●覚醒めよ―― などと言う言葉を脳裏に聞いたかは知らないが。 深夜に、一人。店内で彼が拾った腕輪は、覚悟を抱いた彼に、更なる力を与えた。 更なる力は翌日、本社社員を道路を挟んだところのコンビニのおでんコーナーに叩き込んだ。 ●まぁ結末は変わらないが 「まずは、彼を止めて欲しいの」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は告げる。 モニタに映されたのは、一人の男――その名は、川平進上。 引き攣った笑い。荒れた肌。瞼の下は黒々鬱血し、視線は虚ろ。 見る者が見れば分かる――アレな企業に就いてしまった者、その典型。 アレな企業の前では、在野のリベリスタも、屈するしかないのか。 「彼は店内で拾った腕輪の力で、意識を乗っ取られたうえ、クリミナルスタアとしての力を過剰に引き上げられているみたい。問題は、その腕輪なのだけど……」 モニタの男の右手首。よれたワイシャツにらんざつに嵌められた金属の環。 「どうやら、事務所に染みついた怨念、というのかしら……ある種のエリューション・フォースが腕輪の形をとって、彼に寄生しているみたいなの」 見れば、もっと腕にシルバー巻くとかさ! と言った具合に、伸長し、男の右腕全体を覆っている。殴られたら痛い。だが、痛いのは本人も同じ。殴ったほうが云々というものではない。 見れば、男の右腕は血塗れ。伸長させた触手が、男の中に潜り込んでいるのだ。 「いまはまだ無事だけど、このままだと腕輪が彼の肉体を破壊し尽くすわ。助けるには、腕輪を破壊するしかないわね」 現場は深夜のアパレル店。 やるなら、この時しかない。 「腕輪は彼と同調しているから、彼を打ち倒せば、必定、壊れるわ。知ってか知らずか、周囲のマネキンを操って彼を守ろうとするけど、気を付けて」 企業が作る業の環は壊せない。 だが、彼を蝕む腕輪は壊せる。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:漢和辞典 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月15日(水)23:11 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 「アットホームな職場だぜ――一人しかいないけどな!」 砕けるガラスが紗と響き――『童貞チキンレース』御厨・夏栖斗(BNE00004)の罵倒を際立たせる。 アットホームな職場。どう読んでも不味いのは、確定的に明らか。 「アットホームだと……アットホームだと……」 声が震える。 アットホームな職場に深夜、マネキンに囲まれ佇む川平進上は、それを知っていたか否か。問うたところで無意味、彼の意識は、E・フォースと化した店内に染みついた怨嗟に乗っ取られているのだ。 「それとも裁量労働って奴なのかな?」 夏栖斗の嗤いが、怨嗟を掻き乱す。 もはやマネキンたちの拳は、夏栖斗に向かうほかない。 つられて、棒立ちのマネキンが、静かに歩を進める。 「まず五体……上手く行ったと言うべきでしょうか」 ガラス片を踏みつつ、雪白 桐(BNE000185)は得物を抜き放つ。真っ向マネキンが打ち込む拳を受け、より重く、深く一刀。 「上手くいきすぎるのも困りものだ」 マネキンが人の似姿なれば。その者が顕す似姿は何であろう。残像か、否。幻影と共に閃く拳撃は、確実にマネキンの表皮を砕いてゆく。 正しく、『閃拳』義桜 葛葉(BNE003637)の面目躍如。 「何せ、こちらの仕事も無くなるからな」 「あ、葛葉ちゃん、そんなに仕事が欲しいなら、この前テレビで見た居酒屋チェーン店で――」 「いいんです、ルナさん、いいんですよ」 『月奏』ルナ・グランツ(BNE004339)の言葉を、『Dreamer』神谷 小夜(BNE001462)は優しく遮る。 「仕事は、そんな興味本位で足を踏み入れる様な、容易いものであるべきではないのですよ」 「まぁ、気が乗っているならそれでいいんじゃないかしら」 印を組み、観想――蔵守 さざみ(BNE004240)を中心に、魔法陣が展開する。増幅された魔力。己を中心に循環する感触――血筋への意識を、我知らず、握った拳へ押し込める。 「じゃあ、私も、私にできる事をやるだけだよね?」 肯き、ルナは術杖を天へ。夏栖斗へ力場の守護を与える。 「出来る事……私も、出来る事を、やった! やったはずだ!」 進上は叫ぶ。それももた、罵倒の一つだったのか。ルナの言葉も、上司の罵倒に重なったのか、真っ向ルナへ疾走する。 だが、その拳撃は届かない。 拳撃のその向こうには、どこからもぎ取ってきたのか、分厚い門扉。立ちはだかるは、『ワンミニッツ・ショー』ヘクス・ピヨン(BNE002689)。 「如何しました? ヘクス程度も壊せないのですか? だったらそうなった意味も薄いと言うものです」 門扉の向こう。覗いたビン底眼鏡が暗く光る。 引き下がる進上。見れば、その拳には確かな傷。如何にヘクスの得物が分厚かろうと、革醒者の肉体はそこまで脆くない。 「雑魚はヘクスに触れれば終わりでしょうが」 鉄壁と称する者の盾が、防御のみであるはずがない。全身のエネルギーを防御に向け、攻撃を反射したのである。 「ワンミニッツ・ショーどころではありません。一時間は戦えそうです――そうでしょう?」 「あぁ、違ぇねぇ……違ぇねぇな」 石橋を叩いて渡るかのような歩みは、床のガラス片を砕かない。『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)は、進上へ歩を進める。 「違わない、何が違わないだと。理解できるものか、小僧が!」 「だから理解を深めあうんだよ」 福松は金色のリボルバーを突きつける。 進上は動かない。感じる。福松に、撃つ気は無い。 福松が、笑う。手中のリボルバーを軽快に一転、懐のホルスターへ。ストールを解き、空の拳に巻きつける。 男が語り合うに、ハジキも小手先も必要ない。全力、ただそれのみがあればよい。なれば、拳意外に、何を求めよう。 「さぁ、始めようか!」 オレンジ味の棒付きキャンデーを噛み砕く。 口中広がるオレンジフレーバーは、数秒経ずに、鉄色に変わるだろう。 だが。 このドラマが数秒で終わる事は、無い。 ● 「不可抗力ですよね、一応」 呟く桐。剣の腹でマネキンの拳を流し――踏込み、一刀。裂帛の気合と共に、爆裂的な斬撃を叩き込む。まんぼうの様な剣身がマネキンを切り裂き、足らぬとばかりにプラスチックの破片を飛び散らせる。 「そうなるだろうな。組織の力だ」 白と青が風を孕み。コートをはためかせ、葛葉は拳撃を打ち込み続ける。 「そんなにすごいの? 組織の力って」 小さな驚嘆。共にルナが撃ち出す威力は、小さくない。術杖を翳す。フィアキィたるディアナに念じる。さすれば、降り注ぐ炎の礫が、マネキンたちを打ちのめす。 「当然だ」 応じる葛葉。確かに現場単位の機動性は損なわれるかもしれない。だがそれでも、組織単位の支援は心強い。元フリー故の結論である。 支援があるからこそ、個人がふさわしい力を振るえるのである。 事実。 仲間がいるからこそ、語り合える場を作れると言うもの。 「イイぜ、イイ拳だ――もっとあんだろうがよォ!」 福松が猛る。断固たる拳撃を以て、猛る。 「ある? ある、だとォ――俺に、俺達には残業代なんざ付かないんだよォ!」 進上に憑いた怨嗟が、哭く。真っ直ぐな拳撃を以て、哭く。 拳撃を拳撃が砕き。拳撃で拳撃を潰す。 拳に巻きつけたストールが血に染まり。 拳に伸長、浸食した腕輪が破片を零す。 「これでこそステゴロだ、そうだろ!」 それでもなお、拳撃。 避けられず、進上は受け止める。血塗れの腕から、腕輪の破片が零れ、また伸長する。 「そうだよ、遊びでやってんじゃねぇんだよ!」 進上が叫ぶ。両の拳を地面に叩きつけ、宙転――旋回する蹴撃拳撃が大蛇の如く閃き荒れ狂う。 「見境なしですか、面倒ですね」 門扉を翳し、ヘクスは桐の前に立つ。分厚い門扉は揺るがぬが、さりとてヘクス自身も無傷で済む事は無い。 「ですが、やはりヘクス程度壊せるまでには達しませんでしたか」 とはいえ、やはりワンミニッツ・ショー。周囲を破壊する暴力であろうと、容易くやり過ごす。 「すごいね、ヘクスちゃん、やっぱり私よりも場馴れしてるんだね」 「当然です、この程度ヘクスには訳ありません」 ルナの言葉を平然と。門扉を下ろせば、転がるマネキンが砕け散る。見ればそのマネキン。単に打ち倒されたにしては、力を感じられない。涸れたような……まるで何かを吸われたかのように、動かない。ヘクスよ、何故、唇を拭う。唇から覗く、その牙の輝きは、何だ。 「だからといって、無理しないでください。いくら任務だからと言って、無理を強いる場ではありませんし……」 小夜の言葉は、重い。職業としての巫女。ゲームやアニメの巫女をそのまま現実にあてはめる。そこまで考えの浅い者はそういない。だが、それ以上に。想像以上に職業としての巫女は、黒い。 時給換算を、してはいけない。 その辛苦を知ればこそ、である。 その辛苦を知るが故に、小夜の支援は、仲間の重傷を防いでいる。 事実、味方の負傷は少ない。ヘクス筆頭のブロック、各々の装備、能力を含めても……単に回復するのみではこうはいかない。 見よ。その背中を。小さな羽が、動きを助けている。確かに小さな助力であろう。だが、その助力が、あと一歩、ほんの一瞬、その隙間を補完する。 「まぁ、本人達の思うようにすればいいと思うわ」 故に、さざみは、仲間を傷つけさせぬと意志する。魔炎で呑込めば容易いが、仲間を巻き込んでは無意味。仲間を巻き込んでまで攻撃に徹するものでもない。 選択すべきは、一つ。 組み上げる術式は、四つ。 眼前に術手袋を翳し、撃つ。 閃く魔光が、マネキンを穿つ。 「私も、思うようにするから」 近寄ってくれば、殴りつける。所詮は操り人形相手、これで充分。 「しかし、あれでは届きませんね」 眼差しは、前へ。前に立つ仲間へ。 小夜が和弓を弾く。妙なる響きは、正しく福音。店内に立つ仲間を癒やす。 福松はもとより。葛葉や桐も、名声に違わぬ実力を持つが、無傷で済まぬと言う事は無い。 事実。 「燃えてるねぇ、福松――ま、いいけどさ!」 夏栖斗のステップ――五体一斉に殴りかかるマネキンの拳を避け、流し、受ける。 格別の名声を持つこの男とて、囲まれて殴りかかられれば、傷を負わぬという事は無い。 「深夜に動くマネキン――出来の悪いB級ホラーみたいだけどさ」 無論。ただ殴られるために囲まれているのではない。 「僕も燃えてきたんだよね!」 一閃――腕に纏わせた業火が、マネキンたちを薙ぎ払う。本来、延焼する事は無いプラスチック素材の体を、常ならぬ炎に喰わせながら。マネキンたちは襲いかかる。 「御厨夏栖斗、相変わらず頼りになる男よな」 横目に葛葉は笑い――蹴撃。 「なんとまぁ、現場の破壊を控えるようには言われていませんが、これは」 笑って、桐は一刀――裂帛。 「ご機嫌麗しゅう人形さん――でもこれ、サービス足りてないんじゃないの? サービス残業なのに?」 夏栖斗の挑発が、再度マネキンたちを掻き乱す。 されど、事態は収束しつつある。 ● 「こっちはまだまだイケるぜ――と、言いたいところだが」 拳を構える福松。じりりと下がる。 溜めか。待ちか。 否である。 「残念だが、もう終わりみてェだ、見ろよ」 もはやマネキンはいない。 残るは、進上ただ一人。 「終わり、だと……俺の仕事には、だったら……終わりに……いつ帰れるんだ……!」 進上の体を通じ、E・フォースは怨嗟を零す。 笑って、福松は横へズレる。 入れ違い。 「鍛え上げた我が拳――」 疾走――踏みこむ葛葉。 「――受け止める事、容易でないぞ」 閃たる拳撃は冷気を纏い、進上に殺到する。 右腕で流す進上。 だが、終わりではない。 頬に、風。視線を横にすれば、迫る、まんぼう。 避ける進上。だが、まんぼう型。剣身は広い。掠った右腕から、腕輪の破片を零す。 「貴方の意志によるものだったら、と思ったけど……さっさと正気に戻りなさい」 拳を翳すさざみ。拳撃――放たれる四色の魔光。 だが。足りない。進上はまだ、倒れない。 「俺は――俺達は――帰る、帰るんだ!」 慟哭。 大蛇の如き閃き狂う暴力が、周囲を呑み込む。 さざみは、息を呑む。如何にその威力を誇ろうと、さざみ自身は、脆い。 「雑魚はヘクスに触れれば死んでしまいますが……これに触れればアナタも死んでしまいますよ?」 ほんの数秒。さざみ諸共呑みこまんとする大蛇の如き暴力。しかし、ヘクスの門扉が受け止める――挫く。 「助かったわ」 さざみは肯く。感謝を示さずにはいられない。 「しかし、本当にこれでおしまいですか。だったらもう、大人しくおかえりになっては如何でしょう」 ヘクスが笑う。真っ当な思考があれば、自信を圧し折られていたであろう、その言葉。 「終わっ、た?」 進上に憑いたE・フォースにとっては、どこか待ちかねていたものであったのか。 あるいは、単に力を使い果たしたのか。 動きを、止めた 「今度こそ、終わりだよ。これ以上誰かを傷つける前に、私達が止めてあげる」 術杖を進上に突きつける。先端に作りだされた光球が、進上、を侵食する腕輪へ閃く。 よろめき、進上は倒れる。 「……」 小夜の溜め息。もはや、進上はこの力で苦しむ事はあるまい。 倒れた進上。その右腕には、縛るものは一切ない。 ● 「んじゃま、一件落着という事で!」 柏手一つ、夏栖斗は笑う。 「しかし、マネキンも何もかもボロボロですね。まぁ、店自体がボロボロって感じですが……」 呟くヘクス。 確かにガラスは砕け、マネキンは粉砕、所々には焦熱痕。強盗にしては過剰。放火未遂というにも過剰。もはや営業が不可能なのは確定的に明らか。 「まぁ、不可抗力ですよ、不可抗力……それに、解放される気もしますし」 唱和する桐。 不可抗力! 嗚呼、なんと素晴らしい響き。 「強引に、力技で行くしかなかった。申し訳ない」 「いえいえ、お気になさらず。こちらこそ、申し訳ありませんで……」 葛葉の言葉に、頭を垂れて応じる進上。 「いえ、今回は本当にご迷惑をおかけしまして……」 「まぁ、操られていただけだしね。悪いのはアナタじゃないわ」 呟くさざみ。その言葉に、進上は一層、頭を垂れる。 「ところで、川平さん」 半ばボロ雑巾と化した進上を癒やしつつ。小夜は問いかける。 「アークに来ませんか? 残業も少ないし、給料も悪くないですよ?」 死ぬ可能性が無いとは言っていない。 「ここよりはマシなはずだから……た、たぶん!」 多分、である。 とはいえ、少なくとも、仕事に見合った給料は保証されるであろう。 それに。 「効いたぜ、あんたの拳」 福松が、笑う。懐から棒付きキャンデーを取り出し、咥える。鉄臭いオレンジフレーバーが、今は心地よい。 「いつか、轡を並べて闘いたいもんだ――仲間として、な」 もう一本、進上に差し出す。 十一歳児に、アレな職場を理解する事は出来ない。 だが、通じあえた――拳に残る熱が、そう確信させる。 面々が、笑う。 彼の、新たな道は、開かれた。 そして、進上は、受け取った。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|