●業深淵にて至り 「『一般兵器を模したアーティファクト』、なんてのは割と多い……というか一般的ではありますが、それが大掛かりなものだったりすると余り好まれない傾向にありますね。まあ、当然なのですが」 「で、その『好まれないアーティファクト』の回収が今回の任務、ということか?」 前置きにそんなことを述べれば、『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)の意図は語らずとも分かるというものである。 だが、さて。そんな至極当然の依頼内容を持ち込んだなら、何らかの情報、回収先等があるのではないだろうか? 「……強奪されました」 「相手はどこだ? 七派か?」 「分かりません。七派に拘らないフィクサード、組織だって居るところを見ると中堅以上と見受けます。それに、強奪といっても強奪『された側』は未来視に置ける状況下では、それに気づいていないというのが厄介でして」 「……意味がわからない。少し噛み砕いてくれ」 「ええ。現在、該当アーティファクト、砲弾型『コールアウト』はとあるフィクサード組織によって取得、移送中でした。彼らはそれを威力強要か何かに使うつもりだったのでしょう。ですが、電子戦防護など一切考えられていない輸送車のナビに電子の妖精を仲介したと思われる欺瞞が発生。現在、該当地区の中心市街地へ移送中とのことです」 「ルートミスぐらい分からないもんなのか……?」 「まあ、運び屋もどうやら雇われのフィクサードらしいですから。神秘に片足突っ込んだ程度では、電子の妖精の存在を知らなくても仕様がない。移送場所をナビのみで把握していただけに、状況が理解できていないでしょう」 「間抜けな話を……で? 強奪した側の目的は?」 「中心市街地での爆破、です」 軽く頭をかきながら答えた夜倉に、驚いたのはリベリスタ達だ。割と冗談になっていないというのだ、それは。 「『コールアウト』の効果が効果です。殺傷能力は低いですが、どうやら神秘的侵食を強く施す……言ってしまえば革醒の促進やバグホール出現の確率を上げる可能性が極めて高い、そんな危険存在のようです。出来れば早期に回収したいところで」 「何でそんなもんがあるんだよ」 「そんなもん製作者に聞いてくださいよ……兎も角。エネミーデータは配りますんで目を通してください。仔細不明で申し訳ありませんが、通称だけは判明してます」 「通称? 本名じゃなくて?」 「ええ。通称『武曲』。有効戦力アーティファクト所持数はふたつ、仔細不明。配下をいくらか従えて居るとのことです。警戒はしすぎて足りないことはないでしょう。今から行けば市街地への幹線道路前でアーク車両による封鎖という形で交戦態勢を取れます。『武曲』達は付かず離れずの距離を車両により伴走中。『コールアウト』輸送車両の頭を抑えれば、第一目標はクリア出来ます。 最大を以て最善を。頭を抑えて、逃しましたは通じませんから」 ●武を以て識を為す 「周囲の交通状況が意図的に過疎化されつつありますねェ。ダンナ、もしかしたらちょっと厄介なんじゃないです?」 前方のトラックを視野に入れつつ、運転に回っていた男がナビを操作する。おそらくは電子の妖精の使い手はこの男……なのだろう。背後に居る首魁と思われる相手に振り向かずに問いかけた。 「まあ、その時はその時だ。ドライバーが投降する前に私達が動けばいい。相違無いな?」 「いいッスけどね。無理はしないで欲しいしさせないで貰いたいッスよ」 「死ぬまで戦えって話じゃない。まあ、私も『手伝う』から心配はするな」 「……それが心配のタネなんスけどね」 やれやれといった風情で語る配下が何を考えていたかは……まあ、考えることもない。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月05日(日)22:45 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 打撃系散弾銃「SUICIDAL/echo」。散弾銃として如何にも規格外、且つ想定外の質量を持ち、既にそれを射撃武器にカテゴライズするのも疑問でしかない存在である。 そんなものが吐き出した弾丸で目を狙われようものなら確実に動きを鈍らせただろうし、そも、所有者である『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)の射撃精度からすれば当たるも当然であったことだろう。 だが、彼に正面から向かってきたナイトクリークと思しき青年は、彼より遥か劣るであろう練度の動きで、彼を容易く凌駕する回避をやってのけた。 散弾を、真正面から、数発掠るにとどめたのみ。 「チッ……!」 「遅いぜダンナ。それじゃあ踊ってやるにはちょっと浅――」 「動く、な」 「ってェ、あぶねえなぁ嬢ちゃんも! 筋はいいんだがいまいち楽しめねえなあ、ッハハ、いや違うか! 『楽しませて貰わねえと』!」 「……腑に、落ちない」 男の背後から、絶妙のタイミングで気糸を展開した『無軌道の戦鬼(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)ですらもその糸が僅かな血を食むのみ。理解が、追いつかない。 先程まで、歯牙にもかけなかった相手だった。後手に回し、武曲へ向かう直前に気付いたのは僥倖と言えるだろう。……まだ、そんな『楽しい相手』を狩り逃していたというのなら、だが。 喜平の視線の先には、悠然と立つ武曲が在る。ただ冷徹に見定める、目。 (ごく自然な動きすぎる……逆に不自然なくらいだ) 彼がそう思う程には、その男は冷静に構えている。何かを隠しているが何かが分からない、もどかしさ。 「邪魔ァさせねぇぜェ!」 「一瞬たじろぐフリしてそのクチ利くかよ、あァ!?」 一抱えもある砲弾、『コールアウト』を抱え退こうとする『燻る灰』御津代 鉅(ID:BNE001657)を見逃さぬフィクサードではない。バレルカットを施されたであろう銃を真っ直ぐに構え、長距離射撃を敢行するその手合いに一足早く踏み込み、真っ直ぐに拳で撃ちぬいたのは誰あろう『ヤクザの用心棒』藤倉 隆明(BNE003933)であった。彼とて、一線級のアークのリベリスタだ。木偶ではない。誰が何を行い何に注力すべきかなど、誰から聞くとも無く自らの直感で定めることができるのは当然のことだ。 武曲は、しかしそれでも『動かない』。行動的にでは勿論、無い。その場から、一切の動きを廃してただ立つのみの存在感の権化だ。 それでも、未だリベリスタ達に肉薄を許さないのはその底のない性能――一瞬ごとに威圧感を増しているようにすらとれる、それだ。 機を待っているようにもとれるその姿に、少なからず寒気を覚えるリベリスタが果たして何名居たことだろう。 「次だ」 指先を繰るその動きに、ぞっとするような真実性を湛えて武曲が口を開く。 戦場は混沌の澱。倒れた影もうごめく闇も、彼らにとっては只の、過程。 ● 「っ……! ンだテメぇ――」 「あなたの手に負えるような状況ではないの。命が惜しいのなら、今すぐお逃げなさい」 トラックの前に潜り込ませた車両からリベリスタが現れ、あまつさえ自らへ肉薄したことは、一介のフィクサードにとっては恐怖である。護衛もなく、ただ運び屋として雇われただけの神秘に程遠い神秘の徒。 『blanche』浅雛・淑子(BNE004204)はそれを哀れとも思わなかった。ただ、自分たちをこそ優雅と思えなかっただけの話である。 下らない行いに堕している? 間違いではないだろう。こんな戦いは良くはない? 決して正統派ではないだろう。だが、それでも戦いに貴賎はない。意味のない戦いで、彼女は両親に祈りはすまい。 「この状況を自力でどうこうできる自信が無いなら、大人しくしていろ」 鉅の言葉に喉を詰まらせた彼は、即ち自分がどれ程に手落ちかを理解しているということの証明でもある。ある意味賢いが、神秘の入り口にすら立てていないことの証左でもある。 電子の妖精も知らずに革醒者として神秘に身を置く時点でどうか、というのは『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)の言葉だが……既に彼女は、眼前に向けて閃光弾を放った後だ。 「突出するな、適度に散って機を図れ! 分かっているだろう――役者不足なら『役割』を弁えろ!」 「その役割にすら見合わなかったらどうしようもない。矛盾してない?」 後方から放たれた声、『武曲』のそれに、応じるでもなく綺沙羅は呟く。言葉の選定が下手なのだろう。そういうことにしておく。 「『コールアウト』は何とか持ち運べそうですね、このまま」 「させるか馬鹿野郎」 『コールアウト』のサイズを見極め、先んじて動こうとした『スウィートデス』鳳 黎子(BNE003921)の髪の毛を数本切り飛ばし、銃弾が後方に抜ける。 ……だが、取りも直さず、それは『外した』と見て間違いない事象だ。腰を据えて構えた銃がそれでは、相手の精度などしれたものである。 「……野郎」 拳を握り、一直線に相手方の前衛へと殴りかかる隆明の動きは正しく、素早く、適切だ。 相手とのコミュニケーションなど後でいい。今はただ、面倒な相手を殴りつけるだけで構わない。 だが、々『殴るだけ』を是としていても、相手の意思の何たるかを引き出さねば戦い用がない、と考える人間が居るのもまた事実である。 「その意匠、見た事があるわ。大方、貴方と貪狼を含めて後五人居るんでしょ?」 「手前ェ、何指差してやがんだ生意気な――」 「いや、構わん。……そうか、貪狼が、ね。なら、そうだな。君たちは雲霞の如くに居るに違いない。でなければ、こんなところまで足を向けまいよ」 『炎髪灼眼』片霧 焔(BNE004174)の言葉は、然し武曲に動揺を、或いは苛立ちを与えることはなかった。 余りに的確に、しかも早急に自分たちの頭を抑えた手はずが、そこらのリベリスタであろうはずもない。そう考えれば、驚くに値しない事実ではあったのだ。 故に彼は無駄な言葉をかわさないし、多くを口にする気もない。わかりきった問を、返すまでもないだろうと。 「何をするにしても君等には過ぎた玩具だね。だから没収」 銃口を武曲たちに向け、喜平は見下すでもなく口にした。 その言葉とほぼ同時に銃弾が吐出されたのは、それだけ彼が溜めていた状態だったということだろうか。 当然、何もせず棒立ちで居る相手方でもない。それに先んじて動き出したリベリスタを抑えこもうと、或いは武曲の周囲に布陣し、或いは前進しようとするが……ここで、綺沙羅のはなっていた閃光弾の副次効果が威力を発揮する。 踏み出そうとした足が動かないことに驚愕を叫ぶ間も与えられず、天乃の作り上げた爆弾がその身に張り付き、炸裂。それだけで堕ちることはなかろうが、打撃が大きかったことに変わりはない。 「チィッ……」 「あなた達はどこの誰なんです?」 開かれた戦端は既にどうしようもなく広がって、加えて戦いは予断を許さない。一瞬の逡巡を見せた剣士の懐に踏み込んだ黎子は、その隙に踏み込むように問いを重ねた。 当然、帰ってくるのは無言で振り抜かれる一撃。『運が悪ければ』彼女とて無事では済むまい。だが、彼女の運はそこまで神に見放されているわけでもないようで。 「それじゃあ倒させてもらいますねえ。遺言あったらどうぞ」 冷静に返す言葉と共に、速度の乗ったそれを双子の月が絡めとるように後方へと流す。 それと合わせるように放られたダイスは、瞬く間にその数を増やし、連鎖爆発の渦に相手を巻き込んだ。……相手の運が最悪なら、一撃でそれこそ、重篤なものとなろう。 「……ご自身の所属すら存じ上げませんのね……可笑しな話ですわ」 間合いの外、両者のやり取りを注視していた淑子は、そんな驚くべき事実に直面していた。正確に言えば、固有名称を表立って口にしない、という表現が正しいのかもしれないが……どちらにせよ、存在感が希薄な組織、と言うのが彼女なりの印象だろうか。 そんなところに与する彼らの気がしれないのは、当然だが。 「吹っ飛べクズがァ!」 「ナマこいてんじゃねえぞ若造ォ!」 隆明の拳がやや後方に陣取っていた……恐らくは神聖術師と思しき男に突き刺さる。だが、その拳に返ってきたのは硬い感触。狙われることを想定して道を歩んだのか、或いは――何らかの強化か。 それにしたって、彼の拳に一切の躊躇をせず魔力の矢を練りあげて返礼に叩きこむ容赦の無さは、流石フィクサードと言うべきか。 「無理に死にに行くんじゃねえ! 堅実に……」 「倒されてくれるのかしら?」 指先に光を添え、周囲の状態の修正を行おうとした手合いの脇腹を、焔の放った火線が徹る。掠るのみにとどめたのは単なる偶然に近い。その幸運を享受する暇など、彼にはない。 「成る程、多少は渡り合えると踏んでいたが。予想以上にこちらの旗色が悪いのかな。逃げ帰ってきながら、貪狼が満足していたのはそういうこと、か」 「後ろで講釈垂れてないであんたも戦えば? 最初から全部吐く気なら止めないけど」 武曲の前に陣取っていた相手に鴉の符を放ちながら、綺沙羅が挑発する。怒りに身を任せるでもなく、ただ目的を持った視線を交わした武曲と部下は、それを契機に動き出す。 楽器を弾くような繊細さで持ち上げられた指が、数名を順次指しては降ろされを繰り返す。 「言ってくれるものだ、お嬢さん。私は既に『戦っている』のに」 「…………思った以上に面倒」 「褒め言葉だ」 綺沙羅とてすべてを理解したわけではないが、この男について理解したことは二つほど存在する。 ひとつは、戦闘が長引けば確実にこちらが不利になるということ。もうひとつは、付与であり付与ではない、ある種異質な能力であった、という事実。 「『次は』外さない」 「……!」 先程よりも簡素に、しかも軽い勢いで銃を構えた男の気配が変わったことに気付いたのは、照準されたアーティファクトに程近い鉅だった。言葉通り……外す気がしない。 さりとて、状況分析に注力していた綺沙羅では、影人を出すにはワンテンポ遅く、とても間に合わせられる気はしない。ヘタをすれば彼ごと『コールアウト』を破断させかねない状況。 その射線に飛び込んだのは、ほかならぬ淑子であった。 反撃とばかりに戦斧を振り上げ、刃を叩きつける彼女には一切の痛痒がない。実力として大差のない相手からの射撃が軽かろうはずもないが、そんなものは目的達成を阻まれた結果に比べられば些細なものだ。 「ここは抑えますから、退いてくださいませ!」 「……助かる」 短く応じた鉅は、抱えるに苦慮するそれを何とか持ち上げつつ撤退を開始する。 後方からの戦闘音は確かに耳障りだ。戦いに参加できないことも心苦しくはあろう。 だが、戦いのみにその身を置き、結果として競り負けて全て失うくらいなら背を向けることとて厭わない。自らが劣ることを知っている。周囲がそうではないと言おうと、自分がそうと見定めた以上は、そういうことなのだろう。 蛇がのたうつように、二度三度と回復の波濤がほとばしる。隆明の全力の連撃に拮抗せんと、神聖術師が死力を尽くして振り絞った暇だ。 彼が崩れ落ちるのを見送らず、隆明は拳を握る。 「貴方達、こんな事をして何を得ようとしたわけ?」 「つまんねえ……コト、聞くんじゃねえよ! あの爆弾をドカンとやりゃあ、そりゃあ楽しい事になるんだろう? 武曲のダンナも、それが最優先だっつってたしなぁ……!」 焔の言葉に、意気も絶え絶えに男は返す。楽しいから、そうする。面白くなるから。何たる享楽主義の権化か。それが額面通りに受け取っていいものか、彼女にはわかりかねた。だが、わからないことをぐだぐだと考えるわけでもないことは確か。 横槍が入ることを想定した上でこんなことをしているなら、とんでもない話だ……とは、思うが。 「さあ、待たせた、けど……踊って、くれる?」 「待ってなんか居ないさ。『楽しませてもらっていた』からね」 天乃の肉薄に、しかし武曲は焦りや戸惑いを感じさせない。遠巻きに見ていればその危機感は解らないでもなかろうが、それでも対等に戦えると確信している。 僅かにその手を握りこんだ彼の気配が、色濃い殺意と戦意に染まる。――同時に、喜平の、焔の、黎子の、そして隆明の相手取ったフィクサードの動きが常識外の一側面をあっさりと潜め、敗北への道を進み行く。 それと同時に、天乃へと突きこまれた手刀が彼女の腕を絡めとり、返す掌打が彼女の顎を撃ちぬいた。近接戦闘術、ボールドコンバットと称されるそれにしては威力が高すぎる。 弾くように距離を取ろうとした彼女に軽いスナップで放り込まれた閃光弾は、辛くも直撃を避けた彼女ですら背筋を駆け上がる何かを感じさせた。 放たれた気糸を右腕一本ですべて受け止め、その反動で間合いを詰めようとした彼女から、しかし今度はバックステップで距離をとる。 「七星を名乗るあなた達は、何者」 「『七星』? いや、そこまで昔臭い名前を名乗る気はない。私――否、私達は業深き星だ。貪狼だってそうだろう、戦うことに意味を持つアレは、ある意味業の体現だ」 「……楽しんで、くれてる?」 「ああ、とても。だがまあ、そろそろ限界かな。キミのお仲間はよくやった。こうもあっさり持ち逃げされるとは思っていなかったな」 「流石にそれは冗談じゃないんです? 最初から負けることを考えてたなんて、ありませんよね?」 「アークに喧嘩売ったんだから名乗りくらいあげていけば?」 あっさりと敗北を認め、敗走を企てる彼の手には既に次の閃光弾がある。 黎子、そして綺沙羅の挑発は確かな事実であり、同時にカマをかける意味もある。 「貪狼のことも、僕のことも知っていたんだ。今更名乗りを上げる必要があるかい? つまりはそういうことさ。何れ、また会うこともあるだろうし……まあ、私は『武曲』。『杓』の武曲だ。覚えておいて損はない」 再びの閃光。 白々とした視界の中に、既にその影はなかった。 それが彼なりの礼儀だというのなら、それは酷く歪で、そして不躾な礼儀だ。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|