●槍 ある街の博物館で、世界中から集められた槍の展示会が開かれていた。日本、西洋、或いはどこかの民族の槍、それだけでなく神話に出てくる槍を再現したものも飾られている。四方八方、どこを見ても槍、槍、槍。もちろんそのほとんどはショーケースに入れられていて、直接触る事は出来ない。 しかし……。 その夜だけは、いささか事情が異なっていた。異変に気付いたのは、2人の警備員だった。巡回中、博物館の一角に人が倒れているのを発見したのだ。警備員でも、博物館の職員でもないそいつは、床に倒れ伏し、片手に朱塗りの日本槍を持っていた。目の前には砕かれたショーケース。興味本位か、売り飛ばすつもりか知らないが、恐らく彼は盗人だろう。 それが何故、こんな場所に倒れているのか、それは分からない。 「どういうことだよ?」 「……さぁ?」 首を傾げ、倒れていた男に手を触れる。揺り起そうとした、その瞬間……。 ガクン、と雷かなにかにでも打たれたように警備員の体が痙攣する。異変に気付いたもう1人の警備員も、だ。 暫し、静寂。 それから、2人の警備員はふらふらと立ち上がった。向かう先は、ショーケースに飾られた槍の元。警備員の1人は、大型の西洋槍、ランスと言われるそれを手に取った。 次いで、もう1人が手にしたのは神話を元に再現された槍だ。歴史的価値はないが、見た目が派手で、今回の展示会での目玉である。 3つ又の槍だ。神話の海神ポセイドンが持っていたとされるものである。 いつの間にか、盗人も起き上がっていた。ふらりと視線を巡らせて、槍を持った男が3人、博物館の外へと出ていくのだった……。 ●槍の魅力に誘われて 「E・ゴーレム化した槍が3本。フェーズ2が1体と、フェーズ1が2体。それぞれ、一般人を操って博物館から外へ出ていこうとしているみたい」 モニターに映るのは、3人の男性。それぞれ槍を手にしている。博物館の入口付近に居るようだ。 先頭を進むのは、豪奢な装飾を施された三又の槍を持つ警備員だった。次いで、朱塗りの日本槍を持つ盗人、最後尾には大きな鉄塊の如きランスを持った警備員と続く。 フェーズ2なのは、恐らく三又槍だろう。 「3つ又槍(トライデント)は神秘系の攻撃を……。日本槍は近・遠距離での貫通攻撃を、ランスは近距離範囲攻撃をそれぞれ得意としているわ」 あくまでE・ゴーレムである槍が本体だ。それを操っている人間は一般人。怪我をさせず、というのは厳しいだろうが、死なせることなく解放することが成功条件だ。 「3体はある程度意思を疎通させて行動している。コンビネーションに優れているから、注意して。現在、博物館周辺には人はいないけど、いつ誰が通りかかる分からない点も要注意」 これ以上、無関係の人間を巻き込むわけにはいかない。 また、博物館の外には無数のオブジェや植え込みなど、遮蔽物が存在している。死角が多い、ということだ。 「3体の槍を討伐すること。槍に操られている一般人を救出してくること。操られている者の身体能力は異常なほどまでに強化されているみたい。以上が成功条件。それでは、行ってきてね」 そう言ってイヴは、仲間達を送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月30日(火)23:24 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●3本の槍 街灯の灯りに照らされて、怪しく光る鋭い刃。日本槍、ランス、そして海神の伝説をモチーフに作られた三又の槍(トライデント)の3本と、それを持つ3人の男たち。 博物館の中でE化し、男達を操って出て来たのだ。 そしてその前に、立ち塞がる影が8つ。 「騎士とは災禍を払い進むもの」 先陣を切ったのは『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)であった。剣を胸の前で掲げる騎士の礼。それを見て、槍の1体、ランスもまた槍を掲げそれに応えた。 次の瞬間。 3体の槍と、8人のリベリスタの戦闘が開始されたのである。 ●槍とリベリスタ 剣を振りあげ、アラストールはトライデントへ飛びかかる。アラストールを阻むべく、ランスがトライデントの前へ。日本槍がリーチを活かし迎撃に。 「ランスの抑え役、誠心誠意務めてみせましょう!」 鉄扇を広げ、ランスの眼前に躍り出たのは『レディースメイド』リコル・ツァーネ(BNE004260)だ。力一杯、鉄扇をランスに叩きつける。ランスは僅かに後退。空いた隙間をアラストールが駆け抜け、トライデントの元へ。アラストールの剣を、三又の槍が受け止める。 ランスを他の2体から引き離すべくリコルは再びランスへ駆け寄る。しかし、いつの間にか、ランスの全身は重厚な鎧で覆われていた。 「う……っぁ!?」 鎧を纏った体から放たれる重力急のタックルが、リコルを襲う。 「おっと」 吹き飛ばされたリコルを受け止めたのは『レーティア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)だ。硝子球のような硬質な瞳が、ランスの姿を捉える。 「槍に対する主な対処法は2つ。懐に入るか、距離を取るか……だけど」 それはあくまで、槍に対する対処法。槍を操る本体が鎧を着込んでいるとなると、少々話しが変わってくる。 「壊すのはちょっともったいないかな? でも、やっぱりこのまま放置は出来ないしね」 さて、と1つ呟いてグリモアールを広げる『ゲーマー人生』ア―リィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)。彼女の役割は主に回復やサポートだ。出番が来るのは、もう少し後になるだろうか。 「美術館で暴れまわるなんてマナー違反も甚だしいのだが、美術品が暴れているのでは仕方ない」 気糸を伸ばし、罠を仕掛ける『小さき梟』ステラ・ムゲット(BNE004112)。視線の先には、素早い攻撃を繰り返す日本槍の姿があった。防御よりも攻撃を優先させたいるような日本槍の攻撃。迷いがなく、鋭い突きが繰りだされている。 「人間を操るとは、やってくれるぜ」 「さて……行くぞっ!」 突き出された槍を飛び越し、『刹那の刻』浅葱 琥珀(BNE004276)が前へ出た。次いで、槍の真下を潜り抜けるようにして『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)もまた日本槍へ迫る。 琥珀の全身から気糸が伸びる。日本槍に巻きつき、その動きを止めにかかる。と、同時に真下から抉るようなナイフでの斬撃が日本槍へ襲いかかった。 上下からの同時攻撃。琥珀と鷲祐によるものだ。 しかし……。 「うぉっ!!」 「なんだ……」 突如として、日本槍の真下に大きな馬が姿を現した。日本槍は馬に飛び乗り、気糸を引きちぎり2人の間を跳び抜けた。馬の勢いの押され、押し倒される2人。突き出された槍が、琥珀の肩を刺し貫いた。 高速で駆ける馬上からの攻撃。と、そんな日本槍の背後に1人の幼女が跳びかかる。『スーパーマグメイガス』ラヴィアン・リファール(BNE002787)である。 「お前の動きは、ラヴィアン・アイでまるっとお見通しだぜ!」 振り下ろされる剣による一撃が槍を襲う。日本槍は朱塗りの槍を振りあげ、それを受け止めた。一瞬、動きの止まった日本槍。それを取り囲む、琥珀、鷲祐、ラヴィアンの3人。 お互いの視線が交差し、周囲に緊張が満ち溢れる。 振り降ろされる武骨な鉄塊。槍というより鈍器に近い使い方だが、ランスの使用方法としてはそれで正しい。 地面を砕き、瓦礫を散らすランスの一撃。咄嗟にそれを回避し、リコルは鎧の上から鉄扇を叩き込む。フルスイングでの一撃なのだが、効いているのか否か。 幸い、ランスの動きは余り早くない。多少の傷は負うものの今のところ致命傷は受けていない。 「ブロックを最優先させて頂きます」 攻勢に出る事は控え、ランスの動きを阻害することを主軸に立ちまわる。 「回復は任せてねっ」 リコルの体を、燐光が包む。傷を癒すのはその光を操るのは、後衛から戦場を見守るア―リィであった。傷や打撲痕が消えて、リコルの動作に淀みが消える。 暗視を持つ彼女してみれば、夜闇の中でも周囲の状況を正しく把握することはさほど難しいことではないのだ。 「できれば、巻き込まれた人達が「目が覚めたら激痛」なんてことにならないように」 ステラが呟く。低空飛行で戦場を跳びまわり、無数の気糸を周囲に展開させる。高速で駆け回る日本槍から視線は外さない。 しかしその時、ステラと日本槍との視線が交差。気付かれた、とステラが思ったその時には遅い。高速で日本槍が突き出される。直後、真空の刃がステラの肩を貫いた。 「ぅっ……!?」 鮮血が飛び散る。バランスを崩し、地面に倒れるステラ。真空の刃は止まらない。背後にいた彩歌の脇腹が裂け、血が滴る。口の端から血を吐き、よろめく彩歌。追撃を加えようと、日本槍が馬を走らせる。槍を突き出し、高速移動。戦意と殺意、その迫力に気押されステラの表情が強張った。 「武器ってのはな、人が魂込めて振るうから最高の一撃になるんだ」 ラヴィアンが叫んだ。血液で出来た黒鎖の濁流が日本槍を襲う。だが、日本槍の動きの方が早い。止められない、と誰もがそう思った。 次の瞬間、である。 「いや、構わない」 パチン、とステラが指を鳴らした。直後、周囲に張り巡らされていた気糸が馬の脚に纏わり付いた。バランスを崩し、馬が倒れる。空中へ投げ出される日本槍。 「槍に対して剣で対抗しようとすると三倍の段位が要ると言うし、如何にして相手に距離を掴ませずに戦えるかよね」 腕を前へと突き出す彩歌。指先から伸びた気糸が、まっすぐに男の手首へ。日本槍を握った、男の手首を貫いた。飛び散る鮮血。男の手から、日本槍が離れる。狙いの正確な気糸での攻撃だ。男の手から離れた槍が、ふわりと宙へ投げ出された。 その直後、ラヴィアンの放った黒鎖の波が、馬を飲み込み消し飛ばす。 男は手を伸ばし、日本槍を掴もうとする。と、同時に新たな馬が姿を現す。幻影の馬だ、失っても作り直せばいい。けれど、その隙が命取り。 「解放しろっても聞かないよな。強制的に引き剥がす!」 琥珀の全身から気糸が伸びる。空中を舞う日本槍をキャッチ。気糸に引かれ日本槍は男から離れる。 「悪いが、館内の人命は持ち出し禁止だ」 黒鎖の波を飛び越えて、鷲祐がその場に飛び出した。一瞬、彼のナイフが煌めいて見える。まるで光の飛沫が飛び散っているかのようである。光と共に、繰りだされるのは無数の突きだ。目にも止まらぬ刺突の嵐。光の軌跡を残しながら、それらは日本槍を襲う。 日本槍が軋む。馬が掻き消え、男は意識を失った。罅割れ、砕けた日本槍。木端を散らして、地面に転がった。 一方その頃、アラストールは降り注ぐ氷塊を避けながら、博物館前を駆けまわっていた。博物館正面には、戦闘開始から今まで、ほとんど位置を移動していないトライデントの姿があった。周囲の地面には無数の氷塊が突き刺さっている。 逃げ場は次第に、少なくなっていく。 「余裕を与えない剣舞、といきたいところですが……」 流石は神話の槍と言ったところか。通常の槍の域を超えた攻撃は、受けるだけで精一杯。受けたダメージは、そろそろ限界に近い。血を流し過ぎた。時折僅かに視界が霞む。 トライデントが槍を振るう。撃ち出されたのは水の弾丸。それを受け止め、アラストールは後ろに跳んだ。 「……っえ!?」 「しまった……」 トン、と何かに背中が当たる。疑問の声を上げたのはリコルであった。氷塊を避けるうちに、リコルとランスの戦場付近まで後退していたらしい。リコルの背後にランスが見える。白銀の鎧が、街灯の灯りを反射し、怪しく光る。 ランスによる、力任せな体当たり。背中合わせになったせいで、逃げ場を失った2人はその突撃を回避できない。 アラストールの体から、一瞬、重力の感覚が消えた。直後、気付く。自分が宙を弾き飛ばされているということに。全身の骨が軋む。一瞬、意識が途切れていたのかもしれない。 視界の端で、リコルが氷塊に激突するのが見えた。 「槍の間合いで戦うのは不利ですが……」 視線の先には、槍を構えたトライデントの姿。体当たりによって、元の位置まで弾き返されているようだ。恐らく、これが槍達の狙い。トライデントとランスによる連携。 このままでは、トライデントの餌食となるだけだ。回避は不可能。防御で堪えるだけの体力は残っていない。回復班との距離が遠い。 空中で、アラストールは無理矢理剣を大上段へ振りあげた。刃が鮮烈な輝きを放つ。氷塊を蹴飛ばし、アラストールは加速。トライデントへ飛びかかる。槍の刃がアラストールの頬を裂く。加速したせいで、僅かにタイミングがずれたのだろう。アラストールの剣が、トライデントの肩へと振り下ろされた。 と、同時に。 アラストールの真下から、巨大な氷柱が突き出し、その身を宙へと打ち上げた。 アラストールの体が地面に落ちる。意識がないのか、ピクリとも動かない。援護に向かおうとする仲間達の前に、ランスが立ち塞がった。巨大な槍を振るい、氷塊を弾丸のように撃ち出す。近づけない仲間たちは、アラストールの無事を祈る。 肩から血を流したトライデントが、こちらへ向かって歩き始めた。 その、直後……。 「祈りこそが我が存在。まだ終わってはいませんよ」 鮮血を滴らせ、肩で息をしながらも、アラストールは再び立ち上がった。血に塗れた腕で剣を握り、それをトライデントに突きつけた。 「ふっ、しっかり狙え。ゆっくりで良いぞ」 ランスに肉薄し、鷲祐は言う。ノックバックされたリコルに代わり、今は彼がランスのブロック役をしている。素早く振り抜かれたナイフが、鎧の隙間へ喰い込んだ。ギシ、と刃の軋む音。関節部を抑えられ、ランスの動きが僅かに鈍る。 「ちょっと心苦しいけど、後で回復するんで我慢してね」 リコルに駆け寄るア―リィ。先ほどまで、日本槍に操られていた男性に向け、そう声をかけた。男性に意識はない。暫くは目覚めないだろう。 瞬く燐光がリコルの体を包み込む。リコルの傷を癒しながらも、ア―リィは周囲に視線を巡らせた。アラストールが抑えているとはいえ、トライデントは遠距離攻撃持ちである。 「派手にやり過ぎて外にいる人達に見られるようじゃ困るが……手遅れか」 地面に突き刺さった氷塊を見ながら、ステラは溜め息を零す。回復を施すア―リィとリコルを守るように低空飛行し、すぐにでも攻撃や防御の姿勢がとれるようにしているようだ。時折飛んでくる氷塊を、気糸で撃ち抜き、迎撃する。 その時、ランスの体当たりによって鷲祐の体が大きく吹き飛ばされた。血を撒き散らして地面を転がる鷲祐を、ラヴィアンが受け止める。 鷲祐を追って、ランスが駆ける。槍を振りあげ、力任せにそれを叩き降ろす。 「槍と戦えるなんて浪漫があるけどさ、殺らせてたまるか!」 振り下ろされるランスの前に、琥珀が飛び込む。気糸を伸ばし槍を受け止めるものの、重さと勢いに振りきられ、防ぎきれない。鉄塊による一撃が、琥珀の胸を叩いた。 「ぅぎ……っ」 血を吐き、よろける琥珀。振り下ろされたランスは地面を砕く。 「持っている人の身体強度まで上がっているかどうかが問題よね」 彩歌が呟く。瞬間、気糸が鎧の隙間に突き刺さった。鎧の中は生身の人間だ。肩と腕を気糸に貫かれ、その動きがピタリと止まった。 「人的被害は最小限にしとうございます!」 その一瞬をついて、メイド服の裾を翻しながらリコルが戦場に駆けこんでくる。開いた鉄扇を素早く振り抜く。 鉄と鉄がぶつかって、火花が散った。ランスが歪む。リコルは鉄扇で槍を捉えたまま、身体ごと前へ飛ぶ。男の手から、ランスが弾き飛ばされた。溶けるように鎧が消えて、後に残ったのは意識を失った警備員。 ランスの支配から、解放されたようだ。鉄扇に撃ち抜かれ、大きく歪んだランスからは、もはや何も感じることは出来ない。 日本槍に続き、ランスも撃破完了である。 ●海神の槍 トライデントの放った水弾がアラストールの胴へ命中。よろけ、倒れそうになるアラルトールだが、ギリギリのところで踏みとどまった。 「……」 言葉を発する余裕もないのだろう。口から零れるのは弱々しい吐息だけだ。トライデントが槍を持ち上げる。震える手で、アラストールもまた、剣を掲げた。 その時。 「後は任せて」 アラストールの肩に小さな手が乗せられた。手の主はア―リィだ。燐光がアラストールの体を癒す。アラストールを守るように、リコルが前へ。鉄扇を広げ、トライデントに視線を向ける。 ランスとの戦闘で傷ついた鷲祐と琥珀は、現在後方へステラの治療を受けている。残る仲間達は、すでにトライデントの周囲に展開、配置は完了していた。 トライデントの左右に展開する彩歌とラヴィアン。ラヴィアンの手には、曲がったランスが握られていた。トライデントが頭上で槍を旋回させる。その度に、彼の周囲に冷気が撒き散らされた。 「思ったよりも長期戦になったわ」 自身にインスタントチャージを施し、戦闘体勢を整える。トライデントが槍を止める。 その瞬間、弾かれたようにラヴィアンは前へ飛び出した。 「博物館に眠ってて退屈だったんだろ?だから、誰かの手で振るわれたかった……でもな、それじゃてめーらは満たされねーのさ」 地面に突き刺したランスを足場に、高く飛び上がるラヴィアン。大上段からランスへと振り下ろされる剣による一撃。ランスはそれを、槍の先で受け流す。 「穂先に当てて、揺さぶってみようかしら」 槍の先に、気糸が撒きつく。トライデントの槍が僅かに揺れる。その隙に、着地したラヴィアンによる真下からの斬撃。トライデントは一歩後退することで、それを回避した。ぼたり、とトライデントの肩から血が滴り落ちた。 トライデントが槍を振りあげる。彼の周囲に、氷柱が突き出す。それを回避するように、ラヴィアンは後退。氷によって、彩歌の気糸も切断される。 自由になった槍を、トライデントは天に向け突き上げた。渦巻く魔力。そして、冷気。無数の氷塊が、空から降り注ぐ。 「あわわわわ……」 大慌てで、ア―リィはアラストールの上に覆いかぶさる。傷ついたアラストールを庇っているのだ。降り注ぐ氷塊を、リコルが鉄扇で弾き飛ばす。 リコルだけではない、治療を終え、戦線に復帰した鷲祐、琥珀、ステラの3人もまた氷塊を回避、迎撃。そして、地面に突き刺さったそれらを砕き、戦闘の邪魔にならないよう排除する。 降り注ぐ氷塊を回避しながら、彩歌は腕を前へ伸ばした。 「一本の槍は折れやすいが、三本束ねれば容易には折れないと言うわね」 初めは3本あった槍も、今ではトライデント1本だけ。ちなみに、槍ではなく、矢が正解。 降り注ぐ氷塊の間を縫って、気糸が宙を駆け抜ける。 そして気糸はトライデントの肩へ突き刺さった。アラストールが傷を付けた部分だ。いくら精神を支配していても、肉体の反応までは制御できない。痛みによる条件反射。トライデントの腕から力が抜ける。 次の瞬間、降り注いだ氷塊が彩歌の肩や腕を撃ち抜いた。地面に向かって倒れ込みながら、しかし彩歌はにやりと笑う。 「武器が人間を操ったって、本来の力の半分も出せねーよ」 氷塊の影から飛び出して来たのは、両手でランスを握ったラヴィアンであった。大上段へ振りあげたランスに、無数の黒鎖が巻きつく。 禍々しいオーラを発しながら、ラヴィアンの手にしたランスが、トライデントへと振り下ろされた。 「今夜だけの特別だ。俺とお前は一心同体!さあ、気合入れろよ?派手に決めるぜ!」 肩の痛みによるものか、トライデントの動作が鈍い。受け止めようとトライデントが振りあげられた。ランスとトライデントが衝突。重さと速度の乗ったランスの一撃を、トライデントは受け切れない。 解き放たれた黒鎖が、トライデントを飲み込んで行く。 重力に引かれ、ランスは地面に衝突。一拍遅れて黒鎖が消える。鎖が消えた後からは、ボロボロに錆び、半ば砕けたトライデントが地面に落ちた。 トライデントが倒れた事で、氷塊もまた、溶けて消えていくのであった……。 「えーと……そうだな。こう、右側に日本槍の破片と……」 3本の槍の残骸を組み立てる鷲祐。琥珀やア―リィもそれを手伝っている。槍に操られていた男性たちはすでに治療済みだ。とはいえ、もう暫くは目が覚めないだろうが。 組み立てられていく槍のオブジェを眺めながら、ステラは思う。 カンボジアの平和のモニュメントに似ているな……と。 なにはともあれ、これにて一件落着だ。 槍で出来た謎のオブジェについて、明日にはまた一悶着あるのだろうが、それはまた別の話しである。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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