●影絵の街の曲がり角 生暖かい、風が吹く。 人の体温に良く似た温度の風が身体に纏わり付く。 日が沈んで、少しだけたった時間。 酷く生臭い風が街角に吹いた。 それにしても、お腹が空いた。 夕食は肉が良い。 良く解らないが、身体の動きが鈍い。 間接がギシギシと音を立てて、まるで油の切れたロボットの様だ。 向こうから、良い香りがする。 風に乗って食欲を刺激する香りがする。 若い、女性だ。 綺麗な黒い髪が風に揺れている。 薄く化粧をした顔も、すらりと長い脚も、窮屈そうな胸元も。 とてもとても、オイシソウダ。 アア、オナカ、スイタ、ナァ……。 ●ブリーフィング 「お疲れ様です。早速ですが仕事です」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)が資料に目を通しながらブリーフィングルームに集まったリベリスタ達を出迎えた。 顔を挙げ、慣れた手つきでコンソールを叩く。 市街地の地図に赤い光点が灯り、今回向かうべき場所を示す。 「市街地の裏通りの曲がり角が今回の主戦場となります。時間は夜20時丁度です」 子気味の良いコンソールを叩く音が響く。 画面が現場の写真に切り替わった。 「前々から噂であの曲がり角に行くと食人鬼に食べられる、と言われていました。それだけならただの都市伝説で済むのですが……」 そこまで言って、痛ましい顔になる。同時に、モニターに凄惨な死体の写真が映し出された。 「首筋と脚、そして腹部から胸部にかけて何かに食いちぎられた死体が発見されました。朝、唐突に発見されたそうです」 恐らくは結界を使った犯行だろう。そう付け加えて彼女はリベリスタ達に視線を移した。 「放置すれば今後も事件は増え事が解っています。今回の依頼はこの事件の主犯の撃破。敵勢力のデータは資料に纏めておきました。目を通したら出撃してください」 御武運をお祈りします。 暖かい言葉と共に、リベリスタ達は出撃した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:久保石心斎 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月10日(日)23:01 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●二つ明かりの路地裏 一言で言うならばそこは酷く薄暗い路地裏だった。 天に輝く太陽は、その身を休めるべく地平線へと身体を隠し光は届かず。 かと言って、人々が灯す人工の明かりは酷く頼りない。 光源になる街灯はチカチカと点滅を繰り返し、清涼飲料水を売る自動販売機の明かりだけが唯一自己主張を続けて客を待っている。 そんな場所に足を踏み入れたリベリスタ達は一様にどこかから吹いてくる生臭い風に身体を撫でられた。 顔を顰める者、闘争の予感に笑みを浮かべる者、運命を与えられなかった者に憐憫を覚える者。皆が皆、違う感情を浮かべている。 その路地裏を歩いていた一般人を巻き込まぬよう『優しい屍食鬼』マリアム・アリー・ウルジュワーン(BNE000735) が観光客を装い近づく。 歩いていた一般人……会社員と思われる男性は親切にマリアムに対応し、しばし会話を交わすとマリアムが己の目に宿る異能を開放した。 「こんな夜に出歩いてちゃダメよ?家にお帰りなさいな」 慈愛の篭った言葉による暗示に、男性は一つ頷くと来た道を引き返し始める。その姿が完全に見えなくなると、リベリスタ達は周囲を慎重に伺い工事用のカラーコーンとバーで路地裏を封鎖する。 「これで人が入ってこないと良いのですが」 コンビニで調達してきた唐揚げやその他匂いのやや強い食品を抱えたままで『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)が呟く。 アークに警察権力は無い。それゆえ、このカラーコーンによる封鎖も気休め程度だ。 本命は結界、一般人の出入りを防ぐ異能である。これで無意識による進入は防げる。カラーコーンと合わせ、戦闘中の一般人の乱入は防げるだろう。 「ギャーギャー! ギャギャッ!」 『蜥蜴乱闘士』リ ザー ドマン(BNE002584)が鳴く。 人間の言葉が喋れないのか、独特の言語で喋る彼の言葉は何故か伝わる。今回はどうやら「ともかく、E・アンデッドを探しましょう」と言っている様だ。 その言葉にリベリスタ達は頷くと、路地裏の奥へと歩みを進めるのであった。 ●街の影の暗がりで 「臭うな」 『グリーンハート』マリー・ゴールド(BNE002518) が呟く。 彼女の呟きの通り、腐敗した何かの臭いを辿れば討伐対象は存外早く見つかった。 どうやら彼の持つ幻影の能力はリベリスタが持つ力と大して変わらないらしい。 ぐちゃぐちゃと音を立てて、既に腐敗が始まった犠牲者の肉を租借している。 死体の腐敗具合からしてここ数日に被害にあった人間だろう。白く濁った瞳が恐怖と絶望に歪んでいる。 姿を見つけた瞬間、リベリスタ達は即座に武器を準備し己の能力を高める能力を開放する。 その気配に気づいたのか、E・アンデッドが食事を止めて立ち上がる。新鮮な肉を目の前にして、その顔が醜く歪んだ。 「ゴレ……バ……オゼ……ン……ゴンナジガ……デアルグ……シン……ジマゼ……ヨ」 不明瞭な言葉。よくよく見ればE・アンデッド自身の身体も腐敗している。体内は特に酷いのだろう、既に言葉もまともに発せ無い。 だが、話しかけると言う行動を取る程度には知能がある。 厄介な事だ。 まずうさぎが仕掛けた。彼の手の中には自身のオーラで作られた爆弾が握られている。退路を塞ぐ様にアンデッドの横を擦り抜け様に爆弾を相手に植え付け、破裂させる。 しかし、アンデッドは身体を捻り致命傷を避ける。ニタニタ、と動く死体の顔が歪み地面を蹴って『蒼銀』リセリア・フォルンに向けて駆け出す。 顎を外し、赤ん坊程度なら丸呑みに出来るほど大きく口を開いて閉じる。生臭い腐臭がリセリアの鼻腔を撫でた。 「くっ……!」 リセリアは手に握ったバスタードソードを盾に、己の身を守る。噛み合わされた牙と鍛えられた鋼が擦れあい、酷く耳障りな音が響く。 「はろー人食い。人斬りがやってきたデスヨ」 空気を引き裂いて、『飛常識』歪崎 行方(BNE001422) のハンドアックスが振り下ろされる。リセリアと変則的な鍔迫り合いを演じるアンデッドの胸に強烈な衝撃と共に刃が食い込み腐肉を撒き散らしながら吹き飛んだ。 ギャアアアアアァァァァァウゥゥゥゥゥ!! 戦意高揚を兼ねた雄叫びを上げながらドマンが残像を残しながら突っ掛かる。鱗の生えた腕に握られたチェーンソーが轟音を立てながらアンデッドの身体を捕らえる。 骨に鎖が食い込む音が周囲に響き、腐肉がさらに撒き散らされ路地を汚した。 両断される前にアンデッドは後ろに下がるが、リベリスタの手は緩まない。 「標的確認――これより攻撃態勢に入る」 自分の影に実体を与え従えた『死徒』クローチェ・インヴェルノ(BNE002570) が投擲用に最適化されたナイフの影に紛れて気で紡がれた糸を放つ。 さらに影達も追従する用に黒い投擲用ナイフを放ちアンデッドを追撃する。ナイフはアンデッドの身体に突き刺さるが、気の糸の本来の狙いである動きを止めると言う成果は達成できなかった。 「おなかがすいたなら、わたしをどうぞ?」 露出度の高い服装に胸にチョコレートでEat Me!!!と書かれた状態で『スイートチョコの女子ジェイソン』番町・J・ゑる夢(BNE001923)が猛スピードで切りかかる。 仮面と手に持ったアックス、そして露出度の高い格好が相まって酷く混沌とした状態だが戦いに対する心構えは真剣だ。 遠心力とアックスの重量を生かし、全身の力を一杯に乗せて横殴りにアックスを叩きつける。その一撃が吸い込まれる用にアンデッドの首にクリーンヒットし、刃が半ばまで食い込む。 だがそれでも、人ならざる存在へと変わった人型は動いている。 消滅の危険を感じたのか、アンデッドは腐肉が飛び散り骨が外気にさらされている状態で両の腕を振り回しながら突き進む。 人間では在り得ぬ様な鋭い爪に、腐って腐臭を放つ汚血。確かに、猛毒となりそうな物だ。 しかし、その出鼻を臆することなく踏み込んだマリーが挫く。マリーの手にもった大剣が振るわれたアンデッドの腕をブロックしたのだ。 「畳み掛けます……!」 その隙を逃さず、リセリアが路地の周囲に配置された塀を蹴って空中へと跳び落下速度を付加して剣を振り下ろす。 アンデッドが仰け反った瞬間、その腕と鍔迫り合いを演じていたマリーが剣を引き振り上げる。 「……どれが敵だったか?」 周囲に居る戦うゾンビと殺戮人形と仮面怪人と蜥蜴と吸血鬼と言う非常に個性的すぎるメンバーにちらりと視線を巡らせてとぼけた事を呟く。 冗談を飛ばす余裕を持ちながら、気を込めた剣を自分でも改心の出来だと褒めながらアンデッドに叩きつける。 美しい軌跡を描き、アンデッドの右肩を剣が捉えその勢いのまま地面に半ばまで刃を食い込ませながら腐肉と汚血の塊を両断した。 「生肉なんて食べても美味しくないわよ?食べるなら屍にしておきなさいよ」 止めとばかりに、マリアムが踏み込み腹部に向けてバトルアックスを振るう。 淑女然として小さな身体の何処にそんなパワーがあるのか、叩きつけられた強烈な一撃が容赦なくアンデッドを叩きのめし蹂躙する。 衝撃によってアンデッドが吹き飛び動かなくなる。ぴくりともしないそれを確認し一番近くに居たドマンが近づいた。 ギャアウ? ギャギャー! どうやら彼はアンデッドの頭蓋骨が欲しいらしい。駄目ならば耳でも良いらしい。そんなちょっぴり猟奇な趣味を叫びながら、ドマンは首を落とそうと武器を構え――た所でアンデッドの身体が跳ね上がる。 まるでマリオネットの用に唐突な立ち上がりは背筋と左腕で行った用だ。その証拠に背筋の一部が断裂しているのが見えた。 立ち上がった勢いのまま口を多きく開き、ドマンに跳びかかる。ドマンはビーストハーフ特有の反射神経でチェーンソーとバックラーを文字通り盾にする。 しかし、如何なる奇跡かアンデッドはドマンの肩から首にかけての間に食らい付く。蜥蜴の鱗も貫く鋭い歯が肉を血管を容赦なく蹂躙する。 「ぐわぁーー!」 人間の様な叫びをドマンが上げた瞬間、アンデッドが食らい付いたまま首を振るい肉を食いちぎる。 真っ赤な、新鮮な血が周囲に飛び散る。 ごっそりと肉を抉られた傷からは止め処無く鮮血が噴出している。このままでは危険だ。 ギャァァァァァウ!! だが、苦痛に身を捩りながらもドマンが蜥蜴の本能かアンデッドにお返しとばかりに食らい付く。ダメージこそ無いが、これでアンデッドの動きが束縛された。 「止めを……!!」 誰の言葉か、その一言にリベリスタは動いた。 うさぎの放った黒い気の一撃が、マリアムと行方、そしてマリーとマリアムの放った強烈無比な豪撃が、クローチェが影と連携して放つ気の糸が、リセリアとゑる夢が猛スピードで放つ閃撃が。 ドマンが食らい付き、動きを止めたアンデッドに叩きつけられ……そして、哀れな死体はバラバラに砕け散り今度こそ正しい死を与えられたのだ。 ●そして夜は続く 「両雄並び立たず、都市伝説もまたしかり。さよなら淘汰された小さな噂。アハ」 ドマンの手当てと、被害者の処理を済ませ行方が哂う。 それぞれ思う所があるのだろうが、一様に勝利への余韻で顔は緩んでいる。 「都市伝説にしては華がなかったな」 マリーがどこか詰まらなそうに呟き、血が飛び散った路地を見つめている。血等の処理はアークの手配でこの後すぐに清掃屋が来る事になっている。 危険さえ排除してしまえば、朝には元通りになっているだろう。徹夜で作業する人間には哀れんでやるが。 「伝説は伝説のまま、これで被害が増える事は二度と無い。でも、自販機に手を伸ばすともしかして……」 「やめてください。縁起でもない……とは言え、みんなEアンデッドに劣らない迫力なんですけど。なんというか、どういう事なんでしょう……」 ぼそりとクローチェが呟いた。その呟きが聞こえたのかリセリアが返す。改め見れば、今回のメンバーは色々と、そう色々と個性的だ。 今更とは言え、リセリアの疑問ももっともだろう。 「名前、結局解らなかったなぁ」 何処と無く寂しさを滲ませたマリアムが、砕け散ったアンデッドの欠片を見つめている。 退治した時には言葉こそ通じるが、相手の言葉はもはや人の物では無かった。問うても、まともに帰ってくるとは思えない。 名前も知らぬまま逝った彼に、マリアムは一粒だけ涙を捧げた。 ギャギャーウ!ギャ! 辛うじて血が止まったドマンが、うさぎと何か会話している。どうやら彼は、よほど頭蓋骨が御所望だったらしい。 「いえ、無理じゃないですか? 粉々ですし」 と返したうさぎは、もはや原型が無くなったアンデッドの欠片を見つめている。仲間の危機に力を発揮したのは良いが身元が解るほど綺麗には行かなかった。 まぁ、仕方あるまい。 そしてゑる夢……誰にも見えない所で仮面についた腐肉を拭い、呟いた。 「私らしい、私しか出来ない怪人の姿を。それが目標。ねえお兄ちゃん。あなたの瞳に、私は映っていますか? あの、綺麗な紅の瞳に、今でも……」 しばし仮面を見つめて居たが、一つ息を吐き出すと仮面を抱いて皆に言う。 「さ、帰りましょうかー」 明るいゑる夢の声に皆が頷くと、リベリスタ達は帰路につくのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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