●呪われた運命 家族を幸せにすることが俺の人生の目標だった。それが儚く崩れ去ろうとは思ってもみなかった。平和な日常をただ守る。ただそれだけのことが俺には出来なかった。 宮城克則は家族を失った。駆けつけた時にはすでに遅かった。廃校になった学校へ遊びに、妻たちが先に出かけた矢先のことだ。とつぜん現れた巨大な人食いの蜘蛛型のE・ビーストたちに、克則は目の前で妻と娘と息子を食い殺された。 「美咲! 今助けから死ぬな!」 克則は妻に呼びかけた。妻も覚醒者だった。みずみす殺されるはずがない。そう高をくくったのがいけなかった。蜘蛛の強力な糸で身体を縛りつけてくる。他にもE・ビーストの鷲と野犬の数匹がその隙を狙って襲う。 「智史、七海いやあああああ!」 妻が子供たちの名前を叫ぶ。そのとき妻が子供たちをかばって致命傷を負った。克則は必死になってE・ビーストを全て倒した。 だが、そのときは何もかも手遅れだった。食い殺されて遺体もその場に残されてはいなかった。克則は三人を同時に失った。 守るべき家族を失った克則は放心した。自分自身もその死闘で運命を失ったことに気がついたのはそれから間もなくのことだ。 運命は俺を呪っている――そう思わずにはいられなかった。 「お父さん、だいじょうぶ? しっかりして、七海はここだよ」 振り返るとそこには死んだはずの娘の七海がいた。一瞬、目を疑ったが、七海は生前と変わらぬ姿で立っていた。後ろには妻の美咲と息子の智史の姿もある。 彼らはE・フォースになって現れていた。克則は嬉しかった。たとえ、E・フォースになったとしても自分の傍に戻って来てくれた。 「あなた、まだ諦めないで。運命を失ったあなたにもこのままだと追手がやってくる。早くしないと討伐されるわ。もう、これ以上、家族がばらばらになるのは嫌。はやく私たちと逃げて」 妻の美咲が胸にしな垂れかかってくる。どうして運命はこうも残酷なのだろう。俺達が何か悪いことをしたとでもいうのか。わからない。答えはいくら考えても出そうにない。 だが、それでも一つだけはっきりしていることがあった。 俺は自分の信念を最後まで貫き通す。たとえそれが間違った行為だとしても俺は堪えてみせる。全てを敵にしても構わない。俺は最後まで戦ってみせる。 ただ愛する家族を守る為に―― ●家族の絆を永遠に断つ 「廃校の小学校の体育館にノーフェイスとその家族だったE・フォースが立て篭もっている。彼の名前は宮城克則元リベリスタだった。彼らはこれ以上逃げられないと悟って籠城作戦に切り替えたようだ。相手はエリューションだ。このままにしておくといずれこの世界に危害の影響が及ぶ。そうなるまでに彼の家族を倒してきてくれ」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は非情な通告を下した。あまりに過酷な使命に誰もが一瞬息を呑んだ。克則に対する同情で言葉を失ってしまう。 彼はずっとリベリスタとして活躍していた。とくに愛する家族思いのリベリスタとして憧れている者もいた。克則さんのような幸せな家族を築きたいと慕う後輩もいた。 そんな幸せな家族が今度の事件を機に一瞬にして壊れてしまった。運命とはいかにも残酷なのだろう。そしてその破壊された家族の絆を今度は永遠に断たなければならない。 「克則は愛する家族の為に必死になって戦うだろう。妻や子供たちを倒されるわけにはいかない。彼の想いは非常に強い。だから油断してはいけない。倒すこちら側も彼以上の覚悟を持って戦いに挑む必要がある。くれぐれも彼らの最期をよろしく頼む」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:凸一 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月05日(日)22:48 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●吹きつける嵐の前に 今日は朝から天気が悪かった。吹きつける風が少し肌寒い。灰色の雨雲が空一面に掛って今にも降り出しそうになっている。割れた古い窓ガラスに水滴が浮いている。 誰もいない古びた校舎は静寂に満ちていた。かつて多くの子供たちが学んだ。今は廃校になって寂れている。記憶の風化と共に忘れ去られてしまった場所。そんな所に今、かつての卒業生であった者の家族たちが立て篭もっている。 「どんなに善行を積んだ鼠でも、大自然では梟の獲物になる。ただほんのちょっと助かる見込みが増すだけで、それじゃあどうしようもない事もあって。それは運命に愛されたヒーローにも等しく訪れえる事象で……」 『◆』×『★』ヘーベル・バックハウス(BNE004424)は空を見上げていた。ずっと先ほどから考えていた。彼らの不幸な運命を変えられないか、そう祈るように。 「わしは、世界に反して抵抗することは悪い事とは思わんよ。わしも同じようになったらそうする。世界を守るためなんて大層な事やない、世界を守ることがひいては自分の回りを守ることになるから守る。世界が敵になれば世界と戦う、それだけや。お互い譲れんものがあるなら、戦って勝ち取るしかないぜよ」 『人生博徒』坂東・仁太(BNE002354)も克則たちに同情した。彼らもリベリスタならおそらく分かっている。仁太は拳をきつく握りしめた。 「神秘の運命なんてものはいつだって残酷ですね。ただの詭弁ですが、彼らの抗いを受け止めるのがせめてもの弔いかもしれませんね」 『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)は、しっかりと決意を込めて言った。せめて彼らが想い残すことのないよう全力で戦うことを誓う。 「元リベリスタのノーフェイスの討伐、か。全く面倒よね。……宮城克則。かつて活躍したリベリスタ。彼は最後まで戦った。だからこそ、だからこそ……ふさわしい最期を、彼に」 『狂奔する黒き風車は標となりて』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)も途切れがちに頷いた。気持ちは痛いほどわかる。それでも倒さなければならない。同じリベリスタの使命として。 「死後の世界というものが存在するのか、わたくしさまには分かりませんが。ご家族そろっての幕引き、わたくしさまが唯一彼らにしてあげられることですわね」 『飽くなき探究心』ヴィオランティア・イクシィアーツォ・クォルシュテェン(BNE004467)も二人の意見に同意して言った。 「運命とは残酷なもの。同情し、哀む。家族を殺され、怒りを糧に強くなる彼は美徳となるのだろう。お前が運命を打ち破れるほどの英雄であるといいな。それでも所詮他人。敵。私はアークに恩義を返す為、英雄だろうが殺す」 今回が初仕事になる『白紙』カラモリ アキ(BNE004508)が決意を込めた。自分も突然日常を奪われた一人だった。それに克則と同じデュランダル。そして二人はリベリスタを去るものと新しく入ってきた者。決して交わることがなかった二人が今回の事件を機に対峙することになる。アキはこれも運命なのか、と思った。 「家族の絆ですか、ははっ、家族の為、ですか? あははは……羨ましいですね、僕にはそんな者はありませんでしたから。そりゃあ、家族みたいに大事な人ってやつはいたんだろうとは思いますけど」 『親不知』秋月・仁身(BNE004092)は自虐的に笑った。そもそも親を知らない仁身にとって家族とは何か分からない。だが、分からないからこそ、克則たちがどんな気持ちでいるのか興味があった。それを確かめるために全力で立ち向かう。 「運命ハ残酷ダ悲劇ダナ……ダガ判ッテルダロウシ、改メテ言ウ必要ネーヨナ。行クゾ、宮城克則、その家族達……私ガ引導を与エテヤル」 『瞬神光狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)はすでに戦闘準備が整っていた。ふだんのぼうっとした可愛い顔ではない。リュミエールは仲間に合図すると、封鎖された扉に向かって一気に攻撃をしかけた。 ●命に代えてでも バリケードを破壊したリベリスタたちは、奇襲攻撃に備えて周囲を警戒した。すぐにへーベルが翼の加護を与えて支援する。アキが爆砕戦気を、ヴィオランティアがエル・ブーストを使用して力を蓄える。 「気をつけるんや! どこから攻撃してくるかわからへんで」 暗闇の体育館に入る際に、仁太がリベリスタ達にむかって呼びかけた。それを合図に仲間たちがつぎつぎに突入する。 視界の至るところには蜘蛛の巣が張られていた。それを避けるようにして、陣形を展開させる。だが、肝心の克則たちの姿が見当たらない。 「こんにちわ。いえ、こんばんわでいいのかな。ま、そんな事はどうでもいいか。宮城克則、引導渡しに来たよ。……アークのリベリスタが、ね」 フランシスカが呼びかけたが、応答がない。おかしいな、と思いつつ、蜘蛛の糸を避けて中央まで来た。仁身は蜘蛛の糸の様子を仲間に伝えて注意する。 その時だった。天井に貼りついていた呪符がいきなり、式神になって攻撃をしかけてきた。 ヒトガタに姿を変えた式神たちが挟みうちにするように、火炎放射を放ってくる。周囲を警戒していたリベリスタは予想していたとはいえ、いきなりの奇襲に慌てた。 後ろにいたアキとヴィオランティアが狙われて炎に撒かれる。二人も必死になって式神に反撃を試みた。ダメージを受けながらもようやく敵を退散させることに成功する。事前に溜めた力を最大限に活用して式神を二匹倒すことができた。 フランシスカが暗黒でもって家族全員に襲い掛かる。美咲が智史と七海をかばって攻撃を受けた。そこへ仁太もハニーコムガトリングでぶっ放す。 「だいじょうぶ? しっかりして」 へーベルがアキとヴィオランティアに回復を施したとき、異変に気がついた。 「マイヒーロ! ステージの壇上を見て」 へーベルの言葉に全員が振り向いた。そこには隠れていた克則たち家族が必死の形相で睨みつけていた。 「いきなりの奇襲悪く思うなよ。今日は来てくれてうれしい。同じ元リベリスタとしてこうやって戦えることを光栄に思っている。だが、俺は絶対に家族を守る。誰にも殺させはしない。そのためなら俺は後輩だろうと容赦しない」 克則は村正を構えた。そして猛スピードでこちら側に突っ込んでくる。それにいち早く反応したリュミエールが俊足で立ち向かう。 ガッツツツツツン! 一瞬のうちに二人の剣は交錯した。目にもとまらぬ速さで同時に攻撃が放たれて、そして勝負が行われた。 いつの間にか二人は互いに背を向きあって屈みこんでいる。 先に起き上がったのは、リュミエールの方だった。 「ドウシタ? 先制ヲトレルトオモッタノカ? 私ニハソレハ、ナンセンス、ダッタナ」 リュミエールはなかなか起き上がらない克則に余裕で答えた。しばらくして克則はゆっくりと立ち上がる。その顔には驚きが広がっていた。 「リュミエールだったか。お前のことはよく知っている。アークきっての俊足の剣使い――まったく厄介な相手が来たもんだ。黙ってれば可愛い顔してるのにな」 克則はリュミエールに向かって苦笑した。だが、そんな言葉とは裏腹に傷がほとんどなかった。確かに左胸を狙ったはずなのに。わずかに出血している程度。 リュミエールはさらに剣を構えた。 「ゴホホホッホオオ。バカナ――」 だが、とつぜん口から血を吐いてしまう。たまらず膝をつく。傷を負ったのはリュミエールの方だった。 「以前の俺なら間違いなく殺られていた。だが、今の俺はそうじゃない」 ふたたび克則はリュミエールに向かって村正を構える。 そのとき、残った式神が仁太たちの方に向かって飛んできた。すばやい反射神経でもってあやうく攻撃を交わすことに成功する。 「ぜったいに子供たちは殺させはしない。わたしの命に代えてでも!」 激しい攻撃は同時にフランシスカたちも巻き込んだ。美咲は炎をまき散らしながら徐々に蜘蛛の糸が張り巡らされている隅にリベリスタ達を追い込んでいく。 「ここは私に任せて!」 彩花が前線に立ちはだかると、美咲たちにむかってすぐに襲いかかる。不意をつかれた美咲は式神をそちらに回す余裕がなかった。ハイバランサーで壁から迫ってきた彩花に対してなにも対抗策がなかった。 「ぜったいに最後まで私はこの子たちを守る!」 美咲は両手を広げて子供たちの前に立った。そして彩花にむかって非常にも素手で立ち向かう。その目は子供を守る親の目だった。 彩花は一瞬、ひるみそうになった。だが、それでも重心を低くして相手の懐に飛び込んだ。そして渾身の力で美咲を地面に叩きつけた。 ●やさしい笑顔 「おかあさんしんじゃいやあああああ――」 母親の美咲がやられて、七海が大声で泣き出した。側にいた智史が木刀でもって、リベリスタ達に向かってくる。 「よくもおおおおおおおお――くらえええ!」 彩花は後ろを突かれて弾き飛ばされた。蜘蛛の巣に突っ込んで身動きが取れなくなる。そこへ智史がふたたび攻撃の姿勢を見せた。 「彩花様を見殺しにさせるわけにはいきません!」 それまで守られる側にいたヴィオランティアが、エル・フリーズで智史にむかって攻撃する。つづいて仁身がギルティドライブを放った。 「その痛みは、僕の傷みです。貴方たちの思いの強さです。その身で確認してください。それがせめてもの手向けですから」 「ぐうううううう」 智史は足止めを食らって苦しみだした。「おにいちゃんがんばって!」と横から七海が応援する。そのすきにアキが間合いを詰めていた。 「怖いか?」 見上げてくる兄妹は決死の形相をしていた。それでもアキは前に進んだ。私は絶対に怯まない。たとえ相手が幼い子供だろうと。相手がエリューションである以上倒す。それがリベリスタとして生きていく唯一の使命なんだ。 「ぐはあああああああ――」 兄妹がアキの剣に引き裂かれた。叫び声をあげて彼らは互いに抱き合うような形で崩れ落ちて行った。 「くそおおおおおおおおおお!」 克則が慟哭した。あまりの大音量にその場に居た全員が思わず耳を塞ぐ。 「美咲、智史、七海――。ごめんよ。不甲斐ない父親で。俺は最期までお前らを守ることができなかった」 抜け殻のように身を折って克則は膝をついた。だが、その目には先ほどまでにない憎しみと決意が込められていた。愛した家族を再び失った彼にはもう復讐しか残っていなかった。即座にワルサーでリベリスタたちを攻撃する。彩花がブロックに立ちはだかり、フランシスカがその隙に暗黒の瘴気で克則にダメージを与える。 「がんばって、マイヒーロー! 誰も苦しませないで」 へーベルも後方から味方を支援して、克則に狙いを定めてピンポイント・スペシャリティを撃ち放つ。見事に命中してワルサ―が破壊される。 「そりゃさ、見知った顔をこんな目に合わせるんは辛いさ。けどな、放っとったらいつかわしらに牙を向く。なら殺すしかあらへんのや!」 仁太がその隙に克則の背後に回っていた。誰だって家族を失いたくない。その想いは十分にわかる。 だけどここで殺さなければ、どこかできっとまた同じように不幸な家族が犠牲になる。これ以上の犠牲はもうたくさんだ。 「うしろかあっ! 卑怯だぞ!」 仁太は背後からバウンティショットを放った。克則は前のめりになって崩れ落ちそうになる。だが、すんでのところで踏みとどまった。 目の前にはそれまで戦っていたリュミエールがいる。満身創痍ながら彼女も剣を振りかぶって猛スピードで迫ってきた。 おそらくこれが最後になるだろうという予感がする。 克則は目をつぶって集中した。脳裏には美咲がいた。くしくもそれは幼い頃の姿だった。この小学校に通っていた時の服装だった。美咲は笑っていた。そして、一言、かつのりくん、ありがとう、と言った。 克則は目を開けた。 リュミエールの剣がすぐそこに迫っていた。渾身の力で村正を振りかぶる。そして大きく斬りつけた。 だが、一瞬、なぜかリュミエールの顔が美咲の顔に見えた。 克則は大きく目を開いた。 村正が手から離れて行く――。 「みさき――」 リュミエールの剣がそのまま克則の腹部を掻き切った。 ●彼の遺したもの しばらくのあいだ、リベリスタたちは何も口にできなかった。重苦しい雰囲気に誰も言葉を発せない。放心したように後片づけをした。 まだ残っている蜘蛛の糸をヴィオランティアやアキ、仁身たちで掃除していく。 「夢見させてやれんで、すまんな。……嫌んなるな、こんな世界」 仁太が最後に七海のいた辺りに近寄った。そしてそっと床を撫でる。冷たくて手がじんわりとした。目には抑えきれない想いが溢れてきている。側にいたフランシスカが仁太の肩に手をやった。 「眠りなさい、四人とも。大丈夫よ。四人全員行き着くところは同じ。早いか遅いかの違いだけだから」 目を瞑って祈りを込める。せめて、天で四人が幸せであれるように。 「村正ガ……」 リュミエールも彼の残した村正を手にとって呟く。その刀はぼろぼろに壊れてしまっていた。彼女もまた克則の遺した物をつよく胸に抱きしめる。 「最期の選択をリベリスタの使命ではなく家族との絆を選んだ貴方は、リベリスタとしては失格かもしれませんが――父親としては立派だったと思います」 彩花は誰に言うでもなく呟いた。彼が最期まで守ろうとしたものは、少なくとも彼にとってはこの世で一番大事なものだった。それを責めることはできない。 へーベルも思った。先ほどからそればかりを考えていた。世界と家族、天秤に掛けるまでもない。彼もまた間違いなくヒーローなのだから。 彼の正義を此方の正義で喰らう。誰もが正しく。誰も悪くない。 「今日も世界はご機嫌ナナメね」 体育館の外はすでにどしゃぶりの雨が降っていた。へーベルは吹きつける雨風に飛ばされないよう、しっかりと帽子を手で抑えつけた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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