●これがやりたかっただけです 「夜倉先……じゃなかった、夜倉さん。あの、先日の報告書についてなんですが」 「どうせ何かの後始末でしょう、イヴ君あたりを経由して誰かに振っちゃってください。どうせ否応なしに誰かが関わります」 背後から資料を抱えて現れた『Rainy Dawn』兵藤 宮実 (nBNE000255)に椅子ごとぐいっとのけぞりつつ、『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)は応じた。 思うのだが、学園での一件で包帯が減って以来、何だかこのフォーチュナはヤのつく自由業臭いアトモスフィアにあふれている気がする。 『本業』が多い中で見れば大分薄れるが、それでも大分。僅かに後方に垂れた包帯なぞはその極致だ。 「いえ、そうじゃないんです。事後調査の名目で該当地点に行った職員から報告がありまして」 「何と?」 「……『大変いい湯でした』と……」 「何やってんですかその人達。まあ、それならそれで……取り敢えず先日の別件もありますし……」 どうしましょうかねえ、と顎元に手を当てる姿は完全にそれっぽかった。わるそう。 今更何で隠すのか分からないサングラスとか余計に悪役だった。 ●勝負湯 「というわけなので温泉に行きましょう」 「お前その衣装で銭湯セット抱えてることに疑問持てよ」 どういうわけかさっぱりわからないが、どうやら温泉に行くことになった。 「夜倉さんが、『先日回収したエリューションの残骸も温泉で処理しましょう』とのことです」 「温泉卵でも作る気か」 「いいえ、菖蒲湯です」 「……ところで」 「はい、男女別です」 「おいふざけんな」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月15日(水)22:56 |
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●大体こういう伏線があるよっていう前フリです 「あ゛?」 「っひ――!?」 ランディの威圧的な表情は、意図せずクミの視界に入ってしまったようである。 残念だなークミすげぇ怖がってるなー仕方ないなー(棒読み とはいえ、彼の憤りもわからないでもない。彼女であるニニギアと入れるものと思ってきたら、入れませんときたもんだ。 そりゃブッダも怒る。三度目じゃなくても割りと怒る。 「え? 水着で混浴じゃないの!?」 「そればかりは秘湯側の許可が降りませんでした。創業以来○年、ウチは男女別なんだー、とのことで」 舞姫の絶望的な問いかけもクミはさらりと流す。前回のこと? 彼女の頭の隅に追いやられてますよ、やだなあ。 「酒と肴ってあるかな?」 「頼めばあるんじゃないでしょうか。幸い、持込も寛容にも許可をいただいていることですから」 思い切り寛ぐ気全開(正しい判断である)のクロトの問いには、夜倉が応じる。当然といえば当然、その程度の風流を弁えないわけではないようだ。 ちなみに、資料写真からすると温泉卵を作るスペースすら設けているらしい。流石である。 「……で、快君はなんの準備を?」 「ああ、気にしないで」 「……?」 守護神、謎の前振りだった。 ●でも直後に概ね回収される 「イラッシャイマセェーッ」 「……快君、なんでしりあがりなイントネーションなんですか。どこの過激派ホイホイな喫茶店ですか」 快、秘湯のお手伝いに回っておりました。 曲がりなりにも客商売経験者(現役)。多少忙しいくらいで丁度いいとばかりにてきぱきと動いているようなので、特段突っ込まないことにした。 そして、男女別に入っていくわけですが、まあ脱衣室でもいろいろあるんでしょうね。 ……あるだろ? あるじゃないかこう、くらべっことかさぁ!(業の深いアラサー並の意見) 「ふはぁ~……」 「お湯がしみるなー!」 夏栖斗と風斗は落ち着いて入りたいとばかりに、普通に温泉を堪能していた。 というか、彼らがしみる、とか言うとどれだけ傷が増えてるんだか気にならなくもない。 ジュース片手に存分に寛ぐ様子は、菖蒲湯で疲れを洗い流しているようで微笑ましい。まあ、夏栖斗の眼光は単純に癒しのためだけでないことの証左でもあったのだが。 「いつもさ、いつもこっちから突進して向かうからラッキースケベに合わないわけなんだよ!」 「温泉とは疲れを癒す場所であり、騒動を起こす場所では無いのだ……」 あーうん、キングオブラッキースケベさんがフラグおったてたんで回収してきますね。 「……ん?」 一方壁際。 女湯に向かって構えた竜一がフラグを感知したそうです。センスフラグ活性化されてないけどな! 「おーんせーん☆ そして菖蒲湯と言えば…!!」 「言えば、何ですか終君。なんですかその手の菖蒲」 じりじりと詰め寄る終に、夜倉は完全に引け腰だ。 何をやろうとしているのか、本能的に悟っているのだろう。 ……あ、いまさらですが夜倉は湯帷子着てます。 「夜倉さん覚悟ー☆」 ぺちーん。 「~~~~! ちょ、終君はいきなりどうしましたかご乱心ですか!?」 「子供のころ菖蒲湯の菖蒲でちゃんばらごっことかやらなかった??」 「やらないと思いますね!」 「菖蒲でバッティング派なんだね!」 「違います」 「何で温泉でグラサン装備してるの? 曇るよ?」 「こまけぇこたぁいいんですよ」 ……うんカオス! 「ござふぅ……気持ちいい湯でござぁ……」 (あの語尾って吐息にも係るんだ……) ウェットスーツで温泉に入る虎鐵をちらと眺め、夜倉はそんなことを考えた。彼がウェットスーツを着る理由は、夜倉が湯帷子を羽織る理由に遠くない。 ので。 「夜倉はヤクザだったのでござるかーそうだったのでござるかー勘が鈍ったでござるなー」 「いや、傷があるのは認めますがその筋では決して」 「大丈夫でござる! 過去とかそういうのはきっと皆拘らないでござるよ! 元極道でも全然大丈夫でござる!」 「全然大丈夫じゃないですからね!? 確かに極道でもいいとおもいますけど僕は違いますから!」 「もうこの際包帯無くしてフルオープンすればいいのではないかでござる? 帽子とかで隠すときっとおしゃれでござるよ!」 「いえですから……!」 虎鐵、意地でも包帯の下を見たいらしく。 「…………」 「…………見ましたね?」 「何も見てないで……ござぁ……」 「あの時の菖蒲を利用して、まさか温泉に仕立てるとはなぁ」 「フ、菖蒲湯とは粋な計らいであるな」 翔太と優希は。原則的にあまり邪念とかと無縁畑の人間である。少なくとも、夜倉が報告書をまとめる限りでは。 今回も今回で、二人は普通に温泉に浸かりに来ていた。健康的である。 「よし優希。夜倉にボランティア料もっとくれよっと文句言おうぜ」 「ボランティア料か。この温泉で手を打つのも吝かではない」 優希はストイックである。今に始まった話ではないが。 故に、楽とかそういう方向が好きな翔太からすれば黙って首を振る返答だったことは間違いない。 ……むしろ、ストイックな彼を言いくるめるのが面倒だったとかそういう可能性もあるが、口にしてはいけない。 「一応は俺、真面目にやっていたよな?」 「ああ、翔太も真面目に働いていたな」 だがあの程度ではへこたれまい? と暗に視線を投げかけた優希の表情は楽しそうだ。 「楽しそうですねー……」 そんな二人の方へ流れ着いた夜倉は、やはりヘロヘロだ。全身に赤い跡があるのをみると、そうとう激しかったと見える。 「ところで夜倉、結局口元の包帯はなくならないのな?」 「そうですね、当座は外すつもりはありません」 まじまじと口元の包帯を見つめる翔太を前に、ああ、と夜倉は思い至った。そういえば、包帯のままコーヒーを嚥下して彼を驚かせた過去がある。まあ、彼に限らず驚かれた過去しかないのだが。 そして、その技術については相当な秘匿事項(おとなのじじょう)なので聞かないでほしかった。 「夜倉は正面で人と対峙している間、後頭部から第二の口が現れて人々の隙をついて飯を食っているのだろう?」 「二口男ですか僕!?」 「ああ、夜倉がどんな妖怪的スキルを隠し持っていようとも夜倉は夜倉だ」 「いや優希、普通に一緒に飯食ってたし妖怪じゃねぇよ」 まじめってこわいね。割とマジで。 菖蒲湯に入れば、熱い夏を丈夫に過ごすことが出来るらしい。 頭に巻けばさらにドン、だそうだ。 琥珀はそう聞いた。日本的にも間違ってない。 「外観は気にしない!」 「おお、勇ましいですねえ……元気でいい」 そんな勢いで生きる琥珀の元へ近づいてきたのは、聖だ。 本格的な任務に就く前の気晴らしという形で来ていた彼にとって、他の面子があれやこれやしているのは見ているだけでもいいものだ、と思う。 「聖氏も一本どうですか?」 「気持ちだけ受け取っておきましょう……(若いなぁ……」 本当なら巻いても吝かではないのだろうが、なぞのしり込み。若さにさりげなく圧倒でもされたのであろうか。まあ、われわれの知るところではないが……そんな聖をよそに、やれ夜倉は包帯の代わりに菖蒲を巻けばどうなるだろうか、『攻防戦』はどうなるだろう、と話している。 聞き上手な彼には一切疲弊の色はない。もう少しだけ、平和に過ごしたいものだと思ったりもしたのであった。 「うぅ~……くぅ~、悪くねぇなぁ。日本人でありがてぇ、って瞬間だわ」 「あー、気持ちいいなぁ……。やっぱり温泉って最高だね」 悠里と火車は、互いに死地に程近い戦場に立つことが多いタイプの人間だ。覇界闘士という立場もあって、最前線を支える心持ちがある以上は苦労が絶えないのは当たり前。 だから、というか。こういう息抜きは何よりも大事にすべきなのも確かだった。 「また火車が成人したらお酒を飲みながら入りに来るのもいいね」 「酒呑みながら風呂とか入んのか?」 「風流だよ?」 成人した悠里は兎も角、火車が飲酒を許容されるにはあと二月半ほどの時間が必要である。 それから彼を誘ってそういう場を設けても悪くは無い……と、思うわけだ。 「まぁ飲める時期きたら新田ん所でも行くからよ 飲み方とか教えろよ」 「人に教えるほど詳しくもないけど……楽しみだね。今日のところはお風呂上りのフルーツ牛乳で我慢しとこうか」 「悠里はフルーツ牛乳派か オレぁコーヒー牛乳だな」 あるのかは知らないけど。異口同音に告げられた言葉だが、それが杞憂と知るのは数十分後である。 「何故登るかなど最早聞いてくれるな、数千年繰り返され尽くした問答だ……」 壁があるから上るんだとか、もうツァインお前マロリーさんに謝れよ。本人の言葉かは置いとくとしても。 「男には、戦うべき時と場所がある。命をかけるべき瞬間がある」 賢くなくてもお前らの行為は指差して大爆笑モンだと思うんだけどどうだ、竜一。 包帯とかは止めないけど誰かが止めるぞ。 まあ、野郎共ばっかり描写すんのは俺も疲れたんで女湯も見ておきましょう。 ヒャッハーノーリスクだー! ●性別とかあんま関係なかった 「ううあ、夜倉が、夜倉が狩りたい……」 「舞姫さんが……怖いです……」 女湯。 入って早々に全身を痙攣させ湯面を波立たせている舞姫は、夜倉狩りができないことに禁断症状を覚えていた。おい誰かこの小娘を柵付きの病院連れてけ。クミ怯えてんじゃねえか。 「高いほうが縁起がいいのかな?」 柵の高さに驚いたふうのチャノは、浴場のマナーをわきまえてる系フュリエである。 かけ湯やら何やらを済ませ、タオルを頭に載せた時に凄く緊張した顔つきになっているが気にしてはならない。 落としても恐ろしいことは怒らないし湯の中移動するに際して「わにわに」ってなんだろうとか、ボトムの人間すらびっくりだけど言わないお約束よな! 「わわー?!なんでしょうか、草だらけのお風呂です」 「『菖蒲湯』ですよ。健康を保つための験担ぎですから、放って置いても害はないです」 「へぇぇ……」 すかさずクミがフォローする。フォローがなければ、きっと集めていたことだろう。そして風呂の外へ。 まあ、浴槽にあれやこれやぶっこむのは確かにフシギに見えるよね。 「菖蒲が浮いているのが少し不思議じゃが、それ以外はいたって普通…………ひ、人がう、ういてる!?」 サスペンスのSEが流れんばかりの状況に、与市は思わず言葉を失った。 浮いている、ぷかりと、菖蒲まみれで。女湯に居るからには女なのだろうが、しかし随分動かずにいられるものだと。 「だ、大丈夫かぇ?」 つんつんする。動かない。 ひっくり返す。動かない。菖蒲まみれで顔も微妙にわからない。 「は、反応がな、ないのじゃが……」 リベリスタが風呂で溺死とかまさかそんなまさかまさか。 だが直後、弾かれたように体をばたつかせ、その人影が湯船の中で立ち上がる。 「与市様こんにちわ。菖蒲どうですか」 「うぁ!? ……ま、まお様じゃったか……菖蒲のぅ。落ち着く匂いじゃ」 まお、どざえもんごっこはやめなさい。与市ガチビビリしてたよ。 「は゛ぁ゛~~~……甘露甘露……」 「ちょうどよい温度ね。気持ちいい……」 尻尾をゆるゆると振りつつ満喫するレイラインに、壁の向こうに僅かに視線を向けて微笑むニニギア。傍目から見た年齢と間逆の関係にある両者が云々、とはあえて言うまい。 アップに纏めている彼女の項の艶色は、同性のものでさえ嘆息する程度には色がある。 ちなみに、その隣でレイラインの女性的な部分(隠喩)は浮いていた。 まあ脂肪って比重軽いですし。 「他の方と一緒のお風呂に入るだなんて、小さい頃以来ね」 「何かあったら言ってね。手伝うわ」 感慨深げに湯に足を浸す淑子に、ニニギアは柔らかく語りかける。 柔らかい笑みは不安を取り去るにはあまりに効果的で。 「しかし、温泉は極楽じゃのう。イギリスではあまりお風呂には入った事なかったし……」 「…………」 「…ん? ちょっと待て、何じゃその汚物を見る目は!?」 この還暦も黙ってりゃ普通にカワイイな英国ビスハで済むのにそれをしないあたりが何とも。 あ、ちなみに彼女が必死こいて弁明した結果ですが。ちゃんとシャワーは浴びてたそうです。 湯船に浸からないでも身だしなみは整えてたよという謎アピールです。やったぜ。 「日本は本当に温泉資源が豊富でございますね……」 何で菖蒲を湯に付けるのだろう、と首を傾げつつも、日本式の温泉を堪能するリコルの視界の端にふと映ったのは、だれあろうベルカだった。当然のように全裸である。 「大丈夫大丈夫、見えないみえない! 菖蒲湯だし! 菖蒲めっちゃ入ってるし!」 そういう問題ではないんだが、大事なところはちゃんと菖蒲で隠れてる。どのくらいのセキュリティかといえば、アク倫がダッシュで「みせられるよ!」するくらい。 すごいやベルカ。倫理管理も万全だ! 「お湯に入れるならもっと香りのよい物の方が良い気が致しますが、日本人の方は仄かな香りの方がお好きなのでございましょうね……」 「かしわもち……」 それはさておき、浴槽に入っている菖蒲を軽く手に取りほんわかする笑顔を見せるリコルを他所に、ベルカはなぜか花より団子思考に陥っているのだった。ああ、風呂が涎でまみれていく。 (そういえば、お互い『姉』なんだよね……) ユーヌと隣合わせで入浴中であったアリステアは、ふとそんなことを思い出した。 お互いの相手は男女で異なるが、先に生まれたものの責任とか悲哀とか、まあ、そんなものもあるのだ。 「ユーヌちゃんの弟さん、背高くてすらっとしてて、かっこいいねー」 「下の子は可愛いものだな? 手がかからないと少々寂しいが」 姉同様、一般的な立場を自負する弟を思い出し、表情無く首を傾げるユーヌ。彼は彼で感情の起伏がわかりづらいが、素に戻ったり動揺があれば、確かに中学生相応なのだろう、とは思うのである。 「うちの妹は……私の事姉だって思ってくれないんだよね…『ちょびっと先に産まれただけでしょ?』とか言って。ちょっと寂しいんだよね」 「テュルクも良い子だが、私よりしっかりしててな……」 ……とはいえ。シュスタイナとテュルクでは「できた下の子」としての質が異なるのも間違いではない。主に上の子への尊敬度とか態度とか。後者は姉に対してある程度引いてみている感じはあろうし、前者は前者で表向きは兎も角として、内心ではどのように好意を向けているものやら、である。 「何にせよ」 お互いの懸念を振り払うようにユーヌが一呼吸置いて。 「在り方で敬われないまでも失望されない姉でありたいものだな、お互いに」 複雑な表情で頷くアリステアと改めて、互いの下の子の今後に僅かな期待を託したりしなかったり。 「いつもおとーさんとお風呂一緒なのでちょっと狭いんですよね。広いお風呂入るの久しぶりですー」 (銭湯一つにここまで喜ぶ彼女の普段の生活水準が、少し心配になってきます……) キンバレイがはしゃぐ。胸が豪快に揺れる。 軽く首を振る彩花のそれもまた、軽く揺れる。 ……うん、親父殿はそろそろ娘離れが必要なのではないか。それとも節水の為なのだろうか。後者だと思いたい。付き添いで来た彩花のためにも。 「キンバレイ大人になってお金稼げるようになったら下着買うんです!」 …………………はい? 「背中の洗いあいぐらいはしてみます?」 「じゃあ私から!」 と言い、ボディソープを胸にたら、いやストップ。カメラとめて。音声だけ音声だけ。 「おとーさん、こーやって背中を流すと男の人が喜んでくれるって言ってました!あと(検閲削除)? で働くときに役に立つとか……毎日おとーさんの背中こうやって流してあげてるのですよ! シャチョーさん女の人だから駄目なんですか?」 「…………」 すいません、流石に独断で検閲削除にする程度には衝撃的なおはなしでございました。 アク倫に青少年のなんかに悪影響を与えるおはなしは一切許されません。ごあんしんです。 「今日は気兼ねなく温泉でのんびり出来るのだねふふふ」 右に左に視線を向ける寿々貴の目は輝いていた。瞬間記憶の発動的な意味で。 同性のみ? 構うものかである。 今後なんかの機会に全員のスリーサイズうっぱらったりするんだろうか。ないか。 「クミさん、壁が何Tで壊れるか賭けませう。近い方にフルーツ牛乳奢りで」 「えっと……壊しちゃうんでしょうか? せっかくの壁なのに……」 「彼らなら」 断言しちゃいましたよこの人。 「思えば、ヘクスと知り合ってから色々とありましたね」 ヘクスのコップにソフトドリンクを注ぎながら、紅葉はあれやこれやと思い返す。 アークからはやや遠い地での鬼の復活、バロックナイツとの戦い。こと、ヘクスにいたっては異世界での一対一などということもあったろうか。 ボトムに戻らぬ彼女を慮った紅葉の心境は、当時如何ばかりであったか想像もつかない。 「しかし、ヘクスがこんなにも大切な人が出来るとは思ってもいませんでしたよ」 戦闘の役割上、護り守られる間柄である彼女たちだが、それ以上の感情がないわけではない。 寧ろ、そんなものが芽生えない筈がない。 紅葉が傷つかぬか、それだけがヘクスの懸念のすべてであり。 護られる安心感こそが、紅葉のヘクスに対する根底の感謝のすべてでもある。 「本当にわたくしには勿体無い位の友達です」 「ヘクスは紅葉を大切に思っていますよ」 ヘクスが先んじて言葉にするが、紅葉とて同じこと。 互いにとって大切とは、そういうものである。 ●辛気臭いのめんどくさい 「王に心臓を捧げよ…等とは言わん、己の為したいと思うことを為せ。貴様らは『覚悟』して来ている者だろう?」 刃紅郎の言葉に合わせ、馬が高らかに嘶いた。まて。……待て。なんで馬が風呂にいる。まあ突っ込んでもしかたないね。王様酔ってるからね。 「それでも俺は! あきらめることだけはしたくないんだ!」 そんな理屈で「それでも」とか言い続けたら箱も閉じっぱなしだわ。 「……二十メートルもあるんだけど、これ登ってるの? 下から上の光景……絶景じゃん!」 こっちはこっちで同性相手になに狙ってんだ。回復? アッハイ。 「今宵、我等の聖戦(クロスジハード)は最終戦争(ラグナロク)に突入した! 愚かくも素晴らしき牙のある獣達よ! 攻め登れッ、これより銭湯行動を開始するッ!」 ツァイン、お前他のM.G.K二人をもうちょっと見習えよ。落ち着けよ大学生。あとそのスキルをここで使うのか。英霊も思わず苦笑いだコノヤロウ。 だが、彼の凱歌は響かなかった。何故か? 「ムシャクシャするから殴らせろ?」 「……えちょっとまってランディさん拳握っていやなんか光ってちょっとまってまってまって」 「死ね! アルティメット腹パン!」 どーん。 柵の適当なところにひっかかった(腰のタオルで)ツァインは、見事な早贄でございました。 「うっひょうでっけえ! 着痩せするタイプ?」 『……今のは誰に対してだ?』 『わからん、だが着痩せだと!?』 (……かかった) 明奈は狡猾だった。内心で覗きに対して華麗にアイサツをきめているはずである。アイドル候補生がエントリー芸なんて一切やらない。いいね? 「スタイルいいなー憧れちゃうなーきゅっとくびれた腰がたまんねえ!」 「こいつは……スレンダーながら正に妖精のような美しさ!」 「ロリ巨乳だと!?反則にも程があるだろ!揺れてるー!?」 ※一部事実とクソほど間違いなく合致している情報がありますがごあんしんです。 『これは行くしかねえ……』 『死ね! 全員死ね!』 『ウボァー!?』 「……あれ?」 あるある。そういう展開もあるって絶対。 「……あはは。なんで、こんな簡単なことに気付かなかったのかしら」 「ま、舞姫さん……?」 先程まで微振動を続けていた舞姫が突如妖しい笑みを浮かべたので、思わずクミは問いただしました。正しい判断だと思います。俺もそう思う。 「そうよ、夜倉おじさまだから、狩るんじゃない。舞姫ちゃんが狩るから、夜倉なのよ」 あ、目が光った。 「舞姫!」 「ありがとう、レイちゃん! ヒャッハー! 狩られるヤツは夜倉だ! 狩られないヤツは、よく訓練された夜倉だ!!」 『…………ッ!?』 柵の向こうで湯帷子が跳ね上がらんばかりにビビった夜倉は間違ってない。間違ってないんだよォ! 因みに、レイチェルはタオルを巻いて既に舞い上がっている状態で桶持ってます。下に行くなよ。絶対だぞ。 「戦いとは虚しいものだ、そう思わないか? つか、覗きする位なら俺は堂々と女湯に入る」 こんなランディの発言が、マジで伏線になるなんてね。 ●攻防戦の途中ですが緊急速報気味にガチ判定と参ります 遡ること一分ほど前。どっから遡ったかは聞くな。 「柵があるなら壊せ? ちげーよ。女湯入り口から堂々行くんだよ」 俊介は、風呂入り口に立っていた。 彼を最大警戒しているレイチェルでさえ、よもや彼がこんなところに居るとは思っては居まい。 ついでに、これから何をしようとしているのかも。 数十秒の間を置いて、風呂全体を特殊空間が覆う。……アシュレイの秘儀がこんなトコロで使われるんデスネー……。 「……って!!? まさか入り口から来ると思ってない!」 「レイチェルのおっぱいおっぱいィィィ!」 全速力で入り口から浴室に入るまで十秒。空間の変化に気付いた面々が身構えるには十分な時間だった。 「これじゃ賭けが成立しないですねー、残念」 寿々貴がやれやれと首を振ったが、それどころじゃないと思う。 「大丈夫、リベリスタならば、死にはしません……」 「不埒者にはお仕置きを」 と、風呂周辺で張っていたリンシード、壱和の二人はそれぞれ構えていたものの、飽くまで「柵の向こう」を想定して立っていた。故に、この二人の初動はレイチェル同様、遅れが生ずる。 「ジャッジメ――」 「お馬鹿さんには鉄槌を」 俊介が身構え、レイチェルが桶を振りかぶったタイミングで、流れだしたのは壱和、リンシードと組んで防衛に回っていたシュスタイナの魔曲である。集中してた。 「オブゥー!?」 足をもつれさせ、前のめりに倒れ込んだ彼は陸に打ち上げられた魚の如くびったんびったんと麻痺した体を打ち付ける。 「例えば、俺が倒れたら壊されない風景消えるからな? ハハッ……でも前が見えねえ! 畜生!」 まあ、そりゃそうだろう。麻痺した瞬間にレイチェルの桶が頭に被さってるもの。 頭なんて狭い位置の部位狙いがレイチェルの命中で通じるか? というが、止まった的だから仕方ないね。 「……元気なのは結構だが 節度くらい弁えられんもんかねぇ……」 「若いねー。流石に僕にあの元気はないなぁ」 悠里と火車の声が、どこか遠かった。 因みに、俊介は五分後、きっちり舞姫にもぎもぎされ ませんでしたさすがに。 ●ひきつづき不毛な攻防戦をお楽しみください 「ほ、ほんとにみんな覗いたりするの? 柵は二十メートルもあるのに……?」 そんな疑問を抱く七などなんのその。彼女の目の前では攻防戦が花盛り(血の花的な意味で)だった。 ランディにはっとばされたツァインだが、懲りずに戦線復帰。竜一などは未だ柵を乗り越えんと気合が入っている。 女性陣? 男性陣の○倍の戦力っすよやだなあ。 「罠とか張ってもいいけど……裸、別に見られてもいいと思うわ……」 ここでまさかのヴィヴィの容認発言。なんでこんなことになっているかというと、彼女が面倒くさがりだからです。 移動すら面倒臭がる彼女に今更、という気もする。一応の回避を目論見、筋肉に緊張は走っているがそれも戦場に比べれば幾分ほどの勢いもない。当然だが。 「私がやらなきゃ皆が悲しむじゃないですかーー! ……あ、ちょっとまってやめて」 文音、カメラとか持ちだした。瞬時に湯船に突っ込んだ。当然防水加工なんかではない。 ……ネタとはいえ被害額もあるので膝を屈する彼女だが、周囲から聞こえる男どもの心の声の悲哀度といったらないのである。 「オレはまだ男ではないから、とりあえず女湯に入った方が良いのかな」 ヘンリエッタの知識は豊富だが、飽くまで「フュリエの範囲内で」なのである。 女性しかいない世界に於いて性のありようなど分かるはずもなく、「心構えで男になれる」と思う彼女は間違っていない。でも、きっと概ね一生君は女湯だからな。 それでも乙女を守ろうとしてるから、その、そういう心構えは男なんじゃないかなって! 「お約束が何だか分かんないけど楽しそうなんで私も参戦するよっ!」 お姉ちゃん(80)アイ全開のルナは、翼の加護を受けて飛び上がっていた。楽しけりゃよかろうなのである。 構えたタライがいきなり増えたり減ったりするけど問題ないよね。大体問題ないですねハイ。 「温泉よりサウナダゼ」 ポテチ片手に風呂脇で戦闘を観戦するリュミエールは、そんなことをのたまっていた。 まあ、フィンランドってサウナの本場だしね。ロウリュもあっちの……ああ、なんか変態が反応しそうな単語が出てきたね。違いない違いない。 シベリアでは日常茶飯事な寒さ(春先)とはいえ、決して寒すぎるわけではないし、はいらなくてもいいワケではない。 ……まあ、温泉地にもサウナあるから大丈夫だよ、リュミエール。 ●一段落しました 「何やら他の方達が壁に向かいあって何やらしてるようですが」 シャンプーの貸し借りでもしてるんだろうか、と慧架は紅茶片手に疑問符を浮かべていた。 それにしては騒がしいし、何しろ男女間である必要性が全く感じられない。 むしろ、タライがどんどん減っているような気がするが……まあ、まったりしている彼女が分かろうはずもないので、その辺りについては触れないのが平和なのだろう。 平和なんです。 「……皆元気だなあ。チャンスは逃せないって事か……」 「温泉だからゆっくり浸かればいいんでしょうけどね……」 出たり入ったりを繰り返し、じっくりと体を休ませる義弘からすれば、攻防戦の賑やかさなどどこ吹く風なのである。 秘湯というだけあって景色は綺麗だし、休むに足る状況でもあり。 そんな彼と同様の様子で湯に浸る与作の緩んだ表情などは、風情を感じさせもする。 若いころはやんちゃもした。楽しみもした。でも、流石に五十を超えてそこまで活発ではないもんである。 義弘は、恋人が居る以上特に深く考えない点もあるのだろう。多分。 「こう言う賑やかな喧騒の中でノンビリ湯を堪能するのも一つの風情……かな?」 どうでしょうかね。 「……何も着ずに温泉入るのはなんだか変な感じがするよぉ……」 リリス、お風呂は水着着ない方が普通なのよ。スパリゾートじゃないのだから。 でもまあ、彼女にとっての温浴の常識とはすなわち過去の経験則なので仕方ない。つまりラッキースケベも織り込み済みということなのだろうか。起こらないけど今回。 「……皆が見られるの嫌なら、闇の世界を……暗い……ねむ……Zzゴボガボゴボボッ」 「わー、リリスちゃーん!? お風呂の中で寝ちゃ駄目だよぉ!」 ……歴史は繰り返されるんですねー。あと、さりげなくルナがフラグ乱立させていた事実を忘れてはならない。 「フルーツ牛乳です、どうぞ」 「……なんで秘湯にそんなものが」 「ダマラッシェー」 「アッハイ、温浴施設に入院料は鉄板なのでなんのもんだいもありません」 風呂あがり。なんでパワーワード中てられたかさっぱりながらも、夜倉は義衛郎からフルーツ牛乳を受け取っていた。 女湯から、縛り上げた俊介をロープで引っ張りながらふらふらと出てきたクミもまた、コーヒー牛乳を渡される。 初対面の挨拶もそこそこに、改めて義衛郎はまじまじと夜倉を見つめる。 「なんか月ヶ瀬さん、その筋の人に見えるんで、サングラス外したら如何ですか」 「なりません」 平行線だったみたいです。 「おまえ! この流れで! なにも! 起きないとか! 二人で普通にのんびりしてるだけじゃん! なんか起こせよ!」 「起きないし、起こさないんだよ! いいから黙って風呂に浸かってろ!」 こんな低俗な争いもチキンレース中の彼らならではっていうか。 「俺はただ、ゆっくり風呂に浸かりたかっただけなんだ……」 この被腹パンの雄である快が、彼らの悲哀の裏でラッキースケベしたことはここだけの秘密である。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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