● 突如として開いた次元の穴から、ソレはやってきた。 『ブモゥ……』 鳴き声は牛。 見た目も牛そのもの。 しかし体躯は3mを越える巨大さを誇り、体中に刻み込まれた傷からは、戦いを好む好戦的な性格が見て取れる。 巨牛のアザーバイド、エルナト。 それがこの牛の名であり、バグホールを通って小さな牧場へと降り立っていた。 エルナトはこの世界の理も、文化も知りはしない。 『……ぶもっ!?』 であるが故に、同属である牛が牛舎に押し込められる様を見た彼は、仲間を解放するべく牛舎へと進む。 「……なんだありゃ?」 一方でその姿を見ている者がいた。 「牛にしちゃでけーな……いや、でけーってのは良いことなのか? たらふく焼肉出来るぜ!」 口振りからすると少年だろうか? どうやらこの牧場の牛を奪い、自身の胃袋に収めようという魂胆で農場へとやってきていたらしい。 「しかもあの体の傷、相当に強いと見た。戦う相手にするにも不足無しだ!」 さらに言えば彼も覚醒者のようで、強者と感じた相手と戦う事に武者震いすらしてもいる。 目の前に現われた巨牛と戦い、勝利し、その肉を得る。 ある意味では狩りとも言えるが、彼は気付いていなかった。 『ブモォ~……!』 牛舎への突撃をかけようとする牛が、自身より数倍も強い存在である事を。 「お前は俺様の糧にしてやるぜ! この風祭・翔様のな!」 彼の名は、風祭・翔。 逆凪に名を連ねるフィクサードであり、俺様最強を信じて疑わない少年だ。 ● 「エルナトの突撃には注意してね。星にはならないけど、派手に飛ぶわよ」 第一声から、桜花 美咲 (nBNE000239)の注意の言葉が集まったリベリスタ達にかかる。 それは当然だろう。 相手は猪突猛進を信条とした、根っからのパワーファイターだ。 まともに突っ込まれればタダで済むはずもない。 「それと、風祭・翔……このフィクサードは別に放っておいても、共闘しても構わないわ」 とりあえずあまり当てにならない戦力ではあるが、エルナトとの戦いを望むフィクサード、風祭・翔への対応は任せると美咲は言う。 放っておけば勝手にやられてぶっ飛ばされ、泣いて帰っていくだろう。 が、彼の持つアーティファクト『テンペスター』は味方の火力を上昇させる効果があり、共闘した場合はその恩恵を受ける事が出来る。 無論、勝利した後に空腹を満たしたいとも彼は考えているため、共闘する場合はそれに代わるモノを用意する必要があるが――。 「問題はエルナトの狙いなのよね。彼は牛舎を破壊して、仲間を解放しようとしているの」 まず抑えなければならないのは、エルナトが牛舎へ突っ込む事を防ぐ点だろう。 この点においてはエルナトが好戦的なため、戦いに没頭すれば牛舎への突撃よりも戦いに思考がシフトするためにあまり難しい問題でもない。 とはいえ、体の傷が示す程度には彼も歴戦の戦士だ。 「牛舎からはあまり離れることはないわよ。誘導は難しいから、牛舎を破壊させないように気をつけながら、エルナトに負けを認めさせてね」 現われた戦士達と戦った果てに、牛舎を破壊できるとでも感じているのか。 美咲が言うには、エルナトは牛舎からはあまり離れようとはせず、その場で戦うべく立ち回るらしい。 下手に誘導しようとしたり、守るべき牛舎を逆側に位置取って戦おうとしたならば、戦意のない存在と取られて戦いを放棄される可能性もある。 「あ……それと、気をつけて?」 最後に付け加えられたのは、最も憂慮するべき点だった。 「エルナトは女の子には弱いみたい。代わりに男の子にはすっごく強烈よ」 ――果たしてリベリスタ達は、雄牛の戦士エルナトに負けを認めさせ、元の世界へと送り返す事が出来るだろうか。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:雪乃静流 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月06日(月)22:40 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●超重量級の突撃 「うお、でっけー牛。頭蓋骨カッケーだろうなあ……飾りたいわ。すげえデカさだろうけど」 月明りに照らされ、その巨体から大きな影を大地に落とすエルナトを見やり、『孤独嬢』プレインフェザー・オッフェンバッハ・ベルジュラック(BNE003341)は、部屋の壁にかけられる頭蓋骨を想像していた。 エルナトの大きさは軽く3mを越えている。 故に頭蓋骨も相当な大きさを持ち、もしも飾ったとするならば来客の度肝を抜くインパクトがある事は間違いない。 「残念ながらこの世界では一食材でしかないんです、フェイトを得ていないなら早々に退去願うしかありませんね。……生死は問わずに、ね」 その希望を叶えるためにはエルナトを殺す必要があり、それは近くでメガネを軽く持ち上げた『親不知』秋月・仁身(BNE004092)も殺害する事にまで考えが及んでいるようだ。 「出来るなら、エルナトは癒した上で送還したいわね」 が、それについては賛否両論となるのも当然の話だ。 元の世界に還したいと言う来栖・小夜香(BNE000038)は2人とは真逆の考えと言えるし、 「牛に負けを認めさせたら勝ちだ、止めは刺さないでおきたいな」 「私も同意見ですね」 頷いた『やる気のない男』上沢 翔太(BNE000943)や『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)も彼女と同意見である部分を考えれば、多数決の面では『不殺』の方がやや有利か。 ――最もエルナトが死を感じ、不退転の覚悟で仕掛けてきた場合はリベリスタ側にも死者が出たとしておかしくはないが。 窮鼠猫をかむ、死中に活路を得るといわれるように、死を覚悟した者の反撃は時として奇跡も起こすのだ。 「異界とは言え、同胞と思える者達を助けに行かんとする心、立派なり」 加えてエルナトは、同属を救出するがために牛舎を襲撃しようとしている存在。 騎士道を重んじるヒルデガルド・クレセント・アークセント(BNE003356)にとって、その戦う理由には十分に共感出来るモノがある。 故にその戦士が死を覚悟した戦いに望んだ時、リベリスタ側も死を覚悟しなければならないだろう。 「牛肉万歳! 俺様は超腹減りなんだ、お前の肉を食わせろぉぉぉ!」 最も、空腹で死にそう(?)な風祭・翔は死を覚悟するどころか満腹への渇望が凄まじいらしく、 『ぶもー!』 「お前の攻撃を喰らいたいんじゃねぇぇぇ!」 星にはならなかったものの激しくぶっ飛ばされていたとか。 「狩り、ね。嫌いじゃないわ、相手がただ狩られるだけの獣でなく矜持あるものなら、それこそ狩人の矜持をもって当たるに相応しいと思うし」 そんな翔の戦いは、『エーデルワイス』エルフリーデ・ヴォルフ(BNE002334)には狩りのようにすら見える。 「……お腹が空いたから、というのは何とも気が抜けるけど」 見えるのだが、やはり翔の戦う理由に、エルフリーデの口元には苦笑いが浮かんだ。 「……所属グループから離脱して、食い詰めた末の犯行とかではないですよね? もしそうなら幾らなんでも情けな――いや、気まずくなるのですけど」 などと言うリセリアだが、どう見ても食い詰めた末の犯行にしか見えない。 先日の戦いから何があったかはわからないものの、食べる事に困っていなければこんな行動にはきっと出ていないはずだ。 そうなった理由を作ってしまったリセリアにしてみれば、やはり気まずく感じてしまうらしい。 「どんだけ金がねぇんだ? え、フィクサードだったっけ?」 とはいえ、翔太の言うように彼はフィクサードだ。 空腹を満たす事と強敵との戦いを望む彼にとっては、エルナトの存在は両方を満たしている事も事実。 「強敵と牛肉!! その2つを求めるのは分からなくもないです」 その行動原理には共感しているらしい『勇者を目指す少女』真雁 光(BNE002532)はうんうんと頷き、エルナトとの戦いと、その後に待っている焼肉に胸を躍らせているようだ。 「……まぁ、行くか?」 ふと、翔太が仲間達を見渡し言う。 そろそろ援護しなければ、翔は文字通りお星様になってしまうかもしれない。 牛舎を破壊し、同属を救うため。 エルナトを倒し、強者との戦いと空腹を満たすため。 エルナトを倒し、牛舎の破壊を防ぐため。 三者三様の思いを賭けた戦いが、始まる――。 ●突撃! 巨大な雄牛様 「ぜはーっ、ぜはーっ……!」 体が軋む。 3mを越える巨体の体当たりをまともに受ければ、流石の風祭・翔とてそのダメージは計り知れない。 星になるほどに飛ばされなかった分だけ、まだマシではあるか。 だが、ボロボロになっても強者との戦いは彼にとって楽しい時間。 さらに勝てば肉にありつけるともなれば、気合の入り方もまた違う。 「あー……手伝おうか?」 「……あん? テメェは!」 そんな彼におもむろに声をかけた翔太は、噛み付いてきそうな目を向ける翔を軽く手で制し、協力の提案をする。 「大体アザーバイドなんて食べたら、お腹壊しちゃうかもしれないじゃない」 「協力してとっとと終わらせて、安心と信頼の国産牛肉でも食いに行こうぜ」 むしろ、異世界の牛を食べて大丈夫なのかと考える小夜香の言葉は誰しもがなるほどと思う部分ではあるだろう。 ならばプレインフェザーの言うようにちゃんとした牛肉を食べる方がマシなはずだ。 「確かにな」 やはり翔もそう感じたようだが、彼もフィクサードである。 敵対するはずのリベリスタから協力を持ちかけられたとて、すぐに『わかった』と言えるはずもない。 「焼肉を奢りますから、どうでしょう?」 「わかった! しょうがねぇなー……俺様の力を貸してやるぜ!」 否、即答だった。 リセリアから出た焼肉の一言が、翔の心にクリティカルヒットしたようだ! 「予算の許す限りで、ね」 一方で財布の中身を気にしたエルフリーデの発言は、 「よっし、焼肉がまともに食えるなら気合は十分に入ったァ!!」 食欲に支配された翔には聞こえていなかったらしい。 『ぶもっ』 そんな8人の増援の姿は、牛舎を狙うエルナトもしっかりと確認していた。 彼等の纏うオーラはさっきから戦っている翔と同じく戦士のモノであり、これから始まる戦いに彼の心も高揚――否。 『ぶもっ、ぶもももっ!!』 何かが違う。 翔太や仁身、翔はともかくとして、現われた戦士達の大半は彼の大好きな女の子ばかり。 鼻息が荒くなったのは、どうやら戦いに胸を躍らせているのではなく、可愛い子が現われたからのようだっ。 「すっごく鼻息が荒いですね!」 「なるほど、嫁探しも兼ねている……ということか」 その鼻息の荒さに、光やヒルデガルドの口元に浮かぶ苦笑い。 しかし、これはチャンスだ。 「敵は女性には全力で向かってこれないようですし、利用しない手はありませんね」 仁身が言うように、女性が多くを占めるメンバー構成が相手ではエルナトも全力を出しきれるわけではない。 『……ぶもぉっ!』 一旦牛舎から背を向けるように突っ込んだエルナトは翔を再び弾き、さらに軽いステップで避けた翔太の鼻先を掠め、 「お相手願います――!」 鋭い角をセインディールで受け止めたリセリアとぶつかった所で、勢いが止まる。 確かに嫁を探しているのだろう、エルナトの突進はリセリアに対してはやや手加減をしているようにすら感じられた。 「牛さん……いえ、エルナトさん!! ボクが戦士として受けて立ちます!! さぁかかってくるのです!!」 そしてこちらにもいるぞと光が声をかければ、 「悪いが貴殿の相手はこちらだ」 逆側からはヒルデガルドの気糸がエルナトに絡みつき、怒りを誘う。 「まだ……怒ってないわよね?」 が、テレパスでの交信を狙う小夜香にとって、エルナトが怒りに駆られれば交信が通用しない可能性もある。 運良く怒りには駆られなかったらしく、じっと巨牛の目を見た彼女は安堵の息を漏らし、そして合わせた視線に言葉を乗せた。 この世界の牛は、あなたほど強くは無い。故に牛舎を破壊すれば、巻き添えを受けて死ぬかもしれないと。 故に牛舎の破壊を阻止するために自分達がやってきた事、自分達に倒せば強引に破壊せずとも目的は達せられる事。 それと――。 (負けたらお嫁さんになってもいいわ) エルナトに対し、この世界の言葉が通用しているかどうかは定かではない。 『ぶももも!』 しかし3つ目の『負けたら嫁になっても良い』発言に興奮している辺り、これはもう通用していると考えた方が良いだろう。 テレパスを通して告げたお願いが、果たしてどこまで聞き入れられたのか。 「その気が無くても牛舎を破壊されそう、ね」 問題があるとするならば、エルフリーデが懸念する無意識での牛舎の破壊くらいではある。 もしも牛舎に近い位置でエルナトの角が放たれた時、牛舎も同時に被害を被る事は十分に考えられる事柄だ。 「足を狙えば、突撃の意思も削げそうだけど……」 牛舎に近付かせず、そして突撃すらもさせないためには、やはり足を撃ちぬくのが最も現実的な対策かもしれない。 同時に彼女は、それが成功せずとも牛舎が無事そうだとも肌で感じていた。 何故ならば、 「こういう物にも目がないのではないか?」 マントを翻し、挑発するヒルデガルド。 さながら闘牛を彷彿とさせるその動きに、エルナトも御多分に漏れず目が釘付けになっているようだ。 「闘牛は、あたしの故郷でも結構人気あったっけ……。見ててハラハラするから、あたしはあんまり好きじゃなかったけど」 そう言ったプレインフェザーは、何となく闘牛士の気持ちがわかった――ような気がした。 「……しかしあの牛、厄介だな。男には強烈に来るってのか?」 「そのようだ。お前も気をつけろよ」 彼女達がエルナトの習性を利用して有利に戦いを運ぶ中、結構な傷を負った翔は態勢を立て直すために下がりつつ、翔太に問う。 女性に対して手加減をする反面、男性に対しては情けも容赦も無いエルナト。 「覚悟は完了、この傷みは敵の痛み」 それでも仁身は、自身に衝撃が跳ね返ってきたとしても攻撃を仕掛ける覚悟を決めた。 「まぁ……そうするしかないよなぁ」 やれやれと溜息をついた翔も、やはりそれしかないのかと考えてはいるらしい。 「とりあえず今出せるのはおやつのチョコバーぐらいなんで、これでしばらく我慢してください」 仁身から手渡されたチョコバーを一気に口に詰め込み、「悪ぃな」と礼を述べた翔は、戦局を左右するには十分な存在だ。 アーティファクト、テンペスター。 仲間が多ければ多いほどに効果を発揮するアーティファクトは、彼が味方である今だけはリベリスタ達もその恩恵を受ける事が出来る。 「祝福よ、あれ」 それは傷を癒す役目を担う小夜香の吐息や、 「――退屈はさせませんよ。どうです、あなたの望む強敵足りえますか?」 エルナトと正面からぶつかり合うリセリアの剣技に、さらに鋭さを与えているのだ。 「運命の強き一撃は力ある人をすら打ち砕く、らしいですよ。貴方に耐えられますか? 異界の戦士さん」 横から襲い掛かる仁身の一撃を喰らい、 「この程度ではボクは倒せませんよ!」 かつ正面に立ち、その鋭利な角で突き上げられた光の真っ直ぐな瞳に、さしものエルナトの足も止まる。 「これなら――狙えるね!」 仲間達が作り上げたその好機を、エルフリーデは決して逃しはしない。 1¢コインを撃ち抜くほどの正確な射撃はしっかりとエルナトの足を捉え、その体に新たな傷を刻み込んだ。 「受けた傷を見る暇は無いぞ?」 さらにはヒルデガルドの気糸もエルナトの無傷の足を穿ち、巨体がよろめく。 それでも倒れないのは、戦士としての矜持か。 「戦士の全力に、こっちも全力で答えるとすっか」 加えて数の上では、明らかにエルナトが劣勢だ。 しかしその数の差にも怯まずに戦う姿に、手加減は逆に失礼だと感じるプレインフェザー。 「苦しまないように一撃で仕留められたら……良いんだけど、そりゃ無理だよなあ」 このままエルナトを仕留める事まで考える彼女ではあるものの、一撃で命を奪う事からして難しい相手。 まして負けを認めさせることまでならばハードルは低いが、仕留めようとするならばハードルは遥かに上がってしまう。 「さて、俺達もいくか、翔」 「おぉよ! って、仕切ってんじゃねぇ!?」 態勢を立て直して戻ってきた翔太と翔が加わったとしても、撃退するだけで精一杯である。 「自分の世界のものさしで好き勝手にボトムチャンネルを引っ掻き回す、それが当然といわんばかりに! このエイリアンが!」 そんな中、仁身の言葉にエルナトの目の色が殺気を増したかのように見えた。 訳の判らぬままに異世界に降り立ち、そこで目にした飼われる同属の姿。 もしもその立場にリベリスタ達が陥った場合、彼等はどう動くだろうか? お前達ならば、見捨てられるのか? 小さいながらも怒りを孕んだ声を上げるエルナトは、そう言っているようにも見えた。 「ボクは勇者(仮)!! 決して退きません! どちらの力が上か勝負なのです!」 今のエルナトに、引く道は無い。そしてそれはリベリスタ達も同じ。 両手でゆうしゃのつるぎを構えた光の姿は、まさしくそれを体現している。 「援護します。――行きますよ」 相手の注意を一方向にだけ向けさせぬよう、リセリアの刃がエルナトの頬を掠めていく。 「癒しよ、あれ」 不意の一撃で誰かが倒れる事のないよう、小夜香の息吹が風に乗る。 「……行かせないわ!」 薙ぎ払うかのように放たれ、牛舎すらも巻き込みそうな角ブーメランの軌道は、エルフリーデが止めて見せた。 「立場が立場故に、その行いを妨害せねばならぬのが心苦しい位だ」 相手が早々引いてくれる相手ではない事は、執拗な攻撃でエルナトを怒らせたヒルデガルドもわかっている。 であるが故に、引かせる道はヒトツ。 「その戦士の刃を、折らせてもらうのです――!」 一閃する光のゆうしゃのつるぎ。 小気味の良い音が耳に届いたかと思えば、次の瞬間にエルナトの角が断ち切られ、宙を舞う――。 ●深夜の焼肉タイム 『……ぶも』 偶発的に開いた穴を通り、エルナトが帰っていく。 「機会があればまた会いましょ……。いいお嫁さんが見つかるといいわね」 そう言葉をかける小夜香だが、来年やってくる時にはまだ嫁は見つかっていないかもしれない。 「牛の耳でも持って帰れれば良かったんだけどね」 「土産なら、あるだろ」 勝者に勝った証として耳を得る事を提案するプレインフェザーに対し、翔が見せたのは叩き折ったエルナトの角。 耳でなくとも、この角は十分に勝利の証となるはずだ。 「さーて! 焼肉だ焼肉、お前等、忘れてないだろうな!」 それ以上に翔にとって重要なのは、これからたっぷりと腹を満たしてくれるであろう焼肉である。 「敵を倒し、勝利を得た後の食事はさぞかし美味であろう」 「あぁ、そうだよ! あの牛の肉だったら最高だったんだが、腹壊すかもしれねーしな」 忘れてはいないと頷くヒルデガルドにそう答えた翔は、フィクサードというよりもただの元気な中学生にしか見えはしない。 「美味しいお肉食べるのです!!」 彼と共に「焼肉万歳!」と叫ぶ光は、翔より4つほど年上のはずだが――まぁ、ここは気にしてはいけないのだろう。 だって焼肉ですし。 「ところでお前……フィクサードやめる気はないんだな?」 ふと、翔太が問う。 確かにフィクサードではあるのだろうが、翔は別に根っからの悪人でない事もわかっている。 その戦う目的は、強者と戦い、自身が強くなる事。ただそれだけだ。 「そんなこそばゆい事できるかよ、正義の味方ってのはガラじゃねーんだ」 それに対し、やはり彼の返事は「No」だった。 強者と戦うためだけなら、別にリベリスタであってもフィクサードであっても、さほど大きな違いはないのだから――と。 ……しばらくの後。 「こんだけの大人数なら、セットの方が得なんだぜ! てことでこのセット3つからスタートだ!」 注文を仕切っていたのはやはり翔であり、 「意外と考えているのですね」 「単品よりセットの方が確かに安くて済むから、良いんだけどね」 ただの馬鹿かと思えば、意外と値段と量を考えている辺りにリセリアとエルフリーデは領収書に書かれる金額が、どうやら安く済みそうだと感じているらしい。 「さぁ、牛をぶちのめした記念だ、たっぷり食おうぜ!」 そして再び翔が音頭を取り、乾杯。 「そのお肉、ボクが狙ってたのですー!?」 「早い者勝ちだぜ、まだまだだな!」 早速、焼けた肉を取り合っていたのもやはり翔と光で、 「経費で……落ちますかね?」 「落ちることを祈るしかないな」 2人の様子を見ながら、仁身と翔太はそれが心配の種だと顔を見合わせ、積み重なっていく請求書の枚数に頭を抱えたとか。 共に戦った労を労い、騒ぎ、楽しむ。 「よし、次はピビンパに冷麺だな、他に頼むやついるか!?」 「……食べ過ぎて、お腹を壊さないでくださいね」 まるで弟に諭すかのように翔を注意したリセリアを見る限り、楽しい食事を行うこの場においてリベリスタとフィクサードと言う垣根は存在しない。 次回は敵としてか、それともまた味方としてか。 悪戯な運命は、近い内に再び両者を交わらせる事だろう――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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