●リッカ もう4月。山間の空き地は少しヒンヤリしているとはいえ、4月。4月だ。春である。当然、雪の代わりに花が色を誇る季節。 だというのにそこに広がっていたのは一面の銀世界だった。正確に言えば、スケートリングさながらに一帯が凍り付いている。カッチンコッチンに。 「――これで良いのだな?」 エスキモーの様にモコモコ着膨れた男が、寒い寒いと歯の根を鳴らしながら振り返った。 「えぇ、えぇ、バッチリでおま」 着膨れ男の視線の先、着込んだコートに顎を埋めて営業スマイルを浮かべたのは眼鏡のセールスマン。「ほな、始めますね」と白い息を吐きながら懐から種を取り出し、氷に蒔いた。 防寒具男はそれをじっと見守りつ、 「それが例の?」 「はい。覚醒した種。兵器として品種改良された花。我々逆凪カンパニーの『フラワー*サカナギ』がお送りする間違いなくヒット商品馬鹿売れロングセラー間違いなしになるであろう自慢の逸品――の試作品でございますよ。 よぉ見ておくれやす、このように氷の上に蒔けばたちまち芽を出し花を出しみるみるどんどん大きくならはって――大きく……大き、く……」 セールスマンの饒舌が蒼褪める顔と共に止まり消えた。目を剥き呆然と上を見ている男達。大きな影が落ちている。その影は、うぞうぞ、うぞうぞ、胡乱に不気味に蠢いて。 「……様子がおかしくないかね?」 後ずさりつつ、防寒具の方が訊ねた。 「あ、あ、あれ。おかしいなぁ……最初に見た存在を親と認識して従順に従いはる筈なんですけどねぇ……」 「従順? 何処が従順? ちょっと簡潔に述べて頂きたいのだが花園君」 「これは……その……不具合、ですかねぇ、はい」 「うむ。実に分かりやすい回答をありがとう。で、どうするのかね」 「僕は戦うん嫌いやし苦手ですねん」 「奇遇であるな。私はサポート系フィクサードでして」 「あんさん、腕の立つ人って聞いてましてんけど?」 「戦闘係の者はフィクサードを辞めてリベリスタに……」 「ハァ!? な~んか相方はんが見えへんな~思てたけどそんなん聴いてまへんで!?」 「だって言ったのこれが初めてだもん! 言ったら絶対断られたし私今結構金欠でヤバイしでっかい氷作って試作品の様子見に付き合えぐらいなら大丈夫かなって」 「ウッワァ! 最悪や! もう最悪や! 信じられへん! 金返せや!!」 「なぁんだとぉおおう!? そもそも自慢の商品で不具合起こすそっちがダメではないか金寄越せブルジョワ共が!!!」 「ロクに働けへんクズにやる金なんてビタ一文ありまへん!」 「くそー金の亡者めがァ! 1円玉咽に詰まらせて死ね!!」 不毛な言い争い。そこに、叩き下ろされんとする氷の蔦が…… ●ファンブった結果がコレだよ 「六花、とは六角形の雪の結晶の形から名付けられた雪の異名でございますが」 事務椅子をくるんと回し、集った一同へ振り返った『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)がその低い声をブリーフィングルームに響かせた。 「今回は、皆々様に氷の花のエリューションを4体ほど討伐して頂きますぞ。 というのはですね。このエリューションは元々逆凪フィクサードが他のフィクサードに販売する為の『兵器』として作られたものでして。なんでも、彼らの持つ特殊なアーティファクトで植物の種を革醒させ『品種改良』したものだそうで」 逆凪――日本において活動するフィクサード集団の内、最も大きな七つの組織『主流七派』の最大大手。国内フィクサード組織最高の実力を持つ集団。大きいが故、どんな事にも手を出す連中。 「逆凪頭領、逆凪黒覇が代表取締役会長を務める企業『逆凪カンパニー』、その一端たる『花屋』に勤めているフィクサードが、件の『兵器』の試作実験を行うのですよ。 しかし……不幸な事に、えぇ、全く全く悲しい事に、その兵器が暴走してしまうのですよ。可哀想に」 ヤレヤレとメルクリィは首を振った。それでフィクサードに被害が出て終わりならアークの出番は無いのだけれど、そうはいかないからリベリスタがここに居るのだ。 「現場に居るフィクサードは2名。件の逆凪フィクサードと、それに雇われたフィクサード。 前者は『命があってナンボ』系の非好戦的存在、後者はバリバリ戦うというよりはそういう人を支援する事が得意な存在。彼らをどうするかは皆々様に一任致します」 サテ、とメルクリィが言葉を切る。苦笑と溜息。直後に、彼の事務椅子の背後から顔を出したのはモコモコに着込み寒さに震えたガスマスクの男だった。 「ヨッスお前等、今回の任務は俺も一緒に行くぜ。なんてったって、俺はチョー強いリベリスタだからな! あ、あんちゃんの事なんか全然気にしてないんだからな!!」 そう告げたこのアークリベリスタの名は『かじかみテリー』。かつては雇われフィクサードとしてアークと戦い、紆余曲折を経てアークのリベリスタになった男である。 彼こそは例の『逆凪フィクサードに雇われた者』の実の弟なのであった……。 「Go Ahead!! ぶっ潰してやろうぜ! エリューションを!」 「……では、お気を付けて行ってらっしゃいませ皆々様」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月30日(火)23:25 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●やれよ。楽しませてくれ 端的に言うと一面の銀世界! 「糞寒ぃ……ったく春だってのにこんな所に氷なんか張りやがって」 「初夏も間近だってのに防寒着を着込んでってのもなぁ」 モコモコ、防寒具を着込んだ『銀の盾』ユーニア・ヘイスティングズ(BNE003499)に『足らずの』晦 烏(BNE002858)。言葉と共に季節外れの白い息。業の深い稼業だよな、ホントに。烏が吐くそれは煙草の白。 「春も中頃なのにまだ寒いとは、季節がずれているのだ」 これは防寒具を着込まざるを得ない。天才的に。『ジーニアス』神葬 陸駆(BNE004022)がウムと頷く。l 「亡くなったお祖母ちゃんが言ってたの。私達双子が生まれた日は本当に珍しく寒い日だったって」 そう言う『雪風と共に舞う花』ルア・ホワイト(BNE001372)の出身国はマルタ共和国、そこは暖かい国故に雪など滅多に降らないという。その証拠であるかの様に、実際彼女は寒がりだった。だから悴む指にはミトン、頭にはうさぎの耳たれ帽子、厚手のブーツ。もこもこのフラワーコトはレースとリボンをあしらって、其処彼処に花が咲く。ぴょんぴょん跳ねればゆらゆらふわり。 さて、そんな一道の視線の先にあるのは2つの人影。口論するフィクサード。それが誰なのか、何故言い争っているのか――そして、その背後に不気味なエリューションが蠢いている理由も、全て全てリベリスタ達は知っていた。 「おぅい、伏せろ!」 開口一番。烏の声。横合いからの声にフィクサードの薫としもやけジョニーがそちらを向いて、目に映るは投擲された神秘の閃光手榴弾。どわぁ。思わず伏せる。直後の炸裂。 瞬きに目を細めつつ、その時には既に『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)は氷野を駆け出していた。黒金の髪が颯爽と靡く。 「ビジネスパートナーたるもの相手との最低限の友好関係も築けないようではお話になりませんね」 流石の大御堂重機械工業株式会社社長令嬢。とはいえフィクサード組織では内輪揉めなど日常茶飯事なのだろうし、視線の先で状況を把握している真っ最中のスカポンタン共も明日にはケロッと忘れて仲良くやってそうで大した問題のようにも見えないけれども。 踏み締める。彩花が立ちはだかるのは、烏のフラッシュバンによりリベリスタへと気を向けた氷凶華。デッカイ氷の花。蠢いた。氷点下のオーラを纏えば、令嬢の足元を冷気が駆け抜ける。だが寒くはない、安心と信頼の大御堂重工製防寒ジャケット。 「ちなみに防寒ジャケットは重工の購買部で販売しています。皆さんもこんな時の為に是非ご検討してみて下さいね」 言葉と共に金剛陣。常在戦場。戦場と書いて『マーケティング』と読む。 「アークかいな……! ったく面倒な人らのおでましでんがな」 「差し詰め我々を引っ捕らえに来たのだろうがそうはいかんぞ!」 飛び下がる薫に、それを守るよう立ちはだかるジョニー。何のかんので雇い主だ、生活がかかっているのだ。 言葉の通り、フィクサード達は『取り敢えず箱舟が正義を振りかざしてきた』と懐疑剥き出しである。当然だ、リベリスタとフィクサードは敵。 なのだけれども。 「おい貴様ら! アークが助けにきた! 褒めてもいいぞ! この場はまかせるのだ」 堂々登場、仲間と目配せし合って氷凶草の前に立ちはだかった陸駆が声を張り上げる。 「おっと、こんな奴食ったら腹壊すぜ?」 同じく、ペインキングの棘を構え異形の前に立つユーニア。間抜けなドアホが植物の肥料になる前に。化物もフィクサードも心配してやるなんて、超優しいな俺。 「貸しにしとくんでここは任せて下がると良いよ。巻き込まれて悲惨な目に遭いたいならご自由に」 事を構えて来る気ならば生きて帰せる保証はしないがね。そんな付け加え文句を謳った烏の視線は薫へと。 「それにしてもフラワー逆凪は雪山でもしっかり根付く花を作れるなんて天才だな。ゴーアヘッドだ!」 「残りの種があればよこせ。そしたら見逃してやんよ」 笑顔の陸駆、脅しも含めて薫をも目標に暗黒を放つユーニア。だが放たれた黒は、間に入ったジョニーが庇った為に届かない。 「どっしぇ、ホンマ箱舟さんはエゲツないわぁ……」 薫は顔を顰め、ジョニーへ目配せを。逃げろと言われたのなら、そうしよう。ユーニアには種の代わりに無視を寄越し、薫はスタコラサッサとトンズラ一択。 ジョニーもそれに続こうと……したのだが。 「おーーいジョニー!」 「あんちゃーーん!」 そんな声。立ち止ったジョニーが振り返ったそこには、手を繋いで(しかも恋人繋ぎだ!)こちらへ一直線に駆けてくるリア充が。その名は『還暦プラスワン』レイライン・エレアニック(BNE002137)とかじかみテリー。 「久しぶりじゃのう! 何やらトラブっておるようじゃな……ここは一つ、手を組まんかえ?」 ふわりと揺れる、長袖ロングスカートのあったかいゴスロリドレス。今日のレイラインはおめかしのお洒落さん。そんな彼女とジョニーの目が合う。最中――レイラインは既視感を感じていた。なんだか、前はもっと感動的な場面だった気が。まぁいい、過去は過去だ。 その間に、「あんちゃーんウオオオオー」と再会の喜びにテンションMAXなテリーは兄に全力でじゃれ付いている。それにつられてジョニーも感無量。きゃっきゃアハハうふふ。聞いてねぇ。 と、その瞬間。 「コンバカ兄弟のアホ兄貴、やりゃあがったな?」 ボゴッとジョニーにラリアット一発。ハイバランサーの能力で氷上を勢いよく滑って来た『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)。「ぐぼァ!」と倒れたフィクサードに眼光と人差し指を突き付ける。 「確か前に言ったよな? 崩界に興味があろうが無かろうが、ソレに繋がる事仕出かしやがったら解ってんだろうなこんボケェ。処理ちゃんとすっか、ボコボコに殴られるか、ちゃんと選ばせてやっからよ」 「……最早脅迫じゃないかね」 「やかましいわコラクソジョニー。再会で感涙ってもーオメーもアーク来りゃ良いじゃねぇかバカバカしい。それに……テメェ冬に夏っぽい事してねぇじゃねぇかふざけんなボケぶん殴るオラァ」 「痛い! 殴った! この人殴った!」 「後でちゃんとボコボコにしてやるから働けやぁ!」 それだけ吐き捨てて、「あんちゃーん!」とオロオロしているテリーに後は任せて火車は氷凶華へと向かっていった。 「とまぁ……兄弟積もる話もあるじゃろうが、ちと無粋な客が多いのう」 肩を竦めて苦笑、レイラインははっ倒されたジョニーに手を差し出しつつ。 「前の時みたいに氷人形であの草達をブロック出来ないかの? 今回は炎で溶かされる事も無さそうじゃし、落ち着いて話せるじゃろうて」 「ふむ」 相変わらずキャイキャイしている弟との再会を喜びたいのも山々だが。ジョニーには、レイラインや火車には一生かかっても返せぬ恩がある。ならば今何をせねばならないか。それを彼は理解していた。 「ここで『NO』を言えば男が廃るというもの。やってやろうではないか、しもやけジョニー・かじかみテリーのパーフェクトコンビネーションをお見せしよう!」 「おしゃー! やるぞあんちゃん!」 「Go Ahead――」 「Make My Day!!」 作りだされる氷人形。現れる分身。 それに『第35話:毎日カレー曜日』宮部・香夏子(BNE003035)は見覚えがあった。気がする。なんか昔負けたような。 「まさかのジョニーさん達へとリベンジ……じゃないのですね……もうすっかりどんな風だったか忘れましたがともかく借りを返さないとですね!」 と言う訳で、影を纏い。先ずはこの邪魔な植物からどーんと倒すべく、氷凶草へ繰り出したのは気糸の凶撃。致命的に縛り上げる。そこをすかさず狙うのは陸駆だ。 「りっくんメガビームは貴様の冷たさより上だ」 メガネビームに空目。キランと輝く天才眼鏡。凍り付く最高の眼力はあらゆる弱みを暴き出す。ビシリ。氷凶草は動けぬままに砕け散った。 一方で、別個体の氷凶草が凍て付く吐息を吐き出した。ユーニアは腕を交差し防御する。零下が頬を裂く。だが。 「ふん、そんなもん絶対者様にきかねーよ」 彼の身体を脅威が蝕む事はない。絶対だから。 「でも寒ぃ! 絶対者なのに寒ぃ! 完璧装備なのに寒ぃ! 血が足りねぇし最悪!」 だが。少年は棘を振り上げる。俺は止まらねぇぞ。殺す。命を削り振り下ろした。黒い闇。牙を剥く異形の口に突き刺さる。 「この闇は俺の生命。そんなに食いたければくれてやるぜ」 ケッと悪態。その直後、響いた銃声。二五式・改を構えた烏。神速の弾丸はユーニアが暗黒を撃った場所へと正確に着弾し、一体を打ち砕く。 氷凶草は残り一体。それへは、身体のギアを高めたルアが既に誰よりも速く接敵していた。振るわれる堅い蔦にも怖じ気る事なく、前へ。踏み出す度に脚は速く、吐き出す呼吸は白く彼方へ。 「この剣は『花と太陽』を宿しているの」 Nettare Luccicante、Otto Verita。彼が託してくれた大切な想いを胸に。寒さも、傷も、痛みも、彼女の脚を止める事は出来ない。手にした二刀は離さない。キラリキラリ、純白の魔術機甲Gypsophilaが雪花が舞うが如く煌いた。 一気に踏み込んだルアは速度を刃に切り払う。切り拓いた。頽れる氷凶草。これで残りは、氷凶華のみ。 さて。と言う訳で。 「ジョニー、貴様面白いスキルを使うみたいだな、その必殺技をみせるのだ! 僕なら使いこなせるかもしれないからな!」 「折角の再会祝いで一発。景気良いのでもぶち込んでくれ。しもやけのあんちゃん」 そろそろ彼等も落ち着いただろうと陸駆と烏。振り返った、そんな一方で。 (しっかし、音沙汰無かったから心配しておったのじゃがこの兄弟は騒動起こさないと死ぬ病でも患っておるのかえ!?) レイラインはそんな事を思っていた。まぁフィクサードなんだし仕方な……ん? だったらジョニーも…… 「え、えーっと……その、ジョニ……じゃなくて……お、お義兄さん! ……あ、お義兄様? それとも……お義兄ちゃんのがいいかの?」 上目遣い、レイラインはじっとジョニーを見る。 「ん? どうした我が義妹よ。呼び方なら好きにしたまえ」 ウワァさらっと言いやがったコイツ。にゃぎゃりそうになったのを抑え、レイラインは口を開く。 「提案なんじゃが……ジョニーもアークに来ないかえ? 弟と敵同士なんて……悲しいじゃないかえ」 「その話か……すまんが、君達がリベリスタを誇りにしているのと同様に、私はフィクサードである事に誇りを持っているのだよ」 「……アーク、超ホワイトじゃよ? お給料沢山、三食昼寝付」 「許せ。そうホイホイと生き方を変えられる程、私は柔らかい人間ではないのである」 「このままじゃ連絡も取れんし……け、けけっ、結婚式にも招待出来ないんじゃぞ!?」 「大丈夫! テリーにはコッソリGPSを……ゴホンゴホン」 そう言う訳でノープロブレム! あんちゃん流石だぜーとテリー嬉しそう。因みにドヤ顔のジョニーは陸駆と烏の話聞いてねぇ。 「早く私に姪っこ又は甥っこを見せてくれよな!」 「にゃにゃにゃ にゃぎゃー!」 なんかもう爆発しそうになったので、レイランは氷凶華をソードエアリアルでバシコーンしておきました。 一方で。 「無駄にデカく育ちやがって……精々見おろしてろ、根絶やしにしてやる!」 火車の怒号と燃える鬼暴。攻撃してりゃ寒いのもぶっ飛ぶ。滑る氷を逆に活かして速度に乗って、攻撃。攻撃。全ては業炎撃に繋がる。彩花の二式鉄山によって身体とオーラを粉砕された氷凶華へとド接近。 が、そこで氷凶華が一直線にブレスを吐いた。氷点下。突き刺さる。しかしまぁ、それが何だという話でありまして。彼の火は消えない。消せない。轟々と。 「おらァアア!」 業炎撃。一心不乱に業炎撃。 炎だ。氷凶華が苦手とするそれに耳触りな悲鳴を上げる。 そこへ、 「必殺ギャラクシー香夏子ディスティネーション」 ぐるぐる、十重二十重、加奈子が繰り出す絞殺の糸。技名はなんとなく。氷の身体に極細の糸がめり込み、切り裂き、削り取る。糸を振り解いた化物が氷の蔦をやたらめったら振り回した。鈍い殴打音。傍にいた者を打ち据えブッ飛ばす。 だがその暴れ狂う異形を静かに狙い定めるのは、烏と陸駆の双眸。弾丸と眼光。邪魔な蔦を逆にブッ飛ばす。 氷凶華の懐が大きく開いた。その隙を逃さぬは、ルア。 「氷の花はとっても繊細で綺麗な感じだけど、私は元気に咲いているお花がいいな」 だってそっちの方が、生きてる感じがするもの。生きている花が好き。雪の様にふわりと揺蕩う花が、風に舞う小さな花びらが好き。 氷野を蹴った。繰り出すは、多角的急襲。ソードエアリアル。 「最近ようやく使えるようになったの。練習したんだから!」 ふわり、花吹雪の如く。トドメにもう一度、得意のソニックエッジ。 「俺結構植物好きなんだよな」 同刻。ユーニアは身構えつ、思う。変な実験に使われなければ、今頃普通の花として綺麗に咲いてたのかもしれない。 「可哀相だけど、もうお前に春はこないぜ。生まれ変わって次の春を待てよ――お前の命、もらうぜ」 踏み込んだ。振り上げる棘に命を貪る赤い光を込めて。突き立てた。砕けた氷が、きらきら散った。 「そろそろ仕舞にしましょうか」 燃える雷牙、ブリザト吐息を軽やかに回避した彩花が突き出す業炎撃。燃える。燃える。悲鳴。それに口角を吊った火車が声を張り上げる。 「おぉテメェ腹減ってんのかぁ? そんだけデケぇんだ当然か?」 じゃあ喰え。大いに味わえ。棒立ち正面。指先挑発。 その言葉を理解してか或いは本能か、氷凶華が牙を剥いて火車に襲い掛かった。同時――火車は自らその口の中に吶喊を仕掛ける! 「おぅら悪食ぃ! ちゃあんと腹に収めろよぉ!」 牙の刺さる激痛。血の抜ける感覚。しかしKOはドラマで拒否。振り上げる拳に、炎の渦。 「熱々御見舞いしてぇぇえ……! っヤるぁあ!」 薙ぎ払った。万象を灰燼と変える地獄の劫火。鬼業紅蓮。激しい火柱が氷凶華を包み込む。 「ぎゃっはっはっは! 美味ぇだろぅが! 逃げ場のねぇ御馳走はぁ!」 火車の血が流れ切るのが先か、氷凶華が灰になるのが先か。炎と牙の応酬。何度でも。 斯くして――火柱の中から首をゴキリと鳴らして生還したのは、華ではなく人間。 ●ユキドケソコドケ 戦闘後も相変わらず兄弟とレイラインはワチョワチョやっているようで。 「よし、うまく話がまとまったのならアークに来い! 決して、決して決してブラック企業じゃない、支払いだけはいいぞ! アークは」 「ケチな商売から足洗ったらどうだ? あの二人見てたら、昔のこととかもう今更って感じだろ」 アークに来いよ。陸駆とユーニアがジョニーに言う。 それにジョニーは、フフッと笑った。 「私がアークに来る時――それは、私が『伯父さん』になった時だッ!」 ではさらば。翼を翻し、ジョニーは彼方へ飛び立った。うちの弟をよろしくお願いします、とレイラインに言い残し。 静寂。顔を真っ赤に見つめ合う恋人二人。まぁそんなこんなで。 「しかしなんだ。着々と結婚に向けて足場固めが進んでいる気がするよな」 ガタガタ震えられる一面の銀世界なのにそこだけ熱々だなんて、全くもってお後が宜しいようで。何よりだ、と烏は紫煙を吐き出した。 「……恋の幻想は幻想殺しでも看破できないみたいですね」 「恋する乙女には敵わねーからな」 彩花の言葉に、肩を竦めるユーニア。乙女? 還暦乙女……まぁいいか。自分はお人よしという事で纏めておこう。 空を仰ぎ、嗚呼。呟き一つ。 「……春だなあ」 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|