●突然、顔に向かって 「むろん、音楽コードのことではない。ちょっとこれを見てくれ」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)が「コードネームG」と書かれたDVDをブリーフィングルームの巨大モニター画面に映し出した。 「すごいゴミですね。かなり強烈な異臭が立ち込めてます。ほんとにこんな場所が……」 なにかのニュース番組だった。若い女性レポーターがガスマスクをしながら足元の踏み場もないゴミで溢れ返った屋敷を案内している。 番組はどうやらゴミ屋敷のレポートだった。廃寺にホームレスがいつの間にか住み付いていたらしい。近所の苦情が絶えず、ついにテレビにも注目されるほど有名なゴミ屋敷になってしまった。そのすさまじさは思わず顔を背けたくなるほどひどかった。 「なんですか? あれっ……」 ふと、画面の中の三島レポーターが大きな声をあげる。 「どうかしましたか? 三島さん、なにか」 「あ、あ、あ、」 「なんですか? 聞こえません。応答願います!」 「く、黒い、あああ、あの黒い長い触角の」 「黒い? 何ですか? 三島さん。はっきりとおしゃって――」 「や、や、やあああ! こっこないでええ! いやあああ!」 「三島さん! 三島さん!」 「うああああああ! ぎゃゃああああああああああああ――」 プツン。ザアアアアアアア――― 居合わせたリベリスタはあまりの惨劇に背筋がうすら寒くなった。伸晃に至ってはモニター画面の方をまともに一度も見てさえいなかった。 中には途中トイレに退席してそのまま帰ってこなかったものもいた。 そう、ニュースレポーターの三島さんを襲ったあの黒い影。 二本の異様に垂れた長い触角。それに油でテカテカしていて、やけにすばしっこい。 おまけにそいつは、あろうことか人間様の顔に向かって突然飛びかかってくる。 そう、日本にいる人間なら誰もがよく知っているあの害虫。 通称G まさか、あれが、まさか――巨大化して襲ってくるなんて! ●G7 「そう、ゴキブリだ! しかもただのGじゃない。全長が二メートルもある巨大化したエリューション・ビーストだ!」 画面の中の三島さんはちょうどそのどでかいGたちに、全身を舐め回されているところだった。気絶した三島さんは泡を吹いて昏倒している。その瞬間、三島さんの頭はゴキブリによってバリバリムシャムシャと平らげられてしまった。 「Gは、全部で7体いる。そのうち一体は五メートルを超す大物のメスだ。つねに卵を生み続けているため、次々に小さいGが孵化して襲ってくる。赤子の大きさは三十センチほどだが、噛まれると出血を伴う。奴らはとても食欲旺盛だ。くれぐれも噛みつかれないように気をつけて行ってきてくれ。このまま逃げ出して街にいかれると、一般人に危害が及んでとんでもないことになるからな。あと、帰ったらちゃんと風呂はいれよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:凸一 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月24日(水)23:22 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●人類の天敵 廃寺のゴミ屋敷は凄まじい臭気を放っていた。ゴミの山が敷地内を隙間なく埋め尽くしている。寺は立ち入り禁止になっていた。 あんな惨事がおこったからだろう、誰もこの寺には近づかない。リベリスタ達は慎重に辺りを伺ってゴミ屋敷に侵入した。ガスマスクを着用する。 「G……その姿を見るだけで身震いをしてしまうとは、まさに人類の天敵です。人類の人類による人類の為の世界がため、ここで殲滅させてもらうですよ!」 『自爆娘』シィン・アーパーウィル(BNE004479)は威勢よく発言する。やる気満々だった。だが、彼女はガスマスクを持参していなかった。さっそくの分かりすい自爆である。いったいその体力はいつまで持つのだろうか――。 「Gは地球上で一番生命力ある生き物だが、人の居る空間じゃないと生きられないとも聞くね。人vsGか――負けるわけには行かないな!」 シィンのことは放っておいて『刹那の刻』浅葱 琥珀(BNE004276)が続けて発言をする。聞くところによればGは、恐竜より歴史が古い。生命の歴史としては圧倒的な先輩であるGに今日はどこまでできるか楽しみでもあった。 「G……名前を言ってはいけないあの恐るべき生物でございます。さっさと滅びやがってください!」 『目つきが悪い』ウリエル・ベルトラム(BNE001655)は興奮していた。残念なことに今回は十四歳の美少女が出てくる依頼ではない。だが、それでも、いやだからこそ、その目つきはさらに悪くなっている。 「不倶戴天の敵、か……数百、を切り裂き、体液に塗れた経験も、懐かしい思い出。またこうして相手、をするのも運命、か。厄介そうな相手、だし、楽しむとしよう」 『無軌道の戦鬼(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)も昔の戦いを思い出してほくそ笑む。マスクにマントに鼻にはティッシュとフル装備である。 「大陸ではあれらも食べるとか……ふむ、美味しいのだろうか」 『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)は興味をそそられていた。たしか、マダガスカルゴキブリという大きな食用のゴキブリがいるらしい。肉がたっぷりあって香ばしいとか。 「食用? いやーっ! やっぱり行きたくない! 宿題ちゃんとやりますから許してくださいソラ先生!!」 ひときわ大きな声を上げて暴れているおてんば娘の『三高平の悪戯姫』白雪 陽菜(BNE002652)がすきを見て帰ろうとする。彼女は虫が大の苦手だった。なのにどうしてこの依頼に来てしまったのか――何かの陰謀に違いない。 「ダメよ。ここまで来てしまったら後には引けないわ。でも、酷い場所ね……。流石に私の部屋だってここまでひどくないわよ? ちょっと散らかってるけど、異臭とか出てないわよ」 陽菜を引っ張りながら『マグミラージュ』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)がようやく一息つく。本当に「ちょっと」散らかっているだけなのだろうか。そこは敢えて陽菜も尋ねることはしない。 「うぅ……なんかすごく気の進まない相手だけど、でも、ほっとくと確実に犠牲者出るし……これも大事な任務だからね……がんばろう……」 天乃の喋りよりもさらに途切れがちに『ゲーマー人生』アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)が喋った。最後に皆に向かって鼓舞する。それは他なる自分自身へのメッセージでもあった。すでに逃げ腰気味である。 一行はようやくゴミの中に足を踏み入れて行く。 「……夕餉が不味くなる匂いですね」 ぼそりとアラストールがつぶやく。そして特殊ツールでガスマスクを付けた。 辺りはゴミで埋もれているため、どこに奴が潜んでいるかわからなかった。とりあえずさらに奥へと突き進む。シィンがエルブーストを使って気合いを入れる。これで少しはもつだろうと腹を括った。 ●巨大化した奴ら 「ねえ、あそこにいるのもしや……?」 超直感とエネミースキャンを働かせたシィンがある場所を指して言う。大きな本堂の仏像の後ろから何やらニョキニョキと長い触角がふたつ突き出していた。 「うわあああ――出たああああ!」 まるでお化けが出たとでも言うように陽菜が叫んだ。その瞬間、5メートルもあろうかというGのメスが驚いて這い出てくる。 「気をつけろ! 天井にもいるぞ!」 琥珀が注意したのと同時に、真黒い大きなGが天井から落ちてくる。バサバサと大きな震動を立ててゴミの山に着地した。 そして次の瞬間、シィンの顔に向かって一斉に飛びかかってきた。 「ぎやああああああああああ――――やめってえええええ!」 シィンが慌てて後ろに向けて駆けだす。それを敢えて仲間たちは無視した。あくまで最初は卵を生み続けるメスが優先。彼女には囮になってもらおう。その隙をついてソラが壁を蹴って斜め上からソードエアリアルで奇襲を食らわす。 驚いたメスは逃げることができずに攻撃に巻き込まれてしまう。そこを今度は天乃がディスピアーギャロップで呪縛を狙った。 Gはいたたまれず生んだ卵を放置せざるをえない。だが、先ほど生んだ卵から小さなGたちが溢れてこちらに迫ってきた。近くにいた琥珀に噛みついてくる。あまりに大量のGに抱きつかれた琥珀は全身が真っ黒になってしまう。 「ぐあっ! あろうことかGに噛みつかれるなんて! こんな姿……姫には姫にだけは見せられないっ! こんな死に方だけは嫌だ、何としても俺は勝つ!」 琥珀は渾身の力を振り絞ってブラックジャックを放つ。鬼気迫る琥珀のこれまでにない本気を見せつけられて小さなGたちは敢え無く散った。 「もうこっちこないでええ!」 オスの一匹が陽菜に向かってどろどろのえげつない液体を口から放つ。咄嗟の出来事に陽菜は対応が遅れてもろに液体を浴びてしまう。 「だいじょうぶ? 陽菜さん!」 アーリィが慌てて駆け寄って天使の歌で回復を味方に施す。起き上がった陽菜はすぐに目薬を大量点眼した。目をうるうるとさせる。「わたし、ぜったいまけないもん!」台詞がすでに棒読みになってしまっていた。 だが、すぐにまた迫りくるオスに向かってインドラの矢を放つ。それでも向かってくるオスにさらに弓本体で殴りつける。 「いやあああ、もうこないでえええええええ」 我を失って叩きまくったオスはいつのまにかぺちゃんこになって潰れていた。それでも陽菜は手を最後まで緩めることはしなかった。 「そろそろメスをやっつけなければ――」 聖骸闘衣を身に纏ったアラストールが、メスに向かってリーガルブレードで攻撃する。メスはダメージを受けて後退した。だが、耐久力だけはオスの倍はある。激しい攻撃を受けてもまだ必死になって抵抗した。 そこをさらにソラがフレアバーストで卵もろともメスを焼き払う。ようやくメスはダメージを受けて弱り始めた。動きが鈍くなって触覚も垂れてくる。 「わたくしめがメスのトドメをさしてやります! 同じメスですが――十四歳の美少女なら手加減してもGには手加減致しません!」 ウリエルが弱ったメスに罵倒を浴びせた。最後の力を振り絞って襲ってくるメスのGにオーララッシュを叩きこみ、ついに大物を仕留めることに成功する。 ●ファーストキスは何の味 ウリエルはメスを倒すと、すかさずゴミ屋敷の周りにビールを撒いた。まだ生き残っているオスのGが何匹もいる。彼らの生態を考え見れば、少しはこの作戦が役に経つかもしれない。 「孵りそうな卵も粉々になってますね。うわあ……粘液とか出てますよこれ……私心折れそう……」 ウリエルは先ほど自分が潰した卵を偶然見つけて気分が悪くなってしまった。 「もう苦しいですー。ダメらのれす」 シィンがへとへとになってついにゴミの山に崩れ落ちる。アーリィが駆けよってシィンを安全なところに連れて行って回復を施す。そのすきに陽菜がスターライトシュートで辺りにいるGに向かって一斉に攻撃した。 逃げ惑う一匹のオスは庭にむかって一目散に駆けて行く。ハイバランサーと五感を駆使した天乃が後ろから追いかける。 ついにGは逃げ場を失った。先にはウリエルが撒いたビールの匂いが漂っている。どうやらそれより先には進めないようだった。しかたなくGは庭の池の中にダイブを試みる。水上をまるで走るようにGは泳いでいく。 その瞬間、オスは身体を発光させた。 Gは液体を飛ばしてきた。天乃は避けきれず攻撃を受けた。身体に腐った異臭が漂う。それでも、天乃も負けてはいなかった。慌てず五感を生かして目をつぶって意識を集中させる。 「……爆ぜろ」 短く冷たい言葉を言い放った天乃は身を構えた。こちらに向かって這いあがってくる気配を感じた。その隙を天乃は狙った。 その瞬間、オーラで作った死の爆弾を炸裂させる。液体が飛び散って天乃にも容赦なく振りかかったが眉ひとつ動かさない。Gは木っ端微塵になって死んだ。 琥珀も他の一匹のオスと死闘をくり広げていた。ありとあらゆる攻撃を駆使した。 だが、Gはなかなか死なない。恐ろしい生物だった。 Gも最後の手段に出る。とつぜん身体を発光させた。 黒光りするG。だが、琥珀もサングラスを着用していた。 「これが終わったら風呂に入る! みんなそれまで頑張れっ!」 琥珀は仲間に呼びかけた。 発光した瞬間を狙ってカードの嵐を降らせる。Gは不意をつかれてそのままゴミ山に突っ伏す。起き上がると所を魔道書で叩きまくる。最後は物理的でわかりやすい攻撃にGはぐちゃぐちゃに潰れてしまった。 ソラもありとあらゆるスキルをつぎ込んでいた。なかなか死なないGは不死身のように思えた。だが戦っているうちになぜか、相手のことが気になりだしていた。 叩いても叩いても起き上がってくる。こんな手ごたえのある敵はこれまでいなかった。現実にもこんな逞しい男性がいればいいのに。年齢=彼氏いない歴28年のソラはゴキブリのオスに対していつしか親近感を覚えていた。だが、仕えるスキルはもうとっくに残っていなかった。あれだけ使ったのにも拘わらず。 「なわけ、ないでしょっ! やっぱり人間の男がいいに決まってるわ!」 最後に残ったGも突然、顔にむかって飛びかかってきた。だが、仕えるスキルはもう残っていない。ソラは最後の手段に出た。ガスマスクを勢いよく放り投げる。 ソラは顔に迫ってくるゴキブリに向かって唇を突き出した。 ぬめりとした感触。腐った液体が口の中に流れ込んでくる。 ゴキブリとチュー。 熱い抱擁を交わした。それは素敵な男性――いや、二メートルの巨大なゴキブリのオスと。これがソラにとっての28年越しのファーストキッス。 「うおえええええええっ!」とソラは吐いた。 吸血された最後のGは体液を抜かれてその場に崩れた。 ●恐怖のソフトクリーム Gを全て駆逐したリベリスタたちは、残ったゴミの山の処理に取りかかった。事前に天乃が本部に連絡して周囲に被害がでないようにしてもらう。ようやく確認が取れたところで残ったゴミの山に火を付けて処理した。 このまま放っておいたらいつまでも異臭が立ち込めたまま近所迷惑だ。それにまたいつエリューションが発生するかもわからない。 「いたたたた、あれ、Gさんはどこですか?」 ようやく目を覚ましたシィンが目をしばたかせる。強烈な異臭に倒れて回復を施して貰っているうちに戦闘が終わってしまっていた。 「それよりもさっきから気になっていたのですが――そのシィンさんが持参されているその袋はなんですか?」 アラストールがシィンの大事そうに持っている袋を指して言った。 「これですか? 実は攻撃の手段がなくなった時に、Gさんを惹きつけるために持ってきておいたお菓子ですよ。ソフトクリームもあります。あっ、よかったら皆で食べましょうか」 「やったー。わたしソフトクリーム大好き! 食べる食べるっ!」 陽菜は嬉しそうにはしゃいだ。陽菜にとってソフトは大好物。年から年中ソフトをこよなく愛している。シィンから袋を貰って早速ソフトを取りだした。 「……うに?」 だが、陽菜はまだ知らなかった。 「うに、うにににに」 ソフトには大量のGがくっ付いていた。真黒い恐怖のソフトクリーム。ふつうのGたちが、おそらくいつの間にか入り込んでしまっていたのだろう。Gのチョコレートフレーク付きのソフトはすでに異臭が漂っている。 「うぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――」 陽菜は一目散に寺を出て行ってしまった。 残されたリベリスタ達も茫然とする。「……お風呂入りたい」と天乃だけが冷静にぽつりと呟いた。「そうだね……」とアーリィも平静を取り繕う。 琥珀が火の始末をしてそろそろ帰る準備を始める。だが、だれもソラにだけは声をかけることができなかった。あまりに負のオーラーを放っていて近づけない。 「蜘蛛は海老っぽい味がするそうだが……」 アラストールはぜひ聞きいてみたかったが、もちろん口にはしない。 ソラは一人黙々と後片づけをしていた。 非常手段とはいえ仕方なかった。そらせんはよくやった、だから泣かないで。そんな優しい言葉をかけてくれる素敵な彼氏はもちろんいない。 巨大ゴキブリとキスをした28歳独身彼氏なしを、いったいだれが貰ってくれるのだろうか――ソラはそんな想いに浸って心で泣いた。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|