●とあるフィクサード達の会話 主流七派。言わずと知れた国内最大手フィクサード組織だが『属していない』フィクサードもいる。 理由は様々だろうが、中には単に『属せていない』だけのへっぽこな連中もいる。 ここは、そんなフィクサード達のアジト。 4人のへっぽこ達がテーブルを囲んで座っていた。麻雀してる訳ではない。 「なぁ、あの人の事どうする……?」 ぼそり、と一人が口を開いた。 「どうすると言っても……行方も判らない。判っても我々では」 「あぁ、あの人には敵わないだろう」 ため息混じりに答える声。空気が重い。 「そもそも大掛かりに動いてアークに目をつけられたら、俺ら勝てないべ?」 「あ」 ガタン! と椅子蹴っ飛ばして一人が立ち上がる。 「そうだ、アークだ! 我々の手に負えないのならいっそ……」 ●暴走する善意 「一週間ほど前の事です。アークに1通の手紙が届きました」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)が机の上に広げた一枚の紙。 『俺は心を入れ替えた! 新しい俺の活躍、見ててくれ!』 以上。差出人の名前すら無し。 「意味がわからん」 「えぇ、これだけですと全く意味不明です。が、数日前に更に別の情報……所謂タレコミが入りました。一人のフィクサードがリベリスタ状態になっている、と。かいつまんで話しますと――」 とある主流七派に属していない小規模のフィクサード達がいた。組織とすら呼べない、グループ程度の人数。 メンバーは実戦よりも学者肌ばかり。大した事件も起こさぬ集まりであったが、こないだの楽団騒ぎで危機感を覚えたらしい。 どこかの主流七派に取り入ろうと思ったが、如何せん、実績が全くない。 「その時、彼らのリーダー格がこう言い出したそうです」 リベリスタをフィクサードに変える道具を作って、仲間増やして売り込みにいけばいいじゃないか、と。 で、アーティファクトを利用して本当に作り上げてしまったと言う。偶然の産物にせよ、禄でもないものを作ってくれたものだ。 しかし、完成後に問題発生。 「本当に効果があるのか? と疑問を持たれたその人物は、あろうことか自分自身を実験台にしました」 結果、作成者自身の善悪の価値観が大きく変わってしまい、自分が作った道具を破壊した挙句グループを飛び出して行ったと言う。 「それがこの人物――庚・祐司です」 モニターに映し出されたのは、20代半ばと思しきヤンキー上がりっぽい男性の姿。 「その情報を受けて調査した結果、彼が先ほどの名前のない謎の手紙の書き手と判明しました」 どうやら価値観以外にも色々と変わっちゃったらしい。どちらかというとバカっぽい方向に。 「更に数日アークで監視した結果、本当に心を入れ替えたようです。ある時はお婆さんのハンドバッグをひったくりから取り返し、ある時は車にひかれそうになった子供を助けたり」 リベリスタ状態と言うか、どこの正義超人だ。 「でも、それなら問題ないんじゃないか?」 「それが、大有りなんです」 一人のリベリスタの言葉に、和泉は首を左右に振る。 「限度をまるで考えていません。ひったくり犯にトラップネスト。子供を助ける時はトラックにJ・エクスプロージョン。街中、人前、お構いなしにスキル使ってます」 うわぁ。 「そして明日の早朝、彼がE・ビーストと戦う未来を予知しました。周囲の被害を考えずに戦って……負けます」 「負けんのかよ!」 駄目駄目だ。 「というわけで、彼に任せておけません。皆さんが代わって討伐して下さい。E・ビーストは3体ですが全てフェーズ1ですから、特に問題ないでしょう」 「で、そいつの方はどうするんだ?」 「えぇ……それなんですが」 ふぅ、と小さくため息を付く和泉。 「恐らく情報提供者は、彼が他の組織と揉め事を起こす事を気にしていると思われます」 情報提供者が祐司のいたグループの仲間であるのは、ほぼ間違いないだろう。もしも祐司が主流七派のどこかと揉め事を起こしてしまえば、取り入るのは難しくなるからだ。 「此方の知ったことではないのですが、ここ数日の暴走を見るに放っても置けません。かと言って、彼が元の性格に戻る可能性がないと言えない以上、アークに引き込む事も出来ません。 最終的に、現場判断の決定が降りました。つまり、適当になんとかして下さい」 和泉が笑顔で伝えたのは、何だか投げやりな決定だった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:諏月 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月25日(木)23:43 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●リベリスタの戦い方 庚・祐司は神秘で超人的に発達した五感を持っている。 それでもって、たまたま通りかかった駐車場に潜む犬型のE・ビーストに気づいた。 俺が倒してやる! と意気込み、E・ビーストに向かって駆け出すまで思考時間0.5秒。 直後、別のE・ビースト車の影から飛び出して来たが、祐司の感覚はそれに気づいていた。 動きを先読みし、敵の隙を突いた一撃が――目測を誤ったか、空を切った。 どれだけ発達した感覚があっても、当てる技術が伴わなければそれを活かしきれないと言う見本だ。 「うぼっ!?」 ぽかん、として所に腹に突進を食らってひっくり返る。 「痛っ! いででっ! 噛むなコラァッ!」 がぶがぶ噛まれて早くも血塗れになった祐司が、何とかE・ビーストを振り払った直後。 「誰だっ!?」 「ちーっす! アークでっす、ごきげん麗しゅう!」 先頭で戦場に駆け込んだのは、『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)。立ち上がったばかりの祐司の隣で、気を張りE・ビーストの注目を一身に集める。 「庚・祐司で間違いないな?」 続いて、身長2mを超える巨漢、アーサー・レオンハート(BNE004077) が現れる。 「あ、あぁ……? アンタら一体?」 「本当に人払いもせずスキル使うとはな」 渋い声が呆れた様に言って、駐車場を中心に強力な結界が張られる。 「通りすがりのアーク所属のナイトだが助太刀する」 「え? アーク? マジ? あのアーク!? 一緒に戦ってくれるんッスか!」 突然現れたアークのリベリスタに狼狽える祐司だったが、騎士の様な鎧に身を包んだ褐色肌のフュリエ、『白銀の鉄の塊』ティエ・アルギュロス(BNE004380)の言葉に状況を理解したようだ。 (援軍! しかもあのアークが来てくれた!) 祐司のテンションうなぎ登りである。 「こいつら倒すんだろ? 庚君、手伝うぜ、活躍しろよ!」 「わっかりましたぁっ!」 夏栖斗の檄に応える声は、気合充分。 早速踏み込んだ祐司が思考の奔流を物理的な力に変えて、それを炸裂させてE・ビーストに叩きつけようと――。 「って、待つでござるよ!」 『おとこの娘くのいち』北条 真(BNE003646) が慌てて後ろから止めに入った。 「どうどう、落ち着くでござる!」 羽交い締め、は小柄な真だと体格差でちょっと厳しいので後ろから腰を抱きかかえる感じで抱えて宥めにかかる。 「おいやめろ馬鹿、車の近く戦うと車が壊れる」 念の為に車の前に立ち塞がって、ティエも祐司を止めにかかる。 「いいか、車が壊れると通勤出来なくなった一般人が露頭に迷う事になるぞ。つまり、悪所業だ!」 「え? それって不可抗力になるんじゃないっスか!?」 この世界の事を良く学んでいるティエの正論。取り敢えず聞く意志はあるようだ。 「あのさー。リベリスタたる者、神秘業界のマナーは守らねばならないのだ。分かるかい、其処の人よ」 なんだかなー。 そんな気分になりながら、『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)がなんとも言えない表情を祐司に向ける。 (分かって欲しいなぁ、後々色々手間が増えるんで) 喜平の内心を知ってか知らずか、攻撃を止められた上に次々とダメ出しをされ、目を白黒させる祐司。 「中途半端なフィクサードと言いますか、リベリスタと言いますか。ボトムにはこういう方が多いのでしょうか?」 そんな疑問を口にしつつ、シェラザード・ミストール(BNE004427)が、魔弓を構え素早く連続で矢を放つ。E・ビースト達を射抜き、一体の態勢を崩す。 「まぁ、うん。フィクサードも色んな奴がいるね。芸人とか!」 夏栖斗が思い浮かべたのは、きっとどこぞのバランス芸人。 「ボトムの人達はいろいろな才能を持った方がいらっしゃるんですね!」 その言葉に、リッカ・ウインドフラウ(BNE004344)が頷く。 「でもこの世界は神秘は秘すべきですし……あれ?」 ふと、そこで彼女は気づいた。 (そもそも異世界の生まれである私達フュリエって存在自体が秘すべき神秘になるのでは……?) 気づいてそこまで考えかけて、やめた。だって、頭から煙出そうになったから。 「ええっと、まずはエリューション討伐ですね!」 強力な対物の力場を発生させ、仲間を守る盾とする。難しいことは考えない方向で。 「被害が出るJ・エクスプロージョンはダメだろう……トラップネスト使えるんだろう? 被害抑えられてお勧めだぞ?」 若干低姿勢なティエによる、周囲に被害を出さずに戦う方法講座が広げられる。革醒者のスキルについても彼女は良く勉強しているようである。 「トラップネスト、単体じゃないっすか。敵、3匹だぜ」 祐司が妙な所で論理戦闘者っぽい思考を発揮する一方で、リベリスタ達のE・ビーストへの攻撃は続いている。 『悪芽の狩り手』メッシュ・フローネル(BNE004331) のフィアキィが氷の精となり周囲の冷気を集め、E・ビーストの群れを強力な冷気で包み込む。 しかし、凍らせる事は叶わず1体からカウンター気味の体当たりをもろに受け、メッシュは転倒してしまう。当たり所が悪かったか、起き上がれない。 「朝も早くから大忙しだぜ」 残りの2体のE・ビーストが夏栖斗に噛みつくが、その牙は彼に浅い傷を与える程度の鋭さでしかない。 意に介さず、夏栖斗の武技が虚空を駆け抜けE・ビーストを纏めて斬り裂き、圧倒し、血の花を咲かせる。 「ところ構わずスキル使いまくるのは、困りものだな」 アーサーの大型拳銃が火を吹いた。意思持つ影が補助した一撃は、E・ビーストの頭部を貫き1体の活動を停止させる。付けた銘の通り、その一撃がrequiemとなった。 「ま、こう言う場所ならそれなりの戦い方があるものだ。数が多いから範囲攻撃すればいいってもんじゃない」 祐司に向かって言いながら、喜平が別のE・ビーストの頭部に巨大な銃口を突きつける。状況を見抜き戦場を支配する眼力は、敵の隙を見逃さない。 打つ、撃つ、討つ。あらゆる使い方を想定し作られた巨大な散弾銃を向けて、引き鉄を引く。 至近距離で頭部を撃ち抜かれたE・ビーストがぐらりと揺れる。 シェラザードとリッカ、2人のフュリエが構える魔弓。矢を番えずに引いた弓から放たれた光球がE・ビーストを貫く。 更に真から伸びた黒いオーラが、E・ビーストの頭部にダメ押しの一撃。2体目も倒れた。 そこに、氷から抜け出した残る1体が体当たりを敢行する。 避けようとすれば出来ない事はなかったが、避ければ車に被害が出ると、ティエは敢えて受ける事を選んだ。 「ふむ。大したことはないな」 彼女も防御に長けている。E・ビーストの攻撃は、彼女の鎧を砕く程のものではない。 曇りなき鮮烈な輝きを帯びた禍々しく波打つ黒い剣の刀身が、E・ビーストを斬り裂いた。 ●バカにつける薬はないけど僕達には拳がある さして苦労する事なく、E・ビーストを撃破したリベリスタ達。外壁の壁に若干傷がついたが、車に被害は無い。 ちゃんと『リベリスタとしての正しいやり方』を祐司に示したのだ。 「あざっす! おかげでコイツラ倒せました!」 結局、祐司に活躍の機会はほとんどなかったけど、当の本人が気にした様子もないのでまあいいだろう。 「じゃ、俺はこの辺で」 「おっと。フィクサードを行かせるわけにはいかないでござる」 根本的な本質が変わっていなければ、フィクサードはフィクサード。そう割り切って、立ち去ろうとする祐司の前に真が立ち塞がる。 そもそも、祐司は何故アークのリベリスタが現れたのか、何も判っていない様子だ。 「よし、庚君、殴らせろ」 夏栖斗がいい笑顔で迫る。 「えぇっ! な、何でっスか!?」 流石にタジタジで下がる祐司。しかし、既に囲まれており逃げ場は無い。 「神秘! 隠匿! しろよ!」 ドゴッ! 夏栖斗の拳が祐司の腹部、レバーを見事に捉える。 声もなく崩れ落ちる祐司。 「お願い」 シェラザードが小さく呟いて、だいぶボッコボコになった祐司を癒しにフィアキィが羽ばたく。 「神秘の秘匿さえちゃんとしてくれているなら、ほっといても良かったんだがな……」 取り敢えず逃げられないようにと周囲を固めた位置から、悶絶する祐司を見下ろして唸るアーサー。 適当に何とかしてください、と言われても。ねぇ。 「やはり、若干フィクサード達に厄介事をブン投げられた感があるが……」 戦いながら周囲に被害を出さない戦い方を説明していたティエだったが、どうもイマイチ判って貰えた気がしない。 感があるどころか、事実ぶん投げられてると思います。 「あ、あの。な、殴っちゃっていいんですか?」 「うん、こういうバカには鉄拳制裁の肉体言語が一番効くはずだ」 戸惑うリッカに、爽やかに答える夏栖斗。アークは託児所じゃない。大きな問題児をかまってる余裕ないんだ。 「取り敢えず、大人しくさせてから考えるか、とは俺も思っていたな」 アーサーもさらりと肉体言語を容認。 「うーん……説得を試みても良いですか?」 とは言え、穏便に済むならそれに越した事はないだろう。鉄拳制裁は一時中断し、リッカが説得にかかる。 『リベリスタ様……聞こえていますか……?』 「うおっ!? 誰だ!?」 息を吹き返して来た祐司の頭の中に、響いた声。リッカがテレパシーで語りかけたのだ。 『あなたの心に直接話しかけています』 「っ……心? あ。これ、テレパスっすか」 ハイテレパスを使ったのは、精神に語りかける事で神の啓示の様に思わせて説得が出来れば、と考えての事だ。 しかし、だ。確かに祐司はバカだ。バカだが、腐っても革醒者である。一般人ではないのだ。心に話しかけたと自ら言えば、テレパスと関連付けるのは革醒者なら難しい事ではない。 まだボトムの常識を勉強中のリッカがそこまで知らないのも無理はないかもしれないが、テレパスは神秘界隈では別に珍しい能力ではないのだ。 想定通りとはいかなかったが、祐司は話を聞く姿勢はみせている。気を取り直して、リッカは説得を続ける。 本題はここからだ。憧れのシェルン様の様な神々しさを心がけ、リッカは言葉を精神に乗せる。 『ただ闇雲に力を振るうのではフィクサードと変わりません。世界のルールを守りながら弱き人々を守るのが、真のリベリスタなのです』 黙って聞いている祐司。神妙にしてるのか、腹が痛いのかどっちかは定かではない。 『神秘は秘さねばなりません。この世界が壊れてしまうからです。あなたが守りたいものはなんですか? あなたが本当にしたかったことはなんですか? あなたの振うその力の意味、よくお考えになってください』 「神秘は秘さねば……目撃者を消しちゃ、駄目っスよね?」 なんでそうなる。 「駄目でした……ど、どうしましょう……?」 リッカの戸惑いは更に強まった。 「心入れ替えたんなら! ちゃんと! 隠匿しろよ! そのイカれた頭なおしやがれ!」 ドゴッ! 再び決まる夏栖斗の拳。崩れ落ちる祐司。 テレビだって、殴れば直るんだ。バカもきっと治る。斜め下45度から、レバーを抉るように打つべし。 「いっそ! もう一回! フィクサードに戻って、やり方を考えてから! こい!」 ドゴッ! そろそろ弱ってきたので、またシェラザードがフィアキィに声をかける。本日何度目かになるフィアキィの癒し。 「ボトムって何だかわかりません……」 リベリスタ流肉体言語な説得術に、ボトムへの戸惑いが深まるばかりのリッカであった。 ●バカなりの答え 祐司の向こう脛に叩き込まれる、喜平の銃把。弁慶の泣き所とか、容赦ない。 「君にも君の正道があるんだろうけど、やり方が派手すぎるんだよね」 足を抑えて再び悶絶する祐司に、屈んで声をかける喜平。 そもそも、喜平は祐司を少なからず認めてる節はあった。 自らが作った道具の効能を試す際、他人に強制せずに先ず自身で試した精神は評価したい所だと。 「ぽっと出の常識から外れた力は世界に許容されない限りは混乱しか生まない」 この先、祐司がどういう道を選ぶにしろ、考えの足しにでもして貰えればと言葉を選ぶ。 「例え其の場の正義は護れても、明日には悲劇の引き金になりかねないよ」 「うむ。人助けは素晴らしい事だが手段がな」 「ところ構わずスキル使いまくるのは、駄目だという事だ。此度の様に町外れで戦う時も、せめて結界を使うのだな」 ティエとアーサーも、祐司の何が駄目なのかを言葉で教える。 「本当にリベリスタになる気があるのでしたら、一からやり直してください」 再びフィアキィに癒しを頼みながら、シェラザードも優しく声をかけた。 「……俺のやってた事じゃ、駄目ってことっスね」 半ば呆然として、絞り出すような祐司の言葉。 「良かった。判って貰えたんですね」 殴って癒して説得してを繰り返した、リベリスタ達の努力が遂に実を結んだ瞬間だ。リッカも胸を撫で下ろす。 そうなると、次に問題になるのが祐司の処遇である。 「ふむ。一応判ったようだが、どうしたものか。いつ元の性格に戻る判らないのでは、下手に野に放って迂闊に活動されるのも困るしな……」 「アーティファクトを使った道具とやらを、再度作られても面倒なのでござる。フィクサードとしてトドメを刺すか、捕縛しておきたいところではござるが……」 「俺、まだやり直したいんす! 命ァ取るのは、勘弁して貰えませんか!」 いきなり、がばっと頭を下げて懇願する祐司。 思案するアーサーと真の会話が聞こえたのだろう。こいつはそういう聴力を持っている。 「さっき言ったけど、もう一回フィクサード戻れよ。やり方考えて来いよ。いつでも相手してやるから」 夏栖斗の考えは、祐司をもう一度フィクサードに戻す事だ。 本当はワルすぎるやつじゃなくて、フィクサードをこじらせすぎちゃったとかそんな感じだろう。なら、一旦元に戻せば良い。 「更生したなら、はいかYESで答える!」 「や、それどっちも同――」 ドゴッ! 「は、はい……」 「よし。なんなら恐山とかに紹介もしてやっから。あそこ芸人しかいないからお前ピッタリだよ!」 バランス芸人とかストロベリーとかな。 まあ、バランス芸人も同じ事を言いそうであるが。ウチは託児所じゃない、と。 「恐山か。一週間前の俺だったら、その紹介飛びついたんでしょうが……」 夏栖斗の出した七派の1つの名前に、しかし祐司は躊躇う素振りを見せる。 「取り入ろうとしてたのではないのか?」 アーサーの言葉にも首を横に振る。 「さっきのテレパシー、誰っスか?」 「え? あ、はい。私ですが?」 急に話を振られて、驚くリッカ。 「さっき、言ってたッスよね。俺が守りたいものは何かって。その答えがねえから、俺ぁこうやって拳骨食らいまくったんッスね」 思っていた形とは少々違うかもしれないが、彼女の言葉も届いていたのだ。 「わっかりました! 一からやり直せ、とも言われたし、前の仲間んとこ戻ります!」 立ち上がり、力強く宣言する祐司。 「でも、俺もう悪ぃこと出来る気がしねぇんで、あいつらと話してフィクサードに戻るか、またリベリスタ目指すか決めます! 今度は道具に頼らねぇで!」 まだ諦めきっていなかった。 「ここまで性質を反転させる効能を考えると、薄ら寒いもの覚えるね」 「出回らなくてよかったでござる。自ら破壊してくれた事には、感謝しないといけないでござるな」 思わず顔を見合わせる喜平と真。反転具合といい、バカっぷりといい、確かに中々恐ろしい。 「本人がこう言ってるなら、それでいいだろう。元の連中の元に帰るなら、後々面倒ごとにならなさそうだしな」 アーサーのこの一言で、落とし所は決まった。 「元の鞘に収まるなら、まぁ良しとするでござるか」 忍びとして非常に徹し、フィクサードとして容赦なく殺る。そんな覚悟を決めていた真ではあったが、アークの指令は現場判断。 必ずしも殺す必要はないのだ。リベリスタと名乗られても困るが、最悪でも元の鞘に戻るなら妥協出来る。 他に、祐司をこの場でこれ以上どうこうしようと言う者はいない。 「まぁ色々と言ったけど、君が今後も分を弁えないなら……次はコレで頭を叩くよ?」 それで頭を叩かれたらフェイトごりっと削れそうなごつい金属――巨銃の銃身をぽんぽんと叩いて見せる喜平。 「これで判っていなかったら、次はもっと痛い目を覚悟して貰うぞ?」 若干控えめながら、ティエも次がない事を告げる。 「肝に銘じときます!」 流石に顔色を青くする祐司。肉体言語の恐怖は、充分身に染みたようである。 情報提供者と思しき元の仲間が近くで見ている事はなく、祐司は1人駐車場を後にしていった。 これで良かったのかは、今は判らない。だが、出来る事はやった。 「はぁ……普通に誰かを守り戦うより疲れたような気がするぞ……」 大きなため息一つついたティエの本気で疲れた様な言葉に、全員が頷いたのだった。 その後、数日アークの監視は続いたが、祐司が目立った動きをする事はなかったそうな。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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