●夜空を駆ける旅 満天の星空に天の川が掛っていた。死んで海中を彷徨う、微生物のように、乳白色の帯が闇を横断している。その川のほとりに、いて座――サギタリウスの姿を見つける。 横山里緒奈は、山の頂上にある天文館に来て空を見上げていた。誰もいない駐車場の空き地はよく空が見渡せた。嵩人と訪れた思い出の場所だった。 いて座は里緒奈の誕生月の星座だ。嵩人が里緒奈のために誕生日にサギタリウスの首飾りをプレゼントした。 その首飾りは嵩人が病気で死んだときに、ペアで買った彼のユニコーンの首飾りと一緒に棺桶に入れた。里緒奈は嵩人を忘れようと努力した。嵩人からもらったものや写真、アルバムといったものは全て。 だが、こうやってふと、嵩人を想う気持ちが溢れ出てくるときがある。そんな苦しい気持ちに駆りたてられて里緒奈は真夜中の天文館にひとり足を延してしまう。 「里緒奈、俺だ」 ふと、振り向くとそこには嵩人の姿があった。 「嵩人なの――どうして?」 驚きながら里緒奈は嵩人に問いかえす。そこには生前の姿とは似て異なる姿があった。 上半身は嵩人だが、下半身は翼を持った馬だった。まさしくその姿は、棺桶に入れて焼却されたはずのサギタリウスに瓜二つだ。 「俺と一緒に来てくれないか? 一人じゃ寂しいんだ。お前のいない世界なんてもう考えられない。こんな姿になってしまって怖いかもしれない。俺はもう以前の俺じゃない。だけど、それはお前がずっと俺を想っていてくれたからなんだ。たのむ一緒にきてくれ」 傍には同じく翼の生えたユニコーンが控えていた。その背中に乗って一緒に夜空を駆ける永遠の旅をしようと嵩人は誘う。最初は天の川――そしてサギタリウスの所まで。 里緒奈は半人半獣になってしまった嵩人を見て最初は恐れた。だが、話しているうちにそこにいるのは紛れもなく嵩人だと思うようになった。ようやく里緒奈はユニコーンの背中に跨った。背中から嵩人がひっそりと迫ってくる。 嵩人を失ってからの日々は色褪せたセピア色の世界と同じだった。もともと身寄りのない独り身の里緒奈にとって嵩人は出会ってから唯一の存在だった。いまでは生活を続けることその意味さえ里緒奈にとっては分からなくなっていた。 「私も嬉しい。さあ、はやく殺して。その矢で貫いて私をめちゃくちゃにして」 嵩人は弓を構えて大きく引絞って狙いを定めた。 ●死んで一緒に 「天文館の駐車場に、サギタリウスとユニコーンの形をしたE・フォースが現れた。サギタリウスの生前の名前は柊嵩人。恋人と死に別れたくないという未練がエリューション化したのね。里緒奈はすでにユニコーンの背中に乗せられている。嵩人は里緒奈を背中から矢で射ぬいて殺そうとしているわ。このままでは里緒奈の命が危ない。はやく彼らを止めてきてちょうだい」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、深刻な表情で一刻の猶予もない事件の概要を端的に説明した。嵩人は里緒奈を殺そうとしている。やっかいなことに里緒奈の方もそれを望んでいるという。 これ以上生きていたくない。それなら死んで一緒に嵩人の元へと行きたいという気持ちが支配しているようだ。それを聞いたリベリスタ達は頭を悩ませてしまった。嵩人だけならともかく自ら死のうとしている里緒奈を止めるのは簡単なことではない。無理に止めたらますます嵩人に固執し逆効果になる恐れもある。 「サギタリウスは遠隔から連続的に炎の矢を放ってくるわ。攻撃は辺り一帯を焼き尽くすから十分に気をつけて。ユニコーンの方もその鋭い角で突進してきて相手を突き殺す。また、危なくなったら里緒奈を連れて猛スピードで逃げようとするわ。見失わないように、里緒奈の安全を最優先に敵を倒してきてほしい。彼女にとってはすごくつらいことになるかもしれないけど――あなたたちならきっとうまくできると信じているわ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:凸一 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月28日(日)21:59 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●二人だけの夜空の世界 夜空にいくつもの星座が静かに輝いていた。空気が済み渡って遠くの小さな星までくっきりと見渡せる。何億光年という時間を越えて地球に辿りついた光。今見えている灯火の中にははるか昔に消滅してしまった星もあるだろう。 そこに見えているのは昔の面影を残した幻影かもしれない。だからこそ星の光はこんなにも人の心を苦しくさせる。 「恋とか、愛とか、あたしにはまだよくわかんないけど、一緒に死にたいって思うほどの想いは、少し怖く思っちゃう。まるで呪いだね」 ファルティナ・エルトーラ(BNE004398)が、物言わない星たちに向かってぽつりと呟いた。永遠を願うのはもしかしたら我儘な人間の身勝手なのかもしれない。 「まるで彼らの関係は閉じた世界のようだ。彼らには悪いが、完全に閉じてしまう前に叩き割るべきなんだ」 『白銀の鉄の塊』ティエ・アルギュロス(BNE004380)も同じ想いだ。暗い夜空のように彼らは自分だけの世界に閉じこもってしまっている。 「別れは悲しいものだろう。それでも、大切なひとの命を奪ってまでとは思っていなかったんじゃないかな」 『金雀枝』ヘンリエッタ・マリア(BNE004330)も同胞の二人の意見に深く頷いた。そのためにも里緒奈を取り戻して目を覚まさせなければならない。こんな結末は嵩人も里緒奈も望んでいなかったはずだと願う。 「これほど一途な想いなら説得は出来そうにもないけど、一緒に行くなら何も死ぬ必要は無いんじゃないかな? どうにもチャームに似た何かを感じるよ。あなたの好きな彼は、そんなに殺したがりやさんだったの?」 『◆』×『★』ヘーベル・バックハウス(BNE004424)もそんな二人の有りように疑問をもたざるをえなかった。 「俺が嵩人だったらどうするか――里緒奈を嵩人の代わりに守るんだ。そのために俺達はここに来たんだ。絶対に里緒奈を天の川に行かせたりはしない」 『刹那の刻』浅葱 琥珀(BNE004276)は深い決意を込めて言った。視線はすでに星空には向いていなかった。暗い闇の里緒奈たちがいる先に向いていた。甘い夢を見るためではなく、つらい現実を直視するために。 「“ソレ”に殺される事で貴女は本当に満たされるのでしょうか。もし満たされると本当に思っているならば……それは現実と向き合えない自分自身から目を背けているだけです」 『フリアエ』二階堂 櫻子(BNE000438)も偽りである二人の今の関係に疑問を抱いていた。このままでは誰も報われない。ねえ、そうでしょう、と誰に言うでもなく呟いた。白い吐息が冷たい夜に吸い込まれるように消えて行く。 「化け物になった恋人であっても傍に居たい、か……。気持ちは解らんでもないがその思いは最早許されん。俺の仕事はそこに居るエリューションという名の亡霊を倒すことだ」 『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)はこっそりと櫻子の方を見た。俺にも守るべき人がいる。絶対に死なせたくない人がいる。だから俺は必ずエリューションを倒す。櫻霞は固い決意を心の中で繰り返した。 「もうそろそろ着きそうなのら。サギタリウスもユニコーンも空を飛ぶから気をつけよー。うんじゃ、みんな油断しないようにしっかり頑張ろー」 『ましゅまろぽっぷこーん』殖 ぐるぐ(BNE004311)が言い終わらないうちに、天文館の駐車場が見えてきた。途端に足場が悪くなる。砂利を踏む音がこだまして静寂な辺りの空気がかき乱された。 突然の気配にサギタリウスとユニコーンが一斉にこちらを振り向く。そこにはユニコーンに乗っている里緒奈と今にも弓を引きそうな半人半獣姿の嵩人がいた。 「お前ら何をしにきたんだ! ここは俺と里緒奈の大事な思い出の場所。二人だけの世界に土足で上がりこみやがって。邪魔するなら容赦しないぞ!」 嵩人がこちらに向かって弓を構えなおした。 ●幸せを写し出す幻 「今回のヒーロー達は飛べるよ。がんばって、マイヒーロー!」 へーベルがすぐに翼の加護を味方に与える。ファルティナがエル・ファストブーストを、櫻子がマナコントロールを使って力を蓄える。 嵩人がこちらに弓を構えなおしたのを見計らって、リベリスタたちはユニコーンと嵩人を切り裂くべくそれぞれの位置に向かって進む。 『ユニコーンとサギタリウスを接近させない事。その距離を最低20M、できれば30M以上あけて、遠距離攻撃をさせない事』 ぐるぐは、ちっこい脳をフル回転して琥珀の言葉を思い出す。 「おっけー! まかせろー」 ぐるぐは嵩人の前に立ちはだかった。小さなぐるぐが突然、目の前に現れて防御の構えをするので嵩人も鼻で笑った。 「そんな小さな身体で俺をブロックするつもりか? いいだろう、やってみろ」 嵩人は弓を大きく引絞って炎の矢をぐるぐに向かって放つ。鋭く速い矢はぐるぐに向かって発射されたが、ぐるぐはすんでのところで交してみせる。小さくてすばしっこい思わぬぐるぐの動きに嵩人は思わず舌を巻いた。 「そりゃあダメらなー。なんならその背中にのって首へし折ろうか?」 ぐるぐは得意げに嵩人を挑発した。 そんな嵩人とぐるぐの戦いを見守っていたユニコーンも里緒奈を乗せながらリベリスタ達に向かって突進してくる。 「嵩人が戦っているのに、私も負けられない」 里緒奈はユニコーンに指示を出すように前を向かせて突進してくる。そこで待ちかまえていたティエがアッパーユアハートで攻撃をしかける。突然ティエの攻撃を食らったユニコーンは怒り付与を食らった。集中がかき乱されてうなり声をあげてこちらを鋭く睨みつける。里緒奈もユニコーンの変化に困惑し慌てた。 「……未練とは怖いモノですわ。例え手荒くとも、例え望まなくとも貴女は死なせない。辛くても、苦しくても貴女は前を向き生きるべきだから」 櫻子の言葉に敏感に反応した里緒奈は、つぎは櫻子のほうへ突進してきた。すかさずそこへトラップネストで束縛を試みる。ユニコーンも飛翔してなんとか攻撃を回避しようとした。だが、避けきれずに足に当たってしまう。 「縛り上げろ、絡め取れ、数多の糸よ」 足をやられて動きが鈍くなったユニコーンへさらに、櫻霞がトラップネストで身体に攻撃を命中させた。ユニコーンは必死に苦しみもがく。 「それは首飾りが見せている幻だよ。だから嵩人そっくりに見えても仕方ない。けど生前の嵩人を思い出してくれ! 君の幸せを願っていたはずだ。一緒に死んでくれだなんて頼む筈がないだろう? 辛くても惑わされないで、強く生きてくれ。嵩人の最期の願いに応えるために!」 琥珀は必死になって里緒奈にむかって言った。そんな言葉を聞いて里緒奈はうすく笑みを浮かべる。 「私だって嵩人を失いたくなかったの。できることなら一緒にずっといたかった。でもそれは叶わぬ夢だったの。あんたにはわからないでしょう、私の気持ちが!」 それでも琥珀の言葉を受けて里緒奈は動揺しているようだった。本当に今の彼が元の嵩人であるといえるのだろうか。私はまだ彼を忘れたくないだけに、彼を苦しめてこの世に留まらせているのではないかと。 里緒奈が動揺を見せているうちにヘンリエッタが隙をついて横に回った。 「里緒奈に当たらないように集中して……!」 ヘンリエッタがすかさずそこへエル・バーストブレイクを放つ。強烈な攻撃を叩きこまれたユニコーンは後ろに吹っ飛んでいってしまう。 「きゃああああああああ」 里緒奈の叫びが辺りに轟いた。ユニコーンから手が離れてしまい、空中にほうり出される。だが、いちはやく先回りしていたファルティナが里緒奈を地面すれすれのところでキャッチすることに成功した。 「だいじょうぶ? リオナさん」 「あなた! どうして私を助けたの? 嵩人のところに行かせて――さもないとあんたたちも嵩人に殺されるわ」 里緒奈は言うことを聞かずに暴れ出した。仕方なくファルティナはスタンガンを取り出して容赦なく里緒奈の首にあてがった。 「くあああっ」 里緒奈はスタンガンを受けて意識を失ってしまった。 「ごめんね。リオナさん、こうするしかなったの」 ファルティナは気絶した里緒奈にむかって詫びた。しかし、躊躇っている暇はない。こうしている間にもユニコーンが里緒奈を奪還しようと近づいてくる。すぐにファルティナは里緒奈を抱えたまま安全なところへ後退した。 ●捨てきれない想い 進撃してきたユニコーンの前に琥珀が立ちはだかる。絶対に里緒奈をわたすわけにはいかない。その決意が目に溢れていた。両手を広げてユニコーンの行く先を阻む。ユニコーンの方も大きな角でもって琥珀にむかって突進してきた。 「ぐははあああああ」 避けようとしたところをユニコーンは見逃さない。一瞬、ふわりと浮いて琥珀の行く先を予測して角を突き出してきた。攻撃を受けた琥珀は歯を食いしばる。 「里緒奈だって哀しみを乗り越えようとしている。だから俺が倒れるわけにはいかない。里緒奈はこの何倍も苦しんだはずなんだ! 彼女が行くべきところは星の世界じゃなくて現実だ。ぜったい彼女を平和な日常へ無事に帰してみせる!」 血を吐きながら琥珀はやっとの思いで角を身体から引き抜いた。そうして隙を見て魔力で道化のカードを作りだし、渾身の力で投げつけた。 ガオオオオオン―― ユニコーンは奇妙な雄叫びと共に地面に落下して動かなくなった。同じように倒れ込もうとした琥珀をティエが受け止める。 「しっかりしろ! 琥珀」 ティエの言葉に優しく琥珀は頷いて見せた。そこにへーベルがやってきて回復を施す。ようやく琥珀は自分の足でしっかり立つことができた。 「貴様らよくも、里緒奈を傷つけてくれたな! 八つ裂きにしてやる」 怒った嵩人の攻撃が苛烈を増した。それまでブロックしていたぐるぐがついに攻撃を避けきれずに後ろに蹴り飛ばされてしまう。 「今度はオレが相手する。これ以上前には進めさせはしない」 ヘンリエッタが勇ましく前に進み出る。今度は毒矢を連続して放ってきて、ヘンリエッタもブロックしきれなかった。一部の矢が里緒奈のほうへ向かって飛んできてしまう。だが、ファルティナが身を挺して庇って防ぐことができた。代わりにファルティナは攻撃を受けてぐったりしてしまう。 櫻子がすぐによって回復を施す。ようやくファルティナが起き上がると、櫻子はけわしい目つきで嵩人を睨みつけた。これ以上犠牲をだすわけにはいかない。 嵩人も櫻子にむかって飛んでくる。そこにアーリースナイプで攻撃した。櫻子に攻撃をされると思っていなかった嵩人はまともに攻撃を食らってしまう。 「今ですわ! 櫻霞様!」 櫻子の言葉に即座に反応した櫻霞が攻撃態勢に入る。 「死者への思いを捨てきれない。その結果が恋人だったモノの再殺とは……なんて皮肉、なんて醜悪。これだから神秘は嫌いだ!」 櫻霞は狙っていた。意識を集中させる。決死の形相でやってくる嵩人に向かって構えた。1¢シュートを顔面に向かって放つ。 「ああああああっ」 顔面をやられた嵩人はもがき苦しんだ。目をやられて前がよく見えないのだろう。そのまま徐々に高度が下がって落ちてくる。 「おせっかいであろうと一般人を守るのがナイトの役目だッ!」 ティエが剣でもがき苦しむ嵩人を切り捨てる。血を吐いた嵩人は最後の力を振り絞って弓を構えようとした。 そこにぐるぐが素早く飛び込む。 「ぐあああああああああああああああ――」 幻影剣に切り裂かれてついにサギタリウスは消滅した。 ●星に願いを込めて サギタリウスとユニコーンが倒されてしばらくしてから、里緒奈は意識を取り戻した。攻撃を受けて彼女自身も少し傷を負った。へーベルや櫻子たちが必死の看病を施して里緒奈もようやく動けるようになった。傷ついたリベリスタ達も豊富な回復役のおかげで大事にはならずにすんだ。 だが、傷の癒えた里緒奈は悲しみにくれたまま沈んでいる。起き上がってすぐに周りを見回して嵩人がいないことに気づいた。事態を悟った里緒奈は顔を俯けた言葉を発しようとしない。 「死者を忘れる必要は無い、だが自分を縛るな。お前は今日と同じことを何時までも繰り返すつもりか?」 櫻霞の言葉に里緒奈はいやいやと首を振った。それでもわずかに喉を震わせているように見えた。何かにすがりつくように必死に感情を抑えようとしている。 「私はまだ恋とか、愛とか、そう言う気持ち分からないから上手く言えないんだけどね。里緒奈さんが、サギタリウス……嵩人さんのこと、好きって、大切だって思うならやっぱり、死んじゃだめだって、私は思うよ。だって、嵩人さんを好きだった里緒奈さんが居なくなっちゃったら、このセカイで嵩人さんを大切に想ってる人、居なくなっちゃう。嵩人さんの事を覚えていられる人、居なくなっちゃうよ」 それまでずっと面倒を見ていたファルティナが優しく里緒奈に語りかけた。はっと顔をあげたその目元にはうっすらと涙が浮かんでいた。 「私……私……本当は分かっていた。嵩人は私に死んでほしくないんだって。死ぬ間際にもそう言っていた。だからすべて私が悪いの。私がいつまでも死に取付かれていたから嵩人もサギタリウスになって出てきてしまった」 里緒奈は溢れる想いをぶつけた。傍で聞いていた琥珀も里緒奈の言葉を重く胸に抱きしめた。里緒奈はまだ気持ちの整理がついていない。それも無理もないことかもしれない。里緒奈はこれからも苦しむに違いない。もしかしたらしばらくの間、嵩人のことを引きずるだろう。だが、いつかは立ち直ってほしい。そう琥珀は願わずにはいられなかった。 「無理に全てを忘れる必要など無いのですわ……全て抱えて生きること、それが死者への手向けになるのですから」 櫻子も小さくそう呟いた。愛していたことさえ、全て幻にしてしまってはいけない。いつかその苦しい想いが生きる力になる。きっと彼女はいつか乗り越えてくれるだろう。隣にいた櫻霞も櫻子に頷いてそっと頭を撫でた。 一瞬、びくっと櫻子の耳が立ち上がる。ほどなくして耳はぺたんと垂れ下がり、代わりにしっぽが機嫌よくふりふりと動き始めた。しばらくの間、櫻子は幸せそうに目を細めて櫻霞のなすがままに身を任せる。 二人が見上げた夜空には満天の星が瞬いていた。 「星がきれいだね」 へーベルも感動して無邪気に笑う。 澄み切った夜空にはまるで金平糖をまぶしたように星が広がっていた。サギタリウスは天の川のほとりで弓を大きく構えて光り輝いていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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