●パンツ愛好家 三高平市の居住地区の西ブロック外れに、買い手が見付からず放置された土地がある。曰く付きと近所の者達が囁き合うが、その実、誰もその理由を知らない、そんな奇妙な違和感を抱えていた。 「そんだけ元から怪しければ、変な噂の一つや二つ出てきてもおかしくないか」 男が一人、その土地を目指して歩いていた。彼は暇を持て余す大学生で、生粋の現実主義者である。丑三つ時に迫ろうか、という深夜にこうして外出しているのは、友人から聞いた奇妙な噂の正体を確かめるためだった。 噂によれば、その曰く付きの土地に透明人間が現れるのだという。透明人間なのに現れる、という時点で笑ってしまったが、ふざけた噂ほど暴いてみたくなるのが彼の性であった。 「こっちか?」 月明かりも乏しい夜道。街灯はなく、住民も眠りに付いている。頼れる光源は、手に持った懐中電灯だけだ。 目的地に近付くにつれて、不気味さと暗闇が濃くなっていく。 「雰囲気があっていいな。夏になったら肝試しにでも使うか」 全く怖がらずヘラヘラと笑う。 ――そんな軽い気持ちで彼は禁忌へ踏み込んでしまった。 ようやく到着した目的地はしばらく手入れもされていないらしく、背の高い雑草がひしめき合い夜風と戯れていた。塀や仕切りはないので、侵入することは容易いが、草の中を突き抜けるのは、少々気が進まない。 「風がちょっと強くなってきたな」 男は白のニット帽で耳元まで覆う。花が咲き誇り、散りゆく季節になってもまだまだ夜中は肌寒い。 どこから入ろうかと悩みながら見回していると、草が薙ぎ倒されて通路になっている箇所があった。 「子どもの秘密基地遊びか何かだろう。ありがたく通らせてもらうかな」 男は道の先を懐中電灯で照らす。 「ん……?」 照らした先、背の低い雑草に囲まれて、オーバーコートをまとった大柄な背中が浮かび上がった。頭には白い布がぼんやりと見える。 「こんな夜中に誰だ?」 自分のことを棚に上げて、男は訝しむ。 「あの――」と声を掛けようとして、ぬかるみに足を取られた。「雨が降ったから、その名残か」 足元を照らすために懐中電灯を傾けて、男は素っ頓狂な声をあげた。 「なんじゃこりゃ、全部パンツか?」 進行方向を順々に照らしていけば、地面には色取り取りのパンツが敷き詰められていた。すべて女物で、子どもっぽいアニメキャラがプリントされたものから、布面積が極小の大人向けのものまで、様々な種類のパンツが揃っていた。 「そういえば下着ドロが最近……」 そこで気付く。目の前に怪しい人物が立っているではないか。 「あんたがこの下着ドロの犯人か?」 力強く詰問しようとしたが、唇の乾きに掠れた声になってしまった。 コートの人物がゆっくりと振り返る。 男は顕になったその姿に息を呑んだ。 ――服が浮いていた。まるで透明人間に着られたように。 人間の頭部にあたる部分には帽子――ではなく純白のパンツが逆三角形になって膨らんでいた。 「な、なんだよ、お前っ」 音もなく迫り来る変態に後退る。噂は本当で自分が間違っていた。そんなことを奇妙なぐらい冷静に考えてしまう。 (落ち着け、逃げろ、逃げるんだ!) 心霊スポットを幾つも巡ってきたんだ。本物の化け物に遭遇したぐらいで慌てるんじゃない。そう言い聞かせる。 男の抵抗虚しく、変態はパンツ頭をずいっと寄せてきた。目と鼻の先に透明なのっぺらぼうがある。口にあたる部分から「ケラケラ」と鈍い笑い声を漏らした。 「う、あっ……」 背中が冷や汗にぐっしょりと濡れて、手先の震えが止まらない。 何かしなくては、というよりは、早く終わらせてくれと意味もなく願った。 しかし、変態は一頻り笑うと、何事もなかったかのように男を放置して、地面に並べられたパンツを拾い出した。 男は恐怖の波が緩んだことで、腰が砕けて尻餅をついた。なんとか逃げようと地面を蹴るが、ぬかるみのせいで思うように進めなかった。 変態が再び男の方を向く。ふわりと浮かび上がり、まばたきの間に、すぐ正面へ現れた。 「ギィィ……」 金属同士がこすれ合うような不快な音を口から零す。 男のニット帽へ透明な手を伸ばし、取り上げると、逆の手に持ったパンツを見比べる。 「ギィィギィィ!」 変態の奇妙な声が興奮したものに変わった。ニット帽を地面に叩きつけて、残りの手に持つ縞々パンツを振り上げる。そして、目にも留まらぬ速度で振り下ろした。 「ぐがッ――!」 男の視界が真っ赤に染まる。下半身の感覚が消失していた。それもそうだろう。既に上半身と下半身は別れを告げている。 眠気が襲い掛かってきた。 意識が急速に萎んでいく中、男は真っ赤に染まった縞々パンツを目にした。 ●ブリーフィングルーム 「………………」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は頭を抱えていた。 下着ドロとしても、猟奇殺人としても知られる事件の犯人が、映像の中でパンツと戯れているアザーバイドだった。 集まったリベリスタ達は、「パンツで殺されるなんて、さぞかし無念だろう」と思う。下手をすれば自分達も戦闘の末に、あのパンツで八つ裂きにされるのかと思うと、なんだか悲しくなった。 イヴは巨大モニターの映像が終わると、疑問が残ったのか首を傾げた。 「でも奇妙。他に予知した光景では、あのアザーバイドは目撃者をすぐに殺害している。老若男女は問わない。でも、あの男性だけは一度だけ、どうして見逃されたの?」 なんとなく答えを察してしまったリベリスタは、言おうか言うまいか悩んだが、結局は口にしなかった。もしここでそれを口にすれば、イヴは躊躇いもなく、任務の参加者全員にその指示を出す筈だ。 アザーバイドの油断は誘えるし、不意打ちも可能になるかもしれない。しかし、尊厳やプライドを投げ捨てることになりそうだ。 イヴは一通り考えたが答えが出なかったらしく話を進めた。 「ふざけた敵だけど注意して。映像で戦闘力が高いことが確認されているわ。…………下着を活用して色々な攻撃をしてくる」 モニターに映し出された戦闘データに、イヴが溜め息を漏らす。 『パンツ愛好家アザーバイドの攻撃方法について』 パンツブレイド:全力で振るわれるパンツの剣! パンツカッター:凄まじい回転で襲いかかるパンツの刃! バインドパンツ:強靭なパンツは鎖となり動きを封じる! パンツタイフーン:嵐を巻き起こせ、これがパンツの力だ! 「データを作ったのは誰……?」 イヴの鋭い視線に、オペレーター達が全力で首を横に振った。 「後で調べるから、覚悟してね」 改めてリベリスタ達を振り返ったイヴは、疲れた顔を浮かべていた。幼い彼女の心労に、思わず敬礼をしてしまう。 「敵は既に殺人を犯したアザーバイド、速やかに排除すること。万華鏡システムで、今夜、映像と同じ土地に現れることが確認されているわ」 イヴは声音は平坦だが、確かな感情を滲ませて一同を見送る。 「無茶はしないこと。充分に気を付けて任務に臨んでね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:potato | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月09日(木)23:19 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●パンツは被るもの アザーバイド出現までの時間、リベリスタ達は各々に準備を整えていた。 月下の空き地に夜風が吹き荒ぶ。 ――開戦は近い。 フィクサードもエリューションもリベリスタも――そしてアザーバイドまでも、みんなみんなパンツに惹かれていく。 何故、頭に被ろうとするのか。 全世界共通の何かがあるのだろうか? 「もしかしてパンツを被ることで敵味方関係なく分かり合うことが出来るのかしら」 パンツを被ったら世界が平和になりました、めでたしめでたし。 パンツは世界を救う! パンツが救世主! パンツこそが最重要アイテム! ありがとうパンツ……すべて、おぱんつ様のお陰です! 「なんてことがありえ……ないわね」 『マグミラージュ』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)は思考がトリップ仕掛けたが、なんとか正常に戻ることができた。 「分かり合えるのは一部の人間だけよ。そもそも、私はいつでもスク水装着のスク水派なのよ、おぱんつ様は頭に被ったりしません」 常にスク水を装着するのも充分に変態的ではあるが、それを態々突っ込む人間は居なかった。 ソラがぶつぶつ呟く横で、『へっぽこぷー』メイ・リィ・ルゥ(BNE003539)が依頼のために買ってきたパンツを頭に被っていた。 「透明人間って聞いてるけど、実は見えないんじゃなくて、体が無くて本体が頭のパンツだったりして」 頭のパンツを押さえてあははー、と冗談半分に笑う。 ICレコーダーの調子を確かめていた『クール&マイペース』月姫・彩香(BNE003815)が、メイの考えに神妙な顔付きで頷いた。 「一理あるかもしれない。そもそもアザーバイドは我々の常識で図れるものではないからな」 至極真っ当な考察をしながら、 「おっと、これも忘れてはいけない」 躊躇いもなく白色のパンツを頭に被った。灰色の長髪に白のアクセント、見事なハーモニーを奏でる。 「確かに本来アザーバイドというのは全く別の世界の全く別の生物ですからね。こういった致命的に価値観の相違ある存在の方が納得できる気がします」 『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)は次々とパンツを被っていく仲間を見て、 「あっ、私は被りませんよ。ドロワーズ派ですから」 と予め断りを入れた。 躊躇いもなく被る者、きっぱりと主義主張を持って拒否する者――それらの者とは別に、使命を果たすためならばと、羞恥に耐えながら果敢にパンツへ挑む乙女も居た。 (また今回も酷いね。今年に入ってから三回目のパンツ依頼だよ、これ……) 『薔薇の吸血姫』マーガレット・カミラ・ウェルズ(BNE002553)は心で滝のような涙を流す。 手に握り締めたパンツが、持ち主の表情を真似るようにシワを寄せた。 「うぅぅ、どうして、こんな……被るよ、被ってやりますともっ!」 両手を通し一気に被り切る。 苦虫をまとめて数百匹噛み潰したような渋い顔を、羞恥と悔しさに歪めた。頬を真っ赤に染めながら、一筋の涙を流す。 そして、パンツは被られた。 心になんだか、ぽっかり空虚な穴が開いた気がした。 「パン……いや、これは下着ではない! 布製のサークレットだっ!」 『白銀の鉄の塊』ティエ・アルギュロス(BNE004380)は少しでも精神的な安寧を得るために、必死で自分に言い聞かせた。 「サークレット、サークレット、サークレット!」 自己暗示で完璧にガード。こんな馬鹿げたことで戦闘に支障をきたす訳にはいかない。 「ぬぉぉぉぉ……!」 しかし、パンツが頭に装着された時、涙が止められなくなった。 ランプを片手にパンツを頭に被ったままやってきた、カメリア・アルブス(BNE004402)は、嘆き苦しむ二人を見て首を傾げた。 「えっ、これって恥ずかしい事なの?」 彼女は最近見た漫画で、主人公がパンツを被っていたのでこの世界では普通のことだと思っているのだ。同じくフェリエのティエが血反吐を吐く勢いなので、きっと個体差である。あるいは、この世界に訪れてから吸収した文化の違いであろう。 「中々に愉快な光景だ。……記念に写真撮ってもいいかな?」 彩香がデジカメを構えると、マーガレットとティエが首をもげそうな勢いでぶんぶん振った。 一同が騒がしくする中、『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)は静かに佇んていた。頭には確りと『おにゅーのぱんつ』を装備している。 「……来たか」 風の音が乱れ、闇に紛れて純白のパンツが宙を舞う。纏った黒のオーバーコートをなびかせながら、アザーバイドは広場の中心に降り立った。 夏栖斗は見えない筈の目と目が合ったような気がした。いや、勘違いではない。変態同士のシンパシーは世界すらも超越する。 「女の子のパンツは男子にときめきを与える大切な青春の体現者なんだ。それを武器に使って人を殺すなんて……僕の正義が許さない」 一歩踏み出す。 「パンツを血塗れなんかにさせない!」 かつての戦いで破損した、『いちごぱんつ』と『ぱんつ』を固く握り締める。俯いた拍子に、大切なパンツに悲しみの涙が零れ落ちた。 どうしてパンツは世界を超えて繋げ合うのに、争いもまた生み出すのだろう。ああ、パンツ、きみはどこまでも罪深い。 顔を上げ直す。そこには強い意志が取り戻されていた。 「僕は英雄なんかじゃない! それでも守れるパンツはあるはずだ!」 両手に握ったパンツを腕に巻き付けて、夏栖斗はゆっくりとアザーバイドへ歩み寄る。 パンツを被った勇ましい乙女達もそれに続いた。 ●パンツVSパンツ アザーバイドの頭部のパンツが揺れ動く。どうやら周囲を見回しているらしい。 透明な視線がソラとモニカに突き刺さる。 「ギィィ……」 コートの中へ手を伸ばし、色取り取りのパンツを取り出した。 「こちらには見向きもしない。やはり、パンツは仲間の証なのだろうか?」 彩香はICレコーダーに声を録音しながら、一定距離を保って、状況を見守る。パンツ組には一切注意を払う様子がないことから、どうやら推測は正しかったらしい。 「それはつまり、水着派の私と」 「ドロワ派の私が狙われるという訳ですね、ソラ様」 「冷静に解説してる場合ではないと思うわ」 「では、皆様の奇襲成立のためにも一働き致しましょう」 物々しい自動砲を取り出して、両足を大地に減り込む勢いで踏み込んだ。回転式の弾倉が物々しい音を喚き立てて弾丸を供給する。 「仲間への誤射は大丈夫かしら?」 ソラの杞憂に、モニカは恭しく首を横に振った。 砲口から閃光が迸り放たれた弾丸は、 「ご安心ください、マーキング弾です」 アザーバイドに着弾した瞬間、蛍光塗料が全身に付着した。強烈な臭いを漂わせるその全身は、人間の形に似ていた。ただ足だけは膝にあたる部分までしか無く、その先が消失している。 「足音が無い理由は浮遊しているから、という訳ね」 ソラは頷きながら小柄な身に不釣り合いな、分厚く大きい魔導書を手に広げた。 「さて、分かりやすい目印はできたから、後は攻撃を叩き込むだけね」 パンツ組に所属していたメイとカメリアは、暗視を持たないために、配置に着くのに手間取っていた。 「あっ……これで丸分かりだね」 メイは闇の中でアザーバイドが蛍光色に輝いているのを視認する。 「後は合図を待つだけだよ」 カメリアはランプを足元に置いて、接近を開始した。 草を掻き分けてアザーバイドの背後を取ったパンツ組だったが、アザーバイドが怒りの狂声を上げて、モニカに突っ込んでいった。どうやらパンツを汚されたことを怒っているようだ。 「よぅ、変態野郎。僕を無視するとは連れないねぇ」 「ボクが色々と投げ出して挑んだこの行動……無駄にするつもりはないよ」 夏栖斗とマーガレットがそれぞれ、アザーバイドの左肩と右肩を掴んだ。 「パンツはただの布っ切れにするんじゃねぇ!」 「ボクにこんな格好をさせたお前は絶対に許さない!」 怒りの拳がアザーバイドに叩き込まれ、黒のオーバーコートが宙を舞った。更に植え付けられた爆弾が炸裂して夜空にカラフルなパンツが飛び散る。 落下地点には、既に先回りしたカメリアが待ち構えていた。 「まさか、また使う機会が来るとは思ってなかったけどね」 カメリアはギャルのパンティーを、降り注ぐパンツに向かって投げ込んだ。人型を取ったパンツの塊に繰り返し投げ付ける。 「不味い、それは偽物だ!」 ティエの警告虚しく、カメリアは降り注ぐパンツに包まれて、姿を見える頃には雁字搦めにされていた。口までパンツに塞がれてしまい「むーむー」と呻きながら芋虫のようにのた打ち回った。 「本体は……?」 彩香はデジカメを銃に持ち替えて、周囲に鋭い視線を走らせた。 メイはカメリアを助け出すために駈け出して、疑問に頭がもたげた。 (冗談半分だったけど、あれだけの巨体が空中で身を隠すなんてできないよね? それに頭に被ったパンツだけで仲間かどうか判断していたから――) まさか、そのまさかなのだろうか……? メイは草むらに寝転んだ蛍光色に塗れた体を発見した。しかし、頭部にあたる部分にパンツはなく、その体はピクリとも動かない。 「そうか、やっぱり……パンツが本体なんだよ!」 「どういうことだ」と尋ねようとして、ティエは突然巻き起こった嵐に目元を腕で覆った。 蛍光色が付着した純白のパンツを中心に、広場に散らばったパンツが宙を舞い、その身を刃に変えて全員に襲い掛かった。 猛威を振るうパンツの中で、夏栖斗は必死に叫んでいた。 「パンツは穿くものだ! 被るもんでも、ましてや武器なんかにするもんじゃない ふざけるな! パンツを無駄に使うな!」 その叫びも虚しく、パンツは服を裂き、肌を切る。 「くっ……」 彩香は風に煽られて、スカートが舞い上がるのも慌てて押さえ込んだ。 「大丈夫か!? みんな!」 夏栖斗は仲間を心配し、すぐに安否(パンチラ)を確かめようとして――レースに縁取られた濃紺色のパンツ――そこまで網膜に焼き付けたところで、 「ぐほっ!」 彩香のオートマチックが火を吹いた。 「誤射だ」 「狙ったよね!?」 防具越しに伝わった衝撃に腹が疼痛を訴える。夏栖斗はそれを堪えながら、嘯く彩香にツッコミを入れた。 仲間同士で争うのを余所に、アザーバイドは、拘束されたままのカメリアへ、本体であるパンツ一枚で突貫した。 「あのままでは不味いな」 それに気付いた彩香は、夏栖斗への追撃を諦めて、ポケットから縞パンを取り出した。 「気を引く方法……そうか、被ればいい」 相手がパンツだというのならば、 「――二重の極み!」 古びた白パンの上に、縞パンを重ねて被った。 アザーバイド、仲間共に衝撃が襲った。パンツを被った上に更にパンツを重ねる。狂気の発想だった。 それ故に、時間稼ぎは成功する。 「はぁぁっ!」 一瞬の隙を突いて、ティエがカメリアを拘束するパンツを斬り裂いた。 「やっと自由になれたー!」 宙に浮いて風にそよぐ純白のパンツ。引き寄せられるように、蛍光色に染まった透明体が黒のオーバーコートを纏って合体を果たした。 ●パンツ狩り ソラは手にした魔術書を開いて、なぞるように手をかざした。 「そろそろ眠いからね、終わらせるよ」 すると、一条の雷が立ち上り、瞬時に拡散してアザーバイドの頭上へ降り注ぐ。 「ギィィ」 血の濁る悲鳴を上げながら、アザーバイドはソラに向かって浮遊していく。 「行かせるかよ」 夏栖斗が立ち塞がり、懐へ潜り込んだ。真紅の炎を宿した武器を突き上げる。 「この炎は僕の怒りだ! 例え大切なパンツを燃やし尽くしてもてめぇの狼藉はゆるせねぇ!」 荒振る闘志と燃え上がる炎に、アザーバイドは怯んだ。頭部のパンツだけは死守するために、引火したオーバーコートを脱ぎ捨てる。 「そのパンツ、貰い受けるんだよ!」 メイが撃ち放った魔法の矢が、夜闇を切り裂いて純白のパンツへ襲い掛かった。しかし、アザーバイドは巧みな身の熟しでパンツへの直撃を避ける。 「次は実弾です。容赦は致しませんので、断末魔か遺言の準備を」 遥か遠距離から、モニカの自動砲が唸りを上げた。 放たれる弾丸は、まさしく魔弾。破壊の権化と化しながらも針の穴を通す正確さで、アザーバイドのパンツを撃ち抜いた。 パンツの裾が削れ、焦げ付いた臭いを放つ。繋がった透明体がグラリと傾くも、空中に留まった。 「しぶといですね」 思わず毒づいてしまう。 アザーバイドは両腕を左右に広げて、地面に広がるパンツの束を手に取った。そのパンツを繋ぎ合わせて、両手それぞれで鞭のように振るう。 「これ以上好き勝手にはさせないよ!」 マーガレットは闇に溶け込んだ影を操って、後衛に付いた仲間を庇うために前へ出た。 「う、わっ!」 パンツに両腕を巻き込んで絡め取られる。もう片方のパンツに足の自由も奪われて、為す術もなく地面へ倒れ込んだ。 「これでどうだ!」 彩香が足止めのために閃光弾を放った。 マーガレットは自分の影が地面に焼き付くのを見詰める。頭にパンツを被り、パンツに縛り上げられた姿がそこにはあった。 「なんでこんな……」 一瞬の閃光が演出した光景に、絶望の淵へと叩き込まれる。 (……パンツに呪われているのかな、ボク) 視界がぼやけていく。涙が頬を伝い止めどなく流れ落ちた。 「ギィィ!」 アザーバイドは興奮の声を掻き鳴らし、地面に落ちたパンツを次々と拾い集める。 「パンツは自由にさせないよ!」 カメリアのエル・フリーズが、冷気を掻き集めて、地面を氷結させた。湿った地面の上で眠るパンツを固い氷の中に閉ざして、回収を困難にさせる。 「ギィィィィ!」 アザーバイドは怒りの声を上げて、カメリアを透明な視線で睨み付けた。 「これ以上、好きにはさせんぞ!」 背後から接近したティエは、怒りのままに剣を振り上げる。 「ここで貴様を倒し、未来永劫、パンツ、穿かせないッ!」 裂帛の気合と鮮烈な輝きと共に、全体重を乗せた重い一撃が振り下ろされた。 透明体は真っ二つに斬り裂かれ、蛍光色を鮮血で上塗りする。流れ出る血に生命を流出させ、遂にその身を永遠の眠りにつかせた。 「待て、パンツが消えている!」 しかし、朽ち果てた透明体の頭部から純白のパンツが消えていた。 「逃がすか!」 夏栖斗が草むらへ逃げ延びた本体を、逸早く見付け出す。 「パンツを愚弄し、パンツを弄んだ罪を償わせる! パンツは僕の人生だぁぁぁぁっ!」 右手を炎に包み込み、拳を前に真っ直ぐ突き進む。 最後の止めを振るおうとする最前線から遥か後方、ソラとモニカが並んで立っていた。 「夏栖斗様が巻き込まれますが」 「私には変態が二人居るようにしか見えないよ」 「……それもそうですね」 慈悲なき氷刃の霧が、二人の変態を包み込んだ。 「え、ええ!? 僕、まだ中に――」 アザーバイドの断末魔と、夏栖斗の悲鳴が広場に響き渡った。 やがて霧が晴れて、ズタズタに引き裂かれた純白のパンツと、ボロ雑巾と化した夏栖斗が発見された。 「ぱ、パンツ、力を……分けてくれ」 夏栖斗は最後の力を振り絞り、アザーバイドの血に染まったいちごぱんつから血を貪る。それにより、なんとか一命を取り留めるのであった。 ●そしてパンツは朱に染まる アザーバイドの本体だった純白のパンツは、もはやパンツかどうかすら分からない布切れになっていた。 ――戦いは終わったのだ。 マーガレットはアザーバイドの死と同時にパンツの拘束から解放された。立ち上がると、頭に被ったパンツをすぐさま引っ剥がして、地面に叩き付けた。ありったけの怒りと憎しみを込めて、何度も踏み付ける。 「この、このっ!」 疲れ果てると、そのままへたり込んだ。 「……最悪の一日だったよ」 ティエは地面に凍りついたパンツを眺めて警察に通報しようとして、思いとどまった。 「ケーサツ……ううむ、しかし」 今すぐ呼べば、パンツをちゅーちゅー吸ってる夏栖斗や、パンツを被ってはしゃいでいる者達にも逮捕の危険性がある。 「警察ならもう呼んだよ?」 カメリアの言葉にティエが絶句する。 「もうこれで、済んだよね、私は疲れたし先に帰るね」 パンツを被ったままであることを注意しようとして、気付けばもうカメリアは立ち去っていた。 数分後。とある帰宅途中のリベリスタ達。 「ええ? 私は通報した本人だよ。頭に被ってるパンツはなんだ……って? …………これは、あの、その漫画のモノマネで、え? 続きは署で?」 「ち、違います。ぼ、僕はただパンツから力を分けてもらって、いえ、お巡りさん、僕じゃないです。手に握ったパンツに書いてある? ……『おまわりさんこのひとです』。こ、これは違うんです! な、何かの間違いで!」 その後、二人はなんとか警察官から逃げ出すことに成功した。暗がりだったこともあり顔もばれておらず、幸いにも今まで積み重ねてきた功績に傷をつけることはなかった。 三高平市の居住地区の西ブロック外れに、買い手が見付からず放置された土地がある。 理由は単純だ。 そこには、真っ赤な血で染まったパンツが草むらに幾つも隠れている。 ――どうしてそんなことになったのか、それは一部のリベリスタ達だけが知っている。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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