●剣林の塔 「お願いします! 『剣林の塔』の使用を許可して下さい!」 「なに、『剣林の塔』だと!?」 「お願いします!!!」 「むむむ……よかろう。そこまで言うのなら、存分にやってみろ」 「ありがとうございます! 待ってろよ、アークのリベリスタ? 今度こそ、ギッタギッタにしてやっからよぉ!!」 ●説明しよう! 「『剣林の塔』とは、剣林の一部のバ…………戦いに強いこだわりを持った者たちが使用したりするアーティファクト」 「知ってるのか!? イヴ電?」 「聞いたことがある……というか、調べた。あとイヴ電は却下」 『リンク・カレイド』真白・イヴ(nBNE000001)は何か、こう……何とも言えない表情で口にした。 事の起こりは、剣林のフィクサードから届いた果たし状だった。 アークのリベリスタへ決闘を申し込むという内容に加え、戦いの場所として剣林のアーティファクトを使用するとの一文が記されていたのである。 「使うことで、周囲には絶対に被害は出なくなる」 剣林の塔というのは、単純に説明すれば決闘用のアーティファクトなのだそうだ。 決闘を挑んだ者と説明を受け了承した者を、決戦のバトルフィールドへと送り届け、戦いに決着がついた時点で元の場所に送り戻す……というのがその効果らしい。 「塔は全て石造りっぽい外見だけど、みなが全力で暴れても壊れないくらい頑丈に出来ている」 一つの階は外壁以外には壁も柱もない闘技場一部屋のみという造りになっており、隅に昇り降りの為の階段が付いているのだそうだ。 「使い方によっては色々変化もするみたいだけど、それを相手に説明して納得してもらわない限り、相手を呼ぶことはできない」 そうである以上、今回の戦場は障害物などの一切ない部屋という認識で間違いないだろう。 「果たし状には6人の名前が書かれてた」 こちらからも6人出て、一対一で6戦というのが相手の希望なのだそうだ。 「……この中から6人の希望者を募って、向かってもらいたい」 イヴはそう言ってから、名前が記されていたという6人のフィクサードについて説明し始めた。 代表者の名前は、佐和高羅。 「以前にも挑戦状を送ってきたことがある。若手だけど、かなりの実力者」 自信過剰な感じはあるものの、実際にかなりの実力を持ったソードミラージュなのだそうだ。 「機敏で、その速さを攻撃力に活かす本当にスタンダードな、だからこそ強い短期決戦型」 身体能力に優れ、強力なスキルも使いこなす。 「ただ、最初から消耗を厭わず全力で攻撃を仕掛けてくるから、それを耐え切れれば十分に勝ちは狙えると思う」 強力なスキルを多用する分、消耗も大きい。 それを本人は充分自覚しているようだ。 「アークと戦うなら麻痺無効くらい持ってないと話にならないだろって話とかもしてるみたいだし、決して頭は悪くないと思う」 それでも、その戦い方を変えないようだ。 「戦い方は生き方、ってタイプ。それを利用されても本望だと思う」 そう言ってからイヴは、彼を含め数人が麻痺無効の能力を用意していると付け加えた。 もしかしたらアークと戦う時は必須とかフィクサード界隈で話されたりしてるのかもしれない。 「2人目は、三沢一樹。この人は麻痺無効に加えて、呪い無効の能力も用意してる」 同じくソードミラージュだが、こちらは逆に堅実な戦い方を好むようだ。 「回避能力を重視しつつ、消耗の少なめなスキルを使用して着実にダメージを与えくる。そんなタイプ」 実力や経験的には佐和に少し劣るものの、大きな隙は無く、何より回避能力が高い。 ただ、攻撃力という点では佐和ほど脅威ではないとも言える。 佐和のフォロー役やサポートに回る事が多く、以前佐和がアークに喧嘩をふっかけた時も、やれやれという感じながらもどこか楽しそうに協力していたそうだ。 好んで剣林に所属しているようだし、落ち着いているように見えても戦う事は好きなのだろう。 「3人目はデュランダルの女の子。本名はあるんだけど皆からミーシャと呼ばれて半分諦めてる」 クマのビーストハーフで、デュランダルらしい攻撃力を持っている。 「今回は一対一だから使ってこないと思うけど、普段は戦鬼烈風陣を好んで使うみたいだから神秘方面もそれなりに鍛えてると思う」 あくまで攻撃力は重視しつつも、比較的バランスより……みたいな感じらしい。 「この子も前に佐和や三沢と一緒にアークに挑戦してきた子で、続く4人目と5人目も同じ」 4人目と5人目に纏められた2人は、クリミナルスタアの2人組となる。 「それぞれ、銃撃と格闘に分かれている」 一方はひたすら、真っ直ぐ行ってぶっとばす。 一方はひたすら、頭を狙ってぶっぱなす。 「互いにライバル心剥き出しだけど、認め合ってるみたい」 前回のリベリスタ達との戦いでは2人とも敗北し、互いに罵り合ったりしながら、かなりの猛特訓を行ったらしい。 「それは前述した3人も、6人目も同じ……以前よりも実力は上がってると思う」 剣林のフィクサードの特訓……激しそうな事は、容易に想像できる。 「けど、みんなだっていくつも死線を潜ってきた。決して負けてないと思う」 そう言って皆を見回してから説明を中断したことを短くあやまって、イヴは6人目は……と、口にした。 「佐和たちとは別だけど、アークとの交戦記録がある」 名前は最強(もり・つよし) 覇界闘士。 偏った所のない、かなりの実力者。 「以前戦った時は、様々な事情により彼は全裸だったのだけど、今回は普通に服を着ている」 本人曰く、修練によって全身で物を見て音を聞ける……触覚と同じ範囲で視覚や聴覚を扱える、のだそうだ。 だが、その為には何も着ていない状態にならなければならない……らしい。 「服を着るのは、目隠しや耳栓をされるのと同じ、というのが本人の弁」 それで佐和と大喧嘩になって(もちろん他の者も否定側)、脱ぐなら絶対連れて行かないとなって、渋々ながらも服を着ることを了承したのだそうだ。 「それで格闘方面では命中や回避の能力がやや下がってるみたいだけど、それでも他の5人に劣らないくらいの実力は持っている」 服というか一応防具を身に着けたので、防御力もバカにはできないだろう。 「……大まかにはこんな感じ」 佐和と三沢以外にも麻痺無効を用意してるのがいるっぽいから、注意して。 そう言ってフィクサード達の話を締めくくると、イヴは待ち合わせの場所などについて説明した。 戦いまでの流れに関しては、特に問題ない。 「待ち合わせ場所に行って決闘に応じれば、アーティファクトが作動して塔の入り口っぽい場所に飛ばされる」 後は6人で塔に入るだけだ。 「各階に1人ずつミステリアスパートナー……じゃなくてフィクサードが待ち構えている、という流れ」 塔の内部では特殊な力が働くらしく、一対一を妨げるような行為を行おうとすると、それを妨害しようとする力が働き、実行しようとした者を苦しめるような不利な効果が現れるのだそうだ。 「向こうは全員で掛かってきても構わん的な事を言ってくると思うけど、ノリだと思って自分一人で充分的に言って、他の人は次の階に行っちゃって」 後は、それぞれが全力で戦うだけだ。 今回は幸い、一般人が巻き込まれる等という事はあり得ない。 「いつもするような心配はしないで、思いっきりやってきちゃって」 そう言ってイヴは少しだけ表情を緩めた。 「できたら、ぎゃふんと言わせてきて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:メロス | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月17日(金)22:48 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●決戦場へ 「自分の戦い方、生き方か……」 呟いてから少しだけ、瞑想でもするかのように目蓋を閉じて。 「自身を見つめ直すには良い機会ですね」 『幸せの青い鳥』天風・亘(BNE001105)は瞳をひらき、口にした。 「周囲に被害が出ないというのは余計な心配をする必要が無くて良いな」 「誰にも迷惑をかけずにタイマン勝負を挑めるってのはいいねぇ」 『Brave Hero』祭雅・疾風(BNE001656)の言葉に同意するように、鷲峰 クロト(BNE004319)は頷いて見せる。 (全てのフィクサードがこいつ等みたくストレートに来てくれると嬉しいんだけどな) 「兎も角、お望み通り相手になってやるぜっ」 クロトの言葉に、今度は疾風が頷いた。 勝敗で周囲への被害が出ないとはいえ、負ける気もない。 (此方も意地はある、退けさせて貰うぞ) 決闘で必ず、フィクサードたちを撃破してみせる。 「失敗した仕事っちゅんは嫌でも覚えてるねぇ」 以前の任務を思い出しながら、『√3』一条・玄弥(BNE003422)は何かを噛み潰したような表情を浮かべた。 (変態に相手にしくじったとか……) アザーバイドとフィクサードとの、三つ巴の戦い。 (あっしが気持ちよぉ寝るためにも最との再戦は) 「きっちりと殺らせてもらやす、なぁ、おぃ」 言い聞かせるように玄弥は呟く。 噴き出そうとする憎悪を抑え込むようにして、『Spritzenpferd』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)も歩を進めた。 「待ってたぜ、リベリスタ共……って、お前!!」 「黒星集めに熱心で感心するわ」 6人の姿を認めた剣林フィクサード、佐和が、見覚えのある姿に瞳を燃やす。 「こないだ剣林百虎とやってきたが、部下がコレじゃ……言葉に詰まるわ」 「んだとっ!?」 『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)の言葉に青年は言葉を荒げ、それを抑えるように一人が肩を叩いた。 「……まあ、いいさ! とにかく受けるって事でイイんだな!?」 改めての挑戦に、幾人かが肯定を返す。 「テメェの身の程知って引退でもしろ。フィクサードもどきが」 佐和を挑発するように言い捨ててから、火車は聞こえぬように呟いた。 「……生き方だけは肯定してやっけどな」 ●1階、クロト 「そんじゃお前が俺の相手な、よろしくなっ」 「なんだよ、一人で勝つつもりか?」 クロトの言葉に銃を持ったクリミナルスタアの青年が鼻を鳴らした。 「こっちこそ一人で全員相手にしてもいいんだぞ?」 「何だとっ!?」 疾風が挑発を返すように言い放てば、青年は鋭い視線をそちらに向ける。 仲間たちを制するように手を挙げて、クロトは改めて名乗りを挙げた。 疾風が武運を祈り、他の者たちも先の階へと昇っていく。 それを視界の片隅に収めながら、クロトは構えを取った。 「変な小細工を仕掛けてきても構わないぜ、その上でキッチリとぶちのめしてやるよ」 そう言ってから、付け加えた。 「尤も、剣林ってとこは実力主義って聞いてるからそんなつまんねー事はしねーと思いたいけどな」 「当たり前だ! そもそもそんなの必要あるかっ!!」 言いながら龍雄は、やや前屈みの姿勢を取る。 機先を制したのはクロトだった。 青年は一気にフィクサードへと距離を詰める。 銃使いである以上、普通なら距離を取ろうとする筈。そう考えての事だった。 「ほんとはお前の戦法に合わせて飛び道具で挑むのがいいんだろうが、俺も一応この得物で戦う事に拘りがあるからな」 距離を詰めながらそう呼びかけ、クロトは自身のギアを切り替えた。 「これで負けても文句は言わねーが、お前も負けたら言い訳できねーからなっ」 「はっ! 誰が言うか!!」 吐き捨てるように叫び、龍雄が彼の頭に狙いをつける。 機敏な動きでクロトは直撃を避けると、魔力の籠められたナイフを振るって反撃に転じた。 氷と雷の力を宿した二刃が、フィクサードへと襲い掛かる。 同じように直撃を回避した龍雄が再び突きつけるように銃を構え、トリガーを引く。 残像を生み出すほどの速度で、クロトがそれを避ける。 攻撃の応酬の後、形勢が動いたのはクロトの斬撃で動きを鈍らせた龍雄が、体勢を立て直すのに遅れた瞬間だった。 幻惑の武技によって生み出された実体を持つ幻影が、龍雄の隙を突くようにして斬撃を放つ。 青年は何とか耐え抜いたものの、そこから状況を覆す事はできなかった。 再開された斬撃と銃撃の応酬は数十秒で決着する。 直撃を堪えた龍雄は限界を迎え、闘技場の床に膝をついた。 ●2階、カルラ 待ち受けるフィクサードに対峙するように、カルラは一歩を踏み出した。 彼が前に出たのを確認し、クリミナルスタアの青年、虎蔵が凄みのある笑みを浮かべてみせる。 「早く来いよ? 何なら全員で来てくれても良いぜ!!」 その言葉を嘲るように火車が鼻で笑い、続けるようにカルラが口を開いた。 「塔の仕掛けは割れてんだよ……知っててそんな誘いとか、姑息だな」 「何だとっ!?」 感情を高ぶらせた虎蔵に向かって、彼は鋭い視線を向けたまま言い放った。 「余裕があるってんなら、俺一人くらい片手だけで倒してみせろ」 できねーなら、どれだけ強かろうがテメェは口だけのカスだ。 真正面から虎蔵を見据え、カルラはそう断言する。 両者は別の何かをぶつけ合うかのように、動き始めた。 カルラは瞬時に身体を加速させ間合いへと踏み込むと、魔力手甲で覆われた腕を高速で振るう。 障害物がなく立体的な機動戦闘ができないこの場所で、カルラはボクシングスタイルでフットワークを活かすという戦い方を試みた。 急加速する攻撃を行いながらタイミングを見て連続攻撃を叩きこむ。 対する虎蔵は唯ひたすら、真っ直ぐの一撃を繰り返した。 その一撃は強力で、攻撃を命中させ避ける技術はカルラに勝っている。 カルラはその差を戦い方によって補っていた。 大振りで腕が伸び切った瞬間を計るようにして肘を狙い、間合いが詰まった瞬間に目や肝臓を狙う幻惑する動きで守りの甘い箇所に攻撃を叩きこむ。 拳に相手が慣れてきたら、蹴りも混ぜる。 足を止めての戦いを、彼は徹底的に避けていた。 攻撃をせず移動のみに徹することさえ厭わずに、彼は慎重に戦い続ける。 もっとも、言葉の方は挑発的だった。 「何だ? 強くなるってなパンチングマシーンのスコアの話か?」 そんな彼の言葉に、相手の青年は怒気も露わに拳を振るう。 身体がくの字に曲がるほどの強烈な打撃を運命の加護で凌ぎ、カルラは戦い続けた。 (真っ直ぐ殴る事に矜持があるなら貫けばいい) 否定はしないが、付き合う義理はない。 (俺の矜持は、フィクサードを狩り尽すのに全てをかける事だ) 互いにやりたい事をやる。それだけだ。 殺せるなら迷わず止めを刺す。 そんな気持ちでカルラは拳を揮っていた。 (生かせばまた特訓とか言って周りに被害を出しても気にしない連中だからな) 何度も付き合うほど、人生に退屈はしていない。 もっともその想いを戦い方そのものには介入させない。 連続攻撃で相手が動きを止めた時が、勝機だった。 速度を一撃一撃の重さに変えるような連続攻撃が青年を打ち据える。 直撃では無かった。 だが、それは今迄の攻撃で徐々にダメージを蓄積させていた虎蔵の動きを止めるには十分な威力を持っていた。 ●3階、亘 「私がお相手を務めさせて頂きます」 性分というべきだろう。 自己紹介ののちに一礼すると、亘は少女の名をたずねた。 「……美石弥生よ」 「弥生さんですか、良いお名前ですね」 青年は微笑み、流れるような動きで構えを取る。 「レディーのエスコートは紳士の嗜みです。宜しくお願いします」 そこから風のように、いや雷の如き速度で亘は駆け、輝く銀の刃を振るって連続の斬撃を繰り出した。 速度は無くとも確実な動きで、少女は直撃を回避する。 (成程、さて……) 「佐和さんの力と速度を知る貴方から見たら力不足かもしれませんが自分は如何でしょうか?」 「そんな事は無いと思うけど。特に速さは」 言いながら彼女は全身に闘気を巡らせた。 亘も全身に雷を纏い、自身の反応速度を究極の領域へと至らせる。 彼の動きを確認するかのように、オーラを纏った巨大な剣が青年へと襲い掛かった。 機敏な動きで直撃を回避した亘は流れるような動きで踏み出し、光の飛沫を散らしながら連続の刺突を放つ。 一呼吸も空けず翼を羽ばたかせ、回り込むように位置を取る。 少女は一瞬、戦いを忘れたかのような表情でふらついたものの、我に返り慌てた様子で両手剣を構えた。 亘はそのまま消耗を恐れず、攻撃にフェイントや緩急をつけ、相手に短時間で多くのダメージを与える事を優先し攻撃を仕掛けてゆく。 それに対し、ミーシャこと弥生は闘気を雷へと変換し刃に注ぎ込んだ。 精度も威力も充分な一撃が亘の身を傷付け、雷が青年を打ち据える。 (ふふ、この感覚は嫌いじゃないんですよね) 「こういう状況を乗り越えてこそ先に歩めるのですから」 勝つ為に冷静さを保ち作戦も練る。 (でも「本当の自分」はここからだ) 相手の動きに意識を集中しながら、亘は少女の攻撃を見極めようとした。 攻撃を受けながら必殺の一撃を狙うより、精度の高い攻撃を連続で狙う。 それが今の彼女の戦い方のようだ。 「少々手荒になってしまいますがご容赦を」 雷を纏った斬撃を狙って、亘は狙いすました一撃を放った。 銀の刃を伸ばし、目前の彼女へ愚直に突き進む。 倒せなくとも後は本能の赴くままに。 己の全てを放ち賭け戦え。 諦めない勝利への執念。 そして…… ――ただ、誰よりも速く 「この矜持こそが自分が誇る最高の武器ですから!」 それを最後に、戦場に静けさが訪れた。 ●4階、疾風 「ここは任せて先に行け!」 仲間にそう呼びかけながら、疾風は三沢と対峙した。 「君の相手は私が相手だ。行くぞ! 変身ッ!」 声と同時にアクセスファンタズムが起動し、戦うための闘衣が青年の身を包み込む。 (堅実な持久戦勝負なら早々遅れを取るつもりはない) そのまま疾風は全身の気を高め制御することで自身の力を更に高めた。 優先すべきは無理をしない事である。 牽制するように繰り出された刺突を耐えると、疾風は雷を纏わせた拳と脚から高速で連続打撃を繰り出した。 三沢は機敏な動きで直撃を回避すると、自身のギアを切り替える。 避けられたのは運と感じたのか、それとも直撃を避けてもダメージは大きいと感じたのか? 僅かに後退した三沢に向かって一気に踏み込み距離を詰めた疾風は、避けようとする相手の身体を掴み石畳に叩き付けた。 掴まれはしたものの三沢は身を捻るようにして受け身を取り、その衝撃を殺しダメージを減少させる。 そのまま転がるようにして低い姿勢のまま体勢を立て直した三沢が、幻惑するような動きから、疾風の隙を突くように斬撃を繰り出した。 その攻撃に耐えながら、疾風は相手の強力な技に警戒しつつ攻撃を仕掛けてゆく。 完全に避けられるほどではないが、三沢は無駄な動きはせずに疾風の攻撃をできるだけ直撃させぬようにと立ち回っていた。 その動きに意識を集中させ、疾風は攻撃の精度を上げる。 もっとも、ダメージが蓄積したと判断した場合、彼は攻撃ではなく回復を優先した。 特殊な呼吸法で力を取り込み、蓄積された負傷を軽減する。 そして戦いながら気を練りあげ、消耗した力そのものも回復させてゆく。 フィクサードの攻撃は、それを打ち崩すことができなかった。 強力な攻撃を連続して繰り出せば可能だったかもしれないが、そういった技を習得していないか、あるいは意を決して勝負をかけるという部分が、三沢という青年には欠けていたのかも知れない。 互角のようだった戦いは次第に疾風優勢となり、そのままゆっくりと確実に天秤は傾き……ついに決着を迎える事となる。 「完敗だよ」 少し悔しそうにしつつも苦笑いして、三沢は疾風にそう言った。 ●5階、玄弥 「久しぶりやのぉっとも覚えてるかしらんがなぁ」 距離を測るように歩きながら、玄弥は最に話しかけた。 「あの時だろ? 覚えてるさ」 応えながら最も、探るように歩を進める。 「ほな、ぼちぼちいきまひょか」 幾つか言葉を交わしながら玄弥は漆黒を解放し、最は気を練り上げながら構えを取った。 欲望の化身たる鉤爪と拳が互いに相手に向けられ、戦いが開始される。 金色夜叉を赤く染め、玄弥は最へと肉薄した。 呼吸を合わせるように鉤爪を振るって攻撃し、あるいは攻撃を鉤爪で弾く。 そして合間を縫うようにして集束させた暗黒のオーラを放つ。 それに対し最は拳に炎を纏わせ打撃を繰り出し、鋭い蹴りによるカマイタチで対抗してきた。 流れるような機敏な動きに対して、玄弥は虚実を入り混ぜたゆらゆらと的を絞らせぬ不規則な動きで向かい合う。 「ハンデー付けたままなんとかなると思ってるなら、そのまま殺ってまうだけやけどなぁ、おぃ」 「服を着た者には可能性があるのさ! ……みたいな事を、前に坊さんぽいリベリスタが言ってた」 様子を覗うように挑発する玄弥に、最はそう答えフフフと笑った。 脱がれた場合は厄介と考えた玄弥は、さまざまな対策を練り、何より覚悟を決めていた。 殺るか殺られるかすら楽しもうという気持ちを彼は抱いていたのである。 どうやら最は、この戦い中は脱ごうという気は無さそうだった。 とはいえそれでも油断できないだけの実力がある事を、数度の攻防で玄弥は感じ取ってもいた。 無論、それらを表に出しはしない。 「最初から本気で殺る気なんでなぁ」 変わらず相手の動きを観察しながら、玄弥は戦い続けた。 最は特に変わった技は使わず、覇界闘士としての力を使い攻撃してくる。 「決着付くまで殺るしかないやろなぁ、おぃ!」 炎の拳が玄弥を打ちすえ、炎が彼の身を焼き傷付ける。 赤く染まった鉤爪が最を切り裂き、奪った力で玄弥の傷を僅かに癒す。 限界を超えた身を運命の加護で支え、男は戦い続けた。 勝ても負けても、とことん殺し合う。 「逝く所までいったろ!」 集束された闇に貫かれ、最がついに膝を折る。 直後、流れ出る血と身を包む炎によって玄弥も限界を迎え、石畳の床に崩れ落ちた。 ●6階、火車 「よぉ敗者。勝者が再戦受けに来てやったぞ? そんだけの実力あんだろうなぁ?」 油断など欠片も無くとも、全力で馬鹿にする! それが火車の挨拶だった。 そして挨拶が終わった以上、やるべき事は……唯、ひとつ。 足に気を集中させ、火車は一気に距離を詰めた。 逃げも隠れもしない。 「御託は良いからサッサと来ぉ、相変わらず喧しいワンちゃんだなおい」 「そっちこそ吠え面かくんじゃねえぞ!」 「何か必殺ぶら下げて来たか? それとも前と同じと思うなよ? ってかぁ!?」 その言葉には応えず雷の光を全身に纏うと、佐和は圧倒的な速度で刃を振るった。 光の飛沫が舞う超高速の刺突が、次々と火車に襲い掛かる。 止まらぬ攻撃に翻弄され判断力を鈍らせかけながらも、正気に戻ればすぐに火車は拳に炎を纏わせ殴りつけた。 (孜々汲々コレだけ研いでんだ!) 「前と同じだぁ! オレの生き様ぁ! 不変不滅よぉ!」 「人に言っておいてテメェはそれかよ!」 拳をかわし、或いは直撃を避けながら佐和が更に攻撃を仕掛ける。 猛攻を受け限界に近付きながらも……火車は自身の底から燃え上がる何かを実感していた。 「得意技……ってのはどしたぁ? 剣林のおっさんも報われねぇや。こんなんが後控えじゃあ……無理もねぇわ」 「そういう事は全部耐え切ってから言えっての!!」 「察し良くなったじゃねぇか! んじゃ……解ってんだろうな!」 「これで最後だ!!」 先刻までとは比べ物にならぬ動きで直撃を回避する火車に向かって、佐和が芸術的と思えるほどの連続刺突を放つ。 直撃でなくとも相手を限界へと追い込むその攻撃を……男は無理矢理に運命を手繰り寄せ耐え抜いた。 (今回来なかった野郎の分も負ける訳にはいかねぇ) 「だからテメェはアホなんだよぉ! こちとら伊達や酔狂で業炎撃揮ってんだ!」 倒れかけた姿勢から強引に振りかぶり、拳に炎を灯す。 「……今回もオレの番って事で良いよなぁあ!」 拳が佐和を直撃し、炎が男の身を焦がす。 炎の拳に対し鋭い斬撃が繰り出され、高速で両者はぶつかり合って…… 「サークル活動なら学校でも行け! スポーツやってんじゃねぇんだよ!」 火車の拳が、佐和の鳩尾に叩き込まれた。 ●決着の後 「序盤で開いた差が大き過ぎたなぁ……」 疲れ切った様子で弥生が呟いた。 「お疲れさまでした」 そんな彼女に亘は微笑んで礼の言葉を贈る。 カルラは何も言わずそのまま帰路に就いた。 こみ上げてくる何かを抑え切れなくなる前に……そう考えての事である。 去った彼を含めれば、全員がその場に帰還していた。 「俺の勝ちだな、当然だけどリベンジは何時でも受けるぜ」 「……次は負けねえ」 クロトの言葉に龍雄が、倒れたまま荒い息遣いで答える。 青年はそれに頷きながら、戦いの終わりを実感し……何となく満足したような、不思議な気分をかみ締めた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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