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老人と山

●老狩人
 山に篭ってからどれぐらいになるだろうか。手にした銃を撫でながら、その老人は静かに歩を進める。
 地面に残る足跡や、木々についた牙や爪の跡。そういったものから近くにどんな動物がいるかの情報を得て、今夜の食事を得る。必要以上の狩りはしない。自分達が生きる分だけで十分だ。
 そうやって山の中を捜索すること数ヶ月。ようやく『奴』を見つけた。ツキノワグマと呼ばれる熊。大きさ2メートルもの巨大な体。毛皮の下にある分厚い筋肉。鋭い爪は人間など撫でただけで切り裂くだろう。
 先日与えた傷はまだ癒えていないのか、その動きはぎこちない。向こうはまだこちらに気づいていない。ゆっくりと銃口を持ち上げる。
 自分という存在が希薄になる。
 世界と言う存在が希薄になる。
 自分と世界が一体化する。世界にあるもの全てを感じ、自分にあるもの全てを知る。
 無我の境地。明鏡止水。それを呼ぶ名は様々だ。自然と一体化し、殺気はおろか気配すら消した老人の銃は今まさに火を――
「子供か」
『奴』に近づく二つの小さな存在。それをみた老人はゆっくりと銃を下ろす。そのまま背を向けて山の中に消えていく。
「子が独り立ちするまで、お預けだ」
 山の中に消える老人。控えていた犬も吼えることなく老人についていく。
 
●アーク
「イチニイサンマル。ブリーフィングを開始します」
 録音機にスイッチを入れて、資料を開く。『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は集まったリベリスタたちの顔を見ながら、これから起こるであろう神秘の説明を始めた。
「……暑くない?」
「ええ」
 リベリスタが言及したのは五月に冬服を着ている和泉についてである。ああ、またさおりんあたりに「面白いからこれ着て説明しろ」とか言われたんだろう。かわいそうに。
「討伐対象はEアンデッドとEビーストです」
「……もしかして、この老人が?」
 リベリスタたちが指差すのは、モニターに移る猟師である。熊の毛皮をかぶった老人と犬。その写真とスペックが幻想纏いに転送される。
「笹口清治郎。元は猟師でしたが狩りの途中で死亡しました。原因は不明ですが、老衰の可能性が高いと思われます。元々腕のいい猟師だったらしく、銃を使った遠距離攻撃をしてきます。
 そしてEビースト。名前はタロー。柴犬が増殖性革醒現象によりエリューション化しました。こちらは接近戦に優れます。牙と爪で傷つけながら、その遠吠えで気を引いたりします」
 前衛と後衛。それがしっかり分かれている構成だ。だが多数で責めれば犬のブロックは突破できる……と思っていたリベリスタの思惑は幻想纏いのデータを見て止まる。
「エリューションとの遭遇場所は『万華鏡』で割り出しています。
 厄介な相手とは思いますが、よろしくお願いします」
 リベリスタたちは顔を見合わせ、ブリーフィングルームを出た。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:どくどく  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年05月17日(金)22:50
 どくどくです。
 題名はアーネスト・ミラー・ヘミングウェイ作小説のパロディですが、本シナリオの内容とは何の関係もありません。

◆成功条件
 EアンデッドとEビーストの打破

◆敵情報
・Eアンデッド(フェーズ2)
 猟師が狩りの途中で死亡し、死体がエリューション化しました。
 山から下りることはなく、人的被害はありません。生きる(?)為に必要な狩りのみ行っています。八十歳を超えるだろう老人の姿をしており、熊の毛皮をかぶって手には猟銃をもっています。
 知性があり、会話が可能です。

 攻撃方法
 空砲 神遠2全 砲撃音で虚をつきます。重圧、鈍化、ダメージ0
 散弾 物遠2範 散らばる弾丸が放たれます。連
 跳弾 物遠2単 木や岩で跳ねた弾丸が襲い掛かります。弱点
 魔弾 物遠2貫 丹精こめて作られた弾丸が全てを貫きます。必殺、溜2
 狩人 物近範  あらかじめ仕掛けておいた罠が発動します。ノックB、麻痺 
 空蝉 P     気配を隠すことに長けています。命中&回避UP
 空心 P     冷静さを失いません。精無
 弔い P     Eビースト戦闘不能時に発動。物攻、神攻、DA値UP

・Eビースト(フェーズ2)
 Eアンデッドが連れている猟犬がエリューション化しました。Eアンデッドを守るように動きます。

 攻撃方法
 咆哮 神遠複 吼えて相手の気を引きます。怒り
 野犬 物近範 爪と牙で縦横無尽に駆け回ります。流血
 俊敏 P    獣の動きが素早く行く手を塞ぎます。三体までブロック可能。
 弔い P    Eアンデッド戦闘不能時に発動。BS無効、反

◆場所情報
 山の中腹にある山小屋。その庭ともいえる場所で、Eアンデッドは薪を割っています。
 時刻は夕暮れ。足場のペナルティはなし。明りは山小屋に釣っているランプのみです。
 明確な戦闘行為(回復・付与含む)を行えば、エリューションも戦闘行為をとります。逆に戦闘行為を行わなければ、警戒こそすれど手を出してきません。逃亡、もしくは降伏した相手も同様です。
 初期配置は前衛にEビースト、10メートル離れた後衛にEアンデッドです。
 
 皆様のプレイングをお待ちしています。
 
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
犬束・うさぎ(BNE000189)
覇界闘士
設楽 悠里(BNE001610)
プロアデプト
ロマネ・エレギナ(BNE002717)
スターサジタリー
那須野・与市(BNE002759)
スターサジタリー
雑賀 龍治(BNE002797)
クリミナルスタア
晦 烏(BNE002858)
デュランダル
ルー・ガルー(BNE003931)
ホーリーメイガス
雛宮 ひより(BNE004270)


 昼と夜が入れ替わる時間。山に沈んでいく茜色の太陽が山を照らす。
 焚き火を絶やさぬように枝を足しながら、老人は焼いた肉を口にした。傍らの犬にもそれを分けてやる。
 そこに、八人のリベリスタたちがやってくる。
「都会派のおじさんに山歩きは辛いしなぁ」
 言葉ほど疲労を感じさせない口調で『足らずの』晦 烏(BNE002858)は口を開く。懐からタバコを取り出し、口にくわえた。紫煙を吐き出しながら老人にタバコを勧める。
「爺さんはタバコはやるのかい」
「いや、匂いが獣達に気づかれるれるから吸わん」
 あらま、と烏はタバコを懐にしまう。
「こんにちわ。私、犬束うさぎと申します。良ければ名前をお教え下さいませんか? 貴方と、彼の」
『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)は老人と犬の方を見て、名を尋ねた。警戒されない距離を保ち、不躾にならないよう注意しながら。老人に警戒の色はあるが、それでも律儀に答えてくれた。
「笹口清治郎。こっちはタロー。……お前さんがた、迷子か?」
「いえ、わたしめはあなた達を殺しに来ました」
 はっきりと口にしたのは『宵歌い』ロマネ・エレギナ(BNE002717)だ。墓堀を生業とする彼女の口調には、感情がなく平坦だ。言いづらいことを淡々と告げていく。墓石のように冷たく、されど自らの役目には熱く。
「生きる方便である狩りは、もう必要はありません。貴方は先日亡くなられた」
「……」
「この世界には革醒という現象があって――」
 無言の老人に『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)が説明の代わりを続ける。笹口が死んでいること。その死体が神秘的な力により動いていること。タローもその影響を受けていること。
「くまのおじいさん、わたしたちの言葉が信じられなかったら、胸に手を当ててみて。あたなには在るべきものが、鼓動がないの」
『Wiegenlied』雛宮 ひより(BNE004270)が自分の胸に手を当てる。眠そうな瞳は山を登ってきた疲労もあるのだろうが、ひよりはもとよりこんな感じである、妖精は山の中、静かに眠りたいようだ。
「猟師というかマタギと言うのが正しいのじゃろうか?」
 山小屋と老人の格好を見て『不誉れの弓』那須野・与市(BNE002759)は首を傾げる。マタギの歴史は古く、猟師との違いは山と共に過ごすことに重点を置いている事だ。この小屋も、すぐに自然に帰せるような構造になっている。
「ガルゥ……!」
 ルー・ガルー(BNE003931)は獣のように手足を地面に突いて、猟犬を威嚇していた。猟犬の方もルーを見ながら威嚇のポーズをとっている。会話が終わるまで待つつもりだったが、ふと目があって気がつくとこうなっていた。
(里を出なければ、俺もまた彼等の様に生きただろう。最早戻れぬ道だが)
 老人とリベリスタの会話を聞きながら、『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)は静かに思う。山の中で、自分達に必要な分しか狩らない狩人。その腕と精神に子供心ながら龍治は感慨を抱いたものだ。
「言いたいことはよくわかった。嘘を言っているようには見えん」
「じゃあ」
「じゃが、黙って殺されろというのは受け入れられん」
 老人はきっぱりと言い放つ。如何に自分が不浄の存在とはいえ、自ら死を選ぶ好意は受け入れられない。
「難しいことは分からんが、ワシは動ける。死んでいるかもしれんが、ワシはまだ動けるんじゃ。なら動く」
 老人にとって死とは『山に還る』ことである。何度も死に掛けた山の生活は、『動けなくなければ死』『動ける限り生きている』という死生観を育んでいた。
「出来るなら、荒事にならず終われば幸いだったんだがな」
 烏がため息と共に破界器を構える。他のリベリスタたちも破界器を構えた。
 昼と夜の狭間。茜色に染まる大地を舞台に、リベリスタとEアンデッドはぶつかり合った。


 リベリスタの作戦はEビーストを麻痺させて、Eアンデッドを先に攻撃しようというものであった。
 龍治は麻痺用の弾丸を込め、Eビーストに狙いを定める。他のリベリスタもそれを待って行動する予定だったが――
「しまった!」
 Eビーストは龍治が標準を定めるより先に疾駆していた。リベリスタに一直線に突っ込んで本能のまま爪と牙を振るう。リベリスタも龍治の攻撃を待ってから動くつもりだったため、全員がEビーストの襲撃を受けてしまう。傷の痛みにうめき声が上がり、傷口から鮮血が舞った。
「初手を取られましたか。まずい展開ね」
 うさぎは傷口を押さえながら臍をかむ。壊滅的な打撃ではないが、流れを持っていかれたのは好ましくない。
「暫し伏せておけ」
 龍治の銃がEビーストに向けられる。俊敏に動き回る獣の動き。銃口は未来予知を思わせるほど正確にEビーストの行く先を追う。一流の狩人の持つ卓越した『目』。一瞬足を止めた隙を逃さず弾丸が放たれ、Eビーストの動きが止まる。それを見て、一気にリベリスタたちが走り出す。
「ルガアアアアアア!」
 矢のように飛び出したのはルー。極端に体躯を低く構え、獣のように疾駆する。その爪に氷の神秘を宿らせ、Eアンデッドに踊りかかった。白狼の毛皮が荒々しく舞う。獣のように鋭い跳躍で、狂戦士のように力を振るう。
「ルー、テキ、タオス」
「山に生き、そして山で死んだモノは山に還るのが定めだろ」
 烏はEビーストを押さえながら銃を手にする。Eビーストの押さえ役は決まっているが、念のために残っていた。村田銃をベースに破界器化した銃を手にし、睨むようにEアンデッドを見た。コンマ1秒後に放たれるのは、針の穴を指すような射撃。それがEアンデッドをよろめかせる。
「とはいえ、できれば撃ちたくない相手だね」
「でもこのままだと他の生き物も引っ張られてしまうから、見逃せないの」
 ひよりはEビーストとEアンデッドの間に移動し、息を吸う。山の空気が体中にいきわたり、指先の一つ一つまで満ちてくる。深呼吸一つ。ひよりの口から静かな唄が奏でられる。癒しの魔力が篭った唄は、リベリスタの傷口を塞いでいく。その跡でひよりは本当に悲しそうな瞳で、Eアンデッドを見た。
「自然といっしょに生きてきた人が、世界からはぐれてしまうなんて悲しいことなの」
「そうじゃな。放置してフェーズが進んで人に害をなさんとも限らんしの……」
 与市は言ってEビーストから離れ――
「あ、すみません。那須野さん、最初は猟犬の方を」
「む、そうじゃった。すまん」
 戦闘前の作戦再確認字に言われたことを思い出し、与一は猟犬を押さえたまま弓を手に構える。義手の中にある弓。手に馴染んだ感覚は、戦場においても落ち着きを与えてくれる。心の中に湖面を生み出し、波紋が隅々までいきわたるイメージ。手にした矢を番え、ゆっくりと引く。
「え、偉そうに色々考えてみたものの、あれじゃな。なににしても、どうせこの矢は当たらないのじゃ」
 与市の手が震える。戦うことは怖い。この矢が外れ、みなに迷惑をかけることが怖い。心の不安が与市の心と、矢を揺らす。
「……恐れを知らぬよりは、怯える方がいい。自然の中で己の矮小さを感じたときが成長の始まりだ」
 そんな与市にEアンデッドがぼそりと忠告する。え、という声はEアンデッドの空砲によりかき消された。
「自己紹介が遅れました。わたくしめはロマネ、墓堀を生業としております」
 ロマネは一礼してから錆びた蔓薔薇細工が絡む杖と刃先に百合、中央に四振りの小剣が彫られた盾を構える。それが元は墓掘様のシャベルであることなど誰に分かろうか。死者を葬る。ただそれだけのためにロマネは思考する。思考は深く、そして速く。無限の選択肢の中から冷静に最善を選ぶ。絞り込んだ神秘の糸をEビーストとEアンデッドの二体に放つ。
「今の貴方がたの在り方は、世界を歪めてしまう。だから、わたくし達が迎えに参りました。貴方のあるべき場所、土の下へ」
「分かっているけど……この手の仕事は気が進まないな」
 悠里は拳を握り、Eビーストに攻撃を仕掛ける。世界のためとはいえ、罪のない人を葬るのは辛い。しかしやるしかないのだ。意識ごとつま先をEビーストのほうに向け、Eビーストとの間合を計る。常に相手を自分の攻撃範囲内に入れ、その挙動を見逃さない。
「僕は貴方達を殺す。殺される相手にそんな事してほしくないかも知れないけど、貴方達のお墓を作りたい」
 それが謝罪になるとは悠里も思っていない。だけどエリューションを倒して世界を守りました、と簡単に割り切れないのだ。
「納得してほしいとは言いません。私たちは私たちの理由であなた達を『殺し』ます」
 死体相手に『殺す』といって、うさぎはEアンデッドのほうに向かう。様々な角度に生えた刃を持つ破界器が、Eアンデッドを傷つける。傷口はすぐには塞がらず、じわりじわりとEアンデッドを消耗させていく。
(……あるいは納得したいのは、私たちのほうなのかもしれない)
 うさぎは喉元まででかかった言葉を静かに飲み込んだ。エリューションを倒すことに迷いはない。笹口とタローを『殺す』ことに今更迷いはない。だけど納得がいかない人たちも少なくはない。
 だが、リベリスタの勢いが弱まるわけでもない。初手こそ取られたが、概ね理想どおりの状況になっていた。
 だがEアンデッドの顔に焦りはない。それは死者ゆえの無表情か、あるいは経験ゆえの余裕か。
 日は少しずつ、暮れ始める。


「なんとこれは」
「ガアアアアアアア!」
 うさぎとルーの足元に絡まるロープ。木がしなって戻る力を利用して絡まったロープが二人を吹き飛ばす。ルーはそのまま転がるように起き上がって再度飛び掛かるが、うさぎは地面に背中を打って呼吸が少し止まった。
「わ、えと、みんなかいふく!」
 ひよりは回復にひっきりなしである。自分の付与も行いたいが、初手から怪我人が多く手が回らないでいた。ことEアンデッドとEビーストは状態を崩す攻撃を多く行う。自然と全体回復が優先して行われ、ひよりは目が回りそうである。
 Eアンデッドに死を告げることはあっても、死を受け入れろとひよりはいえない。だから彼女は仲間を癒すために唄うのだ。音痴でも、精一杯気持ちを込めて。
「下がって!」
 悠里が龍治と与一をEビーストから守るように立ち塞がる。射手の二人が下がったのを気配で確認し、悠里はEビーストに拳を振るう。俊敏に飛び交うEビーストの動きに惑わされることはない。大事なのは間合。しっかり大地を踏みしめ、氷を纏った手甲を叩き込む。その悠里に、
「……っ! 僕を集中して狙ってる!?」
 Eアンデッドの弾丸が叩き込まれた。跳ねる弾丸の軌道は避けにくく、気がつけば傷が深くなっていた。Eビーストの爪も受けて、傷は累積する。運命を燃やし気絶を免れるも、攻撃が途絶える気配はない。
「ダメージ集中による各個撃破か。戦いのキモを押さえている」
 烏がEアンデッドに弾丸を叩き込みながら感心する。数こそこちらの方が多いが、個人の火力ではエリューションの方が高いようだ。歴戦の猟師の行動に焦りはするが、それでも烏が弾丸を外すことはない。
「それだけではありません。設楽さんが倒れればEビーストがフリーになります」
 呼吸を整え動けるようになったうさぎが、Eアンデッドに向かいながら補足した。『11人の鬼』を手にEアンデッドに踊りかかる。ゆらりと脱力して立ったかと思えば、するりと相手の懐に入り込む暗殺者の動き。跳ね上げるように刃を振るい、熊の毛皮を血に染めた。
「ソレマデニ、アイツ、タオス!」
 ルーがEアンデッドの背後を取るように移動しながら叫ぶ。Eアンデッドの喉笛を切り裂けとばかりに殺意を高め、氷の爪で切り裂こうと一気に振るう。多少のダメージはすぐに塞がる、とばかりに胸を叩いた。
「これはもしかしたら猟犬の方も攻撃した方がいいかもしれませんね」
 ロマネは戦況を見ながら両方を視界に収めることができる位置に移動していく。現状のロマネの状況では複数攻撃も可能だが、そちらは相手の隙を縫うほど器用なまねはできない。結果、火力が下がってしまうだろう。そんなジレンマもあるが、Eビーストが押さえられないというのなら視野に入れる必要がある。
「それまでにあの猟師を倒せばいいんじゃ。……まぁ、わしの弓では無理じゃろうが」
 与一がネガティブなセリフを放ちながら矢を放つ。そのネガティブな思考が余計な緊張を取り除き、適度な脱力になっていようとは与一自身も気づいていない。鍛錬によって培われた矢は、猟師の肩に突き刺さった。
「得物は違えど、同じ銃を操るものとして尊敬する」
 龍治は火縄銃を持ち、Eアンデッドの一挙一足に集中する。獲物を狙う目、構え、そして動き。しっかり構え、狙って撃つ。何十年も培ってきた基本に忠実な動き。それを泥臭いなどと誰が笑えようか。わずか数秒の授業だが、学べることは多い。
「この一射は雑賀の技。とくと知るがいい」
 だがEアンデッドの技を盗むつもりはない。龍治には龍治の生き方が。老人には老人の生き方がある。技とは生きる術。故に人生が違う者の技は、参考になれど不要。龍治には受け継いだ技術がある。その技を、Eアンデッドに叩き込んだ。
 リベリスタは氷や罠を駆使し、エリューションを足止めしながらEアンデッドに火力を集中させる。
 だが、エリューションの火力は高い。
「ごめん……!」
 追い込まれた悠里の爆発力をもってしても、フェーズ2のエリューション二体の集中砲火を受ければ永くは持たなかった。力尽き、倒れる悠里。
「わ、わしが代わりに入る。それぐらいしかできそうにないからのぅ」
 与一が倒れた悠里の代わりにEビーストの押さえにはいる。だが後衛職の与一では長く押さえられないのは自明の理だ。
 だが、長い時間は必要ない。積み重ねたダメージはEアンデッドを深く傷つけていた。
「どうか安らか眠りがあらんことを」
 ロマネが『錆薔薇シャムロック』を手にEアンデッドに神秘の矢を放つ。墓堀の放った一撃が、死者を土に還す。
「ワオオオオオオオオン!」
 主を失ったEビーストの咆哮が山に響く。激しい怒りにより猛威を振るうEビースト。
 ひよりを初めとした幾人かのエネルギー切れもあり、Eビーストの掃討は前のめりの殴り合いとなった。それまでEビーストを押さえていた与一と、前衛を入れ替わったうさぎとルーが運命を燃やすことになる。
「良い犬だ。余程の長い時を、あの者と過ごしたのだろう」
 龍治が火縄に火をつける。隻眼で相手を睨み、弾丸が相手に突き進むイメージを生む。心は澄み渡り、体は銃と一つとなる。
「黄泉の道でも、あの者を支えてやると良い」
 龍治が火縄銃の引き金を引き、火縄が火薬に落ちる。神秘の力を込めた弾丸がEビーストを貫き、その命を奪った。


「たぶんこれが、一番、彼らの意に沿うと思います」
「種を越えた繋がりというものは確かに存在致しますから」
 うさぎとロマネは老人と犬の墓を作っていた。両者を共に同じ墓に入れて弔う。死後の世界があるとするなら、そこでも一緒にいられるように。
(僕にも守りたいものがある。だから、ごめん)
 悠里は老人と最後まで主に尽くした犬に黙祷を捧げた。世界のためとはいえ、感情だけは割り切れない。
「爺さんは良い生涯だったのだろうかねぇ」
 烏はタバコを吸いながら、老人が倒れた場所を見ていた。それは死んだ本人にしか分からないことだ。山小屋の中で見つけた遺品を見ながら、ひとりごちる。
「……これはおじいさんのかぞく?」
 ひよりが遺品の中から一枚の写真を見つける。かなり古ぼけてはいるが写真を撮った日付と場所が書いてある。ここから遺族を探すことは難しくないだろう。
「弓と矢でしか出来ない事……なんとなくわかってきた気がするのじゃよ」
 与一は遺品の中から老人の日記を見つける。狩りの記録といえるそれには、弓矢を使っての狩りのことも書かれていた。そこから与一は何かを学んだようだ。
 夜の山を歩いて下りれるとおもうほど、傷は浅くない。リベリスタたちは猟師の山小屋に一泊し、次の日下山することにした。山小屋は幸い広く、食料も一日分なら足りそうだ。
「これが猟師さんの見てきた山か。……ちょっと怖いね」
 悠里は窓の外を見る。街の光のない夜は、吸い込まれそうなほどに深く、恐怖を感じさせる。エリューションのような殺意ではなく、もっと心に訴えかけてくる恐ろしさを。
「ええ、まっくら。でも、ほら。ほしがきれいよ」
 ひよりは夜空に浮かぶ星を指差した。スモッグのない夜空は澄み渡り、手を伸ばせば届きそうな星座があった。
 この恐怖もこの美しさも、全て含めての自然。それをリベリスタたちは、感じ取っていた。

 生命はいつか尽き果て、大地に還る。それがこの自然の慣わし。
 死体は土の養分となり、養分は植物を実らせ、植物を育てる動物の餌となり、草食動物も肉食動物の餌となる。
 命は繋がっている。死は確かに悲しいけれど、ここに老人と犬がいたことをリベリスタが忘れなければ意味はある。
 明日生きることが、今日殺した命を繋げていくことなのだから。


■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 どくどくです。
 マタギって書けばよかったと思ったのはOP提出後でした。

どくどく「しっかり足止めする前衛と、射撃系の後衛。がっつりフェイト削るぜー」
リベリスタ「じゃあ、ワンコ麻痺させてから突破しますね」
どくどく「しまったぁぁぁぁぁぁ!」

 まぁ、大体こんな心境でした。とほー。

 何はともあれお疲れ様です。ゆっくりと傷を癒してください。
 それではまた、三高平市で。