●偽りの孤島 つい昨夜まで、そこには何もなかった筈なのに。 昨夜までは、ただ穏やかな海が広がっていたはずなのに。 朝起きてみるなり、海岸線は濃い霧に覆われ数メートル先も見えない程。海辺の村に住む者たちはこの異常事態に困惑した。その困惑に更に輪をかけたのは、霧の向こう、何もなかった筈の海に浮かぶ島の影。 否、島かどうかも分からない。何故なら、霧に霞んで影しか見えないからだ。海岸線沿いにおよそ3~400メートルほどの島影が見える。見えているのは霧の中の影だけなので、実際は、それよりも幾らか小さいだろうけれど。 その謎の島の正体と、それから濃い霧の正体を探る事は、村人たちには出来なかった。 何故なら彼らは霧の中から外へ、出る事が出来なくなっていたからだ。霧の外へは出られない。数メートル先にいる人の顔も見れず、おまけに通信機器すらまともに機能していなかった。 つまるところ……。 彼らは、陸の孤島に閉じ込められたのだ。 彼らに出来る事は、ただただ震えながら、不気味なこの現象に耐えることだけだ。 時折、島影が霧を噴き出しているのが分かる……。 おまけに、昨夜漁に出た数名がまだ戻ってきていない。霧の中をさまよっているのではないか、などと村人たちは噂している。 霧の向こう、島の上から聞こえてくるのは何かの呻き声だろうか。ウぅぅぅぅぅぅぅ、なんて低く唸るような声が、霧の中に木霊していた……。 ●作戦会議 「偽りの島の正体は、E・ビーストみたい」 モニター一杯に映る島の表面は、乳白色で、でこぼこに隆起していた。まるで貝や蟹、或いは亀などの甲羅のようにも見える。霧が濃く、全体像を窺うことは出来ないが時折蠕動している所を見ると、生き物で間違いないだろう。 「島自体は、ほとんど動くことはないみたい。その大きさは恐らく半径150~200メートル程。かなり大きい」 そう言って『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はモニターを切り替えた。モニターに映ったのは、無数の穴が空いた奇妙な柱だ。色や質感から島の一部であることが窺える。どうやら、その穴から霧が噴き出しているようだ。 「この柱は全部で5つ存在している。恐らくこれを破壊すれば霧は消える筈。けど……」 モニターの端に、巨大な眼球の付いた触手が映り込んだ。ぎょろり、とした眼がモニターの方を向く。触手から紫色の液体が垂れている。 「島の外周に沿って動いているこの触手が本体だと思われる。島を討伐し、村から霧を消す事が任務だからこの触手だけを狙って攻撃してもいいと思う」 もっとも、霧が邪魔で発見は容易ではないだろうが。 それから、とイヴは更にモニターを切り替えた。今度は大きさ数十センチほどの巻貝のようなものが見える。霧が邪魔でよく見えないが、巻貝の真下に蟹のような体が付いている。 これは、巨大なヤドカリだろうか。 「E・ビースト(ヤドカリ)、と呼ぶことにする。こいつが島の表面を10体ほど歩き回っているから、これも討伐してきてね。先ほどの触手と違って、ヤドカリは非常に好戦的」 注意して、とイヴは言う。 「島は頑丈で破壊できない。討伐するにはまず、触手を見つけるしかないよ。また、霧の中ではAFでの通信は出来ない」 以上のことに注意して、この謎の島と霧を消してきて欲しい。 それが、今回の依頼の概要である。 「どうやら霧には毒が含まれているみたい。制限時間は3時間。E能力がある者には影響がないから皆は心配いらないけれど」 このままでは、村人に被害者が出てしまうだろう。 「また、島の上かその周辺に漁船が取り残されているみたい。乗組員は4名。見つけ出して、救出してきて」 そう言ってイヴは、仲間たちを送り出したのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月28日(日)21:59 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●霧の島 濃い霧だ。視界が悪い。聞こえるのは、波の音と、それから島の上を何かが移動するカサカサという音ばかり。生ぬるい風が、僅かに異臭を含んだ霧を運んでいく。 巨大な島だ。霧のせいで、全貌は見えない。ただ、影だけがそこに見えている。 霧を突っ切って、数隻のボートが島へ近づく。乗っているのは全部で8人の男女。アーク所属のリベリスタ達である。 「さて……」 と、呟いて『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)は愛用の大型銃火器を担ぎあげた。轟音と共に弾丸を撃ち出し、霧の中へ消える。霧の一部が吹き飛び、一瞬、島の地表が顕わになる。 「………やっぱり駄目みたいですね」 ダメージが通ったのか否か、見た目だけでは分からない。これ以上の攻撃を諦め、モニカはボートを島へ近づけた。 「大きな島が実は海洋生物の背中でした……! とか、ちょっと映画観たいでロマンだよね」 島に乗り移った『メイガス』ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)が楽しそうにそう言った。島が巨大なので、内面を見て回る組と、外周を探索する組の2つに分かれることにしている。ウェスティアは外周組だ。 「いやぁ。200メートルってめっちゃでかくね?」 霧のせいで、視界が悪い。どこまで続いているのかも分からない島を見通し『パニッシュメント』神城・涼(BNE001343)は頭を掻いた。 「不謹慎ですが、未知の生物の上を探索は、少しワクワクしてしまいます」 ホイッスル方手に『番拳』伊呂波 壱和(BNE003773)はそう言った。 と、その時、壱和の動きがピタリと止まる。しゃがみこんだ壱和の頭上を、何かが高速で通過していった。それがE・ビースト(ヤドカリ)だと気付いたのは、その数秒後のことだった。 「作業灯のせいでバレたかな。あと、少し先に柱が1つ」 そう呟いて『金雀枝』ヘンリエッタ・マリア(BNE004330)は先ほどヤドカリの飛んできた方向を指さして見せた。その時、霧の中から更に2体のヤドカリが姿を現す。 「よし、任せろ!」 袖口に仕込んだ刃を抜いて、涼は柱へ駆け出していく。 戦闘が始まったことを告げるように、壱和がホイッスルを吹き鳴らした……。 ●柱と触手とヤドカリと 「今回は一般人も居るし、早くケリをつけちゃわないと!」 追ってくる足音はヤドカリのものか。射撃による威嚇、迎撃を繰り返しながら『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)は霧の中を駆ける。追ってくるヤドカリは4、5体程だろうか。 「まぁ、こんなもの放置しておくわけにもいきませんし、さっさと潰しましょう」 拳を振りあげ『棘纏侍女』三島・五月(BNE002662)が反転。追ってくるヤドカリを迎え討つつもりだろう。しかし『三高平のモーセ』毛瀬・小五郎(BNE003953)が、杖を伸ばしてそれを制する。 「柱がそっちに……。お願いしますじゃ」 千里眼によるものか。霧を噴き出す柱を見つけ、小五郎は五月に、それを破壊するよう頼む。 「おお、仕事でしたな」 千里眼やESP、戦闘指揮を用いた援護が彼の役目だ。 「霧、吹き飛ばします」 轟音と共に射出される死神の魔弾。モニカは熱感知やイーグルアイを使って、ヤドカリの位置を見つけ出したのだろう。轟音と共に着弾。ヤドカリが数体、宙を舞う。「このっ、よくも手を煩わせてくれたな!」 正確無比な木蓮の射撃。ヤドカリの頭部を捉え、撃ち抜いた。 それと同時に、五月の掌打が霧を噴き出す柱を打ち砕く。柱が砕け、周囲の霧が僅かに薄くなったのが分かる。とはいえ、完全に晴れるまでまだまだ時間は掛かるだろう。柱にしても、まだいくらか残っている筈だ。 「ほいっするで、合図ですじゃ」 震える手でホイッスルを口へ移動させ、小五郎はそれを力一杯吹き鳴らした。 「柱の破壊優先だったね」 降り注ぐ火炎弾が、2体のヤドカリを撃ち抜き、焼き尽くす。ヤドカリが動かないのを確認して、ヘンリエッタはそう訊ねた。ヤドカリとの交戦中に負ったものだろう、頬や腕、肩から血が流れている。 「霧が毒まで含んでる、ってマジで至れり尽くせりだな」 転がった魔力のダイスが爆ぜ、柱を一瞬で撃ち砕いた。噴き出していた霧が止まる。柱の破壊と、ヤドカリの撃破が完了したのを確認し、涼はやれやれと溜め息を零す。 「柱はあと3つだね。諸々完了したら合流して触手の撃破、って感じだけど、どうする?」 そう訊ねるウェスティアは、黒い翼をはためかせ霧を払う。もっとも量が多すぎて、大した意味は無いようだが。 「優先は、柱の破壊と一般人の保護ですね。もう少し、先へ行ってみましょう」 旗の付いたハルバードを肩に乗せ、壱和は言う。周囲の霧が次第に薄くなっていく。これでいくらか、探索も楽になるだろう。 けれど……その瞬間。 「……え!?」 薄れていく霧の奥から、巨大な眼球の付いた触手が姿を現した。目の中心に、光が集まる。咄嗟にしゃがみこみ壱和はそれを回避。怪光線は、背後に居たウェスティアへ命中した。彼女の脇腹から血が溢れる。 「う……っぐ」 展開する魔方陣。溢れだした血が蠢き、黒鎖へと形を変えた。急速に顔色が悪くなるウェスティア。大量の黒鎖が、触手目がけて津波のように襲いかかる。 「最後に触手……の筈だったんだけどね」 「サクッと斬り裂いていきたいところだな……」 「位置取りに注意してください!」 それぞれの武器を構え、リベリスタ達は霧の中へ散っていった。 「2体逃がした。霧の中だ」 木蓮とモニカの射撃から逃れたヤドカリが2体、霧の中へと姿を消した。すでに五月が柱を破壊した後だ。霧が薄れていく。 「この辺りには、もういませんですじゃ」 千里眼を持つ小五郎の指示で、彼らはその場から移動を開始。先ほどのような急襲に備え、気は抜けない。残りの柱はあと3本。島に残された一般人は見つかっていない。 暫く移動すると、新に1本柱を発見。それを破壊しようと五月が近づいた。 「これは……?」 「なにかありましたか?」 そう訊ねるモニカ。覗きこむと、柱の影には人の足跡のようなものがあった。いくつもの足跡が、そのまま何処かへ続いている。 1人分の足跡ではない。恐らく、島に迷い込んだままになっている一般人達の足跡だ。 柱を破壊し、4人はそのまま足跡を追って、駆け出した。 霧が濃い。自分達が今、どこを走っているのかも分からないような状況だ。時折、島自体が僅かに揺れている気がする。どこかで、激しい戦闘でも行われているのかもしれない。 そんな事を考えながら、小五郎は老体に鞭打って走る。向かう先は、ほんの数10メートル先にいる、一般人達の所だ。 そして。 彼の千里眼は捉えていた。 「周囲に5体。ヤドカリがおりますじゃ!」 「不意打ちに警戒! 足並みを揃えて!」 視界不良に付き、声を張り上げ自分の居場所を仲間へ伝えるヘンリエッタ。触手相手には、見つけ次第光球を撃って、攻撃を加えている。しかし、悪い視界の中で仲間を巻き込まないように、と注意しながらだと、どうにも攻撃に遠慮が出てしまう。 弓を構えてはいるものの、射ってはいない。 「ボクが射線を塞ぎます」 ハルバードを振りあげ、殺意に満ちた視線を触手へ向ける壱和。学ランの裾をはためかせ、触手の正面に躍り出た。撃ち出される高圧の水鉄砲を、驚異的な反射速度で受け止める。斧の刃と、水鉄砲が衝突。飛沫が飛び散り、長い茶髪を水に濡らす。 水圧に押され、壱和はその場に倒れ込んだ。倒れた壱和に触手が襲いかかる。ヘンリエッタの光球が、触手を撃ち抜き、追い払った。 外周沿いに退避する触手。その進行方向に飛び出す人影。魔力のダイスを展開させた涼である。複数のダイスが、空中を転がる。 「悪いな? 時間をそうそうかけてる暇はないんだ」 ダイスが爆ぜる。轟音、爆風、よろめく触手。更に数個のダイスを展開させた、その瞬間、毒液を撒き散らしながら触手が振り回された。 「っぐ!?」 鞭のような触手が、涼の胴を叩く。触手の眼球と、涼の視線が交差する。不気味な目だ。背筋が粟立つ。毒液を浴び、涼の体が島から落ちる。ドボン、と盛大な水柱が上がった。 「しっかり狙って、ダメージ優先……」 涼を追って行こうとする触手の正面へ、ウェスティアが回り込んだ。彼女の周囲に魔方陣が展開。射出された銀の弾丸が、触手を撃ち抜いた。 その瞬間、島が大きく蠕動する。揺れる島にバランスを崩し、壱和とヘンリエッタが倒れ込む。めちゃくちゃに振り回される触手が、ウェスティアを叩く。飛び散る毒液。毒状態に陥ったウェスティアの顔色が急速に悪くなっていく。 その隙に、触手は再び霧の中へと姿を消した。 一般人の数は4人。その中で、意識があったのは1人だけだった。怯えた様子のその男性に向け、木蓮が語りかける。 「とんだ災難だったな。たぶん意味不明なことばかりだろうけど、きっとこれからも答えはわからないと思う。だから早く忘れた方が良いぜ」 もっとも、忘れるのは無事にここを脱出した後のことになるだろう。まずは逃げるのが先決だ。意識を失った仲間達をどうすることもできず、彼はこの場で立ち往生していたらしい。 「て、手伝ってくれるのか?」 「ボートまで誘導します。付いてきて下さい」 意識を失っていた男性の1人を担ぎあげ、モニカは言う。現状に付いていけないながらも、男性は仲間の1人を担ぎあげた。意識を失った3人を、男性、モニカ、木蓮の3人で分担して運ぶ。 「庇いますので、逃げてください」 手甲を打ち合せ、五月は言う。周囲に蠢くヤドカリから注意を離さない。飛びかかってくるヤドカリを、殴り飛ばし、或いは体で受け止める。飛び散る鮮血がメイド服を汚す。 「自力で逃げ切れるなら、そうして頂きたい所じゃが……」 恐らく毒を受けているであろう一般人達にブレイクフィアーを施し、小五郎は五月の援護に回る。全力で後退する3人を庇うように、五月と小五郎はヤドカリの攻撃を受け止め続けるのだった……。 数分後、一同は上陸地点へとやって来ていた。五月や小五郎の姿はない。霧の中で、ヤドカリを喰い止めているのだろう。 「す、すまない! 助かった!」 意識不明の仲間を連れて、男性はボートで島を出ていく。いくらか、先ほどまでよりも霧は減っているようだ。男性が島から十分離れたのを確認し、モニカと木蓮は踵を返す。 向かう先は、島の内陸。ヤドカリ相手に奮闘している、五月たちの所だ。 「増援を常に警戒しておきませんとな」 周囲を高速で飛び交うヤドカリ達。それらを裁きながら、小五郎は霧の奥へと意識を向ける。これ以上、敵が増えては対処に困るというのがその理由だ。 年老いてはいても、リベリスタ。その眼光は、なかなかに鋭い。 「さっさと潰しましょう」 炎を纏った拳を振るう。業火がヤドカリの1体を捉え、焼き尽くす。五月は、燃えながらも逃げ出そうとするヤドカリを、上から更に殴りつけ、叩きつぶした。 ヤドカリ、残り4体。霧が邪魔で、位置が分かりにくいのが難点か。仲間を巻き込んでしまわないように、あまり複数攻撃は出来ないでいた。 血を流し過ぎたのだろう。一瞬、意識が遠のいた。その瞬間、彼の眼前に迫るヤドカリの姿。殻に籠って弾丸のような速度で襲いかかる。 「っ……!? っく」 咄嗟にそれを受け止めた。五月の掌打が、殻を打ち砕きヤドカリを潰す。直後、別の方向から更に3体のヤドカリが五月の背や腹に突き刺さった。口から血を吐き、五月はぐるんと白目を剥いた。彼の体から力が抜ける。ぅ慧も取れず、五月はその場に倒れ伏した。 意識を失った五月へ迫る巨大な鋏。ヤドカリの鋏だ。五月の首筋へと、振り下ろされた。 「……そこまでですじゃ」 鋏を受け止めたのは、小五郎の杖だ。ギシ、と杖が軋み木端が散った。血を流し、意識を失う五月に視線を向け、小五郎は呻く。 一瞬、ヤドカリ達の動きが止まる。それで十分。五月の体を持ち上げ、小五郎はその場から飛び上がった。 ESPによる直感か、それとも単なる偶然か。モニカと木蓮が銃を構えるのと、小五郎が五月を連れてその場を飛び去るのはほぼ同時だった。 熱感知とイーグルアイで射線上にヤドカリしかいないことを確認したモニカは、木蓮に射撃を指示。それを受け、木蓮は無数の弾丸を撃ち出した。蜂の群にも似た弾幕。弾丸の嵐が霧を払う。顕わになった。弾丸に撃ち抜かれ、更に1体、ヤドカリが倒れる。 「集中して潰していきましょう」 「だな。ケリを付けよう」 モニカの大型銃火器から撃ち出される死神の魔弾。禍々しいオーラと、圧倒的な存在感。ヤドカリを飲み込み、消し飛ばす。 一方、木蓮の放ったのは普通の弾丸だ。だが、狙いはこれ以上ないくらいに正確。逃げ出そうとした最後の1体、その頭部を、まさしく針の穴を通すような正確さで撃ち抜いた。ヤドカリはその場に倒れ、動かなくなる。モニカの魔弾が消え去って、辺りに暫し静寂が訪れた。 そして……。 周囲に敵が残っていないことを確認し、小五郎は1つ、大きく頷いたのだった。 ●偽りの島とリベリスタ 「……超やべぇ」 やっとのことで、海から島へ這いあがった涼の目に映った光景は、暴れまわる触手や飛び交う水鉄砲、怪光線相手に奮闘する仲間達の姿だった。 触手やリベリスタ達が縦横無尽に暴れまわるせいで、辺りの霧はある程度薄くなっている。 触手が倒れるのが先か、それともこちらの体力が尽きるのが先か……。 どちらにせよ、戦いはじきに終わりを迎えそうだった。 高水圧の水鉄砲が撃ち出される。と、同時にウェスティアが展開させた魔方陣から銀の弾丸が放たれる。空中で衝突する水鉄砲と魔弾。押し負けたのは、魔弾であった。 幾分威力の弱まった水鉄砲が、魔弾を撃ち抜きウェスティアの元へ。 「視界が悪いから、後衛だからって安心したりできないね……」 肩を撃ち抜かれたウェスティアが地面に倒れる。飛び散った鮮血が彼女の頬を汚した。 しかし、すぐに立ち上がる。よろけながら、ではあるが。彼女の周囲に燐光が舞う。天使の歌。傷を癒す、回復のスキル。傷を塞ぎ、ウェスティアは再び宙へ飛び上がった。 ウェイスティアを追って、触手が移動する。しかし、その動きが突如停止した。目の前で弾けた光球に怯んだのである。閃光弾を放ったのは、額かた血を流す壱和であった。腕を痛めたのか、愛用のハルバードは壱和の足元に転がったままだ。 「あと少しです! 楽しい冒険譚で終われるように頑張りましょう!」 閃光弾では、ダメージを与えることは出来ない。だが、僅かでも動きを止めた、それだけで十分だ。 「今です!」 指揮するように腕を振るう壱和。その指揮に従って、ヘンリエッタが駆けだした。動きの止まった触手へ、光球をぶつける。 「よしっ!」 のたうつ触手を見て、拳を握るヘンリエッタ。 しかし、すぐに持ち直し触手を振り回す。触手に打ちのめされ、ヘンリエッタの体が地面を転がった。 直後、触手の眼球に光が収束。怪光線の発射態勢に入る。 「このっ」 濁流の如き黒鎖が、触手に迫る。放たれた怪光線と、黒鎖が衝突。熱風と衝撃波が吹き荒れた。衝撃波に押され、壱和の体が地面を転がる。 危うく海へ落ちかける壱和の腕を掴み、立ち上がらせたのは涼だった。全身ずぶぬれの彼は、壱和に向けて笑顔を浮かべて見せる。 「ま、ほら、こんなところで置き去りなんてぞっとしないだろ?」 壱和の肩を軽く叩き、入れ替わりに涼は前へ出る。視線の先には、触手の姿。 再び、怪光線を放つ用意をしている。そんな触手目がけ、涼は全速力で駆け出していった。 「オレ達は、この島を処理しに来たんだ」 霧の中を駆け抜ける涼の周囲に、薄いバリアが展開した。ヘンリエッタの付与したものだ。魔力のダイスが、涼の周囲に浮かびあがった。その直後、触手から怪光線が放たれる。 「さっくりと爆破させてもらうぜ!」 爆発するダイス。怪光線の進路が僅かにずれる。鋭い光が、涼の肩を撃ち抜いた。しかし、彼の脚は止まらない。真っすぐ、触手へと駆けていく。 無数のダイスが、触手の周囲に浮かびあがった。そして爆発、爆発、爆発。爆発の連鎖だ。眼球を、触手を、島の表面を削っていく。 全てのダイスが爆ぜた頃には、すでに触手は跡形もなく消え去っていた。 触手が消えたせいだろうか……。 その瞬間、島が大きく揺れ始めた。 揺れる島から脱出した一同は、ボートの上から島の状態を眺めている。 触手が息絶えたことによって、霧の柱もまたその機能を失ったのだろう。島を覆っていた霧が次第に晴れていくのが分かる。 霧が晴れ、顕わになったのは巨大な貝だった。あまりにも巨大で、非常に分かりにくいがしかし、それは恐らく蛤であろう。 偽りの島の正体は、E化した蛤だったのだ。 そして……。 「島が、崩れる」 そう呟いたのは、壱和であった。巨大な島は、端から順に崩れていく。 瓦礫のように、砂のように……。 そして最後には、そこには何もなくなった。 まるで最初から、島なんて存在しなかったように、跡形もなく。 僅かに残った霧も、じきに晴れる。霧に覆われた村も同様に。 偽りの島は、消え去った。白昼夢めいた、謎の現象だけが、村人たちの記憶に残り続けるだろう……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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