●ねじれて伸びたタバコの灰 小さなライブハウスの事務室で、髪の長い男がヘッドフォンの音に耳を傾けている。 男――斉藤和也は薄目を開き、ダメージ加工された濃紺のデニムに包まれた足を組み替えた。 この『ハコ』のスタッフなのだろう。セルフレーム眼鏡の向こうには厳しい光が宿っていた。 その様子を固唾を呑んで見守るのは、いかにも純朴そうな青年――岡田友康だ。 緊張を伴った短い時間が過ぎ去り、斉藤はヘッドフォンをそっと外した。 「どうでしたか?」 岡田は、長い組み立てテーブルに両手をつき、身を乗り出して声をあげた。 テーブルの上を、アメリカ映画の小さなキャラクターフィギュアが転げる。 「イベント前日に、持ち込みする気概は認めるけどね」 転がったフィギュアをゆっくりと建て直しながら、斉藤が呟く。 「ホノオノツバサ……ね。どうしてこの曲にしたの?」 パイプ椅子が軋んだ音をたてた。 「ボクの想いを伝えたかったから……」 人気の男性アイドルデュオが歌う、どこにでもある切ない曲だった。 「君さ。カラオケ行くと歌上手いって言われるでしょ」 「あまり行きません」 線の細い、どこにでも居そうな二十七歳の青年は、どこか物怖じしたように答えた。 「そうなんだ」 斉藤は灰皿に置かれたままのタバコをつまみ上げて、灰を落としなおす。 「それで、どうでしたか?」 斉藤のやわらかな拒絶をかき消すように、岡田はさらなる声をあげた。 「イベントには、ちょっと出せないな」 身も蓋も無い斉藤の言葉に、岡田が詰め寄る。 「どこが駄目だったんでしょうかッ!?」 張りあがった詰問は、なかなかの美声だった。 楽器を担いだパンクスの少女達が、彼等にちらりと視線を送る。 「教えて下さい」 岡田は少女達に目もくれず、なおも質問を続けた。 沈黙が流れる。 「歌はそこそこうまいけどね。顔も悪くない」 (よりにもよって熱狂的ファンが多いアイドルの歌だ) 斉藤が掌で無精ひげを撫で付ける。 (平々凡々な君がカラオケ音源を背景に歌って、客が喜んで聴くと思うのか) 斉藤は眼前の青年への言葉を飲み込んだ。 枯れかけた観葉植物の葉が揺れる。 「いつも、ボクの想いは伝わらないんだ……」 肩を落とし、岡田は踵を返す。 「音源、忘れてるよ」 岡田は再び振り返り、無言で携帯音楽プレイヤーを受け取る。 「あの人がホノオノツバサを持ち込んだんだって」 「え、ありえない」 足早に過ぎ去る岡田の耳に、少女達の笑い声が聞こえた。 「あはっ、ないない」 岡田は静かに足を止めた。 ●甘くて薄い缶コーヒー 「根性無しの癖して、やりやがるもんだね。俺より先にさ」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)がおどける。 「なにを?」 リベリスタが問う。 「あのあと、岡田はホノオノツバサでライブハウスを全焼させやがったのさ」 「は?」 「岡田はエリューションノーフェイスだ。それもとびきり強力なフェーズ2」 「なるほどね……」 リベリスタの言葉に、伸暁は大げさな身振りで手を振る。 「抑圧された青年が力を得た。二十七にもなって、ハジケてみたかったのかもな」 「時間は?」 「未来だ。後で資料を渡してあげるよ。アルバイトから帰った岡田は、自分の歌が入った音源を持ってライブハウスに向かうんだ」 「それで?」 「結局入らずに一度引き返して、ライブハウス近く空き地に入る。それが午後十時頃の事だ」 「ほうほう」 「そこの自販機で缶コーヒーを買って、土管に三十分くらい座ってるのさ」 空き地に土管とは、これまた古典的だ。 「で、ライブハウスに向かうのはその後、と」 リベリスタに促され、伸暁が手に持つくしゃくしゃの紙をデスクに放った。 「ここさ」 プリントアウトされた地図に鉛筆でマーキングがされている。 「この空き地なら、結界さえ張れば人は通らないだろうな」 伸暁が言葉を続ける。 「時間も場所も正体も割れてるけど、戦闘力は非常に強力だ」 気をつけなと、伸暁は指を鳴らした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:pipi | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月09日(土)22:18 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●自分探し ――あいつ何聴いてンの? あはっ。あれね、いつも同じアイドルの。 あの漏れてる奴ってさ。あいつの声だと思うんだけど。 ギャハハ! キメェ! おい来たぞ―― 頭の中で何度となく再生されるのは彼の日常だった。 岡田友康はそんな光景を打ち消すように、携帯音楽プレイヤーの音量を少しだけ上げる。 ――あいつ良く来れたな。 熱帯夜にも関わらず、彼は肌寒気に袖のない緋色のジャンパーの襟を立てた。 ――お前ホント使えネェな。 どこか気が立っているのだろうか。 彼は自動販売機の前で、落ち着かない様子で足を揺すっている。 散々な一日だった。 今日も、と付け加えたほうが、より正確だろう。 記憶の限り、ずっとそうだった。 これまでの人生の中で、底知れぬ劣等感が何時だってあった。 (どうして、ボクだけ――) 彼は自分が他人と比べてそれほど劣っているとは思っていなかった。 不思議な力を手に入れたのは、ごく最近のことだ。 捨てられた雑誌、道端に転がる鳥の死骸、色々なものを焼いてみた。 自分がその気になれば、背中には翼だって生えると思う。 それなのに。 ――帰っていいよ。 それでも彼の世界は変わらなかった。 今日も音楽プレイヤーを握り締め、彼は逃げるように職場を後にして、夜風を浴びる。 彼の心は常に絶望にも似た深い落胆と、焦燥感に支配されていた。 いや違う。今日に限っては特別なはずだった。 彼はとっておきの歌を、ライブハウスに持ち込もうと決意していた。 岡田はヘッドフォンを首にかけて自動販売機のボタンを押した。 彼は冷えたコーヒーを取り出すと、どこかたどたどしい大仰な動作で溜息をついた。 その動作を、職場の皆が陰で嘲笑っているのは知っていた。 知っていたからといって、変えられるものではない。 岡田が空き地の中へと歩き出す。 手の中で、缶が熱くなっていくのが分かる。 「狩りにきたよ」 夜風に澄んだ声が響く。運命が変わろうとしていた。 「意味、わかるよね」 あまりに唐突な呼び声に―― ●アイデンティティ 岡田が振り返るより速く、少女の爪がその背を切り裂く。 速い。『原罪の羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)の身は、既にその速度を引き出す術を纏っていた。 切り裂かれた緋色のジャンパーから流れ出すのは、血液ならぬ赤々とした炎だ。 「うわぁッ!?」 岡田が情けない声で悲鳴をあげる。なかなかの――だがどこにでも転がっている美声だった。 「な、なんなんだッ」 岡田は根本的に理解していなかった。 「まぁ、気持ちは分からなくはないでござるが」 不条理にも理不尽にも、彼は今や世界の敵なのである。ここで止めなければ、大きな被害を生むのだ。 「とりあえずは小手試しでござるよ」 俊速の少女に続き『自称・雷音の夫』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)の拳が唸りを上げる。 確かな速度と集中力に裏打ちされた豪拳は、狙い違わず岡田の鼻柱に炸裂した。 岡田が吹き飛び、ジャンパーが炎に包まれる。 その手から零れ落ちたコーヒー缶が橙の光を湛えてドロリと溶ける。煙があがり、辺りに焦げた砂糖の甘ったるい臭いが立ち上った。 「なんなんだよ、あんたたちはッ!?」 土管を背に、仰向けに倒れこんだ岡田が叫び声を上げる。 事態は岡田の理解を大きく超えていた。 既に結界の展開を終えた『プラグマティック』本条 沙由理(BNE000078)が、岡田に気糸を放つ。 限界を超えた集中力が生み出した精緻な網が岡田の身体を無慈悲に縛り上げた。 「うわぁああああッ!」 岡田は喚き、もがくものの、強固な気糸を断ち切るには及ばない。 リベリスタ達にとっては、虚しさの拭いきれぬ戦いである。 既に神秘の力を取り込み制御する術陣を身に纏っているアゼル ランカード(BNE001806)の腰に灯りが瞬く。 とはいえ、このまま放置すれば万華鏡が捉えた未来へと到達してしまう。 であるが故に、彼等は介入しなければならなかった。 そして倒すしかないのは誰もが理解している。 理解は出来ても、それは『軌至界生』星観坂 雅(BNE001276)の心を晴らすものではなかった。 それでも、こうするしかない。 雅が弓弦を引き絞る。 引き絞るものの迷いはある。ただ倒すだけで良いのだろうか――と。 (だってそれじゃ……あの人があんまりです) 心に迷いがあれば矢は射れないという。 しかしそれでも宙を射抜く鏃は、転げて身を捩る岡田の眼前に力強く突き立った。 それは――雅がリベリスタだからである。 戦うしかないのだから、それは絶妙なアシストとなった。 夜空に白銀の鋼が煌く。 「岡田さん、大変だったねー」 爆発的に闘気を高めた『サマータイム』雪村・有紗(BNE000537)の白刃が走る。 「周りは認めてくれない。自分の真価なんてわかってもらえない、ってね」 まこと世界はままならなず、ままならぬままに男を襲った。 (すまないとは思うが――) 鉄壁の守りを備えた『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)が走る。 (――確実に打ち倒す) 夢を叶えたいと思う気持ちは誰もが持ってるものであろう。 だが、それが絶対に叶うとは限らないのが世の中というものだ。 それで鬱屈して人様に迷惑かけるってのはいただけない。 手斧が閃き、重く鋭い一撃が岡田を捉えた。 そして暴風を伴う剣の一撃が、もがく岡田に直撃する。 「でもそれは世の中にはありふれたことで。認められるには圧倒的な才能か、相手に歩み寄るしかない」 その背を強かに打ち付けられた土管に亀裂が走る。 「そのどっちかでも備えたかな?」 転げる岡田が顔を上げる。 「あなたも――」 静かに、ゆっくりとした動作で空虚な瞳が有紗を見据える。 「――分かってくれない」 どこまでも虚ろな瞳は、有紗を見ているようで見ていなかった。 「伝えたいものがあるなら、周りをちゃんと見なさいな」 沙由理が口を開く。 これがラジオなら、彼と世界は周波数が合っていない。 縛られたままで身動きがとれない岡田の周りでは、大気が小さくちりちりと爆ぜている。 「――そんな程度の小火では、ちり紙も焼けんな」 燃える空気を尻目に『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が呟く。 放たれるライフル弾が岡田の胸を打ち抜き、輝く火花が散った。 「ハジケ方が足りないな――」 ユーヌはライターの方が有用だと加える。 岡田は未だ本気ではないのだろう。 そもそも本気とはどういうことなのか、岡田は理解しているのであろうか。 だが―― 「本当のボクを見てッ!!」 ●イノチノウタ けたたましく裏返る声で叫んだモノは、大きな顔だった。 直系三メートルはあろうかという岡田の顔だ。 「それが、翼……?」誰の呟きか。 顔の周囲を八対の炎が卍様に噴出している。 「これがボクの羽ッ!!」 答える岡田――火車の大きな瞬きからあふれ出る涙は、やはり火の粉だった。 「ふむ、本気でござるな」 リベリスタ達に一気に緊張が高まる。虎鐵が太刀を抜き放ち、漲る闘気に大地が揺れる。 「ククク、やれば出来るじゃないか」 ユーヌが素早く印を切り、凍てつく氷雨が舞い落ちる炎の羽を次々に打ち抜いて行く。 「路上パフォーマーでも目指せば良かったんじゃないか?」 「アアアアァァァァァ!!」 火車が叫び、その身を車輪に変えて突進する。 炎の轍を残して突撃する火車に、雅が即射を放つ。 鏃はその身に力強く突き立つものの、突撃の速度を減衰させるには至らなかった。 炎が弾ける。 突撃を受け止めたのは義弘だ。 あたりに蛋白質の焼ける苦い臭いが広がる。 「大丈夫、だ」 額に浮かぶ玉の汗を拭わぬまま、義弘の太い腕が手斧を振り下ろす。 「――鍛えてるからなッ!」 力強い一撃が火車の巨大な顔面に食い込んだ。 アゼルが放つ光は天使の息吹となり、焼け焦げる義弘の身体をしっかりと支える。 「ここからは出し惜しみしない。分かたれた炎は任せて……」 沙由理が腕を振り払う。 「鬱屈を力に変えても、何にもならないと知りなさい」 聖なる光が戦場に満ちた。 戦いは続いていた。 岡田が炎を吹きかけ、それを凌いだリベリスタ達が猛反撃をかける構図である。 有紗の剣が幾度となく火車の顔面に突き立ち、零れ落ちる炎の羽を沙由理が打ち払う。 「それでは拙者も本気でいかせてもらうでござるよ!」 虎鐵の連撃は幾重にも切り裂き、雅の即射が突き立つ。 沙由理の光に打ち漏らされた羽も、ユーヌが都度放つ氷雨によって直ちに一掃されていく。 そして有紗、ルカルカ、義弘、虎鐵の身体に燃え上がる炎は、義弘が鎮めている。 相手の攻撃は激しい。 とはいえ虎鐵や義弘、ルカルカ等は何度か身をかわし、あるいは受け切る事にも成功している。 そして義弘の逞しい献身によって、未だ倒れぬリベリスタ達であったが、敵の威力は高く、戦場はギリギリのラインで安定しているに留まっている。 リベリスタ達は漏らす吐息で焼き焦がされながらも、戦列は後衛のアゼルによって確かに支えられていた。 さらに義弘の術をもってしても消えぬ炎とて、アゼルの回復とリベリスタ達自身の闘志によって最小限の被害に食い止められている。 「本当の自分?」 ルカルカが駆ける。 「笑っちゃう」 これまで彼女は刻々と立ち位置を変えながら、火車に真空の刃を叩き付けながらも、氷雨が打ち払いきれなかった炎の羽の一掃に努めていた。 そして今、羽はない。 再び巡ってきた絶好のチャンスである。 「冴えない自分も、今イノチを燃やしてる自分も。抗うことはできない、自分」 鋭い爪が夜空に閃く。 「本当なんてないよ――嘘もね」 素晴らしい速度から生み出された二重の刃は、真空を巻き起こし火車の醜悪な姿を切り刻む。 「本当の自分なんて」 火車の顔面から炎が溢れ、不可視の刃は燃える瞳を強かに抉り切った。 「ただの理不尽な概念」 幾度となく繰り広げられる激しい攻防に、リベリスタ達は焦燥と苛立ちを感じ始めている。 「無いよりはマシだろうと思っていたが」 ユーヌが呟く。 確かに一度の減衰が大きいとは言えないが、度重なれば意味も変わる。 前衛に立つリベリスタ達を襲う炎は、総じて見れば着実に減衰されていた。 薄紙程度と考えていた守りの結界だが、意外にも効力を発揮していたらしい。 そのユーヌに代わり、今度はアゼルが守りの加護を振りまく。 効果の消滅前に、戦闘中の間隙を狙ったものだ。 とはいえ、いかなる術陣に守られたアゼルですら、その疲労は隠し切れない。 そして、ずたずたに切り裂かれながらも、火車の勢いは未だに衰えない。 「人の姿を捨ててまで伝えたい想い、いってみなさいな」 神なる光を放つ沙由理が問う。 羽が燃え尽き、火車の目が眩む。 「それともそのまま冥府まで抱えていくのかしら?」 とはいえ、言葉など返ろうはずもないことは沙由理も分かっている。 彼は不明瞭な『本当の自分』という空想を都合よく作り上げ、己の全ての不遇を周囲の責任に転化してきただけなのだろう。 ずっとそうやって生きてきたのだ。おそらくノーフェイスとなる前も、後も。 具体的な『想い』などというものは、彼にはないのだ。 蟠っているのは、ただの鬱憤でしかない。 そんな中で偶然に力を手にした彼とて、日に日に変容していく身体が、異常だということも薄々は分かっていたのかもしれない。 それでも彼は、ただ歌っていただけだった。工業生産された出来合いの、誰にでも受け入れられるメロディに乗せて。 別にそれでも構わないだろう。多くの人々は、その陳腐なメロディを今日や明日の活力に変えて強かに生きていくからだ。 だが彼は、ただ浸っていただけだった。 だから何も変わらなかった。変われなかった。その姿以外は―― 「ァアアアアア!!」 岡田の慟哭に、夜の大気が揺らぐ。 「来るぞッ!」 義弘が叫び、直後。すさまじい灼熱がリベリスタ達を襲った。 アゼルは灼熱の海の中に十字を突き立てて凌ぐ。 「挫折を経験したのは貴方だけじゃないですよー?」 言葉を紡ぎながら、すぐさまリベリスタ達に治癒の術を与える。 「もし皆が挫折の度にこんな事になってたら貴方もとっくに生きていなかったと思いますよー?」 火車は聞いているのか、それとも聞こえていないのか。それでもアゼルは言葉を紡ぎ続ける。 「自分が何をしたのか少しは考えてくださいねー」 火車が片眼でアゼルを睨みつけ、再び大気が揺らぐ。 「ねえ、それがイノチを燃やすホノオノツバサの歌? ん、いいね、すきだよ」 激しい攻防の中で、空を断ち切る爪を繰り出すルカルカが笑う。 「たとえ、人だろうが」 炎の隙を縫うように虎鐵が駆ける。 「拙者は殺す事にためらいはないでござるゆえ」 力強い連撃が叩き込まれ、巨大な顔面に次々に無数の傷口が広がっていく。 「手加減はしないでござるよッ!」 そして太刀は、唸りを上げて火車の顔面を大きく切り裂いた。 その中で、雅は苦悩していた。 想いを伝えるチャンスがなかなか作り出せない。 それでも彼女は幾本もの矢を紡ぎ、速射を放つ。 「見届けてやったろう」 ユーヌがかすかに首をかしげる。 だから―― 「さっさと燃え尽きろ」 無数の氷刃が降り注ぎ、火羽と火車を穿つ。 激しい水蒸気が立ち上った。 「そうやって努力もせずに斜に構えて、相手のせいにして八つ当たりして」 有紗の剣が炎に照り煌く。 「論外だよね?」 言の葉は凍てつく刃となり、現実と刃と共に火車を攻め立てる。 「アナタは道を間違えた。そしてもう取り返せない」 暴風を伴う剣圧が唸りを上げて火車に迫る。 「ご愁傷様」 剣が突き立ち、火車が吹き飛ぶ。 「これで全部おしまい」 岡田の身体がずぶずぶと崩れていく。 「さようなら、拗ねた生き様のアナタ」 ●灰は空に 日常の帰省を告げる夏の夜風に、空に白い雪がたゆとう。 それは、まだ暖かい灰だった。 「おぬしが悪いのではない。この世界の運命が悪いのでござるよ……」 彼は世界に愛されなかったのだから。 虎鐵が刀を納める。また一つ、命殺めた業を背負って。 「もう少し別の形ではじけていれば、マシな結果になったかもな」 ユーヌが淡々と言い放つ。 「あのやり方では、正義もなにもありませんでしたからー」 このまま放置すればライブハウスは全焼し、多数の犠牲者を出していただろう。 彼はリベリスタ達をもう一度だけ癒す。 「なんだか虚しいけど」 沙由理が呟く。 「これで少し平和になるのなら、それでいいのかしらね」 だから、良かったのだ。 雅が舞い降りる灰のひとひらを、その手の平で受け止める。 「岡田さん、せめて安らかに……」 そして優しく握り締めた。祈りを込めて。 だが、この祈りは最初にして最後に、一方通行ではなくなっていたのかもしれない。 天空を彩る灰は、きらきらと星のように―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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