運命を食らうといわれるアザーバイド『セリエバ』。そしてそれを召喚しようとするフィクサードたち。 召喚場所を特定し、今船は魔方陣に向かって進む。 魔法陣を形成する幾多の船団。その船にある器具とアーティファクトがDホールを開く。 そして穴から枝葉を伸ばす樹木。運命を食らう破滅のアザーバイド。 さまざまな思いをこめて、革醒者たちは破界器を手に取った。 ● 「ついにセリエバの召喚場所を突き止めた……けれど、時間が無い」 そう切り出した『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の言葉、その言葉に一部のリベリスタは驚いた表情を浮かべる。 黄泉ヶ辻、六道、剣林のフィクサード達が共同で召喚しようとしているそれは、周囲の運命を喰らい尽くす厄介極まりない性質を持つ。 アークの誇る『万華鏡』の効果範囲外たる海上を召喚場所に選んだ彼らに、アークは大幅に後手に回る事となった。 「今から向かえば、まさにセリエバを召喚しようとしている時に到着できる……もし、皆の頑張りが無かったら、気づけたのは召喚が終わってからだったかもしれない」 幸いだったのは、幾度かのフィクサードとの戦いで『召喚拠点』の情報を入手できたことであろうか。それを元に幾度も予測と観測を繰り返し、フォーチュナ達は敵の動きをなんとか判明させることに成功する。 「彼らは召喚のためのアーティファクトで、同時に魔方陣を展開、巨大なDホールを開いているみたい。それを使ってセリエバはボトムチャンネルに現れるの」 リベリスタが行わねばならぬのは、その召喚のためのアーティファクトの破壊。 「皆には、セリエバが出てきている最中のDホールの大きさを最小限に抑えるために、魔方陣を描いているアーティファクトを破壊してほしい」 もちろん、それは容易な事ではない。 厳しい時間制限に加え、召喚場所には防衛のためのフィクサードが待ち受けている。三つの組織の合同で編成されたその部隊は十分な脅威となろう。 「皆に向かってもらうのは、南方の一角。そこそこ大きな船で15人のフィクサードが『メイカー』という魔方陣生成用アーティファクトで儀式を行ってる」 彼らはセリエバの召喚されてくる光景に釘付けになっているだろうから、船に近寄って乗り込むこと自体は難しくないとイヴは言う。だが、彼らの目を盗んで船に乗り込むことが出来るのは、目標となるアーティファクトからは25m程遠い地点だという。 「アーティファクトは動かないから、撃てば当たる。でも、そこそこ硬い上に、六道の用意したアンデッドが庇ったりして邪魔するみたい」 逆に言えばアンデッドが庇いに入るため、フィクサード達はアーティファクトを庇う事はまずないとイヴは言う。ゆえに付け入る隙はあるだろう。 「敵はリベリスタの平均よりも弱めの人がほとんど。でも、数は多いし、三人の厄介な人がいる……うち二人は、知っている人もいるかも」 詳しくは資料にまとめておいたよ、とイヴは卓上にフィクサード達の資料を乗せる。そして、その場にいたリベリスタが誰一人として知らぬ犬歯の特徴的なスキンヘッドの男の写真を指さしてイヴは続ける。 「今回、特に厄介なのはこの人。ジミーっていう黄泉ヶ辻のフィクサード。攻撃能力も厄介なんだけれど、彼は周囲の船の動きをストップできるアーティファクトを持ってるの」 指にはめた『凪生みの指輪』というアーティファクト。もしこれが無ければ、アーティファクトのすぐ近くへと船を近づける作戦も取れていただろう。 それだけではない。彼がこの指輪を持っている限り、リベリスタ達は戦場から逃げられないとイヴは告げる。 「この戦場では、セリエバの放つ花粉が降り注ぎ続けるの。戦い始めてから30秒後に一回、さらに1分ごとに一回……」 初めは運が悪ければ麻痺を受ける程度のものでしかないが、時間と共にそれは加速度的に強力になり、最後には歴戦のリベリスタの生命力すらも軽々と奪う物へと変質してゆくとイヴは言う。 「セリエバは周囲の人が運命の力を使う程に強力になっていく……可能なら速やかにその場を離脱した方がいいよ」 並行してセリエバ本体に挑む作戦が行われる以上、出来る限りセリエバを強化せぬように立ち回ってほしいといヴは告げる。 「やらなきゃいけない事は多いよ……でも、今回の戦いは、絶対に負けられない」 相手は運命を喰らうアザーバイド。その存在を許すわけにはいかない。 「可能なら、でいい。戦いの中で、あのアザーバイドにも攻撃してきてくれると嬉しい。皆で、頑張って」 あの化け物を、撃退しよう。そう、イヴは告げた。 ● 「こいつは……壮観だな」 巨大なDホール、その中から少しづつ姿を現す『枝』を見て……そのスキンヘッドの男、ジミーはニヤリと笑う。 彼の後ろに立つフィクサード達も、目の前に少しづつ現界していくその圧倒的な存在に、思わず息を呑む。 (これが……あのセルフ解体野郎の言っていた、毒の主か) 凄まじい毒を持つ異界の植物。黄泉ヶ辻の目的はその毒を用いて多くの人々を苦しめる事にある。 あの毒があれば、どれだけの人がその痛みに体を震わせるのであろうか。いや、毒が無くともあの異形が周囲の運命を吸って強力になるだけで、その被害は計り知れぬものとなるであろう。 (見たい所だ……その極楽のような光景を) 歓喜の笑みを、男は止めることは出来ない。その横で、一見すれば年若き女に見える『老婆』、清水もまた、不敵な笑みを浮かべていた。 「こいつは強そうだねぇ、私達の手に負えるとは思えないくらいさ、きっひっひ」 剣林のフィクサードたる彼女達の目的は『セリエバの打倒』である。 セリエバを打ち倒す為に、召喚する。それが彼女達のスタンス。 (『達磨』の坊やも可愛い手を使うもんだねぇ……でも、おかげでこんなにも『生と死の狭間で戦えそう』なんだ、全力を尽くさせてもらおうかねぇ) きっひっひ、と女は笑う。キチンと召喚が終わったら、どうあの巨大な枝葉にどう自分の刃を突き立てようか考えながら。 「えぇ、まったくですねぇ~」 それに能面のような張り付いた笑顔で答えるのは、青竜刀を構えた男、石。ペルソナの能力でその心情を一応隠してはいるが、その動きや声からはあからさまに『セリエバに興味が無い』のが見て取れた。 (まったく、こんな事なら高島さんのように断るべきでしたねー) 彼に今回の護衛を依頼したバーナードの目的は『召喚その物』である。召喚されるものが何かも、その後がどうなろうとも知った事ではない。 だからこそ……元々、『戦いの技術』以外に興味が無い彼にとって、この護衛は暇なだけの仕事といえた。 友人のいた組織を生贄にしたバーナードに怒って依頼を蹴った仕事仲間の事を羨ましく思いながら、男は欠伸を噛みころす。 (まったく、ここにアークでも襲撃してくれればまだ暇じゃなくなるんですけどねぇ~……ん?) そこで、男は初めて気づく、船の後方から迫る気配に。 次の瞬間、フィクサード達が固まっていたのとは反対の甲板に人影が現れる。 「何者だっ!」 スキンヘッドの男が咄嗟に銃を構え、吠えるのと同時に。 戦いの幕が上がった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:商館獣 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月11日(土)23:26 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「何者だっ!」 まるで海の中から現れるかのように巨大な樹が召喚陣より現れる幻想的な光景。 それを背景に、スキンヘッドの男、ジミーが咄嗟に銃を構え、吠える。 「どーも、セイギのミカタちゃんでーす☆」 フィクサード達は目撃する。彼らの船に飛び移る8つの人影を。 そしてその一つが既に眼前まで迫っている事を。 「参っ上っ! ってね」 振るわれた刃はマジックシンボルを構えた回復手たる男の体を袈裟懸けに切り裂く。 「アークっ!」 フィクサード達の敵意と驚きを含むその声に、『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)は笑う。 直後、後方より放たれた闇がフィクサード達とセリエバの枝へと襲い掛かる。 「情け無用、戦闘開始ッてね! いっくよー、アンタレス」 「他の戦場はまだ交戦していないようですねー。急いで終わらせましょう」 どちらかといえばのんびりとした口調の『ハルバードマスター』小崎・岬(BNE002119)と『メガメガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)の二人。 されどその実力は本物。イスタルテの祈りは仲間を僅かに浮かせ、岬の放った闇はその圧倒的な威力で敵を蹂躙する。 「さすがはセイギノミカタのアーク様、セリエバの召喚は許せないってか」 「己の手に負えぬ物に手を出すのは愚か者のする事だ」 苦々しげに顔を歪めリベリスタ達を睨むジミー、それを『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364)はさらりと受け流す。 意識せずとも、船の横の異形の存在は視界の中に入り込む。 この強大な敵との戦い、それはいかに甘美な物であろうか。戦闘狂としての血が沸くのは否定できない。 「邪魔させてもらおうか、貴様達の願いだけを『墓場』へ送ろう」 それでもその存在をシビリズは否定し、リベリスタ達に圧倒的な癒しと防御の加護を与えていく。 「はっ、死にたがりに蠍座の斧、おまけに見知った顔も。まったく、大歓迎だ、きっひっひ」 その言葉に、若い老婆は笑い声をあげる。怯えも迷いもそこには無い。目は鋭く好戦的に細められる。 「アーティファクトは死体に任せておきましょ~、数は私達が優位です、戦線を作って回復手を護って……」 一瞬の煌めき。のんびりとした口調で無造作に前進した男の青竜刀が終に振り下ろされる。 かわしきれずに散る血煙。その中で、戦意を失う事無く15人のフィクサード達は全員が武器を構え終える。 「儀式を完了させましょうかー、依頼の成功のためにも」 「邪魔した事を後悔しな……クソッタレな神様に祈っても、もう遅いぜ!」 スキンヘッドの男が構えた巨大な砲が空を向く。刹那、戦場に降り注いだ二条の雷が轟音を響かせる。 戦いの幕開けを告げるかのように。 ● 「アレがクソッタレなのは認めるが、生憎と祈りは欠かした事は無いんだ」 降り注ぐのはジミーの放った雷神の炎ともいうべき射手の秘儀。それは船上のリベリスタ達へと降り注ぐ。 その焔の矢を間一髪で回避し、『アリアドネの銀弾』不動峰杏樹(BNE000062)はその手の銃よりジミーと同じ技を撃ち放つ。 海上に響き渡る二度の雷鳴。 「全く、悪趣味なガーデニングは迷惑なんだがな」 「前衛的、とでも言ってもらおうか」 続けてその声どころか雷鳴すら掻き消すかのようにフィクサード達の怒号が響き渡る。 「おっと、熱烈大歓迎、だねっ」 手にした刃や銃が一斉に同じ方向を向く。その先にいたのは終と、遅れて前へと飛び出した『トランシェ』十凪・創太(BNE000002)だ。 彼らは突出したリベリスタへと狙いを絞り攻撃を集中させていく。 「そんな程度の波で本物の凪に勝てると思うなよ」 されど、高い回避能力を誇る二人はその攻撃をいなしきる。 「癒しの息吹よ……あれ」 幾度もの攻撃の中で生まれた傷。それも『紫苑』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)が手にした巻物を紐解けば、戦場に生まれた微風とシビリズの加護が一瞬にしてそれを消し去ってしまう。 逆に、フィクサード達の生み出す癒しの風は仲間の傷を癒し切れない。何故なら。 (悪いが、効率重視でいかせてもらおうか) 火縄銃で連射する、という奇矯な技で『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)は弾丸を叩き込む。相手が癒した傷を再び穿つかのように。 「セリエバか……」 話には聞いていたが、見るのがこれが初めてか、と龍治はその視線を僅かに横へと向ける。 そして、躊躇することなく弾丸を一発その幹へと叩きこむ。 「さぁ、死会おうではないか、ロクデナシ!」 「そりゃあ嬉しい御誘いだねぇ。けど、遅い」 トスリ、とシビリズの急所を貫く刃。 その体には既に無数の傷が既に刻まれていた。シビリズの役目は清水の足止め、それに付随して自然とフィクサード達の攻撃も集まる。 一般的なリベリスタならば十分に致命傷になりうる被害。 「フ、ハハハハッ、その程度かっ! 血反吐吐こうと最後まで立ち続けるのはこの私だ! 貴様は絶対に逃がさん!」 されど、男はまるで堪えた様子もなく、その手の刃を振る降ろす。アーク最高峰の体力を誇る彼の生き様に、死会い狂いのフィクサードはそれを回避しながら獰猛に笑む。 「ははっ、こんな老婆に告白かい? そういうのは嫌いじゃないねぇ、きっひっひ」 戦線を膠着させる二人。その間にも確実に時は進み、アーティファクトの召喚陣は強固な物へとなってゆく。 されど、リベリスタ達は決して手をこまねいていたわけではない。 シビリズが清水の前に立ちはだかっているのも――シビリズの趣味と実益のためというのも確かではあるが――リベリスタの作戦の一部であった。 「どうせだ。ついでに剪定しておくぞ、運命喰らい」 放たれるのは無数の弾丸と闇。 シビリズが清水を、岬が石を。強力なフィクサードを抑えたさせた上で、範囲攻撃手達は多くのフィクサードとセリエバへと攻撃を放つ。 「吹き飛びなっ!」 回復手を庇うべくその射撃の前に立ちはだかる男の体を吹き飛ばすのは創太の刃。加えて終の刃はフィクサード達の体を氷で縫いとめる。 前線に飛び出した二人は射線を通すべく、敵の回復手を止めるべく、全力を尽くす。 多少の無茶をしてもシエルの癒しの術とイスタルテの支援は手厚く、被害を可能な限り抑えてゆく。 数にモノを言わせて一部の敵がシエルに接敵するも、その僅かな攻撃だけではわざわざ防御に優れたもう一つの『正装』を纏ってきた彼女に十分な傷をつける事叶わない。 最初にペースをつかんだリベリスタ達は敵を圧倒し、追い込み……ついに、天秤は傾く。 「ぐっ……ぁっ」 終の眼前でその刃を振るっていた剣士と、半ば回復手の庇い手としてしか動けなかった射手達が、雑賀の銃撃にその体をふらつかせる。 それは、敵陣の崩壊の予兆。 「皆様、あと少しですの。もう少しお耐えください」 数に物を言わせての猛攻は、シエルの回復の許容量さえも超えてリベリスタ達を消耗させていく。特に、フィクサードを一人で抑える者の限界は近い。 だが、敵の数が減らすことが出来れば話は別となる。自らの魔力を抑えた事への焦りを鼓舞の声に変え、少女は戦場に癒しの風を生み続ける。 「それじゃ、イスタルテちゃん、メガネ☆ビームにお任せっ」 踏み込んで、刃を振るう。終はあえて自分の周囲にいた限界寸前の敵を無視して別の敵を切り裂く。 終が彼らをそこで屠ること自体は容易であった。だが、リベリスタ達は『セリエバへとフェイトを過剰供給しない』ために、あえて攻撃を逸らす。 唯一の『敵を殺さずに倒す』能力を持つイスタルテへと自然と視線が集まる。 彼女がその技を振るえていれば、全てはリベリスタの思惑通りに事が運ぶ……はずであった。 「ごめんなさい、でも仲間には倒れてほしくないんですよう」 だが、彼女が生み出したのは癒しの福音。 手にした通信機からは『くそ、壊れろ壊れろ!』 と他戦場の声が響く。激戦がそこで行われていることは明白であった。 それを聞きながら戦う彼女に『仲間に倒れてほしくない』という強い思いが渦を巻く。 『瀕死に近い仲間がいる今』彼女は自然と防御へと傾く。 「……っ、ごめんよー」 戦場にフィクサードの生み出した癒しの術が響き渡る。瀕死の者が立ちあがる。 残り僅かな時間、だが敵の数は未だ減らず。岬は苦しげに息を吐く。 「もっとあなたの技を堪能したかったんですけれど、仕方ない。こちらも一応依頼ですしー」 岬の目の前で微笑むのはその青竜刀の先より岬の血を滴らせて微笑む石。 互いに『一つの武器の習熟に特化した』革醒者である石と岬。二人の攻防、いや、攻攻は戦場の中でも極端に激しい。 口調とは裏腹に、研ぎ澄まされたその技は全てが必殺の一撃。一切の回避もなく互いに体を傷つけあっていた。 それに加えて、この戦いにおける短期決戦を狙うならば必須ともいえる暗黒騎士の技の反動も背負い込んでいた彼女に後は無い。 「さすがは似た道の先輩かなー、さすがに一撃が重いねー」 次は、耐えられまい。岬は笑う。 だが、運命の力で立ちあがるのであろう事を察した上で石は笑み、その刃を振り上げる。 「それはこっちの台詞ですねー、さすがは『ハルバードマスター』、もう少し楽しみま……ぐっ」 運命の力で立ちあがる岬。されど、戦場に吹き荒れたのは血の赤ではなく黄色い霧。 「やーん、花粉症だと酷い事になりそうですねえ」 シエルを庇いながら、イスタルテは呟く。一分前の僅かな花粉とは違い、吹き荒れた花粉が戦場の全てへと襲い掛かり、その体力を奪っていく。 「皆様、残り時間がありません……急いでください」 戦場の半数、『メイカー』を庇う死者達も動けなくなった中、シエルとシビリズの光がリベリスタ達だけの麻痺を癒す。 元々、予測した上での全力防御をしていた彼らはそれによって完全に自由を取り戻す。それこそが、逃せぬ好機。 「セリエバ……ちょっと今のはいただけないねー」 『倒れる瞬間に優れた技を観察し尽くそうと思っていた少女』は、自分の思惑を壊された事に憮然とした声を上げると……その手の中の漆黒のハルバードより再び闇を放つ。 それは花粉さえも呑み込み……初めて、魔方陣を生み出していた存在へと突き刺さる。 ● そして、戦線は乱れに乱れ始める。 アーティファクトを破壊せんと全力で攻撃を仕掛けるリベリスタに、戦列を乱さんと襲い掛かるフィクサード達。 「さぁさ、全て凍るといいさ、きっひっひ」 フィクサード達はアーティファクトを守るべく、その手のカードを全て切ってゆく。仲間達を傷つける事を厭わず放った清水の刃によって、シビリズと雑賀の体を氷で縫いとめれば、ジミーの呪いの弾丸は雑賀の体にまとわりつく氷を強固な物へと変えてゆく。 「そのままでいな。おめえは厄介過ぎる……望むなら、あとでたっぷりセリエバの毒で痛めつけてやるぜ」 「その趣味はわからんな」 同じ因子、同じ技術を持つ男同士。されどその視線に込められているのは互いに侮蔑と敵意。 だが、視線の交錯は一瞬で途切れる。ジミーの体も、雑賀と同様に氷によって縫いとめられたからだ。 「はいはい、楽しくないお話はそこまで。巻いていくよー!」 左手のナイフでジミーの周囲に氷の霧を生み出した終、その動きは止まる事無く、右手の蒼き刃が今度は『メイカー』へと向く。 だが、『メイカー』の前に立ちふさがるのは六道の準備した三体のアンデッドと仲間の姿。一瞬だけ終の脳裏に迷いが浮かぶ。 「俺様ごと行け! そんな程度で止まらねぇからよ!」 だが、その迷いを吹き飛ばすのは創太の声。オッケイ☆ という返答と共に振るわれた刃は四つの人影を氷の中に閉じ込める。 その直後、キンという激しい音と共に杏樹の銃弾が水晶球に突き刺さる。されど、アーティファクトは未だ壊れない。 「あらら、止まらないんじゃなかったんですかー」 創太の様子に苦笑しながら刃を振るうの石。技巧を練り上げた刃は後衛の回復手を切り刻む。 それだけではない、未だフィクサードはリベリスタよりも数で勝り、その攻撃は無視できない。 倒れるイスタルテ、だがその目に宿る思いはまだ消えていない。誰も倒れぬように、それを願って女は癒しの歌を紡いでゆく。シエルの風と合わせて。 「俺様が止まる? そう見えてるんならお前の目も節穴だぜ……今のは嵐の前の凪、だ」 その風の中で創太は体の自由を取り戻す。 彼の実力は、この場に集ったリベリスタの中では決して高くはない。だが、その戦いへと燃やす心の焔は決して弱くもない。 発展の半ばにあると終が言ったその回避能力は氷の刃の威力を耐えられるほどにとどめ、回復手たるシエルよりも自らが遅い事さえをも利用し、彼は手番を失う事無く刃を振るう。 「うぉぉぉぉぉっ!」 生か死か。それを問う一撃はメイカーへと突き刺さり亀裂を生む。 「勝つのは私だ……この刹那の時間の中で勝利を掴む!」 「例え勝てなくても、タイムアップは御免だからねー」 氷より解放されたシビリズの一撃は清水へと突き刺さる。岬の闇もまた、射線に入るように身を躍らせた男の体へと吸い込まれ、その体を砕く。 だが、『メイカー』には届かない。 そして……最後の刻限が訪れる。 台座に据え付けられた水晶体、それが強い明滅を始める。 無数のヒビが入ったそれの光は世界を喰らい尽くさんと伸び行く樹を不気味に照らし出す。 そして召喚陣がわずかに、本当にわずかづつ広がり始める。 「セリエバの完全召喚は阻止しないと……い、急いでくださいい!」 声を震わせるイスタルテ。その声に、ジミーは嗤う。 「俺達の夢の勝ちだ……あと少し、黙っていろ」 放たれる雷の矢は戦場を覆いつくしさらに明るい光で船の上を染め上げる。あまりの光に思わず数人が目を瞑る。 「それがお前の夢、か……つまらんな」 「どうも、お前とは目指してる世界が真逆みたいだな」 されど、瞳を閉じたまま雑賀と杏樹は引き金に力を込める。庇おうとしていたアンデッドを雑賀の銃弾が縛り、兎の銃から煙が吹き上がると同時には水晶体に大きな亀裂が生まれる。 (一手でも多く! 動け!) その亀裂へと向けて、終が刃を振り下ろす。これで……砕ける、そう確信した終の腕が。 凍りつく。 「きっひっひ、ここで壊されちゃ、メインディッシュを食べれなくなっちまうじゃないか。生と死の狭間であの怪物と戦う機会がね!」 「貴様っ!」 アーティファクトの眼前へと迫っていた終と創太の体を清水の放つ氷霧が切り刻む。咄嗟に凍りついたその体の氷をシビリズの光が吹き飛ばすも、逸したチャンスはもう戻らない。 「ふぅ、依頼終了ですね」 満足げに笑み、石はただ、移動する。『メイカー』の前へ、清水と共にその視界を塞ぐその為だけに。 「極めて困難な状況ですね……されど、やらぬわけにはいきません」 それでも、シエルはその瞳を開き、前を見据える。彼女を支えるように立つのはイスタルテ。 「例え、何を味方につけてでも!」 次の瞬間、海上に再びセリエバの花粉が吹き荒れる。 「げほっ、ごほっ!?」 麻痺を生み出すだけではなく、運命を食い尽くす魔物としての性質を感じさせるような痛みを伴う霧。 船上を離脱しようとしていた岬、そして岬との戦いで傷ついていた石はついに崩れ落ちる。 ジミーもまた体が痺れ、その手の銃器を取り落とす。次々に動きを止めるフィクサード達。 その中で、イスタルテに身を庇われた女は手をまっすぐに前へと伸ばす。 「どうか……届い……っ」 その羽より癒しではなく魔力の力を込めた風が生まれる。されど、メイカーとの間を塞ぐように咳き込む老婆が未だ立っている。 歪む表情。これでは届かない。もう、無理なのかという絶望が心を支配するその刹那。 「今ので俺が倒れるのは読んでたぜ……この前の借りを返すぞ、バーさん!」 老婆の体が吹き飛ぶ。花粉の霧でおぼろげになる視界の中、何も考えずにシエルはその風を解き放つ。 大いなる風は花粉の霧と共にアーティファクトを消し飛ばし……。 「セリエバ、お前の生み出す嵐、凪がせてもらった」 その中で、老婆を吹き飛ばす一撃を放った剣士はセリエバに向けて剣を構え、ニヤリと笑んだ。 ● そして、全ては決着する。 「これだけ近くて外れたら、射手の名折れだ」 「最もだな」 全員が麻痺によって動きを止めたフィクサード達。 シエルとシビリズの癒しの技で再び立ち上がったリベリスタ達は銃を取り落としたジミーの指にはめられた煌めきを一瞬で打ち砕く。 「あっ、俺様の凪が……」 ちょっと指輪を欲しいと思っていた創太のポロリと零した一言に、それを打ち砕いた二人の射手は肩を竦める。 「作戦終了、次の花粉が来る前に帰還しますねー」 通信機へと告げるイスタルテ、その後ろで終は倒れたフィクサード達の体を抱えていく。 「うん、割と大勢無事みたいだし、運んでいっちゃおう☆ 今日は大漁大漁~」 セリエバの花粉がトドメだったものが多かった事が幸いし、死者は少ない。 未だ戦闘不能ではなく麻痺しているだけの者さえも抱えて、彼らはその船を後にする。 「後は……頼んだぜ」 全てを仲間に託して。 召喚陣の中心で戦う者達の事を思いながら、創太は一瞬だけ目を閉じ、そしてその翼でアークの船へと飛び移った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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