● 「ふぁっ!? お坊ちゃんまたこんな危ない所で危ない事してイケナイ子!!」 童顔を持った女が笑った。 初めての倫敦旅行が、まさかこんな『動物園』に連れて来られようとは夢にも思わなかった。 元はなんだったのか考えたくも無い。エリューションとエリューションがくちゅくちゅされた生き物の園なんて。 「夢半ば、坊ちゃんを死なせる訳にはいかないからな……これ、労災おりるんだろうな?」 「後々坊ちゃんにお高く請求するから問題無しッ!」 ほぼ瓜二つの様な顔をした男と女。二人は兄妹だ。 後ろに控える部下と共に、相対するのは――倫敦の蜘蛛の巣のフィクサードが一人。 「ヤードでもねえ、アークでもねえ。マジなんなの、次から次へと湧き出るものなん? 其処を退け、マジ超邪魔ですし。雑魚は下がってな、マジ怪我しますって今ならまだ満身創痍くらいで許すし」 と思えば、彼の背面より霧状の物質が舞い上がって来た。おそらくアレもエリューションキマイラなのだろう。 「あんまり喚くと弱く見えるんだから!」 「此の先は通さん。我等は――」 ――我等の名は、『直刃』也。 凪聖四朗が精鋭、本日は海外サービス出張中。 兄妹にとって六道妹の身柄は正直如何でも良いのだ。むしろこんな動物を産んでくれた、正に神に叛逆している様な実験を平然を行う事には引かざるを得ない。 それでも、それでも。 「直刃ァ~? 知らないんですけど。一人くらい血祭にあげれば通してくれんの? ねえ?」 それでも―――!! 「許さんぞ、貴様。撤回するか今すぐ死ね。撤回しても今すぐ死ね」 「そっちから喧嘩ふっかけて来たんだからね! こてんぱんにしちゃうんだからね!!」 直刃の名を、汚す者は吊るすのみ。 そして、もう一人。六道から離れ、直刃の名を背負った女が居た。 「ぅるせぇ、ぉめぇら全員。ひみめが潰してすりぉろして食っちゃるからぁ覚悟しなぁ」 弟を、倫敦の蜘蛛の巣に喰われた事を知った。 姉の復讐はこれから始まるのだ。 ● 『依頼を、宜しくお願いします』 『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)はブリーフィングルームより、移送中のリベリスタ達のAF回線に割り込んだ。 昨年行われたモリアーティの計画は、アークとヤードの連合軍の前に撃退した。 その後の話になるが、アークが獲得した情報と合わせて、ヤードの情報収集能力は最大限の効果を発揮した様だ。 それによると、倫敦ピカデリー・サーカス付近に敵側の本拠地が存在している事が解った。 しかし、敵の全ての手が見えていない以上、敵の巣窟に入る事は自殺行為の様にも見える。不確定不安要素が否定しきれないからこそ、万華鏡さえ通らないからこそ、正に混沌の中に飛び込む様なものだ。 『されど……敵に時間を与える、という行為こそが最大の自殺行為だと決定されました。 フェーズ4のキマイラが完成する前に、其れが量産可能になる前に、全てを終わらせましょう』 ヤードが倫敦市民の避難等を担ってくれた。アークとヤードの戦力はこれより倫敦の蜘蛛の巣へと飛び込むのだ。 『ですが、私達の班には更に問題が一つ』 其れは、日本主流七派が一つ逆凪黒覇の異母兄弟、凪聖四朗と彼が作りし直刃の存在。 『おそらく、彼は、聖四朗は六道のお姫様を取り戻しに来たのだと思われます。 彼が連れて来た直刃のフィクサードは、揃って精鋭と呼べるレベルです――が、キマイラ相手に何処まで持つものか……』 つまり、此の班は三つ巴。 聖四朗を止めに行きたい倫敦の蜘蛛の巣と、聖四朗の盾となり刃と成る直刃にアークが介入するのだ。 『私達がやるべき事は、それら全ての敵の撃退です。 直刃は聖四朗に牙を向く可能性がある全てを潰さんとしてきますので正直邪魔ですし、蜘蛛の方は言うまでもありませんね。 聖四朗についてですが、別班が彼を抑えに行ってます。その状況がどうなるかは読めませんが……』 直刃の戦力については情報が有る。 『都鳥兄妹。逆凪カンパニーの元社員ですね。今は聖四朗の部下であり、それなりの精鋭です。 お二人ともマグメイガスですが、妹の方は非常にトリッキーな動きをしてきますので注意してください。 それと……』 もう一人、大きすぎて手が見えない白衣を着ている女が一人。 『ん……。彼女、確か六道のフィクサードだったと思うのですが……。 確か、弟さんが蜘蛛の巣フィクサードに暗殺されていると思います、名前は奇堂ひみめ。多重人格のレイザータクトです』 聖四朗の為に戦っている都鳥兄妹に対して、ひみめは一人復讐の為に戦っていると見て良いだろう。 復讐相手を殺す事。その為に彼女は六道を離れ、いち早く倫敦に近づく為に直刃に入るを得なかったと見える。 『ともあれ、倫敦側の戦力は闇だらけ……。何度でも言いますが、何が起こるかわからない。 ホワイトキャットというフィクサードと、彼が愛用するキマイラ複数体が戦力と見えますが。もしかしたらもっといると見てもいいかもしれませんね。 そういえば……キマイラを使役するのにはアーティファクトの介入が必要だったはずですよね。 それって私達が知っている限りでは、所有者の体内に溶け込んでいるらしいのですが……』 限りなく危険な倫敦。伝える事は伝えきったと杏理は息を吐いた。そして―― 『此方の戦力はヤードと皆様にかかっております。 ヤードも含めて皆さまのご無事を祈っておりますよ。宜しくお願いします』 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年02月09日(日)22:13 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● ゴトゴト揺れる移送車内。 倫敦には一般人と思わしき人の姿は無いけれど、革醒者の姿は何時も以上によく見かける。 ヤードに倫敦の蜘蛛の巣の争いは時間が経つごとに激しさを増していた。彼方此方で聞こえる戦闘音に断末魔が、人の生き死にの存在を自己主張させていた。 「復讐か、興味は無いがな」 「ええ、其の通りでございますね」 『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)の肩に頭を齎せた『ODD EYE LOVERS』二階堂 櫻子(BNE000438)。 人の復讐に介入したとしても、無駄なとばっちりを食うか、無駄に因縁を擦りつけられるか。ともあれ悪循環を孕んでいる他は無い。 されど『十三代目紅椿』依代 椿(BNE000728)は唇を噛みしめた。 何時しかの奇堂ひみめと相対した時。幾つか弟の死関連についてのキーワードを教えてしまった事があった。其処からひみめ独自に調べあげ、蜘蛛の巣に辿り着いたというのなら。 今回のひみめの復讐に椿に責が無いとは言い切れない。その為にも、椿はひみめと会う事を強いられているのだろう。 「怖い顔ですねぇ、折角可愛いのに台無しですよ」 「何時も通りの顔やで!? つんつんせんといて!?」 『グラファイトの黒』山田・珍粘(BNE002078)はにっこり笑いながら、椿の頬を人差し指で何度も触っていた。 「お喋りはそこまでだ、着くぞ」 『赫刃の道化師』春日部・宗二郎(BNE004462)が叩いた手の音が車内に響く。 「では、打ち合わせ通りに。なかなか難しい状況ですが、力を合わせれば大丈夫ですよ!」 『勇者を目指す少女』真雁 光(BNE002532)は持前の明るさで仲間へ激励の言葉を送った。己こそ、剣を掴む拳の力は頼もしいものがある。 「遠距離攻撃作戦か、了解している」 ヤードもリベリスタの作戦には首を縦に振っていた。流石に群から一人離脱して戦うのは死にに行っているようなもの。 間も無く、移送車は敵蜘蛛の巣の背を着く位置に着いた。 「皆さん頑張りましょうっ!」 離宮院 三郎太(BNE003381)が言った其の言葉で、戦いの火蓋は切って落とされたのだ。 『Le Penseur』椎名 真(BNE004591)が移送車の扉を開き、夕方の薄暗い闇の中へと十一人のリベリスタ達は駆けて行った。 ● 「ふぁー!? 何あのキマイラ……攻撃通んない!!」 「無効の能力持ちか、めんどくさいもの作りやがって」 直刃の都鳥兄妹はマグメイガスだ。リベリスタの到着時、ディメントミラージュ二体は人型の物体。物理系の攻撃を持っていないのは仇であった。とはいえ、ネームド二人を除いて取り巻きの直刃は問題無く攻撃できるのだが――与えられるダメージはたかが知れているか。 「ファ!? アーク来ちゃった!!」 「こんな時にか。どっちにしろ此処は通さん」 背を向けていた蜘蛛はまだしも、此方を見る事が出来る直刃はアークの到着をいち早く察した。彼等も彼等で、凪聖四朗の後ろを追わせる訳にはいかないのはアークも蜘蛛の巣も同じ事。 「やいやい! アーク、お前等も一緒に蹴散らしてやっちゃうんだからね!!」 前に出ていた右近はリベリスタ達を指差し元気にそういうのだ。 ……なのだが、意外にもアーク。此れを無視! 最速で動いた真昼が暗視を絡めた千里眼の中で、アベルを捕えた。 「ごきげんよう。日本語は通じますか?」 「超オッケー」 「では一言だけ、『行いが美しい者は姿も美しい』。貴方の国の諺ですよね」 「ふはっ、知らんなぁ」 「そうですか、残念です。では死んでください」 ――さあ、思考を始めよう。 引き延ばした気糸を打ち込むは、アベルへ。顔だけ此方を向けていたアベルだが、真昼の視界の中ではシュトゥルムが一体、気糸の絡んで打ち落とされた。 キマイラが非常に邪魔だ。使えないキマイラを使えるように動かすのがアベルであるのなら――されど、敵は蜘蛛だけでは無い。 「こっち来る直刃おるで!」 アクセスファンタズムの通信に椿の声が入る。 「無視すんな!」 元気よく駆けて行った右近――狙いは三郎太だ。神秘が効かないキマイラを相手にするのは骨が折れるか、右近は己が潰す相手をアークとしたのだ。 迫りくる彼女に少しの恐怖を覚えながらも、致命を与えんと錯誤していた三郎太。直ぐに表情を厳しいものへと変え、己が役目を全うせんとする。 「小さな翼を皆様の背に……」 櫻子は乞う。リベリスタ全員に翼を与え、少しの回避力を上げるのだ。眼前では愛しい恋人、櫻霞が自付を行う。 其の更に奥ではキマイラ――ディメントミラージュと、アベルの作り出した幾重にも浮かぶ氷柱が鋭い刃を此方に向けて迫ってきていた。 されど櫻子は思う。怖くなんて無い、と。 櫻子の伸ばした細い指は冷たくなっていた。触れた、櫻霞の服を掴み――そして数多の氷柱が二人を射抜いて行った。 降り注ぐ氷柱を暗黒の刃で弾き返しながら、珍粘は遠くのひみめを視界に映していた。 以前会った際は屈託の無い、面白い子であったが。まさか、多重人格者であったとは驚きか。 「ひみめさんも、お久しぶりー。何時もと雰囲気が違いますけど。そんな貴女も素敵ですよ?」 リベリスタ達は、蜘蛛の巣から遠距離の位置に。直刃から見れば更に遠くに位置している。戦闘音も紛れて、珍粘の声がひみめに届く事は無かったが――それならば逢瀬を邪魔する敵を倒すのみ。 「んもう、邪魔ですねぇ」 投げ込む闇が、シュトゥルムの身体に巻き付き潰していく。 「本当に、多いですね!!」 珍粘の隣に位置取った光が、彼女の言葉に頷いた。 アベルの放った氷柱が光の胸に刺さっていた。其れを力任せに抜いた彼女は、其の侭ディメントミラージュが放った霧の刃を斬り伏せた。 狙い、定めるのはアベルの心臓。刃を逆手に持ち変えた光は其の侭、精神力が思うが儘に空気砲を撃ち出した。 「ん? うお!!?」 アベルの腹部に『掠った』ソレ。だが、掠っただけでも皮が摩り下ろされ、骨の白さが一瞬見える。直ぐに赤い血が流れ出した。 「ウヒョー! 何それ、超キケン!!」 盛大に笑い出したアベルに光は眉をしかめた。痛みで嘆いても良いくらいであるのに、悦ぶとは。アベル――此の男、根本が狂っている。 「さあ! もっと来いよォ、殺すのはお前等リベリスタだってダイスキな事だろ!!」 「うるさいわ!!」 「少し、お前は黙っていた方がいいな」 Retributionを手前に、椿は轟音と一緒に魔弾を放つ。 宗二郎こそ、遅れを取ってはいけないと自付とした其の身で、足下に忍び寄る影を我が力として従えた。影の形状は正に槍である、其れが伸び、椿の弾丸を追いかけるものの―― 速度の追いついたシュトゥルムが舞い降り、弾丸と槍に射抜かれて弾けたのであった。 だが、アベルの更に後方より降り注いだ魔曲がアベルを縛り上げる。 「あれ? 俺、絶対絶命? あはっ」 「行かさんし、生かさんと言ったはずだ――蜘蛛の巣風情が」 左近が魔陣を従え、書を開いていた。 ● アーク陣営に突っ込んで来た右近、一人。近接攻撃を叩きこむ為か、狙いは十分に慎重に成っていたか。的確に回復役を潰しに来たのだ。 致命が施されないキマイラと、アベルと、右近。焦点が3つを行き来する真昼だが、右近の進軍を許す訳にもいかず彼女の前に立ちはだかった。 「此処から先は――」 「――邪魔ァ!!」 追い駆けた、追いついた右近の右腕に真昼の手が到達する寸前で、思考の濁流が弾けて真昼は飛ばされていく。 「貴方さっき右近の事無視したから嫌い!!」 「えぇ……」 その間にも、横殴りの氷柱の雨は降り注いだ。右近ごとリベリスタを貫く雨は此れで三度目か。止むを得ない。椿は場を荒らしに来た右近に交渉を持ちかける事にした。 「直刃やな? うちらと蜘蛛を共闘で倒さへん? 聖四朗さんとこはうちらの別チームが共闘で動いとるみたいやし」 「其の情報、信用しろったって無理無理! そもそもフィクサードの力借りようなんて甘いのよ!! 名立たるアーク様が、敵の力借りないと何もできないの?!」 短く言えば交渉決裂。 ディメントミラージュの一体は直刃陣を見ているが、もう一体は此方へ向かってきた。 此れ以上右近との交渉は無理であろう、区切りを着けた椿はディメントミラージュを抑える為に走り出した――。 双方より攻撃を受ける蜘蛛だが、其の効果は絶大に発揮しつつある。 ヤードの働きもあり、とっくにシュトゥルムが消えた戦場だ。アベルを守る盾は今こそ無くなった――だからこそ。 「あぁぁああぁぁぁあもう!! なんなんだよ、おめえら仲良くしやがってクソジャップ共が!!」 「わ!?」 突然の大声に三郎太が耳を抑えた。 魔曲に貫かれ、リベリスタの弾丸に貫通し、笑う余裕さえ消えたアベルがキレたのだ。 「うふふ、元気なのは良いですがそろそろ死ぬべき時ですよ?」 囲まれた時点でアベルに撤退という二文字は消えただろう。 笑った珍粘は影に手を伸ばし、引き延ばしたそれを得物に纏わせた。片手でフルスイングした得物からは、暗黒が連なってディメントミラージュを、アベルを飲み込む。 「てめぇもぅぃぃからしねし」 複数にも刃を構成したひみめの刃が飛ぶ――アベルの近接まで移動したひみめの攻撃だ、勿論だがリベリスタをも巻き込む事は可能だ。 ただ一発、己が刃でアベルの心臓を捻り出す為に、ひみめは弟のナイフを握り締めた。 「あぁ゛!?」 しかしカウンターか、ディメントミラージュの霧がひみめを拘束。最早身動きできない彼女にアベルはニタァと笑った。 「せめてお前だけでもってなぁ……?」 「――ッ」 アベルの札より出でた札に描かれたのは玄武。突如発生した波がひみめを、右近以外の直刃を飲み込んでいってしまう。 「やんっ! お姫様を守る王子様? 妬けちゃう、死ねば良いのに!」 近接位置まで到達した右近。彼女の範囲ノックBにより前衛は掻き乱され、陣形は崩れていく。 そして到達してしまった、彼女の右手が振り落され櫻霞がその魔力を受けてしまう。本当ならば、右近が狙いたいのは後ろに居る櫻子であるのだが。 読み違えていたか、復讐を行いたいのはひみめというフィクサードただ一人。その他直刃は復讐に踊らされたりはしない。目の前の敵をより有効的に倒して此の場から進ませない――ただ、その一心。 防御を貫通した其の攻撃は、櫻霞に直撃、否、其れ以上の二倍の力で彼にダメージを与えてしまった。それまでにも受けていたダメージも在る。一気にフェイトを消費した彼に、櫻子は叫び声にも似た高音で彼の名を呼んだ。 「傷を負うのは俺の役目だ、癒しはお前の領分だろう」 「……っ」 即座に癒しの詠唱を行う――そして櫻霞は止まったり等しない。 「攻撃してくるのなら、敵と見なす」 「何を今更。何時如何なる時だって私達直刃は貴方達のお友達じゃないよ」 両手の銃に力を込め、連続して放つ弾丸は右近のシールドが弾く。されど右近を狙わなかった弾丸は後方のキマイラへ穴を幾つも空けて行くのであった。 「ヒューッ! やるねぇ!!」 「お前に褒められても嬉しさのカケラも無いな」 右近は思わず手を叩いたが、櫻霞は靡かない。代わりに右近はもう一度ソウルクラッシュの詠唱を始めた。 「ふーん。でも、これ受けても君は次……立ってられるのかなぁー?」 振り上げられた腕――だが其処に真昼の攻撃が介入した。 「駄目っていってるじゃないですか!」 「あ!? やだちょっと待ってそれタンマ!?」 死角からの一撃。真昼のナイフの先端は彼女のシールドを割り、心臓に最も近い場所にずぶりと入ったのであった。 ● 「ボクなら出来るはずっ……いえ、やって見せますっ!」 今こそ回復を行うべき時である。三郎太は、乞う。癒しの神に仲間たちへの激励を、と。両手から溢れる光は何のためか、仲間のためだ。 宗二郎の傷を埋めきるのは叶わないが、それでも何かの足しにはなるはず。幾度と行われるディメントミラージュのインベイジョンに削られ、削られ、リベリスタのほぼ全員が荒く息をつく結果を生み出してしまっている。 後衛に位置する彼等の眼前、霧化していたディメントミラージュ。つまりは、物理の攻撃は通さない。 宗二郎は苦い顔をした、遠距離からでは彼の暗黒はダメージを通さないのだ。それでも投げた暗黒はアベル一人に到達する。 「チェー死期が見えて来たわ。覚悟決めんのなら最期は楽しくイかなきゃなぁぁ」 此れが最期の札であろう。描かれる獣は朱雀。 アベルは其れを躊躇いさえ無く放れば、炎はリベリスタ達を、ヤード達を、右近を飲み込んでいった。ヤードの一人の男がブレイクイービルを放つが、ダメージはカバーする事が叶わない。すぐ隣で、ダクナイであったヤードが燃え尽きたとしても。 「これで……これで!!」 灼熱の中、光は得物を持つ。擦り切れるばかりの精神力を、刃へと乗せた。 何度でも何度でも、敵を倒す為だけに此の剣を振るおう。リベリスタたる者、いくら倒れても眼前に居る敵くらい倒せなくてなんとする。 好機は見逃すまい、真昼は其の腕に巻き付けた気糸を放つ。回避しようと身体を捻ったアベルの腕を捕え、胴へめぐり、頭と腕と足を固定した気糸。 「言ったじゃないですか、死んでくださいって。逃げられませんからね?」 「そういえば、言ってたなぁ。はははははは!!」 キツく締まる糸、真昼は更に力を込めてアベルの口を閉ざさせた。 「これで、終わりだああああああ!!」 振り切った刃、吹き飛んだ砲弾がアベルを捕える。最早回避する事も不可能であろう、其の一撃。断末魔さえあげる暇無く、アベルの身体の部品が四方八方へと広がった。 「でもまだ終わりと思うには、早いんだよぉ?」 とんとん。光の肩に手が乗った。 振り返ってみれば混乱を抜け出した右近がにこーと嗤う。 完全に体力があるわけでは無い、右近とて虫の息。が、比較的神秘耐性の強い右近には此の炎くらいなんてことないのか。 刹那、衝撃がリベリスタの陣形を乱す。 真昼や光、珍粘は前へと弾き飛ばされ、ディメントミラージュ眼前までに。元々抑えていた椿の元まで到達したのだ。 其処に容赦の無い葬送曲が流れ出て行く。血色の鎖がディメントミラージュを貫きながらも、リベリスタも一緒に貫いたのだった。 「今すぐ直します」 「僕もお手伝いします!」 櫻子に三郎太、回復の厚さは誇るべき点だ。されど、致命を入れるべき三郎太が回復に廻ってしまえはキマイラの体力回復を抑える事が叶わない。 咄嗟に珍粘が黒き箱を構成、人型のソレを黒き箱へ仕舞わんとしていた時であった。宗二郎は再び物理系の攻撃を以てして攻撃してきたのだ。 「お待ちを。今は敵は霧なので、それ系統の攻撃は効かないのですよぉ」 「失礼した」 静止した珍粘に、宗二郎は従う。 ディメントミラージュのダンケルハイトは一定時間で形状を変える。 今こそキマイラに『考える頭(アベル)』がいなくなったのだ。形状の規則性は崩れ、無謀な暴力と化した敵を抑えるにはより効率的な攻撃方法を選ばなければならない。 「諦めるにはまだまだ早いで」 目線の先、倒れ伏しているひみめが気になる椿だ。だが彼女とて今目の前の存在を無視してひみめに駆け寄る事さえ許されない。椿にできる事は、キマイラから引き抜いた精神力を糧にギルティドライブに身を任せるのみ。 宗二郎こそ物理ができぬのであれば神秘の方で攻撃する他は無い。回復が二人頑張ってくれている中なのだ、ダメージは1であろうとも与えておかなければならないのだ。 「組織の上二人がロミオとシンデレラしてるのはいいが……」 下っ端が此処まで暴れられているのも、面倒だと宗二郎は嘆いた。 「こんな、所で!!」 櫻霞は霞んだ瞳の中、得物を構えた。其の腕は痛みで震えていたが、櫻子の腕が其の腕を支えた。撃ち放った弾丸、炎と成り煉獄の炎と成る。降り注いだそれらはディメントミラージュに直撃していく。 攻勢か、好機か。だがリベリスタの攻撃の合間、容赦無い二陣営(直刃と蜘蛛)の攻撃は降り注ぐ。一体のディメントミラージュがブレイク効果を持った叫び声を上げ、地響きに耳鳴り、鼓膜は破れて頭痛を起こす。其の攻撃で右近が倒れた、櫻霞が倒れた、宗二郎が倒れた。 そう、リベリスタ達は時間をかけ過ぎ傷つき過ぎていた。 されど、直刃達は未だ一人を除いて戦えると健在していた。 何にしろ、リベリスタ達はディメントミラージュを一体叩くだけの余力で精一杯であった。其の次、もう一体のディメントミラージュと潤った直刃を相手にするのは。 できるか? 厳しいか――やれる所までは、やるのだが……諦め切れない三郎太がEP回復を廻せど、攻撃の手と効率が足りない。消耗しきったリベリスタ達が倒れ切るのも時間の問題だ。 「仕方ない……んやろか」 椿が嘆いた。まだ、ひみめに言葉さえ送れなかったのに。両者の距離は長い。 撤退の時間は、―――近い。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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