●ナイフの惨劇 灼熱が胸を貫く。何度も何度も。 わたしを指すあの男の顔は、とても楽しそうだった。やめて、やめて。叫ぶわたしを押さえつけ、何度もナイフを突き刺してくる。 体が動かない。目の端に同じようにあの男に刺されたお母さんが転がっている。ごめんね、わたしを守るために囮になってくれたのに。ごめんね、ごめんね。 私は何度も謝る。男のナイフは何度も突きたてられる。 ああ、どうして。何度もナイフを突き立てられているのに。 どうして私は死なないのだろうか? 何故死なない? まさか、コイツ、革醒したのか……! これも『ナイフ』の効果か。話と違うぞ。くそ、早く倒れろ。意識を失え。畜生、俺は人間だ。バケモノじゃないんだ。しね、しね、しんじまえ! 強い力に弾き飛ばされた。娘の腕だ。バケモノの力を得たか。まずい、逃げないと! ●恐山と四谷和夫 胸に開いた穴。男を吹き飛ばした瞳の力。明らかに人じゃなくなった私の元に、一人の女性がやってくる。 「探したわよ。あなたの家族を殺し、あなたを刺したあの男――四谷和夫を殺したい?」 「あなたは、誰?」 「あの男に死んでほしい女よ。私のことはそうね……『善意の盾』とでも呼んで頂戴」 行く先々で道が封鎖されていたり、道路が混んでいたり。明らかにどこかに誘導されている。 だが足を止めて別の道を探す余裕はない。後ろからあの女が迫ってきているのだ。 走って逃げる中、真正面に立つ一人の女がいた。両肩に人形の腕のようなアーティファクトをつけた女。それを見たとき、全ての疑問が氷解した。恐山の『善意の盾』―― 「久しぶりね、四谷。三日ぶりかしら?」 「あ……な……七瀬! ……さん」 「そのナイフ、返してもらうわ。価値はともかく、世に出ていいものじゃないのよ」 「か、返せば俺を助けてくれるか!?」 「バっカじゃないの! お姉さまを裏切って許してもらおうなんて!」 「裏切り者には死を。情報を抱いて死んで行け」 「因果応報だな。自分が殺したものに殺されるとは」 「……悪いけど許すつもりも逃がすつもりもないわ」 四谷と呼ばれた男は、気がつけばフィクサード四人に退路を防がれていた。背後から迫るノーフェイスの足音が聞こえてくる。 手にしているナイフは恐山から盗んだものだ。その効果を使えば一大勢力が築ける……そのはずだった。だが今手にしたナイフは小さく、身を守る盾にもならない。 ノーフェイスの瞳が、四谷を捕らえた。 ●リベリスタが守る正義 「やることはシンプルだ。ノーフェイスの打破アンド一般人の保護。アンダスタン?」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は集まったリベリスタ達に向かって、そんなセリフをはいた。 「……待て、一般人ってなんだ?」 「ミスター四谷のことだ。この男、恐山の下部組織に属してる一般人だ。神秘のことも知っている。 事の起こりはこの男が恐山からアーティファクトのナイフを盗んだことから始まる」 モニターに写された四谷の持つナイフに赤丸が入る。奇妙に歪曲した実用性の乏しい形だ。戦闘に使える物ではないだろう。 「このナイフを盗み、四谷は人を殺した。家族四人皆殺しだ。彼の罪に関しては警察の範疇だが、刺された一人がショックで革醒した。これはアークの範疇だ。 そしてナイフの回収の為に恐山のフィクサードがやってきた。ノーフェイスが四谷を殺すのを見ているつもりらしい」 「直接手を出さないのか?」 「戦闘に不慣れなノーフェイスの為に支援はしているが、直接手を下すつもりはないらしい。理由は不明だがな。 ともあれアークとしてはノーフェイスが一般人をキルするのは見過ごせない。たとえミスターが殺人犯で、少女のリベンジが当然の報いだとしても、だ」 伸暁の説明に納得できない顔をするリベリスタ。だが、法を蔑ろにしてしまえば法治国家は成り立たない。何よりもノーフェイスが復讐を果たしたところで、彼女を討伐しなければならない事実は変わらないのだ。 「ノーフェイスを討とうとすると、恐山のフィクサードが介入してくる。面倒だが、そっちも何とかしてくれ」 了解、と頷き……一人のリベリスタが口を開く。 「そこまでして恐山が回収しようとするこのナイフってなんなんだ?」 「ひどい話だぜ。出来損ないのフォークロアでももう少しマシなオチをつける。資料を見てみな」 「……なるほど」 ●予知ではなく予感。あるいは最悪の予想 「お姉さま、私たち四谷に攻撃しちゃ駄目なんですか?」 「駄目。あの男は『家族を殺そうとした相手に反撃を受けて』死亡してもらわないといけないの。私たちが手を出すと傷が残って偽装工作が大変だから」 「ぶー。でももうおしまいですよ。もうすぐ当たるんじゃないですか?」 「そうね……でも、そろそろ来るんじゃないかしら?」 恐山のフィクサード『善意の盾』七瀬亜美はこっそりとため息をついた。 あの正義の味方が、やってくるかもしれない。そうなれば酷く面倒なことになりそうだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月28日(日)22:01 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「ナンッツーカアホクセェナー」 『瞬神光狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)の言葉は彼女だけではなく他のリベリスタの気持ちも代弁していた。神秘の力を掠め取ろうとした男。 「わたくしは『正義』を貫くだけです」 白銀の騎士槍を手に『銀騎士』ノエル・ファイニング(BNE003301)は歩を進める。その歩みに迷いはない。白銀の槍のように芯の通った『正義』を持つノエルにとって、この程度の事で迷いはしない。 「久しいな、七瀬御婦人」 『生還者』酒呑 ”L” 雷慈慟(BNE002371)は恐山のフィクサードに向かって一礼する。あの時は『味方ではない』程度の関係だったが、今回は明確に敵対することになる。 「あと少し遅れてやってきてくれれば笑顔でお迎えできたのに」 「そういうわけには、いかない」 七瀬の言葉に応じたのは雷慈慟と同じく彼女達と面識のある『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)だ。涼子の瞳は恐山のフィクサードよりも襲われている四谷のほうに向けられていた。複雑な感情が涼子の胸をこみ上げる。 「そのナイフは偽物だってさ、残念だね。死にたくないなら大人しく護られてろよ!」 『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)は四谷に向かって警告するように叫ぶ。正直、人を殺した彼を守るのはいい気分ではない。そしてそれを任務だからと割り切っている自分が、さらに気分を欝にさせる。 「た、助けてくれるのか!?」 「どうあれ、一般人は保護対象ですから」 『デ ファクト フィクサード』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)の声に、四谷の顔は希望に満ち溢れてきた。あばた本人は四谷を助けること自体に大きな価値を見出していない。完全に仕事と割り切っていた。 「……水野明日香さん」 倒すべきノーフェイスの名前を『大雪崩霧姫』鈴宮・慧架(BNE000666)は呟く。短く呟いた言葉の中に、同情を含めたさまざまな感情を乗せて。しかし、倒さなければならない。世界のために、彼女自身の為に。 「生兵法は怪我の元だな」 偽の神秘を振るう四谷に目を向けながら『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)が静かに告げる。ナイフとグローブで防御の構えをとりながら恐山のフィクサードに目を向けた。 「お嬢」 「作戦続行。最優先事項は変わらないわ」 「……ム」 「ぶー。お姉さまの側で立ってるだけで終わりたかったのにー」 フィクサードもアークの動きに合わせてその矛先を変える。ノーフェイスの水野は、突如沸いて出たアークの人たちに驚くも視線を四谷からそらすことはない。 神秘の介在しないナイフを軸に、善意と正義を理由に革醒者たちは刃を抜いた。 ● 「ソンジャ、行クカ」 真っ先に動いたのはリュミエールだった。身を掲げて疾駆し、ノーフェイスに狙われている四谷の元にやってくる。ノーフェイスの拳から庇いながら、四谷の持っているナイフを取り上げた。 「お、俺のナイフ!」 「コレは没収だ。ツカ帰すヨお前等」 リュミエールは四谷から取り上げたナイフを無造作に投げ捨てる。恐山のフィクサードたちはそれを目で追い、しかし拾いに行こうとはしない。それよりは四谷を守ろうとするリベリスタの動きが気に入らないらしい。 「ご機嫌麗しゅー! 正義の味方でーす。亜実ちゃん初めまして、今回のデートのエスコート役の登場だよ。おまたせしてごめんね!」 夏栖斗はフィクサードの気を引くように軽く挨拶し、拳を垂らすように構える。二本のトンファーを構える様。隙のない構え。それが危険と判断させたのか、石垣とノーフェイスがそちらに意識を向ける。 「始めまして。挨拶は簡易でいいかしら」 「あいさつは、いらない」 言葉と共に涼子が前に出る。中折れ式の単発銃を手にして、神尾に銃を振り上げた。銃座と爪が交錯する。硬いものと鋭いものが激しい金属音を上げた。一瞬の隙を突いて神尾の胸部に銃座を叩きつける涼子。その視線がちらり、とノーフェイスの方を向いた。 (わたしと明日香を分けたのは、ただの運だ) 革醒により運命を引き寄せたものと、そうでないもの。たったそれだけの、運。涼子はそれを忘れないよう、しっかり胸に刻む。 (貴女がこの人を恨む気持ちも行動も私は否定致しません) 慧架はノーフェイスを見ながら心を穏やかにしていく。水面に移る木の葉をイメージする。広がる波紋は心臓の鼓動。自分自身を制御し、自分の周りを制御し、世界を制御する。イメージは深く、そして鋭く。 投げる。慧架がそう思った瞬間にはノーフェイスはバランスを崩し、膝を突いていた。間合を支配し、相手を投げる。呼吸を一つし、慧架は自分を律した。 「善意で恩を課せ強力な私兵を手に入れる、と言った寸法か」 雷慈慟は掌にある黒の書を開く。生まれる魔力が雷慈慟の指先に集い、糸を生む。それを七瀬に向かって撃ち放った。 「攻撃したくはないが……」 雷慈慟の言葉に嘘はない。だが支援を行う七瀬を封じるのが一番の手なのだ。 「危ないお姉さま!」 そしてそれを予測していたのか、波佐見が七瀬に向かう攻撃を庇う。 「なるほど。手厳しい」 七瀬の支援は戦術のキモである。それを守るのは当然の選択だ。 「たいしたコンビネーションですねぇ。そこまでしてノーフェイスに殺させたいんでしょうか」 あばたが理解不可能とばかりに頭を振り、ノーフェイスを拘束するために糸を放つ。慧架の投げでバランスを崩されたノーフェイスに避けることができるはずもなく、糸はあっさりノーフェイスを拘束する。 「家族の仇を討ちたいって言う思いを遂げさせたくないかしら?」 「クライアントの意向ですから」 七瀬の言葉にあばたはあっさり答えて会話を終わらせる。あばたからすればノーフェイスの打破以外に興味はない。 「退いてもらいましょう」 ノエルもまた、任務に私情を挟まない。崩界排除の為にノーフェイスを討つ。その為には庇っている神尾を吹き飛ばす。まっすぐに突き出された槍はフィクサードの胸に命中し、 「受け流したか」 「惜しいな。紙一重だぜ」 わずかに打点をずらしたのだろう。神尾は痛みに耐えながら、ノエルに笑みを返す。だが神尾の言うように技量の差は僅差。ノエルは二度目の突きを放つべく、槍を構えなおした。 「問題ない。まだ巻き返せる範疇だ」 ウラミジールがリュミエールの庇っている四谷のほうに移動する。手にしたハンドグローブが石垣の手甲と交差する。同じクロスイージスだが二人のタイプは大きく異なる。石垣が武器の扱いに特化したタイプなら、ウラミジールはあらゆる状況に相応できる守り手。 交差した腕を押しながら、手首を回転させるように石垣の押しをそらす。そのままウラミジールの腕では滑り込むように石垣の脇を極めようと動く。それを跳ね上げるように交わす石垣。その隙こそウラミジールが狙っていた時。わずか一瞬の隙を突いて、石垣と四谷の間に割り込んで、四谷を背中で押すようにして移動を促す。 「確かに私たちはバケモノかもしれぬが、それならその道具に頼っている君もそうなるということかね?」 「あれは人間がバケモノに対抗するための武器だ! バケモノが人間らしい台詞をはくな!」 四谷の暴言は、彼の性格もあるのだろう。 だが、革醒者たちに反論の言葉はなかった。神秘を知った一般人の反応はさまざまだが、恐怖と嫌悪を向けられることは珍しくない。 「ねぇ、こんな男を守る価値があるのかしら?」 七瀬はリベリスタに問いかける。 殺人者を守り、被害者を討たなければならない。そんなアークの正義のあり方を。 ● リベリスタにとって意外だったことは、七瀬の動きが思ったよりも速かったことである。 「支援役が速いに越したことはないでしょう?」 攻勢&防衛陣、回復、不調の撤廃。思念を飛ばしての連携。リベリスタが与えたダメージを素早く撤廃し、仲間の動きを助ける。 「あははは。ちょん切るよ!」 そしてそれを補佐していたのが波佐見である。彼女は七瀬を庇いながら、時折リベリスタで速度の速い相手に鋏を突き刺し、リベリスタの速度を削いでいた。 「オメー、アノ女ヨリモ速イ奴ヲ止メル役割カ」 速度に特化したリュミエールは波佐見の妨害を受けることはない。彼女を押さえながら二本の短刀を手に波佐見と切り結ぶ。ナイフの軌跡に沿って光の帯が走った。波佐見の鋏を凌駕する刃の乱舞。 「そうよ。私の全てはお姉さまのため」 彼女を速度特化と思っていたリュミエールのあては外れたが、それでも油断ならない革醒者だ。気を抜けば鋏が回転しながら首筋に迫っている。 「恐山と箱舟が友好を結ぶなら、と以前仰っていたが我々がその切欠になる想定もある。組織間で子を設け、結果友好を結ぶ事例は別段珍しい事実でもないだろう」 波佐見のガードが逸れたのを見て、雷慈慟が七瀬に語りかける。神秘の攻撃を重ねた一言は、七瀬の気を引いた。 「つまり、自分の子を宿してくれ」 「素敵な口説き文句ね」 七瀬の唇が笑みに変わり、足が動く。その視線の先にいるのは――夏栖斗の方。 「組織の友好が目的なら重要人物同士の婚姻の方がいいんじゃないかしら? アークの戦略司令官や彼のような有名リベリスタと。恐山からは……壱子お嬢様?」 「いらんわっ!」 「そうね。私も御老公から首をはねられそうだわ」 雷慈慟は叫ぶ夏栖斗を無視してむぅ、と唸る。話題をそらされたが、明確な拒絶はなかった。それが七瀬の手管なのかもしれないが。 「でも、どうなの? アークの正義では四谷を守らないといけない。あなたはそれに耐えられるの?」 「……僕は」 夏栖斗は思わず唇をかむ。乱戦の中、タイミングを見計らってノーフェイスに向かい蹴りを放つ。その威力ゆえに味方を巻き込みそうになるときもあるが、そのときは威力を抑えて風を纏った足技を放った。 「割り切れないけど割り切るしかないんだ」 「そんな戦い方をしていたら、いつかは潰れるわよ」 「それでも」 夏栖斗は拳を握る。今まで奪ってきた命。滅ぼしてきた者たち。組織に準じることが正しいとは思えない。そもそも全てが助かる道なんてない。選択しなければ救えない状況だってある。 「それでも戦う。今まで奪ってきた命のために」 手は血に汚れても魂だけは汚さないように。安易な『逃げ道』に逃げないと夏栖斗は決意する。 「正義なんてよく分からない。みんなが自分の意味でしか使わない言葉だから」 涼子の言葉は、正鵠を得ていた。正しいと思う事のぶつかり合い。どちらも正しくどちらも間違っている。そんな戦いばかりだ。 「……和夫を許せるわけじゃない」 ノーフェイスを見る涼子の表情は、無表情だ。だがその中にさまざまな感情が渦巻いている。石垣を押さえながら、彼女も彼女の『正しいと思うこと』を行う。 「アンタはどうなんだ? 四谷を許せるのか?」 ノエルと交戦している神尾が問いかけた。少しずつ鋭くなる槍の攻撃に汗を流しながら。 「愚問です。結果としてそれが神秘の介在せぬただの殺人であるならば、私の関知するところではありません。法が彼を裁くでしょう」 揺れることのない銀の騎士は時として冷酷だ。だがその『正しさ』により救われる者もいる。 「これで!」 ノエルの銀槍が神尾を吹き飛ばす。ノーフェイスを守る壁がなくなり、リベリスタの攻撃がノーフェイスに集中する。 「いい加減、諦めてほしいんですけどね」 あばたは苛立ちを声に乗せながら、拘束の糸を放つ。放った糸はノーフェイスやそれを庇ったフィクサードに絡まるのだが、七瀬の神秘により解除されてしまうのだ。その七瀬が気をそらしている隙に搦めても、すぐに正気に戻って解除される。 「だいじょうぶ。七瀬に一手使わせることに意味はある」 あばたの苛立ちを涼子が押さえるように言う。そしてそれは事実だ。連続行動を行う七瀬だが、その手数が減ればその分フィクサードにかかる支援が薄くなる。それは全体的な戦力ダウンに繋がっていた。 「油断できる相手ではないぞ」 ウラミジールの叱咤がリベリスタたちの心に響く。神尾の殺気に気を削がれていた物や、波佐見の一閃で動きを封じられていたものがその声で我に返る。平静を取り戻した仲間の姿を見てウラミジールは声なく笑みを浮かべる。 「お、おい! 法って言ったよな。俺を突き出すつもりか!」 ウラミジールの背中で慌てふためく四谷。 「自分は正義の味方でもなければ慈善稼業家でもなく、ただ秩序を守るためにあるものだからな」 「ふざけるな!」 叫んで逃げようとする四谷をウラミジールはあっさり押さえ込む。素人相手に道具を使うまでもない。手馴れた捕縛術で、大地に押さえ込んだ。 「私があなたの立場なら、確かにあの男を許さないでしょう」 そんな四谷を見ながら慧架はノーフェイスに語りかける。理不尽に殺された相手への復讐。確かに四谷は救いようがない。殺したくなる気持ちは理解できる。 「ですがダメなんです。貴女はノーフェイスだから」 世界に認められなかった革醒者。いずれ世界を破壊するだろう因子。世界を救うためにその存在は認めてはいけない。 「さようなら。せめて苦しみまないうように葬ります」 その動きは霧のように静かに。 痛みすら感じさせぬほど鮮やかな慧架の投げ技。大地に叩きつけられるノーフェイスの音が、この戦いの終わりを告げた。 ● リベリスタの視線は恐山の方を向く。互いにダメージはあるが、倒れたものはいない。リベリスタもフィクサードも、互いの殲滅を目的として戦っていなかったのが大きな要因だ。 「ここはもう痛み分けってことにしない? ここから先は警察でいいじゃん」 夏栖斗がナイフを七瀬に返しながら言う。メンツを気にするのなら、ここで引き下がることはないだろう。 「傷はこっちのほうが痛いけど、まぁいいわ。戦う理由はもうないし」 だが七瀬はその言葉に同意するように戦意を解いた。それに合わせてフィクサードたちも構えを解く。 「恋愛模様は人其々と理解は示すが、女性の幸福はやはり子を成す事だと確信している。どうだろう波佐見嬢、貴女も 自分の子を宿してみては」 「お断りよ! いーだッ!」 「ところでユリとレズってドンくらいの違いアルンダー? クローン技術とかで同性同士で子供作れるようになれば、不要ダッテノリカ?」 「私のは精神的な愛なの。でも、お姉さまとの子供とか……ときめくわ!」 雷慈慟とリュミエールが波佐見と会話している中、四谷を警察に引き渡すべくリベリスタがアークと連絡を取っていた。 「いい? 何かあれば、この千里を見る眼で、どこまでだって追いかけられる」 「法で裁かれて、反省してほしいところです」 涼子や慧架を初め、リベリスタの四谷に対する態度は冷ややかだ。その圧力に負けたのか、四谷は項垂れている。 「終わりましたよー。帰りましょう」 あばたが撤収の号令をかける。ノーフェイスも倒し、アーク職員に事後処理を頼む連絡も終わった。恐山のフィクサードもこれ以上仕掛けてくる様子はない。あっちの気が変わらないうちに退却しよう。 「警察に渡す前に、色々聞かせてもらいましょうか。『善意の盾』のことを中心に」 「バケモノなんかに話すことは何もない。お前たち皆同じ穴の狢だ! 皆して俺をはめやがって!」 問いかけるノエルに憤る四谷。それに呆れる革醒者達。 (『皆して』……?) ウラミジールが四谷の言葉に引っかかるものを感じた。四谷の性格といってしまえばそれまでの暴言だが、恐山とアークを同一視するのはどういうことだ? そもそも四谷程度の人間が、偽者とはいえ恐山が管理しているアーティファクトを盗めたのは何故だ? 何よりも――偽者のアーティファクト回収に、何故あそこまでの実力者が? 「ふに落ちません、お嬢。何故偽ナイフ回収に俺達が借り出されたんです? アークが来る可能性を考慮しても、四谷相手にはオーバーでしたよ」 「そもそもあのナイフは『裏切り者を見つけるための餌』だったんですよね? ありもしないアーティファクトの噂を流して、それを盗ませて裏切り者をつり出す。そんな作戦なんでしょう? 処分も下部組織の仕事ですよ」 「そうね。あのナイフ自体に価値はないし、四谷に盗ませたのも確か。『人形を操るココロ(マリオネットハート)』はそんな幻想だったのよ」 「……だった?」 「実在したのよ。名前こそ違うけど似た効力を持つナイフが。四谷が殺した相手が起き上がったって言う報告を受けて、それを作った人は思ったんでしょうね。『もしかしたら、あのナイフが間違えて外に出たのか!?』って。 だから私たちが派兵されたのよ。下部組織だと対応しきれず秘密が漏れてしまうから」 「結局アークにバレれましたけどねー」 「つまり恐山(ウチ)の誰かがそんなナイフを持っていると?」 「『実は水野はノーフェイス化せず、死に物狂いの反撃で四谷が死んだ』ことにすればそいつの目を誤魔化すぐらいはできたけど……アークの介入でそれも無理みたいね。作った人間が誰かは分からないけど、焦って動き出すわ」 「お姉さまはそれが気に食わない?」 「そ。善意の通じない死体とやり取りするのは苦手なのよ」 「……む。つまり箱舟とは」 「もう少しお付き合いするかもね。連中は善意の通じる相手だから。 精々盾になってもらうわ」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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