● 運命を食らうといわれるアザーバイド『セリエバ』。そしてそれを召喚しようとするフィクサードたち。 召喚場所を特定し、今船は魔方陣に向かって進む。 魔法陣を形成する幾多の船団。その船にある器具とアーティファクトがDホールを開く。 そして穴から枝葉を伸ばす樹木。運命を食らう破滅のアザーバイド。 さまざまな思いをこめて、革醒者たちは破界器を手に取った。 ● 「や、やだ! こっちに来ないで!」 「お母さんお母さんお母さんお母さ――!」 「何でもします。何でもします。だから私だけは!」 「痛……ああああああああああああああ!」 悲鳴、水と肉が爆ぜるような音。そして、静寂。 「さすがに六人分の『補充』は時間がかかったな」 血溜りの中から、一人の老人が立ち上がる。近くにある服を着ながら窓の外を見た。そこに見えるのは巨大な樹木。海の上に開いたDホールから姿を現すその異邦者を、老人は歓喜の瞳で見ていた。 「セリエバ! アレが! アレが! 運命を食らうアザーバイド!」 それはまるでおもちゃを見つけた子供のような喜び方だった。世界を滅ぼしかねないほどの存在を目の前にしながら、老人は心の底から喜んでいた。 「遠く離れていても感じるぞ、その禍々しさ! その毒を! 貪欲さを! 渇望を! 運命がほしいのだろう! 世界を食らいたいのだろう! 素晴らしい生命力だ! その力こそ、生命の神秘!」 「『頭脳』――この体では長くは持たないぞ。新しい血肉を得ねばなるまい」 「分かっているとも『脊髄』。なぁに、この船にはアーティファクトを守る者たちが沢山いる。そいつ等を食らうとしよう。セリエバの強化にも繋がるしな」 二つの声は、一人の老人から発せられていた。狂気に満ちたその笑みから流れる『会話』。老人は船の甲板に出て、アーティファクトを守護するフィクサードたちに声をかける。確か『達磨』を慕っているものたちだ。 「問題ないかね、剣林の諸君」 「はい。今のところは」 「そうかね――では死ね」 そのフィクサードが言葉の意味を理解するより早く、老人の腕が振るわれる。 不意を討たれたとはいえ、七派随一の戦闘集団である剣林である。その攻撃に反応し、防御の動きを見せる。 「ぐわぁ!」 だが老人の攻撃はその防御すら貫いて、剣林のフィクサードを一蹴した。その強さに他の剣林のフィクサードも戦闘の構えを取る。 「無駄だよ。革醒者の毒を得た私に、勝てやしない」 狂気の笑みを浮かべる老人。裏切りと、そして仲間を傷つけられた恨みをこめて、フィクサードは怨敵の名を叫んだ。 「W00(ダブルダブルオー)!」 ● 「敵の裏切り者は味方じゃない。そんな例だな」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は集まったリベリスタ達に向かって、そんなセリフをはいた。 「運命を食らうというアザーバイドを七派の『剣林』『六道』『黄泉ヶ辻』の三派が手を組んで召喚しようという企みがある。そいつ等の居場所を突き止めた」 モニターに映し出される外洋の地図。そこに赤く光るポイントと、それを円状に取り囲む小さな青い光点。魔術的な知識のあるものが見れば、その図形をこう称するだろう。 「――魔方陣」 「YES。船を基点とし、そこにアーティファクトやら機械やらを置いている。それをいくつか置いて『セリエバ』というアザーバイドを召喚しようとしている。 お前たちの仕事はこの魔法陣の一角を崩すことだ。ついでにセリエバに攻撃を加えればなおグッド」 伸暁の説明と同時に、蒼い光点の一つがクローズアップされる。がっしりした体格のフィクサードが十数名。船の中央にある緑硝子の三角錐を警護していた。 「この船は七派の一つ、剣林が警護している。相応の戦闘力を持っているのだが、そいつ等は数分後に全滅する」 「? 援軍か?」 「いや、もっと性質が悪い。今まで手を結んでいた黄泉ヶ辻のフィクサードが暴走する。 W00。Wシリーズと呼ばれる人を改造した軍団を生み出したフィクサードだ。この老人はそのWシリーズの手足や体の部分を自らに取り入れて、武器にしている」 「……は?」 「その上でW00はセリエバが撒き散らしている『毒』を体内に取り入れ、攻撃をしてくる。革醒者殺し(エリューションスレイヤー)とでも名づけようか。 放置すれば毒を体内に溜め込んで用意に手が出せなくなる。手早い対応を求めるぜ」 「……相手したくねぇなぁ」 「イカれた老人を無理に相手する必要はない。アーティファクトだけ壊せば当座の問題は解決だ。それも楽じゃないが、お前たちなら大丈夫だ」 軽薄に見えるが、これは少しでも場を明るくしようという伸暁のパフォーマンスだ。リベリスタもそれは理解している。どうせ挑まなければならないのならポジティブにいく方がいいに決まってる。 「因みに、アーティファクトを壊してW00を放置して逃げれば……剣林のフィクサードはどうなるんだ?」 「老人の心次第だろうな。いい結果にはならないと思うぜ」 「……確かに」 「方針は決まったか、ブラザー?」 リベリスタは頷いて、ブリーフィングルームを出た。 ● 「ぐ……!」 「さすが剣林です。少し痛かったですよ。――それでは、その命を頂きましょうか」 「そいつはさせませんぜぃ!」 「おや、あなたは。確かいつぞやの船でであった仮面の」 「『氷原狼』、義によって助太刀致す、ってヤツさ。 ――ま、アークから情報を教えてもらわなかったら、ここにたどり着けなかったんですがねぃ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月11日(土)23:26 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 遠くに見える樹木のアザーバイド。その召喚を補佐する『エメラルドタワー』と呼ばれる緑色のアーティファクト。 そのアーティファクトの近くで攻防する二人の革醒者。氷の覇界闘士と狂気のフィクサード。自身を改造した狂気の男は、氷の狼を圧倒する。 「解せないな。セリエバの敵というのなら、直接あっちを叩けばいいのに」 「色々事情があるのさぁ。聞きたい?」 「いや、興味はない。私の血肉となれ!」 氷の拳士が稼いだ時間はわずか数十秒。そのわずかな時間が、リベリスタ突入の煙幕となった。 「とらあたーっく!」 身を低く掲げて一気に走り『魔獣咆哮』滝沢 美虎(BNE003973)の拳がエメラルドタワーに叩き込まれる。魔を制する手甲をアーティファクトに叩きつけ、衝撃をダイレクトに芯に叩き込む。水晶が振動する音が甲板に響いた。 「W00! お前の野望はここで終わらせる!」 「はぁい、W00。お久し振りねぇ」 漆黒が風となる。巨鉈が風車のように回転し、闇のオーラが刃に重なった。『狂奔する黒き風車は標となりて』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)の一閃がエメラルドタワーに叩き込まれた。 「といっても覚えてないかな」 「いいや、覚えているとも。君達を見ていると『左腕』が疼く」 W00は左腕を押さえながら美虎とフランシスカを睨んだ。 「よう、氷原狼。いつかのマンションとは逆だな」 W00と交戦していた覇界闘士に声をかける『九番目は風の客人』クルト・ノイン(BNE003299)。脚部に仕込んだ破界器に氷を纏わせ、滑るように蹴りを繰り出していく。W00から視線をはずさずに、『氷原狼』に語り続ける。 「ま、今回は素直に共闘と行こうや」 「来ましたねぇ、おせっかい集団が」 「そういうなよ。俺も色々剣林に義理はあるんだ」 重厚な鎧と盾を構えながらツァイン・ウォーレス(BNE001520)が笑う。ツァインほどの背丈のものが重装備をすれば、それだけで威圧感が増す。それは味方にとっては安心感に変わる。W00の視線から仲間を守るように歩を進めた。 「アーク、故あって助太刀致す! って奴だ。なぁツンデレウルフ」 「え、割と俺アーク側にデレてね? ツン期あったっけ?」 「あれが噂のツンデレ……じゃなくてツンドラウルフか」 『道化師』斎藤・和人(BNE004070)がそんな会話を聞きながら、髪を手櫛で直す。イカレた爺さんと船旅を続ける気はない、とばかりにアーティファクトのほうに向き直り、盾を構えて突撃する。 「んじゃ、何時も通りゆるーくいきましょ」 「そーそー。気楽にいこーや」 矛を構えながら『泥棒』阿久津 甚内(BNE003567)がタバコをふかせる。遠くに見えるアザーバイド『セリエバ』。気楽に、といったが最後まで現場で動くことになるとは。そして長い付き合いで言えば、 「ツンドラちゃんも僕ちゃん達も目的半ばな訳だけんどー」 「今更ごねたりはしませんぜぃ。とりあえず共闘できる部分はしましょうや」 「道中違えど目的違えずー」 『氷原狼』との付き合いも長いものだ。互いに拳を突き出し、共闘の意を示す。 「それにしても、セリエバの一部でも取って逃げればいいのに」 『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)はW00に戦いを挑んだ『氷原狼』に向かい、呆れた様な声を出す。氷の拳士の目的は『セリエバ毒に侵された仲間の治療』だ。セリエバの一部が手に入るなら、その機会は逃すべきではないのに。 「ああ、まったくですねぃ。やれやれですねぃ」 「まあ私も知らない仲じゃないし、って言ってる分変わらないか」 ため息をつきW00とエメラルドタワーを視界に入れる彩歌。 「セリエバ本体を担当されている隊の皆様の為にも、一刻も早くタワーの破壊を致しましょう!」 メイド服を翻し、『レディースメイド』リコル・ツァーネ(BNE004260)が扇を広げる。遠くに見えるアザーバイド。そこで戦う人たちのために、召喚を促しているアーティファクトは破壊しなければならない。 (ミリィお嬢様……どうかご武運を……!) 別の戦場にいる主の武運を祈るリコル。そして自分の戦場に意識を集中する。 「『補充』要員が九体追加か。剣林を加えればもっと増えるぞ」 「そしてセリエバの強化にも繋がる。そうなればこの毒はもっと強くなる!」 一つの口から二つの会話が流れる。『頭脳』と『脊髄』。二つの人格がW00を動かしていた。その両手が奇妙に歪む。 異界の花粉が舞い散る船の上、世界の防衛をかけた戦いの火花がきって落とされた。 ● 「剣林の皆様、じきにセリエバの毒花粉が飛んで参ります! 動ける方は船室まで退避をお願いします!」 「彼等も革醒者だから自分で何とかするでしょう。さぁ、一気に行くわ!」 リコルが近くで隠れている剣林に指示を飛ばし、フランシスカが軽く剣林のフィクサードを一瞥してからエメラルドタワーに攻撃を仕掛ける。斬撃と打撃が緑色の水晶を揺らした。 「さあっ! ボーナスステージの開始だっ! 喰らえ必殺・とらあっぷぁー!」 エメラルドタワーの前で美虎が深く沈みこむ。筋肉を捻るようにして力を込め、開放すると同時に拳を叩きつける。ガァン! と響く大きな音。続けて拳を振り上げたところに、 「悪いがセリエバの召喚を邪魔されては困るのでね」 W00の瞳が光る。不可視の蛇が絡みつく感覚。美虎の体は石のように硬くなる。意識が残っているのがもどかしい。 「前回補充するとは言ってたけど、これは大したWacky(狂気じみた)だわ」 彩歌はエメラルドタワーとW00を直線で結ぶ位置に立つ。アーティファクトとW00を貫くように神秘の糸を飛ばした。W00を押さえている人たちも射程範囲に入るが、相手の実力を考えればこれが最善手だ。 「素晴らしいだろう。人の命というのは。ここまでのことが可能なのだ」 六人の少女の体を奪い、その能力を行使するW00。狂っていることには違いないが、この男は人間の力と可能性を、本気で信じているのだ。 「そこをどけ、リベリスタ!」 W00は自分を囲む者を肥大化した腕で殴りつける。同時にW00を押さえている者の耳に怨嗟の声が聞こえた。声が殴られた痺れから回復する気力を削ぎ、足を止めてしまう。 「どかねぇよ! ここでお前は倒れるんだ!」 ツァインの盾が輝く。騎士の掲げる盾が悪魔の手を退けた。石化する美虎やW00を押さえていたものが動き出す。頼もしい支援に、体調だけではなく心まで励まされる。 「ツァインがいるなら、俺は大丈夫だねぇっと!」 もし支援がツァインだけでは足りないときは俺がやるか、と和人は待っていたのだがその心配はなさそうだ。一刻も早くエメラルドタワーを壊すべく破界器を振り上げる。盾で叩きつけるようにしながら、至近距離で銃を撃ち水晶に傷を入れていく。 「ツンドラちゃんよー。バイクのケツ乗ってえーねんで?」 「浮気するとアイツ拗ねるからなぁ」 甚内はファイアパターンを塗装したバイクに乗りながら、矛を振り回す。『氷原狼』にタンデムを誘いながら、氷の矛を振るった。 「他人の体奪ってセリエバの毒取り込んで、外から奪った力でいい気になるなよクソ爺が」 「君達が仲間と共に戦うように、私も皆と一緒に戦っているのだよ」 「一緒にするな!」 クルトがW00を挑発しながら蹴りを放つ。足払いからロー、ミドル、ハイへと流れるような動き。打撃が衝撃を伝え、低温の風がW00の体を冷やす。 『氷原狼』を含め三連続の氷の足止めは確実にW00の動きを封じていた。 だが誰もこのまま押し切れるとは思っていない。 「セリエバから花粉が来ます!」 戦場に降り注ぐ異世界の花粉。運命を食らうといわれる花粉を吸わぬようにリベリスタたちは庇いあい、防御する。 「いいぞ! いいぞ、この力! 世界を食らえ、運命を食らえ、セリエバ!」 W00にも等しく降り注ぐ花粉。その毒に身を削られながらその狂気は加速する。 「『氷原狼』、W00の特性は――」 「わかってますぜぃ。追い込まれれば新たな能力が発現する、ってねぇ」 クルトが示唆したとおり、W00はダメージが重なる度に力を増す。自身が取り込んだセリエバの毒の効果も含め、難敵といってもいい。 「くそ、壊れろ壊れろ!」 エメラルドタワーを攻撃しているリベリスタの動きにも焦りが見える。W00はセリエバ召喚を邪魔されたくないため、エメラルドタワーを狙うリベリスタを主に狙い始める。 だが緑水晶の傷は、少しずつ大きくなってきていた。 ● W00の口から絶望に満ちた声が響く。W00に殺されたW04の怨嗟の歌声。それがリベリスタたちの足を止める。 「……まだよ!」 「ここで倒れてはお嬢様に申し訳が立ちません!」 彩歌とリコルがその声で膝を突く。運命を燃やし立ち上がり、エメラルドタワーへの攻撃を再開する。扇を用いて回転するように遠心力を加えてリコルがアーティファクトを叩けば、W00も一緒に貫けと彩歌の糸が飛ぶ。 「ふははははは。セリエバの産声が聞こえるよ!」 血液の弾丸がさらにW00を囲む者たちに降り注ぐ。弾丸はじわりじわりとリベリスタの皮膚から体力を奪っていく。 「あらまー。さすがにきついかなー」 「まだ想定内だ。セリエバを強くしてしまうのが厄介だがな」 甚内とクルトがセリエバの毒を含んだW00の攻撃に運命を燃やす。まだ倒れはしないと痛む体に鞭打って笑みを浮かべた。 「ちぃ! 厄介だな、てめぇは!」 ツァインはW00の与える不調を払うべく、常に神秘の光を放っていた。立て続けに放つ癒しの技はツァインの気力を奪っていく。ツァインは気力よりも体力が高めの守り手なのだ。長期戦になれば不利なのは分かっている。 「花粉さえなければ……!」 リベリスタは一定のリズムで飛んでくるセリエバの花粉を警戒し、飛んでくるときに防御の陣を敷く。それが自然と長期戦へと引きずり込まれる原因となっていた。 もちろんそれを行わなければ戦線が崩れる可能性もあるため、仕方のない選択だったといえよう。セリエバの花粉の中でも動きが鈍ることのない彩歌が気力を回復していくが、枯渇を先延ばしにしているに過ぎない。 「あー、面倒ですねぃ。いつもならとっとと逃げるんですがね」 「だよねー。どうするのー?」 『氷原狼』のぼやきに甚内が軽く返す。 「やるしかないでしょ。ここが踏ん張り時でさぁ」 「そうだな。惚れた女のために命張ってこそだ」 「あー、尽しがいのある女なら良かったんですがねぃ」 クルトが茶化す間にも、三人は氷の武技を繰り出していた。『氷原狼』がW00の前に立ち視界を塞ぎ、その隙を縫うように甚内が矛を繰り出す。繰り出された矛を避けた先にはクルトの間合。繰り出される蹴りがW00の腹部に叩き込まれた。 矛、足、拳。三者三様の氷の乱舞。それは確実にW00の動きを止め、狂気ともいえる攻撃を止めていた。 そしてその間に、 「こいつでお終いだね。砕け散りな」 和人がアーティファクトに渾身の一撃を叩き込む。縦から伝わる物理的な抵抗。それを押しつぶすように力を込めた。ガラスが砕けるような小気味いい音。緑色の細かい粒が、潮風に運ばれ消え去る。 「貴様等!」 「とらぁ……だーんくッ!」 アーティファクトを破壊されて怒るW00に美虎が八重歯を見せるように哂いながら走る。走る勢いをそのまま相手のバランスを崩す力に変えて、W00を甲板に叩きつけるように投げ飛ばした。 「W00! お前の悪だくみは過去も今もこの先も、全部わたしたちリベリスタがぶっ潰してやるっ!」 「ええ。ここで消えなさい。W00!」 黒羽を広げ、フランシスカがW00に踊りかかる。その手に掲げるのは黒い風車。その心に宿すのは戦士の矜持。切り口から体力を奪う黒の剣技。大上段から振り下ろすその一撃は、W00を袈裟懸けに傷つける。 「まだ、消えるわけには行かないよ!」 「きゃあ!」 フランシスカに与えられた傷口を押さえながら、W00は血の弾丸を放つ。美虎とフランシスカが運命を削り、初手からW00を押さえていたクルトと甚内、そして『氷原狼』が地面に倒れる。 「おっと、こいつらだけじゃ物足りねーって? なんとまあ強欲だこと!」 和人が破界器を構えてW00に近づく。堅牢な盾を鈍器に変えて、その重量と硬度を叩きつける。死地においてなお和人は緊張しない。それが彼の生きる術。道化師は仲間と世界のために、今日も踊る。 「消耗が激しい……退くぞ、『頭脳』」 「口惜しいが、仕方あるまい!」 リベリスタの猛攻に逃亡を図るW00。勝てるか否かといわれれば、まだわからない段階だ。技を繰り出すたびに体が傷つくW00だが、その一撃は強力だ。戦い方によってはリベリスタを一掃できただろう。 (侮るな。引き際を誤って『私たち』は崩れていった) 自切したW00の体は何度もリベリスタと交戦している。その経験が告げていた。今は逃げろと。彼等の戦意は高く、最後の一兵になっても戦うつもりだろう。 「決着はまたの機会にさせてもらうよ!」 船の甲板から飛び降り、用意してあった船に乗り込むW00。甲板から見下ろすリベリスタと視線が交錯する。 「W00、次に会う時は倒す。それまでその首洗って待ってなさいな」 「そのときにはこちらも万全の準備をして待っているよ。この毒を使えば君達革醒者など取るに足らないからね」 フランシスカの挑発にW00は笑みを浮かべる。彼を乗せた小型船はそのまま夜の海に消えていった。 「行った、か」 美虎は悔しそうにそれを見送った。W00を倒したくあったが、無理をしてセリエバ召喚のアーティファクトを壊せなければ意味はない。拳を握って次の機会を待つことにした。 「仕方ないわ。W00を相手している余裕はなかった。セリエバの召喚を止めるのが最優先だから」 彩歌は聳え立つセリエバを見ながら言う。アーティファクト破壊を優先で作戦を行使しても、幾人かの戦闘不能者が出た。比重を誤れば、アーティファクト破壊に至らず撤退もありえただろう。 Wという狂気を乗せた船は、リベリスタの視界からゆっくりと消えていった。 ● 「あー。死ぬかと思った」 『氷原狼』が上半身だけを起こした状態で頭を振っていた。戦闘のダメージは浅くはないようだ。 「『氷原狼』様、剣林の皆様の撤退誘導を任せてもよろしいでしょうか?」 リコルは剣林のプライドを傷つけないように元剣林の『氷原狼』に誘導を頼む。アークが連行するよりはいいだろうという判断だ。 「俺も含めて剣林のフィクサード一網打尽のチャンスだと思うんですけどねぃ」 「私たちは戦争をしているのではありません。お心違いのない様」 『氷原狼』の弁に一礼して答えるリコル。 「車輪屋ちゃんには劣るけどー。良いバイク知ってっからさー終わったら紹介すっぜー?」 「いいねぇ。終わったときにお互い無事なら、ですがねぃ」 甚内もぐったりとした状態で『氷原狼』の隣に横たわっていた。余裕があればセリエバも叩きたかったが、さすがに体が動かない。 「せめて一発は食らわしたかったね」 クルトは悔しそうにセリエバを見ていた。かつてセリエバに世界を滅ぼされたアザーバイドのことを思い出す。その仇討ちというわけでもないが、ここまで来て何もできないのは少し残念だ。 「とらきぃっく!」 「朽ち果てろ!」 「んじゃ、俺も撃っときますかね」 フランシスカと美虎と和人がセリエバに攻撃をしていく。アーティファクト破壊とW00撃退の後のため余裕はあまりないが、それでも援護射撃になればと攻撃を加えていく。風の刃が樹木を裂き、闇の一閃が枝を薙ぎ、狙い済まされた弾丸が叩き込まれる。 「これで最後よ」 彩歌はセリエバを攻撃する人たちへの補佐に回っていた。尽きそうになる気力を補充していく。彼女も火力が低い訳ではないが、このメンバー内にはもっと高いものがいる。そちらの補佐に回ったほうが効率がいい。 「本隊はどうなったか……全部終わったら達磨の旦那と手合わせしてぇんだけどなぁ……」 ツァインは幻想纏いを操作し他隊との連絡を行っていた。同じクロスイージスとして『達磨』との戦闘には興味がある。セリエバの近くで戦っている仲間達も含め、娘を思うフィクサードの心配をしていた。 『……シュリーゲン! 世界を滅ぼす気か!』 まだ混戦状態なのか、断片的な会話だけが聞こえてくる。戦況は分からないが、アクセスファンタズムが通じるということは、まだ負けてはいないということだ。 リベリスタたちは傷の手当をしながら、異世界の樹木が聳え立つ戦場を見ていた。 運命を食らうアザーバイド。その毒を得たW00。その狂気は加速する。 『お前の悪だくみは過去も今もこの先も、全部わたしたちリベリスタがぶっ潰してやるっ!』 美虎の言葉がW00の脳裏に蘇る。それを愚かだと哂うW00。 しかしその言葉を否定することは、できなかった。 リベリスタとはまた相対するだろう。その未来だけは。 「ふははははははははは!」 Wの名を持つ狂気の哂いが、今は高く響いていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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