●アザーバイドの不幸な邂逅 「変態! 変態っ!! ド変態ッ!!!」 「ご挨拶だな!? 嬢ちゃん!」 「貴方様がそのような、破廉恥で面妖な格好をなさっているからでしょう?」 「我等ハ只、在リノ儘ノ格好ヲシテイルダケダ」 「知性ある者なればこそ、装いというものがあって然るべきではありませんこと?」 夜の公園、街灯が闇を退ける広場の一角で、5つの人に似た何かが言い争っていた。 対峙的に、4対1という処だろうか? 声や外見の雰囲気としては、4人の方が女性で、1人の方が男性という感じである。 もっとも、どちらも明らかに人間とは異なる外見を有していた。 4人の方は全員が金属鎧を纏っており、片手に武器を持ち……もう一方の腕で、自分の頭を小脇に抱えていたのである。 人間でいう頭のあるべき処には……何もない。 そういう状態でも普通に生きているようで、会話している感じからは4人の女性にとってそれはごくごく自然の事のようだった。 対する1人の男性的な方は……股の間から、もう1つ頭が生えていた。 それが分かるのはその存在が、何一つ身に纏っていないからである。 会話的に、その辺りが問題という雰囲気も漂っていた。 会話は次第に興奮した口調に変わり、言葉そのものも過激になってゆく。 「そんな鎧で隠さなきゃならないほど、みっともない身体なのか? それとも、鎧でも着なきゃ怖くて散歩もできねえのか?」 「なんですってっ!?」 「オイ、言イ過ギダゾ」 「こういう奴等にゃ、一度ガツンとやってやった方がいいんだよ!」 「……いいでしょう。その失礼な口を力づくで閉じて差し上げます」 「はっ! ほえ面かくんじゃねえぞっ!!」 言葉と共に4人がそれぞれの武器を構える。 それに対するように1人の方が、何かの詠唱を開始した。 ●デュラ×4vs全裸 「この世界に現れたアザーバイド同士が、偶然遭遇しまして……戦いになってしまいそうなんです」 マルガレーテ・マクスウェル(nBNE000216)はそう説明した。 「どちらも以前、この世界に現れたことのある存在です。好戦的という訳ではありませんが高い戦闘能力を持っていますし、争いを恐れてもいません」 遭遇の仕方が悪いというか、相性が悪いというべきか。 悪印象を抱きつつ始まった言葉の応酬は次第に互いの心情をいっそう悪化させてゆき…… ついには戦いが始まり、周囲に被害が拡がっていってしまうのだそうだ。 「そうなる前に、何とか仲裁して争いになるのを止めて欲しいんです」 フォーチュナの少女はそう言ってから、端末を操作してスクリーンにデータを表示させた。 公園のような場所と地図が表示され、続くようにしてアザーバイドのものと思われる画像が追加される。 「場所は、こちらの公園の広場になります」 隅に幾つか遊具等はあるが、特に障害物らしき物の無い、平坦な地形。 だからこそ、アザーバイド達も戦いをしそうになっているのかも知れない。 とはいえ実際に戦いが始まれば、広場や遊具だけでなく周囲に、場所によっては公園の外まで被害は拡がってしまうのだそうだ。 「感情的になっているだけだとは思うんです。両者を落ち着かす事さえできれば、何とでもなると思うんですけど……」 そう言ってからマルガレーテは、先ず一方、複数いるアザーバイド達を指し示した。 外見上は金属鎧を纏った人間の女性、といったところだろうか? 女性に似ていると言えるのは、兜を被らず頭部をさらしているからである。 人間の女性と異なるのは、頭部が……胴体の上についておらず、片腕で抱えている、という処だった。 「こちらはそのまま、アザーバイド『デュラハン』さんです」 異世界でもアンデッドとかではなく、完全にこういった種族らしい。 「4人、で数え方は良いんですかね? そのうちの1人の方が以前この世界に訪れた経験があるみたいです」 外見はそれほど逞しくはないが、両手武器を片手で振り回したりもしていたようで、見た目よりずっと力のある種族なのかもしれない。 「種族がそうなのかは分かりませんが、4人とも根は真面目で、ちょっと固いところがあるみたいです」 からかわれたりすると、収拾がつかなくなるような性格だったりするのかも知れない。 「もう一方のアザーバイドも、人間に近しい外見はしていますが……」 ちょっと恥ずかしそうな表情で、マルガレーテがデータを指し示した。 こちらの外見は筋骨隆々とした欧米系の男性、という感じだろうか? ちなみに全裸だった。 人間と明らかに異なるのは……股の間から頭部がもう1つ生えている、という部分だろうか? 「こちらはイヴ先輩の方でアザーバイド『全裸(仮称)』ってしてたみたいですけど……」 こういった外見だが、防御力も耐久力も高く、素手でもデュランダルのような強力な攻撃を繰り出してきたのだそうだ。 加えて股間の頭部はマグメイガスに似た能力も使いこなしていたらしい。 「タワー・オブ・バベルに似た能力も所持していて会話も可能。知性も高いようです」 ただ、本来の頭部はどこか素朴なものの……股間の方の頭部は軽口を叩いたり、相手をからかったりするような部分があるらしい。 そういう部分が、デュラハン達を刺激しすぎたのかもしれない。 「こちらのアザーバイドは1人、です。それでも、4人のデュラハンの方々と互角くらいの戦闘力があるみたいで……」 だからこそ戦いとなった場合、決着がつかずに長引き、周囲に被害が拡大してしまうという事なのだろう。 「幸いどちらもD・ホールはあるので、倒す必要はありません」 デュラハン達の通ってきたD・ホールは公園に開いたままだし、全裸氏の通ってきた方も一時間ほどすると開くのだそうだ。 「ですので、一時的なものでも構いません。とにかく、争いにならないように何とかして欲しいんです」 いろいろ大変かと思いますが、どうか宜しくお願いします。 フォーチュナの少女はそう言って、集まったリベリスタ達に頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:メロス | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月11日(土)22:21 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●おいおいイヴちゃんも全裸ってネーミングは失礼だろ 「俺は紳士殿って呼ばせてもらう」 『雷臣』財部 透(BNE004286)の一声は、それだった。 紳士という単語に意思があるのなら訴訟も辞さないと考えるか如何かはともかくとして、彼の考えは……こうである。 (ダビデ像もミロのヴィーナスも裸にも関わらず受け入れられるのは、幼いころからそういうものだと聞かされているから) 文化の違いは、時に戦争を起こす理由にもなる。 「だがそれは所詮キッカケ、こんな事は絶対に話せばわかる事なんだ」 意思の疎通ができれば、阻止できるのだ。 疎通を妨害するさまざまなものがあるからこそ、問題なのである。 「気持ちは理解出来るよ……」 教えられた事前情報を反芻しつつ、『やわらかクロスイージス』内薙・智夫(BNE001581)は呟いた。 (正装を着こなす人と、着崩した格好が好きな人が服の事を話せば噛み合わないだろうし……) 「でも、喧嘩はよくないと思う」 何とか争いが起こらぬように、仲裁したい。 (全裸は今すぐでもぶっ飛ばしてやりたいけど今回の目的はそれじゃないよね) 「大丈夫だよお兄ちゃん虎美は出来る子」 以前の依頼を思い返しつつ、『狂気的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)は誰かに話しかけた。 「ちゃんと仲裁はこなして見せるよ」 以前の依頼は以前の依頼、今回の依頼は今回の依頼だ。 その辺りは、ちゃんと分かっている。 戦いとなる事がないように、何とか諍いを妨げ、あるいはそれぞれの向かわんとする方角を逸らさなければならないのだ。 仲裁の時に相手を刺激しないようにと考えて。 智夫は鎧を着込んできっちりと服装を整えはしたものの、武器の方はアクセスファンタズムへと収納していた。 『男一匹』貴志 正太郎(BNE004285)も武器を装備していないという点では同じだったが、こちらはTシャツに短パンという、露出度高めだけどちゃんと着てはいるという服装だである。 アザーバイド双方から不愉快に思われないようにと考えての事だ。 『金雀枝』ヘンリエッタ・マリア(BNE004330)も武具を収納しつつ割り込む態勢を整え、『月奏』ルナ・グランツ(BNE004339)は皆のフォローを考えつつ、まずアザーバイド達が一般人たちに見つからない為の対策を考えていた。 (先ずは此処に人が来ないようにしないといけないよね?) そう思うものの、それを為す前に異邦人たちに説明等はした方が良いだろう。 彼女はそう考えていた。 それらの行為がアザーバイド達を刺激する可能性も充分あるのだ。 「私たち以外にもボトムに来るアザーバイドっているんですね」 『Clumsy thoughts』リッカ・ウインドフラウ(BNE004344)はそう言いつつ考え込んだ。 「厳密に定義するとフュリエは分類:リべリスタ(アザーバイド)ですよね?」 今回のアザーバイド達も、自分たちとそれほど変わらないのではないだろうか? そんな風に考えたのか、彼女は飲み物やサンドイッチ等の軽食を購入し、荷物の内へと収めておく。 仲裁がうまくいったら、少しでも交流をと考えての事だ。 『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)も、そう考える一人だった。 「お嬢さん達と別のお客さん、どちらもリピーターなんだな」 言いながら彼も、以前の依頼の事を思い出した。 (この世界を気に入ってまた訪れてくれたのは嬉しいが、問題を起こすとなっちゃ能天気に喜んでるわけにはいかないか) 「まずは、ちょっくら頭を冷やしてもらうとするか」 そう言って青年も仲間たちと共に、アザーバイド達が出現した広場へと駆け出した。 ●まず最初の接触と、提案 「はいはい、ちょーっと待ったー!!」 アザーバイド達を発見したエルヴィンが声を掛けるのと同時に、正太郎が自分たちの方に気を引くべくライトを向ける。 出端を挫くようにエルヴィンが両者の間に割り込んだ。 「おいおい、ボトムはオレたちのシマだぜ」 正太郎もそういって、アザーバイド達に話しかける。 (睨み合いになっちまってるようだし、緊張を解かねえとな) 「イザコザ起こそうってんなら、オレたちの顔も立ててくれねえか?」 彼がそう話しかけるとデュラハン達は怪訝そうな表情を浮かべ、全裸の2つの頭は興味深そうにそちらに向き直った。 「ちょいと距離を置いて頭を冷やそうぜ」 そんな正太郎の言葉を通訳しつつ、エルヴィンもアザーバイド達に語り掛ける。 彼は一緒にルナからの言葉も、アザーバイドたちへと通訳した。 「貴方達の姿を見るとこの世界の皆は吃驚しちゃうの。」 だから人払いさせてもらっても良いかな? そんな彼女の提案に、デュラハン達は緊張した面持ちながらも頷き、全裸達も了承する。 許可をもらった事を確認すると、ルナは一般人を退ける強力な結界を周囲へと展開した。 これで一般人たちが現れ、驚いたり騒いだりという可能性はほとんど完全に消滅したことになる。 後は必要に応じて皆の手伝いをするだけだ。 戦闘の可能性も考えつつ、そうならなければ良いと思いながら……彼女はアザーバイド達に言葉を向けた。 「喧嘩は良いけど人に迷惑を掛けちゃいけない」 分かってくれるよね? ●全裸との再会、或いは邂逅 「久しぶりっ、ちょっといい?」 「お? あんたは確か……」 武器はしまったまま水着姿で、虎美は二頭のアザーバイドへと声をかけた。 話しかけつつ、デュラハン達との間を遮るように位置を取る。 正太郎らも両者を引き離せるように気を配った。 伝える事は一つ。 (他所の家でに来てまで喧嘩するのってどうなの? って事) 「互いの文化が違えば衝突は仕方ないよ。でも場所ぐらい考えろって事だよね、お兄ちゃん」 脳内恋人全開の状態で……いや、もしかするとまだ全開じゃないかもしれないけど、ばっちり運転中の状態で虎美はアザーバイドに話し始める。 「それとも全裸の来た世界じゃ第三者の全く無関係な人の家で喧嘩を始めるのは普通の事なの? ま、普通の事だとしてもそれを異世界でやらないで欲しいかな」 「おいおい、きっついな? 嬢ちゃん? そもそもこっちの格好にいきなり文句付けてきたのはあっちの方だぜ?」 「マア、カナリノ挑発行為ヲ行ッタトハ思ウガ」 「にしたって興奮し過ぎだろ? あまつさえあの言い分だぜ? 感情的になってるとはいえ、言い過ぎだろ?」 「ハッ、紳士殿、あなた方が仰る事ももっともだ」 そこで透が頷いて見せた。 「確かに先の彼女達の発言は失礼なものがあった。よーくわかりますよ」 「お、そっちの兄ちゃんもそう思うだろ?」 「自分の世界の文化を、男の誇りを、『変態』という二文字で片付けられるこの悔しさ。事実、実力、知恵、全てにおいて紳士殿が上回っているのにも関わらず耳を傾けようとはしない、その浅はかさ。舐められたまま終わっていい筈無いと思うのは当然の事!」 紳士(全裸)に向かってそう続けた後で、だがしかし、だ……と、透は一呼吸入れた。 あなた達にもデュラハンさん達にも文化というものがある。 「服を脱ぐと言う行為が恥ずかしい、そう言った風習があるという事をまず理解して欲しい」 その上彼女達は、異界に来て間もない。 「そんな子猫ちゃんが自分達より強い紳士殿に会ってしまっては本能的に不安に思ってしまうのも当然というもの」 ここは男の度量を見せるところですぞ? 彼は提案するかのように語り掛けた。 知的さは暴力などでは無く、器量で見せるもの。 「堂々と自分の有りの侭を見せつけ、軽口などあったら流し、本当の男らしさというものをみせつけてやりましょう」 そう語り終えると、透は様子を窺うように彼らの瞳を正面から見据えてみた。 2頭はすぐには返事をしなかった。 だがそれは、彼の言葉について考え込んでいるように……少なくとも透には感じられたのだ。 ●首なき乙女たちと 「君は以前に会ったお嬢さんだね、俺の事は覚えているかい?」 「あ、はい。お久しぶりです。また御逢いできて嬉しいですわ」 微笑みを浮かべ柔らかな空気を漂わせながらエルヴィンが語りかければ、ハルバードを持っていたデュラハンの少女が少しほほを染めながら挨拶を返した。 智夫とリッカもハイテレパスを使用して、デュラハン達に呼びかける。 同時に智夫はもう一方のアザーバイドの姿が見え難くなるようにと間を遮るように位置を取った。 (私の名はリッカ。目の前にいる長い耳の少女、あ、そうです。それです) 交戦の意思がないという事を表明する為にと弓状のアクセスファンタズムを布で巻いた状態にして、リッカはデュラハンの一人にテレパシーを送る。 (お互い異界の言葉が通じない故、こうして心でお話をさせていただいております) 言語を理解し話し合うエルヴィンの能力と比べれば、異界の者との意思の疎通は精緻さに欠ける。 それでも、2人の想いは何とか相手に伝わったようだった。 怪訝で難しそうな表情は浮かべつつも、テレパシーを受け取った彼女たちはリッカと智夫に意思を返す。 一方でエルヴィンの方は、そのまま少女と会話を続けた。 「事情はある程度わかってる」 青年はそう切り出した。 「君達の気持ちもわかるんだけど、ここはちょっと抑えてもらえないかな」 ここで戦いが起これば、周囲に被害が出てしまう。 「そうなるなら、俺達は君達を止めなきゃならない」 「……それは、つまり……」 「ごめん、脅してるとかじゃないんだ。できれば君達とは戦いたくないし、傷付けたくないと思うからさ」 エルヴィンが語り掛ける一方で、リッカと智夫も自分たちの想いをデュラハン達へと送った。 テレパシーだけでは伝わりにくいと思われる部分は、エルヴィンが出来るだけ丁寧に補足してゆく。 「騎士様がた……誇りを汚され、お怒りなのはごもっともです。ですがここは皆が安らぐ公共の場、その刃を、怒りをお鎮めになってください」 リッカは戦いとなり互いが力を振るえば、この周囲は灰塵と帰するだろうと説明した。 「それは私たち異界出身の者がしていいことではないと思います」 「全裸さんはこの世界の人じゃないし、風習が違うと思うんだ。だから、見た目だけで判断しないようにして貰えないかなぁ?」 智夫は頭を2つ持つアザーバイドもこの世界の存在ではなく、異界からの来訪者なのだと説明する。 「もしも全裸さん本当の悪人だったら……E・フォースのデュラハンみたいに、話し合いも無く問答無用で襲い掛かってくると思う」 そんな思いを以前来訪したというデュラハンの少女に向ければ、彼女は武器は構えたままなものの、表情を変えた。 これは互いが互いの文化、世界に無知であった故の事故。 「平和裏にお茶会など開いて相互理解はできないものでしょうか?」 リッカはそう、想いを紡ぐ。 「怒りや憎しみからくる争いは何も生み出しません。空しいだけです」 ラルカーナ戦役でバイデンに対する私たちの怒りと憎しみのように…… 少女の心を、何かがよぎる。 「何を身に纏うのかって、誰かの命を代償にする程に大きな事じゃ無いと思うよ?」 智夫は想いを抱きながら、戦いが起こってしまった場合の対処についても頭の中で確認し直した。 もし争いとなっても、3人は癒しの力を持っていたし、身体を張ってでも止めようという想いも持っていた。 「……分かりました」 デュラハン達がそういって、構えを解く。 「……ありがとな」 安堵の息を零しながら、エルヴィンはまっすぐな言葉を紡いだ。 ●全裸たち、頷く 「おっと、この格好じゃ信用ならねえか?」 全裸(紳士)の説得に回っていた正太郎は、虚飾は全て脱ぎ捨てねえとな……と口にした。 (暗がりで視界も遮られるだろ) 「腹割って話すと決めた以上は、オマエらの流儀に従うぜ!」 デュラハンたちもいねえし、腹割って話そうぜ? ジブンヲ トキハナツ! そう叫んで彼は、自分を解き放った。 「うおおお、みなぎってきたぜ!! オレの股間が暴れ大蛇ッ!!」 前途ある若者の未来と名誉のために少々言葉を費やさせてもらうことになるが、正太郎は決して普段はこういう行動を起こす人物ではない。 流儀に従うという言葉通り、今回はあくまで全裸のアザーバイドに親近感的な何かを抱かせるためにこういった行動を考え付いたというだけである。 全裸になったことで果たして相手が親近感や共感的な何かを抱いたのかどうかは分からない。 が、その心意気のような何かを相手が感じ、それによって少しは話を聞こうと考えたという点においては、彼の行為は良い効果を生み出した行動の一つと言えるかも知れない。 「俺は正太郎みたいに脱がないよ」 (女性の前で脱ぎたくないと思う自分、これも有りの侭の自分だから) 透はそんな言葉を呟き、想いを抱きつつ……一応、壁になるように位置を取った。 「キミの肉体は素晴らしい」 オレもそんな男になりたいと思うよ。 ヘンリエッタもそう言って、全裸(アザーバイド)に向かって話し始めた。 「でも、その世界の常識に準じるのは最低限の礼儀だ。キミの行動で、無礼な種族だとは思われたくないだろう?」 戦いとなった場合の事も考えつつ彼女は、出来るだけそれを避けられるようにと言葉を紡ぐ。 「大体さ、なんでこっちに来てるのか、そこが知りたい」 虎美はそう問いかけた。 (目的さえわかれば協力も出来るかもしれないし、済めば帰ってもらえるかもしれないしね?) 「協力できそうな事ならするよ。いいよねお兄ちゃん?」 「……この子は一体誰と喋ってるんだ?」 「分カラン。ダガ、フサゲテイル訳デ無イノハ分カル。マッスグデ純粋デ、ソレ故ニ何処カヘ突キ進ンデシマイソウナ……ソンナ瞳ヲシテイル」 「まあ、ぶっちゃっけ何で来たかとか俺らにも分からん。遺跡の暗がりを進んでいて、少し見通しの悪い場所があると思いながら進んでたら、急に足場がふらついて……気付いたら此処だからな? あれが界を繋ぐ穴だってんならどれだけ壊れかけてんだ、この世界って……寧ろ心配になるぜ……」 下の頭が肩でも竦めるように(もちろん肩は無いが)そう口にした。 少なくとも今はどちらの頭部も……戦おうという意思は無さそう、あるいは無くなってきたように思える。 虎美は、説得が難しいならどちらか片方だけでも説得し手を組もうと考えており、戦いとなってしまった場合の対処も以前遭遇し戦った時の事を踏まえて考えていたが、幸いその必要は無くなりそうだった。 「なあ、あいつらがいきり立っちまったのも、股間の旦那がからかったからだろ?」 そこについちゃ、ワビ入れてくれねえか? ある程度落ち着いてきたと感じた正太郎は、本体の方の頭部にそう話しかけた。 「ま、気質の違う者同士仲良くしろなんてな無理な話だが」 相手を侮辱していいわけじゃねえ。 「そこんとこは、あいつらも反省してるさ。んなとこで、手打ちにしちゃあ貰えねえか?」 そう言うと、上の方の頭部が頷いてみせた。 「マア、コイツモ最初ハ可愛ラシイ娘サン達ヲカラカッテヤロウ、クライノ気持チダッタノダロウサ」 「あーあー、分かっているよ! そこまで言われちゃ、駄々は捏ねられねえさ」 そう言って下の頭部も渋々という態度ながらも、しっかりと彼に向かって頷いて見せた。 ●それぞれの帰郷 再び向かい合った時には何かが張り詰めたものの……両者が言葉を交わしたことで、空気は少し緩んだ。 どちらも決して好戦的な存在ではない事もあって、一度そうなれば公園が、広場の一帯が、落ち着いた雰囲気を取り戻し始める。 「なあ、まだ時間あるかい?」 もし良ければ、このまま時間の許す限り交流できないかとエルヴィンはアザーバイド達に提案してみた。 「この世界での思い出を、より素敵なものにできるように」 酒盛りでもという言葉には、全裸の2頭達が反応する。 リッカは用意してきた食べ物を出し、エルヴィンも買ってきたお酒やお菓子を広場の片隅に並ぶテーブルに広げてみせた。 向こうの世界の事、こちらの世界の事。 短い時間を、さまざまな物事について話し、語り合う。 それが楽しいひと時であるようにと願って。 「そういや今回の訪問って、やっぱ伴侶探し?」 そう尋ねれば、デュラハンの少女は、そこまで明確な目的は無かったと否定しつつ、ふたたび頬を赤らめた。 時は瞬く間に過ぎ去り、もうひとつのD・ホールが出現する。 出現していた方のD・ホールも、いつまでも安定してはいないだろう。 「楽しかったよ、機会があったらまた会おうぜ」 エルヴィンはそう言葉を送り、他の幾人かの想いも言葉し変えてアザーバイド達へと贈った。 アザーバイド達もそれぞれ、感謝らしき言葉をリベリスタ達へと向け、異界を繋ぐ穴へと足を向ける。 彼ら彼女らがそれぞれのホールと姿を消したのを確認すると、リベリスタ達は用意してきた能力を発動させた。 さして大きくなかったディメンジョンホールが、その力を受けて消滅する。 後にはただ、今までと変わらぬ公園の広場が残るのみだ。 「終わり、かな」 虎美の言葉に頷いて。 リベリスタ達も帰途に就くべく、公園の広場を後にした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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