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あかぬわかれ

●忘八
 その日は花散らしの雨であった。田舎の土手の上に植えられた桜並木に執拗に降り続ける生暖かい雨は、満開を少し過ぎた桜をひたひたと地へ眠らせる。そしてアスファルトや土、そして水溜りや側溝の水面に花の散る姿を隠すかのように花弁はたまり、最後の鮮やかさを見せていた。
 少し見上げれば桜の木々には早くも緑の色が花弁の代わりのように顔を出し、もう数日たてば葉桜となるだろう。その鮮やかさは、曇天であるにも関わらずその輪郭をはっきりと映し出すほど鮮やかな新緑であった。
「桜、まだかなあ。桜、まだかなあ」
 桜と同じ、鮮やかな髪の色をした少女がしゃがみこみ、すでにほとんど散ってしまった桜の木を見上げながら、手に持った短刀で地面を掘っている。しかしそれは掘っているというにはあまりに単調で、どちらかといえば手持ち無沙汰であるために地面に突きたてている、とみるのが近い。
 しかしそれは間違いなく掘っているのだ、少女は桜を見上げたまま、少しずつ少しずつ深く、地面に短刀を突き立てていく。何度も、何度も突き立てていく。少女の纏う質素な着物と、鮮やかな桜色の髪に花弁や雨が珠となって咲く。そうしてどれほどの時がたっただろうか。不意に、土を掘るとは違う鈍い、何か柔らかい物に刺さるような音がする。
 えぐられた地面からわずかに覗くのは、まだ頭髪も、頭皮も残っている人間の頭のようなものであった。少女はそれを意に介さず、虚ろな瞳で空を見上げたまま、唇を開く。
「桜、まだかなあ」

●遊里
「これが私の見た『物』よ。桜の木の下には死体があるから、といっても。死体があるから咲くわけじゃないのにね」
 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が深くイスに腰掛け、ゆっくりと動きながら炭酸飲料の入ったカップに口をつけ、首を傾げて同意を求めるようにリベリスタ達を見つめる。
「敵はE・アンデッド。桜と同じ色の髪をした、少女の姿をとっているわ。高めの下駄に退紅色の着物を着ているから、一目でわかる。出現しているのはベッドタウン近くの川、その土手にある桜並木。近所に住んでいる人間も桜の季節なら通りかかるけど、散ってしまえば人通りはまばらよ。その中で……」
 イヴは目を伏せる。幾度と無く伝えてきた言葉を、今日も伝えるために。
「その中で、彼女は人を殺して桜の下に埋めている。すでに犠牲者は出ている。これ以上被害が出る前に止めて、必ず」
 その上で、とカップの中身を飲んでから続ける。
「犠牲者を出さない為に進行すると日中の雨になる、人通りは少ないとはいえ、道路が通っているから一応気をつけて。彼女は逃げたりはしない、声をかければ桜の養分にしようと襲い掛かってくるわ。それと同時に、彼女の気に当てられてE・エレメントが八体出てくる。能力は低いけど油断は禁物よ」
 カップを置き、机をゆっくりと指でなぞりながらイヴはリベリスタ達を見回す。少し疲れたように二度三度と呼吸をする。
「彼女の攻撃方法はスピードを生かして広範囲を切り刻む攻撃、養分が欲しいのね、受ければ大量出血は免れない。あとは、威力の高い個人狙いへの刃を突きたてる攻撃、こっちは相手の血を吸い取って自分の物にする。傷を埋めるから、十分に警戒して。エレメントは単純、遠距離の敵に対して不吉な呪詛をぶつけてくる攻撃と、相手を弱体化させる攻撃を使い分ける。知能は無いに等しいから、上手く分断すれば集中攻撃も受けないでしょうね」
 以上よ、と言ってイヴは目を閉じる、質問の有無を確認し、いつものように少しだけ微笑む。
「大丈夫、貴方達ならやれるわ。彼女がどういう夢を見ているかは知らないけど、終わらせることに変わりはないもの」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:春野為哉  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年05月08日(水)23:18
 いつもお世話になっております、私です。今回は足元に散っている桜にも気付かない、何かの事情が過去にあったアンデッドとその取り巻きが相手になります。少女とは一応会話は可能ですが、理性的な会話には程遠い物になると思われます。ただ少女の興味を引くことができれば、何か変化があるかもしれません。
 以下、データとなります。

●勝利条件
 全てのエリューションの撃破。

●戦場
 ベッドタウン近くの川の土手、そこにある桜並木になります。到着予定時刻は日中、天候は霧のような雨、人通りはまばらですが車道が近くにあるので、対策が必要かもしれません。また土手の斜面はやや急なため、もしソコに移動した場合滑りやすくなっております。

●少女
 桜色の長髪が特徴的な、短刀を携えた和服の少女のE・アンデッドです。すでに数人を殺し、桜の養分にしています。攻撃方法は以下の通りです。
「短刀乱舞」
 養分となる血をもとめて周囲を恐ろしい速さで飛び回り、攻撃します。属性物理、効果距離:近、効果範囲:域、失血付与となります。
「短刀吸血」
 自分が動くための養分を相手に求めて短刀を突き立てるもので、かなり攻撃力が高いです。属性神秘、効果距離:近、効果範囲:単、HPを大きく回復します。対策は必須でしょう。

●E・エレメント
 桜色の人型を模したエレメントで、八体存在します。耐久力は低く、攻撃力もさして高くはありません。知能は低く、少女も命令を下すなどはしないので本能的に行動するのみです。
「桜の弾丸」
 桜の花弁状のオーラを弾丸のように放ちます。属性は物理神秘二種類、効果距離:遠、効果範囲:単、物理モードでは弱体を付与、神秘モードでは不吉を付与します。使用の優先度はダメージが通り、また手傷が深い者。次点で同じバッドステータスを受けていない者です。

 以上です、皆様の御武運をお祈りします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ソードミラージュ
司馬 鷲祐(BNE000288)
覇界闘士
大御堂 彩花(BNE000609)
ソードミラージュ
神薙・綾兎(BNE000964)
インヤンマスター
★MVP
岩境 小烏(BNE002782)
ソードミラージュ
災原・闇紅(BNE003436)
プロアデプト
鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)
ミステラン
ヘンリエッタ・マリア(BNE004330)
ホーリーメイガス
キンバレイ・ハルゼー(BNE004455)

●今ぞ知る
「桜、まだかなあ。桜、まだかなあ」
 まるで環境音のように、少女はひたすら同じ言葉を繰り返していた。曇天の空に咲く新緑の桜をが目に入っていないように見つめたまま、鈍い音を立てて短刀を地面に突き立てていく。退紅色の着物の裾が泥で汚れるのも構わずに続けるそのさまは、神秘的でありながら執念すら感じさせる。
「すでに止まって久しいか……」
 その姿を眺めて『神速』司馬・鷲祐(BNE000288)がつぶやく。少女の姿は生きているようで、だからこそ不気味さが際立っている。生者にあるまじき行為を、少女は続けているのだ。この曇天すら、それを隠そうとしているようにさえ見える。
「古典的なしがらみのようですが、止まってしまったなら終わらせるまでです。それが現在の因果を曲げるならば」
 むん、と端整な顔立ちと凛々しい意思の瞳を向け『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂・彩花(BNE000609)が気合を入れる。
「キャー! シャチョーさんカッコイイのです! さすが体重100kg越えてる鉄壁彩花なのですよ! 地面にめり込むくらいの気合がステキなのです! 早くお仕事おわらせて、えっと、えー……びでお、でるのでしたっけ?」
 と泥が跳ねることも構わずぴょんぴょんと跳ねながら彩花に声援を送り、はたまた今度は考えこむキンバレイ・ハルゼー(BNE004455)なのだがその直後、振り向いた彩花の表情に固まってしまう。おそらくその表情は、下手なエリューションより怖い。
「まぁ、くだらないロマンであることはたしかよね。そのせいでこんなところに出向かないといけないわけだし……」
 和服の袖で口元を隠しながら『深紅の眷狼』災原・闇紅(BNE003436)が虚ろな瞳で未だに地面に短刀を突きたて続ける少女を見やる。闇紅はその先に続ける言葉を、今はまだ自分の内に秘めている。まだ戦いは始まっていない故に。
「掃除を任された以上それはあきらめるしかないです災原様。わたしはその中でも簡単なお仕事ですが」
 めんどくさそうに帽子のツバを深く傾け『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)が語りかける。楽しめばよいのにと闇紅が言うが、肩をすくめる。
「でも本当に、桜みたいに綺麗な子だよね。あんなことしてまで、どうして桜を見たいんだろう」
 さらりと金髪を揺らして『金雀枝』ヘンリエッタ・マリア(BNE004330)が首を傾げる。
「わからないけど、今日の雨でもう桜が全部散るかもしれないね、その前に――終わらせてあげたいな。桜に罪はないし」
 それに応えるように少し思うところがあるのか、『淋しがり屋の三月兎』神薙・綾兎(BNE000964)が耳をぴこんぴこんと動かす。古い縁から生まれているこの事件、その詳細を知る術は今、リベリスタ達にはない。それを知ってかもう一人、リベリスタ達の先頭を歩く。
「通行止めの看板は置いてきたよ、結界も合わせればまぁ大丈夫だろう」
 一仕事終えた、と言いたげに『赤錆烏』岩境・小烏(BNE002782)がそうして少女に近づく、もう二三歩、という距離になっても少女はまだか、まだかとつぶやきながら虚空を見上げている。小烏がリベリスタ達を見回し、準備をととのえ終わっていることを確認してからゆっくりと口を開く。
「こんな雨の日まで、桜の世話かい。嬢ちゃん、精が出るねぇ」
 静かなその言葉に、ようやく少女がつきたてるのをやめてリベリスタ達を見る。そんなゆっくりとした沈黙、雨音と葉のさざめき、それが開戦の合図になった。


●暁は
 少女は即座に反応した、ソレこそ今までの緩慢な動作が嘘のように。桜色の頭髪がざわりと浮き上がるかと思うと。殺気に空気が歪んだように見えた。その歪みが大きくなると、八体のエレメントが飛び出してくる。予想通りである。リベリスタ達は即座に布陣を展開する。綾兎が少女の正面に躍り出て、他のリベリスタ達が一斉にエレメントを狙う構図である。少女の広域攻撃に対して長期戦は不利、と判断した以上の妥当な判断である。
「こんにちは、お嬢さん。一指しお相手願おうかな」
 少女は頭数を判断したのか、はたまた力量を察知したのか広域へと飛び回る構えを見せるが、その前に綾兎が高速で立ちふさがり、振りぬく前の短刀を鉄扇で制する。わずかな沈黙。微風が綾兎の鼻をくすぐり、少女から桜の香りを感じさせる。
「ねぇ……桜、好きなの」
 そのあまりに優しい香りに、思わず綾兎は声を漏らす。
 一閃、愚問だと言うように制された鉄扇を力で振りぬき、綾兎の身を少女は裂く、急所はそれている、だが浅くは無く、予想通りに重い。
「抑えは頼んだ、すぐ終わらせる」
 その様子を見て鷲祐はトップスピードで跳躍、散開したばかりのエレメントの一つを捉える。手ごたえはある、亡霊のようなものでありながらこの生身にも等しい手ごたえは、少女が与えた物なのか。それが、八つ。いかな執念なのかと背筋が痺れるような感覚がはしるが、ソレを振り払い、更に切断する。
「邪魔ね……」
 めんどくさい、とばかりにつぶやいた闇紅が鷲祐の切り裂いたエレメントの傷口をえぐるように追撃、小さな身体は優雅に花弁のように翻り、わずかにふりだした曇天の雫とともに落ちるようでもあった。さくり、といい音がした。まずは一匹。桜の花弁が爆発したようにエレメントが散る。
「オレは桜に聞きたいことがあるんだ。邪魔はしないでくれるかな」
 ヘンリエッタが深呼吸し、意思をその瞳に宿す。流れるような動作で弓を連続で三射、精密な援護を行う。一射、殺気にゆがめられたように外すものの残りは命中。大きくエレメントの姿が揺らぐ。射線が開き、少女のもといた桜の木がヘンリエッタと目を合わせる。
「君達は、彼女を知っているかい?」
 沈黙、騒乱の中で木々は答えない。おそらくは全てが終わった後ならば、口を開くのだろう。真面目な木だ。そう思い、次の矢をつがえる。
「出遅れた、すまないね」
 小烏の守護結界がリベリスタ達を包み、防御を整えたのとほぼ同時に、エレメントたちが一斉に動き出す。花弁が弾丸のように飛び散り、リベリスタたちの視界を奪うかと思うほどの量を撒き散らす。手傷を負った綾兎に二発、その他は小烏、闇紅に一発、そしてキンバレイに弱体の弾丸が三発放たれる。
「はっ」
 獅子が吼えるように彩花がキンバレイの前に仁王立ちし、その全身を使って攻撃を受け止める。服を貫き、皮膚を貫こうともその程度で止まるほどやわではない。血濡れの花弁が勝手に抜け落ち。彩花は今一度気合を入れ、キンバレイに微笑みかける。
「私がここにいる限り、貴方には指一本触れさせませんから安心してください」
「シャチョーさん強くて硬いのです! 頼れるオヤジの背中なのですよー!」
 たのもしさに背中にぴったりとくっついていたキンバレイがきゃっきゃと跳ねながら喜ぶ。後衛にいたキンバレイにしか見えない彩花の表情に。跳ねていた途中の動作でキンバレイが止まる。そしてそそくさとマナの制御に集中し、次手以降の回復に備えるのであった。
「はいではおあずけ、してもらいますからね……外すとやばいんですよ」
 本音をつぶやきながら、鳩目が目から糸を出し少女を絡めとろうとする。わずかな沈黙、少女の目が見開いたかと思えば、少女を捕縛すべく動く糸を少女は半身を、それこそ千切れんばかりにねじって回避した。その間にもそらさぬ瞳に、鳩目が冷や汗を垂らす。作戦の瓦解を避けられるか、その機会は残り少ない。


●君をこひぢに
「きゃあああ!」
「キンバレイさん、目を閉じないで! 予定通り回復を!」
 千切れんばかりにねじった身体から、少女は土手の斜面近くに居たにもかかわらずそれをものともしない強烈な踏み込みで、リベリスタ達の布陣をかき乱すように刃を振るった。刃は彩花に触れずとも殺気が掠めるほどのもので、抑え役の綾兎を始め、リベリスタ達の大部分に鮮血の花弁を撒き散らさせた。
「邪魔なオブジェクトには消えてもらう、速やかに、だ」
 少女の力量を察した鷲祐がヘンリエッタの援護により大きな隙を見せているエレメントに再び刃を叩き込む。技量の高い彼が味方を瓦解させまいと声を上げる。
「痛いの、好きじゃないんだよね」
「なら時間を稼いであげる、下がって傷を埋めなさいな」
 浅くない傷、本来の交代ラインではなくとも次手を間違えれば瓦解する可能性がある。そう判断して予定より早く綾兎と闇紅が入れ替わる。
「さて、斬られる覚悟、あるんでしょ。遊んであげる」
 闇紅が和服と黒髪を翻し、躍り出るとよどみも迷いも無い小太刀の連撃。小雨の中で少女が今度は辛うじて防御する番であった、雨粒と同じように火花が弾け、花火のように舞う。めまぐるしい攻防の中で、退いた綾兎が気付く。
 跳び回り、立ち回り、少女が養分を得ようとリベリスタ達に襲い掛かる間、その桜の、木陰にすら踏み込ませないように立ち回っていると。それほどまでの執念。
「なんでそんなに拘るの……養分を、命まで与えて、賭けてさ」
 悲しみすら感じる綾兎のつぶやきは、戦の音の中に溶け。
「桜が好きだからさ」
 小烏がソレを拾い上げ、答える。
「今更お前さんが聞いてもどうしようもないことだ。しかし晩春のこの時期、うつろいの激しいこと、あの嬢ちゃんも多分、そういう犠牲者さ」
 エレメントを式符で穿ちながら、口元を羽毛で隠す小烏。フォースではなくアンデッドであるのなら、どこかに葬られていたということ。死してなお、こうあることができたというのなら、その意志はあまりに強い。
「だからこそ、知って伝えたいこともあります」
 ヘンリエッタがそうつぶやきながら、綾兎の傷を癒す。同意を求めるように綾兎を見ると、それにしっかりと頷く。
 そしてエレメントたちの一斉掃射が入るが、この程度で倒れるほどやわなリベリスタ達ではなく、キンバレイの歌がその傷を、呪いをふさいでいく。そして
「それ、できるといいですね」
 鳩目が余裕なく、そうつぶやきながら。息を限界まで吐き、肉体を圧縮するイメージを自分に持ち、集中力を高める。さっきは外したこの一撃を、今度は外さない。少女が近づかないとわかった桜の木陰、そこに配置し、後ろから糸で襲い掛からせる。
「簡単なお仕事です……!」
 少女を捕らえた鳩目が強がるように肺から声を絞り出す。瓦解は防いだ、後は圧倒するだけだ。リベリスタ達は、一気に攻勢に出る。
 雨は、ゆるゆるとその強さを増していた。


●ぬるるものとは
 あと一度、拘束に失敗して戦術が瓦解していたらどうなっていたか、と鳩目はあらためて肝を冷やした。直後にリベリスタ達の攻勢によりエレメントを短時間で撃破、その間辛くも少女のマヒによる行動制限に成功したのも大きかった。更に確実にキンバレイ、後詰めに小烏と回復手の数も少なくなかったことも功を奏した。
 残りわずかな桜の花弁を散らす雨の中、リベリスタ達は少女を追い詰めていく。
「遠慮はしません……!」
 すでに守るべきキンバレイに攻撃が届くことは無い、彩花の渾身の拳が振り下ろされる。気が土手のアスファルトを圧壊せんばかりの威力をみせ、拘束された少女の肢体をくの字に折れ曲がらせる。桜色の髪を振り乱し、それでもなお踏みとどまる。顎を上げ、天を仰ぐ。その姿は桜を求めているようにも見える。
「桜、今見えてるの?」
 綾兎の鉄扇がたたきつけられる。少女は短刀で受け止めるが、その力は最早薄く、受け止めた刃が自分の身にめりこむ。
「余計なこと、考えないことね。さっきまで殺されかけた相手でしょう」
 綾兎の影から躍り出た闇紅が短く息を吐き、小太刀を少女に突きたてた。致命の一打、誰もがそう確信する一撃。引き抜かれ、血の川ができる。それでもまだ、まだと少女は唇を動かす。闇紅にははっきりと見える。それが、桜桜と呼んでいることが。
「何があったか知らん、知る気も無い。だが――!」
 声にならない声が雨の中、周囲に響く。それを聴いたのか、鷲祐がナイフを振るう。鮮血の花弁が周囲に散り、同時に少女の桜色の髪が濡れていたことなど気にも留めぬように、風に流れて舞い上がる。願った物は傍にある。その言葉を鷲祐は押し留めた。
 少女がゆっくりと、重さなどないように仰向けに倒れる。沈黙、終わったことを示すように雨脚が強くなり、残ったわずかな桜を側溝に流し、桜色に染め上げていく。その中に混じる少女の紅。
 少しの間を空けて、小烏が近づく。いつの間に拾っていたのか、花のまま散った桜を一輪。少女に見せる。
「小さくてもこいつはどうだい、一輪だけでも綺麗なもんだ」
 花咲爺でないのは、悪いんだけどね。そう言って笑って見せる小烏に。
 少女は一度だけ、本当に愛おしい物を見る微笑を見せ、桜を見て、そして二度と動かなくなった。
「あ……」
 その瞬間、少女の微笑みを契機にしたように、ヘンリエッタの中にイメージが流れ込んでくる。かつてこの桜の木が見た物。いつかの淡い恋と約束、果たされなかった最期。歪んでしまった根の、いかにまっすぐであったことか。そう思い、ヘンリエッタは口元を隠す。
 終わった、その実感はいっそう強まる雨音とともにリベリスタ達に実感を持たせる。
「コレでお金がもらえるのです! おとーさんにお金を渡してガチャポンで喜んでもらうのですよ!」
 その沈黙を破ったのはキンバレイの、あまりにも無邪気すぎる言葉だった。課金兵の娘はあまりにも純粋なのである。
「わたしはバイト台欲しいので、後始末参加するとしますよ。ほしいデータもあることですし」
 帽子を一旦脱いでから一息つき、かぶりなおす鳩目。少女が短刀を突き立てていた地面には、未だに頭らしきものが覗いている。正直なところ、このまま放置すれば大事になるのは目に見えている。
「埋まってるホトケさんをそのままにするわけにもいかんからなぁ」
 小烏がそう笑い、髪についた雨粒を払う。ここに残っていた桜の木々の花は、今日の雨で残り少ない花弁を全て散らすだろう。しかしすぐに新緑が満ち、夏にも木陰を作る。そうしてまた季節は過ぎ、来年には桜を咲かせる。少女はようやく、あるべき流れの中に戻れたのだ。
 リベリスタ達はそうして各々動き始める。自分達のある流れに、日常の中に戻る為に。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 皆様お疲れ様でした。桜も散り、暑い夏の気配が近づいてくる前に終わらせていただけて感謝しております。桜の少女も、無事に散って新しい実を結ぶことが出来るに違いありません。
 今回MVPは少女をもっとも救っていただいた方に。心より感謝しております。
 それではこのたびはご参加、ありがとうございました。またの機会、よろしくお願いいたします。