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朝の来ない夜に、少女は……

●孤独の中生まれし決意
 太陽を、こんなにも忌々しいと思ったことは今まで無かった。
 快晴の空の下、町中を歩いているだけなのに、刺すような初夏の光は彼女の体力を容赦なく奪っていく。
「お腹……減ったな」
 昨日から、何も食べていなかった。今までの人生が一変してしまった、昨日から。
 もう、普通のご飯じゃ満足できないんだろうな……。諦めにも似た感情が、彼女の心にどす黒い影を落とした。
 半紙の上に、墨汁をぶちまけたかのように、彼女の心を影が覆っていく。たった一人で誰も相談相手のいない彼女は、自分が抱く絶望のみを信じ、それだけを取り込んでいった。
 ただ歩き続けることに疲れた彼女は、通りかかった公園のベンチに腰を下ろした。木陰が陽光を遮ってくれる場所を選び、重たくなった身体を休ませた。
 胸ポケットに入れた携帯電話の震動に気付いたのは、そうして腰を下ろしてからしばらく経ってのことだった。のろのろとした動作で、使い慣れた朱色の携帯電話を取り出す。
 歩き続けていたから気付いていなかっただけで、そこには膨大な着信履歴と未読メールが。その殆どが、彼女が心から愛している弟からのものだった。
 彼女にとって、弟からのメールや着信履歴は、この世に存在する唯一無二の理性の在処に見えたのだろう。言葉もなく携帯電話を操作し、それらに目を通していく。
 弟からの、自分を心配する文面。
 とにかく返事を下さい、みんな心配してます。帰ってきて、話をしてください──。
 きっとそれらの言葉に嘘は無い。理解した彼女の眼に、大粒の涙が浮かび、声もなく泣いた。
「……ユウくん、ゴメンね……」
 やがて嗚咽と共に彼女の口から飛び出たのは、弟への届かない謝罪だった。
 ……私、もう、無理だから。
 心の中に浮かんだ言葉。それは彼女なりに、自分の運命を確信した上での言葉。
 そして。
 無言で携帯電話を操作し「送信」のボタンを押し、メールが無事送信されたことを確認したあと、彼女は携帯電話の電源を切った。
 そして彼女は音も無く立ち上がり、先ほどとは打って変わった確かな足取りで歩き始める。
 その眼には、ある一定の決意を持った人間特有の、迷いの無さと、弱さが介在していた。

●ヴァンパイアキラー
 モニターに映された情報を見て、その場に集められたリベリスタ達は異なる反応を見せるものの、その多くはどこかやりきれないと言った表情を見せていた。
 そんなリベリスタ達の反応と同じく、任務を告げようとする天原和泉(nBNE000024)の表情もどこか険しいものになっていた。
「見ての通り……今回のターゲットは吸血鬼の因子を取り込み、エリューション化した少女の討伐になります」
 これと言った資料が無かったのか、学生証か何かから取り込まれたと思われる少女の写真。まだ高校生くらいだろう。ストレートヘアの黒髪を伸ばした、真面目そうな印象を受ける顔つきをしている。
「名前は東雲絵里花。昨日の正午過ぎ、彼女の弟と、その学友の目の前で突然革醒……エリューション化して、その場に居合わせた学友に襲いかかり、逃走しました」
「襲われた学生は?」
「重傷を負ったものの、命に別状は無いそうです。現在は、病院に入院しています」
「まだ誰も……殺してはいない?」
「そうですね。ただ……そうなる危険性が非常に強いと思われます」
 そう言って、和泉は手元の端末を操作し、モニターの画面を切り替える。
「彼女は弟が学友にいじめられている現場に遭遇し、その怒りとショックが起因してか、突然の革醒に至ってしまったのです」
 画面に映された少年の写真の下に「東雲ユウキ」と書かれていた。彼が少女の弟だろう。姉もそうだったが、真面目そうな印象を受ける少年だ。そして、どこか大人しそうな印象も。
「弟が長期間いじめにあっていたことに気付いた少女は、昨日も弟が学友に連れられているのを見て、後をついて行ったようです」
 弟の写真の横に、3人の少年の写真が追加された。おそらくいじめっ子の写真と思われたが、特に悪びれたような印象は感じない。
「意外と普通の子にしか見えなかったりするものですよ」
 リベリスタ達の表情を読み取り、和泉は言葉を続ける。
「弟が暴力をふるわれている現場を見てしまった少女は、その学友に襲いかかったそうです」
 まるで現場を見てきたかのような和泉の口調だが、弟から詳しい話を聞いたのだという。
「ユウくんに何をするのっ! と言いながら、殴りかかったそうですが……」
「強化された身体能力と爪なら、人間など簡単に引き裂くことができる。この時殺さなかっただけ、運が良かったというところか」
 そうですね、と言いながら和泉は説明を続ける。
「自らが傷つけた弟の学友を見て、ショックを受けたのでしょう。そのまま現場から逃走し、現在まで行方不明になっています」
 コントロールの出来ない力に恐怖したこと、そしてその姿を弟に見られたことも、彼女が姿を消した理由としては十分考えられる。
「弟は姉が姿を消してからも、ずっと彼女の携帯電話に連絡をとり続けていたそうですが、今日になって一通のメールが返ってきたそうです」
 そこで言葉を切った和泉に、リベリスタの一人が瞳で続きを促した。和泉は頷くと手元の資料に眼を通し、書かれた文面を読み上げた。
「もう一緒にいてあげられないけど、ユウくんが二度といじめられないようにしてあげるからね……そう、書かれていたそうです。それ以降は、携帯電話の電源を切ったのか、連絡は付かないそうです」
 読み上げた和泉の表情が陰っているのはリベリスタ達にも理解できた。
「最後のメールを送った直後ですが、こちらが補足した彼女は精神的にも非常に安定しており、フェイトを得ていることが確認されました」
「それならば、問題となるのは」
「そう、彼女があなたたちリベリスタとしてこれから生きていけるのかどうか……ですね」
「本人は自分が怪物になってしまった……そう思っているようだしな」
「ええ。そして今、思い詰めた彼女は手に入れた力をもって、殺人を行おうとしている」
 得られた力を使って規模の大小にかかわらず、己の思うがままに生きていく。
「このままでは彼女はフィクサードに相当する存在になってしまいます」
「その前に、我々で決着を付けろということですか?」
「やり直せる可能性はまだあります。リベリスタとして」
「口での説得か、ちょっと荒っぽい説得か、どちらかになりそうだけど」
「あなたたちの判断にお任せします」
 そう和泉が結んだのを聞いて、リベリスタ達は顔を見合わせた。
「現在入院中の学友一人には、警官の警護がついているそうです。残る二人の学友のうち、どちらかを狙って彼女は行動すると思われます。そこを待ち伏せして、対処をお願いします」
「彼女が明日の朝日を拝めるかどうかは……」
「彼女次第です、あくまでも」
 和泉の発言を聞いたリベリスタ達は、各々複雑な表情を浮かべつつ、アクセス・ファンタズムに転送された保護対象のデータを確認しつつ、部屋を後にした。
 和泉は無言でリベリスタ達を見送ると、何かに祈るかのように瞳を伏せた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:てけわい  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年07月11日(月)23:53
 初めまして。
 この度初参加となりますてけわいです。よろしくお願いいたします。

 一応討伐任務となっていますが、プレイング次第で戦闘が回避できる可能性はあります。ターゲットとなっている少女へのアプローチ次第で展開も変わると思いますので、参加者の皆様の多様なプレイングに対応できるよう頑張りたいと思います。


目的:エリューション化し、フェイトを得た少女の対処及び、保護対象となる少年二人の身辺保護
 基本的に後者の成功をメイン目的と考えて頂ければと思います。保護対象は二人で、別の場所に住んでいますので、参加メンバーを分散する必要があります。チームの分散単位は、単純に4人ずつとするか、それ以外の人数で割るかは、プレイヤーの皆様で相談して決めて頂ければと思います。
 当然ですが、少女はリベリスタの存在を知りませんし、自分のおかれた状況も正確には把握できていません。ですが、愛する弟の為に命がけで事に及ぼうとしています。
 思い詰めての行動とはいえ、彼女は人間としての理性も人を殺すことへの迷いも持ち合わせています。それらを考慮に入れた上での説得、もしくは実力行使になってしまうのかは、参加される皆様の判断にゆだねられます。


舞台:一般的な住宅街
 ヴァンパイア化した少女は日光を嫌っており、目的も人目を忍んだものとなっていますので、時間帯は夜間になると思われます。
 保護対象の自宅近辺での待ち伏せで、少女が目的を達成する前にそれを阻止出来れば最良です。保護対象を守れなかった場合、彼女の説得は難しいと考えられます。
 住宅街ということで、路地裏などに身を潜めることで容易に隠れることは可能です。敢えて表に出て目立つことで、少女にプレッシャーをかけることも可能ですが……。


登場人物
東雲絵里花(しののめ えりか)
 黒髪ロングヘアーの似合う、女子高生。あまり目立つタイプではなく、いわゆるどこのクラスにでもいるタイプの物静かな少女。
 特にスポーツなどを専攻していませんが、エリューション化によって底上げされた身体能力は、普通の人間では太刀打ちが出来ないレベルになっています。
 自分の愛する弟をいじめた相手に対して深い憎しみを抱いており、対象の殺害も辞さない覚悟を持って行動しています。ただし、元々は優しい女の子であり、自分が行おうとしていることへの迷いや罪の意識は消し切れていません。
 わずかな所持金と、携帯電話以外は何も持たずに逃走してきたため、武器などは所持しておらず、基本的に素手で戦いを挑んで来るでしょう。そんな彼女の武器は、血を喰らい、肉を引き裂くことが可能な牙、そして爪になります。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
スターサジタリー
ウィリアム・ヘンリー・ボニー(BNE000556)
マグメイガス
風宮 悠月(BNE001450)
デュランダル
イーリス・イシュター(BNE002051)
デュランダル
★MVP
降魔 刃紅郎(BNE002093)
デュランダル
イーシェ・ルー(BNE002142)
デュランダル
真雁 光(BNE002532)
マグメイガス
来栖 奏音(BNE002598)
ソードミラージュ
音無 光騎(BNE002637)

●15:30pm
「どうかしましたか?」
 先刻のブリーフィングから1時間。
 リベリスタ達に依頼内容を伝えた後、雑務をブリーフィングルームでこなしていた天原和泉(nBNE000024)はドアを開けて仁王立ちする降魔刃紅郎(BNE002093)に声をかけた。
「少し訊きたい事があってな」
「何でしょう?」
「標的の弟、東雲ユウキとか言ったか……その所在だ」

 ブリーフィングルームから出てきた降魔に、他のメンバーが近づいてくる。
「ユウキ君の所在……分かりましたか?」風宮悠月(BNE001450)は落ち着いた口調で降魔に問いかける。
「姉を探している為正確な場所は分からぬが、大体の場所は把握出来た」後は我の足で探すのみだ。揺らぐことの無い瞳がメンバー全員を見渡し、そう告げた。
「わかりました。そちらはお任せします」
「了解だ」
 降魔はそう言うと、探索に同行する旨を伝えていた音無光騎(BNE002637)に付いてくるよう促した。
「……お二人さん。悪いんだが少しばかり待ってくれないか?」
 急ぎその場を立ち去ろうとした二人を、ウィリアム・ヘンリー・ボニー(BNE000556)が呼び止める。
「どうした?」
「ある程度の場所は分かったものの、より正確な情報が必要かと思ってね」ウィリアムは自分の手持ちのAFを操作し、保護対象の住宅地周辺や、探索地域周辺の地図情報を出力する。
「相談していた説得場所に使えそうな公園も、ピックアップしてある。今から送るよ」
 手慣れた手つきでAFを操作するウィリアム。程なくして、全員のAFに情報が入力された。
「各ポイントからの合流ルートも書かれているですっ!」
 ウィリアムの細やかな仕事ぶりを見て、イーリス・イシュター(BNE002051)は感嘆の声を上げる。
「実用的なモノを作らないとね、どうせなら」
「短時間で作れるのが凄いッスね!」
 イーリスと同じく、イーシェ・ルー(BNE002142)も素直に感心している。
「……助かった。では、我らは行くぞ」
「ああ。頼んだぜ」
「了解だ」
 降魔と音無の二人は、他のメンバーに見送られながらアーク本部を後にした。
「それでは──」
 改めて残りのメンバーを見渡しながら、風宮は対象の警護メンバーの最終割り振りと、役割分担、集合場所などの打ち合わせを始めることにした。

「降魔さん、ちょっといいかな?」
「どうした?」
 アーク本部の入り口を出ようとした時、音無が降魔に声をかけた。
「弟さんの探索の件なんだけど、降魔さんにまかせてもいいかな?」
「別にかまわぬ……が、貴様はどうするのだ?」
「おれも別のアプローチで、彼女と弟さんに近づこうと思って」
「了解した。が……余り無茶はするな」
「ああ、わかってるよ」それじゃ、と音無は颯爽と走り去っていった。
「……我も行くか」
 短く言い放つと、降魔もアーク本部を後にした。

●16:00pm
「ここか」
 AFで地図を確認し、表札も確認した音無は呼び鈴のスイッチを押す。
「……はい」ドアの向こうから姿を現したのは、中年の女性。疲れ切った表情を見せるのは東雲家の母親だ。
「こんちは……あ、おれ音無って言います。東雲さんが事件に巻き込まれたってきいて」
「絵里花のお友達かしら?」
「はい……東雲さん、どうしてますか?」
「昨日から家に帰ってなくて……私もわからないの」
「そうですか……」
 会話を続けながら、音無は自分の嗅覚に集中していた。東雲家の匂いを記憶していく。
 家にはそこに住まう家族の匂いが残されている。かすかな手がかりを、音無は自分の脳裏にインプットしていく。
 数分後、母親に挨拶して東雲邸を後にした音無は、絵里花の探索を開始した。
 きっと、絵里花は孤独感にさいなまれている。誰も助けてくれない環境に、飲み込まれようとしている。
 自分が覚醒した時のことを思い出しながら、音無は駆ける。
 おれんときは皆に助けて貰ったから、今度はおれが少しでも彼女を助けたい。
 彼の偽らざる気持ちだった。

●19:30pm
「ようやくか」
 ユウキを探して2時間が経過していた。
 降魔の目の前を素通りしたユウキは、続く捜索に疲れ切った表情をしている。
「……おい」
 己が身丈、どのような声のかけ方でも警戒はされよう。そう考えた降魔は、すれ違ったユウキの肩を掴んで呼び止めた。
「! え、えっと……何、でしょうか?」
 元々小柄なユウキは、頭三つ分は自分よりも高い降魔を見上げて、声を震わせる。
「時間がないから率直に話す。貴様の姉のことで話が」
「姉さんのことを、知っているのですか!」
「……あるのだが」
「どこに……どこにいるんですかっ! 姉さんのこと、教えて下さいっ!」
「落ち着け」
 降魔は軽くユウキの頬を叩く。
「……っ!」
「とにかく、今は時間がない……わかるか?」
「は、はい」
「まずは、我の話を聞け。信じられぬかもしれんが、貴様の姉に起こっている事、これから起こるかもしれぬ事、全てを話す。嘘偽り無くな」
 ユウキは有無を言わさぬ降魔の口調に、静かに頷くだけだった。

「姉さんが……僕のせいで」
 絵里花の現状を聞いたユウキは力なくうなだれる。
「どんな存在になったとしても、貴様の姉は本質的には変わらない、わかるな?」
「……はい」
「受容れてやれるか、ユウキ?」
 見た目で分かる変化はあまり無いだろう。だが、それでも人外に違いない。
 それを受け止められないと言うのなら、姉の元に連れて行くことはむしろ逆効果だ。
「僕は……」
 ユウキの眼に浮かぶのは肯定の意志だった。
「ならば、貴様自身にも、目を向けねばならぬ。……姉の問題を解決するには、貴様の苛めも解決する必要があろう」
「僕の……」
「我は貴様の全ては知らぬが、顔を見れば優しさと真面目さは見て取れる。だが、それだけでは駄目だ。耐えるだけでなく、困難に立ち向かう強さが必要だ。姉の杞憂を消し去るためにな」
「僕に……僕に、出来るでしょうか」
「決めるのは貴様自身だ」
「……姉さん」
 うなだれ、瞳を閉じるユウキ。そして、再び開いた瞳に恐れと共に浮かぶ決意を、降魔は感じ取っていた。
「我の仲間は、貴様の姉を止めようとしている。共に来るか?」
「はい……お願いします!」

●22:00pm
 説得場所にと聞いていた公園の前を通りかかった音無は、張り巡らされた結界に気付いた。
 常人には見渡せぬ結界の中に、ウィリアムとイーリスを認めた音無は二人に近づいて声をかける。
「何してるんだよ?」
「……そりゃ、こっちのセリフだな」
「そうですっ! 音無さんは、降魔さんと一緒じゃなかったんですか?」
「途中で別行動を取っていて……おれ、絵里花と接触したんだ」
「……ほう」
「えええっ! 絵里花さんは、どうしたですかっ?」
「……ああ」
 音無は東雲邸で得た匂いを元に絵里花を補足し、説得しようと接近したことを話した。
 だが、音無の学生服を着た風貌を見た絵里花は、ナンパされたと勘違いして、私は今、そんなことをしている暇は……! と言われて逃げられてしまった。
「そういうことか……だが、賢いとは言えないな、それは」
「いや、さ。絵里花、昨日から何も食ってないだろ? 腹減ってるんじゃないかって思ってさ」
 音無はカバンからおにぎりを出した。
「食べさせてあげようとしたですか?」
「血を吸うだけじゃない。飯でも腹は膨れるって、言ってやりたくってさ」
「……上手くいかなくて、残念だったな」
「でも、音無さんのやりたかったこと、わたしは分かる気がするです」
「ありがとうな……所で、二人は?」
 ウィリアムとイーリスは、元々はそれぞれ別の班に分かれていたが、説得場所となる公園に結界を張り、一般人が来ないように待機する役目を受けていた。
「今の絵里花になら、二人ずつでも十分だ。それに」
「説得場所に一般人がいたら、めんどうです」
「なるほど。じゃあ、おれもここで待つとするかな……食べる?」
「……絵里花が来たら、食わせてやればいい」
「そうですっ!」
「……うん、そうする」
 音無は頷くと、カバンにおにぎりを戻し、少しだけ遠くを見た。仲間たちが無事絵里花を連れてくることを祈りながら。

●22:15pm
「! 奏音ちゃん……あれは」
 保護対象宅の路地裏で二手に隠れて見張っていた真雁光(BNE002532)と来栖奏音(BNE002598)の前に、一人の少女が現れた。
 黒髪をなびかせ、瞳に固い決意を浮かべた少女が。
「絵里花さん、ですよ……」
 真雁は素早くAFを操作し、別所で待機している風宮とイーシェに連絡を取る。すぐこちらに向かうと返事が返ってきた。
 当然、その間は真雁と来栖で絵里花を止めなければならない。
「奏音ちゃん、出ましょう!」
「はいですよ……!」
 言うがいなや、真雁は路地裏から勢いよく飛び出て、いじめっ子宅をじっと見つめる絵里花の前に現れた。
 人がいないと思っていた絵里花は、突然現れた小柄な少女に動揺を隠せない。
「あなたは……誰っ?」
「絵里花ちゃんっ! ボクたちの話を聞いて下さいっ!」
「な、何で私の名前を! ユウくんの友達……? いや、あなたみたいな子は知らない!」
「奏音たちは、弟さんのお友達では、ないですよ~」
 真雁に少し遅れて、来栖も姿を現した。
「ボクたちは……今の絵里花ちゃんと同じような存在です」
「私と……同じ? それって」
「こういうこと、なのですよ~」
 来栖は左手の包帯を自ら解いた。機械仕掛けの腕があらわになる。
「それは! まさか、あなたたちも?」
「そう、ただの人ではないのです。ボクも、奏音さんも」
「そんなっ……!」
「絵里花ちゃんと同じように、ボクたちも突然、こうなって……」
「そういうこと、なのですよ」
「ボクたちはある組織から絵里花ちゃんのことを聞いて、止めようと……」
 言いかけた真雁に絵里花は容赦なく飛びかかり、薙ぎ払おうとする。
「絵里花ちゃん、やめて下さいっ!」
「落ち着くですよ~!」
「……あなたたちが私の同族でもっ!」
 右に左にと両手を振りかざし、真雁を切り裂こうとする絵里花の爪。元より説得しか考えていない真雁は、愛用の武器もAFに仕舞い、回避に集中するのみ。
「ユウくんのためっ……邪魔はさせないッ!」
「絵里花ちゃんっ! 落ち着いてッ!」
「っ……光さん!」
 絵里花の斬撃が真雁の左肩に命中した。傷は深くないが、真雁の肩からは血が飛び散り、外壁を濡らす。
「つっ!」
 肩を押さえ、片膝をつく真雁。動きの鈍る真雁と身構える絵里花の間に、来栖は割って入る。
「絵里花ちゃん……一時の感情に身を任せてしまったら……後で辛くなります!」
「まだ誰も死んでないので~、絵里花さんは何も終わってないのですよ~」
「私は……こんな身体になって……もう、ユウくんと暮らせないっ! だから!」
「だから、何なんスか!」
「……っ!?」
 幻視身を隠して背後から近づいたイーシェは、絵里花を羽交い締めにして押さえ込む。
「イーシェちゃん!」
「そんな馬鹿な理由であんたの未来棒に振って良いわけないッス!」
「もう、あなたは戻れない……それでも、生きていけます!」
 イーシェと同じく合流した風宮も、説得の声をかける。
「生きて……? 無理よ!」
「アタシたちはアンタの味方ッス! むしろアタシなんて同族ッスよ! アイター!?」
 腕を絵里花に噛まれるイーシェ。それでも彼女を離さない。
「こんな、血を……求めたりして……わっ、わた、し……」
「ホラ! アタシだって牙生えてるッス!」
「羽交い締めにしてたら見えないです!」
「あっ……そ、そうッスね」
「わた、し……」
 イーシェに押さえられたまま、絵里花は力なく両膝をつき。
「ごめんね、ユウくん……お姉ちゃん、こんなにっ、なって……っ!」
「絵里花さん」
「こんなになったのに、ユウくん……助けられ……なくてっ……ごめんね」
 後は、言葉にならない嗚咽が口から漏れた。
「絵里花さん……ユウキ君を助けられますよ、あなたは」
「……私、人としての心も、何もかも……無くして……しまうから」
「そんな風には、ならないですよ~」
「そうッスよ! アタシたちが保証するッス! 絵里花さん次第で……何とかなるッス!」
「とにかく、ここじゃ……落ち着けないから」
 風宮は優しく、絵里花の肩に手を置いた。
「近くの公園まで……行きましょう?」

●23:00pm
 道すがらで4人から説明を受けた絵里花は、公園に着いた時には落ち着きを取り戻していた。
 到着した仲間たちの輪の中にいる絵里花を見たウィリアムとイーリスは、互いの武器を使わずに済んだことを素直に喜んだ。
「私……その、こんなに……同じような人がいるって、知らなくて」
「仕方がないだろ、知らなくて当たり前だ」
「……君は」
「ナンパじゃないから。おれ、あんたが腹、減ってるって思ったから……」
「あ……」
 音無はおにぎりの入った包みを差し出す。
「食べなよ。これでちゃんと……腹ふくれっからさ」
「うん、ありがとう……」
 音無から受け取ったおにぎりを、絵里花は一つ口に入れた。
「……おいしい」
「良かったです、絵里花さん」
 笑みを浮かべた絵里花を見て、イーリスはぎゅっと彼女を抱きしめた。

「もし良ければ……ユウキさん……家族の方と一緒に、私達が住む町に来て欲しいのです」
 絵里花が落ち着いたところを見計らって、メンバーが順繰りになって自分たちや、これから絵里花が抱える事情を説明していた。
 イーリスのように絵里花に三高平への移住を薦める者もいた。
「どうやら、上手くいったようだな」
「はい、降魔さんは?」
「ああ、我も役目は果たした」
「あなたも、私や……この方達と?」
「そうだ。そして……連れてきたぞ、ユウキを」
 ユウキの名前を聞いて、絵里花の身体が震え、その指が顔を覆う。
「ユウキから、貴様に話があるそうだ」
「……姉さん」
「ユウ、くん……」
「ごめん、姉さん。僕が頼りないばかりに、姉さんを……傷つけてしまって」
「いいの……それよりも、ごめんなさい。私は……もう」
「言わなくていいから、そんな風に言わなくても」
「ユウくん……」
「姉さんは、どうなったとしても、僕の姉さんだ。これからもずっと」
「うん……」
「父さんや母さんにも話して……三高平に行こう。きっと分かってくれるよ」
「大丈夫、かな……?」
「大丈夫だって! それと、僕はこんなだから……転校した先でも、姉さんに心配かけるかもしれないけど……僕なりに頑張るから」
「ユウくん……うん、私も一緒に、頑張る」
「うん……だから。だから、今日は一緒に帰ろう? 父さんも母さんも、待ってるから、ね?」
 耐えきれずにユウキの胸元に飛び込んだ絵里花は、子供のように泣きじゃくった。
 そんな二人を見て、リベリスタ達は一様に安堵の表情を浮かべた。
 一人の少女が明日の朝を迎えられることは、一つの夜を共に駆け抜けた全員の勲章なのだ。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 てけわい初めてのリプレイに参加して頂いた皆様、ありがとうございました。
 相談期間におけるプレイヤーの皆様の発言を見ながら、自分が想定していたコトの上をいく案が出るのを見たり、それを元にしたプレイング案が上がったりする度に一喜一憂させて頂き、リプレイを書く前から凄くテンションが上がりました。
 実際に皆様から届いたプレイングもどれも面白く、どうにか全員がバランス良く活躍出来るよう書かなければ……と、ああでもない、こうでもないと言いながら書かせて頂きました。参加された皆様に、気に入って貰えれば幸いです。
 次回のシナリオも、それほど期間を空けることなく書かせて頂きたいと思っておりますので、見かけた際はどうかよろしくお願いいたします。

 それでは、ありがとうございました。