●季節外れの肝試し 夕刻。夏至に向けて日を長くしつつある太陽も、既に落ちた時間。 「結局肝試しつっても、大したことねーのな」 「そりゃ幽霊なんているわきゃねーからな」 春先。何を考えたのか、涼を取るにはまだ早い時期だというのに、高校生か、せいぜい大学生といった風貌の男二人はいろいろと曰く付きのその城跡を訪ねていた。 ここは東北のとある都市。戦国時代初期のものと思われる名も無き城の跡が残る程度で、大した観光資源もない街。ただ唯一他の都市に誇れる場所があるとすれば、一貫教育を掲げる小学校から大学、大学院までの複合教育施設があることか。 皮肉なことに、教育を授かる年代の母数が多いことが、季節外れの肝試しなどという蛮行に走る者を生んだとも言えそうだが。 「まーでも、なんだっけ? ここの噂って」 「んー? とりあえず夜中になるとゴトゴト低い音がどこからともなく鳴り響いたり、他には昔からこの周囲には変死体が多くて、それが城に居座った吸血鬼の仕業だとかなんとか。んでもって、今でもたまーに『血を吸われた』ような跡のある死体が見つかるんだってさ」 「へぇ……日本で吸血鬼って結構珍しいよな」 「まぁ実際はどうだか、ってところだけどな。変死体も別に頻繁に見つかるわけじゃねーし」 「そりゃそんなに変な死体が多かったら問題だろー」 「それもそうだ!」 げらげらと陽気な笑い声。 二人の足がゆっくりと城跡へと近づいて行く。残るのは石垣の一部と、城の土台となった要石がいくつか。苔むした石と手も入らず草の生え放題な地面がなだらかな傾斜となった城跡へと踏み入った二人の目に映り。 「……ん? ありゃなんだ?」 「どれどれ?」 片方の男が指さしたのは、城跡外れの地面、意味ありげに残され、土を被った赤錆びた鉄の扉……。 ●奥津城に眠る者 「斯様な経緯を経て、彼らは扉の奥に眠るE・アンデッドを呼び覚ましてしまいます」 リベリスタたちを呼び集めた『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)はそう言って状況説明の言葉を締めくくった。説明開始とともに配られたレジュメにはより簡潔に纏めた経緯も書かれている。 古ぼけた城跡、一応の文化遺産として保護・放置されていたのが仇となったのだろう。人を閉じ込めるために作られた地下牢のような空間に残された死体がエリューションと化していたのだ。封印用の棺も同時に用意されていたため、周囲にその存在が知られることも、幸か不幸か被害が出ないがゆえに『万華鏡』の予知にも反応しなかったのだ。 「対象のエリューションは1体、フェーズは2。しかし周囲に強力な思念体、おそらくフェーズ2相当のE・フォース1体および同じくフェーズ2のE・ゴーレム1体の存在が確認されています。 このE・ゴーレムは元はこのアンデッドと化した者を封印、フェーズ進行を抑えるための装置だったようですが……どうやら経年劣化により、つい先日破壊されてしまい、逆にエリューションと化したようです」 ディスプレイに城跡の地下の間取り、およびどの位置にエリューションたちが存在するかが表示される。 「またE・アンデッドについては特記事項が。生前、リベリスタもしくはフィクサードであったのか、ヴァンパイアのように吸血のスキルを使用します」 地図から、今度はエリューションたちの外見図に切り替わるディスプレイ。なるほど、言われてみれば白い着物に身体を包んだE・アンデッドの口元には牙が見えた。 「成功条件はこれら3体のエリューションの撃破、および一般人2名の被害を未然に防ぐこと、となります。 一般人2名は肝試しという目標を持っているためか、結界程度では排除が難しいようです。強結界を用意するか、あるいは他の手段でも構いません、なんらかの対策をお願いいたします」 ぺこりと頭を下げて和泉はリベリスタたちを見送った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Reyo | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月03日(金)22:51 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●廃城への路 古風な、といえば聞こえは良いが『勇者を目指す少女』真雁 光(BNE002532)が手に持った松明はいささか時代の潮流に逆らう代物だった。横に並び立つ『◆』×『★』ヘーベル・バックハウス(BNE004424)の手にあるカンテラのそれと比べると松明の灯りは随分と頼りなく、むしろちらちらと揺れる炎が視界を不安定にちらつかせ不安を煽る。 歩くペースとは外れたリズムで光の鎧がかちゃりかちゃりと鳴る。その音に気付いたのか、殴ればぶっとばせるエリューションだと自分に言い聞かせていた『ビタースイート ビースト』五十嵐 真独楽(BNE000967)が首を傾げて尋ねた。 「光、大丈夫……?」 「だ、大丈夫、恐くなんてないですよ! コレは武者震いですし!」 本当にそうか? と暗視装置や、あるいは生来の暗視能力で闇を見通すリベリスタたちがそろって首を傾けた。 「……雰囲気を愉しむのも結構ですけど、見つけましたよ。もう仕事の時間です」 フードを目深に被った『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)が、己の獣相を隠すように闇に溶け込みながら一言。闇を見通せるリベリスタは彼女の言葉に従い視線を前へやり、そうでないヘーベルと光は少しでも遠くに光が届くようにとそれぞれの光源を高く掲げた。 城跡へと続く坂道。それを登り切った先、城に残る逸話について大声で喋る若者の姿がそこにふたつ。何を見つけたのかふたりがふたりともしゃがみ込み、なにやら話し込んでいる様子。 一般人の姿を確認した鷲峰 クロト(BNE004319)がヘーベルと光に見えるよう、二人に近づいてハンドサイン。こくりと頷いたヘーベルがカンテラの光を絞り、光は松明を構える手を下げた。一気に視野が狭まるが、それに合わせるように『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)と『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)が一般人へと忍び寄る。『魔術師』風見 七花(BNE003013)はその二人の背に隠れるように続いて、もしも一般人が逃走を図ったときに備えて退路を塞ぎにかかった。 「もし、そこのお二人」 ユーディスが声をかけると、こんな場所に他人がいることに驚いたのかビクリと肩を跳ねさせて振り返るふたり。振り返った目線の先が金髪碧眼の美女であることに二重に驚いたのか、彼ら一般人の表情がハトが豆鉄砲をくらったような驚愕に染まる。 「ああ、急に声かけられたからビックリした……」 「おう――つかおねーさん美人だね! なんでこんなとこにいるの?」 だが恐怖や警戒心は払拭されたようで、いっそ馴れ馴れしい態度で話しかけるふたり。同年代か、あるいは少し年上程度と見積もったのか、表情は和らぎ、ナンパでもするかのような気楽さ。立ち上がった彼らの足下には赤錆びた鉄の扉。 それ故に隙が生まれるのは容易く、ユーディスの背後から現れた福松が隠された左目を晒し、ふたりの精神を把握するのに大した時間は必要なかった。 「ここには何も無かった。つまらない事はやめて帰る所だっただろう?」 ゆっくりとワンフレーズずつを噛みしめるような言葉。ユーディスとの連携で視線を誘導するような形となり、福松を見たふたりはそのまま魔眼に魅入られ、どこか虚ろな表情になりこくんと頷く。 「――ああ、そうだ、つまらねえ、よな」 「帰って、ネットサーフィンでも、すっか」 足取りはしっかりと、けれど歩幅はゆっくりと。ゆらりゆらりと帰途についたふたりを8人のリベリスタがそっと見送り、そして視線を城跡へと投げた。 観測された運命の通り、すぐ先には鉄の扉。周囲が夜の闇に包まれてなお、それよりも黒々とした闇を孕んだ扉がリベリスタを待ち受けている。 ●眠り姫 一般人を送り返して、既に懸念材料はない。振り返って暗視で見通した闇の先、魔眼による催眠を受けた一般人は既に視界内になかった。念のためにと七花が結界と強結界を織り重ねて、その間に他の者は戦闘用意へと入る。 影の従者を呼び出す者、己の演算能力を高める者、速度のため自身の脚を撓める者。 強結界までもを重ねてこれで後顧の憂いはない。準備を終えたリベリスタたちが、扉の左右に立つ仲間に頷き、戦闘への緊張感を高める。 仲間からの首肯を受けて、タイミングを示し合わせるとクロトとユーディスが扉の閂を引き抜き、そのまま力任せに開扉。がきん、と錆び付いていた蝶番が擦れ合う音と共に、月明かりすら差し込まない闇の中へとリベリスタたちが躍り込み、松明とカンテラの灯りが地下を照らした。 地下、躍り込んだリベリスタたちの前方20メートルに影。暗視を持つ者であればその姿を直接視認し、また松明とカンテラの灯りでもその影を見て取るのは容易かった。 腐れ落ちた木枠、区切られた数々の牢。残る牢が幾つかある中、いわれなければアンデッドだと解らぬ白い肌と白い着物を闇の中に目立たせ、その背後に引き連れるのは茫洋たる魂魄と鋼により鍛造された黒々たる棺。 ゆらりと、先ほど意志を奪われた一般人以上に虚ろな瞳をリベリスタへと向けて、白皙のアンデッドは口角を引き上げて嗤った。 「血、だ、ぁ」 「未だ眠れぬその魂、私達が――解放して差し上げます」 槍を捧げるように構えてユーディスが一言。言葉もなく気糸による精密な狙い撃ちを魂魄へと繰り出すレイチェルを皮切りに、リベリスタたちが一斉に駆け出す。 「悪いけど、お前等には永遠に眠ってもらうぜ……っていっても、通じねぇか」 「霊魂からキッチリ始末つけるぜ!」 クロトと福松が最前衛へと駆け込み、エリューションたちの目前へと迫った。霊魂の中心を貫くような銃弾が黄金のリボルバーから吐き出され、速度を得て防御を乗り越えるナイフの刃が棺を切り裂く。 ふたりがアンデッドの左右へと駆け抜けた一瞬後、槍と盾を構えたユーディスがその中央を征き、輝きを纏った槍で白着物を刺し貫いた。 それぞれのエリューションを個別撃破するべく、最前線に立つのは3名。それぞれがお互いをカバーできる距離にいながら、エリューションには連携を許さぬ立ち回りだ。 「不浄なるモノを滅する勇者の雷をくらうです!」 先ほどの震えはどこへやら。後衛に立つ光は手に持った剣に雷撃を宿し、その一閃とともにエリューションたちを悉く貫く電光を放つ。剣から迸った雷光は特に棺と吸血死体へと効果を覿面に顕し、それぞれの体躯に紫電を纏わり付かせる。 「ああんもう! 怖いヤツでも、やっつけちゃえばどーってコトないよね!」 雷光閃いた直後、影の従者を引き連れて真独楽が前へ。闇を見通す獣の眼は瞳孔が開き、僅かな光源に妖しげな輝きを返し、眦はかすかに濡れている。頬に少し伝うのは怖さ故の涙か。 「怖いから――早いことやっつけてスッキリしちゃうよ!」 猛禽の爪の如く、広げた指先から迸った輝きが気糸となり、茫洋たる魂魄を拘束。十重二十重に絡んだ気糸が真独楽の指の動きに合わせてギリギリと締め上げられ、魂魄は掠れた絶叫を上げた。 「厄介な相手は、まとめて雷撃で!」 真独楽と対称的に恐怖を微塵も感じさせないのは七花だ。金属を内包した右腕に紫電が絡みつき、直後、その紫電は奔流となって電弧がエリューションたちを薙ぎ払う。恐怖が薄いことに我ながら年頃の女子としてはどうなのだろうか、と疑問に思いながら右腕を揮えば、仲間達の隙間を縫うような電弧がバチバチと爆ぜ、吸血死体の白着物を焦がす。 「時を越えてグッドモーニング……それから、おやすみなさい」 後衛、ヘーベルは残された檻の木枠に身を隠し、その隙間から手を突き出すと人差し指と親指を立てて拳銃に見立て、エリューションたちを纏めて狙い撃ち。指先から射出された3本の気糸が棺を、吸血死体を、霊魂を刺し貫くように奔る。 リベリスタたちの一斉攻勢を受けて既に霊魂は苦しげに呻き、その姿を瀕死であるかのように明滅させている。吸血死体も肉が削げ、着物を灼かれ、骨が露出する箇所もあるが未だ健在。棺に至ってはその鋼鉄の表面にかき傷がいくつか付けられただけであった。 ●眠りへの旅路 霊魂が絶叫した。叫びと共に何とも言い難い不気味な波動が発せられ、最前線にいたクロト、福松、ユーディスの3人の精神を痛めつける。波動と共に送り込まれて精神を蝕むのは、その霊魂の嘗ての記憶か。暗く狭い場所に押し込められるような恐怖感がリベリスタの心を穿つ。 「生きながらにして、こんな場所に、葬られた……!?」 福松が呟く。今し方見せつけられた映像は、確かに生きながらにして棺に押し込められなければ見ることの出来ない視点。まだ生きているのに棺に押し込まれ、地下に葬られる。その苦しみはいかほどのものか。 『モットイキタカッタ』 霊魂の掠れた絶叫から、僅かな言葉が響く。それはきっと恨み辛みを孕みながらも、どこか諦めきったような、もう終わってしまった者の叫び。 「きっちり弔ってやらねえとな」 棺の突撃を避けたクロトはその叫びに応えるように呟く。ドスン、と重い音を立てて棺が僅かに地面にのめり込むのを見やりながら、視界の端では悲痛な叫びを続ける霊魂を見ていた。 「血、血、血ィィィ!」 その横で浅ましく血を求め、吸血死体が間近のユーディスへと突進。そげ落ちた肉も焦げた着物も、そのどちらも気にすることなく髪を振り乱し、己を刺し貫いた槍に臆することもなく牙をむき出しにユーディスの腕に噛み付いた。 元が人間だったとは思えない程の強烈な噛み付き。骨までも砕きそうなその咬合にユーディスは顔をしかめ、なんとか振り払うが、既に吸血を許している。 白皙の吸血死体、その口元は真っ赤に染まり、生気のない唇が血の紅を得て色付く。にやぁ、と血を得たことを悦ぶかのような笑顔はまさに凄惨という一言。 血の赤は唇から喉へと渡り、そのまま全身に紅が広がり指先が深紅に染まり鈎爪となる。それが朽ちたとはいえフェイトを得ていた者としての能力だったのだろうか。事前予知によればその爪が持つのは強力な体力奪取の力。その紅の輝きにリベリスタたちの身構えがより相手を警戒するものになる。だが、その程度で引き下がる者は誰ひとりとしていない。 「怨念となり生きるのも辛いでしょう……ゆっくりとお休み下さい、何にも邪魔される事のない眠りをお贈りしますので」 魂魄の声に哀れみを得たのか、エリューションたちを纏めて薙ぎ払うようにレイチェルの気糸が宙を駆ける。吸血死体と棺を締め上げ、魂魄の中央を貫いた気糸はそのまま防御の薄い箇所を執拗に突き刺し、魂魄を消滅させた。 消え去る寸前、魂魄の浮かべた表情は安楽への旅路を逝く安寧か。恨みがましい絶叫を残すこともなく、その魂は天へと召された。 「さぁて、残りは硬ってェ棺とヴァンパイアゾンビか……だが、殴り壊す!!」 拝むようにE・フォースの居た場所へ向けた手は、そのまま握りしめられて拳となり、福松の鋼鉄をも貫く勢いの鉄拳が吸血死体への強烈なブロウとして放たれる。 「B級ホラーは、お呼びじゃないんだよっ!」 殴り抜いて一言。拳には骨と肉を纏めて叩いた鈍い感触。紅を得た白の吸血鬼がゆらりと揺れた。 「魂は眠りへと、そうであれば肉体にもまた安寧を」 目標の1/3を撃破したとはいえ、未だ完遂されてはいない。簡素な言葉と共に神の加護を仲間へ授けるユーディス。宿る治癒の力と賦活の力が、仲間達の傷を癒し戦闘の疲労を払拭する。 「エリューションなら、倒せるから……昔聞いたオバケみたいにただ怖いだけじゃないっ!」 眦はもう濡れてはいない。自身がリベリスタであることを感謝しながら放つのは、一度死した者を再度葬送するための刻印を刻む一撃。真独楽のしなやかな体躯が、鮮やかに間合いを詰め、刻印は艶やかに残される。 「さぁさ、俺をとっつかまえてみな、ノロマな棺桶っ!」 相手に言葉が届くかは関係ない。氷結の力を得た両手のナイフが連続して閃き、質ではなく数で棺を圧倒。クロトの手によりたちまち棺が氷の軛で大地に縫い止められた。メキメキと氷がひび割れるが、質量を得た分子結晶はそう簡単に破られはしない。 「アナタたちに精一杯のお祈りを……大丈夫、ヒーローがアナタたちを送り出してくれるから」 先の霊魂が放った一撃で崩れた格子から離れ、また新たな格子の影へと潜みながら、ヘーベルは仲間達の、ヒーローの活躍を見届けている。祈りの言葉と共に撃ち放たれる気糸が、ヒーローの一助になれと願いを込めて闇を切り裂く。 「ゴーレムが足止めされているのなら!」 紫電を纏っていた腕から、次いで放たれるのは魔力による純粋結晶を弾丸とした呪いの一打。たとえ呪いが利かなくても、ダメージが通れば無駄はないと七花は自身の持てる最大火力を放つ。 「――トドメだっ! いま必殺の、S・フィニッシャァァァァァァー!」 各個撃破という戦法は、複数への攻撃能力を持っていた魂魄を早々に滅したことで最大の効力を発した。棺は氷に封じられ、吸血死体はゆらりゆらりとその体躯を揺らし、外見損傷も多い。その一瞬を見逃さず、光の連続攻撃が放たれる。真っ赤なスカーフを闇に揺らめかせ、身の丈の長剣を振るい繰り出されるコンビネーションはまさに華麗の一言。 ヘーベルが光の連続攻撃に目を輝かせぐっと拳を握りしめその動きを見守る。 「これで――終わりっ!」 ザン、と。剣撃の閃きが闇を断ち、光と吸血死体が交錯する。 直後、吸血死体が紅い煙となり、白と赤が斑になった着物だけを残して崩れ去る。 氷に封じられた棺がその後を追うように砕かれたのは、間もないことだった。 ●タソカレ 「この区画を、立ち入り禁止にでもするように言うか、少しはマシになるだろう」 棺を砕いた手をぶらぶらと振りながらぼそりと福松が一言。もう片手は愛用のオレンジ・キャンディをポケットから取り出し、器用に包装を剥がして口の端に咥える。 クロトとヘーベルは砕かれた棺や地面に広がる白赤まだらの着物を拾い集めている。誰とも知れぬ怪異と化した者を弔い、また古き時代の智慧を探すための参考にと拾い集めていく欠片は多数。 「せめて懇ろに弔って、おてんと様の下に出してやりたいからな」 「今度は、いい夢見れるようにしてあげないとね」 えーと、と首を傾げたヘーベルが「あっぱれであったぞ」と言いクロトが微笑む。 地下牢を見回すようにしている七花に真独楽とユーディスが声をかける。 真独楽は怖いものみたさから、ユーディスは過去への興味から。短く会話した3人は地下牢の中を虱潰しに探し始めるが、目新しいものは何もない。 「あとは、アークに帰ってから調べた方がいいでしょうね。もし最近の方なら、探している人もいるかもしれません」 「ええ。それに、なぜこんな場所に葬られたのか、少し気になりますから」 こくりと頷き合う七花とユーディス。真独楽は何も見つからなかったことに一息、胸をなで下ろす。 「さて、お仕事終了です――帰りましょうか」 光はそろそろ乏しくなってきた松明を新しいモノに変えながら外へ。行きはよいよい帰りはこわき、とはどこの童謡だったか。輝いた松明は確かに明るかったが、いざ戦闘の高揚感が去ってみればやはり頼りないものには違いなかった。鎧をかちゃりと揮わせて、光は自分の怖い想像を振り払うと帰途、同行できる仲間を求めて皆の間をウロウロしはじめた。 「灰は灰に、塵は塵に、でしたか。死者はあるべくように葬られ魂は天へ」 一礼してレイチェルは踵を返す。安らかな眠りあれと願う程度なら、自分にも出来ると鉄扉を越えて仰いだ空には月が柔らかく輝いていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|