● 「関東広域で人の足が切断され、持ち去さられるという凶悪事件が発生しています。ええ、いま連日のようにニース番組や新聞で取り上げられている例の事件です。予知されたのは次の犯行――どうかみなさんの手で犯人を捕まえ、いいえ倒してください」 アークのフォチューナに予知されたというのなら、それは恐らく神秘に関わる事件なのだろう。だが、『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)のいまの説明ではどこにリベリスタ出動の必要性があるのかまったく分からない。 戸惑いを隠さないリベリスタたちに向かって和泉は説明を続ける。 「ええ、覚醒者の仕業です。アーティファクト“黒刃の妖刀”を使って犯行に及んでいます」 犯人は高校生2年生の板倉淳也。ソードミュラージュのスキルを体得しているという。覚醒したのは2年前のことで、見た目にもまったく変化がなかったために最近まで覚醒したことを隠して普通に暮らしていたらしい。 「彼はこの春に事故で足を切断した片思いの先輩のため、凶行に及びました。新たな脚を得て再び先輩が走れるようにと、同じ年頃のアスリートたちを襲って足を切断しているのです」 黒刃の妖刀でつけられた切り口からは一切血が出ないという。被害者たちのすっぱりと切り取られた脚の断面は、まるで黒光りする金属のようであり、時として夜の海のように波打っている。 「切断面が磁気のようなものを帯びて、切り口と切り口合わせるとぴったり繋がる……黒刃の妖刀にはそんなに特殊な効果があるみたいですね」 被害者たちは両足を太ももの中ごろから失ってはいるが、いずれも命に別状はなく、メンタル面を除けばすこぶる健康であるらしい。 「淳也の思い人、大山かずきは現在行方不明。新しい脚をつなぐため、淳也に拉致されたと思われます」 和泉は、こほん、とひとつ咳払いをして「大山かずきは男性です」と聞かれもしていないことを付け加えた。 そして資料を静かにめくる。 「淳也が次に狙うターゲットが問題で……剣林派のフィクサードなのです。不幸中の幸いというか、もしも狙われたのが一般人であったなら、今回もまた万華鏡に映らなかったかもしれません」 このままリベリスタたちが運命に介入しなければ、淳也はフィクサードに返り討ちにされ、淳也に監禁されていたかずきは餓死、犠牲者たちの脚も戻らず、さらにアーティファクトを剣林派のフィクサードに奪われてしまう。 「そういうわけで、今回はみなさんに板倉淳也の討伐とアーティファクトの回収、大山かずきの保護をお願いします」 ● ちょっと短くなってしまったけど、すぐに新しい足をつないであげるから……。 淳也は声にならない言葉を唇から、かずきの短くなった脚の先に落とした。 立ち上がり、革張りの椅子の後ろにまわってずれかけた目隠しをきっちりとしめなおす。 ゆっくりと前にまわって愛しい人の焼けた頬に指を滑らせた。 かずきが頭を乱暴に振って頬から指を離そうとする。 ちくりと胸が痛んだ。 怒っている? 2度も失敗したから? ピッタリだと思って持ってきた足は、微妙に太さが違ってかずきの足にあわなかった。 淳也は作りつけの机の上からバイクのキーを取り上げた。 黒のライダースーツのジッパーを首まで上げて、刀を背負う。 でもね、今度は大丈夫。 きっとまた走れるようになるよ。 立って歩き、走ることが出来れば……もう二度と手放すものかと思うだろう。 新しい足も、その足をつないでおくことが出来る僕のことも。 最近、不法投棄されたらしきトレーラーの中にかずきと足を残して、淳也は夜の闇にバイクを走らせた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:そうすけ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月08日(水)23:15 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● ぼぇぇぇぇ~ ヘルメットの中で怪音を発しているのは街多米 生佐目(BNE004013)だ。 『蒼輝翠月』石 瑛(BNE002528)の駆るアースチェイサーはクォーンと気持ちのいいサウンドを響かせているのだが、残念なことに生佐目には聞こえていない。 バイクが倒れるたび、生佐目のヘルメットから流れ出る怪音も倒れる。軽い起伏に車体がふっと浮き上がれば、やはり怪音も空に浮き流れた。 三高平から数時間。瑛は常にアースチェイサーを200kmオーバーで走らせていたわけではない。が、待ち伏せに間に合わさなければいけない、と言い訳をしつつ、そこはやはりバイク乗りの血が騒いだのか、山道へ入ったとたんの爆走だった。生佐目の怪音が始まったのもその時からだった。 『白銀の鉄の塊』ティエ・アルギュロス(BNE004380)は、前方を走るアースチェイサーのテールランプを必死に追っていた。 鉄の馬とはボトム世界で出会った。白銀のボディと力強い音に魅せられて買い求め、それから御し方を自己流で学んだ。順序が逆であるが、三高平でそれをうるさく言うものはいない。こちらの時間にして数ヶ月。自分なりに乗りこなせているつもりだったが、どうやらまだまだのようだ。 ミラーに『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)が運転する車と、その斜め後ろに『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)が乗るバイクのヘッドライトを認めるとアクセルを緩めた。 観覧車のシルエットを黒く沈む木々の向うに見つつ、義弘はハンドルをまわした。助手席に座る『瞬神光狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)に、「あそこが例の廃テーマパークだな」と声をかける。 「デハアト5キロダナ」 「いや、待ち伏せポイントはその手前。あと2キロだ。板倉の追い込み、頼むぜ」 「任せろ。ソッチこそ剣林たちの説得ヲ頼んだゾ」 義弘は瑛たちのそばに車を止めると、リュミエールを下ろした。 「大丈夫か、生佐目?」 両腕をあげて大きな環を作った生佐目だが、ヘルメットを被ったまま体ごとあさっての方角を向いている。 義弘は一抹の不安を感じたが、後を3人に任せてウラジミールとともに剣林フィクサードの説得へ向かった。 ● 『深紅の眷狼』災原・闇紅(BNE003436)と『大雪崩霧姫』鈴宮・慧架(BNE000666)のふたりは別ルートから廃テーマパークにきていた。 パキリ、と慧架の足元で乾いた音がたつ。 「なんでしょう。さっきから枯れ枝ばかり踏んで……明かりを持って来るべきでした」 「別になくても困らない」 確かに、と慧架はうなずいた。廃テーマパークの中を探索するわけではない。板倉淳也が追い込まれてくるのを待っているだけなのだから、今とくに明かりは必要ないのだが……。 慧架は雑草の生えた駐車場跡地から、高い柵のうしろに影となった城を眺めた。あの形の建物をつい最近どこかで見たような気がする。 ウォン、と短く吼えるような音が慧架の思いを破った。 互いに顔を見合わせる。駆け出した。 いくらも走らないうちに、ふたりの目の前を黒いかたまりが横切っていった。 「いまの、もしかして板倉君でしょうか?」 「北と南、どっちへ向かった? 南ならそうだろう」 慧架は首を振った。 「判りません。でも、いまのが板倉君だとしたら近くに大山君がいるはずです。探してみましょう。ブリーフィングではとても狭い……あ!」 「どうしたの?」 「思い出しました。ここ、とある依頼の報告書で見たんです。たしか、正体不明のフィクサードが乗り捨てていったトレーラーがあるはずですよ。回収されていなかったら、ですけど」 「行ってみよう」 広い駐車場を横切って角を曲がった先、果たしてそこに真新しいトレーラーはまだ置かれていた。 「鍵はかかっていないはずです。キーは見つからなかったって報告書に書いてありましたから」 コンテナのドアを開けて、慧架、闇紅の順で中に入った。 まず目についたのは小さなテーブルの上で光を放つカンテラだった。おそらく淳也が持ち込んだものだろう。右側の壁には何も映っていない複数のモニターとコンソール台、そしてその奥に―― 「きゃ!」 大山かずきは革張りの椅子に荒縄で括りつけられていた。さるぐつわと縄、それに目を覆っている布以外に身につけているものは何もない。足は両方とも太ももの中ごろからなくなっているようだ。おそらく黒い断面が波打っているはずだが、そのあたりに視線を落とすのははばかられた。 淳也とは違う声を聞きつけて、かずきがうめき声を上げた。 「すぐ助けてあげますから。お願い、暴れないで。椅子が倒れてしまいます」 倒れてしまったら抱き起こしてやる自信がないない。とにかく何か体を覆ってあげられるものはないだろうか。 慧架はあたりを見回した。 その後ろで、見つけた、と闇紅が声をあげた。 「しかし悪趣味だな。あ、いや、布じゃなくて……」 闇紅が指差すものを見て慧架は息をのんだ。 生足が壁にずらりと並べて立てかけられていた。 ● エンジン音が聞こえてすぐ、リュミエールは崖を登った。 カーブから黒いバイクが飛びだしてきた。道を塞ぐ瑛たちに気づいてスピードを落とし、白線3本分ほど手前でとまる。 「板倉淳也さんですね? わたしたちはアークのリベリスタです。あなたが狙っていた貫田正嗣はここへは来ません。もうその剣で人の足を切り取るのはおやめなさい」 僅かな体の動きから、瑛は淳也の動揺を感じ取った。案外、すんなり落とせるかもしれない。 「アークには、先を見通せる便利な物が有るんですよ♪ 大山かずきさんはわたしたちが保護しました。彼に会いたければ、一緒にアークまで来てください」 半クラッチからのフルスロットル。何が不味かったのか、淳也はいきなり突っ込んできた。 瑛とティエのバイクの間を淳也のバイクが一瞬で抜けていく。 崖の上で木々が揺れた。 「ストリートファイター848って。たしかこの春で高2でしょ。どこのボンボンよ、あいつ!?」 「リュミエールさんがもの凄い早さで追っていきましたね。私はバイクよりリュミエールさんの足が欲しい。ちょうどいいものありますし」 「え?」 「え?」 顔を見合わせるふたりの横をティエのバイクが通り抜けていった。 「どうやら出遅れちまったようですぜ、お嬢」 「早く乗って!!」 「合点だ」 ● コンビニを過ぎたところで車を止めて、義弘は貫田正嗣と高良義美のふたりがやってくるのを待った。万が一に備えてエンジンはかけたままだ。 こつこつとガラスを叩かれて、窓をさげる。ウラジミールがコンビニで買ってきた缶コーヒーを差し入れてくれた。 「ありがとう。へぇ、まだホットを売っているところがあるんだな」 「まだこのあたりは夜になると冷えるそうだよ」 口から僅かに湯気を立たせた缶を片手に、ファーのついた皮ジャンパーを着たウラジミールが言った。首からさげたゴーグルが湯気で曇っている。 「しかしなんだ、ウラジミール。お前さん、いつも軍服着てっから分からなかったけど……結構オシャレだな」 「ん? そうかな。自分では普通だと思うが」 少しはにかんでいるところをみると、まんざらでもないようだ。ヘルメットで乱れた髪を手櫛ですきながら、ちいさく「Спасибо」と返してきた。 「お、きたぜ」 ちょうど缶コーヒーを飲みきったところへ揃いのランニングウェアに身を包んだ2人組みが走ってくるのが見えた。 義弘はドアを開けて車の外へ出た。 道の真ん中でウラジミールと並んで立ち、ランナーたちの行く手をさえぎる。 「なんだ、てめーら?」 猫耳を倒した茶髪の男が前に出てきた。片耳がぴくぴくと震えている。こちらがビーストハーフの義美だろう。 「自分はアークのウラジミール・ヴォロシロフというものだ」 「おなじく、アークの祭 義弘だ」 「オレたちはただ道を走っていただけだぜ。フィクサードは夜道を走るな、てか?」 ふざけんじゃねぇぞ、と息巻く。 「泣かすぞ、コラ!」 義弘はため息をついた。横でやれやれと、ウラジミールも首を振っている。こいつはただのチンピラだ。話にならない。 チンピラを手で押しのけ、後ろでストレッチをしている男に声をかけた。 「なあ、そこのお前さん。こっちにきて俺の話を聞いてくれや」 「オレが相手をしてやるって言ってんだろ。兄貴に気安く声をかけんな」 義弘の胸を掴もうとした義美の腕をウラジミールが取って捻りあげた。 反撃に出ようとした義美を低い声が制した。 「ヨシ、やめろ」 でも、と口答えした手下をひと睨みで黙らせると、正嗣はリベリスタたちと向き合った。 「ヨシを離してやってくれ。話は聞いてやる。手短にな」 「よし。ありのまま全てを説明するぞ。想い人の為に、他人の足を狙っている奴がいる。そいつは、今お前さんの足を狙ってるが、俺達で対応する。だから、すまないが、この戦いには介入しないでもらえないか?」 「意味が分からん」 「手短に、ていったのはお前さんだぜ」 横手からウラジミールが口をはさむ。 「万華鏡のことは知っているな? その万華鏡がフリーの覚醒者に襲われる貴殿らの姿を捉えた。これだけ言えば充分であろう」 「ほう、それで? 俺たちはそのフリーの覚醒者に倒されたのか?」 「いや、そこまでは……」 正嗣が鼻で笑った。 「なるほどな。悪いフィクサードに殺される前に、そのフリーの覚醒者を捕まえてアークで再教育、リベリスタにする気か」 「そんなことは言ってない。まあ、場合によっちゃそういうことになるかもだが」、と義弘。 「再教育なら剣林でも出来るぞ。ともかく、警告ありがとよ」 傍に控えていた義美に、行くぞと、いうなり正嗣は走り出した。 「待ちたまえ。どうしてもというなら自分を倒してという事になるが、君たちには何のメリットもあるまい?」 遠くでクォーンと夜に響く音がした。 正嗣が足を止めた。ゆっくりと振り返る。 「……どうやら、あんたたちの仲間は説得に失敗したようだな。来ちまったぜ」 フィクサードたちが踵を返すのと同じして、義弘のAFへ闇紅から連絡が入った。 ● ――世界よ加速しろ私は誰よりも速イノダカラ リュミエールはキツネ耳を後ろへ倒し、地を這うかのごとく身を低くして駆ける。黒のバイクを追い越すと、崖を駆け下りて前へ出た。腕を上げて迫り来るヘッドライトの光をさえぎりつつ、回転するタイヤに狙いを定める。 「貴様ハナニモワカッチャイネエ 他人の足何ザ所詮他人ノアシナンダヨ」 リュミエールの手の内から無数の光が飛び散った。淳也のバイクが跳ね飛んだ。 淳也はキツネ耳の頭上を飛び越しながら、“黒刃の妖刀”をふるった。黒い閃光がアスファルトやガードレール、崖のコンクリをめった切りにしていく。切り取られた無数の破片があられとなって、リュミエールの上に降り注いだ。 着地と同時に淳也はまたバイクをターンさせた。白銀色のバイクがエリアに入ったのを確認して、妖刀に「戻せ」と命ずる。 バラバラになって地に落ちた破片が、寄り集まりながらもとの場所へ戻っていく。互いにぶつかり合って弾け、跳ねまわりつつ、それでも元の場所を目指して飛んでいく。軌道上にあるものを無視して。 四方から飛んでくる破片に打たれてティエが転倒した。倒れたバイクがアスファルトにボディをこすらせて火花を散らしつつ、淳也の横を滑りすぎていく。すこし遅れてティエが胎児の姿勢のまま道を滑っていった。リュミエールは全身から血を流しつつ、頭を抱えてしゃがみ込んでいる。 「なんだ、男か」 振り返った刹那、淳也はヘルメットを砕かれて吹っ飛ばされていた。 「話からてっきり女だと……。まあいい。おい、その刀を寄越せ」 気がつくと真横に拳を固めた獲物、貫田正嗣が立っていた。ハンターは自分……だったはず? 「刀を寄越せって、兄貴がいってるのが聞こえねぇのかよ!」 猫のような耳を頭から生やした男が刀に手を伸ばしてきた。とっさに刀を振るう。 腰の辺りから刃が入り、斜めに上がって左胸のあたりから抜けた。 「へっ?」 するすると猫男の上半身が滑り落ちていく。 「あ、兄貴……オレ、オレの体が!」 不気味なことに猫男は、体を分断されても生きていた。妖刀に切られた断面はやはり黒く波打っている。 「くそ! なんて切れ味だ。しかもなんだ、この――!?」 正嗣が背中を仰け反らせた。衝撃に押された形で体を反転させる。 怒りに燃えたフィクサードの目の先に立つのは黒刃の剣を手にしたティエだ。 「そこで大人しくくたばっていろ!」 怒号とともに繰り出された正嗣の拳を受け止めたのは、バイクごと2人の間に割って入ったウラジミールだった。 南から義弘の車が、北から生佐目を載せた瑛のバイクがほぼ同時に到着した。 「どうするね? ここで大人しく引くほうが賢い、と自分は思うが」 「兄貴! ガキが逃げる!」 場にいた全員の視線がバイクに跨った淳也に注がれる。 タイヤが高速で回り白煙をあげたかと思うと、黒のバイクはリュミエールの真横をかっ飛んでいった。 ティエのバイクへ向かって走りだした正嗣の前に義弘が立ちふさがった。 「おおっと、どこへいく気だ?」 ● 最初のコーナーを抜けるまではスピード域の違いからすぐに追いつくもの、と瑛は高をくくっていた。が、一向に車2台分の距離が縮まらない。 コーナー進入からクリップまではアースチェイサーほうのが速かった。一気に淳也が駆る848と距離がつまる。しかし立ち上がりでは強烈な加速で848がまたグッと前に出た。 後ろに生佐目を乗せていることもあるが、時々飛んでくるオイルの飛沫がここぞというところで邪魔をする。どうやらリュミエールの攻撃でオイルタンクに傷が入ったらしい。いつ爆発するか、と瑛は気が気ではなかった。バイク一台分あけて後ろをウラジミールが走っている。目の前で爆発されたら大事故になるだろう。早く止めなくては。 途中、橋を越えて廻り込む2車線の左コーナーで、アウトから攻めた瑛が前に出た。車1台分先行する。このまま引き離して、と思ったところでイン側を小さくまわった848に並ばれてしまった。あやうく接触しそうになり、アクセルを緩める。 (くっ……) この先には見通しが悪い、アップダウンにとんだコーナーがある。そこを抜けると廃テーマパークまでの直線が続く。闇紅と慧架のもとへ追い込むためにはここで勝負を仕掛けるしかない。 しかし、コーナーに入っても淳也はアクセルを緩めなかった。この時点で瑛は淳也を抜くことが出来ないと悟った。このままでは逃げられてしまう、と思ったとき淳也のバイクが尻を振ってラインを乱した。 ぼぇぇぇぇ~ 淳也の脳内に尺八サウンドが響く。 生佐目に悪気はない。なぜかマスターテレパスで語りかける言葉が全てぼぇぇ変換されてしまうだけなのだ。 隙をついて瑛が淳也の前へバイクを出した。一気に距離を稼ぎ、分かれ道を過ぎたところでバイクを止めて道を塞ぐ。ウラジミールが後ろから淳也を廃テーマパークへと追い込んでいった。 ● 「きたわよ」 闇紅の声に慧架がゆっくり顔を上げる。 「あんなんでも殺さないって、アークってつくづくお人よしが多いわね」 「あの話が真実であるならば、あるいはみなさんとてもしかして……」 口からくつわを外したとたん、かずきは一気に捲くし立てた。自分の脚を奪ったのは淳也のバイクだと。目隠しされていても分かる。いや隠されていたから音と匂いで分かったのだと。 「泣かぬなら泣かせてみせようホトトギス、か」 「殺してみせようのほうだと思いますよ、彼の場合」 「ま、別にいいけどね……。さっさと済ませて帰りましょう」 荒れた生垣の角からバイクが飛び出してきた。トレーラーを後ろにしたふたりとの距離がぐんぐんと縮まっていく。 体を起こして妖刀を振り上げた淳也の胸の真ん中を、慧架の拳から放たれた闘気がぶち抜いた。 淳也の体がバイクから離れ、後ろへすっ飛ばされる。 乗り手を失ってなお突き進んでくるバイクを闇紅がソニックエッジで粉々に切り砕いた。 「貴方は独りよがりに浸っているだけです板倉君」 それは愛でありません、と慧架は断じて淳也の腕を砕いた。 ● 「ストップ!」 義弘と正嗣。立っているのもやっとといった感じで正面から殴りあうふたりを止めたのは、義美の背にちょこんと座ったリュミエールだった。 「アッチカラ連絡が入っタ。淳也を拘束、かずきヲ保護。黒刃の妖刀と被害者タチの足モ確保シタトノコト」 正嗣は鼻から血を飛ばした。 「……それがどうした」、と腫れあがったまぶたの下から鋭い視線をリュミエールにくれる。 「私たちが闘う理由がなくなったのだ」 ティエが暴れる義美の両足首を掴み取ろうとしながら言った。 「あのアーティファクトを使えぱこいつの体も元にもどる」 「……だとよ。どうするお前さんたち? 俺はまだやれるぜ」 正嗣はいきなり座り込んだかと思うとアスファルトの上で大の字になった。 義弘もつられて道に寝転がる。 満点の星を仰ぎ見ながら、正嗣がぼそりと呟いた。 「なあ。なんで俺たちは殴りあってたんだ?」 「お前さんが俺のメイスを折っちまったからだろ」 「いや、そういうことじゃなくて……」 次はもっと早く連絡をしてこい、といって正嗣は目を閉じた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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