●だれもこない場所で く~ん、く~ん かわいいわんこ達が原っぱに集まって鳴いていた。 そのつぶらな瞳はうるうるしている。まるで飼い主たちにいっぱい遊んでほしいと訴えかけているようだ。草原にはたくさんの花が咲いていた。蝶や虫たちがその上をしきりに行ったり来たりしている。それを寂しそうに目で見つめるばかり。 一匹のかわいいミニチュアダックスが、落ちていたブーメランを咥えて持ってきた。みんなでいっせいに噛んでたのしむ。 本当は走り回って追いかけたかった。 楽しかったあの頃のように。 周りは人里離れた草原だった。近くには動物霊園が存在している。めったに人は訪れない。最初は熱心にお参りに来てくれた飼い主たちもやがて来なくなる。 新しいわんこを飼うからだ。そして皮肉にも同じ名前を付けたりするのだ。わんこはかなしかった。ずっと自分のことだけを覚えていてほしかった。 また一緒に追いかけっこをして遊びたい。 でも飼い主たちはもうここにはやってこない。 前に飼っていたわんこたちのことは時と共にやがて記憶の彼方へと消える。わんこはただ寂しかった。もう一度一目でいいから会いたかった。ただそれだけなのに。 く~ん、く~ん わんこは、誰も来ない場所でずっと鳴いていた。 ●飼い主の代わりを務めて 「動物霊園の近くの草原にE・フォースのわんこたちが現れた。可哀想に、どうやらお参りにこなくなった飼い主を妬んで、ついにその未練がエリューション化してしまったのね。でも、安心して。わんこたちに攻撃の意思はないわ。陽が落ちるまでの数時間、いっぱい遊んであげたら満足して自然に消滅するみたい。だからあなたたちが、あの子たちの飼い主の代わりを一日だけ勤めてきてちょうだい」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、集まったリベリスタたちに向かって端的に情報を伝えた。やさしい笑顔でかわいそうな犬たちのことを話す。イヴもかわいいものが大好きだった。それだけに今回のわんこたちのことも気がかりなのだろう。聞いていたリベリスタたちもイヴの言葉に深く頷いた。 「人間はいい加減な生き物よ。楽しかった思い出やつらかった思い出もすべて時が経つと記憶が薄れて行ってしまう。それに比べて、可愛がられたペット達のほうは忠実よ。いつまでも飼い主のことを忘れない。けれど、いつかはお別れの時がやってくるわ。あの子たちがもう未練が残らないように楽しい最後を迎えさせてあげてね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:凸一 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月09日(木)23:19 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●陽のあたる場所で 動物霊園の近くにある草原は日当たりのよい暖かい場所だった。丘の上から街が見渡せて見晴らしが綺麗だ。蝶や虫たちが野花の間を行ったり来たりしている。 近くには小川も流れていて澄んだ空気が辺り一面に漂っていた。静かで穏やかな場所であるが、人はめったに訪れない。街から登ってくるには結構時間がかかる。 「犬かあ……飼ってた事は無いが、可愛いよな。俺も何時か飼ってみたいけど、リベリスタみたいな生活じゃなあ」 『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)が大きく溜め息をついた。最近戦いに明け暮れていたせいで疲れが溜まっていた。たまの休みにこうして犬と遊べれたら、どんなに気持ちいいだろう。だから今日は思いっきり遊び倒すつもりだ。 「動物は単純じゃ。故に、人とは比べ物にならぬほど一途でもあるのじゃな。そんな彼らが大好きだった飼い主と触れ合えなくなるのはどれほどの寂しさか……。せめて、わらわ達がその寂しさを紛らわせてあげるのじゃ」 『還暦プラスワン』レイライン・エレアニック(BNE002137)も張り切っていた。動物と遊ぶならお手の物。彼らの寂しい気持ちを癒してあげたい。 「わんわん達と思いっきり遊ぼうですよ! 自分達が飼い主さんの代わりになれないでしょうけど、遊び相手にはなれるはずです」 『自爆娘』シィン・アーパーウィル(BNE004479)も彼らの想いを満たしてあげたかった。本当の飼い主の代わりにはなれないが、それでも一日一緒に遊んであげることくらいはできる。なにより自分も思いっきり遊びたい。 「ふっ、そうだな。でも前回のときみたいに、はしゃぎすぎてハメを外さないようにな。俺も負けずに今日は力の限り遊ぶぞ!」 『刹那の刻』浅葱 琥珀(BNE004276)も対抗して言った。シィンよりも自分のほうがシュバルツたちを満足させてやると密かに闘志を燃やす。 「わんわんでござるです! かわいいでござるです! 頭なでなでしたいでござるです! ふおおー、もっふもふー!」 『サムライガール』一番合戦 姫乃(BNE002163)はすでに飛び跳ねていた。まるで彼女自身がはしゃぎ回る犬のようだった。そんな楽しそうな姫乃をみて、リベリスタたちも思わず顔がほころぶ。 「もふもふもふ、はあ……もふもふ、はあ……はあ、もふもふ――」 アーサー・レオンハート(BNE004077)はすでに妄想の中で戯れていた。手がわしわしと怪しく空中で動く。目がすでにイッていた。そんな危ないアーサーに誰も距離をおいて近づこうとしなかった。 「くっ。最初から涙腺がMAXだ……!」 『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)は目元をそっと拭った。もちろん、アーサーの姿態を目にしてのことではない。 「わわわわわ、たしいいいいに、ちゃんとおお、かかかかいぬしがつと、つとととまるでしょうか――」 『朧蛇』アンリエッタ・アン・アナン(BNE001934)は緊張で震えていた。睨みつけるような上目づかいでおどおど首を振っている。アーサーとは別の意味で近寄りがたい。誰もがそれでは務まらない! と心の中で突っ込みを入れる。 なにはともあれ、一行は4匹の犬達がいる草原にやってきた。事前には霊園の管理人を訪ねて元の飼い主がどうしているのかを尋ねていた。 「……なに、ちょっとお節介を焼きたいだけの、コスプレなんでも屋じゃよ」 とつぜん、やってきたゴスロリフリフリのレイラインたちを見て、年を取ったお爺さんの管理人も驚いたが、丁寧に事情を教えてくれた。 四人ともどうやら、すでに引越しをしてしまって今は遠くに住んでいるという。だから見舞いにはもう来れないと。連絡先もわからなかった。その代わり生前遊んでいたボールやフリスビーなどを奉納していた。それを頼み込んで貸してもらった。 ●怖がらないで く~ん、く~ん 四匹の犬達は一緒になって草原に固まっていた。寂しそうにお互いに鼻を舐め合いながら時の流れに身を任せている。そのとき、遠くから人間のやってくるかすかな気配がした。めったに来ない人に最初は胸を時めかせる。 だが、現れたのは待ち焦がれていた飼い主ではなかった。訪れたのは見知らぬリベリスタたちだ。目的が分からず犬達は警戒する。一番大きなシュバルツが威嚇して仲間を守るように前に出た。 「怖がらなくていいのじゃ。今日は皆でお主達と遊びに来たのじゃよ」 レイラインが動物会話で語りかける。大きな音を立てないように静かに近づきながら両手を広げてにこりと微笑んだ。 シュバルツ達はレイラインに話しかけられて、ぴくっと尻尾を動かした。目の前にいるレイラインは見るからに優しそうだ。自分たちとおなじく耳がある。それに言葉もなんとなくだが伝わってきた。 「あんた、としいくつ?」 モモコが話しかけてきた。 「年の話はすんにゃ!」 レイラインはついつい怒ってしまう。彼女にとって年の話は厳禁。だが、気を取り直してふたたび優しい笑顔を作る。 「ほれ、ほれ、これが目にはいらぬかぁ~」 レイラインがまるで時代劇の黄門のように取りだしたのは、飼い主たちが遺していったボールやフリスビーだ。 わん! わん! いっせいに、それを見たわんこたちは嬉しそうに駆けよってくる。 「ほれ、くすぐったいのじゃ」 レイラインは、飛びかかってきたモモコに顔をぺろぺろと舐められる。 「レイラインばかりズルイ。俺にももませろおおお!」 いきなりアーサーが鼻息を荒くしてモモコに急接近してきた。そこにはレイラインの豊かな胸で戯れるモモコがいる。一瞬、アーサーの目にレイラインの胸元が飛び込んできた。 「なにすんじゃ! このヘンタアイイイ!」 バシイイイイイン! アーサーは平手で顔を叩かれて吹っ飛んだ。おもいっきり勘違いされたアーサーは鼻血をだしてぴくぴくとその場でしばらく伸びていた。 「シュバルツ、寂しかったよな。姿を見せる事が無くなってしまっても君を愛した飼い主さんは、一生忘れる事なんてないよ?」 「おいでーおいでーですよー」 琥珀とシィンは一緒になってシュバルツに話しかけていた。すると寄ってくる。琥珀はシュバルツの頭や尻尾や耳の後ろを少しずつ優しくなでた。シィンも顔を舐められながらお腹をわしゃわしゃっと撫でる。 「お、それじゃ今度はこれでどうだ!」 琥珀はそのままシュバルツを抱えたままゴロゴロと草原を転がりまわる。 「待ってくださいー浅葱さん」 シィンも楽しそうに後ろから追いかけて行く。 「このー! かわいい奴め!」 琥珀はシュバルツを抱き締めた。このままずっとこうしていたいと思った。幸せだった。平和な日常がずっとこうして続いてくれたらいいと本気で考える。シュバルツと一緒にしばらくその場で大の字になって空を眺めていた。 「……フッ、このモルに完璧に擬態した俺ならば、彼らと仲良くする事など容易い」 猛はベルカに向かって挑発した。すぐ傍では柴犬のハチが興味深そうに二人のあいだを行ったり来たりしている。 「望むところだ。私を誰だと心得る? 同志葛木には絶対に負けはしない」 ふふふ、とベルカは不敵な笑みを浮かべた。そして、手にしたボールを取り出していきおいよく振り被る。 「用意はいいか?」 「望むところだ」 猛は目で頷いた。言われなくてもわかっている。 「いくぞ! それっー!」 ベルカが思いっきりボールを遠くへ飛ばす。その瞬間、ハチとベルカと猛がいきおいよく駆けだした。その名も「取りにいくぞ!」遊び。ボールを投げた本人も一緒になってボールを追いかける。 「おい、こっちに近づくな。うまく走れない!」 「近づいているのは同士葛木のほうだ。もうちょっとそっちに寄れ!」 互いに身体をタックルさせて先に行かせないように牽制する。邪魔をしているとついに、もつれるように二人で一緒に転んでしまった。そこへボールを咥えたハチが尻尾を振りながら二人の上にのっかかってくる。 「こら、ハチ、くすぐったいぞ」 「うへ、こいつすげえ重いなあ、このこの! こうしてやるぜ」 ベルカと猛は一緒になってハチとじゃれ合った。 ●正しいやり方 そんな楽しそうに遊んでいる他の人たちをよそに、いつまでもアンリエッタとクロはにらみあいを続けていた。 「正しい犬の接触の仕方は――犬と同じ目線になること。立ったまま前かがみになり頭を上から触ろうとするのはダメです。犬が威圧感を感じてしまいますからね。まずは手順を踏まえた上できちんと正しく応対をすれば、間違いなく犬と仲良くなれると思います。もっと撫でてと近寄ってくること間違いないでしょう」 アンリエッタはぶつぶつと呟きながらクロに呼びかける。だが、クロはいつまでたっても怖い表情のアンリエッタになつこうとしなかった。なにかがおかしかった。いや、最初からすべて間違っていた。 「おおおいでえええええええ」 震える声でアンリエッタはクロに迫った。手順は完ぺきだった。正しい接触の仕方に正しい姿勢。正しい触り方に正しい声のかけ方。マニュアル通りの素晴らしい応対にクロもめろめろになるはずだった。 「いたああああああっ!」 アンリエッタは手を噛まれてしまった。思わず姫乃がクロを引きはがす。 「ダメでござるです! クロちゃん怖がってます。もっとやさしく接してあげなきゃ怯えるのも無理ないでござるですよ」 そう言いながら姫乃はわしわしと頭を元気よくなでる。それを見たアンリエッタがまるで幽霊がでたときのような顔をした。 「ひぃいいいい――。だめだめだめですよ。そんな乱暴な触り方をしてはいけません。それは正しい触り方でも正しい手順でもありません!」 アンリエッタの呼びかけに姫乃は気にも留めない。それもそのはず、クロはやっと落ち着きを取り戻して姫乃にやさしく撫でられていた。 「正しいやりかたなんてないでござるよ。それは犬それぞれでござる。こうやって自分から心を開いていけばクロちゃんも、ね?」 姫乃に問いかけられて、クロもワン、と吠えた。尻尾をふりふりさせる。アンリエッタもようやく気がついた。自分が緊張してどうする。 正しいやりかたなんてないんだ。アンリエッタはそっと手を伸ばしてクロに触った。すると、クロは今度も喜んで尻尾を振ってきた。 アンリエッタは自分の間違いを態度で教えてくれた姫乃に心の中でふかい感謝をした。 「ふふふふ、犬ころなんてちょろいでござる」 姫乃は不敵な笑みを浮かべて呟いた。だが、アンリエッタは――実はまだ何も気が付いていなかった。姫乃がこっそりと裏でクロに餌をあげていたことに。後ろに回して隠した姫乃の手にはしっかりと動物クッキーが握られていた。 「モモコちゃん、もっともっとはげしく動いて! そ、そこお」 へばっていたアーサーもようやく起き上がってモモコをもふもふさせた。着流しの懐に入れたりして思う存分楽しむ。顔が弛緩していた。幸せだった。やはりもふもふはこの世で一番の至福の時だった。最近疲れていた。やはりあの依頼が重かったせいだろう。男ばかりで絡み合うのはやはり体力を消耗してしまう。みんな若くてイケメンで精力旺盛。五十代では体力的にさすがにきつかった。 でもやはり、ホモホモも捨てがたいが―― むろん、レイラインのあれもすごく気にはなる。なるがそれは別に気にならない。いや、さっきから頻繁に視界の隅にはいるが、まったく持って興味ない。レイラインの冷たい視線を振り切るようにアーサーはついに勃ち上がった。 「よおし、モモコぉ! つぎはボール遊びだぞ。俺のタマタマをとってこいい!」 アーサーは二つのボールを掴んで勢いよく、振りかぶろうとする。 「きゃああああああ」 バシイイイイイイイイイン! アーサーは再び、レイラインの平手を食らって沈んでしまった。 ●淡い琥珀色の想い すでに辺りには夕焼けが広がっていた。それまで小川で遊んでいた琥珀とシィンもシュバルツと一緒に草原の所に戻ってきた。 「楽しかったですね。浅葱さん。あれ、そういえば、デジカメを持ってきたんですよ。一緒に取りませんか?」 「おう、気が利くな。さすがアーパーウィル氏。いつもドジばかり踏んでるところばかり見てたけど、今日はけっこうよかったな」 「えっ、そうですか? 水臭いですね。もうシィンでいいですよ。いつも一生懸命やってはいるんですけど、なんか自分ドジばかりしちゃうんです。ボトムにもまだ来たばかりだし――」 「俺も琥珀でいいよ。そのうち慣れる。俺も最初はそうだった。大丈夫、シィンなら。一生けん命やってるのみててわかるから。それに今日のシィン、遊んでる所見てたら結構かわいいな、って思ったし」 その瞬間、シィンの顔に赤みが指した。いつもは冗談で返すところをそのまま何も言い返してこない。琥珀も言ってしまってから、しまったと冷や汗を掻いた。 シィンは俯いたままシュバルツを撫でていた。もうすぐ楽しかった日も終わる。そろそろお別れの時間が近づいていた。だが、せっかく仲良くなったんだ。できるならお別れしたくない。 「まだ、別れたくない――このまま一緒にいたい」 シィンが寂しそうに上目遣いで問いかけてくる。琥珀は瞬間、胸の鼓動が高鳴りだした。それはつまり、俺と一緒にいたいということなのか――? シィンの心の中を知らずに、琥珀は焦りだした。やばい、この雰囲気はやばい。 「そろそろみんなの所に戻らないと!」 琥珀がシィンを促して立とうとしたときだった。 「琥珀さん、待ってください。行かないで」 だが、琥珀は立てなかった。ズボンのすそを引っ張られて動けなかった。 シィン――。俺はどうすればいんだ。ダメダメだ。琥珀は、後ろを振り返れなかった。ここで振り返ったら間違いなく取り返しのつかないことになる。 強引にそれでもズボンの裾が引っ張られる。あまりの引きの強さにもう立っていられなかった。琥珀はついに覚悟を決めた。 シィン――俺はお前のことが―― 「えっ?」 だが、琥珀はその瞬間、信じられない物を見た。 「ちょ、ままままって!」 琥珀のズボンをひっぱっていたのはシュバルツだった。股間に食いついて、容易に離れようとしない。目には涙が溜まっていた。おそらくシュバルツも別れの時を悟って寂しくなったのだ。 だが、琥珀は顔面蒼白だった。あまりの力強さにズボンがずれ落ちた。一緒に履いていたピンクの兎パンツまでもって行かれそうになる。 「だだだめええええええええ、シュバルツだめえあああああ――大事な大事なところが全部ズル剥けちゃううううう」 琥珀は絶叫した。 「こんな姿、姫には姫にだけはみせられないいいいいい! ああああああ」 シィンはそんな琥珀の姿態に、シャッターチャンスとばかりにデジカメを構えてばしばしと哀れな琥珀の姿をカメラに収めた。 ●またいつか逢える日 すでに空は陽が落ちていた。最後の夕焼けが地上に燃え落ちて、残り香がわずかに空の端に残っている。さいごに皆が集まって来て記念撮影をした。 猛は一匹づつ懐に抱いて優しく撫でた。ずっと今日の思い出を噛み締めるようにして目を閉じながら思いを伝えた。言葉はわからない。でも、犬達は楽しかったという満足の笑みを浮かべていた。尻尾を振りながら猛に感謝の気持ちを表す。 「またな。今度はちゃんと寝るんだぞ」 徐々に犬のシルエットが薄くなっていく。ベルカはもう溢れる想いを抑えることができなかった。最後は笑顔で送りたかった。わんこたちが未練のないように。 「さようなら、楽しかったぞ。ぜったいに忘れないからな!」 ベルカの最後の台詞と共に犬達はついに見えなくなってしまった。消えてからもずっとベルカはその場に座り込んでいた。他の仲間達も一様に肩を落とす。 「ふふ、お利口な子達じゃった。きっと、きっとまたいつか、逢える日が来るからのう」 レイラインは最後にわんこ達にそう伝えた。そして、ありがとうと、返した。レイラインはそのわんこ達のメッセージを皆に伝えようとした。 だが、思いとどまった。まだこれを皆に伝えるのは早い。いつかきっと、飼い主たちがふたたびこの霊園を訪れた時に。 忠実なわんこたちの想いが本当に報われた時に。 その時までこの言葉はとっておこう――レイラインは優しく皆にほほ笑んだ。 「それにしても、琥珀さんのすごかったですね。でもまさかあんなに――」 「その写真は絶対に誰にも見せないでくれ」 「じゃあ、今度一緒にデートしてください。ソフトクリームおごってくれたら考えてあげますよ」 シィンと琥珀はまだ言い争っていた。はたから見たら仲の良い夫婦に見えなくもない。姫乃とアンリエッタも疑いの目で見てくる。 「これで――琥珀もようやく卒業だな」 アーサーがしんみりとした表情で言った。その瞬間、リベリスタたちの間にようやくどっと笑い声が起きた。やっぱり最後は笑顔で送り出したい。 「それじゃ、みんなでそこまで競争だ!」 「おう、こんどはぜったいに負けないぜ」 ベルカは一目散に走って行く。それに続いて猛たちも走り始めた。 優しい風に包まれてひたすら身体を動かす。ベルカはもう泣いていなかった。 ひたすらがむしゃらに走った。 またいつか逢えるその時に向かって。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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