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アマツキツネ


 ――それは瞬く星の煌きにも似て。
 それは、幾度も所有者を変えて明滅を繰り返していた。
 ある時は力強い白色の光に輝き、またある時は遥か遠くにある星の光のように弱々しく。
 地底の奥底で眠り続けたそれは、あるいはある種、星の体現者なのかもしれない。
 星の記憶そのものなのかもしれない。
 故に、それは夢を見る。
 通り過ぎる一瞬――過去を、未来を、現在を。自身の記憶を夢見て旅をする。
 その夢路は迂遠でいて、殆どにおいて意味のない壮大な夢物語。だのに、それは時に所有者に、――所有者の「世界」に影響を及ぼす。
 それにとって一瞬に等しい時間。人にとっては一生に等しい時間。それは所有者の世界とリンクする。その過去を、未来を、現在を夢の中で旅をする。
『――そういえば、ここはどこなんだろう……?』
 少女はここに来る度、いつもそう思考する。
 見渡せば何処までも広がる水平線。そこは果たしてそれが見せる夢か、それとも少女の夢か。
 夢の中の少女の境界は曖昧で、不確か。薄氷の上を歩くように、一歩踏み出せば溺れてしまいそうな恐怖感と、絶対に割れることはないという妙な確信や安心感とが少女の胸中に混在する。
 相反する感情を飲み込んで、少女はある場所を目指す。
 いつもぼんやりと眺めるだけだったあの光はずっと同じ場所にある。
 ならばあと一歩、近づけばもっと見えるだろうか。
 光の中から僅かに見えるモノが、少女の手を伸ばさせる。
『あともうちょっと。私はどうしてもその先が知りたいの……!』
 ――少女の願いは流れ星にも似て。
 その星に引かれるように、少女は流れ堕ちていく。
 少女の願いが叶うまで――その分水嶺まで、あともう少し。


「……この類のアーティファクトは、その性質の善悪というよりも、悪用されやすいというのが誤解されやすい点ですよね」
 はぁ、と僅かに憂いのため息をつきながら『あさきゆめみし』日向・咲桜(nBNE000236)がイスを回して立ち上がる。
「皆さん、ご足労ありがとうございます。えっと、今回は……なんといいますか、出会いと別れの春という季節に相応しい……気がしなくもない恋する乙女の暴走、といいますか」
 そんな歯に物が詰まった言い方に、集まったリベリスタ達の顔にも何となく微妙な表情が浮かぶのを見て、咲桜が苦笑する。が、
「――それだけだったらまだよかったんですが。今回はそんな乙女心を利用した、悪質なフィクサード事件です」
 その言葉で場の空気がにわかに引き締まったのを確認して、咲桜が続ける。
「始まりは……そうですね。一人の少女がとある少年に一目惚れしたこと、でしょうか……」
 きっかけは他愛もないこと。
 去年の今頃。偶然隣り合った席の少年に『これから、よろしくな!』なんて、そんな笑顔を見せられて。
 高鳴った胸の鼓動を少しずつ育んで、転機が訪れたのは今年に入った頃。
 少しだけ焦り始めた冬休みもそろそろ終わろうかという時。砂利道に転がっていた綺麗な宝石の様な石ころを、ついかっとなって蹴飛ばして。
「――その時、少女の脳裏に不意に浮かんだ光景は……ほんの少しだけ未来の出来事でした」
 その一瞬の光景がなんだったのか。それを確かめるために、少女は泥だらけになりながらも蹴飛ばした石ころを探して。
「そんな少女を、偶然通りかかった少年が転んだか何かと勘違いして手を差し出してくれて……それが、少女が少年と初めて手を繋いだ記念すべき日。――石が見せてくれたちょっとだけ先の未来」
 以来、少女はその石を御守りのように大事に懐にしまい、夜にはその石を抱きしめながらベッドに入り、明日はいいことがありますようにと祈りながら眠るようになる。
「お察しの通り、その石がアーティファクトです。その石の主な能力は未来視。その精度とどの程度先まで見通せるかは、所有者との相性によって大きく変動するようです」
 未来とは常に移り変わるもの。相性が良すぎれば膨大な情報量……可能性としての未来を何通りも何十通りも視せられて発狂してしまうし、低すぎるものが多くを望めばノーフェイスと化してしまう危険性を孕む。その石は、そんなニッチな性能を持っているという。
「それで、ここからが本題なわけですが……昨年度は少年とずっと隣の席だった少女ですが、今年になって別々のクラスになってしまいました。このままだと遠からず疎遠になってしまうと再び焦り始めた少女はついに告白を決意して……石が見せる未来視でつい多くを望みすぎてしまいます」
 今まであまり石との相性の良くなかった少女には、石はそれほど多くの未来を視せてはくれなかった。フラッシュバックのような僅かな映像。前後の出来事も曖昧な、けれども確かな少年との繋がり。
 今までの少女ならそれだけでも十分だった。頑張って前に進むことが出来た。
 だけど……今回ばかりは少女もきちんとした結果が欲しかった。
「気持ちは、同じ乙女としてわからないでもないですけど……未来視で「それ」を知ってしまえば、少女は確実にノーフェイス化してしまいます」
 石に未来を求めすぎる行為に代償が必要だと知る由もない少女に、それを求めるなと言うほうが酷……というものなのだろうけど。
「で、ここに件のフィクサードが現れるわけです。数は四人。その目的は、おそらくノーフェイス化した少女の拉致。どうやら彼らは今までにもその石を使ってノーフェイス……または発狂した人間を拉致しては何かをしているみたいですが、現在の所詳細は不明です」
 わかっていることは現在、その四人組は少女のノーフェイス化を待ち、家の四方を囲み潜伏しているということ。
 どうやらノーフェイスとして革醒するまでは迂闊な干渉を避けているようだ。
「彼らは気配に敏感らしく、その距離からでも革醒したかどうかを感知します。なので彼らがそこに待機している以上、少女はまだ革醒に至っていないという証拠になります。今から急いで向かえば彼らが行動を開始する前に少女の家へと辿り着くことが出来るでしょう」
 だから、
「――彼女がノーフェイスと化してしまう前に彼らを撃退し、石を回収してきてください」
 少女がノーフェイスとなってしまうまで、リベリスタらが到着する時点で残り数分といったところ。
 ただ、前述した通り二人組は気配に敏感なため、リベリスタが接近すれば容易にその存在に気がつくだろう。
 そして彼らは少女が革醒するまでの僅かな時間を稼ぎ、少女を略奪する。
「そのための手段として、彼らの内の一人が竹筒のようなものを携帯しています。彼が竹筒を叩けばそこからは竹筒に入っていたとは思えない巨躯が三体ほど出現します」
 少女を助けるためにはその三体を破壊し、その後ろにいる彼らを退けなければならない。
「退ける?」
 リベリスタが問う。
「はい。退ける、です。相手は四人足らずですが、呼び出すそれはおそらくノーフェイスだったものの成れの果て……。元の脳を摘出し、そこに何らかの加工を施して操っているものと推測できます。現状では単純な命令しかこなせないようですが、体は強靭なノーフェイスのものです。……今回は、少女の革醒まで時間があまりありません。四人全員の撃破、ないし拘束を行っていればまず確実に少女はノーフェイスとなってしまうでしょう。その場合、少女は石の能力……未来視を踏襲した力を持つノーフェイスとなります」
 つまりいくら成りたてとはいえ連戦するには厳しい相手だ、と。
「幸い、彼らはそこまで少女にも石にも拘ってはいません」
 これが失敗したならば次を試せばいいだろう。そんな態度がフィクサード達からは透けて見えるらしい。
「ある程度追い詰めてやれば、自然と撤退という選択肢を取らせることも可能かと」
 そう言って咲桜は一旦言葉を切って、一瞬だけ口を噤む。
 そして言うべきか言わざるべきか一瞬だけ迷い、
「……実際問題、」
 言った。
「今回果たさなければいけない任務は石を無事に確保すること、それだけです。ですが、救える可能性をおめおめと捨てることはしたくありません。――それは皆さんも同じであると、信じています」
 かつて。そうやって自らも救われた身の者として、リベリスタ達にお願いする。
「どうか、この少女の明日を守ってあげてください」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:葉月 司  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年05月26日(日)22:36
 お久し振りです、葉月司です。
 今回は少女のノーフェイス化を阻止し、石を回収してくるだけの簡単なお仕事です。
 その為の障害となるのはフィクサードが四人、それと巨躯のノーフェイスモドキが三体。
 フィクサードはそれぞれダークナイト、ナイトクリーク、インヤンマスター、ホーリーメイガス相当の使い手。
 モドキは物理近接による単体・複数攻撃と、氷結を伴う神秘遠距離攻撃。そして自己再生機能を持ちかなりしぶといです。

 フィクサード達は現在、少女の家の前の道路を第一戦場と想定して待ち構えています。道路は三人ほどが並んで戦闘を行うのがぎりぎり程度の幅で、モドキ三体が前列に、ダークナイト、ナイトクリークが中列、インヤンマスター、ホーリーメイガスが後列で構えています。
 少女の家は1.5メートルほどの垣根で覆われた一軒家です。家の裏手側から回り込み侵入すればフィクサード達もそれを察知して敷地内での乱戦となります。
 乱戦となった場合、敷地内に被害が出るものの戦列無視で攻撃可能で、うまくいけば戦闘中でも少女の部屋まで到達することが可能です。もちろん、その場合もそれ相応にリスクはありますが。

 少女の部屋は二階にあり、窓は網戸の状態で開けられた状態でカーテンがそよそよと揺れています。
 両親は一階の寝室で眠っており、よほど大きな音を立てなければ目覚めないでしょう。
 時刻は急いで現場へ向かえば、そろそろ日付を跨ごうかという頃に着きます。
 そこから少女のノーフェイス化までは10T~20Tほどの余裕があり、ノーフェイス化までのターン数は「外的神秘要因」に影響されて増減していきます。

 少女は石を胸元で抱きしめるように両手で握って眠っています。そっと引き剥がせば起こすことなく石を取り出すことができるでしょう。

 それでは、よろしくお願いします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
スターサジタリー
不動峰 杏樹(BNE000062)
ソードミラージュ
司馬 鷲祐(BNE000288)
マグメイガス
綿雪・スピカ(BNE001104)
クロスイージス
ツァイン・ウォーレス(BNE001520)
ナイトクリーク
宮部・香夏子(BNE003035)
ホーリーメイガス
宇賀神・遥紀(BNE003750)
マグメイガス
霧島 深紅(BNE004297)
スターサジタリー
衣通姫・霧音(BNE004298)


 ある日、不思議な石を拾った少女。その石は少しだけ未来のことを見せてくれて、少女の背中を確かに押してくれた。
 そんな――夢を、希望を見てしまったものは、それを容易く手放せるものではない。
 少女と自身を重ね合わせてみて、『禍を斬る緋き剣』衣通姫・霧音(BNE004298)は思案する。
 ……気持ちはわからないでもない、けどね。
 無意識の内にそれに頼ってしまうのも無理からぬこと。それを認めながら、しかしそれが自身と世界を侵すものならそのままにはしておけないと、そう思う。
「彼女が何か悪いことをしたわけじゃない。ただ少し廻りが悪かっただけ、だもんな」
 ツァイン・ウォーレス(BNE001520)が呟き、前を見据える。
 少女が眠る家はもう眼前にある。そして、その前には既に四人のフィクサードがこちらを待ち構えていた。
「……嗚呼、嗚呼。これはこれは随分と団体様のご到着だ」
 もぞもぞと蠢くローブの奥からくぐもった男の声が聞こえる。
「このような時間帯に、如何様なご用件かな?」
 ねっとりとした粘着質な声とは裏腹に、気安い口調。そんなミスマッチな男に不快感も露わに、
「時間稼ぎはいらないよ。俺らが来た理由はわかってるんだろう?」
『祈花の導鴉』宇賀神・遙紀(BNE003750)が言い放つ。
「おや、これは心外な。生憎私達ゃ気配には聡くても未来を知るものではありませんでね。いくつか予想はつきますが、愚昧な私達に正解を恵んじゃくれませんかね」
 くつくつと、こみ上げるものを噛み殺すように笑う男。動作一つとっても纏わりつくような不快感を催させる男に、ならばと『神速』司馬・鷲祐(BNE000288)が名乗り上げる。
「我が名は司馬鷲祐」
 たん、という軽やかな足踏みとは裏腹に、
「――アークの神速!」
 その姿は声を置き去りにして男へと攻め往く!
「っ!」
 瞬き一つにも満たない極小単位の時間に、男は辛うじて一歩分だけ反応し、鷲祐との間に一体だけノーフェイスを呼び出すことに成功する。
「やはり、アークなんですねぇ……」
 それが戦闘の合図。
 男は二歩、三歩とさらに後退して残り二体のノーフェイスを呼び出してわずかに苛立たせ気味な感情を声に乗せる。
「本当に、煩わしい方々です……!」
 その感情を声に、そして符に注ぎ生まれるのは水の気。放たれるそれは濁流を幻視させ、男の声のように体に纏わりつきリベリスタ達の動きを阻害する。
「そっちも最初からとってもやる気ねっ!」
 時間稼ぎや話し合い、そんな体を装っておきながら鷲祐の速度に反応し、なおかつ反撃してみせる男に、ならば遠慮無用と『運び屋わたこ』綿雪・スピカ(BNE001104)がチェインライトニングによる稲妻を走らせる。
 そしてその稲妻に追随するのは『黒魔女』霧島・深紅(BNE004297)の稲妻。
 二条の雷光は入り乱れ拡散し、フィクサード達と男の持っていた竹筒を襲う。
「……嗚呼、『これ』を狙ってきましたか」
 手元に走る雷光にリベリスタ達の意図を察したか、男はやれやれと大げさにローブの中の肩を竦めてみせる。
「どんなカラクリが背後にいるか知らないけど、AFは壊して損は無いはずだ」
「わかってませんね」
 深紅の声に被せるように、男がぴしゃりと言い放つ。
「『これ』を壊した場合の危険性について考慮しなかったのですか? 『これ』に入っているのがこの三体だけだと思っているのですか? もしも『これ』で操っているのならば暴走するという可能性を見据えているのですか? 嗚呼、嗚呼。何とも――愉快ですね」
 男は上機嫌そうに、リベリスタ達を不快にさせる言葉をピンポイントで選ぶように、神経を逆撫でする物言いをする。
 そしてフィクサード陣全体に癒しの歌をかけるホーリーメイガスの隣に陣取り、ゆっくりと竹筒をローブの中にしまい込む。
「……お前を狙ってやりたい気持ちは山々だが、今は先にその隣を狙わせてもおう」
 体に張り付く虚脱感を振り払うように腕を上げ、『アリアドネの銀弾』不動峰・杏樹(BNE000062)がその手の先に意識を集中させる。
 イメージするのは相手の精神体。見えざるそれを見通し、抉り掠めるようにイマジネーションを拡大させて、拳を握り込む。
「ぐっ……!」
 ホーリーメイガスの呻きと、手のひらから伝わる確かな手応えに、杏樹は一つ頷く。
 まだ慣れてない動作と、そこから得られる手応えとを脳裏で反復させながら、掠めたそれを魔銃バーニーへと装填していく。
 相手から奪ったそれはそのまま、彼女の魔銃の弾丸となって相手へと返っていくのだ。
「……さて、じゃあ香夏子はこっちの相手ですかね」
 鷲祐の前に立ちはだかるノーフェイスへ幾重もの気糸を絡ませて拘束を試みるのは『第35話:毎日カレー曜日』宮部・香夏子(BNE003035)だ。
 左右に展開するノーフェイスの巨躯と長い腕を生かした薙払いを鷲祐と共に受け止め、振り降ろされる腕を小さなサイドステップのみでかわしてのける。
 脇を掠める風圧とアスファルトを叩く音がその攻撃の威力を物語っている。
 だが今回、その攻撃力よりも問題視されるのは……
「……これで氷漬けにされたくないですね」
 とっても臭そうです、と付け加えながら目の前のノーフェイスが吐き出す氷の息を双鉄扇で防ぐ。完全には防ぎきれなかった分が腕に凍傷を与えるが、それに対して香夏子はわずかに顔をしかめる。
 ――そう、今回の作戦でもっとも厄介な攻撃は、こうした『時間を稼ぐ』行動なのだ。
 このノーフェイス達の氷結攻撃の他にも、ナイトクリークが生み出す偽りの赤い月やダークナイトの常闇が不確実ながらこちらの行動のミスを誘発させてくる。
 不幸中の幸いは、ツァインが付与する十字の加護を破れる手だてが向こうにはそれほどないことか。
「……時間を稼ぐだけの相手っていうのがこんなにも厄介だなんてね」
 向こうの直接戦闘力はそこまで高くない。が、とにかくその壁が分厚い。
 聖神の息吹を具現化させながら、遙紀は苦虫を噛み潰す。
 こちらの作戦はまず相手の回復手段を絶ち、それから道を塞ぐノーフェイスを減らして鷲祐を少女の部屋まで運ぶこと。
 そして作戦の一歩目となるホーリーメイガスを狙うのは杏樹を始め、スピカ、深紅、霧音などいずれも強力な遠距離攻撃を持ったリベリスタ達だ。
 だが、そのホーリーメイガスがなかなか倒れない。否、より正確に言えば――
「っ、また射線にダークナイトが割り込んでくる、か……!」
 とっさの判断で弾丸に魔力を込め業炎の魔弾を放つ杏樹。
 対象よりも高く撃ち放たれた業炎は宙で飛散し、射線上にいるダークナイトもろともフィクサード陣を襲う。
 ――そう。うまくホーリーメイガスを狙うことさえできれば数巡とせずに落とせるはずが、ダークナイトやインヤンマスターの男が作り出す影人が邪魔をして決定打を浴びせられないのだ。
 ダークナイトがメインとなりホーリーメイガスを庇い、インターバルを挟むように影人が入り込む。
 それでも影人がカバーに回る際は保っても二撃で霧散するし、着実にホーリーメイガス自身にもダメージは蓄積していっているが、さて……
「君達の目的は知らないが、方舟とやり合って天秤はとれるやらね」
 少し予定よりも早いが揺さぶりをかけてみる。
「嗚呼、天秤が釣り合わないというならば壊せば良いだけの話ですよ。それがフィクサードの道理というもの」
「随分と大きく出るのね。随分といえばノーフェイスの脳を細工して使役する、なんていうのも随分な事をしているし」
 射手特有の癖か、相手の目線から次の動きを推測しながら霧音がそっとスピカへと合図を送る。
「貴方達は六道……それとも黄泉ヶ辻かしら?」
 見据えた視線の先、ぴくりと霧音の言葉に反応したダークナイトの隙を見逃さない。
「今よ!」
 霧音の言葉とほぼ同時にスピカが反応し、四色に彩られた魔光がダークナイトを貫く。
(……私は。見たくなんか、ないけど)
 ――つい自分と、少女を重ねてしまう。
 けれど、この子は自分とは違うのだ。
 未来に、希望を持っているのだ。
 それならば、
「邪魔はさせないわ、だって……私は『運び屋わたこ』。あの子に、幸せな明日をお届けに来たのだもの!」
 ――運び屋の矜持として、少女の夢の続きを守ってみせる!
 スピカの叫びは想いを具現させてダークナイトの四肢を硬直させる。その結果、ダークナイトに守られるはずだったホーリーメイガスがリベリスタ達の射線上に晒されることになる。
 その、隙だらけの姿を。
「ここから一気にいこうか」
 遙紀が言い、戦況を一転させるための言の葉を紡いでホーリーメイガスを浄化の炎で包み込む。
 インヤンマスターや他のフェクサード達同様に全身を隠していたローブが焼け切れて晒された全身は無傷とは言い難く、幾箇所も致命の傷を負っている。
「悪く思うな」
 その中でも特に傷が深そうな脇腹を狙い、杏樹がより深く傷口を抉る一発を撃ち込む。
 向こうが見えるほどに綺麗に貫通させながら、しかしまだホーリーメイガスは倒れない。最後の抵抗とばかりに神秘の光を宿らせ、味方か、自身を癒そうと手をかざして、
「っ!」
 無言のままに抜かれた霧音の居合がその光を断ち切る。
 抜かれた白銀の刀身が澄んだ音を立てながら鞘に収まるのと同時に、ホーリーメイガスはようやくどさりとアスファルトの上に倒れ込む。
 その音に動揺したか、思わず背後を振り返るノーフェイス一体の背後を香夏子が取り、周囲に転移させた気糸を腕と共に幾度も幾度も振りかざして締め上げ、その動きを完全に拘束する。
「うぉおりゃーー!」
 その真正面、完全な死に体となった巨躯の胸元めがけてツァインが光を纏ったブロードソードを突き上げる。
 手応えは十分。肺を潰す感触と、そしてふと隣を見れば上部から振り降ろされたらしい漆黒の大鎌がノーフェイスの心臓を貫いていた。
「ナイス連携っ!」
 その大鎌を振るっただろう深紅に感謝を送りながら剣を抜き取り、大きく体を一回転させて上段に振るい上げた一撃でノーフェイスを首から一気に地面に叩きつける。
 完全に沈黙するノーフェイスを確認し、リベリスタ陣が一気に前に詰め寄る。
 まずノーフェイスの背後を確保していた香夏子が中衛のフィクサードの脇を抜けてインヤンマスターの前へ、背中を見せる香夏子に斬りかかろうとするダークナイトをツァインが抑える。
 その隣へは先ほどまで後衛にいたはずのスピカが立っておりナイトクリークの動きを封じていた。
「ね、そろそろ降参なさったら? わたし達も、あまり大事にしたくないの」
 ナイトクリーク達の背後を見遣りながらスピカが言う。
「今ならまだ見逃してあげる。ホーリーメイガスの方の息がまだあるうちにね」
 まだ辛うじて息のあるホーリーメイガスを、一応本心から気遣った言葉。
 そうやって撤退勧告の言葉をかけるうちに、背後の方でも杏樹と霧音がノーフェイスの抑えに回っていた。
「今だ司馬さん! ってもう居ねぇし……」
 説得と同時並行で少女を助けるべくツァインがダークナイトと切り結びながら叫ぶが、視線の先に声を掛けるべき相手は既にいなかった。
 ツァインの脇を吹き抜ける神風はフィクサード達さえすり抜けて、往く。
 風はアスファルトを駆け、壁を蹴り、空をさらに加速して少女が住む家の一階の屋根の上へと登る。
「いやはや、噂以上に……実際に見ると本当に速いものですねぇ」
 その鷲祐の速度に感嘆のような声をあげながら、インヤンマスターが鷲祐へと追いすがろうとする。
「いかせないのですよ」
 が、その進路は香夏子によって塞がれてしまい、苦し紛れに放った影人は後衛で待機していた深紅の一撃であっさりと霧散してしまう。
「なかなかうまくいきませんねぇ……!」
 後方のリベリスタ達がしっかりと安全を確保してくれていることを確認し、鷲祐は少女の部屋へと侵入する。
「さて、」
 外の諍いとは明確な境界線で区切られたプライベートエリア。そこで音を発している物は置時計の秒針が進む音と少女の静かな寝息のみで、鷲祐は僅かに表情を緩める。
 願うことなら、少女にはこのまま何も知らないでいて欲しいから。
 少女のベッドの隣に立ち、毛布をそっと捲る。
「……君の願いを、この石は叶えてくれない」
 少女がぎゅっと握りしめる指を一つ一つ優しく解いていきながら、小さく語りかける。
「知っていたか? 彼と一緒にいられたのは、君の力だと」
 この石は、それを少しだけ教えてくれていただけなのだと。
「大丈夫だ。君はこれまで、望む未来を掴んできたんだから」
「ん……」
 最後に僅かに身震いする小さな体に毛布を掛けなおしてやり、鷲祐は再び窓から静かに抜け出す。
 外は相変わらずの乱闘が続いており、そこから背を向けるように反対側へと全速で走り去る鷲祐。
「流石はマッハな鷲祐さん。石の確保はもう完了したみたいですね」
 その姿を確認し、目の前にいるインヤンマスターへ語りかける香夏子。
「という訳でここは無駄な争いやめて逃げろぴゅーしてくれませんか?」
 嫌なら仕方がないのでもう少し付き合いますが……、と。
 上空に浮かぶフィクサードが作った偽りの月を飲み込むように自らの月を作り出し、
「正直面倒になってきたのでバッドムーンぶっぱなしちゃいますよ?」
 これ以上続けるならば潰し合いだと、香夏子なりに脅しかける。
「やれやれ。もう少し遊んでいてもいいのですが……これ以上は確かに無駄な消耗でしかありません、か」
 口元の血を拭いながら竹筒を取り出してノーフェイスへと向けるインヤンマスター。
 数度のノックで倒れ伏すノーフェイスも合わせて回収を終えた後、「撤退しますよ」と他のフィクサード達を促す。
 バックステップでリベリスタ達の攻撃圏内から離れつつ、ダークナイトが乱暴にホーリーメイガスの腕を取り引き摺るように連れ去る。
「嗚呼、残念ですね。あともう少し時間があれば、彼女は望む望まざるとも様々な未来を覗くことが出来たでしょうに……っと、あぶないですねぇ」
 減らず口を叩くインヤンマスターの顔横を、杏樹の魔弾が掠める。
「嗚呼、嗚呼……本当に、忌々しいリベリスタ達です」
 そう笑いながら、フィクサード達は影に消えていく。

「さて、と……まだ女の子は寝てっかな」
 フィクサード達が完全にいなくなるまでその闇の先を睨んでいたツァインが、ようやく闇から目を離して少女の部屋の方を見上げる。
「……大丈夫、まだ寝てるみたいだわ」
 既に警戒を解いて少女の部屋の窓をそっと覗き見ていたスピカからの言葉を得て、ツァインはほっと一息つく。
「石を回収した俺達にはもう何もしてやることはできないけど……せめて、これくらいはしてやりたいもんな」
 懐から取り出したものは、力強い紅を秘めたカーネリアンの石。
 少女を起こさないようにそっと忍び込み、その石をメモの入ったお守りの中に入れて少女の枕の隣へ置こうとして――やめた。
「このメモは、いらねぇかな」
 苦笑する。
 だって、少女は既に踏み出そうと決意して――だからこそ、革醒しかけたのだから。
「……と、霧島さんか。追跡した結果はどうだった?」
 隣に、いつの間にか立っていた深紅に向けてツァインが尋ねる。
「途中でバラバラの方向に分散されて……見失った」
 そう言って無念そうに歪ませた顔は少女の寝顔を覗き込んでいるうちに少しずつ緩んでいく。
「霧島さんも、何か残すつもりだったんじゃないの?」
「いや……残すものは、その石だけで十分かな」
 だから僕は、これだけにするよ。
 深紅は自分達が守った少女の耳元に顔を近づけ、夢の中にいる少女に語りかける。
 ――勇気を持って、己の手で掴み取れ。
「……この子に幸せ、届くわよね?」
 きっと大丈夫だろうと信じながら、少しだけ不安も残るスピカが誰にともなく呟く。
 私達はこの先に関われないから、この子がどうなるかなんてわからなくって。
 でも、
「一歩踏み出した勇気は、生まれた小さな芽はきっと彼女を支えてくれる」
 窓の下の杏樹がスピカを肯定する。
「そう、よね……」
 確証はないけれど、しかしそう確信を持って頷きあい、リベリスタ達はそっと網戸を閉める。
『――彼女に満天の星の導きがあらんことを願って』
 そんな願いだけを、静かに残して。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした。
相変わらず素敵な心情が多く、プレイングを読みながら一人一人の生の感情を勉強させてもらっている葉月司です。
今回の敵は割と思わせぶり。もしかしたら、続編的な物が出るかもしれません。
出せる……と、いいなぁと思っています。
もし興味があったら長い目で見ていていただけると幸いです。
それでは、今回はこの辺で。
またどこかで皆様と出会えることを祈りつつ……。