(笑)』に……!」 女装していない限り無敵とかいうある意味最悪のチートノーフェイス相手には、抵抗は意味を成さない。コスプレメイド服を装着完了させられてしまった瞬間、そしてそれを飛び散る鏡(虎鐵がんばってる)の中に見出してしまった瞬間。 (ああ……鏡に映る幾千の我がまるで責めるかの様に……) や め ろ 刃紅郎の中の何かが、軋んだ。 メイド服、ナース、OL、巫女、ビキニ、森ガール、ボンテージ、婦警、魔女っ娘、チャイナ、セーラー服。それらを身につけた刃紅郎たちが、倒れた刃紅郎を見下ろしている。 これは自分の精神世界だと、刃紅郎にはすぐ理解できた。 「笑い草だな……いまや我の王威は己が精神の世界ですら穢れ、地に堕ちたか」 『違うな。王たる者が追い求める本質……今一度思い出せ』 刃紅郎たちが、刃紅郎を諭す。 「世界を望むが王の定め」 『世界に臨むが王の定め』 すべての刃紅郎がその概念を手にした時。精神世界の中で、【新世界の扉】が開かれた―― 仁王立ちのまま微動だにしなかった刃紅郎の目が、力強く見開かれる。 「……斯様な形でも「世界」をその手にするが王道。 なればこの新たなる姿……民の目前に晒す事迷い無し」 威厳に満ちたその姿と声に、ほかのリベリスタたちも徐々に我を取り戻しはじめた。 「よくも……よくも拙者にこんな屈辱を…肉片ひとつも残さずぶっとばしてやるでござる!」 「楽しかったか、田中……? 俺は楽しくなかったよ、泣きそうだよ」 鏡を割り続けた虎鐵、足元の違和感を無理矢理克服した俊介、そして血の涙(比喩表現)を流す義光が武器を構えて睨みつける。 「天罰だ天罰! 神の裁きでも受けやがれ!!」 「痛! 痛い!?」 真理亜が、死ぬことはない光で田中を焼き払い始め、それにのたうつも逃げられないように、刃紅郎と守がその前後を固めた。 「悪夢よ、消え去れえええ!!!」 半泣きの守の叫びを合図に。 趣味に生きたノーフェイスは、星になる勢いでふっとばされたのであった。 ● 勝利の凱旋だ……ワールドイズマイン! ご愛読ありがとうございました、降魔刃紅郎閣下の次回作にご期待ください! ● ――とはいかないのだ。 「さぁ……帰ろうでござる……家族の元へ……」 着替えを済ませアークに討伐完了の連絡を入れた一行は、ふらふらした足取りの虎鐵を追うように、振り返ることもなく廃工場を後にしたのだった。 「こんなお仕事でもお金がもらえればおとーさんの資金になるんです! 30分持ちませんけど……」 つぎ込む父親に疑問を持つことのないキンバレイは笑う。 「皆で呑みに行きましょうか。いい店を知ってるんですよ……」 虎鐵の肩を支えるように叩いた守の笑顔も、まったく力ない。 「俺の心に傷を残したノーフェイス、忘れないよ。安らかにな……あとせめてもうちょいましな服ください」 どういうセンスなのかわかりにくかった田中のチョイスに、俊介は今更ながら首をひねった。 真理亜は携帯を耳に押し当てる。 「いや、5月って母の日あるじゃん? はは……は」 なんとなくかけた電話の先、久方ぶりに聞く母親の声はどこか自分と似ているような気がした。 <了> |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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