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ガラス硝子

●空気みたいにとおめいで
 キラキラとっても綺麗だけど、宝石でも水晶でもない。
 落としたら、簡単に割れてしまうの。粉々に。
 でも。とっても奇麗でしょう?

●美しいと言ったなら
「硝子。皆々様が見かけない日はないかと思います」
 窓、食器、アクセサリー、エトセトラ。エトセトラ。事務椅子をくるんと回し振り返った『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)の機械の手上には、小さな硝子細工が鎮座していた。
「そういう訳で、硝子のエリューションの出現を察知致しましたぞ! フェーズ2のEゴーレムで、元はこの子の様に小さな硝子細工だったのでございます」
 指先でつつくのは、件の硝子細工。透明な輝き。
 と、彼の背後モニターが展開した。そこに映っているのもまた、硝子細工。メルクリィの手の上にある者との決定的な違いは、動いているか否か。革醒しているかしていないか。
 それは子供程のサイズをした透明な妖精だった。丁度、フォーチュナが持っている硝子細工をそのまま大きくしたような。こうしてみている分には奇麗なのだが――そうはいかないのだろう。
「勿論。このエリューションは厄介な能力を持っておりましてな、手に触れた非エリューション物質を硝子に変えてしまうのですよ」
 その結果がこれだと、別の画像。それは硝子の庭園だった。草も、花も、あらゆるものが硝子になっている。人間とてその例外ではない。4つの大きな硝子人間。それはEゴーレムの被害者で、Eアンデッドとして革醒してしまった存在なのだとメルクリィは伝えた。
 放っておけば、被害は増える一方。ならばすぐにでも対応の必要がある。
「エリューション討伐後の硝子化した庭園につきましてはご安心を、アーク処理班が何とかして下さいます。皆々様は、このEゴーレムとそれによって革醒してしまったEアンデッドの討伐に専念して下さいませ。
 では、一間を開けたメルクリィが皆へと微笑みかけた。
「如何に奇麗なものであろうと、世界を滅ぼす因子になるのであれば。倒さねばなりません。
 それでは皆々様、どうかお気を付けていってらっしゃいませ!」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:ガンマ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年04月28日(日)22:00
●目標
 敵性エリューションの殲滅

●登場
Eゴーレムフェーズ2『硝子の妖精』
 硝子細工の妖精がエリューション化したもの。透き通った硝子体。サイズ・知力は子供程で、飛行状態。言葉は発しない。
 繊細な見かけによらず、防御値・WPが高い。
 手で触れた非エリューション存在を硝子に変えてしまう能力を持つ。
・硝子の踊り:近範、弱点、失血
・硝子の悪戯:遠範、自ダメ多い程威力増、呪殺、Mアタ大
・硝子の抱擁:近単、石化、ブレイク
・鏡纏い:自付与。反、回避上昇

Eアンデッドフェーズ1『硝子の兵隊』×4
 硝子の妖精によって全身を硝子に変えられ死亡した人間が革醒したもの。
 刃状の両腕を持つ。知能は無く、硝子の妖精に従うだけの存在。
・振り回す:近範、流血
・光を放つ:遠貫、ノックB

●場所
 郊外の洋風庭園。既に廃墟で荒れ果てている。
 草木は全て硝子の妖精の能力で硝子になっている。
 開けた広い所にエリューションはいます。
 時間帯は夕方。赤い夕陽に硝子が輝きロマンチックです。
 討伐後の硝子庭園の処理についてはアーク処理班が行います。ご安心を。

●STより
 こんにちはガンマです。
 硝子細工は綺麗ですね。
 宜しくお願い致します。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
ウーニャ・タランテラ(BNE000010)
インヤンマスター
四条・理央(BNE000319)
スターサジタリー
ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)
プロアデプト
オーウェン・ロザイク(BNE000638)
プロアデプト
言乃葉・遠子(BNE001069)
ナイトクリーク
ダグラス・スタンフォード(BNE002520)
クロスイージス
白崎・晃(BNE003937)
レイザータクト
梶原 セレナ(BNE004215)

●黄昏硝子色
 硝子の庭園。視界一杯に広がっていたのは透明な煌きだった。夕日の赤に照らされて、一斉に瞬いている。何もかも、誰もかもが。
「綺麗」
 思わず『ピンクの害獣』ウーニャ・タランテラ(BNE000010)は呟いた。綺麗。他に何と言えようか。『ルーンジェイド』言乃葉・遠子(BNE001069)も「わ……」と全てが硝子でできた光景に息を飲む。
「夕陽に輝くガラスの庭園とは、美しいね。以前ルーアンを旅行した時に見た、古い教会のステンドグラスのようだ」
「ちょっと凄いですよね。そもそも硝子細工は屋外に展示できるようなものじゃないので、見れたとしても室内のショーケースの中、が普通ですから」
 顎に手を添え目を細めた『夜色紳士』ダグラス・スタンフォード(BNE002520)の言葉に梶原 セレナ(BNE004215)が応える。
 一面の硝子。肌に触れただけで切れそうな、まるで硝子の檻の中。無機質で残酷な美しさ。
 そして――ウーニャは、リベリスタ達は知っている。この光景が、明らかにこの世界に属さないモノであるという事を。
「これに比べたら楽団の方がまだ親しみがあったかもね」
 輝きの中に生物の温もりは無い。夕紅の中、ウーニャは道化師のカードを携えて。さて、硝子の妖精はどんな死を想うのかしら。
「これがエリューションによるものじゃなく、頑張ってそういう趣向を凝らした場所、だったらどれだけいい事か……」
「うん。感動してただろうな、その凄さと美しさに」
 セレナが言い、四条・理央(BNE000319)が残念そうに息を吐きつ盾を構えた。
「この庭と、これ等を作った妖精を壊してしまうのは何とももったいないが、仕事だからね」
 仕方ない。ダグラスも仲間に続いて戦闘態勢に入る。
 一同の視線の先――きらきら、夕日を浴びつ宙に居たのは硝子細工の妖精だった。透明な顔は表情を作る事は無い。だが、一同は確かに、彼女がクスクスと笑った様な気がしたのだ。
「綺麗ね……でも、お花も人もこんな姿になりたかった訳じゃ無いんだよ……?」
 遠子が脳内集中を急速に高めてゆく中、妖精の周囲に現れるのは硝子の人間。死した人間。硝子の妖精に殺された存在。少女は薄紅の唇を引き締める。
「硝子の妖精だなんて、お伽話みたいで美しいわね」
 それが、世界に害を及ぼすモノでなければ。黄昏の射光に、袖を通さずに羽織ったナポレオンコート・グランディオーズを翻し。『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)が言い放つ。
「美しくても、ここから先はヒトの世界なの。ここで、砕いてあげる」
 鋼の脚で、硝子の園を踏み締めて。

 リベリスタ達は一斉に地を蹴った。

●幻想ランド
 曰く、光の反射とは、物理学に於ける根本的な理論の一つ。
「……さて、この神秘は、如何程にそれを捻じ曲げてくれるのか」
 言葉を吐いた『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)が手に構えるは光刃「RuleFaker」。その光に絶対零度の術式を纏いつつ、硝子の兵隊へと一気に間合いを詰める。
 それに合わせて前に出たのは『立ち塞がる学徒』白崎・晃(BNE003937)、こういうのは分かり易くて助かると思いを浮かべながら。悪意には鉄拳で鉄槌を叩き込めばいい。
 氷の一撃と、曇りなき光の一撃。息を合わせて打ち込まれた攻撃に硝子の兵隊が半歩下がった。
 そのまま踏み止まり、あるいは一歩前へ。
 硝子の剣が振り回される。そこに悪意はあるのか否か、されど切っ先はリベリスタの肌を裂く。
「く――当たり前だが、斬られたら痛いものだね」
 真正面の硝子の兵隊。構えた剣で振り回される刃を防ぎ往なしつつ、ダグラスは口元に苦笑を浮かべた。そうすれば口唇の合間より吸血鬼である証拠の牙が僅かに覗く。切れた頬から垂れた血が静かに流れる。
 硝子製のアンデットは、いったいどんな味がするんだろうか?
 楽しみだ。なんて思いながら。さて。足手纏いは勘弁だ。紳士として女性は守らねばならぬ。お気に入りのスーツが切り裂かれてボロボロになる前に。垂れた血を舐め上げた。頑張ろう。手にした刃に黒い殺意を纏わせて、一閃。
 ガツン、と堅いもの同士がぶつかり合う音がする。理央の構えた古びた盾と、硝子の兵隊の剣。一撃を防いだ理央は掌を前へ。構築されるは魔法陣、繰出すは魔力砲撃。
 光。一直線。リベリスタが放ったそれと、異形が繰出すそれが交差する。ぶつかり合い、擦れ合いながら飛んで行く。
 眩くて。硝子の庭園に乱反射。光の世界。幻想的だと、ウーニャは輝きに目を細めながら思った。防御に構えた腕が熱い。血の滴るその腕で、FOOL the Jokerを構えて。
「おやすみなさい。今解放してあげる」
 ひゅん、空を切って。硝子の兵隊へ投げつけるのは嘘吐き道化。不吉を齎す不気味な笑い。
 びしり。カードが突き刺さったのは、集中攻撃を受ける硝子の兵隊の胸。そこから生じた亀裂はみるみる大きくなり、音を立てて砕け散った。
「……ごめんなさいは、言わないわ」
 呟いた、一言。
 さぁ、次だ。のんびりしている暇は無い。
 そんなリベリスタの体に力が満ちるのはセレナが戦闘教義を共有させたから。彼女は思う。浮かれた気分で戦う事はいけないが――視界の神秘光景。これを、忘れないようにと、心に留め。高らかに歌い上げるのは癒しの旋律。響き渡る。傷を癒す。
 支援手はセレナだけではない。遠子もまた、仲間の攻撃対象外の兵隊へ罠の気糸を繰出して足止めを。
 一方、硝子の妖精の眼前にはミュゼーヌが立ちはだかっていた。
「ご機嫌よう、硝子の妖精さん。一緒に踊ってもらうわよ」
 そう言い放ったミュゼーヌに、妖精が迫る。踊り躍る。その翅は剣のように鋭く、彼女の肌を切り裂かんと。掻ッ切ろうと。
 さて。通常、スターサジタリーという者達は後ろにて砲撃を行う者である。本来前に出て戦う存在ではない。だが、彼女は違った。
「――これでも身のこなしには自信があるの」
 不敵に笑む一瞬、展開させるは魔力障壁回路・改。魔力の壁と硝子の羽がぶつかり合い、光を散らす。巻き起る風に銃士の外套が凛々しく翻った。その威風堂々たる様は正に『grandiose』。
 最中にミュゼーヌはマグナムリボルバーマスケットを構えた。引き金を引けば、奔る銃火。ライフル用マグナム弾が雨霰と、蜂の襲撃――否、鉄の暴風が如く硝子の兵隊へ襲い掛かる。
 罅が入り、砕け、散るのは硝子。きらり、きらり、銃士少女の蒼眼に映る。かつては人であったそれ。
「貴方達を助けてあげる事は、もう出来ないの。せめて、妖精の悪戯から……解放してあげるわ」
 呟いた。直後。瞬く光。
 ふむ。黒外套を翻し、オーウェンは目を細める。硝子の欠片で彼等の放つ光を跳ね返さんと試みたが、神秘とは悉く常識を裏切ってくれるものらしい。
 されど。想定外は想定内。それしきで奇策教授の平静さは揺るがない。硝子の兵隊へと向ける掌。
「……そこだ」
 一言。繰り出したのは一直線、ピンポイント。それは刃の様な冷たさを以て硝子の兵隊の左胸を打ち貫き、粉々に粉砕する。がらがらがら。硝子が落ちて、砕け散る。血も涙も垂らさずに。悲鳴すらも上げる事なく。
「昔話のように、悪い妖精を倒したら、硝子に変えられていた人達が元に戻ればいいんだけどね」
 哀れ、と思うべきなのだろう。多分きっと。兵隊が振るった刃を刃で弾き、ダグラスは灰色の双眸で透明を見詰める。吐いた言葉は、嗚呼、所詮『お伽噺』だ。現実は冷たいものだ。酷い話だ。だからこそ、早く終わりにしてしまおう。
 せめて来世では良い夢を。
 踏み込んだ。振り上げた。破壊の気を込めて。振り下ろした。真っ直ぐに。ダグラスの手に伝わって来たのは確かな手応え。硝子の砕ける音。頭部が砕け散った硝子の兵隊がよろりと半歩、下がりながら倒れ込む。倒れた瞬間、バラバラの欠片になる。呆気なく。儚く。
 また、光が瞬いた。遠巻きで見る分には綺麗なものだが、それは残り一体となった硝子の兵隊がリベリスタを殺す為に放たれている事を一同はよく知っていた。標的になった者は足を踏ん張り、耐え凌ぐ。だが、中にはフェイトを使う事なく倒れてしまうものも一人。
 堅実に、的確に、確実に、リベリスタ達は作戦に従い任務を遂行する。されどそこで、妖精がくるりと回った。途端に炸裂する光。精神力を大きく削ぎ落す衝撃がリベリスタ達を撃つ。だがそれは一同が妖精に攻撃を加えていなかった為に物理的なダメージは最小限だった。
「大丈夫……支援、しますっ……!」
「これしきで音を上げはしまい?」
 物理的ではないダメージ。それは遠子とオーウェンが、仲間達へ精神力を供給する事で早々に解決する。また、積もったダメージもセレナの詠唱が拭い去った。
「ふっかーつ、しゃきーん☆」
 ドヤァと身構え、ウーニャは流れる様な動作で残り一体となった硝子の兵隊へ不吉のカードを投げ付ける。戦場を飛んだは鮮やかに、音も無く、硝子の兵隊を貫いた。Jackpot。道化は笑うだけ。
「……さぁて」
 砕けた硝子を踏み締めて。残るは異形と成り果てた人工細工のみ。
 硝子と鏡、異質と虚構。透明色は何色でもない。
「これがあなたのいた世界? ボトムはきっと居心地悪いでしょうね。――脆い幻想で纏った鎧は、道化の嘘で暴いてあげる」
 ウーニャの指先で笑う道化。妖精の、堅い硝子の顔は表情を造らない。それは何を想っているのか。否、端から何も思っていないのかもしれぬ――横合いから大きく踏み込んだのはオーウェン、レーザーナイフを煌めかせて叩き込むのは状況最善手の連続攻撃。それは妖精が纏った光をも切り裂き、曝け出す。
 今だ、と。彼が言わずともがな。至近距離にてマスケット銃を妖精へ向けたのはミュゼーヌだった。透明の額に突き付けられる大口径。刹那。針の穴をも貫き通す一撃が、ズドンと妖精の頭部を仰け反らせた。
(……堅い)
 硝煙の彼方、ミュゼーヌは思う。硝子の兵隊が全滅するまで敢えて手を出していなかったが故に硝子の妖精は健在そのもの、そしてフェーズ2、一撃二撃で沈む様な存在ではない。
 しかし、だ。
「残るは……お前だけだな」
 刃の切っ先を突き付けるダグラスの言う通り。残るは硝子の妖精のみ。後は総力を上げて最高火力を叩き込めばいい。火力はパワー。殴って解決。脳筋思考と言う奴だ。だがそれが正解である以上は、そうするのみ。そうあれかし。塵も積もれば山となる。雨垂れ石を穿つ。
「やれやれ。世界に害をなさない、可愛いレディなら是非ともティータイムに誘いたかったのだが」
 致し方ない事だ。一閃に振り払うは居合い斬り、飛びゆく刃が硝子の妖精へと襲い掛かる。それと同時に行われたのは理央が繰り出した陰陽・星儀だった。畳みかける様に。
 衝撃――煌めくは硝子。瞬く翅。妖精は踊る。傍にいる者を誘う様に。遊ぶ様に。
 鋭い硝子がひゅんと空を裂き、理央の咽を冷たく撫でた。ぶぱ、と血飛沫。硝子の花に赤が咲く。セレナが彼女の名を叫んだ。詠唱と旋律。運命消費。少女は倒れない。
 その間も妖精へ容赦なく降り注ぐリベリスタ達の攻撃。確かに、妖精は堅い。堅固だ。だが、能力を上げる力を用いても、ウーニャが、オーウェンが、理央が、そのエンチャントを切り裂かんと奮闘する。ミュゼーヌはその火力を最大限に活かして鋼の脚で鮮やかな蹴りを繰り出し、ダグラスは刃の風を巻き起こす。そんな彼等の火力を常に最大限に保たせているのは、遠子の精神力供給。そして、セレナの詠唱だ。
 当然ながら硝子の妖精は抗った。光りで、刃で、リベリスタ達に血華を裂かせる。或いは――その手で、リベリスタを抱きしめる。自分と同じ、硝子に変えようと。
 されど。身体が凍り付くその感覚に。ウーニャは意識を集中させる。耳を澄ませ、聞こえる筈だ。己の鼓動。生の証が。
 それを後押しする様に煌めく、理央のブレイクイービル。破邪の光。
「ふぅ」
 硝子を振り払い、反撃。攻撃再開。

 徐々に。
 少しずつ。
 着実に。
 確実に。
 妖精の身体に出来た罅は、時間と共に増えてゆく。

 ――そして。
 遂に遠子のトラップネストが、妖精の身体を絡め捕った。
「友達が欲しかったの……?」
 眼鏡の奥、二色の目、問う言葉。返事は無い。少女はグリモワールを持つ手に力を込める。でも、貴女は触れたもの全てを傷つけてしまうから。
「ごめんね……」
 呟いた視線の先。翻ったのはナポレオンコート。
「貴方みたいに固い硝子細工があるなら、私が欲しい位だわ」
 ミュゼーヌは真っ直ぐに妖精へと狙い定め、勢い良く踏み込んだ。踏み締める。力を込める。夕陽の中でも凛と輝く鋼の脚に。金の髪が流星の様に靡き流れた。

「でも……硝子が砕け散る瞬間も、儚く美しく、嫌いじゃないのよ!」

 大胆不敵、勇猛果敢。鉄色の弧を描く強烈な回し蹴りが動けぬ妖精を確かに捉え、「ビシリ」と罅の入る音を響かせた。
 それと同時に妖精が気糸を振り払う。銃士少女へ両手を伸ばす。しかし、十分に警戒していた彼女は素早く横へと飛び躱し。
 硝子の指先、硝子の目玉が向いている先。ミュゼーヌが居なくなったそこに、立っていたのはウーニャ。既に振り被った動作。指先の告死。

 あ。

 もし硝子の妖精が人間だったら、そんな声を発していただろうか?
 ヒュン。
 ばりん。
 それはあまりにも呆気なく。投げ付けられ、突き刺さったカードが齎した衝撃に、妖精の身体中に入っていた罅が断末魔を上げた。
 まるで硝子を地面に落してしまったかのように。粉々。カラカラコロリと破片が転がるだけ。
 それらを見下ろし、少女は言った。

「さよなら。ここはあなたの世界じゃないよ」

●終劇
 妖精が砕け散った今、庭園は静かなものだった。
 全てが硝子でできた光景を今一度見渡し――ダグラスは息を吐く。
「物を硝子に変える能力、か。対象を選んでくれていたら、素敵な庭園が維持できただろうに……まったく残念だ」
 そうだね、と全く同感であった晃も傷を抱えて頷いた。
 一方で、遠子は硝子の兵隊の欠片を拾い集めていた。アンデッドに革醒してしまったとはいえ、彼等は何の罪もない人間だったのだ。この様な姿となっては、人間として家族の元に帰る事は出来ないだろうが――それでも。せめて、きちんと弔ってあげたいと、心優しい少女は思うのだ。
 最中、指先に触れたのは硝子の花。冷たい、温度の無い花。
(この庭園の花達もせっかく綺麗に咲けたのに、実を結んで種をこぼす事もできないんだね……)
 全て処分されて、全て忘れ去られてしまうのならば。遠子はそっと、硝子の花を一輪、拾い上げる。静かに撫でる。一緒に帰ろう。咲いていた今日と言う日を忘れない為に。
「――さて」
 斯様に一段落が着いた後、ウーニャは周囲を見渡した。仲間達に下がるよう注意を促し、そして。

「ぜーんぶ真っ平らになーれ☆」

 360度へ解放するのは赤き月のエネルギー。破壊の光。夕陽よりなお紅い赤い紅蓮の月光が悉くを覆い尽す。呼応する様に硝子が鮮烈に輝いた。そして、砕け散る。一斉に。バラバラに。キラキラと。紅色に。血飛沫の様に。
 それから。
 それからはもう――何も無い。ただ夕陽が静かに静かに輝いているだけ。
 ウーニャは大きく、深呼吸を一つ。
「ふう、すっきりした」
 綺麗な悪夢は、もうお仕舞い。


『了』

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
メルクリィ
「皆々様、お疲れ様ですぞ! ゆっくり休んで傷と疲れを癒して下さいね」

 だそうです。お疲れ様でした。
 庭園はアーク処理班がキチンと片付けてくれました。
 ご参加ありがとうございました。