●プロモーションビデオの製作 ティロリン♪ AFに届いた新着の依頼、そのひとつの件名がそうだった。 担当フォーチュナーは『悪狐』九品寺 佐幽 (nBNE000247)だ。――嫌な予感しません? しかし貴方にこの依頼を受けてみたいと思わせる要素が、そこにはあるはずだ。 ●佐幽さんじゅうよんさい 「三高平やアークをPRする、リベリスタ勧誘用のプロモーションビデオ製作をおねがいします」 佐幽は宝箱をひとつ、差し出した。 作戦指令本部、第三会議室。貴方たちは依頼を受けてホイホイやってきたところだ。 「……なにこれ?」 「どうぞお開けください」 ごくりと唾を呑み、リベリスタの少年が宝箱を開く。 なんと! 札束がそこには鎮座しているではないか! 「製作費です。依頼報酬とは別途に、必要経費としてお渡し致します。ただし使った経費は明細をしっかりつけて提出してください。余った分は回収しますし、不適切な使い道が目立つ場合は返納をおねがいしますので」 貴方たちは互いに顔を見合わせる。 「こんなにいいの!?」 「こんだけしかないの!?」 気まずい沈黙。 リベリスタの金銭感覚は個人差が大きい、らしい。 「大きく分けて、仕事は二つ。 ①PV撮影や編集、経理や企画などを担当する裏方のスタッフ役。 ②PV撮影に出演、表立って広報活動するタレント役。 なにをどうPRすれば新規のリベリスタ獲得に役立つか、皆さんで相談して製作してください」 詳しい資料を手渡すと、佐幽は片づけをはじめた。 ――なにか普通すぎない? 「左様で」 佐幽は口許に手を宛て、しばらく思索すると閃き電球をピカリンと点灯させた。 「では、複数チームに分かれてPV作製、最後にコンペを開催します。 皆さんで自由にチームを組んだり、あるいは個人製作するなどしてPVを作り提出してください。予算はチームに所属する人数に応じて総額より分配します。 優勝チームのPVは優先して流す、としておきましょうか。 最下位チームにはご褒美を。 ――いかがでしょうか?」 火花散る、熱き闘視。 それだけ告げると、“参加者が増えると予算が減る”という事実を口にせぬまま、佐幽はお澄まし顔で立ち去った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:カモメのジョナサン | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月19日(水)23:07 |
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■メイン参加者 32人■ | |||||
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●撮影編 1/4 鈴宮紅茶館では通常営業の傍ら、店主の鈴宮・慧架が小首を傾げて悩んでいた。 「はぁ……」 そこにハンディカム片手に尋ねてきたのがレイチェルだ。 「やってる? て、なにかお悩み?」 かくかくしかじか。 「かくして美味しい紅茶を皆様にご提供したいと想って参加したのです。この――」 慧架は言葉に言い淀む。 「ぷ、ぷも、ぷもろーしょんびでお大会に」 「プロモーション」 「そう、ぷろもーしょん」 が、慧架は俯き、どんより鬱々と雨雲を侍らせる。 「しかし個人参加で予算は雀の涙、他所みたいに大きなカメラのような機材もなく、撮影経験もないので企画は白紙同然で」 「あ~」 一考、そして閃く。 「ね、ふたりで協力して個別に二本仕上げる、てダメかな?」 「……よろしいので?」 「うん、あたし困ってる人(特に美少女)は見捨てられないの」 ●撮影編 2/4 【学音】こと三高平学園音楽愛好会の部室では、PV作成で盛り上がっている。 「でっけたー!」 「演出は決まりですね」 【学音】の高原 恵梨香はキーボードを打鍵しつつ後輩らしくあえて丁寧な言葉遣いをする。 ゆるーい先輩 桜咲・珠緒はギターを軽妙に弾き鳴らしつつ、ビシッとベース担当のフィオレットを指差す。 「作詞作曲&編集どう!?」 「順調よ、過去ライブ映像を使いまわすって発想のおかげで予算も余裕あるわ」 「完成が楽しみですね」 「イェイッ!」 ギュィィィィンッとギターを弾すと、珠緒はルの字に豪快ジャンプした。 雷電激震、竜が唸る。 結城“Dragon”竜一は痛快にギターを唸らせ、リハを続ける。 「これで本番もばっちりだな」 「ああ、仏契りだ」 焦燥院“Buddha”フツはVocal担当、緋色の槍をマイク代わりに構えて熱唱する。 「フッ、崩界を食い止める事に繋がる活動だ」 甲高いシンバルの音が響く。 「中途半端に等できる物か」 酒呑“L”雷慈慟のドラム裁きも冴え渡る。スティックを一転させ、巧みに重低音を刻む。 「"Seraph"加入により我々の活動も重厚感を増すだろう。充実感も多大にある」 光る汗、刻むビート。 「最高だ」 ベーシストは音楽という大波に乗り、大海と躍る。 「ああ、あえて多くは語るまい。我らの音を聞けば、自ずと胸にわき上がる思いがあるはず」 熾竜“Seraph”伊吹は内心の揺らぎを胸に秘めつつ、COOLにポーカーフェイスを装った。 (酒……ではなく“L”と黎明の鶏鳴が聴こえるまで特訓したのだしな) 「僧! 凡ては救世の音楽で語るまでだ!」 「応!」 チーム【BoZ】の救世活動はまだ始まったばかり――。 ●撮影編 3/4 チーム【密着アーク24時】は六人と参加人数が多く、予算も一番多い。 問題は、予算の使い道でして。 「コンセプトは『三高平でのリベリスタ生活を密着レポート』よ」 ジャーナリスト葉月・綾乃は流石に本職も同然、手際よし。テキパキと企画を練り、事務方面をこなして各方面にも連絡を入れていく。が。 「軽く盛ったり美化したりは基本よ!」 悪魔の翼や角が垣間見えるのは気のせいか。 そして得てして敏腕な人ほど人遣いも荒いもので。 「クラウゼヴィッツさん」 「はい」 「クラウディアさん!」 「ただいま!」 「クラうー!」 「少々お待ちを~」 苗字→名前→あだ名と次第に省略される呼び方にどうにかこうにか順応しつつ、クラウディアも奔走する。メインは服飾担当だが裏方の仕事は多岐に渡るのだ。 東欧の名家のお嬢様であるクラウディアに雑務をやらせるなど本来あってはならないことなれど、ここはアーク、郷に入っては郷に従え、だ。千差万別の人々が集う三高平では出自の差などでそう特別視されるものでない。そこがかえって気楽でよい。 そう、傷心にかこつけ仮初の安寧を求めていた自堕落な日々を振り返れば、こうした忙しくも充実した日々には心が躍る。 「クラうー、衣装はいつになるの?」 気兼ねなく、遠慮なくそう尋ねる綾乃へ、クラウディアは微笑する。 「今暫く。必ず、とびっきり素敵な衣装を手配しますよ」 作製終盤。 佳乃はPVの編集に従事する。大和撫子然とした和服美人がPCを巧みに扱う様はシュールだ。 「一般人の顔にモザイクを入れて、変な声が入った箇所はカットや音消し、と」 効果音、BGM、テロップ等も忘れてはいけない。 しかし作業量が膨大だ。というのは予算が多いからと欲張ってアレコレ内容を手広く拡げてしまった為に、編集の負担量が増大していたのだ。次第に乱調をきたす一方、刻一刻と締め切りは迫る。これが後に語られる致命的編集ミスの元凶となる。 「ウフ、ウフフフフフフフ……」 壊れた薄笑いを浮かべて寝る間も惜しみ、真っ白に燃え尽きるまで編集をつづけた――。 ●撮影編 4/4 こちらチーム【なのはな荘】では。 「……イヤ」 焦げパンこと佐倉 桜は扉越しに拒否を示す。このひきこもり高校生、未だ住所不定のままネカフェとアークの施設を転々として寝泊りしている始末だ。 「カレーを作るだけのカンタンなお仕事、やろうよ」 反して春津見・小梢は底抜けに明るくてゆるーい。手にはマイ買い物袋をぶら下げて。 「で、お肉なにがいいかなー? ビーフ? ポーク?」 「……馬肉はダメ」 「へ?」 「三高平産の食材にこだわらないとPRにならない。それに何肉でもいいけど、見栄を張って普段と違うことをしても嘘臭いから」 「あー」 春津見がポンと掌を打つ隙に扉は閉じてしまった。 「撮影しますよー」 阿倍・零児のカメラアングルは平均的に皆映るようバランスを保っている。映像としての迫力はなくとも素朴で見やすく仕上がるはずだ。マニュアル手ぶれ補正もかけ、万全だ。 「アークのPR、するんだよね……?」 なのはな荘の大家ことルーメリアはエプロンに着替えつつも疑問符の雨雲をとばす。 「カレーのPVは百歩譲るとして! なんでなのはな荘で撮るの?」 香夏子は玉葱片手に答える。 「いつもお世話になってるお礼です。入居者GETのチャンスです」 うるうる目を涙ぐませて。 「ダメです?」 「しょ、しょうがないから協力してあげるの」 ぷいそっぽをむく仕草の何と可憐なことか。零児は一部始終をばっちり撮影する。 「チョロいです」 そう、一部始終を。 ●大会編 【パニッシュモブ】 「……やべ」 チーム【パニッシュモブ】の主催、靖邦・Z・翔護ことSHOGOは蒼白とした。 見た。 机の上に転がる酒瓶、空の皿の数々を。酔いも醒める領収書の額面を。 「……オレは何も見なかったZE!」 そして寝た。 大会当日。 映画館の一室を借りてコンペ大会はついに開催された。 ――上映開始――。 白昼のアーク本部前、人の行き交いもまばらである。 曇り空、雨がぽつぽつと降り注ぐ中、四者は不自然に取り残された後、歌いはじめた。 フラッシュモブ。それは不特定多数の人に呼びかけ、公共の場に突如集合、パフォーマンスを行い即時撤収する行為だ。しかし当日は小雨、まるで人が集まらないまま決行となる。 『やぁ!予算ないから一発撮りね☆』 これから起きる不自然な出来事は全てSHOGOの一言で説明できる。 「ふはははははは!」 愛馬に跨った刃紅郎は爆炎が次々と立ち昇る中、採石場を疾走する。画面端ではリリがインドラの矢を連発、爆薬代を節約する。 『Q:お気に入りの場所は?』 「コーポ「THE KING'S ROAD」つまりこの街で我の行く道全てよ」 場面転換、市街地へ。 「当初は皆、公道で乗馬する我を奇異の目で見ていたが今や我専用サービスエリアが在るほどだ」 我専用SAで愛馬に飼葉を食ませ、林檎をもぎ、かじりつく。 「これも我の王威のなせるものだろうな!」 王気爆発のどや顔で。 『Q:三高平に来て変わったことは?』 「共に戦う仲間が出来た……だな。以前にも我が降魔家の使用人による戦場での支援はあったにせよ、一人で戦っていたからな」 刃紅郎はイヤリングに触れ、今しがた雲の過ぎ去った青天の空を見つめ、戦友に想いを馳せた。 『Q:お気に入りの場所は?』 「愚問だZE! それは三高平駅近くの高架下DA! 音の反響もあるけど、あそこでギターを奏でるといい音になるのSA! GOODPLACEだZE!」 しかし竜一の背景では工事現場に轟音が反響、ギターも声も聴こえづらい。 『Q:三高平に来て変わったことは?』 「そりゃ変わったSA! 幾多の音楽にパッション、そしてFRIENDとセッション! SOULがFIREでHIGHってやつだ! 分からない? 感じるんだよ、そのHEARTで!」 叫ぶ。工事に負けじと必死に叫ぶ。 「そんな俺が歌います。曲名は」 断絶。 編集カット入りました。 『Q:お気に入りの場所は?』 「学園三階の女子トイレ」 生佐目は便座の上に正座して語る。 この場面のテーマは『仲間と集まり、笑いあう場所』だ。その証拠に、個室の外からは楽しげな女生徒の談笑が聴こえてくる。なお撮影者はSHOGOです。 「だって、誰も来ないからお昼には最高だし。ぼっち違うし。お昼はね、ゆっくり、静かに、豊かで……便所飯にはクリティカルな場所です」 と、不意にカメラが空転、天井、次いで真っ白闇を映す。 「キャー! ヘンタイ!」 レンズは砕け散った。 『Q:三高平に来て変わったことは?』 「最近は、自分の未来を意識しますね」 教室の片隅で生佐目は紙束をシャッフルする。 「イメージしろ、自分の将来を!」 と昇り、 「……まぁ、イメージできないんですけど」 と下る。 「夢に向かって順調にライド!」 UP。 「とはいかず、いまだにFVな感じがします」 DOWN。 「確実に言えることは――人生に、六点目ヒールトリガーは、無い」 リリは礼拝堂にて死者を弔い、冥福を祈る。 『Q:お気に入りの場所は?』 「この教会、特に食堂です。初めまして方とも楽しく食事が出来ます」 眩しく笑って。 「三高平での生活は、本当に楽しいですよ」 直前のPVさえ無きゃ説得力もあっただろうに。 『Q:三高平に来て変わったことは?』 「そうですね、世界が広がりました。優しい人に楽しい事、辛い事も増えましたが……」 リリは天に感謝の祈りを捧げる。 「この世界がより愛おしくなって、お友達も沢山できました」 直前のPVとは正反対のリア充です。 「これを期に色々な方が礼拝堂を訪ねて下さったら、嬉しいです。いつでもお待ちしております」 そしてシャイニースマイルで。 「大好きです、三高平」 そしてリリは両手を重ねて「頂きます」と祈りを捧げ、熱々ジュワッと美味しい死者を弔った。 ※死者=からあげ ラスト。どしゃ降りの雨の中、歌う四者は建物へ逃げるように解散する。 『きっとあなたが"かえる"場所。三高平』 決めのキャッチコピーで〆。 ――上映終了――。 審査員は六名、各10点ずつ、計60点満点で執り行われる。 『ただいまの作品、合計23点です』 「審査員のリコルです。三高平とアークのPR用PVを自ら製作する、とても素晴らしい試みでございます。されとて審査はきっちり公明正大に。わたくしの審査ポイントはPRとして魅力的に見えるか、また過大な嘘偽りは無いか、です。 確かに嘘偽りは無く、ユニークでもあるのですが……」 言葉を濁し。 「克明に現実を直視するあまりにPR用としては逆効果ではないかと」 「即ちボツです」 すっぱり佐幽は一刀両断した。 「なお、呑み代の不正請求については追って問い質しますのでご覚悟を」 「……バレてた?」 SHOGOの末路は、あえて語るべくも無いだろう。 ●大会編【HEY-YO!そうでSHOW!!】 「クイズ!試験に出るリベリスタ~!」 新田・快はクイズ番組風のセットで司会を務め、華やかに楽しい雰囲気を演出する。 一方、出題者席と対になる回答者席では朧深 黎明がピーガーわめいていた。 「ザキオカなんなのうざいんだけど! 黎明ちゃんはおにいちゃんの為以外には動かな」 「さあ朧深さん!シンキングタイムでーす!早押しですよー!」 「……聞けよコノヤロウ!」 そも回答者一人なのに早押す意味はどこに。 「では問題」 写真パネル掲示。リベリスタっぽい人達の戦闘風景だ。なぜか富士山の中腹で。 『Q:あなたの物理防御力が200・回避が70の時、物理攻撃力が300・命中が100の敵のメガクラッシュが150%ヒットした場合のダメージは?』 黎明ボー然。 「……は? え? 物理が200で回避が? 150%ヒットナニソレ」 「あと十秒、九、八」 「つーか何で早押し!? 黎明ちゃんしかいないわけだけど! 急かすなウズラバカ!」 怒りのボタン粉砕ナッコォー。 「……え、えーっと。よ、よんひゃく、ぐらい?」 タライ直撃。黎明、ヒヨコと踊る。 「はらほろひれはれ~」 「あー、残念、不正解ですねー」 「は?」 黒服サングラスのモブリスタが突如、黎明を捕まえて簀巻きにした。 そこでD兼カメラの岡崎 時生がはじめて登場する。 「残念朧深くん! では行きましょう! …何処にって? この写真の現地、富士山まで行って実際に身体で覚えるんですよ君ぃ!」 強制連行ーう。 「って、ちょ、まっ! いやいやいや! 行きましょうじゃねえよこの無精ヒゲ! これ拉致だよお!? ごめんね快、必ず答えてそこから救い出すから……!!」 「あ、新田さんはここで待機ね。訓練終わったら再度出題シクヨロ」 連行される黎明、去り行く黒服、茫然とする新田。 「ザキオカぶっころ☆彡」 そう叫んだが最後、黎明は黒い外車で拉致られて帰ってこなかった。 『ただいまの作品、合計25点です』 すぅすぅ。 審査委員長の佐幽に至っては寝不足が祟ったのか、ぐっすり寝てる。 「……いっそ今のうちに寝かせといてやるか」 藤倉 隆明は代理でマイクを握り、適当に選評を述べると最後に一言こう締めくくった。 「ツッコミを用意しとけよ!」 ●大会編【鈴宮紅茶館】&【スタジオフェアリーライト】 個人チーム二組の作品は、上品な仕上がりなれども強烈さに欠けるふんわりとした雰囲気だった。 鈴宮紅茶館で過ごす素敵なティータイム。時おり垣間見せる、慧架の可憐な振る舞いは撮影者の美少女に注ぐ情熱とこだわりを感じさせる一方、そこはかとなく優雅であった。 レイチェルを解説を交えての、三高平の風景巡り。 活況な駅前や繁華街などを映した映像はとても丁寧かつ綺麗でこれまでとは雲泥の差だ。 湖では足をぱしゃぱしゃさせて涼み、港から眺める三高平の海や船の素敵さを伝えたり。そうした地味とさえいえる落ち着いた作風は、どこか居心地がよい。 点数は慧架39点、レイチェル47点と個人製作にしては評価された方だろう。 「――左様で」 佐幽はレイチェルに10点を投じて、何故かひとり首肯する。 「ね、どうしてあなたは風景にこだわったの? アークの皆は?」 慧架の問いにレイチェルは小声で秘密をささやく。 「そんなのとても映せない」 遠い目で、虚空の先の真理を望む。 「綺麗な三高平PVに、いてはいけない」 ●大会編【なのはな荘】 チーム【なのはな荘】のPV、カレー作りは順調に進む。零児の撮影技術がなかなか素晴らしく、料理番組としては今のところ上出来なくらいだ。 玉葱をざくざく刻む春津見の手際の良さ、隣で準備し助手をこなすルーメリアの笑顔も可愛い。 画面端では香夏子が待ち遠しそうに。あ、どこかへ消えた。 / こ こ で オ リ | ブ オ イ ル \ 「佐幽さん色になるまで炒めたら牛肉を~」 なぜか卒業写真の欠席者みたいにカットイン挿入される佐幽=狐に観客席がドッと湧く。 かくて順調にカレー作りは進んでいく、と思いきや。 「って、うわぁ!? 香夏子さんなんで僕のズボン下ろしてるんですか!?」 大写しになるアーク女性職員制服。 「カメラ=撮影、コスプレ撮影お手伝いします」 「ややめてください、うわあああああ!」 香夏子に奪われたのか、カメラは斜め下から恥らう零児のスカート姿を激写しつづける。光加減で絶妙に闇の中に薄ぼんやりと浮かぶショーツの色は――。 「白米たけたよー」 「防弾カレールー投入ー」 「わ、赤くなった!」 背後からカレー調理のやりとりが聴こえる中、完成までの数分間、劇場では零児のスカートの中を巡るえっちな攻防が続いたのだった。 『ただいまの作品、合計44点です』 マイクを握るのは審査委員 卯月 水華だ。 「えー私も新人なわけだけど、アットホームなやりとりは魅力があったわ。まだ私自身アークについて詳しくはないけど、新しい発見が多くて今日は楽しませてもらってるわね。わかりやすくて良いPVだったわ。そして何より――」 一息つき。 「そして何より、可愛い女の子がいるのが重要よね!」 水華は観客席のチーム【なのはな荘】一団にキラッ☆と目配せする。 「可愛いは正義であり、やる気を出すのに重要な事なのよ!」 美少女扱いを期待してたルーメリアが喜ぶ一方、零児は苦笑いする他ない。 「でも、やりすぎはダメよ? 露骨なのより控えめがお姉さんは大好きです」 キリッとしつつも熱烈なアイビームを贈る水華、零児が男だとバレる日はいつか。 ●大会編【BoZ】 絶唱する。 新生BoZは新曲『LOVE SERAPHIM』を全身全霊を込めて響かせ、奏で、魂のビートを刻み、音楽の観音菩薩に救世の願いを届けんとする。 Seraphのベースがもたらす新たな重厚さと安定感はBoZの激熱を未知のガンダーラへ誘う。 ♪ 言わない南無も 廃仏(すてて)しまおう! 黄泉を探しさまよう I'm 僧 ♪ ♪ STOP THE BUDDHA!SHOUT IT MARA! 瞑想できない!煩悩、全部捨てよう さみしいSeraphの返事がまだよ、神がいないから 救世に向かい、印相を組む。悟った人はいいね! ♪ そうして伴奏の合間にSeraph伊吹へ三者は問いかける。 Q:あなたにとって音楽とは? A:破滅であり救い つまり全てだ Q:今、何に恋してますか? A:今、この世界に Q:世界を巻き込み救世する事への意気込みを A:俺が来たからには救世は為ったも同然、共に天の高みを目指そうぞ ♪ 神仏が一つになれちゃう事を 信仰統一と思う内に 他信仰の存在も許せない セコい破戒僧になってたよ 丁度依頼の無い僧の様に 退屈な日々だった 思えば崩界も進んでいたよ 職天使(きみ)に会うまでは ♪ 見事な救世PVに観客席は拍手の旋風。 『ただいまの作品、合計50点です』 現在首位だ。審査委員の五十嵐 千涼がマイクを握る。 「とにかく迫力があったかな。ある意味、歌一本に絞ったことで明確なイメージは伝わる気がする。私も今日、住民登録済ませたってぐらいの新人なのよね。個性的すぎて意味わかんないとこもあるけど、自由なアークの魅力は伝わってくるかもね?」 少々口篭り。 「それに格好よかったし」 と千涼は急に慌てて「今のなし!」と叫ぶ。 キーンと、手をすっぽぬけたマイクの騒音が響いた。 ●大会編【学音】 前半、【学音】のPVはひたすら無音に字幕台詞で進んだ。 ライブとアーク任務を重ね、交互にフラッシュバック・シンクロさせる演出がまず目を惹く。 緊迫した戦況、奮わぬ戦い。 聴衆の野次が飛び交い、無音のライブ会場ではゴミクズが宙を舞った。 苦戦がつづく。 無言の“溜め”が、徐々に追い詰められていく戦況/会場が、焦燥感を観衆へ植えつける。 連携の噛み合わない二人。 絶体絶命の窮地。 手と手が、交差する。 『いっしょに!!』 ハジメテの音。 珠緒と恵梨香とフィオレットの絶唱をきっかけとして音楽に火が灯る。 逆転する戦場。 共鳴する音楽。 戦場には次々と仲間が集まり、シンクロするように奏者の奏でる音色が折り重なる。 迸る情熱の奏楽がフィニッシュを告げ、喝采が仲間たちを祝福する。 そしてスクリーンの貴方へ、珠緒と恵梨香が手を差し伸べた。 『一緒に行こう』 不思議なことに、暗幕が降りても喝采は鳴り止まなかった。 ●大会編 【密着アーク24時】 これは壮大な悲劇である。 日常生活シーンにて。 梶原 セレナはお気に入りのチャイナドレスを着こなして流暢に観光ポイントを解説していく。 湖で足パシャしたり、港で三高平の海をPRしたり。 「……なぜ」 セレナは愕然とした。七割以上レイチェルとネタが被っていたのだ。三高平の風光明媚な場所を巡っていけば、必然こうもなる。 否、それ以上に佳乃のモザイク処理だ。一般人の顔にモザイクを入れるのはまだしも多用しすぎて普通の空間さえ面妖な不審人物の溜まり場に。第一、三高平は十歩も歩けば奇人変人と出逢う土地だ。要修正箇所が多すぎる。 『綺麗な三高平PVに、(アークのリベリスタは)いてはいけない』 真理だ。 さらに後半、なぜか筋トレ中の鹿島の男の肉体美を長まわしでたっぷりと垂れ流される。 「良い汗かいたな」 光る汗、しなやかな筋肉美。審査員席では隆明が咳き込み、千涼が目を背ける。 一転、シャワーシーンへ。 「結構、恥ずかしいです。お色気、で済む範囲でお願いしますね?」 セレナの柔肌を伝い落ちる玉の雫、そのエロスたるや。 ガタッ。審査員席が沸く。 「やはり筋トレの後はシャワーだな」 天国と地獄。鹿島の艶かしい腹筋や各所のモザイクによって藤倉 隆明は吐血した。 「ぜって……ゆるさ、ぐふっ」 今度は任務だ。 フォーチュナーを演じるのは職員制服を着た佳乃だ。 「フィクサードが資産家の子供を人質にして身代金と仲間の釈放を要求、対処をお願いします」 場面転換とある空き家へ。 人質役の香夏子(他にいなかった)が「たすけてー」と棒読む中、青島 沙希は悪役に徹する。 「早くしなっ! こいつの命が要らねぇってのかい!?」 舞台女優らしい迫真の演技が、香夏子の棒演技を帳消しにするほど決まっている。仮に人質が藁人形だろうと沙希ならばやり遂げるはずだ。 「そこまでだ!」 鹿島が突入、即興で本格的な戦闘アクションを繰り広げる。ここは流石に本職だが、青島の演技力は素人の鹿島さえも劇中に引きずり込み、白熱のバトルを展開させた。 フラッシュバンが明滅、子供が奪還される。刹那、沙希は突貫し。 「馬鹿野郎! なんで投降しないんだ、命を粗末にしやがって!」 鹿島の腕に抱かれた沙希。シフォンレースのワンピースに血糊が滲む。 「悪人たって、死に場所くれぇ……好きに選ばせてくれなよ」 事切れる沙希、絶叫する鹿島。 「俺達にもっと力があれば、彼女を……」 三高平湾に夕日が沈む中、男はひとり黄昏る――。 ●表彰式 「ねっ、佐幽ちゃん個性的なPVいっぱいで楽しかったね!」 「下の下もあれば上もある、ですかね」 ルナ・グランツは満足げだ。採点は甘め。お姉ちゃん気質が災いしてか、頑張って撮ってきたモノを評価してあげたくて、つい得点をサービスしちゃうのだ。 「では、よしなに」 最終評価をまとめた審査員一同の講評を手に、ルナは表彰式を執り行った。 「優勝は……三高平学園音楽愛好会チーム! おめでとー!」 なお第二位は【BoZ】、第三位は【スタジオフェアリーライト】と相成った。 「【学音】はドガーンとしてズガーンとインパクトもあったけど、仲間と協力する大切さ、お仕事の大変さ、絆を結んだ時の喜び、大切なことをせーいっぱい表現できてたとおもうの! お姉ちゃん感動しちゃった!」 【学音】チームの三人娘が感動を分かち合う中、もうひとつの講評をルナは読む。 「で、最下位は【パニッシュモブ】だよー!」 一斉にSHOGOに注目が集まる。 佐幽は宣告する。 「最下位のご褒美は会場の後片付け&不正経理の罰金返済です」 ――Punish for You. |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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