●某日 アーク本部、インフォメーションカウンターの横にあるボードに1枚の紙が張り出されていた。 たけのこ狩りへ行こう 自分で採って楽しい、味わってうれしい! 当温泉宿の裏山にある竹林で、たけのこ狩り(アタリつき)を楽しみませんか。 そのほか山菜採りや川魚釣りなども楽しんでいただけます。 温泉入りたい放題。一泊二食つき。 リベリスタに限り無料です。 “さる夫婦の温泉宿” ●遡ること数日前 「あなた、大丈夫?」 呼びかけてもこんもりお布団の中から返ってくるのはうめき声ばかり。 女将はほとほと困っていた。 主人が裏山でうっかりアタリを当ててギックリ腰になったのは先週のこと。このままアレらを放置すればすくすく育って大変なことになる。かといっていくら強そうに見えても宿の客に頼むわけにも行かず、賢くはあるけれどまったくノーマルである従業員たちに任せるわけにも行かず……。 女将は布団の頂にため息をひとつ落とした。 重い腰、否、重い受話器をあげなくてはならない。 「日本全国で大変な騒ぎがあったばかりだしねぇ。……エリューション退治にこんな山奥まで来てくれるかしら」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:そうすけ | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月14日(火)22:51 |
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■メイン参加者 30人■ | |||||
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●到着 「まあまあ、みなさん。本日は遠いところをお越しくださいまして有り難うございます」 リベリスタたちを出迎えたのはこの宿の女将、マリリン・井出だった。その後ろに、揃いの法被を着たサル(本物)の従業員たちがずらりと並んでいた。 「やっと着いたです」 イチゴ車、もとい1号車から降りてきたのは悠木 そあらだ。続いて降りてきたシェリー・D・モーガンとともにふぁりふぁりとあくびを連発する。 「食材が揃うまで部屋で仮眠をとらせてもらうのじゃ。眠い」 「そあらも、寝るです。起きたらさおりんのためにたけのこ料理のおさらいをするですよ」 あくびを手で隠しながら、2人は部屋へ引き上げていった。 本館の中に消えていく2人を見送りながら、小雪・綺沙羅は持ってきた荷物をサルの仲居に手渡した。 「バスの中でしっかり寝ておけばよかったのに」と苦笑する。 しょうがないお姉さんたちですね、と御厨・妹も一緒になって笑う。 「はーい、TAKENOKO殲滅・地獄焼き班はこっちに集合」 元気な声に引かれて振り向くと、バスから少し離れたところで月杜・とらが手を上げてみんなを呼び集めていた。横には長机が置かれ、上に竹筒の水筒とオニギリが入った銀の包みが山のように並べられている。 場を仕切るとらの声を聞きながら、妹はリュックから虫除けスプレーを取り出した。腕や足にスプレーする。 「よしっ、これで完璧なのです! さあ、妹たちも……って綺沙羅、どうしました?」 「え? あ、ううん、なんでもない。行こう、妹」 綺沙羅は、いぶかしむ妹の腕に自分の腕を絡めて歩き出した。 別館の建物の更に奥。青葉の隙間に小さく、宿の離れの大きく開かれたふすま窓が見えている。 綺沙羅は気がつかなかったが、髪の長い女が窓の枠に腰をかけて本館前のロータリーをじっと見つめていた。女は中に知った顔がいないと分かったとたん、リベリスタたちに興味を失ったようだ。腰をあげると、すぅっと部屋の奥へ消えていった。 「うーん、空気がうまいな!」 ボストンバックを手にしたまま、空へ両腕を高く伸ばしたのは新田・快だ。本日は溜まりにたまった疲れを温泉で癒すつもりである。 レイチェル・ガーネットとエルヴィン・ガーネットの兄妹がバスから降りてきた。 快はとなりに並んだレイチェルに声をかけた。 「俺さ、先に部屋を見てこようと思うけど、レイチェルたちはどうする?」 「あ、私たちもたけのこ狩りをお手伝いしてきます」 エルヴィンが妹の言葉を受け継いだ。 「つってもびっくりして怪我とかした人の手当てくらいかな」 「そうか。がんばっておいで。慧架とルナはどうする?」 鈴宮・慧架はサルの仲居が伸ばす手を絶妙の間合いでかわすと、振り返った快に笑顔を向けた。 「私は温泉へ」 「私も」と言ったのはルナ・グランツだ。 「そうだ。ルナ、ラ・ル・カーナにも温泉ってあるのか?」 エルヴィンの問いにルナはもちろん、と胸を張った。 「あるよ。温泉大好き♪」 「へ~、機会があればラ・ル・カーナの温泉にも行ってみたいですね」、とレイチェルは目を輝かせた。 「そこの2人!」 えっ、と一同が目を向けると、ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァが背に竹網の籠を背負ったサルを従えて長机の前で仁王立ちしていた。 「現在、すでに作戦行動中である。直ちにこちらへきて装備を整えられたし!」 「ふ、2人って……俺たちのことか?」 「みたいだね」 ●ゴスロリとキツネ耳とオッサンと たけのこ殲滅班が列を成して山へ向かったあと、川で魚釣りを楽しもう班――といっても3名だけなのだが――は釣竿とバケツを手にサルたちに導かれて川へ向かった。うち2人はゴスロリファッションである。斬風 糾華とリンシード・フラックスだ。 「川で魚釣りって初めての経験なのよね。こう、チラチラとどんな物かはなんとなく分かってるけれど……」 「まあ、私も川魚を釣るのは初めてですわ。糾華お姉様、楽しみましょうね。ところで何が釣れるのでしょう。リュミエールさんはご存知?」 「知ラネェ」 リュミエール・ノルティア・ユーティライネンは後ろ歩きしながらふたりの後をついて来ていた。 「何をなさっているの?」 危ないですよ、といって糾華はリュミエールの腕をとった。 「後ヲつけて来ルおっさんたちガイル」 3人が立ち止まる。同時に坂の上で温泉帰りらしき浴衣姿の男性たちも立ち止まった。 年のころは50から60代。みな温厚で誠実そうな顔をしているが、ここの泊り客でアークの者でないとすれば、間違いなくフィクサードである。悪い人たちである。 「何ノ用ダ」 「あ、いやいや。けっして怪しい者じゃないよ」 手のひらを向けて『敵意はない』アピールをする小太りの二の腕を、隣に立っていたロマンスグレーが肘で突いた。 「思いっきり怪しいだろ、その言い方」 「確かに怪しいですわね」 リンシードが糾華を背の後ろにかばう形で一歩前に出た。 「何ノ用ダと聞イタ。サッサと質問ニ答えろ」 「あ~、いや、その、どこへ行くのかなって思ってね。……その格好で」 オッサンたちの視線が一斉にゴスロリ服とかかとの高い靴に注がれる。 「見て分かりませんこと?」 分かりません、とオッサンたち。 「私たちは川に魚ヲ釣りに行クトコロダ」 はあ、と零し、オッサンたちは半ばあきれ顔になった。 ●下準備 「まって、ボクが取ってあげよう」 四条 周は蒸し器を取ると、アンジェリカ・ミスティオラに手渡した。 「ありがとう」 「どういたしまして」 アンジェリカと入れ違いにエフェメラ・ノインがキィを連れて調理場へ入ってきた。 「周くん、女将さんが持ってきてって言ってるんだけど……こめぬかって何?」 「米糠はね、お米を精白したとき出る薄皮や胚芽のことだよ。たけのこを茹でるときに使うんだけど、採りたてなんだからいらないと思うけどなぁ」 「うん。でもさ、女将がいるっていうならいるんじゃないかな」 友利うららと並んで大量の米を研ぎながら、浅葱 琥珀が言った。 周が食料棚から米糠を探し出してエフェメラに持たせてやる。 「しっかし、周氏。どこに何があるか、よく知ってるね」 「あ、ああ……しばらくこの宿でお世話になっていたからね」 周は顔の左、斜めに走る三本の爪あとに指を這わせた。傷の下、辛うじて眼球は残ったが視力はまったくない。 なんとなく気まずい雰囲気になったところへアンジェリカがヘンリエッタ・マリアと一緒に戻ってきた。 「お米、とぎ終わってる? ボクたちで表に運ぶよ、ちょうだい」 「ダメダメ。重いよ。終わったらもって行くよ」 琥珀は力をこめてジャッ、ジャッと米を研いだ。 「あ、ダメよ琥珀くん。そんなに力を入れたらお米が割れてしまうわ。もっと優しく洗ってあげないと」 うららに叱られて、琥珀はぺろっと舌を出した。 「ごめん」 「いいから、手を動かして。お米がとぎ汁を吸っちゃう」 ふたりのやり取りを聞いてエフェメラが笑った。 「仲がいいね、ふたりとも」 「じゃ、ボクたちは天ぷら粉と卵を持って行こう。そこのおじさん、油を持ってきてくれる?」 おじさんと呼ばれて、元フィクサード堤 秀昭は新聞から顔を上げた。 「おじさんって……俺のことか?」 「そ。みんな頑張っているんだから、おじさんも働いてよね」 エフェメラたちに睨まれて、秀昭はしぶしぶ椅子から腰を上げた。 ●TAKENOKOを殲滅せよ 「実は私はTAKENOKO派だったりするのだが……しかしエリューションとなってしまったからには致し方あるまい。一人、いやさ一本残らず殲滅してくれるわ! いざ、進めリベリスタたちよ! 進軍!!」 おー、と勇ましい声が竹林にこだまする。 ベルカのかけ声とともに山を登っていくのは、彼女彼氏いないグループのみなさんである。いるかも知れないが今回はロンリー・基本おひとりさまということで。そのほか、カップル5組……ガーネット兄妹はカップルではないが便宜上こちらのグループに入れておく。そして―― 賑やかな一団とすこし離れた場所に、うふふふふふ、と低い声で笑う魔女がいた。ヴィヴィ・バッドホールだ。 「なかなか手に入らないあんな茸や、あんな植物を手に入れるチャンスだわ。アークに気づかれないようにたけのこを殺しつつ……うふふふ」 なにやら悪いことを考えているようである。 「さあ、行きましょうか……ってサル!?」 荷物持ちがほしい、という要望は通っていた。ただし人ではなく、サル。専属で2匹も助手がつくなんて贅沢ですね。 「ちょっと、相手がサルじゃ言葉が通じないじゃない。もう!」 ぷんすか歩きだしたヴィヴィの後ろで助手のサルたちが鳴き声を上げた。毛むくじゃらの手で導師服の裾を掴んで引っ張る。 「やめて! 何するのよ。邪魔しない――」 振り返った刹那のちゅどーん! E・たけのこの1発目はヴィヴィのお尻をぶっ飛ばして打ちあがった。 「何の音だ!?」 焔 優希は振り返った先に草むらに顔を突っ込んで倒れているヴィヴィのお尻を見た。あわてて斜面を駆け下る。 「おい、大丈夫か!」 優希はまわりでぎゃぎゃと騒ぐたけのサルたちを押しのけると、ヴィヴィの体をずぽんと土から抜いて起こしてやった。 「ふ、ふ……ふふのふ。おのれTAKENOKO。1本残らず地獄へ送ってくれるわ!」 「うむ。その意気やよし! ともにエリューションとなったTAKENOKOを完膚なきまでに駆逐しようではないか」 ふたりは横並びになると、交互に1センチ刻みで土にクワを入れだした。 「俺は飛び出したところを弐式で打ちぬく!」 「私はこのメイジスタッフでぶっ叩くわ!」 そんなことをしたらせっかくのたけのこが粉々になってしまうだけなのだが。まあ、任せよう。 ざくざくとクワを振るう優希とヴィヴィたちの斜め上では、御厨・夏栖斗と地獄焼きジョーカー・結城 ”Dragon” 竜一、それにとらのトリオが1つの穴を囲んでいた。 穴の中にはたけのこが枯れ草とともに押し込まれている。 「とらちゃんの号令で僕はTAKENOKOキリング・マシーンになる」 「我らが総帥とらよ、ご命令を。TAKENOKOを燃やせ、と!」 胸の前で腕を組んで瞑想していたとらが、かっ、と目を見開いた。 「うむ。今こそ、憎きTAKENOKOを駆逐する時!」 「『はっ!』」 「醤油は持ったか!」 「『はっ!』」 「箸はあるか!」 「『はっ!』」 「バケツに水は!」 「『万事抜かりなし!』」 「各員、“あたり”に備えよ!」 万が一これがEたけのこのだった場合に備え、夏栖斗と竜一は箸と醤油さしを手に持ったまま構えを取った。 「着火っ!!」、と叫びつつとらが枯れ草に火をつける。 ぎゃわん!! 着火と同時にあがった鳴き声に驚いて、「うおっ」「うわぁ」「うへー」と声をあげて尻もちをつく3人。 「な、なんだ。いまの――」 「とら、後ろ!」 竜一の発した警告に横っ飛びするとら。そのあとを尻を押さえたベルカが転がっていく。夏栖斗がとっさに手を伸ばしてベルカの襟をつかんだ。 「なにがあった、ベルカちゃん!?」 「TA……KENO、KOにやら……ガクッ」 「しっかりしろ、同志ベルカ! 傷は浅いぞ!!」 そのとき、ベルカを囲む3人の後ろから焦げ臭い匂いが漂ってきた。 「しまった!」 「うあぁぁ! せっかくのたけのこが黒こげになる」 「水だ! 水をかけろ!」 3人に放り出され、ベルカは再び斜面を転がりだした。 スパンスパン。 覚醒たけのこを刺激して打ち上げながら。 ゴロンゴロン。 ベルカは転がっていく、川へ向かって。 誰か止めてやれ。 綺沙羅と妹のふたりはバスを降りてからずっと一緒に行動していた。 「筍は若い奴のが柔らかくて美味しいから、地面に先っぽが見えるか見えないかな奴だけを狙いましょう」 綺沙羅は超直感で美味しそうなE・たけのこを探した。少し先によさそうなものを見つけ、妹を手招きする。 「これ、どう? 地獄焼きにするのに相応しいと思うわ」 「まい、地獄焼きを自分でするのは初めてなのですどうやするのです……?」 ゴケコゲになったたけのこをむしゃっていたとらが、横手から声をかけてきた。 「TAKENOKOの周りを掘り下げ、枯葉で埋めて燃やして地獄焼きにするんだよ」 「なになに。僕、手伝ってあげようか?」 口のまわりを泥棒ヒゲよろしく炭で真っ黒にした夏栖斗が立ち上がる。 「大丈夫よ。フラバンで麻痺らせて、鴉で仕留めてから焼くから」 「まいも殺るです! これはわたしたちのたけのこですよ!」 一心不乱にタケノコにもぐっていた竜一が紙皿の上から顔を上げた。嫌な予感がする。 「掘るです!」 妹がたけのこの直ぐ横にクワをがつっり入れた。 驚いたE・たけのこがすぐさま反応、ずぼっと土の中から飛び出した。 不意に飛び上がったたけのこに綺沙羅があわてて麻痺性のある閃光弾を撃つ。 「わっ!」 案の定というか、竜一のいやな予感は的中した。 範囲の中にいた全員が痺れて枯れ草の中に顔から突っ伏す。 「ご、ごめん。みんなだ――!!?」 落ちてきたたけのこが綺沙羅の頭を直撃した。 ●TAKENOKOはどうでもいいかな? (なにやってんだ、あいつら?) ランディ・益母は腰を伸ばした。斜面を転がっていくベルカを遠くに見ながら、ふう、と息をつく。 ランディの額に浮いた汗を、ニニギア・ドオレが自分の首からさげたタオルで拭う。 「ちょっと休む? もうすぐカゴいっぱいになるし」 「うん? いや、大丈夫。……そうそう。地面に刺さったままのたけのこを焼くと美味いんだが、やってみるか?」 「ええっ、このまま焼くの? おもしろそう、おいしそう♪」 ランディはニニギアの手を取ると、形と穂先の色がいい、“とびきり”を探して斜面をゆっくりあがった。 しばらくして陽だまりの中に、やわらかいクリーム色をしたたけのこの穂先を見つけた。 「どれどれ。これなんかいいんじゃないかな?」 「ええ、これはとてもいいたけのこだと思うわ」 「よし、これにしよう」 ランディはニニギアの手を離し、危ないから俺の後ろにさがっていろ、と言った。たけのこに手が届くギリギリまで近づいて、その穂先に直接火をつけた。 1、2、3……ちゅどーん!! お約束の展開である。火に包まれたE・たけのこがランディの顎を直撃した。これはかなり痛い。 「きゃあぁぁ、ランディ!」 アッパー食らって仰向けにぶったおれる大男。だが、その手にはガッチリいい感じに焼けたたけのこが握られていた。さすがである。 「大丈夫?」 「ニ、ニニ……回復たの、む」 はい、と言ってニニギアはランディの頭を膝の上に乗せると、そのまま顔を降ろした。ランディの唇に唇を重ねて聖神の息吹を吹きこむ。 「ん……」 ふたりのまわりをさらさらと笹の葉が音をたてて流れ……って、まっ昼間から何やってんだ、こいつら。くわーっ! ほかのカップルの様子を見に行こう。 ESPと超直観を活性化させ、祭 義弘は細心の注意を払いながら竹の間を日野原 M 祥子とともに歩いていた。 それもこれも大切な人にケガをさせないための用心である。 「わ、ホントに地面の下にあるのねー。見つけるのも面白いわ」 地面に埋まったたけのこを先に見つけたのは祥子だった。 「よし、まず俺がお手本をみせてやろう」 E・たけのこではないことを確かめて、義弘は袖をめくりあげた。たけのこからすこし離れた地面にクワを入れる。ざくざく、とある程度掘りかえして手を止めた。 「あら、ひろさん、どうしたの?」 「もういいだろう。祥子、スコップで掘ってごらん」 うん、とうなずいて祥子は穴の淵に膝をついた。スコップでまわりの土を優しく掘り返す。 「けっこう大きい!」 「どれ、一緒に……」 せいのー、と声を合わせてふたりでたけのこを引き抜いた。 「『わっ!』」 ぽーん、とたけのこが空を舞った。手を離したふたりは柔らかい若草の上に背中から倒れこむ。瞬き二回。顔を横向け、互いにじっと見つめあい、それからふたりして笑い声をあげた。 祥子は義弘の横で体を起こすと、地に落ちたたけのこを手に取った。 「あたしが知ってるたけのこは、もっと細くて柔らかいのよ」 水煮になってスーパーで売ってるものしか見たことないわ、とたけのこを義弘の胸の上に置く。 「……て言うか、竹林も初体験」 義弘も起き上がった。たけのこをカゴに入れる。 「きてよかったな」 「うん。あーあ、でも……」 「でも?」 当りをひいてケガをしたら大袈裟に痛がって、ひろさんにお姫さま抱っこしてもらうつもりだったのに、と祥子はちょっと残念そうな顔でうつむいた。 義弘は祥子の肩を抱いて引き寄せると、額と額をくっつけた。 「馬鹿だなぁ、祥子は。お姫さま抱っこぐらいいつでもしてやるのに」 そう言うなり祥子の膝の後ろへ腕を差し込んで、木の葉を舞い上がらせながら抱きかかえあげる。 祥子は、きゃっ、と小さく悲鳴をあげると微笑みながら義弘の首に腕をまわし――って、ここもか、おい! TAKENOKOはどうした! 次だ、次! 草臥 木蓮は岩肌に足をかけると、雑賀 龍治にとおそろいになった登山靴の紐を縛り直した。 その傍らでは龍治が岩に腰をあずけつつ、口元を緩めて山菜の入った袋を眺めている。 「けっこう採れたな。夕食が楽しみだ」 「ふふ、夕飯はねじまき……じゃなかった、ゼンマイとたけのこ、それにそれに、ええっと……」 木蓮に代わって龍治が指を折りながら採れた山菜の名を上げていく。 コシアブラ、タラノメ、シドキ、ウルイ、コシアブラ、タラノメ…… 「龍治はほんと、物知りさんだな。俺様も鼻が高いぜ。よし、山菜を使って炊き込みご飯とおひたしを作るぞ!」 ふたりは少し早めに山を降りて、調理班と合流することにした。 「あ、でもその前に温泉に入って体をほぐしたいな」 「じゃあ、さっさとたけのこを狩るとしようか。ほかの連中がせっせと採っているだろうから、俺たちの分だけでいいよな?」 それでいいんじゃない、といって木蓮は竹筒のお茶を飲んだ。口を閉めずにそのまま龍治に手渡す。 「サンキュ♪ うん、うまい。オニギリも美味しかったな」 「ふふん♪ 俺様がつくる炊き込みご飯とおひたしも絶品だぞ。たけのこ狩りでしっかりお腹を減らせよな」 おう、とそっけなく返した龍治だが、うしろで尻尾がぱたぱたと揺れていた。楽しみで仕方がない、というのが一目瞭然だ。 木蓮はそんな龍治の様子を見てふっと笑い、頭をよしよしとなでた。 「しっかり案内頼むぜ、ガイドさん」 龍治の手をとり指を絡め、そのまま腕を引いて岩からはがす。 「俺様は方向音痴なんだからな、ちゃんと宿まで連れ帰ってくれよな」 「わかってるって。おいおい木蓮、引っ張るなよ。ガイドよりも先に行くやつがいるか」 龍治は笑いながら木蓮を引き寄せた。 少し急になった斜面に頭を出したたけのこを見つけた。 龍治は穂先の角度から発射方向を推測し、木蓮とともに一撃を喰らわぬ位置へ移動した。 「覚醒たけのこか?」、と木蓮。 「ああ、たぶん。普通のたけのこと少し先の色が違う。やわらかな白は最高級品の証だが、この白は固い。それにやたら先が尖ってるしな」 木蓮の熱い尊敬のまなざしを頬に受けて、龍治はちょっぴり胸をそらす。 果たして龍治たちが見つけたたけのこはE・ビースト『たけのこ―気分はロケット―』だった。 発射後、龍治が集音装置でたけのこの落下地点を探った。 「あっちだ」 あわてずにゆっくりと、斜面をしっかり靴底に捉えて、ふたりは落ちたたけのこの回収に向かった。 ●竹林の奥にて祭られしもの 「おっと、あひる。そのへん、土が柔らかくて凹んでるから気をつけろよ」 焦燥院 ”Buddha” フツは、注意を促したそばから窪みに足を取られてよろける翡翠 あひるの手を握った。 「ふぁあ、びっくりした」 「大丈夫か、ケガはないか?」 フツの心配をよそに、あひるは「へいきへいき」といたってにこやかだ。 ふたりは旅館からかなり離れたところまで来ていた。デート気分でたのしく竹林を歩くうち気がつけば、というやつである。 吹く風の中に冷たさを捉えたフツは、顔を上げて竹の隙から空の色を見た。そろそろみんなのところへ戻らなければな。そう言おうとした矢先、あひるが声をあげた。 「あ、フツ見て。あそこ、タケノコの頭みーっけ」 フツから手を離してぱたぱたと駆けていく。ふと、立ち止まり、振り返って、 「めったにない機会だし……たくさん、おおきーいタケノコとって行こうね!」と言った。 ああ、マジかわいいな、とにやけるフツ。もう少しだけいいだろう、とあひるのあとを追いかけた。 見つけたタケノコの周りをふたりで掘った。 「わ! フツ、これ今にも飛び出そうだよ……!」 「あひる、あとひと堀してくれないか。気をつけてな。飛び出してきたのをオレが受け止める」 「うん。い、いくよ!」 あひるが、えい、と土にクワを入れる。 フツは飛び出たたけのこを両手でキャッチした。 「わーっ! すごいね、大きいの取れた! フツ、これ記念写真とろうっ!」 あひるにたけのこを手渡して、フツはポケットから携帯を取り出した。大きなたけのこを胸に抱きピースサインでポーズを決めるあひるを見て、ちゃんとしたカメラを持ってくればよかったな、と思う。 「あ、ちょい待て、ほっぺに土がついてるぜ」 あひるのところまで歩いていくと、軍手を取って頬についた土を拭ってやった。 「よし、撮ろう」 改めてピースするあひる。 フツはすぐに撮った写真をメールであひるの携帯へ送った。 「えへへ。つぎはふたりで一緒に映りましょ……!」 あひるの肩を抱き、ふたりがちゃんとフレームの中に納まるように携帯をもった腕をめいいっぱい伸ばす。 そのとき、ふたりがいる場所から少し上のほうで歓声が上がった。やや遅れて、どすん、と何かが落ちた音。 「なんだ?」 「フツ、行ってみよう!」 エルヴィンとレイチェルは中から光を放ちはじめた1本の太い竹に近づこうとした。竹の守りについていたサルたちが歯をむき出してふたりの前に出てきた。 「なにもしない。本当だよ。ただ、もう少しそばで見たいだけ」 レイチェルの言葉を受け入れて、サルたちはおとなしく白縄の張られた結界の傍まで下がった。 「兄さん、これ、もしかして」 「覚醒たけのこの親、か?」 どすん、と空からたけのこが落ちてきて一瞬、驚く。 エルヴィンは後ろを振り返った。下から龍治と木蓮、それにフツとあひるのカップルがそれぞれ別の方角から登ってきていた。 「あ……レイチェル、うしろを見てみろ」 蒼さを増しつつある竹林のあちらこちらに淡い光の点が浮かんでいた。すべて覚醒たけのこが掘り返された跡である。 カップルたちも足をとめて後ろを振り返った。 「ロマンチックな眺めだね、兄さん」 夜になればいっそう幻想的になることだろう。このまま暗くなるまで待っていたいような気もするが……。 「そろそろ戻ろう。俺は温泉に入って、たけのこ料理をつまみながらちびちびとお酒がのみたい」 エルヴィンは足元に落ちていたたけのこを拾い上げた。手を差し出してきた龍治に渡す。 「みんなはどうする?」 「俺たちは……もう少しここにいようと思う」 「そうか。夕食に遅れるなよ」 ●ゴスロリとキツネ耳とオッサンと2 時は少し前に遡る。舞台を山から川へ移そう。 「服を針に引っ掛けないように気をつけましょうね」 糾華はリンシードの手を取りながら、大きくて平らな石の上に腰をかけた。すかさず御供のサルがえさの入った小さなバケツを横に置く。 「問題は…これね…餌…どうして虫なのかしら…こんな…キモイ…ね、リンシード、出来る?」 リンシードはすでにバケツの中に手を入れて虫を1匹つまみ出していた。 「ちょと可哀そうですが……すみません、お魚の餌食になってください」といいつつ、ぷちぷちと針に通していく。 「あ、出来るの……なんだか、ちょっと心強い」 バケツに手を入れるのを躊躇う糾華を見て、リンシードは微笑んだ。つけてあげましょうか、と手のひらを出す。 「ん、どれ。おじさんがつけてあげよう」 オッサンは糾華の釣竿を取り上げると、頼まれてもいないのにさっさと針にエサの虫を通してしまった。 「どうぞお構いなく。……あちらでみさなんと釣りを楽しんでいてください」 リンシードに睨みつけられてもおっさんはニコニコと笑っている。冷たい声にまったく気を害した様子もなく、自分の釣竿にエサをつけると糾華の横に腰を下ろした。 どぼん、と水音がたち、3人が一斉に顔を振り向けた。 リュミエールにしつこくつきまとっていたオッサンの1人が川の中でしりもちをついていた。 どうやら岩の上からリュミエールにけり落とされたらしい。 「よ、水も滴るいい男だね、石田先生!」 あきれたことに誰も助けに行こうとしない。岩の上にいるオッサンたちは、水を滴らせながら立ち上がった仲間を指差してけらけらと笑っている。――と、もう1人、リュミエールに後ろから尻を蹴られてオッサンが川に落ちた。 「あちゃあ……また落とされちゃったよ。あ、いま落ちたのは木村先生ね」 「名前なんて聞いていませんけど?」とまたしても冷たい声でリンシード。 「つれないなぁ。ここにいる間ぐらいフリでいいから仲良くしようよ、アークのお嬢ちゃん」 それまで黙って釣り糸を垂れていた糾華が、会話に割って入ってきた。 「互いの素性を詮索するのはタブーだと聞いています。……どうして私たちがアークの者だと?」 「そりゃ分かるよ。一目瞭然だ。お嬢ちゃんたち、全身で正義の味方をアッピールしてるんだもの。なんていうか、まぶしいぐらいにね」 まあ、中には半分闇に足を突っ込んでいそうなヤツもいるようだけど、とハゲ頭を光らせて笑う。 「うっ……まぶしいのは貴方のほうです。それよりも、私たちだけ素性が知られているのは不公平ですわ。差し支えなければ所属をお聞かせ願えないかしら?」 「え、分からない?」 だらしなく浴衣を着崩したオッサンを見て、今度は糾華とリンシードが声を揃えて言う番だった。 「分かりません」 「お前モ落チロ!」 「仲良く釣りを楽しもう」 「断ル!」 大きな岩の上でロマンスグレーのオッサンと2人、リュミエールはぐるぐると円をかいていた。 釣り糸をたらしながらノンビリ昼寝を楽しむつもりであったのに、何が悲しくて加齢臭ただようオッサンたちに囲まれねばならんのだ。高原とかいったか、あの若い男。腕にたくさんの釣竿を抱えて現れたと思ったら、あの野郎……オッサンたちをこっちに押し付けてとっとと逃げやがった。先生方の御守をよろしくだと? フザケンナ! 何周目だろうか。リュミエールが川を背にした瞬間、ロマンスグレーの目つきが突然きつくなった。 「伏せろ!」 腰を落とした刹那、耳の先を何かが掠めて飛んでいった。 「ナンダ、今ノハ!?」 岩を降りて落ちたものを確かめに行くと、そこにあったのは茶色い皮の中でぐちゃぐちゃに潰れたたけのこだった。 「さっきのは危なかったなぁ、ケガしてないかい、ふたりとも?」 浴衣の裾を絞りながら、川に落ちたオッサン2人がやってきた。 小太りが山のほうを振り返り、「キツネちゃんのお友達は山の中で何してるの?」と言った。 「キツネいうなタヌキ! しっぽ食イちぎるゾ!」 小太りはいや~んと身をくねらせると、尻ではなく両手で前を隠した。 「石田先生。そんなことをするからナースたちにセクハラ大魔神ってあだ名をつけられるんですよ」 川に落ちたもう1人のほうがあきれた口調で小太りタヌキをとがめる。 「オ前タチ、医者カ?」 「そうだよ。表の仕事はね。みんな六道ってだけで、勤めている病院も違えば専門分野もバラバラだけどね」 リュミエールがげっとなったところへ、第二弾が河原に打ち込まれた。さらにもう一発。 「へ? たけのこ狩りだって? これが?」 「アークじゃたけのこは飛ばすものなのか。……変わってるねぇ」 ざざざ、と音をたてて崖から体を丸めたベルカらしき人物が勢いよく飛び出してきた。かなりの高さから底の浅い川に落ちようとしている。 助けに向かおうとしたリュミエールの肩をロマンスグレーが掴んで引き止めた。 「何をスル!!」 「大丈夫。もう平田先生が翼の加護をかけているよ」 ナイス、ハゲ! ●湯気の向うに飛ぶたけのこ 脱衣カゴの中にきちんと畳まれた浴衣が一着。先客がいるようだ。 快は帯を解くと牛柄の浴衣が入ったカゴの隣へ入れた。 「牛柄? そんなデザインの浴衣、おいてあったけ?」と首を傾げた。 男性は2種類、女性は5種類の中から好きな浴衣のデザインを選んで着られるようになっていた。だが、男ものの中にも女性ものの中にも牛柄のものはなかったはずだ。自分で持ち込んだものなら、ずいぶんオシャレなやつだな、と快は思った。 「あ、わるい。これ、あとで持って来てくれるかい?」 ちょこんと木の丸イスの上に座っていたサルにお盆とお銚子セットと酒瓶を渡した。旅館のハッピを着ているし、言葉は分からなくてもこちらの頼んだことは分かってもらえる……はず。 大丈夫かな、と思いつつ、快は腰に手ぬぐいを巻いて脱衣所を出た。 湯気の向うでかぽん、と木オケの音が響いた。岩風呂の手前にある洗い場で、若い男がサルに背を流してもらっている。男自身はオケの中で何か人形のようなものを丁寧に押し洗いしていた。 一声かけてから横に腰を下ろす。 「どうも」 「やあ」 ふと、男のオケの中に目をやると、泡の中から牛の人形が顔を出した。 「『よう♪ オッスオッス!』」 牛人形が泡を飛ばしながら口をパカパカさせた。パペットか。それにしてもヘンな ヤツと一緒になってしまった、と快は少し頬を引きつらせた。 体に湯をかけていると、脱衣所のほうで何かが倒れる音がした。 「ありがとう、もういいよ。キミたち、脱衣所の様子を見てきて」 男の背を流していたサルとそのすぐ傍で控えていたサルがさっと脱衣所へ走っていった。男は一度も脱衣所の方へ顔を向けていない。それどころかサルたちも見ていなかった。うつむいてオケの中の牛を濯いでいる。 「動物会話、できるんだ」 「思考する生き物ものとなら大抵通じ合えるよ。初めて出会ったアザーバイトでもね」 男はよし、といってオケの中から牛の人形を取り上げた。そこへサルたちがお盆とお銚子セットと酒瓶をそれぞれ手に持ってやってきた。 「うあ~、半分零したらしいよ。新田くんが持ってきたお酒」 「しようがないな。渡した俺が悪い。半分も残っていればいいよ……って、俺、名乗ったっけ?」 「ん、ああ……。悪い。サルたちの思考の中で名前を拾った。ボクは高原 流」 「『オレはモーモーさんだ。よろしくな、新田!』」 タワー・オブ・バベルか、それに似た能力か。マスターテレパスも持っているかもしれない。 「ボクたちも湯の中でお相伴に預かっていいかな?」 快ははっとして顔を上げた。知らず知らずのうちに相手の能力を探ろうとしていた自分に苦笑う。常に戦いの中に身を置くものとしてはまっとうな感覚だが、いや、ずいぶんと野暮なことをした。 「もちろん。そのつもりで持ってきたんだ」 立ち上がってサルたちから盆とお銚子セットを受け取った。 流が酒瓶を手に持つ。 「春山の景色を肴に一杯やろう」 女風呂では慧架とルナのふたりがやはり春山の景色を楽しみながら湯に使っていた。ビジュアル的に大変つまらないことに、ふたりとも水着を着ている。まったくけしからん。 「偶には温泉三昧の1日って言うのも良いと思うんだ」 表面を湯が流れる石に腕を重ね、その上に顎を乗せてルナはほうとため息をついた。フィアキィのディアナが躊躇いがちにルナの肩上に腰を降ろし、湯に足を浸した。 「最近戦ってばかりだもんね、本当に。気持ちいい?」 指の先でやさしくディアナの頭をなでてやる。 サルたちが冷たい飲み物を盆に載せて運んできた。慧架が女将にリクエストしていたミルクティーだ。キンキンに冷えている。露のついたグラスを2つ受け取って、慧架はルナの横へ身を滑らせた。はい、とひとつを手渡す。 「知らない人が来ましたら是非世間話でもしたいですねぇ」 「アークの人じゃない知らない女の人っていったら……」 ルナは視界の隅に少し見えていた瓦屋根を指差した。慧架がうん、とうなずく。 「慧架ちゃん、その人に絶対に近づいちゃダメって女将さんが言ってたよ。よくわかんないけど、イツダッシャだからって」 「へえ……。イツダッシャって、なに?」 「さあ?」 正しくは逸脱者である。 「ちょっと残念ですね。フィクサードさんたちと話をすることなんて滅多にないのに」 そういって慧架はストローをくわえた。 「おじさんたちとあとで話をすればいいと思うよ」とルナがフォローする。 「え、あの人たち……セクハラされそうだからヤダ」 温泉に向かう道でほんの一瞬すれ違っただけなのにずいぶんな言われようである。だが、正しい。 うんうん、そんな風にみえた、とルナが同意して、ふたりで笑い声をあげた。 ●敵も味方もありません 「皆食材取りご苦労様」 アンジェリカは山から下りてきた優希たちたけのこがいっぱい入ったカゴを受け取ると、大鍋をかき回しているエフェメラのところへ運んだ。 「龍治さんたちが山菜を取ってくるっていってたけど、まだ降りてこないね」 「そうだね。ちょっと遅いね。そういえばフツたちの姿も見えないなぁ」 「それにしてもすごい灰汁。気のせいかな、ちょっと……カレーの匂いがする。まさかと思うけど、ルーか何か入れた?」 エフェメラは首を横にふった。 もうもうと湯気を立てる鍋、実は五右衛門風呂のそれである。ちょっと前にアークの誰かさんが危うくカレー鍋にされかけたあれだ。 「気のせいじゃない?」 「……かなぁ」 「とりあえず、これの下茹でができたらラ・ル・カーナ風の蒸し焼きと煮込みにしてみようっと♪ 手伝ってね、アンジェリカ」 いいわよ、とアンジェリカは茹で上がったたけのこをたものようなもので大釜の中からすくい上げた。 琥珀はアンジェリカから茹で上がったたけのこを受け取って、長机を並べた急ごしらえの調理台に運んだ。 「うららちゃん、ゆでたてだよ。熱いうちにバター醤油で焼いて食べよう」 いいながらもうさっくり切ったたけのこを火の上に置いていく。 「美味しい物を美味しく食べられる、そういうのが幸せだったりするんだよな。身近すぎて気づかないけどさ……そうだ、今度デートしよう! 美味しい物でも探しにいこーうよ」 「もう、琥珀くんたら。さっきから、冗談ばっかり」 「歳なんて関係ない。うららちゃんはかわいいよ」 包丁を止めてうつむいたうららに、琥珀が真剣な顔で言った。 「ん、もう。琥珀くん、あたし知ってるんだから。いろんな女の子にそんなこと言ってるでしょ?」 琥珀は「いってない、いってないよ」、と焦った顔で首をぶんぶん振った。 「まいったなぁ。だれがそんなことを言ってるのかなぁ」 「誰でもない、自分自身だ! いつも俺がへらへらするなと言っているだろう、琥珀。そんなだから誤解されるんだ」 どん、と川魚が盛られたざるを机の上に置いて、優希は立ち去っていった。 「あ~、うららちゃん。ごめん。これ、塩焼きにしてみんなに配ってあげて」 あ、というとらの声に、キノコを網で焼いていたヴィヴィと夏栖斗、それに竜一が顔をあげた。 「なになに、あれ。ライトアップの演出? 憎いね~」 夏栖斗は額に手をかざして夕日をさえぎりながら、全体が影になった山を見た。 ところどころでぼんやりと竹が下から光りを当てられ浮かび上がっている。 キノコを片手に竜一が、「きれいだな」と言った。 「上のほうにまるっと1本、光ってるのがあるな。あれは……?」 女将のマリリン・井出が後ろから、 「あれが覚醒たけのこたちの母親ですよ。ある依頼で縁ができて……わたしたち夫婦が守っているんです」 これから夏の終わりにかけて、毎晩覚醒たけのこたちが飛び出た穴とあの竹が光を放つという。 「夏には川に蛍も飛びます。宜しかったらまた遊びに来てくださいね」 たけのこご飯にたけのこの天ぷら、たけのこのラ・ル・カーナ風の蒸し焼きになぜかたけのこピザ。それに川で糾華たちが釣って来たニジマスの塩焼きなどなど。たくさんの料理がテーブルの上に置かれた。お茶とともに地元の名酒も用意されている。 別館の泊り客、六道のおじさんたちもちゃっかりアークの面々の中に紛れ込んで、たけのこ料理を楽しんでいた。 その中に高原 流の姿はない。 「なあ、優希」 「なんだ」 「依頼をこなしてると、いろいろ辛いことや悲しいこと、たくさん体験するよな」 なにが言いたいんだ、という顔をして、優希は琥珀の横顔を睨んだ。 「俺はどんなに辛くても、どんなに悲しくても、けして笑顔を絶やさないよ。不条理な運命に弄ばれて、フェイトを得ることなくその命を散らした人たちのために、二度と笑えない彼らの分まで笑っていたいと思う」 「……お前はへらへら笑いすぎだ、琥珀。時と場合、というのがあってだな――」 あ、といって琥珀が山を指差した。 つられて優希も山を見る。 「なんだろうな、あれ。きれいだなぁ」 「ああ、きれいだな」 琥珀は立ち上がった。優希の腕をとってみんなの所へ引っ張っていこうとする。 「よせ。俺は……敵とは馴れあわん」 「ここじゃ、敵も味方も関係ない。そういうお約束だぜ。楽しむときは肩の力を抜いて楽しもう。な、優希」 2組のカップルが山から下りてきたときには、宴会はすっかり盛り上がっていた。その夜、遅くまでどんちゃんさわぎが続いたという。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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