● その鎧は黒き炎を纏う。 装着した者の身を守る硬い装甲は、並大抵の攻撃では傷ヒトツつきはしない。 纏った炎は、鎧が装着者に与える力のあらわれ。 その剣も黒き炎を纏う。 振り下ろされた剣は、斬られた者の傷を同時に黒き炎で焼くだろう。 しかし代わりに、その鎧と剣は装着者の理性を奪う。 誰かを斬る事に対し、装着者は決して胸を痛めない。 例えソレが、戦いとは無縁の存在であったとしても。 例えソレが、装着者の家族であったとしても。 その鎧と剣を保管していたのは、雑賀・浩司という1人のリベリスタ。 「お前の保管している鎧と剣、頂きにきたぜ?」 このアーティファクトを狙い、数人のフィクサードの集団が彼の家を襲撃したのだ。 守るべき家族は2階に避難させた。 彼自身も、それなりの実力を持つリベリスタではあったが――数の上での劣勢は、人質が取られていない状況であっても決して覆りはしない。 「……やるしかないか」 あまりの劣勢に彼が下した選択は、ヒトツの賭け。 黒き炎を纏う鎧と剣に手を伸ばし、手に入れたのはフィクサード数人と互角に戦いきるだけの力。 どこまで理性を失うのか? 家族を斬らずに済むのか? 鎧と剣を身に纏った後にどうなるか、それが賭けだ。 「……この賭け、勝ってみせるしかないな」 だが、彼は気付いていない。 一度着てしまった鎧は装着者が望んでも、脱げない事を。 剣は血を欲し、人を斬らねばならない運命に堕ちる事を。 ● 「彼が鎧と剣を装着してしまう、これは免れないわ」 もう、この点についてはどう急いでも、どうにもならないと桜花 美咲 (nBNE000239)は言う。 彼が家族を守るために下した選択と賭けは、彼の敗北で終わるのだと。 「フィクサードは6人。彼が6人を倒すかどうかの未来は揺蕩っているけど、どっちが勝っても彼の家族は確実に殺されるわ」 もちろん、フィクサードが勝てば鎧と剣はフィクサードの手に渡る。 そして彼が勝ったとしても、血を欲する剣が彼の家族を殺す。 「皆にお願いしたいのは、両方を倒す事よ。でも――鎧を纏った雑賀は、逃げる判断を下せるほどには冷静なの」 相手にするのがフィクサード6人なら、勝とうが負けようが彼は戦うだろう。 しかし戦いの最中や後にリベリスタ達が混ざった時、雑賀・浩司は逃げる可能性もあるようだ。 「自身の意思で脱げない鎧と、血を欲する剣。そんなのを装着したまま、外に出れば……未来はもう、わかるわよね?」 家族を守るため、賭けに出た1人のリベリスタ。 己の意思では脱げない鎧を脱ぐ方法は、決してないわけではない。だが、現時点ではその方法は判明していない。 故に、その賭けの結果は悲しい結末で終わってしまうのだろう――。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:雪乃静流 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月16日(木)22:23 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●分の悪い賭け 「守るものの為に分の悪すぎる賭けに出る。それが勝てないと分ってるボク等にしたら悲しい事だね」 雑賀とフィクサード達が刃を交えているだろう家を見やり、四条・理央(BNE000319)はそんな言葉を漏らす。 勝つか負けるか。 確率で言えば、圧倒的に負ける確率の高い賭け。 むしろカレイドスコープで垣間見た未来では、その敗北は決定的なものでしかない。 「……護る為に、力を欲する。それは、どの様な人間であっても願わずにはいられない事だと思います」 しかしそれは己の欲のためではなく、大切なものを守るための賭け。 故に『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)は、理央と同様に雑賀の想いを否定する事は決してなかった。 それ以上に、そう願う心は彼女も同じであるらしい。 否、それは周囲に立つ仲間達もきっと同様であるだろう。 「守りたいものを自分の手で壊すなんて、させる訳にはいかないよ」 このまま放っておけば、雑賀は守りたい家族を自身の手にかけてしまう。それだけはさせまいと『先祖返り』纏向 瑞樹(BNE004308) が言えば、 「家族を失う辛さは分かるから……雑賀さんも家族も救ってあげたいな」 その雑賀を救う事も念頭に置き、『ルミナスエッジ』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)は自身の向かうべき2階へと視線を移す。 まず成すべきは、雑賀の家族の安全を確保する事。 せめて彼の守るべき者を守ってから――それが、リベリスタ達の気持ちだ。 その上で雑賀を救うためには、鎧と剣の呪いから彼を解放しなければならない。 「鎧と剣に関しては、妾も出来る限り調べてみようぞ。何か判れば良いのじゃがな」 どこまで出来るかはわからないがと前置いた上で、『破壊の魔女』シェリー・D・モーガン(BNE003862)は呪われたアーティファクトの調査を買って出る。 「では、結城さんとハーシェルさんは2階の方をお願いしますね」 「任せておけ。落とさないでくれよ、セラフたん」 組み立てた作戦に間違いがないようにと確認をとった『銀の腕』一条 佐里(BNE004113)の言葉に頷くと、『合縁奇縁』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)の口元には僅かに笑みがこぼれていたとか。 (セラフたんに抱えられるとはな。……げへへ) 可愛い子に抱えられて空を飛ぶなど、滅多に無い事だろう。 「なんかその笑い方、やらしいよ」 抱えてくれるセラフィーナから突っ込まれる辺り、どうやらその笑みは結構アレだったようだが。 「じゃあ行こう。護りたいと、そう思っただけの人だ。どうか救う道が見つかるよう願っているよ」 彼等リベリスタが手を尽くしたとて、雑賀が救えるかはわからない。 だが『金雀枝』ヘンリエッタ・マリア(BNE004330)は、彼の無事も願わずにはいられない。 「どこまでやれるか……いや、それ以前に勝てるのか……?」 家の中では黒炎の鎧に身を包んだ雑賀が、襲い掛かってきたソードミラージュのナイフを軽い金属音と共に弾いていた。 黒炎の鎧と剣を身に着けたとて、勝てるのかどうか? 彼にあるのは漠然とした不安。 「大人しく渡せば良いものを、無駄な抵抗をしてくれてよ!」 「しょうがねぇ、殺して奪うか」 眼前のフィクサード達は、どちらにしても所有者である雑賀やその家族を殺すつもりではあったのだろう。 そして雑賀が黒炎の鎧を装着してしまったのなら、殺して奪えば良いと考える。 「やらせるものかよ!」 今のところ、雑賀は正気を保ってはいるようだった。 だが彼が黒炎の剣を振り、血を浴びる程にその正気は失われていく――。 ●閉鎖された陣内の攻防 「……あの部屋ですね」 千里眼を通して雑賀の家族を発見した紫月が、す……っと1つの部屋に指を差す。 同時に部屋の間取りやフィクサード達の位置をも見渡した彼女によって告げられる、現在の戦況。 「喰らえやぁっ!」 「……見えている」 狭い屋内にも関わらず、黒炎の剣を自在に振るう雑賀は6人のフィクサードを相手にしても決して引けをとってはいない強さがある。 結果がどうなるかは揺蕩ったままの未来ではあるが、人数の差をものともしない戦いぶりを見た紫月は、雑賀の強さを十分なほどに知る。 「まずはここからじゃの」 「こっちは何時でも2階にいけるよ」 そして紫月が続けざまに雑賀の家族へとテレパスでの交信を試みる中、シェリーとセラフィーナが手早く段取りを済ませ、突入する準備が着々と整っていく。 彼の家族は妻と子の2人、例え庇わなければならない状況になったとしても十分に対処の出来る人数だ。 「陣地の作成は?」 「もう少し待って」 それでも尋ねたヘンリエッタにそう答えた理央が陣地を作り終えるまでは、まだ少しの時間を要するらしい。 ――が、この僅かな時間も彼等は決して無駄に浪費する事は無かった。 「最初にどう動くかが肝心だよ、しっかり態勢を整えよう」 それは意思のある影を周囲に作り上げた瑞樹に続き、他のリベリスタ達も各々が『今、出来る事』を行っていたからだ。 「陣地、いくよ」 僅かな後、ついに理央の組み上げた陣地が戦場を包み、現実から切り離された世界が出来上がる。 「なんだ!?」 結界に遮られた戦場の空気も、同時に変わっていた。 家の中を抜けていた風が止まり、ざわついていた木々も揺れる事をやめたところから感じる、異変。 「何かがおかしい、おい、上に上がれるか!?」 「行かせんよ……血だ、血をよこせぇっ!」 浮き足立ったフィクサード達が2階への突入も考える中、これまでの僅かな間に雑賀の理性はかなり飛んでしまっていたらしい。 「いや……欲しいのは血ではない、お前達を引かせる事だっ……」 否、彼はまだ理性と狂気の間での闘いを繰り広げていた。 「隙だらけだぜ!」 「今がチャンスだ、仕掛けろ!」 彼が葛藤する様はフィクサード達にとっては好機でもある。 もちろん、邪魔さえ入らなかったら――の話ではあるが。 「うわっ!?」 「妙な連中が来たぞ!」 不意を突かれる形で、別方向からの攻撃を受けたフィクサードが呻いた。 「悪いが、お前達の凶行は止めさせてもらおうかのぅ」 「押し込み強盗がいるのはここだね! 逃がさないから、覚悟して!」 先手必勝といわんばかりに織り成した魔力を放ったシェリーが、不吉を届ける月を作り上げた瑞樹が彼等の戦いに先陣を切って介入していく。 「オレは、彼の願いを叶える事に全力を傾けよう」 舞い踊る氷精と化したフィアキィを操ったヘンリエッタによって、庭付近に陣取っていたプロアデプトは凍りつきもした。 「「何者だ?」」 突如として現われた6人の乱入者に対し、フィクサードと雑賀からほぼ同時に同じ疑問が飛び出す。 戦っていた彼等は知らなかった。 その6人がアークのリベリスタだと言う事を。 「――お待たせしました、大丈夫ですか?」 「俺たちはあなたたちを救いに来た。俺は、味方だ」 一方で雑賀の家族は、現われたセラフィーナと竜一によってその事を告げられ、保護されるに至っていた。 そのまま2人は1階と2階を繋ぐ階段へと移動し、雑賀を背後から突く態勢を取る。 「雑賀浩司。お前が守りたかったものは、俺がこの身で守ってやるよ……だから抗え。お前の出来る限りな! 俺たちも、出来る限り、お前を、助ける!」 竜一の叫びは、リベリスタ達の気持ちそのもの。 「血だ……血だ! ……違う! 俺が欲しいのは、今を乗り切る力だけだ!」 今、この時点でも雑賀は黒炎の剣と鎧の呪いと戦い続けている。 この戦いに最終的に彼は負けてしまうものの、それを知ったとしても雑賀は最後の最後まで抗い続けるだろう。 「何やらわけのわからん事になってきたが――あの隙を突ければ、チャンスはあっただろうにな!」 「雑賀さんの敗北……それはこの葛藤で隙が出来たからなの?」 もしも今の雑賀がフィクサード達に敗北する可能性があったとするならば、理央の見抜いたこの葛藤による隙のためか。 「逃げるか? いや無理か」 彼を相手取るフィクサード達は、自分達の数を越える乱入者に撤退を考え始め、その隙を徹底して突くには至らないようだ。 しかし彼等は理央の作り上げた陣地に囚われ、既に逃げる道はない。 当然ながら、術者が理央である事すらも知りはしない。 「一度狙った以上は──この狙い、外す訳には参りません!」 となれば彼等を逃がさずに倒す事自体はそう難しい事でもなく、紫月が放った炎の矢がフィクサード達をさらに追い込んでいく。 「1人たりとも逃す気はありません。フィクサードも、雑賀さんも!」 鋭い気糸を放った佐里の気迫に気圧されたソードミラージュが、軽い呻きと共に崩れ落ちる。 「くそ、反撃しろ、反撃を!」 「浮き足立ちすぎじゃ、それでは妾には届かぬぞ」 必死の抵抗を試みるクリミナルスタアには焦りが生じていたのか、理央を庇うように立ち塞がったシェリーの術杖『-ENFORCER-』にその拳は軽々と弾かれた。 総崩れ――。 最早、そこまでの状態に陥るフィクサード達。 「俺の家族には手出しさせん! ククク、血だ……血を!」 加えてリベリスタ達の攻撃のみならず、雑賀の黒炎の剣までもが凶刃と化して襲い掛かってくるのだからたまったものではない。 「ちぃ、どうしようもないか――?」 「逃げるなら逃げてもいいんだよ、此処から逃げられるならだけどね」 別に逃げられるなら構わないと瑞樹が告げるも、魔術知識のない彼等に陣の外へ出る術は存在しないのも事実。 「ここから出してくれるなら助かるんだがな?」 「それは、ご自分でどうぞ」 無理だと知りつつもそう答え、攻撃をかけるソードミラージュを気糸で撃ち抜いた瑞樹はゆっくりと周囲を見渡す。 気がつけばフィクサードの数はもう当初の6人から2人にまでその数を減らしていた。 「まだ攻め立てるのか?」 既にフィクサード達の戦意が消失していると感じ、ヘンリエッタが問う。 「もしもがあります。気を抜かずにいきましょう」 背合わせに立った紫月は、その油断が雑賀の命を奪われる結果に繋がりかねないと、最後まで油断を見せない構えだ。 「お前達は敵か、味方か。いや……斬る相手に変わりはない」 当の雑賀は理性の大半を失い、刃を振るうマシーンと化してしまっている。 もう戻れないのか? 戻す術は無いのか? 「思い出せ。家族も皆おぬしの無事を祈っている。諦めるな!」 そう声をかけたシェリーが持ちうる限りの知識を利用して鎧を脱がせる方法を探るも、その方法は簡単にわかるようなものではない。 もしも方法があるとするならば、1つだけ。 「殺せば脱がせられる――だったか?」 階段の上で、竜一が呟く。 「動きを止める以外に方法はない、か」 「意識を失わせたら鎧を脱がせるかもしれない。そうでなくても、捕縛できていれば方法が見つかるかもしれない」 頷いたヘンリエッタと瑞樹は、どうにか殺さずに雑賀の動きを止めるしかないという判断に至り、さらにその方法をリベリスタ達は持っている。 要となるのは、瑞樹のギャロッププレイによる一撃。 これが決まるかどうかで、雑賀の未来は決まるだろう。 「殺して奪えば、ここから逃げる道もあるさ!」 「そうだな、それしか方法は……ぐああっ!」 ならば先に雑賀を殺し、鎧を奪い取ってしまえ。 残ったフィクサード2人の行動はとても短絡的であり、この場においての行動としては愚策以外の何物でもない動き。 「血を……くれるのか?」 一閃、覇界闘士が黒き炎に包まれて燃えていく。 続けざまに振り折された二閃目によって、クロスイージスも黒き炎の糧となる。 「残るは雑賀さんだけ……ですが」 呟くセラフィーナの胸に湧く、一抹の不安。 6人のフィクサードは倒れたが、果たして黒炎の剣と鎧に操られる雑賀を、殺さずに倒すような芸当がやり切れるのか? 「やってみせましょう! 私の過去は、こんな炎より、もっと赤くてもっと熱くて、もっと禍々しかった!」 それでも、やってみせる。 眼前の黒き炎を纏った雑賀よりも、もっと禍々しいと記憶している炎を纏った異形の存在と、忌まわしい過去を思い返しながら、佐里が叫ぶ。 「終わりだ……終わったんだ! いいや、血だ、血だぁ!」 フィクサードを撃退し戦いをやめようとする理性と、血を求める黒き刃にもたらされた狂気の間で、未だに雑賀は戦っている。 故にまだ、諦めるわけにはいかない。 ●Black Frame ――黒き炎の鎧と剣を装着した雑賀は、やはり一筋縄で倒せるような相手ではなかった。 「まずは意識をこちらに!」 最低でも瑞樹を倒させるわけにはいかないと、意識を自身に向かせるような紫月の精密な射撃が黒き炎の刃に叩き落されれば、 「ならばこっちからはどうだ!」 せめて鎧を破壊出来ればと考える竜一の爆裂の一撃は、後ろすらも見ないまま向けられた雑賀の刃にその威力の多くを殺されてしまっている。 「……マジかよ」 「6人を相手に互角に戦う、あながち嘘ではないみたいだね」 先んじて紫月が千里眼を通して垣間見ていた光景ではあるものの、竜一も理央も目の当たりにしたその動作には舌を巻かざるをえない。 それでも装着者の雑賀にはある程度の傷は負わせたらしく、血がポタリポタリと滴り落ちる。 しかし、肝心の鎧には目立った傷がついた気配はない。 「地道に行くしかないか」 退路を断つかのように立ったヘンリエッタは、長期戦になるだろうと覚悟したようだ。 「それは仕方の無い事じゃ。あやつがまだ負けずに戦っているのかどうかが、結果を分けるやもしれぬな」 覚悟しつつも、雑賀がもし未だに理性と狂気の間で揺れているならば。 先程まで見せていた葛藤による隙が出来たならば、そこに突破口があるはずだとも考えるシェリー。 「あなたの家族は無事だから、戻ってこなきゃダメだよ!」 鋭い突きを連続で放つセラフィーナの言葉は、雑賀の心に届くのか。 「そんな呪いに、負けたらダメだ!」 応援するかのようなヘンリエッタの叫びは、雑賀の心に響くのか。 「最後まで抗え! まだお前の賭けの決着はついていない!」 「……例え、その身が呪われようとも。己の大切な者を守る為ならば──と、そういう人は、良く知っていますよ。だから出来る限りの事は、やらせて貰います!」 まだ雑賀が負けていないと信じ、決して殺さぬように。 攻め立てる竜一と紫月の言葉を受けたところで、再び雑賀が苦しむような仕草を見せた。 「血だ、血……いや、戦いは終わったんだ! 血を……違う、終わったんだ……!」 頭を抱えて葛藤する雑賀からは、それまでの常人離れしすぎた動きを感じられなくなっている。 「私達はあなたを生かさなくてはいけない! あなたが家族を守りたかったように、家族もまた、あなたに死んでほしくなんてないのですから!」 それは攻め立てる自分達も同じだと、瑞樹を庇う佐里が告げた。 2階では家族が無事を願っているのだと。だから負けるなと! 「うわぁぁぁぁぁ!!」 葛藤し混乱する雑賀の刃に深く切り裂かれた佐里だが、それでも彼女は決して諦めようとはしない。 「この程度の炎じゃ、私は倒されてあげられない……!」 深い斬り傷を負い、かつその傷口を炎で焼かれようとも、佐里は立つ。 ここで自身が倒れれば、瑞樹が次の攻撃を受ける可能性があるからだ。 即ち、その時点で雑賀を救う道がなくなってしまうからだ。 「戻って来い、雑賀!」 再び、竜一の声が雑賀にかけられる。 と同時に再び叩き込んだ爆裂の一撃は、防がれる事も無く鎧の上から雑賀の体に大きな衝撃を走らせていく。 「そろそろだよ、準備は良い!?」 雑賀の状態をスキャンする事に成功した理央が、今がチャンスだと瑞樹に視線を移した。 こくりと頷いた彼女は、そのチャンスを決して逃すまいと静かに攻撃の態勢を取る。 殺さずに倒せば、脱がせる事が出来るのか? しかしよしんば捕縛さえすれば、方法を探す時間はあるはずだ。 全ては確定していない不確かな推測ばかり。 「かもしれないだらけで、世界は優しくないって知ってるけど……私は彼の命を諦めたくない」 それでも、その未来が訪れるのだと信じて彼女は気糸を放つ。 葛藤する一家の大黒柱の手から、剣がするりと抜け落ちた。 気糸によって弾かれた兜の下から見えた雑賀の顔には、穏やかな笑みが見えた。 そして雑賀が崩れ落ちた時、鎧は『動けない所有者など必要ない』と言わんばかりに、勝手に雑賀の体から外れていくのだった――。 ●消える黒き炎 自分1人だけでは、戦いには勝っても鎧の傀儡となっていただろう。 負けたならば、もっと最悪の結果を生んでいただろう。 「……ありがとう。君達の声には、本当に励まされた」 深く頭を下げた雑賀は、自分のために全力を尽くしてくれたリベリスタ達に、心からの感謝の言葉を述べる。 「気にしないでください。それに――」 答えたセラフィーナはそう言いながら、回収した鎧と剣を見やった。 「人を誤った道へ堕とす武器なんて、この世界には不要です」 呪われた武具の存在が、この戦いのきっかけだと彼女は言う。 しかしもう、この黒き炎の剣と鎧が所有者を得る事は無い。 呪われた存在は闇に葬られ、二度と日の目を見ることはないだろう――。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|